昨夜、寝てしまったポップを抱え先に寝室に向かったマァムだが、複数の扉がある廊下でどの部屋を使えばいいのかわからず、近くにいたパプニカの者に部屋の場所を尋ねた。
「この辺に休める場所があるとお聞きしたのですが…どの部屋を使っていいですか?」
「…おや?」
尋ねたられたパプニカの者はマァムと抱えられ寝ているポップをジロジロ見ると、何かを察し、部屋の一つを指した。
「ああ…そういうことかい。なら、あの部屋を使うといいよ」
「ありがとうございます!」
お礼を言ったマァムはポップを抱えながら扉を開け、中に入った。
「あら?…この部屋、ベッドが一つしかないわ」
部屋には机と椅子、大人二人が寝られる大きなベッドが一つしかなかった。しかし、2人で寝るなら問題ないと考えたマァムは、ベッドにポップを寝かせようとし、ポップの服が汚れていることに気づくと、服を脱がし始めた。
「せっかく用意してもらったベッドだもの、汚したら悪いわよね」
「すう…すう…」
ポップの服を脱がし、肌着だけにすると先にベッドに寝かせ、マァムも服を脱ぎ肌着だけになると汚れた服を椅子の背もたれにかけ、ポップの隣に横になった。
「お休み、ポップ…」
戦いの疲れもあり、マァムは目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。
朝、窓から差し込む朝日で眠りから覚めたポップは、何か柔らかいものに包まれ、いい匂いがしたため目を閉じたまま、深呼吸をしながらその感覚を楽しんでいた。
(あったけぇ…柔らかい…スーハー…スーハー…あ~いい匂い…この匂いどこかで……そうだ、この匂い…マァムの匂いだ!!!)
ポップの意識は一気に覚醒した。
(う、うおおおおぉおっ!!!なんだ!!?どういう状況だ!!?なんで俺はマァムと抱き合って同じベッドで寝ているんだ!!?夢か!!?夢だとしたらサイコーだな!!!)
ポップとマァムはベッドの上で向かい合って横向きに寝ており、マァムは腕をポップの背中に回し、密着した状態で眠っていた。肌着を身につけていたため、密着する部分では互いの体温や肌の触れ合いが感じられ、ポップは胸に当たる柔らかいものや、絡み合う足などを感じながら、全身でマァムを堪能し、興奮しつつも状況が理解できず、混乱していた。
(男女が同じベッドで朝を迎える…俺…記憶がないけどよぉ…もしかして、マァムと……いや、それはねぇな………いや、でも…ワンチャンありえ……ないな…マァムの性格だと寝ている俺にてぇださねぇだろ……俺としては手を出してくれてもいいけど…)
ポップは眠るマァムの顔を食い入るように見つめていると、その視線は自然と口元に移り、その柔らかそうな唇をじっと見つめた。
(今なら…マァムに気づかれず、キスできるんじゃねぇか!!?寝ている今がチャンスだ!)
ポップはドキドキしながら、徐々にマァムに顔を近づけた。
(大丈夫だ!マァムは起きねぇ!がんばれ俺!勇気を振り絞るんだぁ!!!)
ポップの胸にあるアバンのしるしが緑色に輝いた。その輝きはまるでポップを後押しするかのように光り輝いていたが、ポップはマァムの唇にしか目を向けておらず、しるしが輝いていたことには気づかなかった。
(あと…ちょっと…)
ポップとマァムの唇が触れる寸前、マァムの瞼が震えた。
「ん…?」
「!!!」
身じろぎをするなど覚醒の兆しが見えたため、ポップは慌てて顔をそらし、マァムが目を覚ます前にベッドから降りて部屋を飛び出した。
「あれ…ポップ?」
目を覚ましたマァムは、ベッドにポップがいないことに気づくと、体を起こして朝日が差し込む部屋の中をキョロキョロと見渡した。
(あっぶねぇ~!!!)
