ダイの大冒険 ―次世代の竜の騎士ー   作:キャットテールの鈴

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バルジ島に到着したラーハルトとヒュンケルは、因縁の相手であるハドラーとミストバーンと対峙した。一方、ダイたちに合流したクロコダインは、レグルスと共にガルダンディーとザボエラに立ち向かう。
あとがきにおまけあり。


36_バルジ島編_空中戦

ラーハルトとヒュンケルは、武器を構え、睨みながら堂々とした態度でハドラーとミストバーンと対峙した。ラーハルトの目には憎しみと決意が宿り、過去に自身と母親が受けた迫害の元凶であるハドラーを睨みつけながら、ヒュンケルに小声で話しかけた。

 

「ヒュンケル…俺がハドラーを倒す…あいつは、俺の母とアバン殿のかたきでもあるからな…この手でやつを始末する!!!」

「!!…そうか、お前にも事情があるのだな…だが、俺にとってもハドラーは父バルトスのかたきでもある…譲る事は出来んな…」

「バルトスの件は聞き及んでいる…だが、俺のスピードならハドラーを容易く始末できる…俺にやらせろ!」

「いいや…俺が―」

 

ラーハルトとヒュンケルが小声で言い争いをしている間、イラついたハドラーが両手に魔力を貯め、睨みつけた。

 

「ごちゃごちゃとうるさい奴らだ!!!貴様らなんぞ、まとめて始末してくれる!!!イオナズン!!!」

 

ハドラーは呪文を唱え、巨大な爆炎がラーハルト達に向け、放たれた。ラーハルトは着弾する前にその場から素早く離れ、ヒュンケルは仁王立ちのままその場に留まった。魔法はヒュンケルに着弾、ヒュンケルを中心に巨大な爆炎が上がり、ハドラーはニヤッと笑ったが、その場に、ヒュンケルが変わらず立っていることに気づいて目を見張った。

 

「ば…バカな!イオナズンが…!!?」

「忘れたか!?この俺の鎧はいかなる攻撃呪文も受けつけんことを…!!覚悟しろ!ハドラー!!!」

 

ヒュンケルが魔剣を構えて走り出し、ハドラーは迎え撃つためにイオラを放とうとしたが、側面からの攻撃を受けたため、魔法を中断せざるを得なかった。

 

「がはっ…!!!」

「お前の相手はヒュンケルだけではない…!」

 

ラーハルトはハドラーの側面に回り込み、槍をハドラーの心臓に向けて突き刺していた。槍はハドラーの体に食い込み、傷口から蒼い血が流れたが、槍先は心臓まで届いていなかった。ラーハルトは反撃を受ける前に槍を力強く引き抜くと、ハドラーから距離を取った。

 

「き…貴様ぁ!よくも!!!」

 

ハドラーは傷口を抑えながらラーハルトを睨みつけた。ラーハルトは槍先に付いた蒼い血を見つめ、視線を移すと、ハドラーの脇腹や指の隙間から流れる蒼い血を睨みつけた。

 

「…硬いな…心臓まで届かなかったか…だが、次の一撃で終わらせる!!!」

「おのれ…!」

 

ハドラーがラーハルトに意識を向けていたところ、ヒュンケルが魔剣を振り上げて攻撃してきた。

 

「くたばれ!ハドラー!!!」

「!!」

 

ハドラーはヒュンケルの攻撃を防御するため、右腕手の甲に隠されているヘルズクローを使い、魔剣の攻撃を受け止めた。

 

「う…うおおおおっ!」

 

怪我による痛みでハドラーは顔をしかめつつも、力を込めると、ヒュンケルの攻撃を押し返した。ラーハルトもハドラーを攻撃するために再度、駆け出したが、ミストバーンが爪を放射線状に高速で飛ばしてきたため、ラーハルトは攻撃を中断し、ミストバーンの攻撃を避けるため、その場を飛び退いた。

 

「邪魔をするなっ!」

 

ラーハルトは妨害してきたミストバーンを睨みつけた。

 

「ハドラーの前に…お前から始末してやる!!!」

 

ラーハルトはハドラーからミストバーンに標的を切り替えると、槍を高速で回転させ、技を繰り出した。

 

「ハーケンディストール!!!」

 

ラーハルトの技はミストバーンの顔面部分に直撃した。

 

(勝った!)

「…」

 

ラーハルトは大技をミストバーンに繰り出した際、勝利を確信した。しかし、ミストバーンは後方に下がりながらも、手のひらをラーハルトに向けると、悪の闘気を飛ばした。

 

「なっ…!!!」

「…」

 

暗黒闘気により身動きが取れなくなったラーハルトは、以前受けたことのある技に目を見開いた。

 

「馬鹿な!この技は闘魔傀儡掌!!なぜ…お前が使える!!!」

「…」

「ラーハルト!!!」

 

ヒュンケルはハドラーのヘルズクローによって鎧に傷を付けられながら、距離を取ると同時に、ラーハルトを助けるため、ミストバーンに向けて技を放った。

 

「海波斬!!!」

「…!」

 

ヒュンケルの技を受けたことで、ミストバーンの闘魔傀儡掌は解除された。ラーハルトは身動きが取れるようになると、その場から離れてヒュンケルの隣に下がった。

 

「危ないところだったな、ラーハルト」

「何故、奴はお前の技を使える?」

「あの技は元々ミストバーンの技だ。俺は奴から暗黒闘気を学んだ…」

「お前はアバン殿と奴…ミストバーンから教えを学んでいたのか」

「最近はもう1人師が出来そうだがな…」

 

ヒュンケルが脳裏に子供の姿を思い浮かべていたところ、突然、離れた場所で大きな音が響いた。その音に全員が視線を向けると、離れた場所で炎魔塔が倒れるところであった。

 

「…!!」

「炎魔塔は砕けたようだな」

「クロコダインか…またはダイ様達が破壊して下さったのだろう!」

「…くっ…!!!」

「次は貴様の番だ!ハドラー!!!俺の父バルトスの命を奪った貴様を生かしてはおけん!!!」

 

