地底魔城の闘技場に現れたヒュンケルは鎧を身にまとい、階段の上からダイ、ポップ、ラーハルトを冷たい目付きで順に見下ろした後、最後にポップを睨みつけた。
「ここが貴様らが過ごす最後の場所となる…周囲に瓦礫はない、馬鹿げた方法で攻撃することも出来ないだろう…!」
「…へっ、あの野郎、前回戦った時のこと根に持ってやがる…魔法でやられたのが相当応えたみてぇだな!てかよ…なんで鎧が直ってやがる?…同じ鎧2着持ってんのか?」
ポップは首を傾げながら綺麗な状態の鎧を纏ったヒュンケルを見上げ、ダイはヒュンケルを睨みつけながらここには居ない仲間の安否を大声で尋ねた。
「マァムとレグをどこへやった!!」
「女に関しては案ずるな。貴様らの生命さえ貰えればあの女に用は無い…無事に逃がしてやるさ…」
ダイとポップはマァムを逃がすという言葉にホッと息を吐いた。
「…だが、もう1人のガキは別だ!ガキは貴様ら亡き後、ここで処刑を行う!!!すぐに貴様らの後を追わせてやる…!!!」
「…お前を倒した後、2人は必ず救出する!俺達を簡単に倒せると思うな!ヒュンケル…!!!」
レグルスを処刑するという言葉にラーハルトは強く武器を握りしめると鬼の形相でヒュンケルを睨みつけながら怒鳴った。ポップとダイは小声で怒り心頭のラーハルトに話しかけた。
「おい!落ち着けラーハルト…今はヒュンケルを倒す事だけ考えろ!怒って作戦忘れんなよ?」
「うん…こうなったらやるしかない…鎧を着ているから剣は効かない!ライデインで決めよう!」
「……分かりました…俺とダイ様でヒュンケルを引き付ける…その間に…」
「俺が雨雲を呼ぶ…!やつの相手は任せた!」
「分かった!」
ポップは雨雲を呼ぶため後方に下がり、ダイとラーハルトは横に並ぶと武器を構え、ヒュンケルを見上げた。
「貴様らが相手か…なら、手加減はなしだ!始めから全力で行く!」
ヒュンケルは兜の目元付近に手を近づけると兜のムチ部分は剣に変わり、剣を構えたヒュンケルが剣先をラーハルトに向けた。
「時にそこの魔族…名はなんと言う?」
「…ラーハルト」
「ラーハルト…その名、覚えておこう!」
ヒュンケルは地面を強く蹴り、階段から飛び出すとラーハルトとダイに斬りかかった。
地下の通気口を四つん這いで進んでいたマァムは狭い通路に時折引っかかり、悪戦苦闘していた。
「う〜〜〜っ!狭い!あ〜あ、もうちょっと頑張ってダイエットした方が良かったかしら?」
「ピィッ!ピピッ!」
先頭を進んでいたゴメちゃんはマァムの様子に気付くと鳴き声を上げ、その声にゴメちゃんのすぐ後ろを進んでいたレグルスは振り向き、通路に引っかかっているマァムに気付くと後ろに下がり声をかけた。
「マァム、武器が邪魔だろう…私が持とう」
「レグ、ありがとう!じゃあこれ、お願いね」
「ああ、戦闘になったら返す」
レグルスはマァムから武器と魔弾銃の弾を受け取ると前方を向き、狭い通路を引っかかる様子なく中腰で軽快に歩いていった。
(レグは小さいからこの狭い通路も余裕そうね…)
マァムは武器がない分身軽になった事で先程よりはスムーズに進むようになった。2人と1匹は進み続け、レグルスは空気の臭いから外に近づいていることを感じると振り向き、マァムに声をかけた。
「マァム、外に出る前に私の作戦を伝える。ダイ達に合流する際、私は事前に魔法で透明になりダイ達前衛にバイキルトをかける。攻撃力を2倍に上げたラーハルトの攻撃で鎧を破壊…その後、全員で攻撃すればヒュンケルを倒せると考えている」
「…」
マァムはヒュンケルを倒す内容に心の痛みを感じうつむくが、ある決意を固めると顔を上げ、レグルスの背中に向けて声をかけた。
「………ねぇ、レグ」
「なんだ?」
「私がヒュンケルに聞いた話を聞いて欲しいの…ヒュンケルが何故先生を恨むのか…ヒュンケルの過去に何があったのかを…」
「…ああ」
マァムはヒュンケルから聞いた過去の話をレグルスに伝えた。
「…父親のため…か…」
「私、ヒュンケルと話して説得しようと思うの!上手く行けば戦わずに済むわ!」
「マァム…説得は諦めろ」
「…どうして!?私たちは同じアバンの使徒なのよ!殺し合うのではなく、話し合うべきよ!!!」
「アバン先生を殺そうとしていた奴を助ける道理は無い」
「でも…!」
「それに…助けたとしてもその先の事は考えているか?」
「その先?」
レグルスはパプニカに到着してからの破壊された街並みを思い出し、少し眉をひそめながらも落ち着いた声でマァムに語りかけた。
