ダイの大冒険 ―次世代の竜の騎士ー   作:キャットテールの鈴

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バルジ島で魔王軍の総攻撃を退けたダイたち一行は、次の戦いに向けて準備を進めようとしていた。一方、レグルスは毎晩見る夢の内容に悩みを抱えていた。


45_竜の騎士編_デパートに行こう!

新たな魔王軍の拠点、その大魔王の間には大魔王バーンに謁見すべく、魔軍司令ハドラー、ザボエラ、ミストバーン、キルバーン、ピロロが集まっていた。部屋の一番奥は一段高く、その場所には薄布で覆われた誰も座っていない椅子があり、ハドラーとザボエラは椅子の手前、一段下がった場所で膝をつき、首を垂れていた。

重苦しい沈黙が支配する中、ハドラーたちが待機していると、バーンの側近であるミストバーンが椅子の隣に立ち、発言した。

 

「…ただ今より、偉大なる大魔王バーン様がお見えになる」

「ははっ!」

 

ハドラーは緊張し、磨き抜かれた床を見つめていたが、ミストバーンの発言とともに空気が一変するのを感じた。肌を刺すような威圧感に圧され、恐る恐る顔を上げると、薄布の向こうにバーンの威容がうっすらと浮かび上がっていた。

 

「だ、大魔王バーン様!!!」

「一同、ご苦労であった…面を上げよ」

 

ハドラーとザボエラは顔を上げ、冷や汗をかきながら緊張して薄布越しにバーンを見つめた。

 

(ううっ…!間近に接すると相も変わらぬ、なんたる威圧感…!!)

(こ…この薄布一枚にバーン様が…!)

 

バーンは視線を椅子の横に立つキルバーンに向けると、少し面白がっている様子で報告に上がっていた内容を確認した。

 

「…興味深い報告があるそうだな…」

「…はい!実はこのバーン本国に到着する以前に、ダイが竜の騎士ではないかという論争が持ち上がったのです。確認したところ、11年前に死んだと思われていた竜の騎士バランと人間との混血児である可能性が高いことが分かりました」

「…ほう?子供は死んでいると考えておったが、生きていようとはな…なるほど、我が軍が苦戦するのも頷けるというものよ…相手が竜の騎士とあってはな…のう、ハドラー?」

 

薄布越しであったが、バーンの視線が自身に向けられたことに気づいたハドラーは、冷や汗を流しながら頭を床ギリギリまで下げた。

 

「は、ははあっ!!!此度の失敗、誠に申し訳ございません!現在、ダイを倒すべく新たな作戦の準備をしている最中でございます!次こそは…!次こそは!勇者ダイとその一味を始末してご覧に入れます!!!」

「…すでに、ロモス、バルジ島は敗北に終わっておる…次がないことは…ハドラー、分かっておろうな?」

「…つっ!!!…はっ!全力を尽くす所存です!!!」

 

魔軍司令の報告は終了し、ハドラーとザボエラは退出した。大魔王の間にはバーン、キルバーン、ピロロ、ミストバーンの4者だけとなり、バーンの椅子に掛けられていた薄布は外され、バーンの姿が見える状態となった。

 

「まさか…竜の騎士バランの倅が生きていようとはな…」

「ええ、僕もハドラー君から報告を受けた際は驚きました。まさか、赤子が怪物島に流れ着き、今まで生きていたとは、ね…」

「フム…竜の騎士相手となれば、ハドラーでは荷が重かろう…それに…」

 

バーンは少しの間考え事をし、ある可能性に思い当たると、キルバーンに視線を向け、静かに発言した。

 

「キルバーンよ、お主もハドラーに同行せよ」

「ウフフッ…!竜の騎士の子供を始末するので?」

「それはハドラーに任せる。お主には別の仕事をしてもらう…」

 

キルバーンは竜の騎士の子供であるダイの抹殺のため、ハドラーに同行するよう命令されたと考えたが、バーンはもう一つの可能性のほうが緊急性が高いと考えていた。

 

「…死んだと思われていた子供が生きていた…となれば…親の方も可能性があるとは思わぬか?」

「!…つまり…」

 

キルバーンはバーンの意図を察し、その先の出されるであろう指示を口にした。

 

「…竜の亡霊を、誘き出せ…と…」

 

死神の発言にバーンは否定せず、肯定するかのようにじっとキルバーンを見つめた。

 

 

 

レグルスは夢を見た。

美しく優しい女性と愛らしい赤子と共に、ラーハルトの家で幸せに過ごす日々を。

 

レグルスは夢を見た。

泣き出した赤子をあやす為、男性は赤子の脇を持ち高い高いをしてあやしていたところ、赤子はさらに泣き出し、女性に怒られてしまう夢を。

 

レグルスは夢を見た。

泣き出した赤子をあやす為、男性は赤子が入っている揺籠をゆっくりと揺らした。その揺籠のネームプレートには『DINO』と名前が刻まれていた。

 

レグルスは夢を見た。

赤子を抱く優しい女性を見た男性は、愛おしく思いながらその女性に触れ、優しくキスをした。

 

 

 

パプニカにて、勇者一行にと当てがわられた大きめの屋敷。その一室にて、レグルスは連日見る夢の内容で悩みを抱えていた。

 

(おのれえええっ!!!夢の中の私め!毎回、夢の中で!何回も!何回も!あの女性にキスをしおって!!!どれだけあの女性が好きなのだ!?キスしたことないのに…キスの知識だけ増えていく!…くそっ!)

