ダイの大冒険 ―次世代の竜の騎士ー   作:キャットテールの鈴

43 / 62
魔王軍の本拠地である消えた鬼岩城の足跡を追って移動していたヒュンケルは、途中でカール王国が襲撃されているとの話を耳にする。

スピンオフ『勇者アバンと獄炎の魔王』のネタがあります!


42_カール王国編_魔影軍団の包囲網

ヒュンケルは、魔王軍の本拠地である消えた鬼岩城の足跡を追って移動し、ギルドメイン大陸の北西海岸に到達した。足跡はこの地で途切れ、目前の海を越えた向こう側には、不気味な島が広がっていた。

 

(…死の大地か…この場所で鬼岩城の足跡は途絶えている。奴らが向かった大魔王バーンがいる魔王軍の総本山は…恐らく…)

 

海の向こうにある死の大地を眺めていた時、突然、背後から人々の悲鳴が聞こえてきた。ヒュンケルはその音に振り向き、警戒態勢をとった。

 

「きゃあああ!」

「て、敵だー!」

「武器を取れ!」

「!!…この声は…」

 

ヒュンケルは魔剣を手に取り、表情を険しくすると、戦いの音が響く場所へと駆け出した。

 

「子供を守れ!」

「魔王軍め!こんな所まで追ってきた!」

 

ヒュンケルが到着すると、そこには男女10人程の人々が、モンスターのさまよう鎧やあやしい影と戦いを繰り広げていた。大人たちは身を挺して子供たちを守るために立ち向かっており、背後には馬車が停まっていた。その中には数人の子供たちが怯えながらも互いにしがみついて、外の様子を見守っていた。

 

「ケケケッ!」

「子供達に近づかないで!メラッ!」

「くそっ!このままじゃ…!」

 

人々は剣や魔法でモンスターと必死に応戦していたが、大人たちの動きは素人であり、戦局が明らかにヒュンケルの目から見て人間側に有利な状況ではなかった。

 

(モンスターの構成はさまよう鎧にあやしい影…ミストバーンの魔影軍団か…)

「うわあぁあ!!!」

 

さまよう鎧が剣を振り上げ、1人の男性に向かって剣を振り下ろした。

 

「海波斬!」

 

敵の振り下ろされた剣が男性に落ちる、その前に、ヒュンケルが素早い斬撃を放つと、さまよう鎧はバラバラになって地面に転がり、その脅威を失った。

 

「えっ…?」

 

男性が、何が起きたか理解する前に、ヒュンケルは一目散に駆け出し、その場にいたモンスターを全て倒した。大人たちは先程まで苦戦していたモンスターがヒュンケルの手によってあっという間に倒されていくのを唖然と眺めていた。

 

「…無事か?」

 

敵を倒したヒュンケルが声をかけると、大人たちは安堵の表情で息をつき、馬車にいた子供たちは自分たちを救ってくれた戦士の姿をキラキラした目で見つめた。

 

「助けていただき、ありがとうございます!」

「…お前達は何処から来た?モンスターが彷徨っているなか、子供を連れて移動など危険すぎる…」

「わ、私達はカールの外れの村から来たのです!」

「魔王軍が国を襲って…!村にもモンスターがやって来て、一時的に避難するためサババに行く途中だったんだ!」

「サババ?」

「この近くにある漁港の町です!」

 

村人の1人が指差した先を見たヒュンケルは、近くに町があることを思い出し、頷いた。

 

「分かった…ならこの先は自分達で行けるな?」

「大丈夫だ!サババはここから近い、俺たちだけで行ける!助けてくれてありがとう!」

 

村人達は準備を整えると、サババに向かって出発した。大人達は感謝の意を込めお辞儀をし、進み始めた馬車の中では子供達が笑顔でヒュンケルに向かって手を振った。

 

「バイバイ!」

 

ヒュンケルは小さく頷く事で返事をし、村人達を見送ると体を南に向けた。

 

「カール王国…確か、ミストバーンが担当していたな………あの人の故郷だ、様子を見るか…」

 

少し迷った後、ヒュンケルはアバンの故郷であるカール王国に向かって歩き出した。

 

 

 