素足で部屋を飛び出したポップは、マァムがいる部屋に戻れないため、寝室の扉が並ぶ廊下をドキドキしながら歩いていた。
(いや~でも、もったいなかったな~…せっかくマァムとキスできるチャンスだったのに…はぁ…コソコソとキスしようとしたとラーハルトが知ったら…『男らしくないぞ!』とか言って怒りそうだな…)
ポップは考え事をしながら歩いていたため、前方に人がいることに気づかず、その存在に気づいたのは目の前まで近づいてからだった。人に気づいたポップが慌てて顔を上げると、驚いた表情のパプニカの者と目が合った。
「…」
「い、いや…その…こ、この格好は深い事情が…」
肌着姿のポップを見て驚いたパプニカの者だが、ポップが昨夜女性に抱えられていた人物だと気づくと、納得の表情を浮かべ、にっこり笑いながらポップにある言葉を贈った。
「昨夜はお楽しみでしたね」
ポップは何を言われたか理解できず、フリーズしていたが、次第にその意味を理解すると、顔を真っ赤にして大声を上げた。
「ち、ちちち違う!!!俺とマァムは、まだ何も起きちゃいねぇええええ!!!!」
ポップの大声が廊下や各部屋の内部にまで響き渡り、眠っていた多くの人々が驚いて目を覚ますと、部屋から出てきた。
「今の叫び声はなんだ?」
「なんか…ポップの声に聞こえたけど…」
部屋の一つからラーハルトとダイが現れ、ポップの肌着姿を見て驚き、ラーハルトは顔を険しくすると、ポップに近づき肩を掴んだ。
「ポップ!お前は服を着ず何をしている!?ここには女性もいる!風紀を乱すようなことをするな!!!」
「ち…違うって言っているだろ!!?こ…これには深い訳が…!」
ポップとラーハルトの周りには、何事かと興味津々なパプニカの兵士や魔法使いが集まり、騒動の様子を静かに伺っていた。夜明けを屋上で過ごしたレグルスは、階段を降りて騒動の中心にいるラーハルトとポップを横目で見ながら、状況を確認するためダイに近づいた。
「ダイ、おはよう」
「おはよう、レグ!」
「…ポップとラーハルトは何を騒いでいるのだ?」
「俺もよく分からなくて…俺たちポップの声で目が覚めたんだ」
ラーハルトは険しい表情でポップの二の腕を掴むと、有無を言わさず無理やり引っ張り出した。
「服を着ろ!お前の部屋は何処だ!?」
「い、嫌だね!俺は部屋には行かねえ!」
「部屋はあっちだよ」
昨夜、マァムに部屋を教えたパプニカの者が、ポップ達が寝ていた寝室を指差した。
「おい〜!!!勝手に教えるな!!!」
「あの部屋だな」
ラーハルトはポップの腕を掴みながら、部屋へ向かった。
「ま…待ってくれ!その部屋には―」
ラーハルトは扉の取っ手を掴んだ。
「マァムが…!!!」
扉を開けるとマァムが肌着姿で部屋の中央に立っており、扉を開けたラーハルトと目があった。
「!!!」
「えっ?ラーハル―」
ラーハルトは目にも止まらぬ速さで扉を閉め、取っ手を離すと唖然としながらゆっくりとポップを振り返った。
「…ポップ、お前…昨日見かけないと思っていたが…」
「ち、違う!俺とマァムは何もねぇ!!!ただ、寝ていただけだ!」
「…なら何故逃げる?逃げるのは、何かやましい事があるからではないのか?」
「うっ…そ、それは…」
ポップは朝、寝ているマァムにキスしようとしていたため、気まずくなり、ラーハルトから目を逸らした。
「…どちらにせよ、その格好で彷徨かれては困るからな」
ラーハルトは再び扉を開けると、ポップを部屋に押し込んだ。
「おわあぁあ!!!」
「さっさと着替えてこい!」
寝室の扉は大きな音を立てて閉じられ、ポップは恨めしそうに閉じた扉を見つめた。
「くそうっ!ラーハルトのやつ…!」
「ポップ、どうしたの?」
「!!マァム」
マァムは慌ただしく部屋に飛び込んできたポップをきょとんと見つめた。ポップはマァムの全身を頭から足先までジロジロ観察し、肌着から出ている足に鼻の下を伸ばすが、すぐに意識を切り替え、椅子にかかっている服を見た。
「え、えっとよお…俺、起きたら服着てなかったんだけどよ…マァムが、その…俺の服……脱がしたのか?」
「ええ!そうよ!」
「その…なんで、脱がしたんだ…?」
「ベッドが汚れちゃうからに決まってるでしょ!私達の服、だいぶ汚れてたし!」
「そ、そっか!そうだよな!ベッドを汚さないためだよな!…ハハハ!……はぁ…」
もしかしたら意識して服を脱がしたのではないかと、淡い期待を抱いていたポップは、マァムの返事にガックリして肩を落とした。マァムは椅子にかかっていた服を手に取り、身につけると、笑顔でポップに振り返った。
「お腹すいたわね!朝食は何かしら?ポップ、早く着替えて!行きましょ!」
「…先に行っててくれ、着替えたらすぐ行くからよ」
「分かったわ!じゃあ、後でね!」
「おう」
