炎を纏った剣を構え、どこか正気がないが力強い目で睨みつけるダイを見ながらヒュンケルはあり得ない状況に動揺していた。
(こっ…これはまさしくメラの炎…!ば…馬鹿なっ…!!いかなる人間も魔法と剣を同時に繰り出すことなどできないはずだ!!そんな真似が出来る奴がいるとすれば…人間以上の存在…!!?…そんな…馬鹿な!!!)
「うおおおおっ!!!」
「はっ!!!」
ヒュンケルがこの現状を整理し、考えていたところ、ダイが炎の剣で斬りかかってきたことでヒュンケルは少し焦りながらとっさに鎧を纏った腕で攻撃を受けた。
「ぐあっ!!」
だが、ダイの攻撃を受け止めた腕部分の鎧は砕け、破片は地面に散らばった。ヒュンケルは最強の鎧がいともたやすく砕けたことに攻撃によるダメージと精神的なショックを受けた。
「やった!ダイの奴…この土壇場で新しい技を編み出しやがった…!魔法も剣も効かない敵に対してその両方を合わせた…魔法剣を…!!」
ポップはダイが編み出した魔法を纏った剣を驚き、喜びながら見つめた。
「おのれぇっ!!!」
ヒュンケルは剣でダイに斬りかかると、ダイも魔法剣で攻撃を受け止め、隙をついて反撃した。その後も剣で攻撃し、受け止めるを繰り返し、ダイとヒュンケルの剣による攻防はしばらく続いた。
「ラーハルト…怪我はどうだ?」
「問題ありません!ありがとうございます」
ラーハルトが胸部とわき腹の怪我が治っていることを確認し返事をすると、レグルスは回復魔法を止め、2人はダイとヒュンケルの戦いを見守った。
「あのヒュンケル相手にここまで動けるとは…!流石はダイ様!」
「…ヒュンケルは動揺しているため、以前戦った時より剣の動きに迷いがあるが…それでも、短期間でここまで成長するとは…!」
レグルスはダイの成長を喜び、口元には小さな笑みを浮かべた。
「これならダイ様に勝機がありますね…!」
「…いや、少し厳しいだろう…ヒュンケルにはあの技がある」
「!…闘魔傀儡掌」
「そうだ…あの技が来たときは…」
レグルスは視線を移し、離れた地面に転がっているラーハルトの槍を見つめ、ラーハルトは意図を察すると足に力を入れた。
「すぐ戻ります!」
「ああ」
姿を消したラーハルトをちらりと見た後、レグルスは背中の鞘から剣を抜いた。
ダイとヒュンケルが剣による攻撃で接触した際、ダイは魔法剣で剣を持つヒュンケルの右手の鎧を攻撃した。剣を持つ右手の鎧が砕けたことでヒュンケルは鎧の破片ごと、魔剣を地面に落とした。
「うっ!!!」
ヒュンケルが剣を落としたこのチャンスにポップは喜びながら大声を上げ、ダイに呼びかけた。
「いいぞ!今だっ!!!」
ダイは大きく跳躍すると、上空から炎を纏った剣でヒュンケルに攻撃しようとしたが、ヒュンケルはダイの攻撃に気づくと左の手のひらを向けた。
「むうううううんっ!!!」
「ぐっ!!?」
闘魔傀儡掌の技を受けたダイは空中に縛り付けられて動けなくなってしまった。戦いを見守っていたポップはまたもや危機的状況に焦りの声を上げた。
「や…やべぇ!!!」
「ぐぐぐぐっ…!!」
「もはや絶対に逃がさん!!!」
「なんとか…なんとかしないと…!!」
ポップは焦りながらも状況を改善しようと周りを見渡すと、レグルスとラーハルトの動きに気付き、さらに上空に雨雲があることに気付いた。
「(レグ!ラーハルト!何がする気だな…ならヒュンケルの意識をこっちに向けさせねぇと!!)ダイーーーー!!!稲妻だっ!稲妻を…呼べええっ!!!」
「…イ…ナズ…マ?」
ヒュンケルは落ちた魔剣を拾いながら大声を上げたポップに注目したため、レグルスとラーハルトの動きに気付かずにいた。
「無駄だ!この一撃で…決着をつけてやるわぁっ!!!」
ヒュンケルは左手で闘魔傀儡掌を右手の魔剣には闇の闘気を溜め始めた。
(…稲妻…稲妻を…稲妻を呼ぶ…!)