ハドラーは顔を歪め、ヒュンケルを睨みつけた。

 

「ほざくなあっ!!!この若造があっ!!!親子揃ってこの俺にたてつきおって…!!!」

 

ハドラーはヘルズクローを構え、ヒュンケルの元へ走り出した。同時に、ミストバーンも指先をヒュンケルに向け、高速で爪を飛ばした。

 

「ぬうううん!!!」

「はあああっ!!!」

 

ハドラーとヒュンケルが接触すると、お互いの武器を使用した接近戦が繰り広げられた。その間、ラーハルトはヒュンケルに向けて伸ばされたミストバーンの爪を高速で切り刻んだ。

 

「ヒュンケルに攻撃させん!」

「…!」

 

ヒュンケルとハドラーは互いに何度も攻撃を繰り返し、ラーハルトはヒュンケルに向けられた爪の攻撃を切り裂き、暗黒闘気による攻撃は発動する前に攻撃することで無効化した。

 

「はぁ…はぁ…!」

 

ハドラーとヒュンケルは息を切らしながらお互いに距離をとり、同じタイミングでラーハルトもミストバーンから距離を取り、ヒュンケルの隣に移動した。ヒュンケルはミストバーンを警戒しながら、隣のラーハルトに小声で話しかけた。

 

「ラーハルト…このままミストバーンを抑えられるか?ミストバーンの攻撃を避けながらハドラーと戦うのは厳しい」

「ふむ…ハドラーと戦えないのは残念だが、いいだろう…ミストバーンは俺が抑えよう!お前が奴と戦えば暗黒闘気に捕まってしまうからな、俺が相手をする。その代わり!必ずハドラーを倒せ!!!」

「ああ!!!」

 

ヒュンケルは頷くとハドラーに向かって駆け出し、同時にミストバーンもハドラーのもとに向かおうとした。

 

「おっと、お前をヒュンケルの元へは行かせん!!!」

 

ラーハルトは高速でミストバーンの横を通り過ぎると、すれ違い様に全身を切り刻んだ。

 

「!!!」

 

ミストバーンがまとう闇の衣に一部切れ込みが入ると、黒いモヤが流れ出した。ミストバーンは衣の上からモヤを手で抑えると、ラーハルトに殺気を向けた。

 

「随分と無口な奴だ…体を切り刻まれても悲鳴一つ上げないとは…だが、そのやせ我慢はいつまで持つかな?」

 

ラーハルトは槍先をミストバーンの心臓に向けると目に見えない速さで駆け出し、連続で攻撃を仕掛けた。

 

 

 

「うおおおおっ!!!」

「グオッ!?」

 

クロコダインは走りながら斧を大きく振り回し、襲い来るドラゴンに向けて連続で攻撃を繰り出した。一方、レグルスは追跡しながら、クロコダインを守るように敵の魔法を阻止していた。

 

『イオラ!!!』

「真空海波斬!!!」

 

風をまとった複数の斬撃は爆炎を切り裂き、クロコダインに着弾することなく、魔法は無効化された。

 

「バイキルト!」

 

さらにレグルスはクロコダインに追加で魔法をかけ、クロコダインは常に2倍の攻撃力で敵と戦っていた。クロコダインが前線で戦い、レグルスはサポート役に徹していた。

 

「くそぉっ!!こいつでもくらえっ!!!」

 

空中に浮かぶルードの頭上にいるガルダンディーは、頭の白と赤の羽を引き抜き、それをクロコダインとレグルスに向けて投擲した。

 

「むっ?」

 

羽はクロコダインの硬い皮膚に当たったが、刺さることなく地面に落ち、レグルスは巧みに攻撃をかわすと、先程まで居た場所に羽が突き刺さった。

 

(この羽…攻撃力は大したことないのに、なぜ急所を狙わない?…何か仕掛けがあるのか?)

 

レグルスは地面に突き刺さった白と赤の羽を指の隙間に挟み、それをザボエラとあくま神官に向けて投擲した。

 

「ぎょえええっ!」

 

攻撃に気付いたザボエラは慌てて木の後ろに隠れ、羽は木の幹に突き刺さった。投げた羽の一部は2匹のあくま神官に刺さり、そこからはキラキラと光るものが放たれた。

 

「イオラ!……あれ?」

「うっ…ち…力が…」

 

白い羽が刺さったあくま神官は魔法が使用できなくなり、赤い羽が刺さったあくま神官は疲れた様子で地面に倒れた。その光景を見ていたレグルスは眉をひそめた。

 

「そういうことか…クロコダイン!ガルダンディーの羽に気をつけろ!白い羽が魔力を!赤い羽が体力を奪う!!」

「おう!…といっても俺には刺さらんから、お前さんだけ気をつけろ!」

「ああ!」

 

レグルスとクロコダインは上空に浮かぶガルダンディーとルードを睨みつけた。

 

「クロコダイン!ガルダンディーを攻撃するぞ!」

「おう!行くぞ!獣王会心撃!!!」

「真空海波斬!!!」

 

上空にいるガルダンディーとルードに向けて技が放たれた。

 

「ルード!避けろ!!!」

「グルルルッ!」

 

指示を受けたルードは空中を素早く移動し、技を回避した。

 

「当たらんな…」

「敵が宙にいる以上、攻撃を当てるのは厳しい…せめて、空を飛べたら良いのだが…」

「飛ぶ手段はあるが…俺の体重ではガルーダの機動力を発揮できん…スカイドラゴンに捕まるだけだ…だが…デルパァ!!」

「クワッ!!!」

 

クロコダインは魔法の筒からガルーダを呼び出すと、体重が軽そうな小さな子供を見た。

 

「レグ!ガルーダに乗ってガルダンディーを倒してこい!俺では重すぎるが…お前さんならガルーダの移動に影響を与えんだろう!」

「…私は構わないが…ガルーダは良いのか?」

「恐らく大丈夫だろう…行けるか?ガルーダ!」

 