マァムが部屋から出るのをポップは笑顔で見送ったが、扉が閉まると、はぁと大きくため息をつき、先程まで寝ていたダブルベッドを見た。
「なんだよ…意識してるの、俺だけかよぉ〜…」
頭を抱えたポップは少しの間その場に留まっていたが、気持ちを切り替えると服を身につけ、マァムを追うため部屋を出た。部屋を出ると待ち構えていたラーハルトとダイ、そしてレグルスがポップに近づいた。
「ポップ!後で話を聞かせてもらうぞ!」
「お、おう…」
ラーハルトはポップの肩をまるで逃がさないように掴むと、楽しそうにニヤリと笑った。その後、ラーハルトたちはポップに何があったのか、根掘り葉掘り聞き出し、ポップは戸惑いながらも、出来事を説明した。
パプニカの人気のない海岸で、ダイとポップはそれぞれ修行に励んでいた。ポップはマトリフと1対1の魔法勝負を繰り広げており、その激しい戦いをマァムが岩の陰からこっそりと見守っていた。激しい攻防の末、ポップはマトリフの唱えた魔法を避けきれず、直撃を受けてしまった。
「おわあああっ!!!」
魔法使い同士の戦いで勝利したのはマトリフの方であった。ポップはマトリフの攻撃によって大きく弾き飛ばされ、浜辺に頭から突っ込んだ。起き上がったポップは口の中の砂を吐き出しながらマトリフを睨みつけた。
「べっ!ぺっ!くそう〜俺も結構強くなったと思ったんだがな〜」
「フン、舐めるなよ!俺は確かに100歳になろうかっていう年寄りだが…1分間でサシの勝負ならまだまだ魔法力においてこの地上の誰よりも負けねぇ自信があるんだ!」
「けっ!可愛げのねぇジジィ〜!!!」
マトリフが座り込んでいるポップに近づくと、ポップの服を掴み、マァムの故郷であるネイル村を思い浮かべた。
「次はルーラの修行だ!行くぞ」
「えっ!?どこに―」
「ルーラ!」
マトリフとポップはルーラで何処かへと飛び去っていった。一方、マァムはルーラの軌道を見上げながら、先ほどの戦いを振り返っていた。
(凄いわポップ…!新しい魔法も覚えて、どんどん上達して!……それに比べて、私は…)
マァムは落ち込みながらも場所を移動し、ダイ、レグルス、そしてラーハルトが修行している岩場に辿り着いた。レグルスとラーハルトは離れた場所で待機し、ダイは両手を前方に突き出して魔法を唱えた。
「バギ!」
両手から風が吹き出し、ダイの前方にあった枯草が空に舞い上がった。
「やったあ!バギを使えるようになったぞ!」
「おめでとうございます!ダイ様!」
新たな魔法が使えるようになったことでダイは喜び、ラーハルトも笑顔を浮かべて褒めた。続いてダイは剣を装備し、剣先に魔力を流し始めた。
「ようし!次はこれだ!バギ!」
剣に風が纏うと、ダイは剣を振り下ろし、技を繰り出した。
「はあああ!真空海波斬!!!」
風を纏った複数の斬撃が剣から放たれ、ダイは上手く技が発動したことに喜びの声を上げようとした。
「やったあ!これも、上手くい―」
「ダイ!伏せろ!!!」
「えっ?うわああっ!!!」
レグルスはダイに駆け寄り、手で背中を押すと、地面に体を押し付けた。その直後、頭上を斬撃が通り過ぎた。複数の斬撃は周囲の岩を切り刻みながら四方八方に飛び去り、切り裂かれた岩は音を立てながら地面に転がった。
「レグルス様!ダイ様!大丈夫でございますか!?」
駆け寄ったラーハルトは、2人を見つめながら心配そうに声をかけた。ダイは周囲に散らばる切り裂かれた岩を見つめ、唖然としながらも小さく頷いた。
「う、うん!大丈夫!…危なかったぁ…レグもありがとう!」
「怪我は、ないな…真空海波斬を使いこなすには早かったようだな…ダイ、まずはバギを使いこなすぞ」
「はい!」
ダイは剣をしまうと魔法の練習を始め、一連の流れを見ていたマァムは切断された複数の岩を見ると驚きつつも落ち込み、その場を離れた。
(凄いわ!ダイもどんどん強くなってる!……みんなは強くなっていってるのに…私は…)
マァムは仲間の顔を思い浮かべながら、それぞれの強みを一つずつ挙げていった。
(攻撃魔法はポップが…戦士だったらラーハルトとレグとダイがいる…回復魔法はレオナが……みんなそれぞれ強みがあるのに…私には強みがない…ダイとポップは上達して、先に進んでいるのに……このままじゃ、みんなの足手まといになってしまう…)
先程までポップ達がいた浜辺にマトリフがルーラで戻って来たが、マァムは考え事をしていたため、ルーラの着地音に気付かなかった。
(私には先生がくれた魔弾銃があるけど、これも誰かに魔法を込めてもらう必要がある…私の力じゃないわ…)
マァムは魔弾銃を手に取り眺めた後、ため息をついて懐にしまった。マトリフは音を立てないようにマァムの背後に回り、鼻の下を伸ばしながらゆっくりと近づいた。
(私だけの強み…私だけの力…!…そうよ、今の私にはそれが必要だわ!…でも、私だけの力って、何?………はっ!)