 

レグルスは目を瞑ると、瞼の上に両手を置き、夢の内容を思い返した。美しく、優しい女性に触れ、キスをする夢を。

 

(……………癖に…なりそうだ……)

 

レグルスはドキドキと心臓が鳴るのを聞きながら目を開け、ため息を吐くと、恥ずかしさで頭を抱えた。

 

「レグルス様…どうかなさいましたか?」

「…ラーハルト」

 

声をかけられたレグルスは顔を上げ、いつの間にか近くにいた心配そうに覗き込むラーハルトを見上げた。ラーハルトの気遣う様子に気づいたが、夢の中でラーハルトの家を毎回利用している気まずさからレグルスは目を逸らし、逃げるようにその場を離れた。

 

「いや、なんでもない」

「…そう、ですか」

 

ラーハルトは離れていく小さな主人の背中を戸惑いながら見つめた。

 

「…」

「ラーハルト…?どうしたの?」

「!…ダイ様」

 

ラーハルトが落ち込んでいたところダイとポップが近づき、心配そうに話しかけた。

 

「落ち込むなんてオメェらしくねえな!…なんかあったのか?」

 

ポップは茶化しながら声をかけるも、誰かに魔族という理由で何か言われたのではないかと心配した。2人の心配している様子にラーハルトは少し迷った後、言いづらそうに悩みを打ち明けた。

 

「……最近、レグルス様に避けられている…ような気がするのです」

「レグに?なんで?」

「分かりません…心当たりがなく…先ほどもレグルス様が何か悩んでいるようでしたので、話しかけたところ…なんでもないと、そう言って俺から離れていきました…」

 

ラーハルトはレグルスに拒否されたことを思い出すと、意気消沈し、肩を落とした。

 

「ふーん、あいつが悩みねぇ…珍しいこともあるもんだな…よし!ダイ!一緒にレグのとこ行こうぜ!ラーハルトを避ける理由と、その悩みとやらを聞き出すぞ!」

「うん!ラーハルト、俺たちがレグに聞いてくるよ!待ってて!」

「…よろしくお願いします」

 

ラーハルトは2人の好意をありがたく思いながら感謝の気持ちを持ってお辞儀をした。ダイとポップはラーハルトと別れ、建物の外に出ると、剣の素振りをしているレグルスに近づいた。

 

「レグ!」

 

呼びかけられたレグルスは素振りを止めると近づいてくるダイとポップに視線を向けた。

 

「…ダイ、ポップ…何のようだ?」

「最近ラーハルトを避けているんだって?どうしたんだ?」

「…避けているつもりはない」

 

レグルスは話を終わらせると剣の素振りを再開したが、ポップはこの話題を避けているのに気付くとムッと顔を顰めた。

 

「おい!ラーハルトは落ち込んでたぞ!お前に嫌われたんじゃないかってな!…何か理由があるんだろ?」

「…ない!…ラーハルトを避けたつもりは無かった…避けたように見えたなら、それは私自身の問題だ。ラーハルトに落ち度はない」

 

普段であれば会話中、視線を合わせてきちんと対応するレグルスが、作業の手を止めず、視線を合わせないことから、いつもと様子が違うことに気づくとダイとポップは顔を見合わせた。

 

「あと…レグ、何か悩みがあるの?ラーハルト、心配してたよ?」

「…それも私の問題だ…話すほどの内容ではない…」

「ふーん、そっかよ…なら、その悩みとやらは、オメェ1人で解決できる事なんだな?」

「………」

 

レグルスは剣を振り下ろした状態で素振りを止め、無言でその場に佇んだ。

 

「おい!そこで黙るのかよ!なんだよ、1人で解決できない悩みか」

「ねえ、レグ…良かったら俺たちに話してみてよ!」

「1人で抱えてもしょうがねぇだろ?悩み聞くぜ」

「………」

 

レグルスは腕の力を抜き、少し迷った後、ダイとポップに視線を向けた。

 

「………場所を移すぞ」

 

剣を背中の鞘に納めたレグルスは建物に向かって歩き出し、ダイとポップも後をついていった。

 

 

 

「毎晩似たような夢を見る?」

「…ああ」

 

部屋に備えられている椅子に腰かけたダイとポップは、机を挟んで向かいに座るレグルスをじっと見つめながら、悩みの原因である“夢”の話を聞いていた。

 

「どんな夢?」

「…ある家族の夢だ。私は大人で、妻と赤子の三人で暮らしている…夢の内容は毎回少しずつ違うが、私を含めた三人は必ず出てくる…そんな夢だ…」

「ふーん?似たような夢を見るから悩んでるのか?」

「………」

「おーい、またダンマリか?言わないと解決しないぞ?」

 

ポップが呆れたように声をかけると、レグルスは小さく息を吐き、ゆっくりと視線を落とした。

 

「…夢を見るようになってから…私はその夢に出てくる女性と子供のことを常に考えるようになった。今、何をしているのか?どこにいるのか?…とな…。子供に名前まで付ける始末で……正直、自分でも異常だと感じるくらいだ…」

 

レグルスは目を閉じ、美しくも優しい笑顔の女性と、その腕に抱かれた赤子の姿を脳裏に思い浮かべながら、静かにため息をついた。

 

「その夢の人は、実際にいる人なの?」

 

ダイが少し疑問を持ちながら尋ねると、レグルスはゆっくり目を開き、真剣な眼差しでダイを見つめた。その視線にダイは小さく首をかしげる。

 

「?」

「いや…おそらくいない……はずだ…。少なくとも、私は会ったことがない。……そのはずだ……」

 

どこか確信を持てないような口ぶりで言い、レグルスは眉をひそめて視線をそらした。記憶にないのに、妙に懐かしく、親しみを感じる――そんな表情を浮かべていた。

 

