レグルスは前方のヒュンケルを警戒しながらも背後に居る怪我を負い、倒れているラーハルトの容態を素早く観察した。ラーハルトは激痛に顔を歪めながら脇腹を押さえ、指の隙間から流れる血で地面には小さな蒼い血溜まりが出来ていた。
(ラーハルトの怪我は命に関わる…!すぐに治療が必要だ…!だが…)
レグルスは前方に居るヒュンケルを睨みつけると剣を強く握り締めた。
「(そのためにはヒュンケルを倒す必要がある…!)…行くぞ!」
レグルスは地面を強く踏み込むとヒュンケルに素早く移動し、技を繰り出した。
「大地斬!」
レグルスが仕掛けた攻撃はヒュンケルの右手首に当たったが、鎧は傷一つ付かず、金属音が響くだけだった。バイキルトで攻撃力を上げてもヒュンケルにダメージを与えることが出来ないことにレグルスは顔を歪めた。
「…くっ!(やはり私の攻撃力ではダメージを与えられない…!)」
「邪魔するのであればお前から殺してやろう…!死ね!」
ヒュンケルはラーハルト殺害を邪魔されたことに対してイライラしながら、剣を振り下ろしてレグルスを攻撃した。レグルスはヒュンケルの攻撃を剣の側面で逸らすと、逆に攻撃後の隙を狙って首を攻撃し、周囲に金属音が響き渡った。
「なっ…!俺の攻撃を…かわした、だと!?」
ヒュンケルの首は鎧に守られていたため、金属の音が響いただけだったが、ヒュンケルにしてみれば小さな子供が自分の攻撃を防ぎ、そのうえ反撃してきたことに、目を大きく開くと驚愕した。
「…確かに剣の腕は貴様よりアバン先生のほうが上のようだな…!」
「…一度攻撃を防いだぐらいで、図に乗るな!小僧!!!」
ヒュンケルはアバンと比較し劣っていることをラーハルトに引き続き、小さな子供にも指摘されたことで怒りながら剣による連続攻撃を繰り出した。レグルスはそのすべての攻撃を捌くと、逆にヒュンケルの攻撃後の隙を突き、何度も首や手首を攻撃し、その度に金属音が鳴り響いた。
「ば…ばかな…!(俺の攻撃を全て防ぎ、攻撃後の隙で俺の急所を的確に攻撃してくる…!剣の腕は俺を上回るだと…!?なんだ、このガキは…!!!)」
(鎧に守られている以上、私の攻撃は通じない…!だが、ダイとマァムならば攻撃が通じる可能性がある…!ポップの魔法も上手く使えば―)
レグルスとヒュンケルが剣の打ち合いを続けていたところ、少し離れた場所からドオンと発砲音が鳴り響き、小さな呻き声が聞こえたことでヒュンケルはハッとしながら慌ててラーハルトが倒れていたほうを振り向いた。そこには、傷口からの血は止まり、倒れたままであったが怪我が少し治ったラーハルトがヒュンケルを睨みつけていた。
「ぐっ…!」
「なっ!なぜ…怪我が治っている!?」
「無事か…!ラーハルト!!」
「ラーハルト…大丈夫!?」
「はいっ…マァムに助けられました…!」
「なにっ…!?」
ヒュンケルはラーハルトの怪我が治る前に聞こえた発砲音を思い出すとすぐさま周囲を見渡し、魔弾銃を構えた姿のマァムに気付き、目を見開いた。
「まさか…!魔法を打ち出す道具か!?それで奴を回復させたのか!!!」
「…ええ、そうよ…!ラーハルト!もう一度、ベホイミをかけるわ!!」
「でかしたぁマァム!ラーハルトが復活すりゃ勝機はあるぞ!!!」
「!!!回復なんぞ、させるかぁ!!!」