背中と胸に違和感を覚えたマァムが後ろを振り向くと、だらしない顔のマトリフが背後からマァムにセクハラをしていた。
「このおっ!!!」
マァムは顔を真っ赤にして怒るとマトリフの頭に肘打ちを素早く、そして思いっきり喰らわした。マトリフは顔面から地面に突っ込み、体を痙攣させながら、不満をモゴモゴと口走った。
「む…夢中になってて…避けられなかった…!まっ…まったくバカ力だけは親父のロカによくに似やがって…!!!」
地面から顔を上げたマトリフの顔は真っ赤に染まっていた。マトリフの言葉にハッと気づいたマァムは自分の手を見つめた。
(…力!!?…父さんゆずりの…力か…)
夜、ルーラでパプニカに戻ってきたポップはフラフラになりながらダイ達がいる部屋に入った。
「た、ただいま〜…つ、疲れた…」
「ポップ!お帰り!」
ポップの帰還に、ダイとマァムが笑顔を浮かべて駆け寄った。
「お帰り、ポップ!すっごいボロボロじゃない!よほど大変な修行だったのね…ベホイミ!」
マァムがポップの腕に触れ、回復呪文をかけると、癒しの力が体全体に伝わり、ポップは気持ち良さそうに目を細めた。
「あ〜、癒される………なあ、聞いてくれよ!ルーラを覚えるための訓練をしたんだけどよ…あのじいさんの修行、めちゃくちゃだ!俺と岩をロープで縛って水に沈めるし!魔の森に置いていくし!!!」
「ほんと大変だったわね…」
マトリフの修行内容を聞いて、マァムは頬を引き攣らせた。
「本当に大変だった!なぁ、俺頑張っただろ!?マァム〜!」
「はいはい、ポップは頑張った!凄いわ!」
ポップはどさくさに紛れてマァムに抱き付き、マァムはそのまま治療しながらポップの背中をポンポンと叩いた。
レグルスとラーハルトはポップ達に近づき、ここに到着した状況からルーラを獲得したと考えながら治療を受けているポップに話しかけた。
「ルーラは獲得したのだろう?」
ポップはニッと笑い、自信に満ちた表情で親指を上げた。
「おうバッチリだぜ!これで、俺が行ったことある場所はいつでも行ける!!!」
「流石だな…ならテラン、ベンガーナ、アルキード、ロモス、パプニカには移動可能というわけか…行動範囲が広がったな」
「魔王軍の襲撃を聞いたら直ぐに駆けつけられるね!」
「ああ」
ポップはマァムに抱きつきながら、眠気が襲ってきたため、欠伸をして眠たそうな表情を浮かべた。
「…俺、今日は早く寝るわ…疲れたしよ…」
「そうだね、そろそろ寝る準備しよっか!」
ダイ、レグルス、ラーハルトはその場を離れて就寝の準備を始めた。ポップもマァムから体を離すと、お礼を伝えた。
「マァム、おかげで疲れが取れたぜ!サンキューな!」
「ええ!」
マァムはポップのお礼に笑顔を浮かべたが、やがて眉を寄せ、何か悲しげな表情を浮かべた。
(マァム…?)