「なんか、はっきりしねぇな…。ちなみによ、ラーハルトを避けてる理由もそこにあるのか?」

 

ポップの問いに、レグルスはしばらく口をつぐんだが、やがて決心したように小さい声で話し出した。

 

「…夢では、いつも同じ場所が映っている。私たち家族が暮らす家だ」

「おう」

「その家が、テランにある……その……ラーハルトの家なのだ」

「ぶっ!」

 

ポップが思わず吹き出し、ダイも目を丸くした。

 

「ラーハルトの家?」

「ああ…。なぜか、ラーハルトの家で家族と暮らしている。そういう夢を毎晩見るのだ…。ラーハルトを避けていたのは、夢とはいえ勝手にあの家を使っていたことが気まずかったからだ…」

 

言い終えたレグルスの顔には、なんとも言えないバツの悪さがにじんでいた。ポップは呆れ顔でじっと見つめ、ぽつりと漏らした。

 

「オメェ…ラーハルトの家で何やってんだよ…」

 

その一言に、レグルスはムッとしたように眉を寄せ、机に両手をついて勢いよく立ち上がった。

 

「それは私の方が聞きたい!何故、ラーハルトの家なのだとなっ!だから言いたくなかったのだ!!!くっ……この話は以上だ!今日は武器を探しに行くのだろう?そろそろ出かける準備をするぞ」

 

一方的に話を打ち切ると、レグルスはダイとポップに背を向け、足早に部屋を出て行こうとした。その背中に向かって、ポップが声を張り上げた。

 

「レグ!ラーハルトにはちゃんと訳を言ってやれよ!あいつ落ち込んでたからな!」

 

その言葉に、レグルスは一度立ち止まり、肩越しに振り返った。

 

「ああ」

 

そう短く答えると、静かに部屋を出て行った。部屋に残されたダイとポップは、しばしの沈黙の後、顔を見合わせた。

 

「レグ、同じ夢を見るって言ってたね」

「まさかレグに『コレ』ができるなんてな…。そういうの、全然興味なさそうだったのによ」

 

ポップは意味深に右手を握り、小指だけをピンと立てた。ダイはそのジェスチャーを見て、きょとんとした表情を浮かべた。

 

「コレって?」

「女だよ、女!レグのやつ、好きな女ができたんだよ!」

「ええっ!?それって、夢に出てきた人ってこと!?」

「おう。ただ、好きになったのが夢の中の奴ってのがなぁ……いるかも分かんねぇ奴を好きになっても虚しいだけだろ。にしても、ラーハルトのやつ、レグに好きな女がいるって知ったら……別の意味でショック受けそうだな」

 

ラーハルトが唖然とする姿を思い浮かべたポップは、面白そうにニヤリと笑った。

 

 

 

ラーハルトは、バダックから譲り受けた少し錆びついた兵士用の槍を磨いていた。磨くたびに軋む音が静かな空間に響き、その音に紛れるようにして近づいてくる足音に気づき、顔を上げるとレグルスがこちらへ近づいてくるのが見えた。ラーハルトはすぐに作業の手を止め、静かに立ち上がり、主人に向き直った。

 

「レグルス様……」

「ラーハルト。私の態度のせいで、心配をかけてしまったようだな……すまない」

「い、いえ!レグルス様のせいではありません!……あの……よろしければ、お聞きしてもよろしいでしょうか?なぜ最近、俺を避けておられたのか……」

 

ラーハルトは不安そうな面持ちで問いかけた。少しの間があってから、レグルスは言いづらそうに口を開いた。

 

「……一つ言っておくが、私はお前を避けているつもりはなかった。ただ、もしそう見えたのだとしたら……それは、毎晩見る夢のせいだろう」

「夢……ですか?」

「ああ。その夢には、なぜか毎回ラーハルトの家が出てくるのだ……」

 

ラーハルトは驚いて目を見開いた。

 

「……俺の、家ですか?」

「そうだ。夢とはいえ、勝手にお前の家を使っているのが気まずくてな……それで自然と顔を合わせづらくなっていた。だから、これは私自身の問題だ。ラーハルト、お前には何の落ち度もない」

 

そう言ってレグルスは視線を落とし、どこか気まずげな表情を浮かべた。その言葉を聞いて、ラーハルトの胸の中の不安はすっと溶けていった。そしてふっと表情を和らげ、小さく息をついた。

 

「では……俺を嫌いになったわけでは、ないのですね?」

「私がラーハルトを嫌うなど、断じてない!」

 

レグルスはまっすぐラーハルトを見据え、力強く言い切った。

 

「私にとってお前は……家族のようなものだからな」

「……!!!」

 

思いがけない“家族”という言葉に、ラーハルトの胸は強く打たれ、目を大きく見開いた。

 

(家族……家族のようなもの……!)

「この話はここまでだ、ラーハルト。この後は城下町に行って、ダイとポップと一緒に武器を見るぞ!その錆びた槍では、さすがに戦いは厳しかろう。問題は――」

 

嬉しさで笑みがこぼれそうになったラーハルトは、とっさに手で口元を隠した。

 

(俺が……レグルス様の“家族”……!)

