ダイの大冒険 ―次世代の竜の騎士ー   作:キャットテールの鈴

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ダイたちはバダックの隠れ家にたどり着き、明日から始まるレオナ姫捜索に備えて束の間の休息を行っていた。


30_バルジ島編_つかの間の休息

暗くなる頃、ダイ達一行はバダックが作った食事をとった後、隠れ家の入口付近で焚き火を囲みながら布に包まり眠りについた。隠れ家の中は狭く、全員が入れないため、野外で寝ることに皆が賛成した結果でもあった。寝ずの番をしているヒュンケルとラーハルトは焚き火の火を見つめながら時折言葉を交わし、静かに夜を過ごしていた。夜が更ける頃、クロコダインが目を覚まし、巨体を起こした。

 

「クロコダイン…起きたか」

「ああ!ヒュンケル、交代だ」

「分かった…だが、その前に…クロコダイン、それにラーハルト…お前たちに伝えたいことがある…」

 

ヒュンケルはどこか憂いを帯びた表情で、クロコダインとラーハルトに話しかけた。

 

「おう!どうした?」

「何だ?」

 

クロコダインとラーハルトは、いつもと様子が違うヒュンケルに気づき、彼の言葉に耳を傾けた。しかし、ヒュンケルはすぐには発言せず、しばらく焚き火を見つめ、言いづらそうに口を開いた。

 

「俺は…明日の明朝、ここを発つつもりだ」

 

その予想外の言葉に、クロコダインとラーハルトは驚愕の表情を浮かべ、互いに目を見交わした。そして、眉をひそめて、問い詰めるようにヒュンケルに向き直った。

 

「ヒュンケル…それは、どういうことだ?」

「…まさか……1人で行動する気か!?」

 

クロコダインは低い声で尋ね、ラーハルトは眉を寄せ、少し焦った様子で尋ねた。

 

「…」

 

ヒュンケルは答えず、視線を焚き火から外さなかった。沈黙が場を支配する中、ラーハルトは苛立ち、ヒュンケルの肩を掴んで強引に顔を向かせた。

 

「おい!答えろ!!!」

 

睨みつけてくるラーハルトに対し、ヒュンケルは眉をひそめ、睨み返した。緊張感が漂う中、ヒュンケルは深く息を吐き、少し冷静になると、静かに言い返した。

 

「…そうだ。俺は自分の弱さを棚に上げて師を恨み…人間を恨み続けてきた。俺は…ダイ達と一緒にいる資格がない…」

 

ラーハルトはヒュンケルが自身の命を蔑ろにするような行動をとろうとしていることに怒りを感じ、肩を掴む手に力を込め、睨みつけながら怒鳴った。

 

「1人で行動してみろ!敵は裏切り者のお前を確実に始末しに来る!死ぬ気か!?」

「………」

「おい!何か答えろ!!!」

 

ラーハルトはヒュンケルを1人で行かせまいと必死に説得を試みるが、ヒュンケルの決意は揺るがず、何も答えずにただ黙っていた。その様子を見たクロコダインは目を閉じ、深く息を吸い込むと、落ち着いた口調でヒュンケルに語りかけた。

 

「…ヒュンケルよ」

 

その声にヒュンケルとラーハルトはクロコダインの方を振り向いた。

 

「…俺は男の価値というのは、どれだけ過去へのこだわりを捨てられるかで決まると思っている…たとえ、生き恥をさらし…万人にさげすまれようとも…己の信ずる道を歩めるならそれでいいじゃないか…」

「!!」

 

ヒュンケルは心に鋭い衝撃を受けると、目を見開き、クロコダインをじっと見つめた。

 

「…俺はダイ達に加勢する…!それが、武人の誇りを思い出させてくれたあいつらに対するせめてもの礼だ!!」

「クロコダイン…」

 

ヒュンケルは動揺しつつもクロコダインの言葉に感銘を受けた。2者のやり取りを聞いていたラーハルトも少なからず感銘を受けると、少し考えてからヒュンケルに顔を向け、真剣な表情を浮かべた。

 

「…ヒュンケル!お前がした事は許されることでは無い…亡くなった人々を想えば、償うのは難しいだろう…」

「……」

「だが!!魔王軍と戦える人間など限られている…!お前に出来る罪滅ぼしは、これから死ぬ人間を1人でも多く助けること…それがお前に出来ることだ!……1人で敵を倒し、人助けするのは難しいだろうからな…俺もお前に協力してやる!」