ダイは脳裏にポップと共に稲妻を呼ぶため修行した時のことを思い出していた。ヒュンケルはダイにとどめを刺すため剣先を心臓に向けると大技を繰り出そうとした。
「くらえいっ!!ブラッ―」
「海波斬!!!」
「海鳴閃!!!」
ヒュンケルは両腕を側面から攻撃された事によりブラッディースクライドは発動前に封じられ、闘魔傀儡掌も解除された。ヒュンケルは攻撃を受け、妨害されたことに驚愕した後、キッと視線を横に向けると、そこには技を放った後のレグルスとラーハルトの姿があった。
「お…おのれっ!!!」
「ライデイーーーン!!!」
稲妻の魔法名と落雷の音にヒュンケルは慌てて視線をダイに向けると、ダイの剣には稲妻が纏っており、さらに、ヒュンケルを睨みつけながらあの技を構えていた。
「!!…しまった!」
ヒュンケルが警戒した時には遅かった。ダイが剣を振るうと技が炸裂した。
「アバンストラーーーッシュ!!!」
「おおおおおーーーっ!!!」
ヒュンケルに雷を纏った大技が決まった。
眩い光と爆音が響き渡り、周囲には爆風と煙が立ち上った。
「きっ…決まった…!?」
ポップは砂埃や飛んでくる石を腕で防御しながらヒュンケルがいた場所を見つめた。
(未完成とはいえアバンストラッシュとライデインのダブルパワーだ!これでダメならヒュンケルは……)
煙が晴れるとその中央には剣を装備したヒュンケルがまるで何事も無かったのように立っていたため、ポップは顔を青ざめると驚愕した。
「ふ…不死身かっ…奴は…!?」
「…ぐっ……あ…っ…!!」
だが、ヒュンケルが苦痛に表情を歪めると、全身鎧は大きな音をたてながら砕け、地面に破片が飛び散った。ヒュンケルは砕けた際の衝撃と技を受けたダメージにより、目を見開くと背中から地面に仰向けで倒れた。しばらく様子を見ていたポップは青ざめた表情から一変、倒れて動かなくなったヒュンケルに少しずつ勝利した事を実感すると、声を上げて喜んだ。
「…勝った…ダイが…ダイがヒュンケルに勝ったぞおおおぉっ!!!」
「うっ…くっ……」
ヒュンケルは苦痛を浮かべ地面に横たわっていると、ダイが剣を装備したままヒュンケルに近づき、止めを刺すため剣を上に掲げたため、ヒュンケルは自身の死を覚悟した。
(だっ…だめだ…やられる…!!)
ヒュンケルは目をつぶり、ダイの剣が自身に振り下ろされるのを待った。そんな時、胸に誰かの手が置かれる感覚がし、さらに上半身を持ち上げられ、何か柔らかいものの上に頭が置かれる感覚がしたため、ヒュンケルは驚いて目を開いた。
(…マァム……?)