「復興中で、あまり目ぼしい武器はないかもしれんが……」

 

込み上げる感情を押さえきれず、ラーハルトの目には涙がにじんだ。ぐっと目を閉じ、懸命にこぼれ落ちるのを堪えた。

 

(家族……)

「いざとなれば、ポップのルーラで他の街に――……ん?ラーハルト、聞いているか?」

「は、はいっ!そうですね。ダイ様も剣を新調したいとおっしゃっていました!」

「うむ。敵はいつ襲ってくるかわからない。早めに準備を整えておきたいところだ。ラーハルト、ダイたちと合流して武器を探しに行くぞ!」

「かしこまりました!」

 

レグルスとラーハルトは並んで歩き出し、ダイとポップの待つ場所へと向かった。歩きながら、ラーハルトは隣を歩く小さな主人の姿を見つめ、心からの笑みを浮かべた。

 

「レグルス様」

「なんだ?」

 

呼ばれたレグルスは、顔を上げてラーハルトを見上げた。

 

「……俺にとっても、あなたは大切な家族です。今までも……これからも!」

 

ラーハルトは穏やかな笑みを浮かべたまま、まっすぐにレグルスを見つめていた。その眼差しにレグルスは一瞬目を見張ったが、やがて小さく笑うと、ラーハルトの腕を軽く叩いた。

 

「これからも頼んだぞ、ラーハルト!」

「はい!」

 

やがて2人はダイとポップに合流し、屋敷を出てパプニカの城下町へ向かった――。

 

 

 

「勇者様! この国を救っていただき、ありがとうございます!!」

「勇者御一行様! よかったらこちらをどうぞ! 美味しいですよ!」

 

パプニカの城下町を歩いていたダイたちは、道行く人々から感謝の言葉と笑顔で迎えられていた。渡された食べ物を頬張りながら、武器屋へ向かって進んでいく。

 

「いろんな人に声かけられるね!」

 

ダイが明るく言うと、隣でポップが鼻を鳴らして胸を張った。

 

「そりゃそうだろ! なんたって俺たちは、この国を救った勇者様御一行! 英雄なんだからよ! 当然っちゃ当然だな!」

 

ダイは手を振りながら笑顔で人々に応え、ポップも満更でもなさそうに上機嫌だった。そんな彼らの少し後ろ、仮面を外したラーハルトが静かに周囲を見渡していた。魔族の姿を晒したまま故郷の街を歩くのは初めてのことだったが、誰一人として彼を非難しない。むしろ、感謝の声すらかけられていた。

 

「まさか……仮面を付けず、この国を歩ける日が来るとはな……」

 

そのつぶやきには、感慨深さと少しの戸惑いが混ざっていた。

 

「レオナに感謝しなくてはな……事前にラーハルトのことを街の人たちに伝えてくれたおかげで、素顔のままでも歩けるようになったのだからな」

 

レグルスの言葉に、ポップも相づちを打った。

 

「ま、俺たちが一緒ってのもあるんじゃねぇか?勇者と一緒に歩いてりゃ、そうそう警戒されねぇだろ」

「ラーハルト、ここに来るの……少し苦手だったんだよね?」

 

船の中で聞いた、かつて街でのつらい経験を思い出しながら、ダイは言いづらそうに声をかけた。ラーハルトは、静かにうなずいた。

 

「ええ……昔は今のように仮面を外して歩くなど、到底できませんでした……」

 

かつて味わった誹謗中傷や迫害を思い出し、一瞬だけ表情を曇らせた。だが次の瞬間、ラーハルトは顔を上げ、きっぱりと宣言した。

 

「……ですが、今は違います。今は、素顔のまま堂々と歩けます!この国に対して、もう苦手意識はありません!」

 

その力強い言葉に、ダイは嬉しそうに笑顔を向けた。

 

「よかったね、ラーハルト!」

「ええ!」

 

ラーハルトは笑顔でダイと会話していたが、続くポップの一言に思わず固まった。

 

「まあ、これでレグを抱える必要はなくなるな!不安だからって、ずっと抱えてたもんな!」

「……えっ」

 

当事者のレグルスも、大きくうなずいた。

 

「そうだな。ラーハルトが不安を感じていないなら、私を抱える理由はない」

 

ラーハルトは目を細めると、わざと不安そうな顔を作りレグルスに手を伸ばした。

 

「すみません……やはり、まだ不安が!……抱えさせていただいても――むぐっ!」

 

ラーハルトの顔に、レグルスの手がぴしゃりと当てられた。

 

「……調子に乗るな」

「す、すみません!」

 

レグルスに突っぱねられたが、ラーハルトは最初から想定していたのか、いたずらっぽく笑いながら大げさに残念がって見せた。

 

「ふっ……まったく、困ったやつだ」

 

レグルスは少し膨れっ面をしていたが、ラーハルトの楽しそうな様子に機嫌を直し、小さく笑った。そのやりとりを、ダイとポップは微笑ましく見守っていた。

 

「ラーハルト、楽しそうだね!」

「いや〜、あいつ出会った頃に比べると、ずいぶん丸くなったよな〜。レグも明るくなった気がするし」

 

やがて一行は武器屋に到着した。ダイは刃こぼれの激しい剣を新調するために、ラーハルトは戦闘で破損した槍の代わりを探すためだった。

 

しかし、復興途中の街では品揃えも十分ではなく、店内には目ぼしい武器がほとんど並んでいなかった。そんな中、店主は棚の奥からひとつの武器を取り出して見せた。

 

「これならどうでしょう!“どたまかなづち”!当店で一番強力な武器ですよ!」

 

その名も見た目もインパクト抜群の、兜に巨大な金槌がついた奇妙な武器に、一行は目を丸くした。ダイたちは、それを振る自分の姿を想像し、何とも言えない微妙な表情を浮かべた。

 

「……魔法使いの俺には関係ねぇけどよ」

 

ポップは頬をひくつかせながら、そっとその武器をラーハルトへ差し出した。

 

「このメンバーで使いこなせるとしたらオメェしかいねぇ!ラーハルト、つけてみるか?」

「誰がつけるかっ!!!俺のスピードで武器を振ってみろ!脳震盪で戦闘不能になる!!!」

「ぶはっ!!」

 