レグルスとクロコダインの視線を受けたガルーダは、キリッと目付きを鋭くし、元気よく返事した。

 

「クワワッ!!!」

「良い!…だそうだ!」

「分かった…ならばガルーダ、よろしく頼む!クロコダイン!地上は任せた!」

「おう!」

 

レグルスはガルーダの背中に飛び乗り、ガルーダは翼を動かすと上昇した。その間、レグルスは敵に気づかれないよう、いくつかの魔法を唱えた。ガルーダがスカイドラゴンと同じ高度に到達すると、ルードに乗るガルダンディーが、軽蔑に満ちた視線でレグルスとガルーダを見つめた。

 

「クハハハッ!おいおい!ドブネズミが鳥に乗って空を飛びやがったぞ!!!笑えるなぁ、ルード!!!」

「グルルルッ!!!」

「……」

 

ガルダンディーとルードは馬鹿にしたような笑みを浮かべながらレグルスを見つめた。その一方で、レグルスは一瞬、マァムの姿が脳裏をよぎり、パプニカでのヒュンケルの出来事を思い出すと、一時的に戦闘態勢を解いた。

 

(ふむ…会話を試みてみるか…ヒュンケルの時のように、奴にも何か事情があるのかもしれない…まぁ、あの様子では無駄に終わると思うが…)

 

レグルスは眉を少し顰めたまま、ニヤニヤ笑っているガルダンディーに話しかけた。

 

「ガルダンディーよ…1つ聞きたい」

「…あ?」

 

ガルダンディーは、見下している人間から急に話しかけられたことで眉を顰め、不快感を示した。

 

「何故…貴様は人間を殺す?…人間を嫌うようになった経緯があるのか?」

「……なんだ?このガキ…殺し合いをしてるってのに、馬鹿かよ」

 

ガルダンディーは呆れたようにレグルスを見ると、嫌がらせしてやろうと考え、ニヤァと凶悪な笑みを深めた。

 

「クハハハッ!なんで人間を殺すかって?そんなの決まってるだろ!……面白いからだよ!!!」

「……面白い…だと…?」

 

レグルスは眉を更に顰め、その少し不快そうな表情を見たガルダンディーは調子に乗り、馬鹿にしたようにニヤニヤ笑った。

 

「ああ!面白いねぇ!!人間に価値はねぇ!ゴミみてぇな存在だ!だからよぉ〜、価値のない人間に俺を楽しませるという価値を与えてやってるんだ!クハハハッ!!!」

「…」

「人間を殺すのが楽しくて、楽しくて仕方ねぇ!人間が死ぬ時の絶望した表情!家が燃えて泣く奴らの顔!そいつの家族が目の前で死んだ時の悲痛な叫び声!!!俺の目を!耳を楽しませてくれるんだからよぉ!最高だと思わねぇか!!!これだから人間を狩るのはやめられねぇ!!!」

「……」

 

レグルスは顔から感情を無くすと、馬鹿にしたように大声で笑うガルダンディーを睨みつけた。

 

「クククッ!てめぇを殺した後、あの勇者のガキもバラバラにしてドラゴンの餌にしてやるよ!」

「……何だと!」

「おっ?」

 

ガルダンディーは無表情だったレグルスの顔が怒りに歪むのを見てニヤリと笑い、さらに馬鹿にしながら話を続けた。

 

「勇者のガキもバラバラにしてやるって言ったんだよぉ!てめぇや勇者のガキぐらいの子供もたくさん殺したぜぇ?ククッ…あいつらドラゴンに食われる間泣き叫んでたなぁ…『助けて!お父さん!お母さん!』ってなあ!クハハハッ!てめぇの親はとっくに死んでるってのによお…最期まで泣き叫んで、無様な死に様だったぜ!!!ハハハハッ!」

「…もういい……貴様の言葉からは相手を尊重する意思を感じられない…」

「あ〜〜〜?なんか言ったか?もしかしてお仲間がやられて怒っちゃったか?」

 

ガルダンディーは、レグルスの怒る様子を面白そうに見つめ、ニヤニヤと笑っていた。

 

(……会話は、無駄だったようだな)

 

レグルスはガルダンディーとの話し合いが無意味であると悟り、相手を倒すべき敵と見定めると、強い怒りと不快感で顔を顰めた。そして、鋭い目付きでガルダンディーを睨みつけ、ゆっくりと剣を持ち上げた。

 

「…たとえ敵であったとしても敬意を持って接するのが私のやり方だ…だが!他者を侮辱し、自身の欲望のために人を殺す、貴様のような奴にその必要はないようだな…!!!」

 

レグルスの声は怒りに震え、睨みつけながら剣先をガルダンディーに向けた。

 

「超竜軍団長ガルダンディー!貴様は、私が倒す!!!覚悟しろ!!!」

「クハハハッ!テメェみてえなガキに何が出来る!!!人間風情が!生意気なんだよぉ!!!ルード!奴を噛み殺せ!!!」

「グオオオッ!!!」

 

ガルダンディーは狂気じみた笑い声を上げながら命じた。命令を受けたルードは、恐ろしい咆哮を上げながら超高速で飛行し、一気にガルーダとレグルスとの距離を詰めると、口を大きく開けた。

 

「死ねぇ!!!クハハハッ!!!」

 

ルードは勢い良く口を閉じてレグルスを噛み砕こうとした。しかし、獲物は既にそこにはおらず、ガチンと歯と歯が当たる音だけが周囲に響いた。

 

「グルゥ!!?」

「なに!?幻影だとぉ!!!」

 

ガルダンディーとルードが周囲を見渡すと、薄い霧が発生しており、その霧の中から、何体ものレグルスとガルーダの幻影が浮かび上がっていた。

 

「いつから魔法にかかってやがった!?」

 

レグルスはガルダンディーたちがいる場所よりもはるか上空におり、ガルーダの上から冷たく見下ろすと、冷静に魔法を唱えた。

 