ポップはマァムの表情の変化に気付くと、心配そうに声をかけた。
「どうしたマァム、何か悩み事でもあるのか?」
「……ねぇ、ポップ」
「なんだ?」
「この後、時間をくれる?話したいことがあるの…」
「いいぜ!ここで聞くか?」
「ここじゃ、ちょっと…部屋で話しましょ、ついて来て」
「おう!」
2人は立ち上がり、マァムの寝室に向かった。その様子を見ていたラーハルトはマァムの行動に疑問を感じた。
(マァム…?ポップを部屋に連れ込んで何を?……!!まさか…!)
「ラーハルト?どうした?」
「いえ!なんでもありません!…ポップですが…もしかしたら、今夜、こちらには戻らないかもしれません」
「そうなの?」
「我々は先に休みましょう!」
「?」
ダイとレグルスは不思議そうにラーハルトを見ていたが、ラーハルトは笑って誤魔化し、心の中でポップにエールを送った。
(ポップ、頑張れよ!時には勢いも大事だぞ!……ヒュンケルには悪いが…あいつにはそのうち失恋の愚痴でも聞いてやるか!)
遠く離れた地でヒュンケルがくしゃみをしたが、当然ラーハルトは知る由もなかった。
マァムが泊まっている寝室で、2人は椅子に座り、用意された飲み物を口にすると、ポップから話を切り出した。
「んで、話したい事ってなんだ?」
「ポップは凄いよね…魔法の使い方も上手いし…作戦を練るのも…私のことも守ってくれるし…」
「お、おう?…まぁな!このポップ様にかかれば敵を倒すのも、おめぇを守るのも、朝飯前よ!」
マァムの発言に違和感を抱きつつも、褒められたポップは照れながら調子のいいことを口にした。すると、マァムはポップの様子に微笑みながら、少し俯いて表情に影を浮かべた。
「…マァム?」
ポップはマァムのいつもと違う様子に疑問を持ちながら話しかけた。
「……あのね…私…最近ずっと考えてたのだけれど…………しばらく…みんなと別れようと思うの…」
「……え、ええええっ!!?」
驚きの余り、ポップは立ち上がると、両手で力強く机を叩いた。
「な、なんでだよ!!?どうして急に別れるだなんて…!!」
「私…思ったの…このままじゃ、足手まといになっちゃうって…戦士ならラーハルトとレグとダイがいる…回復魔法だってレオナのほうがずっと上手いわ…」
「足手まといだなんて…!そんなことねぇよ!マァムの回復魔法に俺は何回も助けられた!そ…それに俺は、マァムと一緒に…!」
「ポップ…ありがとう…でも、もしこの先、私の力不足のせいで…ポップが怪我したらと、思ったら……きっと後悔するわ…」
「…マァム」
「だからね」
俯いていたマァムは顔を上げると、ポップに向けて笑顔を浮かべた。
「私、武闘家になろうかなって思ってるの!」
「ぶ、武闘家!?」
「そう!ロモスに武術の神様がいるんですって!その人の所に弟子入りするの!」
ポップは動揺しつつも、マァムと別れたくない気持ちから、何とか彼女を引き止めようとした。
「…なあ、もう決めた事なのか?格闘ならレグもすげーから、あいつに教えてもらえばいいんだよ!…なっ?…そうすれば、別れる必要はない!一緒にいれるだろ!」
「もう決めたことよ…それに、レグったらダイに付きっきりじゃない!!これ以上、負担はかけられないわ!」
「……そっか…意思は、変わらねえんだな?」
「ええ…」
マァムと別れることになり、ポップは意気消沈となったが、考えを切り替えると、無理やり笑顔を浮かべた。
「……分かったよ!なら、ロモス行く時は俺に言えよな!ルーラで送ってやるからよ!」
「ええ!お願いするわ!送ってもらう時、一ヶ所寄りたい所があるの…それもいいかしら?」
「おう!お安い御用さ!」
互いに笑顔でやり取りをしていたが、ポップが眠そうに欠伸をすると、マァムが席を立った。
「ポップ、疲れたでしょ?そろそろ戻ったほうがいいわ…今日はありがとう!」
「なぁに、いいって事よ!…何か困った事があれば俺に言えよな!いつでも相談に乗るからよ!」
「ええ!」
ポップは部屋を出るため取っ手を掴んだが、ちょっとからかってやろうと考え、ニヤッと笑ってから振り向いた。
「しっかし、武闘家かぁ…マァム、おめぇ…俺達と再会した時、ムキムキのあばれザルになってるんじゃねぇか?」