ラーハルトが嫌そうにツッコんだその瞬間、ポップとダイは、彼がものすごい勢いで頭を振り回して戦う姿を想像し、耐えきれず吹き出した。一方のレグルスはというと、武器をじっと見つめながら、ひとりだけ真剣な表情を浮かべて感心していた。

 

(なるほど……ラーハルトの攻撃速度なら、高威力も期待できそうだ。もう少し小型なら、選択肢として悪くないかもしれんな)

 

ラーハルトが知ったら間違いなく唖然とするであろうことを、レグルスはごく真面目な顔で考えていた。もちろん、そんなレグルスの胸の内を知るはずもないラーハルトは、顔をしかめながら金槌を店主に押し返した。

 

一行は店を後にし、屋敷のある丘へと向かい出した。

 

「あ〜あ、まいったなぁ…」

 

ダイは困った顔でため息をついた。

 

「やはり、復興中では物資が揃わないな」

「俺なんか、魔法使いだから武器や防具がなくてもたいして困らねぇけど…おめえらはなぁ…」

 

ポップの視線が、ダイの刃こぼれした剣とラーハルトの錆びついた槍に注がれる。

 

「この剣も、そろそろ寿命だよ……」

「俺の槍も……斬るより、鈍器として使ったほうが威力ありそうだ……」

 

ダイとラーハルトはそれぞれの武器を見つめ、ため息をついた。レグルスは2人を見た後、ポップに視線を向けた。

 

「ポップ、ベンガーナの街並みは覚えているか?」

「おう!勿論だ!デパートに行くんだろ?あそこなら武器と防具が揃っているからな」

 

ダイは聞きなれない言葉に首を傾げた。

 

「デパート?」

「多くの店が入った巨大な建物だ。武器や防具の種類も豊富で、そこでならダイとラーハルトの武器も見つかるだろう」

「へえ〜!面白そう!行きたい!」

 

ダイはワクワクしながらポップとレグルスをキョロキョロと見つめた。ラーハルトは、ダイとレグルスを見たあと、故郷であるテランの湖を思い浮かべた。

 

「ベンガーナで武器などを揃えた後…よろしければ、テランに行きませんか?湖で竜の騎士について何かしら情報を得られるかもしれません」

「!…テラン」

 

ポップは言葉の意図に気づくとラーハルトに視線を向け、ラーハルトは小さく頷いてポップに合図を送った。

 

(…ダイとレグが竜の騎士か、確認するためか…)

 

レグルスはラーハルトとポップの様子に気づかず頷き、故郷テランの国王であり父親であるフォルケン王を思い浮かべた。

 

「そうだな…父上にダイを紹介するとしよう。父上、ダイが竜の騎士だと知ったら、たいそう驚くことだろうな」

「じゃあ、レオナに行くことを伝えよう!」

 

ダイはレオナがいる丘の上の屋敷に向かって走り出し、レグルスとラーハルトも駆け出したが、ポップは3人の背中に向かって声をかけた。

 

「先行っててくれ!師匠のところに挨拶してくるからよ!ルーラ!」

 

ポップはルーラを発動し、マトリフが住んでいる洞窟を目指して飛んで行った。

 

 

 

ポップはレオナたちがいる建物の入り口に到着すると、そこにはレグルスとラーハルトが外で待機していたが、ダイの姿はなかった。

 

「あれ?ダイは?」

「レオナと建物内にいる。ベンガーナに行くことを伝えたところ、ここで待っているよう言われてな…」

「ところでポップ、その装備…マトリフ殿から貰ったのか?」

 

ラーハルトはポップの装備にマントが追加され、武器も変わっていることに気づいた。

 

「おう!師匠がくれたんだ!!!なかなかいいだろ!…まぁ、ベルトは微妙だけど…」

 

ポップはニッと笑いながらマントと武器を見せびらかしていると、屋敷の入り口からダイとレオナが現れ、レグルスたちに近づいた。

 

「あっ!ポップも戻ってきたんだ!」

「みんな、お待たせ!」

 

レグルスは駆け寄ってきたパプニカの女王レオナを見ると疑問を抱いた。

 

「レオナは見送りか?」

「何言ってるのよ!私もダイ君たちとデパートに行くわ!」

「…来るのは構いませんが…配下の者はどうしました?」

 

ラーハルトは女王であるレオナが供を連れず、一人で行動しようとしていることに眉を顰め、苦言を呈した。

 

「大丈夫よ!ほら!」

 

レオナがニッコリ笑いながら屋敷の入り口に視線を向けると、そこには三賢者であるアポロとマリンとエイミ、バダックと数人の魔法使いたちが現れ、レオナたちに向かって手を振っていた。

 

「姫様〜!お気をつけて!」

「ね?みんなの許可は取ってるわ!」

 

レオナはニコッと笑い、ラーハルトはパプニカの部下たちの様子を見ると納得し、頷いた。

 

「許可を取っているなら問題ないか…」

「そんじゃ、ベンガーナのデパートに行くぜ!みんな、集まれ!」

 

ポップの呼びかけに、ダイたちはポップの側に近づいた。ラーハルトはポップに近づきながら魔族とバレないように仮面を付け、フードを被った。一方、屋敷の入り口で主君であるレオナたちを見つめながら、三賢者やバダックたちが会話をしていた。

 

「姫様、城下町に行くと張り切っておられたのう!」

「フフッ…ダイ君たちと一緒にいるのが楽しいのだろう」

 