カール王国はギルドメイン大陸の西方に位置する五大王国の一つであり、世界最強とうたわれるカール騎士団を擁している。かつて、この騎士団には勇者アバンや、当時の騎士団長でありマァムの父親であるロカも所属しており、彼らは魔王軍の襲撃を何度も防いだ実績がある。カール王国の南は海に面しており、東には少し離れているがテラン王国が隣接している。

 

魔王軍による世界各国への侵攻以降、カール王国は魔王軍魔影軍団の襲撃を受けた。当初は、カール騎士団の活躍により多くの敵を倒し、かなり善戦していた。

 

「こっちだ!ここなら敵は来ない!」

「人々を安全な場所へ誘導せよ!モンスターは城へ近寄らせるな!!!」

 

しかし、ここ数日、騎士団を手強しと見た魔影軍団は作戦を変え、王国周辺の村々に襲い掛かるようになった。襲撃を受けた人々は城へ避難してきたため、騎士団は彼らを城塞内へ案内し始めた。結果として、城塞内は避難してきた多くの人々であふれかえっていた。

 

「ホルキンス団長!報告したいことがございます!」

 

騎士団長ホルキンスに一人の騎士が駆け寄り、険しい表情で報告を行おうとしていた。その騎士はホルキンスの弟であり、敵の状況、避難民の数、そして物資の数を把握したことで、魔王軍の狙いに気づき表情を固くしていた。弟の並々ならぬ様子にホルキンスも気づき、顔をしかめた。

 

「聞こう!まずは敵の状況は?」

「はい!魔王軍は現在、この城塞の周囲を囲んでおります…襲ってくる様子はなく、こちらから打って出ると敵は我々から逃げるように離れていきます。ですが…城塞からかなりの距離を離れますと一気に襲い掛かり攻撃を仕掛けてきます!そのため、確認を行った一部の騎士に怪我人が出ております…」

「敵は城塞を囲み積極的に攻撃しない…次に避難民について」

「はい!魔王軍は周辺の村や町を襲撃、多くの人々がこの城塞に避難してきております。ただ、気になることが…」

「気になること?」

「避難してきた多くの人々はあまり怪我をしていなかったのです…城塞を敵が囲んでいたにもかかわらず、です…敵はわざと城塞に人々を追い立てたとしか思えません…」

 

ホルキンスとその弟は周囲を見渡し、避難民の様子を確認した。避難民の多くは非戦闘員であったが、ほとんど怪我をしておらず、城の者から貰った食べ物で食事をしていた。

 

「また、食料の備蓄ですが…避難民がこれだけ増えますと4日が限度かと…」

「敵の構成は影の騎士にあやしい影、さまようヨロイ、ガスト…どれも食料を必要としないモンスター…敵の狙いは恐らく兵糧攻め。時間経過でこちらの食料が尽きるのを待っているのだろう…!避難民をこの城塞に追い立てたのも食料の消費を早めるためだ…!」

「くそっ!こちらの戦力が強いとみて食料を消耗させる作戦に切り替えるとは…なんて卑怯な!」

「俺はフローラ様に報告してくる!何か変化があれば知らせるように!」

「はい!」

 

ホルキンスは弟と別れると、すぐに女王や家臣がいる城内へと向かった。

 

(ケケケッ!)

 

その様子を、避難民の影に隠れ潜んでいたシャドーが笑いながら見ていた。

 

(人間の影に俺たちが隠れているなど思いもしないだろう!ミストバーン様にこの現場を任された以上、確実に任務を遂行せねば!)

 

シャドーは人間の影から建物の影に移動し、誰にも気づかれることなく城内へ侵入した。

 

玉座の間に到着した騎士団長ホルキンスは、玉座に座る女王フローラに敵の狙いについて報告し、今後の作戦について話し合うため、女王フローラ、そして騎士団長ホルキンスと家臣を交えた作戦会議が開かれた。

 

「よ…4日しか食料が持たないなら…今すぐにでも敵の包囲網を崩すしかないではないか!」

 

食料が4日分しか持たないと聞いた家臣は焦った様子で進言し、それに同調するようにホルキンスも頷いた。

 

「私も同じ考えですが、一つ問題が…」

「なんじゃ?」

「包囲網を崩されるのを敵は当然阻止してくるため、包囲網を突破する際には私が出撃することになります。ただ…その分、城塞の守りが薄くなるため、ここに敵が攻めてくる可能性が高いです」