マァムは驚いて目を見開いた。
「あ…あばれザル!!?」
「今でもそれっぽいんだからよぉ…!次会った時、マァムと分かんねぇかもな!」
「な、なんですってえええ!!!」
「にしししっ!なんてな、じょうだ―」
「ええ、いいわよ!あばれザルでも、なんでも、なってやるわよ!!!」
マァムはキッとポップを睨みつけた。
「強くなって、それで…好きな人を守れるのなら…!」
「えっ?」
「あっ!」
ポップはマァムの好きな人発言に驚き、口を開けて唖然とした。一方、マァムは失言したことに気付くと、慌てて口を両手で押さえた。
「マァム…おめぇ、好きな人がい―」
「ポップ!じゃあね!お休み!」
マァムは扉を開けると、ポップを部屋の外に追い出した。
「…は?」
ポップは目の前で閉じられた扉を唖然と見つめた。
「マァムが強くなりたいのは…好きな人を守りたいから……は?」
愕然としながら、ポップはマァムの発言を思い返した。
「好きな人…好きな人…マァムに好きな人が居たのか…」
混乱したポップは頭を抱えた。
「………誰だ、そいつはあああぁあ!!!」
ポップの絶叫が廊下に響き渡った。
寝室にいたダイ、レグルス、そしてラーハルトは、それぞれ寝る準備をしていた。そのとき、ドアが開いたので、全員がそちらに視線を向けると、マァムの寝室に行っていたポップが部屋に戻ってきた。
「戻ったか」
「ポップ、お帰り!」
「…なんだ、もう帰って来たのか?」
「……ああ」
ダイは笑顔を浮かべ、一方でラーハルトはすぐに戻ってきたことを残念に思っていた。しかし、帰ってきたポップの表情が暗いことに気付くと、ダイが心配して声をかけた。
「ポップ?どうしたの?」
「…」
「ポップ?」
「……マァムが…」
「…マァムと何かあったのか?」
扉の前で立ち止まり、俯いて暗い表情をするポップに心配して、ダイ達が周りに集まった。
「マァムが…」
顔を上げたポップは悲痛そうに顔を歪めながら、いつも元気なポップらしくない小さな声で発言した。
「マァムが………俺と、別れるって…」
「!?!?!?」
「「?」」
思いがけない発言にラーハルトは驚愕し、一方、ダイとレグルスは意味を理解できず、首を傾げた。
「なっ!別れる…!?いつの間にお前達、付き合って……い、いや、それより…ポップ!お前は別れたいと言ったマァムを引き留めなかったのか!!?」
ラーハルトは少し混乱しながらも、ポップの肩を揺さぶり、ポップは少しムッとしながら、ラーハルトに言い返した。
「……言ったさ!!!一緒に居たいって!!!俺だって本当はマァムと別れたくない!!!………けど…あいつの意志は固かった…」
「…!」
「マァムは…前に進もうとしている…そんなあいつの気持ちを…俺は…大事にしたい……だから、俺は……あいつを笑顔で送り出すことにしたんだ…」
「…ポップ…」
俯いたポップは、ラーハルト達の横を通り過ぎると、自身が使用しているベッドに向かった。
「今日は…疲れた……詳しくは明日話すからよぉ……今は、休ませてくれ」
「あ、ああ…引き留めて悪かったな…お休み、ポップ…」
「お休み…」
ポップはベッドに入ると、頭の中でマァムの発言がずっと繰り返され、落ち込んでいた。
(マァムの好きな奴って、一体誰だ……)
しばらくすると、ポップから寝息が聞こえ、ラーハルト達は離れた場所で集まり、彼を起こさないように小声で話し始めた。
「ラーハルト…先ほどの会話が理解出来なかったのだが…なぜ、ポップはあれほど落ち込んでいるのだ?マァムと何があった?」
「あんなに落ち込んだポップ見るの…俺、初めてだよ…」
「…恐らくですが、ポップとマァム…2人は今まで付き合っていたのだと思われます」
ダイとレグルスは思いがけない言葉に驚いて目を見開いた。
「えっ!?ポップとマァムって、付き合ってたの!?気づかなかった…」
「私も、気づかなかった…」
「俺もポップの発言で知りました…会話から2人は付き合っていたようですが、先程、別れたと…ポップが元気ないのはマァムと別れた事が原因かと」
「そんな!…せっかく付き合ってたのに!…ポップ、マァムのこと…好きなのに…」