マァムはラーハルトを再度回復させるため弾を入れ替えようとし、ヒュンケルはこれ以上ラーハルトを回復させまいとレグルスを押し退ける仕草をした後、マァムに向かって駆け出した。レグルスはマァムに向かって走るヒュンケルの後を追いかけながらポップに声をかけた。
「ぐっ…!ポップ!ヒュンケルの動きを止められるか!?」
「っても、あいつには魔法が効かねぇんだ!」
「瓦礫だ!周囲の瓦礫を使え!!!」
「瓦礫?…そうか!」
ポップは崩れた宮殿を見渡すとレグルスの意図を察し、瓦礫の山に向かって駆けだした。レグルスはヒュンケルを追いかけながら、ダイに魔法をかけた。
「バイキルト!ダイ、ヒュンケルに攻撃を…!敵の攻撃は全て私が防ぐ!」
「分かった!!!」
レグルスとダイはヒュンケルを追いかけ、マァムはベホイミが込められた弾を装填するとラーハルトに向けて魔弾銃を構えた。
「ラーハルト…今、回復を―」
「させんぞ!海波斬!」
「ああっ!!魔弾銃が…!!」
ヒュンケルの海波斬が魔弾銃に当たるとマァムの手から弾き飛ばされ、離れた場所に落下した。ヒュンケルは左手の拳を握り、振り上げるとマァムに接近した。
「女に手をあげるなど性に合わんが…奴の回復をさせる訳にはいかん!!!」
「っ…!女だって命をかけるわ…!大切な人や場所を守るのに…女も男も関係ない…!」
マァムはハンマースピアを構えると接近してくるヒュンケルと対峙し、両者が衝突しようとした、その時。
「マァムに近づくんじゃねぇ!!!イオラ!!!」
「!!?ぐああああっ!!!」
ヒュンケルは突如、高速で飛来してきた無数の巨大な石により吹き飛ばされ、神殿の瓦礫に突っ込むこととなった。マァムは目の前にいたヒュンケルが岩により吹き飛ばされる様子を唖然と見ていたが、ポップの呼びかけが聞こえると笑顔で振り向いた。
「無事か…!マァム!!!」
「ポップ…!ありがとう助かったわ!!!」
「魔法が効かないのに…ヒュンケル吹っ飛ばされちゃったよ…!?」
ダイはマァムの元にたどり着くと瓦礫に埋まったヒュンケルを驚いた表情で見つめ、レグルスはマァムに魔法をかけながら解説をした。
「バイキルト!…ヒュンケルの鎧は魔法が効かない…だが、魔法によって飛ばした瓦礫などの石は魔法に分類されないためダメージを負ったのだ…これで勝機が見えてきた…!」
「……ぐっ…っ…おのれぇ!!!」
ふらつきながら瓦礫から抜け出したヒュンケルの鎧にはへこみやひびが入り、ポップが飛ばした瓦礫の威力が凄まじいことを物語っていた。レグルスは自身に再度魔法をかけ直すと武器を構え、ダイとマァムに声をかけた。
「バイキルト!ダイとマァムはヒュンケルに攻撃…!敵の攻撃は私が防ぐ…!」
「分かった!」
「ええ!」
「レグ、合図くれよ!俺はいつでも攻撃できるぜ!」
「ああ…!」
「…っ…許さんっ!!!…もはや…ただではすまさんぞ!!!」
ラーハルトにより切られた背中の傷、ポップが飛ばした石により全身打撲の怪我を負い、痛みに激高したヒュンケルは剣を構えながらレグルス達に向かって走り、武器を振り下ろした。レグルスはダイとマァムの前に少し出るとヒュンケルの攻撃を捌き、2人はヒュンケルの鎧に攻撃を仕掛けた。
「たあああ!大地斬!!!」
「はぁっ!」