「最初から魔法にかかっていた。ガルーダの方がスピードは遅いのだ…まともに対峙する訳がなかろう…レムオル、マヌーサ、ピオラ、バイキルト…」

 

霧の中を飛び回るルードは、目に見える幻覚を片っ端から噛み砕こうとしたが、全てが空振りに終わり、イライラすると、歯を剥き出して唸った。

 

「グルルルル!!!」

「何処だ!何処にいやがる!!?」

 

ガルダンディーは周囲をキョロキョロと見渡し、舌打ちをしてからルードに指示を出した。

 

「チッ!こそこそ隠れやがって!ルード!奴の臭いを嗅げ!!」

「グルル!」

「バギ」

 

ルードが臭いを嗅ごうとした瞬間、突然、ガルダンディーたちの周りに風が吹き始めた。

 

「なんだ!?急に風が吹きやがった!くそっ!あのガキの魔法か!?これじゃ…臭いが分からねぇ!!」

 

レムオルで姿を消しているガルーダとレグルスは、ルードの周りを大きく旋回しながら、攻撃のチャンスを窺っていた。

 

(スカイドラゴンとガルダンディー、両方と戦えば勝ち目はない…ならば!まずはスカイドラゴンを戦闘不能にし、その次にガルダンディーを倒す!!!)

 

レグルスはガルーダの耳元に口を寄せ、小声で指示を出した。ガルーダはそれに頷き、了承の意思を示した。

 

「バギ」

 

レグルスは魔法を再度唱え、背後から前方に向けて風を発生させた。その追い風を利用して、ガルーダは飛行速度を上げた。

 

「おい!隠れてないで出てきやがれ!なんだぁ!俺が怖いか!威勢よく言っていた割には隠れやがってよぉ!出てこい!この、腰抜けがぁ!!!」

 

ガルーダはルードの周囲を旋回していたが、向きを変えるとルードの口に向かって一気に接近した。激突する直前、レグルスはガルーダの背中から勢いよくジャンプし、ガルーダはルードを避け、その場から離れた。そして、レグルスは剣に爆炎を纏わせると、ルードの口内に向けて勢いよく剣を振り下ろした。

 

「爆裂大地斬!!!」

 

スカイドラゴンのルードの口の中が爆発した。

 

「グオオオオッ!!?」

 

ルードはレグルスの接近に気付かず、攻撃を受けたことで気絶し、口から煙を吹き出しながら地面へ落ちていった。レグルスは攻撃後、ルードを足場にして飛び退き、周囲を旋回しているガルーダの背中に飛び乗った。

 

「ル、ルードオオォオ!!!」

 

ガルダンディーは慌てて翼を動かしてルードの頭から離れ、地面へ落ちていくスカイドラゴンを呆然と見た。

 

「あああっ…そんな…、嘘だ…!ルードがやられちまうなんて…」

 

ガルダンディーは目つきを鋭くし、周囲を睨みつけた。

 

「このクソガキがあぁああっ!!!殺す!!!よくも俺の兄弟を傷つけたなぁ!!!」

「バギ…ガルーダ、上昇しガルダンディーの頭上へ移動せよ」

「クワッ!」

 

レグルスが魔法で上昇気流を発生させると、ガルーダは一気に高度を上げ、ガルダンディーの頭上より上に着いた。レグルスはガルーダの背中から飛び降り、重力により加速していく中、剣に炎を纏わせながらガルダンディーの背中に向けて急降下した。

 

「出てこい!卑怯者!!!」

「火炎大地斬!!!」

 

レグルスは炎を纏う剣をガルダンディーの背中に勢いよく振り下ろした。攻撃により、ガルダンディーの片翼は根本から切断、片翼を失ったガルダンディーは激痛に絶叫を上げながら地面に向かって落ちていった。

 

「ぎゃあああぁぁああ!!!」

 

レグルスは攻撃後、レムオルを解除しており、ガルーダは落ちているレグルスに近づいた。

 

「助かった!お前は賢いな!」

 

ガルーダの背中に乗ったレグルスは、落ちて行くガルダンディーを見ながら指示を出した。

 

「…ガルーダ、私を地面に降ろしてくれ」

「クワッ!」

 

返事をしたガルーダは落ちていくガルダンディーを追って高度を下げた。片翼を失ったガルダンディーは飛行コントロールが上手くいかず、さらに激痛のため翼を動かすことに集中できず、クルクルと回転しながら地面に勢いよく激突した。

 

「………あ……がっ…」

 

うつ伏せの状態で地面に激突したガルダンディーは痛みで体を痙攣させながら地面に横たわっていた。そこへ地面に降り立ったレグルスが剣を構えながらガルダンディーに歩いて近づき、落ち着いた声で話しかけた。

 

「…ガルダンディー、貴様の翼を切り落とした。片翼では飛ぶのは難しい…これで、私から逃げる事は叶わない」

「……て…めぇ!……よくも…俺の翼を!!」

 

ガルダンディーは倒れたまま目線だけをレグルスに向け、ギロリと睨みつけ、レグルスはガルダンディーの側で立ち止まると、無表情で見下ろした。

 

「貴様を生かすつもりはない…生かして返せば、また人間を殺すだろうからな…覚悟して死を受け入れよ」

「ふ…ざけるなよぉ…!ふざけるなぁああ!!!」

 

ガルダンディーは痛みを無視して立ち上がると、レイピアの剣先をレグルスに向け、血走った目で睨みつけた。

 

「人間風情がぁっ…!!!バラバラに切り刻んでやる!!!死ねぇ!!!」

 

ガルダンディーはレイピアをレグルスに向け、突き攻撃を仕掛けた。しかし、レグルスは最小限の動きでレイピアを横に避けると、ガルダンディーの側面に回り込み、剣を振り上げた。

 

「うぎゃあああぁあ!!!」

 