「ヒュンケルは魔王軍不死騎団の団長としてパプニカを滅ぼした。街を破壊し、人々を殺し、国王を殺した…その罪は重い…死刑は、免れないだろう…」
「あ…」
「執行人側が強い恨みを抱いていた場合…処刑内容が残酷になる事がある…ならば、せめて同門の我らの手で…終わらせる…苦しまない方法でな…」
「…」
マァムは重い、鉛のような冷たいものが心に乗っかるのを感じ、ズキズキと痛む心を落ち着かせようと強く目をつぶった。脳裏に優しい先生の顔を思い浮かべたマァムは、ある事に気付くとレグルスに声をかけた。
「ねぇ、レグ…私、思ったの…先生はヒュンケルに恨まれているのを知っていたのではないかしら?」
「なに?」
レグルスが眉をひそめながら振り返りマァムを見つめた。
「どういう事だ?」
「先生は気配を感じとれる…!なら、ヒュンケルの悪意も分かっていたはずだわ!!!」
気配には心と密接な関係があり、大まかな善悪の判断をすることも可能であった。そして、ヒュンケルはアバンのしるしを受け取るほど長い時間をアバン先生と過ごしているため、ヒュンケルの憎しみといった悪意にアバン先生が気付かないはずがなく、その事実に気づいたレグルスは目を見開いた。
「!!…では…アバン先生は自分が恨まれている事を知りながらヒュンケルに剣を教えたとでも言うのか!?一体、何故だ!?」
「…先生は…優しい人だから…ヒュンケルに生きてほしいと思ったのではないかしら?」
「生きてほしい…と…」
レグルスは動揺しながらも以前アバンと旅した際にベンガーナの泉近くでの出来事を思い出していた。魔族を憎む男とその時のアバンの言葉、それらを思い出しながらレグルスは静かに言葉を発した。
「…以前アバン先生が言っていた…人は大切な人を奪われた際、怒りや悲しみを復讐対象にぶつけることがあると…そうしないと…喪失感から…心が、壊れてしまうと…」
「…先生はヒュンケルの心を守るために、あえて何も言わなかった…ねぇ、レグ!やっぱりヒュンケルと話し合いましょう!話し合わないと争いしか生まれない!!先生だって私たちが争うのを望まないわ!!!」
「………だが、我々が話した所で向こうは剣を収めないだろう…どれだけ綺麗事を言おうと…アバン先生がヒュンケルにとってのかたきである以上は…」
「それは…」
「ピピィッー!!」
2人が落ち込んだ様子で会話をしていた所、先に進んでいたゴメちゃんが大きな鳴き声を上げたことでレグルスとマァムは会話を中断し、通路の先を見つめた。
「ゴメちゃん?何か見つけたみたい!」
「…行くぞ」
レグルスとマァムはゴメちゃんが浮いている場所へ移動すると、通路の壁に石が積上げられた入口を発見した。2人が石を取り除くとそこは小さな小部屋であり、中に入ると一つだけ宝箱が置いてあった。
「隠し部屋か」
「あの宝箱開けてみる…?」
「ピピィ!」
「…もしかしたら人食い箱だったりして…」
「ピピィ〜!!!」
「確認する…インパス!…青。問題ない、モンスターではないようだ」
レグルスが鑑定魔法を唱えると宝箱は青く光った。
「レグの魔法、便利よねぇ…透明になる魔法、鍵を開ける魔法、鑑定する魔法…あなたやろうと思えば盗賊になれるんじゃない?」
「…どこの国に盗賊をする王族がいる…やろうと思えばできるとは思うが…」
「ふふっ、レグを捕まえるのは難しそうね…開けるわ!」
「ああ」
マァムが宝箱を開けるとそこにはあるアイテムが入っていた。
「これは…!」
「何か知っているの?」
「このアイテムは―」
レグルスがアイテムの説明をした後、2人は内容を確認し終わるとマァムは驚きの表情でレグルスを見た。
「レグ!これなら…!」
「ああ…!ヒュンケルの元に行くぞ!やつを…ヒュンケルを説得する!」
「!!…ええ!」
「ピピッ!」
マァムは嬉しそうに頷き、ゴメちゃんもニコッと笑うと2人と1匹は隠し部屋を後にした。
闘技場ではダイとラーハルトが剣を装備したヒュンケル相手に戦い、ポップは少し離れた場所で青空を見上げながら雨雲を呼ぶため呪文を唱えようとしていた。
「天空に散らばるあまたの精霊たちよ、我が声に耳を傾けたまえ!ラナリオン!!」
ポップが呪文を唱えると青空には雲がかかり、雨雲から雷のゴロゴロという音が聞こえ始めた。
(よしっ!これでライデインを撃てる準備は整えた!あとは、ヒュンケルの隙を作ってくれ!ダイ!ラーハルト!)