ダイとマァムの攻撃でヒュンケルのひびが入った鎧は少し欠け、鎧の下から服が少し露出した。
「鎧が砕けた…!」
「私たちの攻撃は効いているわ…!」
「…おのれっ!」
ヒュンケルはダイに攻撃しようと武器を振り下ろすが、すかさずレグルスがダイの前に移動すると魔剣に対して攻撃を行い、ヒュンケルの剣の軌道をそらした。
「レグ、ありがとう!」
「…っ…邪魔を…するなぁ!!!」
「貴様の相手は私だ…!ヒュンケル!!!」
ヒュンケルは何度かダイとポップに対して攻撃を仕掛けたがそのたびにレグルスが剣で捌くため、攻撃を当てられずにいた。逆にダイとマァムの攻撃により少しずつヒュンケルの鎧は砕けていき、鎧に守られていない箇所も現れ、ヒュンケルの怪我は徐々に増えていた。マァムは攻撃を仕掛けながらもヒュンケルの体に傷が増えていく様子に悲痛な表情をすると声をかけた。
「ヒュンケル、お願い降伏して…!これ以上、あなたを傷つけたくない…!」
「…はぁ…はぁ……断る!…降伏する…ぐらいなら…死んだ方がましだ!!!」
ヒュンケルは力を込めて剣を振り下ろすが、レグルスは少し腕が痺れながらも剣の軌道を逸らし、攻撃を無効にした。
「ぐっ…マァム、奴の説得は諦めろ…志し違えども、ヒュンケルの意志は並大抵のものではない…!敵に情けをかけ過ぎれば、やられるのはこちらだ…!」
「…分かったわ(ヒュンケル…あなたの過去に一体何があったの…)」
しばらく攻防が続き、ヒュンケルの鎧が砕け、ダメージを多く与えた頃、レグルスは魔法を再度かけ直すタイミングを探っていた。
「(そろそろ、バイキルトが解ける頃だ…解除される前にかけ直さなければ…!)ポップ!」
「おう、その言葉待っていたぜ!みんな避けろ!イオラ!!!」
ポップの掛け声で3人は飛んでくる瓦礫から避けるためヒュンケルから離れ、レグルスは下がったタイミングで自身に魔法をかけようとしていた。
「バイキ―」
「海波斬!!!ぐああっ!!!」
「!!があっ!」
ヒュンケルはレグルスに対して技を放った後、吹き飛ばされた瓦礫が直撃したため、崩れた宮殿に突っ込むこととなった。
レグルスは自身にバイキルトをかけようとした所、ヒュンケルが飛ばした斬撃により、胸を大きく切りつけられ、胸の傷口から血を吹き出しながら、体重の軽い体は後方に大きく吹き飛ばされた。
「ぐうっ…!!しまっ―」
レグルスは飛ばされた先で岩に激突し、後頭部を強打すると、頭への強い衝撃と痛みの後、意識は闇に閉ざされた。
「レグ!!!」
(…っ!レグルス様!!)
「あ、あの野郎…俺の攻撃食らう覚悟でレグを攻撃しやがった…!マァム!レグを回復するんだ!急げ!!!」
「分かったわ!」
マァムがレグルスに向かって走り出す頃、ヒュンケルも瓦礫から抜け出すとふらつきながらもマァムを見つめた。
「…ゴホッ……やつを…回復…させん!」
「マァムのとこに行かせるか!イ―」
「…海波斬…!」
「オ、おわあああ!…っ…てえ…!」
「ポップ…!」
ヒュンケルがポップに向かって放った斬撃はポップの前に積み重なった瓦礫に当たると崩れ、破片や瓦礫の塊がポップの体に崩れ落ちた。怪我を負ったポップは這いつくばりながらも崩れた瓦礫の下から抜け出そうともがいた。
「よくもポップを…!くらえ!アバンストラッシュ!!!」