「!!!…ラーハルト」

「それに敵は向こうから来る…お前1人でいるより、俺たちと一緒にいたほうが、効率が良いと思わないか?」

 

ヒュンケルが驚きながらラーハルトを見ていると、ラーハルトはニヤリと笑い返した。ヒュンケルはクロコダインとラーハルトを順に見やり、一度目を閉じ、2者の言葉を思い返しながら決意を固めた。そして、次に目を開けた時には強い意志を持ってクロコダインとラーハルトを見据えた。

 

「…お前達の言うとおりだ…死んで済むほど俺の罪は小さいものじゃない…!敵である俺に寄り添ってくれた皆のためにも、その気持ちに報いるため、俺は戦い続ける…!!皆と共に…!!」

「おう!その意気だ、ヒュンケル!」

 

クロコダインは嬉しそうに腕を伸ばし、ヒュンケルと手を組み、力強く握手をした。

 

「フッ…まったく、世話が焼けるやつだ!」

 

ラーハルトはヒュンケルの背中を力強く叩き、文句を言いたげに見つめるヒュンケルに対して、ニヤリと楽しそうに笑った。

 

その後も3者で談笑していると、ラーハルトの隣で寝ていたレグルスが目を覚ました。ラーハルトはレグルスの起床に気がつくと、笑顔を浮かべた。

 

「起きられましたか!」

「……ああ」

 

起き上がったレグルスはラーハルトに返事を返した後、反対側に顔を向け、隣で寝ているダイをじっと見つめた。

 

「……」

 

ダイから目をそらしたレグルスはラーハルトとヒュンケル、クロコダインに視線を向けると話しかけた。

 

「…ラーハルト、ヒュンケル…交代する前に明日の事について話しておきたい…」

「!…はい!」

 

ラーハルトは真剣な表情でレグルスに体を向けると、姿勢を正し、聞く姿勢となった。

 

「明日のレオナ姫の捜索だが、2つのグループに別れて行動した方がいいだろうと私は考えている…特にヒュンケルとクロコダインはダイ達と共に居ればパプニカの人間に不信感を持たれてしまう」

「フム、確かに俺が居れば警戒するだろう」

「…俺がパプニカを襲った際、鎧を着ていた…この姿は見られていない…だが、戦闘になれば鎧を着ない訳にもいかないだろう…」

 

クロコダインは人間が自身を見れば恐怖する姿を容易に想像出来、ヒュンケルはパプニカ襲撃時を思い出すと憂いを帯びた顔で眉をひそめた。

 

「メンバーもかなり増えましたからね…全員で行動すれば目立つでしょう」

 

ラーハルトの言葉にレグルスは頷いた。

 

「ああ…それに全員で行動し罠を仕掛けられた場合、一網打尽にされる恐れがある…だが、二手に分かれていれば、一方のグループが攻撃を受けた際、救助に向かえる…そのため、二手に分かれると言ったが実際には両グループの距離はそれ程離れる訳では無い」

 

クロコダインはレグルスの話を聞き、内容に納得すると頷いた。

 

「なるほどな…なら、グループ分けが必要だな…俺とヒュンケルは確定として…」

「でしたら…この4名のメンバーはどうでしょう?俺は見た目が魔族ですから、人間が俺を見たら警戒します」

「レグがこちら側につけば回復役も二手に分けられる」

 

3者の意見を聞いたレグルスは頷いた。

 

「では、このメンバーでパーティを組み、明日の朝食後、二手に分かれてレオナ姫の捜索を行う!…ダイ達には私から話しておこう…私からの話は以上だ」

「分かりました!…では、俺とヒュンケルはそろそろ…」

「ああ、明日も早いからな…お休み、ラーハルト」

「はい!おやすみなさい!先に失礼します!」

 

ラーハルトとヒュンケルが横になり暫くすると2人の寝息が聞こえてきた。レグルスは見張り役以外が寝たことを確認するとクロコダインに声をかけた。

 

「クロコダイン…ひとつ聞いても良いか?」

「おう!どうした?」

 

話しかけられたクロコダインは視線を小さな子供に向けると、レグルスが警戒しながらじっと見返してきたため、少し身構えた。

 