三賢者やバダックはレオナからパプニカの城下町へダイたちと一緒に行くと聞いており、同じ国内であるため特に疑問を持たず、女王の見送りに来ていた。

 

「あら?なにかしら?一ヶ所に集まって…」

 

エイミは、ポップの周りにレオナたちが集まるのに気づくと疑問を浮かべた。

 

「ルーラ!」

 

エイミたちが見守る中、ポップが魔法を発動すると、レオナを含めた勇者一行は西へ、遠くへ、パプニカの城下町を通り過ぎ、海の向こう側へ向かって飛んで行き、空にはルーラ特有の軌道が残された。

 

「え…?」

「ひ、姫様!!?どこ行くんじゃああぁあ!!!城下町ではなかったんですかあああ!!?」

 

レオナからパプニカの城下町へ行くと聞かされていたエイミたちは、唖然とレオナたちが消えた西の空を見上げ、ルーラで国外へ行ったことに気づき、小さな悲鳴を上げた。

 

「や…やられたわ!!!」

「いつもこうなんじゃ!ワシの隙を狙っては、どっかに出かけてしまうんじゃああっ!!!」

 

エイミたちはレオナにまんまと騙されたことに頭を抱えた。

 

「フッ…それだけ平和になったということだ。ダイ君もいる。大丈夫だろう」

 

唯一、アポロだけは小さく笑うと、レオナが消えた方角の澄み渡った青空を見上げた。

 

 

 

「うわああぁあっ!!!」

 

ポップのルーラで、ダイたちはベンガーナのデパート前広場に、地面に叩きつけられるように到着した。

 

「い、いた〜い!」

「いつっ…わ、わりぃ」

 

折り重なるように倒れたダイたちは、痛みで顔をしかめながら体を起こし、周囲のベンガーナの民たちは、突然現れた彼らの姿に目を丸くしていた。

 

「ポップ!もう少し丁寧に着地しろ!」

「し、仕方ねえだろ!慣れてねえ上に、こんな大人数で着地したことなかったんだからよ!」

 

体を起こしたダイたちは、周囲の奇異の目に気づき、恥ずかしさで顔を赤らめながらそそくさとデパート内に入っていった。

 

「わあ〜!これ全部お店なの!?」

 

ダイは建物の大きさと店内に並ぶ商品の多さに目を輝かせ、キョロキョロと周囲を見回した。

 

「そうよ!これぜーんぶお店なんだから!…あっ!あれ美味しそう!ダイ君、来て!」

「えっ?レオナ?」

 

レオナはダイの手首をつかむと、入り口近くにあったデザートの出店へと引っ張っていき、並んだメニューを眺め始めた。

 

「きゃ〜どれも美味しそう!ねぇねぇ、ダイ君は何にする?」

「え…えっと…これ」

「あっ!それも美味しそう!じゃあ、これとこれね!」

「かしこまりました!」

 

レオナとダイは注文を済ませ、厨房で料理ができあがるのを眺めていた。ふと、レオナが後ろを振り向くと、壁際で待機しているレグルス、ラーハルト、ポップに声をかけた。

 

「あら?レグ君とポップ君は買わないの?ラーハルトは…その仮面つけていると無理そうね」

「私はいい」

「…俺もいらねぇ」

「あらそう?じゃあ、ダイ君、2人で食べましょ!」

 

デザートを受け取ったレオナとダイは近くの席に座り、美味しそうに頬張った。ポップは周囲を見渡し、若いカップルたちが甘いものを食べながらイチャイチャしている様子にゲンナリした。

 

「周りカップルだらけじゃねえか…こんな中で食えるかよ…」

「お前はマァムを誘ってここに来ればいいだろ」

 

ラーハルトは仮面越しにマァムを誘うよう勧め、ポップはその言葉に大いに動揺した。

 

「はあっ!?い…いや、あいつはこんなとこ興味ないだろ!」

「そんなの本人に聞かなければ分からないだろ」

「そ…そうだけどよぉ……マァムと、か…」

 

ポップはマァムと一緒に来るところを妄想しかけたが、ふと視線の先に目をやると、レオナとダイがデザートを食べさせ合っているのが見え、妄想は一気に吹き飛び、頬がひくついた。

 

「はい!ダイ君!一口どうぞ!」

「ありがとう!ん!レオナのやつも美味しいね!レオナもどうぞ!」

「うん!ダイ君のも美味しい!!」

(あれをマァムとやるのか…?いや、無理だろ!俺にはハードル高え!!!てか…ダイのやつ、姫さんとなに普通にいちゃついているんだよ!!!)

 

ポップがムスッと顔をしかめながら、ダイとレオナを羨ましそうに眺めていると、レグルスたちに近づいてくる二人の人物がいた。

 

「レグさん!ラーハルトさん!お久しぶりです!」

「メルル!ナバラ!!!」

 

近づいてきたのは、テランの占い師であるメルルとナバラだった。メルルは笑顔でラーハルトとレグルスを見たあと、ポップにも笑顔を向けて挨拶した。

 

「ポップさん、お久しぶりです!」

「よっ!久しぶり!1年ぶりだな!」

 

ポップは手を挙げ、1年前にテランからここまで一緒に旅したメルルに挨拶した。ナバラは主君のレグルスに近づき、小さくお辞儀をした。

 

「お久しぶりです」

「久しぶりだ、ナバラ殿。よく我らがいることに気付いたな」

「メルルがここにお二人がいると知らせてくれてのぅ。急いで客の相手をして、ここに来たというわけですじゃ」

「我らに気づくとは、流石占い師といったところだな………占いで人を見つける…か…」

 

レグルスは占い師たちを見ながら、毎晩夢に見る女性と子供の姿を思い浮かべていた。

 