「ぐ…ううっ!…邪魔を…するな!…海波斬!」
「うわぁ!…っあいつ、俺たちの攻撃何度も食らっているのに…なんで立っていられるんだよ…!」
ヒュンケルはダイの攻撃を耐えた後、ダイを攻撃し、すぐさまマァムに向かって駆けだした。マァムはレグルスの元にたどり着き、回復魔法をかけようとしたが、ヒュンケルが迫ってきているのを見ると迎え撃つため武器を構えた。
「(まずはヒュンケルを何とかしないと、回復出来ないわ…!)っ…たああっ!」
「むうっ!…魔法の効果がきれたようだな…今のお前には…鎧を破壊する力はない!!!」
マァムは両手で握ったハンマースピアを振り下ろすが、ヒュンケルは腕の鎧部分で攻撃を受け止めると、マァムの両手首を片手で掴み、がら空きのお腹に拳をめり込ませた。
「あっ…ぐうっ…!」
マァムは腹部に強い衝撃を受けたことで、痛みに顔を歪めるとその場に崩れ落ち、レグルスの近くで気を失った。
「ああっ…!…マァム!!!」
「そんな…!マァムまで…!」
「はぁ…はぁ…あとは…お前だけだ…ダイ!!!」
ヒュンケルはダイを睨みつけると武器を振り上げ走り出し、ダイも武器を構えるとヒュンケルに攻撃を行った。
「たあああっ!!!」
「むうっ!…やはり…先程の威力はない…その程度の力と技では…俺を倒せんぞ…!」
「くっ…!まだだ!」
ダイはヒュンケルに何度も攻撃を繰り出すが、ヒュンケルの体勢を崩せず、逆にダイの体に少しずつ傷が増えていった。
「はぁ、はぁ…これで終わらせてやる…!闘魔傀儡掌!!!」
「うああああ!!!」
「ダイ様…!」
ラーハルトは怪我が原因で、ポップは瓦礫からやっと抜け出せたが怪我で立ち上がれず、レグルスとマァムは離れた場所で気を失っていたため、誰もダイの救助をすることが出来なかった。
「や、やべぇ!ダイ、紋章を出すんだ!紋章を出してそっから抜け出すんだ!!」
「ううううっ!も、紋章の…出し方なんて…分からないよ…!」
「…今更……何をしようと…無駄だ!」
「や、やめろー!!!」
「…死ねっ!ブラッディースクライド!!!」
「ダイーーー!!!」
ヒュンケルの技がダイの心臓に向かって放たれた。だが、その技はダイを守るかのように間に入ってきた巨体によって防がれ、ヒュンケルの剣はその巨体に突き刺さり、肉が抉れ、身体に空いた穴からは蒼い血が流れた。
「ば、バカな…!お前は!」
「あああっ!あいつは!」
ヒュンケルはダイを庇った巨体の人物を見ると驚愕の表情を浮かべた。
「獣王クロコダイン!!?」
ポップは腹ばいになりながらも魔王軍軍団長であるクロコダインが同じ魔王軍のヒュンケルの剣を受けダイを庇ったことに驚き、ラーハルトもクロコダインの名前を聞いてロモスを襲撃した軍団長がダイを庇ったことに疑問を抱いた。
「…ク…クロコダイン!?生きてたのか!!」
「な…何の真似だっ!クロコダイン!!」
「フフフッ…見ての通りだ…ダイ達は殺させん…!!」
「…バカな…!気でも…触れたか…!?」
(なぜ…他の軍団長がダイ様を庇う…!?)
クロコダインは剣を持つヒュンケルの腕を掴むと逃げられないように力を込め、ヒュンケルは強い力で腕を掴まれながらも剣を抜こうと引っ張ったがビクともしなかった。
(むむむ…ぬ…抜けない…!)