「……なぜ、我らに協力する?魔王軍を抜けたとしても、人間の味方をする必要はないはずだ。魔王軍の…ハドラーの対応がそれ程までに悪かったのか?」

 

クロコダインは探るように見つめてくるレグルスをじっと見返し、ゆっくりと首を横に振った。

 

「魔王軍の対応が悪かったかと言うと…違う!と言っておこう」

「…では、何故だ?」

「そうだな…俺は少なくともハドラーや大魔王バーン様のためなら死んでもよいと思っていた…主のために生命を捨てるのが真の武人だとな…その対象が今はダイになったというわけだ!」

「…お前ほどの武人が、ダイにこだわるようになったのは何故だ?」

「俺が…ロモスでした事を聞いているか?」

「人質をとったそうだな…ダイの育ての親を…」

 

レグルスは以前、ダイの育ての親であるブラスをデルムリン島に送り届けた時の事を思い出した。

 

「そうだ…俺は勝利に目がくらみ卑怯な手を使った。人質を取るという…武人として恥ずべき行為を…ダイがいなければ、ダイ達に出会わなければ、俺はいつまでも魔道をさまよっていたに違いない!恐らくヒュンケルも…あいつは俺たちの心の闇に光を与えてくれた…太陽なのだ!!」

「……太陽…」

「だから俺はダイ達の力になりたい…!俺の心を照らした太陽を守るために…!!」

「……」

 

レグルスは視線をクロコダインから外し、隣で寝ているダイの寝顔をじっと見た後、目を閉じて、脳裏に子供の姿を思い浮かべた。太陽の下で元気に笑顔を浮かべる、優しい子供の姿を。

 

「………分かる…気がする…」

 

レグルスはクロコダインの話を聞き、ダイとロモスで出会った頃から今までのことを思い返していた。ダイと出会ってからそれほど時間が経っていないにも関わらず、レグルスにとってダイの側は居心地がよく、不思議なほど穏やかな気持ちになれた。

 

(…ダイの側は心が安らぐ…この子に出会ってから、私は心が満たされることが増えた…)

 

目を開けたレグルスは手を伸ばし、ダイの頭に手を置いてゆっくりと髪を撫でた。クロコダインはレグルスが愛おしそうにダイを撫でているのを見て、少し驚いて目を見張った。

 

(……私にとっても、ダイは………)

 

レグルスはダイの頭から手を離し、クロコダインを見つめると右手を差し出した。

 

「クロコダイン…私もお前と同じようにダイを守りたいと考えている。ダイのため…ダイ達のため、力を貸して貰いたい…!」

 

クロコダインは警戒心を解いた様子のレグルスにニッと笑い、腕を伸ばして小さな手を握り返した。

 

「勿論だ!共に力を合わせてダイたちを守ろう!」

「これからよろしく頼む…!」

「おう!レグ、よろしくな!」

 

そのあと、情報交換を含めた会話が交わされた後、クロコダインとレグルスは少しでも休息するため目をつぶり時間が過ぎるのを待った。

夜明け頃、レグルスは目を開けると空が明るくなり野営している場所に陽の光が差し込むのをじっと見続けた。

 

(……太陽…か…)

 

レグルスは視線を太陽から隣で寝ているダイの寝顔に移し、じっと見た後、手を伸ばすとダイの頭を起こさないようにゆっくり撫でた。何度も、何度も。

 

 

 

夜が明けてまもなく、ダイは太陽の明かりと頭の違和感で目を覚ますと体を起こした。

 

「…んー…?」

「ダイ、起きたか」

 

レグルスはダイが起きたのを確認すると焚き火に薪を追加し、水の入ったやかんを置くと火にかけた。

 

「レグ…おはよ…」

「おはよう。ダイ、紅茶で良いか?」

「う~ん…何でもいいよ…」

「そうか、なら紅茶にするとしよう」

 

寝ぼけたダイの返事を聞いたレグルスは小さく笑った後、沸騰したやかんに茶葉を入れた。ダイは起きる直前まで頭にあった違和感が何なのか寝ぼけながら考えていた。

 

(んー、何だろ…誰かに頭を撫でられていたような…?)