「あら?いつの間にか人が増えてる」

「レグ!その人たち誰?」

 

デザートを食べ終わったダイとレオナがレグルスたちに近づき、初対面のメルルとナバラに視線を向けた。

 

「ダイ、レオナ、紹介しよう。2人は我が国の民で占い師をしている」

「初めまして、ダイさん、レオナさん。メルルと申します」

「祖母のナバラじゃ」

「初めまして、俺はダイ!よろしく!こっちは俺の友達のゴメちゃん!」

「ピピィ〜!」

「レオナよ!よろしくね!じゃあ挨拶も済んだし、次行きましょ!せっかくだから新しい服見たいわ!」

 

一行はエレベーターに乗り、服や鎧を扱う階へ向かった。防具の階に降りたダイは、広いフロアに並ぶ服や防具に驚き、キョロキョロと見渡しながら楽しそうに笑った。

 

「わあ!服がいっぱい!…あ!あの鎧、かっこいい!」

「どれにしよっかな〜これと、あれと、それと、あっ、これも可愛い!」

「…姫さん、取りすぎじゃね?」

 

ダイは立派な全身鎧の前をうろうろし、レオナは試着のために服を次々手に取り、ポップは呆れた顔でそれを見ていた。

 

「時間がかかりそうだな…」

 

レグルスは大量の服を抱えたレオナを見て、視線をナバラに向けた。

 

「ナバラ殿、ある人物を探している。占いで見てもらいたい」

「分かりました。では、場所を移動しましょう」

「お婆さま、私も一緒に行きます」

 

レグルス、ナバラ、メルルは普段占いをしている場所へ向かい、ラーハルトは服を見るポップに声をかけた。

 

「ポップ!先に買い物を済ませてくれ!!」

「おう!行ってら〜!」

 

ラーハルトもレグルスの後を追い、人通りの少ない占い場所へと向かった。

レグルスとナバラは、占い用に用意された小さな机を挟んで向かい合って座った。ナバラは懐から水晶玉を取り出し、机の中央に置かれたクッションの上にそっと置いた。

 

「では、始めるとするかのぅ」

「その前に…人探しについて確認したい。占い対象の状況によって、水晶にはどのように映る?生きている場合や亡くなっている場合など」

「まず、生きておりましたらその人物が映り、亡くなっていた場合は亡骸がある場所が映ります」

「もし…その人が実在しない場合は?」

「なにも映りません」

 

レグルスは、脳裏に夢で見る女性と赤子の姿を思い浮かべた。微笑むその表情が、今も鮮やかに記憶に残っていた。

 

「……そうか……始めてくれ」

「では、探し人を強く思い描いて下され!むむむっ〜!」

 

レグルスは水晶をじっと見つめながら、夢で会う女性の姿を強く念じた。その様子を見守っていたラーハルトは、隣にいたメルルに小声で話しかけた。

 

「メルル、聞きたいことがある。少しいいか?」

「ええ、構いませんよ」

 

2人は占いの邪魔にならないよう、そっとその場を離れて階段の踊り場へと移動した。レグルスとナバラは黙って水晶を見つめ続けていたが、やがて水晶が淡く輝き始めた。

 

「見えた!映し出しますぞ!」

「!…ああ」

 

レグルスは、夢で見たあの女性が発見されたと知り、動揺しながらも胸を高鳴らせて水晶を凝視した。やがて水晶の輝きがゆっくりと落ち着き、ぼんやりとした映像が浮かび上がった。そこに映っていたのは、どこかの室内だった。椅子に腰かけ、赤子の人形を抱いた女性が、穏やかな笑みを浮かべている。その顔を見た瞬間、レグルスは思わず目を見開き、胸がドクリと大きく脈打った。

 

(間違いない…この女性だ!毎晩夢に現れたあの女性は!…まさか…実在していたとは!!!それにしても…なんと優しそうな人だ…)

 

レグルスは胸を高鳴らせながら、夢に見た女性の姿をじっと見つめた。そして、女性が抱えている赤子の人形に気づくと、夢に現れる赤子を思い出した。

 

(…この女性が実在するのなら、あの赤子も…近くにいるのでは?)

 

レグルスは水晶を覗き込むようにして、夢で見る赤子の姿を探した。室内にはベビーベッドやぬいぐるみが並んでいたが、赤子そのものの姿はどこにも見当たらなかった。

 

「ナバラ殿、この部屋に他に人は?」

「むむむ〜、…いえ、この女性しか居ないようです」

「そうか…なら、この女性がどこにいるのか、居場所を確認したい」

「分かりました。少しお待ちを…」

 

ナバラが水晶に手をかざすと、映像は徐々に引いていき、女性の姿は見えなくなった。代わりに、森の中にぽつんと建つ、レンガ造りの大きな建物が映し出された。さらに映像が引かれ、上空から森全体が見渡せるようになると、遠くに大きな街が見えてきた。

 

「あの街を見せてくれ」

「分かりました」

 

水晶の映像が切り替わり、大きな街の全景が現れた。海岸には大きな港と巨大な帆船が並び、森に囲まれた街の中央には川が流れていた。その奥には広い広場、さらに奥には堂々たる城がそびえていた。レグルスは、その光景に見覚えがあった。かつてアバンたちと共に旅した時に立ち寄った国だった。

 

「…アルキード王国」

「そのようですな」

(あの女性は…アルキードにいる…!)