「デルパァッ!!!」
「クワワァッ!!」
クロコダインは魔法の筒からガルーダを呼び出すとポップに声をかけた。
「ポップッ!!!こいつで…ガルーダと共にダイを連れて逃げろ!!!!今の怪我したお前たちではヒュンケルに勝てん…!逃げるのだ!!」
「ま…待ってくれ!倒れている3人は俺たちの仲間なんだ…!見捨てらんねぇ!」
クロコダインは離れた場所で気を失っているレグルスとマァム、そして魔族のラーハルトを見ると少し驚いた声を上げた。
「あの魔族も仲間だと言うのか…!分かった、3人は俺が何とかする!ダイとお前を逃がすのが先決だ!ハドラーの狙いはダイとお前なのだからな…!!!」
「…そんなこと…みすみす見逃すと…思うか!!」
「俺とて魔王軍六大団長の一人…!いざとなれば…お前と刺し違えてでも!」
「…無理だな…今のお前には…刺し違えることすらできん…ぬううっ!!!」
ヒュンケルは息を吸い瞬間的に剣に思いっきり力を込めるとクロコダインの体に剣がめり込んだ。先の戦いで完治していなかった傷口が剣により開いたことで、クロコダインの体から血が噴き出した。
「ぐわあああっ…!」
「…はぁ…!はぁ…!……やはりな…真新しい鎧をまとっても…俺にはわかる…!お前は先の戦いで…ダイに受けた傷が完治していない…!」
「っ…フ、フフフッ…!ヒュンケルよ…お前も相当ダイ達に手酷くやられたようだな…剣にいつもの力がこもってない!…それではこの獣王は倒せんぞ…!!!」
クロコダインはヒュンケルの腕を掴みヒュンケル側へ押すと少しずつ剣が外に出ていき、剣が体から抜けた。ヒュンケルは力を込めたにも関わらず剣が抜けたことにクロコダインの指摘通り弱っていると認識すると悔しさに歯を食いしばった。
「お…おのれ…!」
ウォーン!!!
クロコダインが叫び声を上げるとガルーダはすぐ様意図を察し、ダイとポップを足で掴み空へと飛び立った。
「うわあああ!」
「しまった!!!」
ポップは急に体を掴まれ上空に連れていかれたことで叫び声を上げたが、眼下に倒れる仲間の姿を見ると手足を動かし、焦りながらも声を発した。
「離せ!まだみんなが…!マァムが!!!」
「ポップ!頼むぞ…!ダイを!!!」
クロコダインとラーハルトはガルーダに連れられて離れていく姿を見送り、ヒュンケルは掴まれた腕を引き剥がそうともがいたが怪我によりいつもの力は篭っておらずびくともしなかった。
ガルーダの姿が見えなくなり、ダイとポップに逃げられた事を悟ったヒュンケルは怒りと失望からクロコダインを睨みつけた。
「はぁ…はぁ…クロコダイン…食わせ者の多い六団長の中でも…お前だけは…尊敬に値する男だと思っていたが……失望したぞ…!あんなガキ共の軍門に降ってしまうとはな…」
「俺はただ…自分の敗れた相手が他の奴に負けるのが耐えられなかっただけだ…!」
「…敗者の弁か…獣王も落ちたな…これ以上…妨害をするのであれば…二度と蘇生出来ないようにするぞ…!」
「かまわぬ!!」
「…なぜ…お前ほどの男が…奴らにこだわる…?奴らは…我らが魔王軍の敵なのだぞ…!?」
クロコダインはヒュンケルの言葉に小さく笑うと指摘した。
「フフフ…我らが魔王軍か…俺にはお前が魔王軍の為に戦っているようには見えなかったぞ…俺にはお前が人間に対する恨みだけで戦っているように見えた…!」
「…」
ヒュンケルはクロコダインの言葉に眉を顰めると剣を強く握った。
「俺もそうだ…人間どもを軽蔑していた…ひ弱でつまらん生き物だとな…だが…ダイ達と戦って分かったんだ…人間は強く、そして優しい…!共に力を合わせ、喜びと悲しみを分かち合えることが出来るんだ…!人間であるお前に…その素晴らしさが分からないはずがない…!!!お前は人間の優しさや素晴らしさに気付きながらも見て見ぬ振りをしているのではないか…!?」