ポップがマァムの事を好きだという事実に、レグルスは驚いた。
「!…そうなのか?ポップはマァムの事を…好きだったのか?」
「うん、ポップ、マァムのことよく見ていたから…」
(…そうなのか…見ていたのには気づいていたが…てっきり、足の筋肉を見ているのだと…)
「マァムもポップが好きな様子だったのですが…何故、両想いの2人が別れたのか…俺には分からないです…」
マァムがポップを好きだという事実にレグルスとダイは驚いた。
「えっ!?マァム、ポップのこと好きなの!?」
「はい…マァムはポップの側に居ることを自ら選択する事が多かったです…それに、ポップがエイミ殿に鼻の下を伸ばした際、とても怒っていました。間違いないかと」
「気づかなかった…」
「私もだ…」
3人は眠っているポップに視線を向けると、先ほどの元気がない姿を思い浮かべた。
「ねぇ、ポップのために何か出来ないかな?ポップには元気になってほしいな!」
ダイが明るく発言し、レグルスとラーハルトは頷くことでダイに賛同した。
「そうだな…ポップが暗いとこちらまで調子が狂う」
「でしたら!日程を決めて、みんなで出かけますか?城下町は復興中ですが、周辺の海辺や岬は問題ないのではないでしょうか?」
「わあっ!いいね!」
「あとは美味しいものでも用意するか…復興中のパプニカに負担がないよう、周囲の森や海から食材を調達して―」
ポップが気づかないうちに、彼を元気付けるための話し合いが続けられ、夜は更けていった。
翌朝、ポップから話を聞き、勘違いに気付いたダイ達は『失恋したポップを元気にする会』から『マァムの送別会』に切り替え、準備を進めた。
後日、ダイがレオナを誘い、マァムも含めてみんなで出かけ、海辺を散策したり、用意した食材で美味しい料理を作り、飲んだり、食べたりして楽しく過ごした。
「今日は楽しかったわね!ポップ!」
夕日に照らされた海岸で、マァムは笑顔を浮かべながらポップに笑いかけた。
「おう!飯も美味かったし、海は綺麗だしな!」
「ええ!…ポップは以前、魔王軍に襲撃される前のパプニカに来た事があったんでしょ?」
「あるぜ!あの頃は街中にも観光地があってよ、見所が沢山あったな…」
「そうなのね…いつか見てみたいわ。パプニカが以前の活気ある街に戻ればいいけど…」
「なるさ!俺達が魔王軍を倒せば、時間はかかるかもだけど…また、活気のある街に!」
「…ええ!そうね!私達で平和を取り戻しましょ!」
「おう!」
ポップはチラッと海を眺めるマァムの横顔を盗み見ると、緊張で唾を飲み込んだ。
(い…言うんだ!…俺!マァムと2人きりで、また、ここに来たいと…!…でも…マァムには好きな奴がいる…もし、断られたら……ええい!頑張れ、俺!勢いで誘うんだ!!!)
深呼吸をしたポップは、体をマァムに向け、緊張でどもりながら言葉を紡いだ。
「マ…マ…マァム!えっとよぉ…世界が和平になって…パプニカが復興したら…その…また、ここに来ないか?…………みんなで…」
「ポップ…ええ!またみんなでここに遊びに来ましょ!」
「あ…ああ…みんなで来ような……」
ポップは表面上、笑顔を浮かべていたが、内心では自分の不甲斐なさに対して怒りを感じていた。
(俺の馬鹿野郎〜っ!!!マァムに好きな奴がいるから…断られると思ったら…言えなかった…)
気持ちを伝えることができなかったポップは、落ち込んで肩を落とした。
少し離れた岩場では魔法で姿を隠したダイ、レオナ、レグルス、ラーハルトの4人が、ポップとマァムの様子を観察していた。
「もう!なんでそこは『2人でパプニカに来ないか』、と誘えないのよ!せっかく2人っきりにしたのにぃ〜!!!」
「ポップ!そこは勢いに任せて誘え!!!この機会を逃すな!!!」
「ポップ、頑張れ!」
少し離れた場所からレオナとラーハルトの叫び声、ダイの声援が響いていたが、波の音に掻き消されたことでポップとマァムの耳には届かなかった。
「ねえ…ポップ…」
「…ん?…なんだ?」
落ち込んでいたポップが声をかけられたことで顔を上げると、マァムが落ち着かない様子でポップをチラチラと見てきた。