レグルスの剣が突き攻撃により伸び切ったガルダンディーの右腕を切断した。ガルダンディーの肘より先はレイピアを掴んだまま地面に落ち、傷口からは蒼い血が噴き出した。

 

「ああああっ!!!…腕…俺の、腕がぁああっ…!!!」

「利き腕を切り落とした…これで貴様は武器を振ることはできん」

 

血が噴き出す右腕を左手で抑えながら叫ぶガルダンディーを無視し、レグルスは足に力を入れて大きく跳躍すると、ガルダンディーの頭に向けて踵落としを繰り出した。

 

「がぁっ!!!」

 

踵落としにより、ガルダンディーは顔から地面に叩きつけられた。再び、地面にうつ伏せとなり、激痛で震えるガルダンディーの頭をレグルスは足で踏みつけ、殺気を込めた冷めい目で見下ろした。

 

「大人しくしておれば、必要以上に苦しまずに済んだものを…」

「………ひっ…!」

「覚えておくがいい。他者にした行いは、いずれ自身に降りかかる!…今の現状は貴様自身がした行動の結果だ!……もっとも、反省した所でこの経験を活かすことはないがな…」

 

ガルダンディーの呼吸は、恐怖によって荒くなり、嘴も恐ろしさでカチカチと音を立てた。

 

「……はぁ!……はぁ!……や…やめ…!」

「………貴様は散々人間を殺してきた…それも面白いからという理由で…止める理由はない」

 

レグルスは足でガルダンディーの頭を地面に強く押し付けると、剣を頭上に振り上げた。

 

「これ以上、醜態を晒さぬようにしてやろう………さらばだ、超竜軍団長ガルダンディー!」

「やめろおぉおおっ!!!」

 

レグルスが剣をガルダンディーの首に向けて振り下ろそうとしたところ、突如、空から咆哮が聞こえたことでレグルスは手を止めた。

 

「グオオオオッ!!!」

「む?」

 

咆哮が聞こえた方向にレグルスとガルダンディーが視線を向けると、口周りが煤で汚れたスカイドラゴンのルードが高速でレグルスたちがいる場所に向かってくるのが見えた。

 

「ル…ルードォッ!!!」

 

ガルダンディーは危機的な状況に現れた仲間の姿に喜びの声を上げ、レグルスは少し驚きながらルードを見つめた。

 

「もう目が覚めたのか…想定よりも頑丈であったか…あるいは仲間の危機に目が覚めたか」

「へっ!ざまあみろ…!…ルードが居りゃテメェなんか、…あっという間に―」

「まあいい、先にあのドラゴンを始末するか」

「食いこ……えっ?」

 

レグルスはガルダンディーから離れ、剣を構えるとルードを睨みつけ、ガルダンディーは嫌な予感に冷や汗をかいた。

 

「おい…待て…やめろ!!!ルードに手を出すんじゃねぇ!」

 

レグルスはガルダンディーの怒鳴り声を冷静に耳にしながら、その様子に反応せずに剣を構え続けた。その一方で、ガルダンディーはレグルスの無視に焦りを募らせ、悲痛な声で叫んだ。

 

「あいつは俺の兄弟なんだ!!!頼む!殺さないでくれ!!!」

 

後ろを振り向いたレグルスは、必死な表情を浮かべるガルダンディーを見て眉を顰めた。

 

「……断る!…あのドラゴンも多くの人間を殺している、見逃すつもりはない!」

「っ…!!!ルード!こっちに来るな!!!逃げろ!!!このガキはほかの人間と違う!!!勝ち目はねぇ!!!逃げろぉっ!!!」

 

ガルダンディーの悲痛な叫びが周囲に響いたが、ルードは指示を聞かず高速で飛行しながら口に炎をため始めた。

 

「あのドラゴンはやる気のようだな…!」

「ああああああっ…!!!やめろおおぉおっ!!!こっちに来るなぁあぁっ!!!ルードオォッ!」

 

レグルスは手に魔力を込め、炎を吹く際にルードの頭を吹き飛ばすため、攻撃のタイミングを見計らった。

 

「グオッ!!!」

「むっ!!!」

 

だが、想定とは違い、ルードは口から火を吹かず、代わりに尻尾をレグルスに向けて勢いよく振り下ろした。攻撃に気付いたレグルスが後ろに大きく飛び退くと、先程まで立っていた場所は土が抉れ、煙が立ち上った。

 

「まさか、ドラゴンがフェイントを仕掛けてこようとは…!」

「グルルッ!」

「ルード!!!」

 

ルードは地面に倒れているガルダンディーを口に咥えると、急いでその場から離脱した。

 

「海波斬!!!」

 

レグルスは高速で飛行するスカイドラゴンの背中に向けて技を仕掛けたが、その鋼鉄の皮膚には傷一つつかなかった。ルードの飛行スピードも落ちることなく、ガルダンディー達はあっという間に遠くまで飛び去っていった。

 

「…逃したか」

 

空の点となったガルダンディー達を見ながら後を追うことは不可能だと判断したレグルスは肩の力を抜き、周囲に散らばるガルダンディーの白と赤の羽を見つけると拾い始めた。

 

「この羽…何かに使えるかもしれん」

 

羽を拾ったレグルスはそれを懐にしまいながら、周囲の気配を探り、ザボエラの気配がクロコダインの近くにあることを感じ取ると、そちらに体を向けた。

 

「ザボエラは居るようだな…クロコダインの加勢に向かうか」

「クワッ!」

 

上空で旋回していたガルーダが降り、レグルスの近くに着地した。

 

「ガルーダ!先ほどはよくやった!クロコダインの加勢に向かう、一緒に行くか?」

「クワッ!!!」

 

レグルスはクロコダインの元へ走り出し、ガルーダは空を飛んで後を追った。

 

「むっ?」

 

レグルスがクロコダインの側まで近づくと、ザボエラがルーラを使い、その場を離れていった。ルーラ特有の軌道を見つめながら、レグルスはクロコダインに駆け寄り、話しかけた。

 