「出来たぞ」

 

レグルスは紅茶をコップに移し、魔法で冷やすとダイに手渡した。

 

「ダイ…寝ぼけて落とさないように」

「…寝ぼけてないもん!大丈夫だよ、ありがとう!」

 

ダイは子供扱いされたことで、ちょっとムキになり、レグルスはその様子に小さく笑った。

 

「ふっ、そうか」

 

レグルスは別の紅茶入りコップを用意するとクロコダインに手渡した。

 

「クロコダイン」

「おう!」

 

クロコダインはレグルスからコップを受け取ると、直ぐに飲み干し、物足りなさそうに小さなコップを見つめた。

 

「…俺にはちと小さ過ぎるな」

「クロコダインにはそのコップ小さそうだね…」

「そろそろ皆を起こすか…クロコダインには鍋で作るとしよう」

 

全員起床し、紅茶を飲み終わると朝食の準備のため、それぞれ動き出した。

 

「よ~しっ!朝食は俺が作るぜ!」

「私も手伝うわ!」

 

ポップとマァムは食事の支度。

 

「私とラーハルトは狩猟に行く…ダイ、一緒に行かないか?」

「行く!」

「かしこまりました!…ヒュンケル!お前も俺達と一緒に行くぞ!」

「狩猟にそれほど人数はいらないのでは…?」

 

ダイとレグルスとラーハルトとヒュンケルは狩猟しに近くの森へ。

 

「ワシはパプニカの様子を見てくるわい!もしかしたら、姫様の手がかりがあるかもしれんからのぉ」

「じいさん1人じゃ危険だ!俺も行こう!」

 

クロコダインとバダックはパプニカの街へレオナ姫の手がかりを探しに向かった。

 

(よっしゃぁぁああっ!!!マァムと2人っきりだぜ!!!)

 

隠れ家にてマァムと偶然2人だけとなったポップは大喜びしながら心の中でガッツポーズをした。

 

「ポップ、これを切ればいい?」

「おう!この野菜を切ってくれ!俺はこっちの準備やっからよ!」

 

隠れ家の簡易的なキッチンではポップとマァムによって料理が作られていった。

 

 

 

狩猟のため森に入ったレグルス、ラーハルト、ダイとヒュンケルは獲物を見つけると少し離れた場所で様子を伺いながら茂みに隠れた。

 

「獲物を捕まえるのなら1人いれば十分だろ」

 

ヒュンケルは簡単な仕事に過剰戦力だと思いながら獲物を見つめた。

 

「見える獲物を捕まえるだけならな…ヒュンケルは気配を感じとることが出来るか?」

「いや…」

「今回は空裂斬の修行も兼ねている。姿が見えない相手を見つける…気配を察知する修行だ!」

 

レグルスは茂みから出ると獲物に向かって指差し、魔法を唱えた。

 

「レムオル!マヌーサ!」

 

魔法によって獲物の姿は見えなくなり、辺りには不思議な霧が漂い、幻が現れた。

 

「なるほどな…」

「これなら簡単には獲物を捕まえられない…よいか、これは気配を察知する修行だ。幻影に惑わされるな」

「分かった!絶対に見つけてみせる!」

「ダイ様には申し訳ないですが…俺も手加減は致しません!」

「うん!俺も手加減しないよ!」

 

レグルスは手を上に掲げた。

 

「制限時間は10分、それ以上の時間経過は敵に敗北したと思え!…では、始め!イオ!」

 

レグルスは上空に向かって魔法を放つと周囲に爆発音が鳴り響き、ダイとラーハルトとヒュンケルは音を合図に獲物が居た場所に向かって駆け出した。

 

(獲物はすでに移動した後か…)

 

3人の中で1番足が速いラーハルトが最初に獲物がいた場所に辿り着くがそこに獲物はおらず、場所を移動したあとであった。

 

(気配を探れ…感覚を研ぎ澄ませろ…)

 

ラーハルトは目をつぶり獲物の気配を探っていたところ、草を踏みしめる足音が聞こえたため、目を開けると獲物がラーハルトに向かって駆け寄ってくるところであった。

 

「!!見つけた…!」

 

ラーハルトは向かってくる獲物に駆け寄ると槍を振り下ろした。

 

「とった…!!」

「っ…!おい!止めろ!ラーハルト!俺だ!!」

「…ちっ、ヒュンケルか…」

 