「…騎士ホルキンスがこの城に残るのはどうじゃ?お主にはフローラ様をお守りして―」

「いいえ、包囲網の突破にはホルキンスを向かわせます」

 

家臣とホルキンスが会話をしていると、沈黙を保っていた女王フローラが玉座より発言した。彼女の言葉にホルキンスは驚きながらも、女王を見つめた。

 

「包囲網突破に失敗すれば…どのみち、我らに未来はありません!ならば…包囲網を突破し、外側から敵を叩きましょう!そして…その役目は我が国、最強の騎士ホルキンスを指名します!…ホルキンス、よろしいわね?」

 

女王からの勅命を受け、ホルキンスはその場に素早く膝をつき、首を垂れた。

 

「はっ!そのお役目…このホルキンスが命にかえても遂行いたします!」

「あなたなら必ず成し遂げてくれると信じているわ」

 

家臣も女王フローラに対して首を垂れ、了承の意を示した。

 

「フローラ様、承知しました!では、騎士ホルキンスよ!包囲網突破の指揮はお主に任せる!その間の城塞内の指揮は…お主の弟がよいじゃろう!」

「はっ!弟には私から伝えさせていただきます!」

 

その後も詳細な話し合いが行われ、ホルキンスが準備のために玉座の間から退出すると、フローラは小さく息を吐き、椅子に背中を預けた。目を閉じると、この国をかつて救った勇者の姿を思い描いた。

 

(アバン…あなたは今、何処にいるの…?あなたの事だから、きっと魔王軍と戦っているのでしょうけど…お願いだから、無事でいて…)

 

魔王軍の襲撃後、一度も姿を現さない思い人に対して、フローラは不安を感じながらも、世界のどこかで魔王軍と戦っているのだという希望も抱いていた。

 

 

 

騎士団長ホルキンスは騎士団の半数と共に出発するため、城塞の東門に集まった。一方、城塞内の騎士団の指揮を任された弟は兄の出発を見送るために駆けつけていた。

 

「俺たちがここを出たらすぐに門を閉めよ!城塞から離れると敵は手薄となった警備の隙をついてここき攻めてくるだろう…その時は…」

「はい!ここの警備は俺たちに任せて下さい!なんとしても守り通します!」

「…任せた!」

 

ホルキンスは弟との挨拶を交わした後、彼から離れて門扉の前に移動した。

 

「門を開けよ!」

「はっ!門を開けろー!」

 

指示を受け、頑丈な門がゆっくりと開き、ある程度の隙間ができると、ホルキンスが剣を掲げた。

 

「…皆の者!行くぞ!」

「うおおおお!!!」

 

ホルキンスおよび騎士団の一団は東門から城塞の外へと、城下町へ向かって駆け出した。騎士の一団が門から全員出た後、敵の侵入を防ぐため、門は素早く閉じられた。

 

(兄さん…気をつけて…)

 

城塞内の警備を任されたホルキンスの弟は、兄の安全を願いつつも意識を切り替え、他の騎士に指示を出した。

 

「敵は手薄となったこの城塞内へ攻撃をしてくるだろう!皆、準備を進めよ!」

「はっ!」

 

城塞内では指揮官の指示のもと、残った半数の騎士が敵の襲撃に備え準備を進めた。

 

 

 

ホルキンスは包囲網の外に出るため、モンスターが跋扈する城下町を騎士団と共に駆け抜けていた。通り過ぎる間、敵は攻撃することなく道を開け、ただ、騎士団を眺めていた。その様子に騎士たちは怪しいと感じながらも、警戒心を抱きながら進んでいった。

 

「敵が攻撃して来ない…?」

「…タイミングを待っているのだ…俺たちが包囲網の外側に辿り着く、その時を…!」

 

一団が包囲網の外側にもうじき辿り着こうとしていたそのとき、傍観していた敵が突然動き出し、騎士たちに攻撃を仕掛けてきた。

 

「ケケケッ!」

「攻撃!側面から敵の攻撃!」

「反対側からもだ!」

 

敵は騎士団の両側から攻撃を仕掛け、挟撃を受けた騎士団は歩みを遅くし、敵との交戦を始めた。

 