雨雲を呼び続けながらポップはダイ達の戦いを見守った。
ラーハルトはヒュンケルの攻撃を避けながら槍を突いて攻撃し、ダイもヒュンケルの背後から攻撃を仕掛けるが、ヒュンケルの鎧に傷は付かなかった。ヒュンケルはダイの攻撃を意に介さず、ラーハルトを集中的に攻撃しており、ヒュンケルの剣を避けようと横に移動したラーハルトだが、避けきれず腕に切り傷を負った。
「くっ…!」
「やはりな…前回の傷が癒えていないとみる!以前のスピードが出せていないぞ!」
「たあああ!大地斬!」
「むっ!」
ヒュンケルの背後からダイが技を繰り出すが、ヒュンケルは腕の鎧部分で受け止めると剣で反撃し、ダイはヒュンケルの攻撃を素早く避けると距離を取った。ヒュンケルはダイが自身の攻撃を避けたことに兜の下で驚きの表情を浮かべた。
「(こいつ…!前に戦った時よりもスピードが増している!!!いや、というよりも俺の動きを読んでいる感じだ!!!あの、たった一度の戦いで…!?)ちぃっ…!だが、貴様の相手は後だ!まず先に…ラーハルト!お前を倒す!!!」
ヒュンケルはラーハルトを睨みつけると剣を振り切りかかり、ラーハルトは攻撃を避けると槍を突いて攻撃した。
「ここだ!」
「なっ!槍を…掴んだだと!?」
ラーハルトが槍を突いた瞬間、ヒュンケルは槍の柄の部分を握り、ラーハルトの動きが止まった隙を見逃さず、剣を振り下ろした。ラーハルトは槍を手放し、後ろに下がってヒュンケルの剣を避けようとしたが、前回の戦いの傷が強く痛み出したため、動きが鈍り攻撃を避けきることができず、魔剣はラーハルトの胸部を大きく切りつけた。
「ぐあっ!!!」
「ラーハルト!!!」
傷口から蒼い血を噴き出しながらラーハルトは地面に倒れ、苦悶の表情を浮かべながらヒュンケルを睨みつけた。
「ぐっ…!」
「以前のスピードなら俺の攻撃は当たらなかっただろうが…今の貴様では俺の攻撃は避けられん!!!」
ヒュンケルは槍を離れた場所に放り捨てると剣先をラーハルトの心臓に向け、技を構えた。ポップはラーハルトの危機に少し焦りながら大声を上げた。
「ダイ!!!今だ!やれ!」
「何?」
ヒュンケルがダイに目を向けると、ダイは剣を少し離れた場所に放り、指先を雷が鳴る天に向けていた。晴天から雨雲に天候が変わっており、上空の雷鳴に気付いたヒュンケルは驚きの声を上げた。
「ま、まさか…!」
「くらえっ!!!ライデインーー!」
ダイが指先を振り下ろすと、天から雷がヒュンケルに向かって落ちた。
「ぐあああああっ!!!」
雷が落ちると眩い光と騒音が響き渡り、周囲には強い風が吹くと煙が立ち上った。
「や…やった…」
「…凄まじい威力だ」
砂埃が徐々に晴れると、ライデインが落ちた中心には鎧を身にまとったヒュンケルが地面に膝をつき、身体から煙が立ち昇っていた。ポップはヒュンケルに動きがないことを確認すると、強敵を倒したことに喜んだ。
「ハ…ハハハッ!やった…!やったぞっ!!やっぱライデインは効果があったんだ!!!予想通り鎧は壊せなかったけど、直撃食らったんだ!中身は無事じゃあ済まねぇな!!!」
ポップが喜びながらヒュンケルに近づいた時、ラーハルトが呻き声を上げた。
「ぐっ!」
「ラーハルト!大丈夫?」
ラーハルトは傷口を手で抑えるとうずくまり、ダイはラーハルトの怪我を確認するため近くに寄ろうとした。ポップが一瞬、ラーハルトに目を向けた、その瞬間、ヒュンケルは目を覚ますと、目の前にいたポップを殴りつけた。
「っ!!……ぐ…ああっ…!!」
「!!ポップ!」
「ポップ!」
顔を殴られたポップは鼻から血を流しながら後ろへ飛ばされ、地面に倒れた。ダイがポップに駆け寄ると、ヒュンケルが立ち上がり、冷たい目つきで2人を見下ろした。ダイはポップを庇うように腕を回しながらも、青ざめた表情でヒュンケルを見上げた。
「ラ…ライデインも効かないなんて…!!!」
(い…いや…ライデインは効いた!…確かに奴の鎧を伝わりダメージを与えた!だけど奴の…ヒュンケルの肉体はそのダメージに耐えたんだ!鎧がなくてもヒュンケルは強い!ハ…ハンパじゃねぇや…こいつ…!!)