「だ…黙れ!!!戯れ言はよさんかっ…!それ以上…下らないことを言うのであれば…その口…二度と聞けんようにするぞ…!」
「…フフフッ…今のお前に…この獣王を…止められるか!!!」
クロコダインは掴んでいたヒュンケルの腕を力強く振ると遠くへ投げ飛ばした。
「!!!…ぬぅっ!」
ヒュンケルはクロコダインにより大きく飛ばされると、空中で少しふらつきながらも体制を整え、ダメージを負うことなく着地した。着地後、すぐさま顔を上げたヒュンケルの視線の先では、クロコダインがラーハルトの元に走り寄り、斧を持っていない腕でラーハルトを抱え上げるところであった。
「っ…おのれぇ…!」
ヒュンケルは悔しげに表情を歪めると視線を移し、気を失っているレグルスとマァムを見遣った。
「くっ!…これ以上失態を…重ねる訳にはいかん!」
ヒュンケルはレグルスとマァムが気絶し倒れている場所へ駆け出すとクロコダインとラーハルトの視線を遮るように立ち、剣を構えた。クロコダインはレグルス達の元へ移動していた足を止めるとヒュンケルを睨みつけながら状況を素早く確認した。
「むう…あれでは助けられん…悔しいがここは一旦引くぞ!」
現状からラーハルトを抱えながらヒュンケルと戦い、2人を救出するのは難しいと判断したクロコダインは退却をラーハルトに伝えた。ラーハルトはクロコダインの言葉を聞き、勢いよく顔を上げると慌てて声をかけた。
「ま、待て!2人を置いていくのか!?出来るわけないだろ!頼む!俺を降ろせ!」
「お前の怪我の状況を考えろ!今の我らではヒュンケルを退けることは出来ん!体制を立て直し救出するしか手はない!!」
ラーハルトは体が思うように動けない状況に自分自身に対して怒りを感じ歯を噛み締めると、ヒュンケルを睨みつけた。
「ぐううっ!……ヒュンケル!後日、再戦を申し込む!それまでその2人は殺すな!!!」
ヒュンケルはクロコダイン達が逃げようとしていることを察すると睨みつけながら武器を構えた。
「ここで…みすみす見逃すとでも!?…お前達は…ここで終わりだ!!!死ね!ブラッディースクライド!!!」
「獣王痛恨撃!!!」
2つの大技は空中でぶつかり合い少しの拮抗後、大きな爆発が起きた。爆発により発生した煙で周囲は視界が悪くなり、相手の姿が見えなくなった。
「むうっ…奴らは!」
ヒュンケルは視界が徐々に晴れる中、周囲を見渡しクロコダインを探したが、先程いた場所には誰もおらず、変わりに巨大な穴が地面に空いているのを確認すると悔しそうに顔を歪めた。
「…逃したか……」
大穴から逃げたことを悟り悔しく思ったが、一方で敵が居なくなったことで安心したのかヒュンケルの体は思い出したかのように全身が痛み出した。疲れもあってか目眩を感じたヒュンケルは目をつぶり、暫くその場でじっとしていた。
「……はぁ…はぁ…」
少し時間が経った頃、骨を集める音とチリーンと鳴る鈴の音が聞こえたことでヒュンケルはハッとしながら顔を上げた。
「……モルグか…」
ヒュンケルの視界の先では部下であるモンスターのモルグが鈴を持ち、口をあんぐりと開けながらヒュンケルを見つめていた。
「ヒュ…ヒュンケル様!!?そのお怪我はどうされたのです!?すぐに戻り治療しなくては!!」
モルグは慌ててヒュンケルに駆け寄ると全身を見て周り、砕けた鎧や怪我を驚きながらも忙しなく確認した。
「……地底魔城に…帰還する……そいつらを…連れて行け…」
「…この者は?」
「………人質だ…牢屋…に………」
モルグは押し黙ってしまったヒュンケルを心配そうに見上げた。
「ヒュンケル様?大丈夫でございますか?」
「…………」
ヒュンケルは無言で立っていたが、少し体がぐらつき出すとゆっくりと体が傾き、うつ伏せの状態で地面に倒れた。周囲には金属音が鳴り響き、モルグは目の前で倒れたヒュンケルにギョッとすると慌てて骨を集めているミイラ男に指示を出した。