「進め!!!包囲網の外まで移動しろ!止まれば命はないぞ!!!」

「はっ!!!」

 

ホルキンスは包囲網の外側に向かって敵を倒しながら進み続け、騎士団もホルキンスの後を追いながら、側面からの敵と戦い続けた。

 

「もうじき…包囲網の外に辿り着く!」

 

一団が包囲網の外に辿り着こうとしたその時、側面の敵の集団から巨大な鎧の敵が現れ、ホルキンスに向かって猛スピードで突進してきた。

 

「なっ!!!」

 

ホルキンスは咄嗟に剣を構えて防御したが、巨大な金属の塊が猛スピードで激突し、ホルキンスは勢いを殺し切れず、大きく吹っ飛んだ。

 

「だ…団長!!?」

「なんだ!あの巨大な鎧のモンスターは!?見たことない奴だ…!」

 

騎士たちは最強とうたわれたホルキンスが吹き飛ばされるのを驚愕した後、巨大な鎧の敵を警戒し、冷や汗をかきながら見上げた。その巨大な鎧の正体は、魔影軍団最強の鎧であるデッド・アーマーであり、兜の隙間から悪意を持って騎士たちを見下ろしていた。

 

「くっ…!なんて殺気だ!」

「大変だ!まわりを見ろ!」

「!?」

 

呼びかけに騎士たちが周りを見渡すと、城塞を囲んでいたモンスターたちが城塞に向かって歩み始めた。

 

「モンスターが動き出した…!」

「包囲網を狭める気だ…!おのれ!」

 

敵が城塞を襲撃するため、包囲網を狭めていることに気づいた騎士たちは険しい表情を浮かべた。その中で、1人の騎士が敵を睨みつけ、剣を構えながら大声を上げてデッド・アーマーに突撃した。

 

「かかれ!!!この巨大な鎧を攻撃しろ!!!」

「うおおおっ!」

 

騎士たちは一斉にデッド・アーマーに攻撃を仕掛けたが、剣は鎧に弾かれ、鎧は傷一つつかなかった。

 

「硬いっ…!なんて鎧だ…!」

 

デッド・アーマーは巨大な腕を振るうと周囲の騎士たちを振り払った。

 

「うわああぁあ!!!」

 

弾き飛ばされた騎士たちは地面に転がりながらも、痛みに顔を顰めつつもすぐに起き上がり、デッド・アーマーを睨みつけて再び突撃した。

 

「く、くそっ!時間がないってのに…!」

 

騎士たちは再度突撃するが、デッド・アーマーにはダメージを与えることができず、再度、敵の攻撃を受けて吹き飛ばされた。騎士たちは悔しそうに地面に倒れていたところ、その横をホルキンスが猛スピードで駆け抜けた。

 

「団長!!!」

「こんどは…こちらの番だ!!!」

 

ホルキンスは猛スピードを維持したまま剣を振り下ろし、デッド・アーマーの足に小さな傷をつけた。

 

「団長の攻撃ならダメージを与えられる…!」

「だが、今の攻撃で足を切断できないとは…」

「硬いな…ならば!あの技を使う!」

「あの技は…!」

 

ホルキンスは敵から距離をとり、剣先を地面に突き立て、カール騎士団に伝わる構えをとり、力を溜め始めた。その構えを見た周囲の騎士たちは一斉にデッド・アーマーに対して攻撃を仕掛けた。

 

「攻撃を続けろ!少しでいい、時間を稼げ!!!」

「団長を援護しろ!!!」

「お前たち、感謝する!…カール騎士団正統の構え…!」

 

デッド・アーマーが腕を振るうと、騎士たちは弾き飛ばされた。ホルキンスはデッド・アーマーをギッと睨みつけ、突き立てた剣を掴むと、力を込めて剣を振り上げた。

 

「豪破一刀!!!」

 

ホルキンスが繰り出した斬撃は圧倒的な威力を持ち、デッド・アーマーの胴体を斜めに大きく切り裂いた。上下に分かれた鎧の巨体は大きな音を立てて崩れ落ち、その場から動かなくなった。

 

「やったぞ!!!」

「あの硬い鎧をいとも容易く…!流石はホルキンス団長!!!」

「よし!このまま敵の包囲網を外側から攻撃する!」

 