「クロコダイン!」

「レグ!…なるほど、ザボエラはお前さんが近づくのを見たから逃げ出したのだな」

「…ガルダンディーも逃してしまった」

「敵の総攻撃を退けたのだ!良しとしようではないか!!!………ところで、お前さん…容赦ないな、悲鳴がこっちまで聞こえてきたぞ」

「……ガルダンディーのことか…奴を確実に倒すため、逃走手段と戦う手段を奪った…それでも、逃げられたが」

「まあ…奴の所業も褒められたものではなかった…お前さんにやられたのも、自業自得というやつなのだろうな」

 

レグルスは周囲を見渡すと、クロコダインにより倒されたドラゴンとあくま神官を見て感心した。

 

「ここの敵は倒し終わったようだな…クロコダイン、ラーハルト達はどこに居る?」

「ヒュンケルとラーハルトは氷の塔があった場所近くでハドラー達と戦っている!」

「!!…ハドラーと…」

 

レグルスとクロコダインはかつて氷魔塔があった方角に視線を向けた。

 

 

 

ミストバーンと対峙しているラーハルトは息を切らしながら、相手を睨みつけた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…お前、あれだけの攻撃を受けて声一つ上げないとはな…もしかして、口がないのか?」

「…」

「また、だんまりか…」

 

何度も攻撃を受けたにもかかわらず、ミストバーンは怪我した様子もなく、浮いた状態で平然と立っていた。闇の衣にはいくつかの切り傷がついているものの、痛みを感じている様子は全くなく、その不気味さに、ラーハルトは疑念と焦り、疑問が渦巻いていた。

 

(おかしい…かなり攻撃を与えた筈だが、怪我どころか消耗している様子がない…寧ろ)

 

ラーハルトは視線を自身が持つ槍の先に向けると、ボロボロとなった刃を見て眉を顰めた。

 

(…こちらの方が体力を消耗し、武器も壊れ始めている!戦った感じでは、ハドラーよりこいつの方が強い!!……くっ!…こうなれば、武器が壊れる前に、一気に仕掛ける!!!)

 

ラーハルトは槍を構え、その目にも止まらぬ速さでミストバーンに接近し、槍の刃先をミストバーンの顔面に突き刺した。

 

「もらったあ!!!」

 

槍先をミストバーンの顔面に向け突き刺したが、ダメージを受けたのはミストバーンではなく、槍の方であった。

 

「なっ…!槍が!」

「…」

 

槍は刃先の部分が大きく欠け、周囲に金属が砕ける音が響き渡った。ラーハルトは追撃を避けるためにミストバーンから距離を取ると、壊れた槍を唖然と見つめた。

 

「馬鹿な…!槍の方が壊れる…だと!?…くっ!」

 

ミストバーンが高速で爪を飛ばしたため、ラーハルトは素早く身をかわし、攻撃を回避すると、爪は地面に突き刺さった。壊れた槍を地面に置いたラーハルトは握り拳を作り、ミストバーンを睨みつけた。

 

(どうする…?槍が壊れるくらいだ…殴った所でダメージを与えられるとは到底思えん!こうなれば…せめて奴をヒュンケルの元に行かせないようここに留めさせなければ!!!)

 

ラーハルトが走り出そうとしたところ、少し離れた場所から巨大な光の柱が上がった。

 

「なんだ!?あの光は!!!」

「…」

 

突如上がった光の柱を驚きながら見つめていたラーハルトは、その光が上がっている場所が先程まで戦闘していた場所だと気付き、目を見開いた。

 

(まさか…あの光はヒュンケルと関係があるのか!?)

 

ラーハルトは視線を光の柱からミストバーンに移し、先程までそこにいた敵の姿がないことに気づくと、慌てて周囲を見渡した。

 

「なっ…奴はどこだ!!?……まさか!」

 

周囲にミストバーンの姿がないことを確認したラーハルトは、焦りながら光が上がった場所に向かって駆け出した。

 

「まずい!!!ヒュンケル!!!」

 

ラーハルトがヒュンケルとハドラーが戦闘していた場所に辿り着くと、そこにはもはや敵の姿はなく、ヒュンケルは膝立ちのままで身動きがない状態であった。

 

「なんだ…この穴は…」

 

ラーハルトはヒュンケルの目の前にある、底の見えない十字型の溝を避けて近づき、ヒュンケルの首に指を当てて脈を確認した。

 

(まずいぞ、脈が弱い…すぐに治療をしなくては!レグルス様!マァム!…誰でもいい!回復魔法が使える者はどこだ!!?)

 

ラーハルトはヒュンケルを運ぼうとしたが、魔剣の鎧が邪魔になった。そこで、先に鎧化を解除するために、魔剣をヒュンケルの近くまで運んだ。

 

「鎧が邪魔だ…アムド!!!」

 

ラーハルトが言葉を発すると、ヒュンケルがまとっていた鎧は魔剣の鞘に変化し、ラーハルトはその変化する魔剣の鞘を感心しながら見つめた。

 

「便利なものだな…俺もこのような槍が欲しいものだ…」

 

鎧を解除したヒュンケルの腹部の傷はかなり深く、ラーハルトは眉をひそめながら魔剣を腰に付けた。そして、腹の傷に触らないように気をつけながらヒュンケルを抱え、走り出した。

 

 

 

レグルスとクロコダインは氷魔塔があった場所を見ていると、突如として光の柱が上がった。その光景に、レグルス達は驚いて目を見開いた。

 

「な…なんだ!あの光は!!!」

「あの光は…闘気か!扱えるのはヒュンケルか、または敵の誰かが使用した…ヒュンケルが使用していたとしても…闘気の規模からして命が危ない!クロコダイン!私はあの光が上がった場所に向かう!!クロコダインはダイ達の元へ!」

「おう!ダイ達は任せろ!!!レグ!向かうならガルーダに乗っていけ!早く着くぞ!ガルーダ!頼んだ!!」

「クワッ!」

「感謝する!行くぞ!」

 

レグルスがガルーダの背中に乗ると、翼を広げて上昇を始め、光が上がった場所へ向かって飛び立った。その途中、なじみのある気配を感じ取り、レグルスは意識を集中した。

 

(ダイ、ポップ、マァムは無事の様だな…こちらは問題なかろう…私は私の出来ることをやる…ラーハルト、ヒュンケル…無事でいろよ!)