獲物に振り下ろされた槍はヒュンケルの声を聞くと寸前で止められ、ラーハルトは舌打ちすると槍を下ろし再度周囲を探った。獲物と間違えられたヒュンケルは謝罪もないラーハルトの態度に眉をひそめた。

 

「人に攻撃しかけといて…何だ、その態度は!」

「攻撃してないからいいだろ…それに獲物の振りをしているお前が悪い!」

「振りではなく幻影だ!!!」

 

ラーハルトはヒュンケルを無視して獲物を探し、一方のヒュンケルは怒りながらラーハルトを睨みつけた。

 

「見つけた!大地斬!」

 

そんな時、ダイがラーハルトの元に駆け寄ると獲物と勘違いしてラーハルトに技をしかけた。

 

「え……っ!!!ち、違います…!ダイ様!俺です、ラーハルトです!!!」

「あ、あれ?ラーハルト、ごめん!間違えた!」

 

ラーハルトは攻撃を避けると、慌ててダイに獲物ではないことを伝え、ダイは武器を下ろすとラーハルトに申し訳なさそうに謝った。ラーハルトの慌てぶりを見ていたヒュンケルは、先ほどの獲物と間違えられた意趣返しも含め、声を出して笑った。

 

「クックックッ…どうやらダイにはお前が獲物に見えるようだな」

「……」

 

笑われたラーハルトはイラッとしながらヒュンケルに対峙し、槍を構えた。

 

「…良い機会だ…俺とお前、どちらの実力が上か…はっきりさせる時が来たようだな!」

 

槍を向けられたヒュンケルは不敵に笑い、剣を構えると剣先をラーハルトに向けた。

 

「…いいだろう!以前の戦いでは邪魔が入ったからな…!!ここで…!決着をつける!!!」

 

ヒュンケルとラーハルトは互いに武器を構えて睨みつけると、同時に駆け出し、2人の戦いが始まった。

 

「ええっ!?な…なんで2人とも急に戦い始めるの!?これ…止めた方がいいのかな…?」

 

ダイはいきなり始まった戦いに驚きながら止めるべきか迷っていた。

 

「ダイ…そろそろ時間だ」

 

2人の戦いを見守っていたダイは背後からレグルスに声をかけられた為、振り向くと肩を落とした。

 

「あっ…そっか…時間過ぎちゃったか…」

「朝食に時間をかけ過ぎるのもな…獲物を仕留めて戻るぞ」

「分かった」

 

レグルスとダイは獲物を仕留めて獣肉にすると未だに戦い続けているラーハルトとヒュンケルを見た。

 

「あの2人、止めた方がいいかな?」

「2人の武器には殺気がこもっていない、止めずとも問題はないだろう…ラーハルトには今まで歳の近い実力者が居なかったからな。せっかく楽しそうにしているのだ。このまま、遊ばせておこう」

(えっ…レグにはあれ、遊んでいるように見えるんだ…)

 

レグルスは獣肉を持つと立ち上がり、2人の戦いを見た後、ダイに声をかけた。

 

「私は食事の支度しに戻る…ダイはどうする?2人と遊んでいるか?食事が出来たら呼びに来るが…」

「ううん、俺も食事の支度手伝うよ!一緒に戻ろ!」

「分かった、では戻るとするか」

 

レグルスとダイはそれぞれ獣肉を持つとポップとマァムが居る隠れ家に向かって歩き出した。2人が森の中を歩いていると背後から戦いの音とラーハルトとヒュンケルの声が聞こえてきた。

 

「ふっ…!その程度か?ヒュンケル!!俺にはお前の動きが止まって見えるぞ…!」

「ぐっ……おのれぇ…!!アムド!!!」

「おい!…それは卑怯だろ!!!」

 

 

 

隠れ家に辿り着き、ポップの姿が見えるとダイは肉を掲げて走り出した。

 

「ポップーーー!お肉持ってきたよ!」

「おう!思ったより時間かかったな!あれ、ラーハルトとヒュンケルはどうした?」

 

ダイから肉の一部を受け取ったポップはレグルスとダイの2人しか居ないことに疑問を抱いた。

 

「2人は遊んでいる。我々だけ先に戻ってきた」

「遊んでるって…ガキかよ」

「ふふっ、ヒュンケルとラーハルトは上手くやれそうね!」

 