ホルキンスは城塞に視線を向け、敵が城塞の壁に辿り着くのを見ると、険しい表情を浮かべた。

 

「敵は城塞にたどり着いたか…!急がねば!」

「だ…団長!先ほどと同じ敵が…!」

「!!!」

 

騎士の声にホルキンスが視線を向けると、モンスターの集団から先程倒した同じ個体であるデッド・アーマーが2体出現し、騎士団と対峙した。

 

「くっ!俺たちをここに足止めするのが目的かっ…!騎士団よ!敵を確実に、素早く倒すぞ!」

「はっ!!!」

 

騎士団はデッド・アーマーに向かって駆け出した。

 

 

 

城塞では敵がバリケードを壊しながら壁際まで接近し、一部の敵は扉を破壊しようとし、他は城塞を乗り越えようとしていた。一方、城塞内の騎士団はホルキンスの弟の指揮のもと、城塞の上から槍や石、バリスタ、魔法を使って敵に攻撃を行っていた。

 

「敵をこれ以上、近づけさせるなっ…!」

 

城塞に近づく敵を倒していたところ、騎士の1人が上空から音が聞こえたため、顔を上げた。

 

「?…上から音が……なっ!!!」

 

上を見上げた騎士はその光景に目を見開き、上空を指さして大声を上げた。

 

「皆!上を見ろ!!!」

「!!!」

 

騎士たちが上空を見上げると、飛行能力を持ったあやしい影、スモーク、ガストなどのモンスターが上空から城塞内に侵入しようとしていた。騎士たちは慌てて高台へ移動し、攻撃を行おうとした。

 

「まずい!侵入される!」

「敵を撃ち落とせ!」

 

騎士たちは空を飛ぶ敵を撃ち落とそうとするが、槍の射程では届かず、魔法を使える者は限られていたため、多くの飛行能力を持つ敵の侵入を許すこととなった。

 

「くそっ!侵入された!!!敵を城に近づけさせるなっ!!!」

「ま、不味いっ!!敵が壁を乗り越えてきたぞ!」

 

上空の敵に対処するため、城塞に迫ってきていた敵の対処が疎かになり、その結果、上空からも敵の侵入を許し、城塞からも敵に侵入されようとしていた。

 

「このままでは…!」

 

騎士たちは絶望的な状況に顔を顰めていると、突如、城塞の広い場所にルーラの着地音と共に1人の人間が現れ、その人物は周りを見て叫び声を上げた。

 

「なんだぁ!!?この状況は…!…くそっ…最悪のタイミングで来ちまったみてえだな…!」

 

騎士たちは突然現れた魔法使いの老人に目を見開いたが、ホルキンスの弟は老人に見覚えがあったため、近づいて声をかけた。

 

「貴方は…マトリフ様!!!」

「てめぇは…?」

 

声をかけられたマトリフは見覚えのない人物に声をかけられたことで、ホルキンスの弟を睨みつけるように見つめた。

 

「俺は騎士団長ホルキンスの弟の―」

 

ホルキンスの弟が自己紹介をしようとしたところ、上空を飛びまわるモンスターの群がマトリフたちに向かって攻撃を仕掛けてきた。マトリフは即座に魔力を溜め、モンスターに対して攻撃を行った。

 

「ちっ…!イオラ!!!もう一発、イオラ!!!」

 

モンスターに放たれたマトリフの魔法により上空は爆炎に包まれ、倒されたモンスターはモヤや霧となって掻き消えた。

 

「れ、連続で魔法を出したぞ!!?」

 

騎士たちは連続魔法攻撃を行ったマトリフに対して驚愕の表情を浮かべた。マトリフは上空のモンスターたちを一掃すると、トベルーラを使い飛び上がり、肩を落としてため息を吐きつつ、独り言をつぶやいた。

 

「…本当はアバンの書を取りにきただけなんだかなぁ…なんでこうも厄介ごとに巻き込まれちまうのか……まあいいか、知らねぇ仲じゃねえしな…!」

 

マトリフは気持ちを切り替えると、宙に浮いたまま振り向き、ホルキンスの弟を見下ろした。

 