「た…大変だ!!!すぐに治療をしなくては!ヒュンケル様を寝室に運ぶのです!この者たちは牢屋へ!」
「ホガ!」
モルグの指示の元、ヒュンケルとレグルスとマァムはミイラ男達の手によって地底魔城へ運ばれて行った。
ガルーダに連れ去られたダイとポップはパプニカの宮殿から離れた地面に下ろされ、ポップはすぐに気を失っているダイに近寄ると声をかけた。
「ダイっ、ダイ!!!しっかりしろ!」
「っ…ポップ…ここ…どこ?いつっ…ヒュンケル!みんなは!?」
ダイは目が覚めると周囲を見渡しポップと2人だけだと気づくと焦った表情でポップを見つめた。
「…ここには俺とおめぇしかいねぇ…クロコダインが他の皆を助けてくれるのを…願うしかねぇ…」
「クロコダイン?…なんであいつが?」
「あいつが俺たちを助けたんだ…俺とダイを逃がして…今頃、ヒュンケルと戦っているはずだ…なんで俺たちを助けたのかは分かんねぇ…」
「クロコダインが…ポップ!俺たちも戻ろう!クロコダインだけじゃヒュンケルと戦いながら3人を助けるのは無理だよ!」
「…その必要はない」
「えっ?」
ダイとポップは聞こえてきた声に振り返るとそこには腹部を怪我したクロコダインと腕に抱えられたラーハルトが離れた場所から歩いてダイ達に近づいてくる所であった。
「クロコダイン!!!」
「ラーハルト!怪我大丈夫?」
「…傷はある程度…塞がっております…」
クロコダインの腕から降ろされたラーハルトは落ち込んだ様子でその場に座り込み、ダイの問いかけに力なく答えた。ポップはマァムとレグルスの姿が見えないことに気づくと焦った様子でクロコダインを見上げた。
「クロコダイン!マァムとレグはどうした!?」
「…すまんかった…2人を助け出せなかった…」
「そんな…」
「嘘だろ…マァム…レグ…」
ダイとポップは顔色を悪くして落ち込んでいたところ、ラーハルトは拳を作り振り上げると土の地面へ思いっきり叩きつけた。
「くそぉっ!!!あの方を…命をかけて守ると誓ったのにっ…!守るどころか盾にすらなれないとは…!何という体たらくだ…!!!」
「…ハドラーの狙いはダイとポップだ!…おそらく2人は直ぐに殺さず人質として捕らえられているだろう…ヒュンケルという男は女に手を上げるような奴じゃない…少なくともマァムは無事だ」
「どっちにしても2人を早く助けに行かないと…!」
ダイが2人の救出のため駆け出そうとしたがその前にクロコダインがダイの腕を掴むと声をかけた。
「待て…!今のお前達ではやられるだけだ!助けたければまずは体力を回復することだ!」
「…あいつの言う通りだ!今は俺たちが出来ることをやるしかねえっ!!…ラーハルト!おめぇは怪我を治せ!」
ラーハルトは顔を上げ握り拳を作ると力強い目でポップを見た。
「……ああ、ヒュンケルには再戦を申し込んだからな…次は勝つ!」
「ダイ!おめぇは今のまま敵の前に出ても勝ち目はねぇ!だから…俺と修行するぞ!」
「分かった!でも、ポップ…修行してもすぐに剣であいつに勝てないよ?もちろん修行はするよ!けど…人質を捕らえられているならあまり時間が…」
「俺に考えがあるからよ、任せとけ!とりあえず今は休んで明日から―」
「むっ?…待てポップ!誰か来る!」
「えっ?」
クロコダインの掛け声に一行は武器を持ち警戒していると、岩陰から1人の鎧をまとった初老の兵士と思われる男性が驚きの表情で一行を見つめた。
「お主たちは…もしかしてダイ君だったりするかの?」
「今、俺の名前!俺がそのダイです!」
ダイの名前を聞いた初老の兵士は嬉しそうに笑顔を浮かべるとダイの元へ駆け寄ってきた。
「おお!やはりそうじゃったか!姫様が仰っていた、ダイ君が助けに来ると…!わしはバダック!パプニカ王家に仕えておるレオナ姫のお目付け役の1人じゃ!」