目を開けたヒュンケルの目の前には悲しげな表情を浮かべ、目尻に涙を浮かべるマァムの姿があった。ヒュンケルはマァムに膝枕されており、ポップは口を大きく開けると、2人を驚愕しながら見つめた。
「ダイ!もうやめて!!…決着はついたわ…あなたの勝ちよ!…だから……もう…アバンの使徒同士で…傷つけ合うのは止めて…!」
マァムは悲しげな表情で涙を流しながらダイを見た後、ヒュンケルを見つめた。
「……マァム…」
自身の胸が濡れる感覚を感じたヒュンケルは、マァムの涙を動揺しながら見上げた。
「…マァム…?」
ダイがしばらくマァムを見続けていると、目に少しずつ正気が戻り、そして、意識がはっきり戻ると、目の前の現状に驚きの声を上げた。
「……マァム!ヒュンケル!?…えっ…?お…おれ…?勝ったの…?」
ダイは剣を持った手と倒れて怪我を負っているヒュンケルに驚き、キョロキョロと見渡した。
「そうだ…!ダイ、お前がヒュンケルに勝ったのだ!」
ダイは背後からの呼びかけに振り向くと、そこにはマァム同様人質として捕らえられていたレグルスが剣を背中の鞘にしまいながらダイに歩いて近づいて来る所であった。
「レグ!良かった!無事だったんだね!」
「ああ」
レグルスはダイの近くで立ち止まり、右手をダイにかざすと回復魔法をかけた。
「ホイミ!…先ほどのライデイン、あれは最近覚えたのか?」
「うん!ヒュンケルを倒すためにポップと協力して覚えたんだ!」
自身が居ない僅かな期間、ダイが新たな魔法を覚えたことにレグルスは少し驚きの表情を浮かべた。
「この短期間でか…」
「ポップに雨雲呼んでもらう必要があるけどね!」
「だが…狙った場所に落雷を落とすには相当な修練が必要だ」
「うん!狙った場所に落とせるよう何度も練習したよ!」
「そうか…!新たな魔法を覚え、腕の立つヒュンケルを倒したのだ…大したものだ…!」
ダイの体力が回復したのを確認したレグルスは魔法を止め、笑みを浮かべると右手を伸ばし、小さな手で優しくダイの頭を撫でた。
「ダイ…よくやった!」
レグルスは数回頭を撫でるとその場を離れ、ヒュンケルの元へ歩き出した。ダイは頭を撫でられたことにきょとんとしていたが、そっと左手を持ち上げるとレグルスが撫でていた頭に触れた。
「…へへっ!」
ダイはレグルスに褒められたことに小さく笑みを浮かべ、喜んだ。
「…なぜ……敵である俺を…?」
ヒュンケルは膝枕をしてくれるマァムを見上げながら、先ほどまで敵であった自身を助けることに疑問を投げかけた。
「敵なんかじゃないわ…」
マァムは懐からアバンのしるしを取り出すと、ヒュンケルに見えるようにし、それを見たヒュンケルは驚き、目を見開いた。
「そっ…それは…!!?…まさか…あの時の…!俺の…それをずっと…持っていたのか…!?」
ヒュンケルは以前、寝室にて不要なものと言い捨てた時のことを思い出しながら、マァムの手にあるアバンのしるしを見つめた。
「あの時に拾ってね…きっといつかあなたにこれを返す時が来る…そんな気がしたの…」
ヒュンケルは胸に置かれた手の温かさ、そしてマァムの思いやりに触れると、心に温かいものが広がるのを感じた。
(…温かい…)
ヒュンケルはゆっくり目をつぶると長いこと感じなかった穏やかな気持ちを抱いた。ヒュンケルが目を閉じた時、ポップが呼んだ雨雲は晴れ、雲の切れ間から太陽の光が差し込んだ。
(…この優しさ…この温かいぬくもり…まるで…)
ヒュンケルは目を開けると、太陽の光に照らされたマァムがおり、自身を優しく見守るその瞳を見つめた。その瞳を見つめているとヒュンケルの目尻からは自然と涙が零れ、頬を伝った。
(まるで…聖母だ…!)