「俺が上空を飛んでいやがる敵を倒す!てめぇら騎士は城塞に近づく敵を片っ端から倒せ!!!」

「マトリフ様!ご助力、感謝いたします!!!」

「けっ!…後で美味い飯と酒でも奢ってくれ!」

「はい!!!奢らせていただきます!!!」

 

マトリフは上空の敵に向かって飛んで行き、次々と魔法で攻撃を繰り出した。騎士たちはその間、上空の敵に戦力を割かなくてよくなった分、城塞に近づく敵を片っ端から倒していった。

 

しばらくの間、騎士たちは懸命に敵を倒し続けたが、城塞に近づく敵の数は多く、次第に城塞内の騎士たちに疲労の色が見え始めていた。

 

「はぁ!…はぁ!…にしても敵が多い!……ん?」

 

騎士の1人が敵を倒した後、城塞を囲む敵の包囲網を眺めていたところ、包囲網の北側で戦闘が行われていることに気付き、目を見開いた。

 

「あれは…あそこを見ろ!包囲網の外側で戦闘が行われてるぞ!」

「ホルキンス団長か…?」

「いや…団長たちは離れた場所、東側にいる…!あっちは北だ!」

「じゃあ、あそこの…北で戦っているやつは…誰だ?」

 

包囲網の北側で戦闘が行われているのを見た騎士たちは、誰が戦っているのか心当たりがなかったため、訝しげにその様子を見つめた。

 

 

 

包囲網の北側では、ヒュンケルがカール王国に到着するや否や、鎧を装備し、魔剣片手に次々と敵を倒していた。

 

「ヒュ、ヒュンケル!なぜ、ここに!!?」

 

あやしい影がモンスターを倒すヒュンケルの存在に気づくと、その場にいるはずのない彼を見て驚愕の叫び声を上げた。

 

「…俺は何処にでも現れる…お前たちがいる場所ならな…!さあ、覚悟しろ!!!」

「おのれ!…ヒヒヒッ…だか、これで裏切り者を始末できるというのも…お前には、こいつの相手をしてもらおう!」

 

あやしい影が叫ぶと、モンスターの群れからデッド・アーマーが現れ、ヒュンケルと対峙した。

 

「こいつは…」

 

ヒュンケルは見たことのない鎧兵士の姿に驚き、兜の下で小さく目を見開いた。

 

「ヒヒヒッ…こいつは魔王軍最強の鎧兵士、デッド・アーマー!この鎧はお前の鎧の魔剣と同じ金属で出来ている…!いかなヒュンケルといえども…」

「大地斬!!!」

 

ヒュンケルが駆け寄り、剣を力強く振り下ろすとデッド・アーマーの腕を切りつけた。切り口からは鎧の内側が見え、最強の鎧に傷をつけられ、あやしい影は驚愕した。

 

「な…なんだとぉ!!?最強の鎧に傷をつけた…だとぉ…!?」

「最強の鎧といえども、俺の敵ではないようだな…」

 

ヒュンケルは闘気を溜めながら剣を構え、敵に向かって技を繰り出した。

 

「ブラッディースクライド!!!」

 

ヒュンケルの闘気を纏った技がデッド・アーマーを貫き、その破壊された巨大な鎧兵士は大きな音を立てて地面に転がった。

 

「ば…馬鹿な…!デッド・アーマーが…!」

 

ヒュンケルはあやしい影たちに剣先を向け、睨みつけた。

 

「かかって来い…俺が相手だ…!」

「くそっ!全員でかかれ!!!」

 

周囲のモンスターたちが一斉にヒュンケルへ飛びかかった。

 

 

 

城塞内の騎士たちは北側にいる誰かがモンスターと戦い、善戦しているのを確認すると希望を抱いた。

 

「よし!北側は大丈夫そうだ!」

「上空ではマトリフ様が戦い、東側はホルキンス団長たちが戦っている…!このまま、行けば―」

「みんな!海を見ろ!船だ!船が現れたぞ!」

「船だと!?こんな時に、誰が…まさか、援軍か…?」

 

騎士たちは城塞の上から南の海岸を確認し、船が着岸し、港周辺で戦闘が行われているのを確認した。港に停泊した船の帆には紋章が描かれ、それはリンガイア王国の紋章と気づいた一部の騎士は笑顔を浮かべた。