ポップは呆れながらも肉を小さなキッチンに持っていくとマァムと共に肉を切りだした。レグルスとダイは焚き火のそばに行くと、大きな肉の塊を一定の大きさに切り、長めの串に刺していった。

 

「ダイ、ポップ、マァム…この後のレオナ姫捜索方法について話しておきたい」

 

レグルスが肉を串に刺しながら話しかけ、ダイとポップとマァムは手を動かしながら話に耳を傾けた。

 

「捜索時だが、2つのグループに分かれて行動する予定だ。その方が作業効率もよいだろう」

「えっ…分かれちゃうの?」

「まあ、確かに…全員で行動すれば目立つことこの上ねぇな」

「戦いならともかく…人探しなら別行動したほうがいいわよね…」

「メンバーだが、一方はダイ、ポップ、マァム、バダック。もう一方はラーハルト、ヒュンケル、クロコダイン、そして私だ」

「おいおい!戦力偏り過ぎじゃねか?」

「元魔王軍のヒュンケルとクロコダインはパプニカの者たちに見られた場合、戦いになる可能性がある。勇者であるダイと行動を共にするのは不味い…ラーハルトは見た目が魔族だからな…私は回復要員だ」

「そうね…前回のこともあるから、回復役は2手に分かれていた方が良いでしょうね」

「それじゃあ…しょうがねぇか」

 

落ち込んだ様子のポップとマァムを見たレグルスは少し動揺すると申し訳ない気持ちになった。

 

「その…2手に分かれると言ったが…両グループの距離はそれ程離すつもりは―」

「そっか、レグと離れちゃうのか…」

 

レグルスは発言中の言葉を止めると隣で作業をしているダイを見た。

 

「…ダイ?」

 

ダイは手元の肉を見ながら眉を下げ、悲しそうにしており、その悲しげな表情を見たレグルスは全身に冷水を浴びたように体が冷え、心もギュッと握られたように痛み出した。

 

「レグにもっと空裂斬の稽古つけてもらいたかったな…」

 

ダイは残念そうに言うと目をつぶった。目をつぶり、眉を下げるダイを見たレグルスにはダイが悲しんでいるように見えた。

 

「…っ!!!」

 

レグルスの体に強い衝撃が走った。レグルスの手の中にあった串は強く握られたことでバキッと音を立てて二つに折れた。

 

「………ダイ、大丈夫だ!私はダイと共に行く!!!」

 

レグルスの力強い発言にダイはぱっと顔を上げるとレグルスの顔を見た。

 

「えっ!でも…いいの?」

「問題ない!…私はダイの側に居る!道中、空裂斬の修行も行おう!」

「本当!?やったぁ!」

 

ダイは笑顔を浮かべて喜び、レグルスも口元に笑みを浮かべると小さく頷いた。

 

「あれ?レグは私たちと一緒に行くってこと?」

「みてぇだな…なんか…決まっていたことが簡単に変わっちまったぞ」

 

2人のやり取りを見ていたポップは呆れ、マァムは小さく笑みを浮かべると、小声で話しかけた。

 

「前にもこんなことあったわよね?…なんだかレグってダイのお願いなら何でも聞いちゃいそうな所あるわね」

「ダイが竜の騎士ってのもあるんだろうけどよ…レグの奴、ダイに対してだけ態度が違うというか…世話を焼きたがるというか…甘いというか…まぁ、ダイが喜んでいる分にはいいんだけどよ」

「ふふっ、そうね!2人を見ていると、仲のいい兄弟に思えるわ!レグがもし竜の騎士なら…本当の兄弟かもしれないわね!」

「あっ、そっか!…レグが竜の騎士なら2人が兄弟の可能性もあるのか!…姫さん救ったらそのへんもテランに行って確かめてみるか」

 

ポップは鍋の中身をお玉でかき混ぜながらダイとレグルスを眺め、テランに行ったら2人は竜の騎士か、兄弟であるかの確認をしようと考えた。

 

各々がしばらくの間、黙々と食事の準備をしていると小さな怪我を負ったラーハルトとヒュンケルが隠れ家まで戻ってきた。ラーハルトは申し訳なさそうにレグルスとダイの側まで行くと頭を下げた。

 