 

ダイ達の近くを通り過ぎる間、ラーハルトたちの安否を心配していたレグルスは、フレイザードの気配がないことに気付かなかった。さらに進むとラーハルトとヒュンケルの気配を感じ取り、レグルスは地面に指を差し示した。

 

「ガルーダ!あの辺りに着地せよ!」

「クワッ!」

 

地面に近づくとレグルスはガルーダから飛び降り、ラーハルトのもとに向かって駆け出した。

 

「ラーハルト!」

「!!レグルス様!」

 

レグルスはラーハルトの腕に抱えられたヒュンケルの腹部の深い傷と闘気量の少なさに顔を険しくした。

 

「治療を行う!ヒュンケルを地面に!」

「はっ!」

「ホイミ!」

 

地面に横たえたヒュンケルの傷に対し、レグルスは回復魔法をかけた。だが、ヒュンケルの腹部には4つの深い穴が開き、傷の内側は重度の火傷を負っていたため、この厳しい状況に、レグルスは眉をひそめた。

 

「レグルス様…ヒュンケルは…」

「……かなり厳しい…腹部の怪我だけでも命に関わる上に、傷口から炎を流し込まれている…あとはヒュンケルの生命力次第だが……くっ!ホイミだけでは時間がかかる!」

 

レグルスは治療を続けながら周囲の気配を探し、少し離れた場所に覚えのある気配を感じた。その気配を指差しながら、ラーハルトに指示を出した。

 

「ラーハルト!あちらにエイミ殿が居る!急いで連れてくるんだ!!!」

「はっ!ガルーダ!お前も来い!!!」

「クワッ!!!」

 

ラーハルトは駆け出し、ガルーダは飛行してエイミ達の元に向かった。

 

森の中、エイミは姉の治療を終えると、ぐったりしているマリンに心配そうに声をかけた。

 

「姉さん…怪我は大丈夫?」

「ええ…すごく良くなったわ。だけど、戦うのは無理そうね…魔力もあまりないし…」

「少し休んだ後、場所を移動しましょう…ここは人目につくわ」

「そうね」

 

話をしていたところ、茂みから魔族が飛び出してきたため、2人は驚いて目を見開いた。

 

「エイミッ!!!」

「あ…あなたは、さっき私達を助けてくれた…」

「俺と来い!!!」

「え?…きゃあ!!!」

 

ラーハルトはエイミを肩に担ぎ、来た道を走って戻った。

 

「エイミ!!?」

 

マリンは突然現れた魔族に妹を連れ去られ、慌てたが、ガルーダがマリンを捕まえて飛び立ったため、悲鳴を上げた。

 

「きゃああぁっ!下ろして!」

「クワッ!!!」

 

ガルーダはマリンの悲鳴を無視し、飛行してラーハルトの後を追った。一方、エイミは走るラーハルトの背中を叩きながら悲鳴を上げていた。

 

「いやあああっ!!!やめて!下ろして!」

「静かにしろ!お前には仲間の治療を頼みたい!危害を加えるつもりはないから大人しくしていろ!!!」

「違くて!…ス…スカート!スカートが捲れているの!!!」

「スカート?」

 

ラーハルトは視線を前方から横に向けると、エイミのスカートが風で捲れ、その下に白い物が見えたことで動揺した。ラーハルトは慌てずにエイミの衣服をそっと整えると、再び前を向いた。

 

「…………俺は、何も見ていない…」

「下ろしなさい!!!」

 

ラーハルトはエイミの声に耳を貸さず、走り続け、レグルスの側に到達すると、エイミを下ろした。

 

「来たか!」

「お連れしました!!!」

 

騒いでいたエイミは、怪我を負って倒れているヒュンケルに気付き、目を見開いて驚くと、慌てて彼のもとに駆け寄った。

 

「…酷い怪我!」

「エイミ殿!この者の治療をお願いしたい!」

「任せて!ベホイミ!」

 

レグルスが魔法を停止すると、エイミはすぐにヒュンケルに回復魔法を施した。治療を続けていたが、ラーハルトは依然として目を覚まさないヒュンケルを見て不安を感じ、エイミに話しかけた。

 

「どうだ!治りそうか?」

「……この人の怪我は酷いものよ…傷は深く、火傷も負っている…命があるのが不思議なくらいよ…」

「…助かったとしても、再び戦えるか…」

「そんな、馬鹿な…!何とかならないのか!!?」

「…」

「残念だけど…」

 

レグルスとエイミの険しい表情を見たラーハルトはショックを受けるが、すぐにヒュンケルを睨みつけると大声で呼びかけた。

 

「おい!ヒュンケル!目を覚ませ!まさかこんな所で死ぬ気か!!?お前はこれから多くの人を助けるのだろ!!!ここで死んだら不死身と名乗ったことを笑ってやるぞ!!!」

 

ラーハルトの呼びかけにヒュンケルは目を覚さない。

 

「起きろ!!!ヒュンケル!!!」

 

ヒュンケルは目を覚ました。

 

「うるさい奴だな…」

「えっ!!?」

「目を…覚ましたのか!?」

 

レグルスとエイミはヒュンケルが目を覚ました事に驚き、ラーハルトは嬉しそうに笑った。

 

「ヒュンケル!ハハハッ!やはりお前は不死身と呼ばれるに相応しい男よ!!!」

「くっ…!」

 

痛みに顔をしかめながら、ヒュンケルはゆっくりと上半身を起こしようとし、エイミは治療途中で動こうとするヒュンケルを慌てて止めに入った。

 