 

「船の紋章はリンガイアだ!リンガイアが援軍に来てくれたぞ!!!」

「リンガイアだって!?」

「はははっ!!!よし!勝機が見えてきたぞ!!!」

 

危機的状況から一変、援軍が次々と現れ、敵を押し返し始めたことで、城塞内では歓声が湧き上がった。

 

 

 

リンガイア王国より船で移動してきたノヴァたち船団はカール王国が魔王軍の襲撃を受けていることに気付くと、国王や国民が乗る船は安全な海上で待機し、船にはバウスン将軍が護衛として残った。一方、ノヴァ率いる戦士団の船はカール王国の港に着岸すると、船から武器を構えて飛び出した。

 

「リンガイア王国、勇者ノヴァ!我らはカール王国に助太刀する!!!行くぞ!!!」

「勇者ノヴァに続けー!!!」

 

南側で包囲網を敷いていた魔王軍は背後からの攻撃に大混乱に陥った。次々とモンスターが倒される中、あやしい影は慌ててデッド・アーマーを召喚し、敵を倒すように指示を出した。

 

「い、行け!デッド・アーマー!奴らを倒せ!!!」

「なんだ、あの巨大な鎧兵士は…!?」

「怯むなっ!攻撃しろー!!!」

 

リンガイア戦士団はデッド・アーマーに対して一斉攻撃を行ったが、鎧は非常に頑丈で、傷一つつかなかった。

 

「っ…!なんて硬さだ!」

「全員どけ!ボクがやる!」

「ノヴァ様…!みんな離れろ!!!」

 

リンガイア戦士団がデッド・アーマーから離れると、勇者ノヴァが剣に闘気を纏い、飛び上がった。

 

「ノーザン・グランブレード!!!」

 

上空から振り下ろした闘気剣はデッド・アーマーを縦に切り裂いた。巨大な鎧は裂け目から内側が見えるほどに裂け、大きな音を立てて地面に転がった。

 

「やったあ!あの硬い鎧を倒したぞ!」

「流石です!ノヴァ様!!!」

 

団長の活躍に感銘を受けた戦士団は剣を掲げ、歓声を上げた。

 

「この調子で敵を倒すぞ!」

「はい!」

 

ノヴァ率いる戦士団はカール王国城塞を囲むモンスターを次々と倒していった。

 

「あ…ああっ!なんだよぉ〜!こっちもかよ!」

 

あやしい影は他の場所でもデッド・アーマーが人間により倒されているという報告を受けていたため、自身の管轄でも同じことが起きたことに焦り、頭を抱えた。包囲網を形成するという計画が崩れつつあることを悟り、混乱の中で次の対応策を考えた。

 

「こ、このままではミストバーン様に叱られる!…こうなったら…!」

 

あやしい影が戦士団から離れ、別の場所へ移動した後、港周辺で戦っていた戦士団は周囲の敵を倒すと、団長であるノヴァに報告しました。

 

「団長!港一帯の敵はあらかた倒しました!」

「このまま、前進せよ!城塞を囲むモンスターを一掃する!!!」

「はっ!!!」

 

戦士団がモンスターに囲まれている城塞に向かって前進していたとき、前方からか細い声で助けを求める女性が現れた。

 

「た、助けて…」

「民間人を発見!救助します!」

 

戦士の1人が助けを求める民間人に駆け寄った。民間人は魔物が跋扈する中、無傷であり、長い髪で顔を隠していたが、少しフラつきながらも戦士に近づいてきた。

 

「たすけて……タスケテ……タスケ、テ……」

 

戦士は安心させるように微笑みながら、女性に優しく手を差し伸べた。

 

「もう大丈夫ですよ!我々が貴女をお助けします!」

「ヒヒヒッ…アリガトウ!」

 

民間人の女性は髪を振り乱しながら腕を振るうと突然襲いかかり、隠し持っていたナイフで戦士を切りつけた。その瞬間、周囲の戦士たちは驚きと混乱に包まれた。

 

「なっ…なにをする!」

 

戦士は咄嗟に距離を取り、首に小さな傷を負った後、武器を構えて攻撃してきた民間人を睨みつけた。

 

「何故だ!なぜ俺を攻撃した!?」

「ヒヒヒッ…残念、外したか…!」

 