微笑みを浮かべるマァムからアバンのしるしを受け取ったヒュンケルは涙を流しながら、しるしを大切に握りしめた。
「ダイ!さっきはすごかったじゃねぇか…!」
「ピピィッ!!」
ポップとゴメちゃんは喜びながらダイに駆け寄り、ポップはダイの肩に手を置くと笑顔を浮かべ、ゴメちゃんは周囲をニコニコしながら飛び回った。ダイは喜ばれることに戸惑いながらもポップとゴメちゃんを見た。
「ポップ…ゴメちゃん…レグにも言われたけど…なんか実感わかなくて…俺…勝ったんだよね…?」
「そうだ」
ダイとポップは声が聞こえたほうを振り向くと、マァムに膝枕されているヒュンケルを見た。
「俺の…俺の負けだ…!」
「…ヒュンケル…!」
ダイはヒュンケルの穏やかな声と言葉にジワジワと勝った実感が湧いてくると、嬉しそうな表情を浮かべた。
「………ぐぬぬぬっ…!」
一方ポップはマァムに膝枕されているヒュンケルを妬ましく思いながら睨みつけていたが、とうとう我慢の限界を迎えると、大声を上げた。
「おい!ヒュンケル!もういいだろ、いつまでそこに居やがる!!!…マァムもそいつを下ろせ!!!」
「…ポップ!そんな言い方ないでしょ!せっかくヒュンケルと和解したのに…!」
マァムが少し困った表情で怒り出したポップを見つめるが、ポップは腕を組むと眉を顰めた。
「…ケッ!…そいつはさっきまで敵で…しかも殺し合いをしていたんだぞ!…そんな奴がマァムの膝枕とか…うらや―…けしからん!」
「もう!ポップ、喧嘩はよして!せっかくなのだから仲良くしましょう!」
マァムがニコッとポップに笑顔を向けると、ポップは内心ドキッとしながらも顔が赤くなったのを誤魔化すため顔を背けた。
「…マァムもマァムだ!…ホイホイホイホイ膝を貸しやがって…!おめぇ実は…誰にでも膝を許してるんじゃねぇだろうな…!」
ポップはマァムの方を向くと険しい表情でマァムを見ながら強い言葉で言い始めた。マァムもポップの言い方にカチンと来ると顔をしかめてポップに厳しい目を向けた。
「ちょっとポップ!そんな言い方ないじゃない…!?…ヒュンケルごめんなさいね…下すわよ」
「…………」
マァムは膝にいたヒュンケルの頭をそっと下ろし地面に置くと、キッと顔を上げ、立ち上がるとポップに近寄った。ポップはヒュンケルが膝から下りたことで怒りが収まったが、マァムが近づいてきたため表面上は怒っているフリを維持し続けた。
「ポップ!ヒュンケルは仲間になったの…!だから膝を貸したのよ…!誰にでも貸したりしてないわ!」
「へっ!どうだかな…!おめぇは優しいからよ…実は誰にでも貸していたんじゃねぇのか!!?」
「なんですってぇ!!!私だって相手は選ぶわよ!!!」
「ふ…二人とも!喧嘩はよしてよ…!」
ポップとマァムの口喧嘩はヒートアップしていき、ダイが喧嘩を止めようと仲介に入った。地面に倒れていたヒュンケルは少し寂しそうに喧嘩をしているマァムとポップの2人を見つめた。
「…………」
表情こそ変わらなかったが、どこか寂しげにマァムを見つめるヒュンケルをレグルスとラーハルトは少し離れた場所から黙って見つめていた。
「…」
「…」
視線に気づいたヒュンケルは見られていることに気恥ずかしさを感じると、上半身を起こしラーハルトを睨みつけた。
「……何を見ている!」
睨みつけられたラーハルトはヒュンケルの様子に小さく笑うと同情気味に話しかけた。
「フッ…いや…お前にとってマァムの膝枕は居心地がよかったみたいだからな…ポップに邪魔されて残念だったな」
「………そういうわけではない」
ヒュンケルはムッとすると気まずげにラーハルトから視線をそらした。ラーハルトはヒュンケルの表情から怒りや殺気といった負の感情が無いことを確認すると小さく笑った。
(少しはマシな表情になったじゃないか…)
出会った当初、復讐に燃えていた頃のヒュンケルを思い出したラーハルトは、ヒュンケルの変わりように内心喜んだ。
「クックックッ…」
その時、この場にはいないはずの第三者の声が闘技場に響き渡った。
「クックックックッ…!!ざまあねぇなヒュンケル…!やられた挙句に女の膝枕…しかも別の男に邪魔されて同情されるとはよぉ…!!」
一行は突然聞こえた第三者に警戒すると、声が聞こえた方向を振り向いた。闘技場の最上部より上の岩場、そこには半分が氷、半分が炎の身体で出来た人型のモンスターが笑いながら一行を見下ろしていた。
「き…貴様は…!!?氷炎将軍フレイザード!!!」
ヒュンケルは突如現れた魔王軍の軍団長であるフレイザードを驚愕しながら見上げ、フレイザードは怪我を負ったヒュンケルと勇者一行を見てニヤリと笑った。
このパプニカ編で1番書きたかったこと…それは、主人公がダイ君の頭を撫でる事!
心の中ではバランがダイ君の頭を撫でているのを想像して、めっちゃ喜んでました!この親子、本当に尊い!
次回パプニカ編ラストになります!