「レオナ姫…!もしかしてここにレオナが…!レオナは…レオナは無事ですか!?」
レオナ姫の話を聞いたダイは生きている可能性が出てきた事で必死な様子で問いかけるが、バダックは悲しそうにうつむくと首を横に振った。
「残念じゃが…皆とはぐれてしまっての…今何処にいるか分からんのじゃ…じゃが!姫様は無事じゃ!絶対に生きておる!…ここは目立つ、一旦わしの隠れ家に移動するんじゃ!そこで詳しく話そう」
休む場所の提供にポップはパッと笑顔を浮かべた。
「ありがてぇ…!俺たちも休む場所が欲しかったんだ!」
「おお!隠れ家に着いたら存分に休んでくれぃ!…ところで…その者たちは?」
バダックは目線をダイから魔族の見た目のラーハルトと獣人族のクロコダインに移し、少し警戒するとダイに何者か訊ねた。
「この2人は俺の仲間だよ!こっちは―」
「ダイ様…ここからは俺が名乗らせて頂きます。バダック殿…俺はテラン王国の兵士ラーハルト!王家の命により魔王と戦う勇者ダイ様の力となるため共に旅をしている」
バダックは聞き覚えのある名前に目を見開き、そして、笑みを浮かべるとラーハルトに積極的に話しかけた。
「おお!噂は聞いておる!確かラーハルト殿はレグルス王子のお付き人じゃったな!」
「………ああ、そうだ…」
ラーハルトはレグルスの名が出てきた事で少し気落ちしたが、バダックは特に気にした様子なく頷いた。
「やっぱりそうじゃったか!してそちらの…」
「俺はクロコダイン…魔王軍と戦うダイ達に力を貸そうと思ってな」
「おお!見るからに力強い味方じゃな!ダイ君もおるし、心強い味方もおる!パプニカを取り戻すのも時間の問題じゃ!!!さぁ!みんなわしに着いてくるんじゃ!隠れ家に案内しよう!」
バダックは嬉しそうに声を上げると背中を向け歩き出し、一行はその背中を少し戸惑いながらも着いて行った。
「…っ」
ラーハルトはふらつき、痛みを堪えながらもバダックの後を歩いていると、その様子を見ていたクロコダインが気を利かせて声をかけた。
「その怪我ではまともに歩けんだろう…また、抱えるか?」
「それには及ばない…だが…少し腕を借りても良いか?」
「おう!遠慮なく掴まれ!」
「感謝する」
ラーハルトはクロコダインの腕を支えに痛みに響かないよう歩き出した。
ポップはバダックの背中を見ながら小声でダイに話しかけた。
「あのじいさん…もう少し人を疑った方がいいぜ…こっちには元魔王軍が居るってのによ…」
ダイはポップの言葉に小さく苦笑するも、すぐ笑顔を浮かべると返事を返した。
「あはは…でもおかげで助かったよ、今は休める場所と1人でも味方が欲しいからね!バダックさんの言う通り心強い味方も居るし、マァムとレグの救出も何とかなりそうだね!」
ダイが笑顔を向けるとポップは少し驚いた顔をした後、ニヤリと笑い、ダイの肩に腕を回した。
「だな!こんだけ強いメンバーが居るんだ、負ける筈がねぇ!体力回復して!新技覚えて!マァムとレグをちゃっちゃと救おうぜ!」
「うん!」
ダイ達は休める場所を提供してもらう為、バダックの後を着いて行った。
レグルス、マァム、ヒュンケルは気を失いミイラ男に運ばれている。
ダイ、ポップ、ラーハルト、クロコダイン、バダックは隠れ家に到着し、休息している。
レグ、ラーハルト「鎧が硬すぎる…」
レグルスとラーハルトの防具:旅人の服(切り裂かれ、血が付着)
ヒュンケル「おかしいだろ…なぜ魔法が効かない鎧を着ているのにはずなのに…一番ダメージを受けたのは魔法使いの攻撃なのだ!!?」
ヒュンケルの防具:鎧の魔剣(ボロボロ)
ポップ「へへっ!魔法も使い方次第ってな!!」
ダイ「俺…あまり活躍してないや…」
マァム「大丈夫よ、ダイ!私たちの活躍は後半にあるから!」
報告:誤字脱字修正しました!報告ありがとうございます。