女性の背中から黒いモヤが形成され、あやしい影の姿に変わったことで、戦士たちは驚き、目を見開き、武器を構えて警戒した。

 

「あやしい影…!まさか、民間人を操っていたのか!?」

「ヒヒヒッ…正解だ…!人間に取り憑いていれば…お前たちは攻撃できないだろう…?」

「卑怯な…!」

 

ノヴァ率いる戦士団は、民間人に取り憑いているあやしい影を見て険しい表情を浮かべた。戦士たちは攻撃を躊躇い、民間人を傷つけるわけにはいかず、焦りの色が浮かんでいた。

 

「くっ!…団長、どうしますか?」

「…民間人を取り押さえろ!!!拘束し、動けないようにする!!!」

「はっ!!!」

 

戦士たちが民間人を保護するため駆け出そうとしたところ、取り憑かれている民間人がナイフを自身の首に当てがった。その瞬間、戦士たちは足を止め、緊張が走った。

 

「おっと、近づくな…!近づいたら…この人間を殺す…!」

「ぐっ!」

 

騎士たちは唇を噛み締め、民間人を人質にとったあやしい影を睨みつけた。あやしい影は不敵な笑みを浮かべ、状況の優位を楽しんでいるかのようだった。

 

「ヒヒヒッ…人間とは難儀な生き物だ…こうして人質を取られると…例え力があろうとも、無力になるのだからなぁ…!」

「おのれぇ…!魔王軍め…!!!」

「団長…!どうしますか!?」

(くそっ!民間人が盾に取られていては攻撃出来ない!だが…このままではカールを救うことも…モンスターだけ攻撃する手段があれば…たが、そんな都合の良い方法など…ありはしない…!)

 

ノヴァたちはどうすることもできず手をこまねいていた。そのとき、掛け声と共に、騎士たちの背後から一筋の光が飛んできて、取り憑かれている民間人の胸に当たった。

 

「空裂斬!!!」

「うっ…ぎゃああぁあぁ!」

 

民間人に取り憑いていたあやしい影は光の闘気を受けたことで断末魔の叫びを上げ、モヤとなって消滅した。取り憑かれていた民間人は解放されると気を失い、地面に倒れ込んだ。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

戦士の数人が倒れた民間人に恐る恐る近づき、モンスターがいないことを確認すると安堵し、慎重に助け起こした。

 

「今の光は…?」

「いや〜危ないところでしたね!」

 

ノヴァはあやしい影を倒した光の正体について考えていたところ、背後から声をかけられ、戦士たちは驚きつつ後ろを振り向いた。

 

「あなたは…」

 

振り向いた先には、剣を装備した成人男性が立っており、彼の頭にはカンダタマスク、さらにその上から黒縁のメガネをかけていた。その怪しい見た目にノヴァたちは一瞬警戒の色を浮かべた。

 

「私は冒険者をしている者です!ここカールが襲われていると聞きましてね、私の正義の心が居ても!立ってもいられなくなり!ここに来たというわけです!!!」

「先ほどの光は…あなたの仕業ですか?」

 

謎の人物は上下に大きく首を振って了承の意を示すと、マスクの下から嬉しそうな声を出した。

 

「イエス!そうですよ!困っているようでしたから手を貸させていただきました!!私の光の技は悪意ある者だけを倒すことが出来るのです!!!」

 

謎の人物の大げさな反応にノヴァたちは少し困惑しながらも、何とか状況を把握しようとした。

 

「おお…!モンスターだけを倒せるのか…!」

「すごいな…!そんなことができるのか…」

 

謎の人物の光の攻撃に感心しつつも、ノヴァたち戦士団はその人物の怪しい見た目から完全に警戒を解き切れていなかった。

 

(なぜ…あんな変なマスクをつけているのだ…?)

 

カンダタマスクをつけた謎の人物はノヴァたちの警戒の目を気にせず、褒められたことで嬉しそうに胸を張った。




突如現れたカンダタマスク、黒縁メガネをつけた謎の人物…彼は一体何者なんだ!?
次回、ついに謎の人物の正体が判明する!?彼は味方なのか!?お見逃しなく!

報告:誤字脱字修正しました!報告ありがとうございます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。