「みんなともここに来たいけど…えっと…私、ポップともここに来たいなぁ〜…って思っているの………その…どうかしら?」
恥ずかしがっている様子のマァムに、ポップは希望を見出し、目を見開いた。
「!!!えっ…!それって…まさか…その、…俺と…2人で…?」
「……うん!ポップと、2人で…」
ポップはマァムから誘われ、2人で一緒に遊びに行く約束を取り付けることができた。その事実に、喜びと緊張と期待が胸に入り混じり、ポップは次へ期待しながらマァムに笑顔を浮かべた。
「!!!お、おお、おう!もちろんだ!一緒に、2人で来ようぜ!美味しいもの食べて!パプニカ中を巡って!次来た時も、楽しい旅にしようぜ!!!」
マァムは誘った後、もしポップに断られたらどうしようかと心配していた。しかし、ポップが喜んでいる様子を見て、安心したマァムは笑顔を浮かべた。
「!!…ええ!!!ポップと一緒ならきっと楽しい旅になるわ!」
「よし!!!」
ポップは喜びのあまりガッツポーズを決めた。2人は隣り合ってしばらく夕日を見ていたが、暗くなってくるとマァムが話しかけた。
「もうじき、暗くなるわね…」
「………んじゃ、そろそろ戻るか!おめぇも明日の準備があるだろ?」
「そうね…ポップ、今日は楽しかったわ!」
「おう!俺も楽しかったぜ!また、来ような!」
「ええ!」
ポップとマァムは嬉しそうに笑い合うと、宿として使用している建物へ向かって移動した。
しばらくして、レムオルで姿を消していたダイ、レグルス、ラーハルト、レオナは海岸に姿を現すと、遠く離れていくポップとマァムの背中を見つめた。
「きゃあ〜〜!やるじゃないマァム!よく誘ったわ!!!」
「よし!これで!一歩前進だ!」
レオナは楽しそうに手を頬に当て、ラーハルトは握り拳を作り、小さくガッツポーズを決めた。
「次は2人が付き合うように上手くやらなきゃ!」
「流石に直近は厳しいのでは?マァムも明日にはロモスに行きますので…」
「だからこそよ!明日、パーティを抜けるタイミングなら告白もしやすいでしょ!!!」
「なるほど…その通りですね!」
ポップとマァムをくっつけるためにレオナとラーハルトが話し合っているのを見たレグルスは、介入しすぎではないかと感じ、苦言を呈した。
「…レオナ、ラーハルト、2人の恋は当人に任せたら良いのではないか?互いに想いあっているなら、何もしなくとも自然とくっつくと思うが…」
ダイはレグルスの意見に同意し、頷いた。
「俺もそう思うよ…俺たちは2人を見守ろうよ!」
「甘いわ!」
レオナは顔を険しくして、レグルスとダイにビシッと指を指した。
「ダイ君もレグ君も考えが甘いわ!!!何もせずほっといたら、何か月経っても…1年経っても2人が付き合うことはない!!!こっちから介入するべきよ!!!」
ダイとレグルスはレオナの気迫にたじろいでいると、ラーハルトは頷き、レオナの意見に賛同した。
「…レグルス様とダイ様には申し訳ありませんが…俺もレオナ姫と同意見です!2人の性格上、告白に至るには時間を要するかと…」
「…私はね、2人には幸せになってほしいの…互いに想いあっても結ばれない悲しい結果にならないよう…可能な限り手を貸したいのよ…」
「……その真意は?」
レグルスに尋ねられたレオナは、楽しそうにニコッと笑みを深くした。
「うふふ!2人をくっつけるなんて、とっても面白そうじゃない!」
「レオナ…やっぱり楽しんでいたんだね…」
楽しそうにしているレオナに対し、ダイとレグルスは呆れて、ジト目で彼女を見た。
「さあ!明日には2人をくっつけるわよ!みんな!これから作戦会議よ!」
「はっ!」
「……我らも参加なのだろうか?」
「じゃないかな…」
その夜、屋敷の一角で女王主催の会議が行われた。乗り気なレオナとラーハルトに対し、渋々会議に参加するダイとレグルスの姿があった。
原作を読んで思ったこと、ポップとマァムは早くくっつけ!
この小説は基本的に冒険ファンタジー小説ですが、恋愛要素も含まれているので、公式のカップリングは書こうかなと思っています!ただし、メルルに関しては原作とは異なります。
報告:誤字脱字修正しました!報告ありがとうございます。