「申し訳ございません!…俺がすべき作業を、お2人にさせてしまい…」

「問題ないラーハルト、それ程大変な作業でもないからな」

「ラーハルト!今からでも一緒にやろ!」

「はい!かしこまりました!…やるぞ、ヒュンケル!」

「俺もか…」

「当然だ!お2人が作業をしているのに俺達がしないなど有り得ない!!」

 

ラーハルトは嬉々としてレグルスの隣に腰を下ろすと作業を始め、ヒュンケルは小さくため息を吐くとラーハルトの隣に座った。

 

「…ラーハルト、お前達に伝えたいことがある」

 

作業中、話しかけられたラーハルトは手を止めると嬉しそうにレグルスに顔を向けた。

 

「はい!なんでしょう!」

「この後2手に分かれてレオナ姫を捜索するが…私はダイ達と共に行動する!そのように変更となった」

 

ラーハルトは思いもよらないレグルスの発言に目を見開き、動揺すると声を震わせた。

 

「………えっ、…いつ…その様に変わったのですか?」

「先程だ。ラーハルトはヒュンケル、クロコダインと行動を共にせよ」

「………承知、しました…」

 

さっきまでとは違い、声に力がなく落ち込んだ様子のラーハルトに気づいたダイは以前、船で聞いた話を思い出すと眉を下げた。

 

「あっ……レグ!やっぱり、修行は大丈夫だよ!俺1人で空裂斬を習得してみせる!だから…ラーハルトの側に居てあげて」

「!!い、いえ!俺のわがままで変える訳には行きません!」

「大丈夫だよ!それに…ラーハルトはレグが居ないと寂しい…甘えん坊だもんね!」

「うぐっ!…ダ、ダイ様…!」

「フッ…なんだ、ラーハルト…いい歳こいて甘えん坊なのか?」

「………うるさい…」

 

笑われたラーハルトはムッとしながら隣のヒュンケルを肘で小突くと、手を握り、勢い良く立ち上がった。

 

「こうなったら…!俺もダイ様たちと行動を共にします!!!」

「ええっ!?」

「まあ、仮面付ければ行ける…か?」

「仮面は戦闘になれば直ぐに外れる!パプニカの連中は俺が魔族の見た目をしていると直ぐに気づくだろう…だが!それがどうした!?パプニカの奴らに罵られようが!殺されそうになろうが!構うものか!!!俺はお2人の側に居る!!!」

「え…ええっ…?」

「いや…普通に不味いだろ!」

「おい!それでは2手に分かれる意味が減る!昨日深夜に決めたことをなかったことにする気か!!?」

「フン!俺は自分の意思を変える気は無い!」

「…お前な」

 

ヒュンケルは呆れながらラーハルトを見つめ、ラーハルトは意志を変える気なしと思われるようにそっぽを向いた。レグルスはラーハルトのやり取りを聞き、自身がきっかけで仲が不穏になるのを危惧した。

 

「……計画を変更するか…そもそも、私が最初に言い出したからな……」

 

レグルスは少し思案すると計画の変更内容を伝えた。

 

「…皆には今日の捜索で2手に分かれて行動すると伝えたが…この話は無かったことにする」

「えっ?てことは…?」

「全員で行動する、という事だ」

(よしっ!!!)

 

ラーハルトは嬉しそうな表情を浮かべ、小さくガッツポーズをした。

 

「でも…ヒュンケル達は大丈夫なの?パプニカの人達と戦いにならないと良いけど…」

「それだが…ようはパプニカの人々にラーハルト、ヒュンケル、クロコダインが認識されなければよいと考えている…その為、この後のことだが―」

 

レグルスはレオナ姫捜索時の方法をその場にいる者に伝えた。

 

料理が出来上がる頃、パプニカの城下町にてレオナ姫の捜索を行っていたバダックとクロコダインが戻ってきた。ダイは2人に駆け寄ると、期待しながら見上げた。

 

「2人ともおかえり!街はどうだった?レオナは…人は居た?」

「残念じゃが…誰もおらんかった…姫の痕跡も見つからずじまいじゃ」

「恐らく何処かに隠れているとは思うが、人が戻るにはもう少し時間がかかるだろう…」

「そっか…」

 

ダイは肩を落とし落ち込んだが、すぐに気持ちを切り替えると帰ってきた2人を焚き火に案内した。

 