「まだ動かないで!治療は終わってないわ!」

「十分だ…!まだ戦いは終わっていない!すぐに次の戦場へ…ぐっ!」

 

上半身を起こし、立とうとしたヒュンケルの肩をラーハルトが上から押さえつけると、立ち上がれないようにした。

 

「動くな!ヒュンケル!」

「ラーハルト!何するっ…!手を離せ!」

「…お前が言っても聞かないからだろ!動きたければ動くがいい!…もっとも、動ければの話だがな!!!」

 

ヒュンケルは力づくで動こうとしたが、押さえつけるラーハルトの手は強く、びくともしなかった。レグルスはヒュンケルの聞く耳を持たない様子に眉を寄せると、厳しい言葉を口にした。

 

「ヒュンケル、エイミの治療を最後まで受けよ…怪我を放っておけば後に響く…我らと共に最後まで戦わないつもりか?」

「…」

 

レグルスとラーハルトの険しい表情にヒュンケルは少し動揺しつつも、困った表情をエイミに向けた。しかし、エイミも同じく険しい表情をすると、ヒュンケルを説得した。

 

「時間をかけるつもりはないわ…けれど、貴方が抵抗すれば時間はかかるでしょうね。大人しくして頂戴!」

 

ヒュンケルは周囲を見回し、3人を注視した後、小さくため息をついた。

 

「……分かった…治療を頼む!」

「ええ!任せて!」

 

エイミは笑顔を浮かべると治療を続けた。ヒュンケルを治療する間、ガルーダに運ばれていたマリンも合流した。

 

「…これで、大丈夫だと思うけど…傷は痛くないかしら?」

 

しばらくして回復魔法を止めたエイミは、傷口が塞がったヒュンケルの腹部を観察した後、彼に容態を確認した。

 

「大丈夫だ…痛みは無くなった、ありがとう」

「どういたしまして!」

 

ヒュンケルが治療を終えたエイミにお礼を述べると、彼女は喜んで笑顔を返した。

 

「よし!ダイ様の元へ行くぞ!」

「ああ」

 

ヒュンケルの治療が終わると、レグルスたちは急いでダイたちの元へ向かった。

 

「おっ!来るの遅かったな!」

 

ダイたちの元に到着すると、戦いは既に終わっていた。ポップは横になって休んでいたが、レグルスたちに気づくと、のんびりと手を上げ、声をかけた。

 

「…治療に時間をかけ過ぎたのではないか?」

「…かも、しれん」

 

ヒュンケルのつぶやきに、ラーハルトは小さな声で応えた。




以下は本編とは全く関係ない、あるキャラ同士の雑談です!

【バランと竜騎衆の雑談】
「うおおおおーん!!!」
「「………」」
「うっ…うっ……あ、あんまりだ!バラン様!俺のこと、あんなにボコるなんて…!この小説の俺、可哀想でしょ!ぜってぇ、トラウマになってるって…!せめて、もう少し優しく接してぐだざい〜!!!」
「ふん!自業自得だ!よりにもよってバラン様とダイ様にあのような事を言いおって…!命があるだけ感謝するのだな!」
「しかたねぇだろおおおお!!!この小説のバラン様、どう見ても人間の子供にしか見えねぇんだからよおおお!!!竜の騎士のこと知っていたならまだしも…しらねぇしよお!!!」
「…魔王軍内で、竜の騎士の話は出ていないのか?」
「一切、出ておりません!!!…てか、なんで俺だけ敵なんですか!?バラン様が人間側につくなら俺もセットでつけてくださいよ!!!」
「…無理があるだろ。この小説のバラン様は自身を人間の子供だと思っているのだぞ…?人間嫌いなお前がバラン様に忠誠を誓えるとは思えんな」
「そうだけどよお…!…てか、あいつはどこにいるんだ?この小説で名前すら出てねぇけど」
「俺のことか?」
ボラホーン登場。
「「ボラホーン!!!」」
「…来たか」
「グフフフッ!ここで俺が登場したということは…次ぐらいには出番がくるってことですかね!」
「「「………」」」
「な、なんでみんな黙っているんだ!?」
「魔王軍内でお前の名前、一切出てないぞ」
「勇者側でもお前の名は聞かんな…今後も登場しないのではないか?」
「そ、そんな…!また、俺だけ登場しないのか!?なんで俺だけこんなに除け者にされるんだ!?」
「ボラホーン、一つ聞く。お前は今何処にいる?」
「はっ!俺は北の海にいます!昼間は魚捕まえて食って、夜に寝る生活をしています!近くには…確か死の大地って名前の島があります!」
「…せめて地上に出て来いよ!海の中にいられたら、そりゃ名前すら出ねぇよ!」
「この様子では、今後も出ないのではないか?」
「ガーン!そんな…」
(……死の大地か)
「バラン様、どうなさいましたか?」
「いや…ボラホーン、かなり先になるだろうが…お前が登場する可能性はある」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ…登場自体は少ないが…」
「グフフフッ!登場するだけでも嬉しいので構いません!」
「…あまり期待しない方がいいと思うがな……竜騎衆よ、そろそろ時間だ」

バランは竜騎衆に声をかけると、ラーハルト、ガルダンディー、ボラホーンは頷いた。

「バラン様、次会った時はもう少し優しくお願いします!」
「ここでの会話は、本編に影響ない…諦めるんだな…」
「ううっ!なんでだよおおおっ!!!ちくしょおおおっ!!!バラン様見かけたら…全力で逃げてやるうううう!!!」
「お前は登場するだけマシだろ!俺なんかここに出るまで名前すらでなかったんだぞ!」
「俺は腕と翼を斬られたんだぞ!!!それがマシってか!?」
「お前たち、見苦しいぞ!」
「「優遇されているお前にだけは言われたくない!!!」」
「お前たち…思ったより仲良いな…では、解散!」

ボラホーンはちょい役として登場するかも。その場合は、中立の立場になるかな?

※誤字の報告ありがとうございます。内容を一部修正いたしました。
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