「雷が落ちても生きている…だと…!?奴は不死身か!?」
ヒュンケルは剣を構えるとダイを睨みつけた。
「…魔法でこれだけの真似が出来るのならば、先に潰すべきは貴様だったようだな!ダイ…!!!」
「ダイ!もう一発だ!雨雲があるうちに!」
ダイはポップの言葉にもう一度ライデインを落とそうと指先を天に向けた。
「…ライ―」
「遅いっ!!!闘魔傀儡掌!」
ダイの身体は闘魔傀儡掌の技により動けなくなった。
「っ…あっ…!!!」
「ああっ!またあの金縛りを…!」
「まずい!ダイ様!!!」
ダイ、ポップ、ラーハルトが動けない中、ヒュンケルは技を構え闘気を剣にためると、剣先をダイの心臓に向けた。
「さらばだ…!」
「やめろぉ!!!」
「ブラッディースクライドッ!!!」
ヒュンケルの技が放たれた、その時、小さな人影がヒュンケルの懐に潜り込み、魔剣に対して下から攻撃を与えた。
「大地斬っ!!!」
ヒュンケルの大技は下からの攻撃により上方向にずれると、ダイの心臓より上を、肩を掠って通り過ぎた。ダイはヒュンケルの技の衝撃で後方へ吹き飛ばされると地面に転がった。
「ダイ!!」
ポップは後方へ吹き飛ばされ、地面に倒れたダイの元へ痛みをこらえながらも駆け寄ると、ダイの怪我の状態を確認した。ヒュンケルは自身の技を妨害した人物を見ると驚きで目を見開いた。
「なっ…!貴様、どうやって牢屋から抜け出した!!!」
ヒュンケルの目の前には技を放った後の体勢でいたレグルスがおり、ラーハルトはレグルスの姿を見ると息を吐き、安堵した。
(レグルス様!…よくぞ、ご無事で…!)
「レグ!無事だったんだな!マァムは!?」
「マァムも無事だ…!直に来る…!」
レグルスは剣を構え、怒りの表情でヒュンケルを睨みつけながらも怪我を負った3人の容態を冷静に分析した。
(…落ち着け…ラーハルトは怪我を負ったが命に別状は無い…ダイは攻撃が掠ったが血が出ていない…ポップも軽傷だ…全員怪我を負っているが適切な治療をすれば治せる…今、私がすべき事は…)
レグルスは呼吸を整え怒りの感情を落ち着かせるとヒュンケルを見つめた。
「どうやって抜け出したか知らないが…いいだろう、先に貴様を倒してくれる!!」
ヒュンケルは剣を構えるとまたもや妨害してきたレグルスを睨みつけた。レグルスは1度目を閉じ、再び開けるとヒュンケルの復讐に燃える目を静かに見返した。
レグルスはヒュンケルを静かに見つめている。
ダイは気を失っている!
ポップはダイの怪我を確認している。
ラーハルトは怪我で動けない!
レグルスとマァムの性格は正反対なため、喋らせると考え方の違い、意見の食い違いが起きて面白いですね!
原作ではバランとマァムが話すことすらなかったのにね。
今回、レグルスの人間としての成長にはマァムが適任かなと思い、マァムに説得してもらいました!
レグルスは子供で素直でもありますので、納得できる説明をすれば、理解して協力的になります。
報告:誤字脱字修正しました!報告ありがとうございます。