「ご飯出来たから皆で食べよ!」

「おお!色々と準備をしてくれたんじゃな!助かるのぅ!」

「お〜い、こっち料理よそうから運んでくれ!」

 

料理を運び全員が焚き火を囲むように席に着くと食事を始めた。賑やかな食事は楽しく過ぎ、特にポップとマァムが作った料理はみんなに好評であった。

 

食後、装備を整え準備が完了すると、バダックには二手に分かれてレオナ姫の捜索を行うと説明をした。説明を聞いたバダックは寂しそうに表情を曇らせるとクロコダイン達とお別れをしようとしていた。

 

「クロコダインが居ないと寂しくなるのぅ…」

「じいさん…!大丈夫だ!目的は同じだ、すぐ会えるさ!」

「…そうじゃな!すぐ会えるじゃろう!…また会おうのぅ!クロコダイン!」

「おう!」

(まぁ、実際直ぐに会うしな…)

「ダイ様、俺達は行きます」

「うん、分かった!じゃあ、またね!」

 

ラーハルトとヒュンケルとクロコダインは歩き出し、ダイは見えなくなるまで手を振っていた。姿が見えなくなる頃、レグルスはハッと思い出したかのような表情を浮かべると、ラーハルトが向かって行った方角に歩き出し、ダイ達に振り向いた。

 

「ラーハルト達に伝え忘れたことがある!直ぐに戻るからここで待機していてくれ!」

「分かったわ!」

「おう!なるべく早く戻って来いよ!」

 

レグルスは駆け出し、ラーハルトの気配を頼りに岩の影を覗き込むとバダックから見えない位置にラーハルト達が待機していた。

 

「今から魔法をかける…姿が見えない間は極力話さないように!」

「分かりました!」

「ああ」

「うむ!」

 

レグルスは3人に指先を向けると魔法をかけた。

 

「レムオル!では、戻るぞ」

 

レグルスと姿を消したラーハルト達はダイ達の元に戻り、バダックは戻ってきたレグルスに用件は何だったのかを確認した。

 

「レグ君!伝えたい事とは何だったのじゃ?」

「連絡手段についてだ。別行動である以上、合図の方法は必要だからな」

 

バダックは感心してウンウンと頷いた。

 

「確かにそうじゃな!合図があれば何処にいるかも分かるからのぅ!………合図?…あ、ああ〜〜〜!そうじゃああぁっ!!!」

 

急に大声を上げたバダックに隣に居たポップは驚き、仰け反った。

 

「うおっ!なっ…なんだよじいさん!?急に大声出すなよ!」

「神殿じゃ!神殿に行くのじゃあっ!!そこに合図に使っておる火薬玉がある!!」

「じゃあ、それを使えば…!」

「そうじゃ!“我れ勝てり”の赤い信号弾を見れば、きっと姫様も安心して姿をお見せになるはずじゃ!」

「そっかあ…!」

「よし!それじゃあ、神殿に行こうぜ!」

「ああ」

「ええ!」

 

ダイ達一行はバダックを先頭に神殿に向かって移動を開始した。

 

(どうやら、俺達の事は気付いてないようだな…!)

(話せないのは不便だが、これなら敵に襲われた際に意表を突くことが出来る)

(レグルス様!ダイ様!いざとなればこのラーハルト、命をかけてお守り致します!!!)

 

一行には姿を隠した3人が一定の距離を保って進んでいたがバダックは気付くことはなく、レオナ姫捜索の足がかりが出来たことで嬉しそうに駆け足で進んでいった。




この小説で書きたかった組み合わせ…それは、ヒュンケルとラーハルトのペア、クロコダインとバラン(生まれ変わり)のペアです!

ヒュンケルとラーハルトは、どっちかが登場するともう一方は戦えない状態になるため、一緒に行動とかないですよね。ちなみに、この小説でラーハルトがヒュンケルにちょっかいを出すのは、仲良くなりたいからです!

バランに関しては強すぎるため、基本的には1人で行動し、誰かと行動を共にすることは、まずありません(ダイ君は別)。しかも、クロコダインとの接点は殴り合いがほとんどです。そのため、普通にダイを守るための協力関係を築きたかった!ちなみに、主人公がダイの頭を撫でているのをクロコダインは全部目撃しております。
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