「ところで、レグルス様…先程の女性は?」

「………」

 

ナバラが疑問を口にしたが、レグルスは水晶から目を離さず、黙ったまま答えなかった。

 

(…女性が実在していたのなら…もしかしたら…)

 

レグルスは動揺を抱えつつも、夢で見た女性が抱えていた赤子の姿を思い浮かべ、水晶から顔を上げてナバラを真剣な表情で見つめた。

 

「ナバラ殿!次は別の人物を探してもらいたい!」

「…まったく、人使いが荒い王子様だねぇ…。分かったわい、ならその人物を思い描いて下され」

(もし水晶に何も映らなければ、赤子はまだ生まれていない可能性がある。逆に、姿が現れたら――)

 

レグルスは水晶を凝視しながら、夢に出てくる赤子の姿を強く思い描いた。しかし何故か、一瞬だけ仲間のダイの顔が脳裏をかすめた。

 

「出ました!…おや?この子は…」

 

水晶が輝きを放ち、映像が映し出された。そこに映ったのは、今まさにレグルスたちがいるデパートの内部だった。そしてその中心には、鎧を新調したらしいダイの姿が映っていた。

 

「レグルス様、探していたのはこの者ですか?」

「いや…思い描いていた途中で、ダイの姿が頭に浮かんでしまった。…失敗だ。ナバラ殿、もう一度頼む」

「分かりました。今度は探し人だけを思い描いて下され」

「ああ」

「むむむ〜」

 

水晶に映っていたダイの姿が消えると、レグルスは改めて夢に出てくる赤子の姿を思い浮かべ、今度こそダイを思い出さぬよう意識を集中させた。

 

 

 

誰もいない階段の踊り場へ移動したラーハルトは、メルルと向かい合うと、じっと探るように見つめた。

 

「ラーハルトさん、聞きたいこととはなんでしょうか?」

「…その前に、先に伝えておきたいことがある。ダイ様のことだ」

「ダイさん…ですか?」

 

メルルは、ラーハルトがダイを“様”付けで呼んだことに一瞬戸惑いながらも、問い返した。

 

「ああ。実は…ダイ様は――竜の騎士だったんだ」

「ええっ!!?」

 

ラーハルトが少し嬉しそうに打ち明けると、メルルは驚愕して目を見開き、すぐさま首を横に振った。

 

「そ、そんなはずありません!竜の騎士はこの世に一人しか現れないはず――」

「…やはり、レグルス様が竜の騎士なのだな?」

「あっ…!」

 

確信を得たラーハルトは真剣な表情でメルルを見つめた。メルルは一瞬目を泳がせたが、すぐに観念したように肩の力を抜き、静かにうなずいた。

 

「はい…その通りです」

「……なぜ、俺に黙っていた?長年、レグルス様に仕えてきたのは俺だ。それとも…俺が、よそ者だからか……?」

 

ラーハルトは、自分だけが真実を知らされていなかった理由が理解できず、寂しげに目を伏せた。その姿を見たメルルは、慌てて声を上げた。

 

「だ、黙っていたのは、ごめんなさい……でも、違うんです!ラーハルトさんに伝えなかったのは、レグルス様のためだったのです!!!」

「レグルス様のため?」

「はい…」

 

メルルは視線を足下に落とすと、小さな頃のレグルスを思い浮かべた。友達もおらず、いつもひとりで行動していた幼い子供の姿を。

 

「…レグルス様、昔はいつもひとりだったんです」

「レグルス様が?」

「はい…誰かと遊んでいても、実力差がありすぎたのか、つまらなさそうにしていて…それで、そのうち誰とも遊ばなくなってしまって……気づけば、いつもひとりでいるようになってしまっていたんです」

「…」

 

メルルは暗い表情を浮かべながらも、ふいに笑みをこぼし、ラーハルトを見つめた。

 

「でも!ラーハルトさんがテランに来てから、レグルス様、いつも楽しそうなのですよ!」

「俺が来てから?」

「はい!ラーハルトさんはレグルス様の訓練にも弱音を吐きませんでしたし、上達も早かったですから。きっと、それが嬉しかったのでしょうね!王もそのことでラーハルトさんに感謝していました!」

「王が…!」

 

ラーハルトは、レグルスが自分との時間を楽しみにしていたこと、さらにそのことを王も感謝していたと知り、目を見開いた。先ほどまで自分だけ除け者にされていたのではないかと胸を曇らせていた気持ちは消え、代わりに胸の奥に、じんわりとした温かさが広がっていった。

 

「だから…ラーハルトさんに竜の騎士について伝えるのを躊躇してしまったのです。話した結果、ラーハルトさんがレグルス様から離れてしまったら……レグルス様、また一人になってしまいますから…」

「俺があの方から離れるわけないだろ!むしろ…竜の騎士に仕えることを光栄に思ったことだろう!」

 

胸を張って自信たっぷりに言い切るラーハルトの姿を見て、メルルは目を丸くし、そしてくすりと笑った。

 

「ふふっ!ラーハルトさんらしいですね!……ラーハルトさん、レグルス様をお願いします。私たちでは、きっと着いていくことすらできないでしょうから…」

「ああ!もちろんだ!!俺はこれからも、あの方に仕える!!!」

「ああ…よかったで……っ!?」

 

安心したように微笑んだメルルだったが、次の瞬間、突然頭を抱えて体を震わせ始めた。ラーハルトはその異変に驚き、すぐに肩へと手を添えた。

 

「…あ…ああっ…」

「メルル!?どうした!!!」

「…ラーハルトさん!!…何か来るわ…恐ろしい力を持った生き物が…たくさん!…すぐ近くまで来ています!」

「!!!すぐにレグルス様のところへ行くぞ!」

「はい!」

 

ラーハルトとメルルは駆け出し、レグルスとナバラの元へ向かって大声を上げた。

 

「レグさん!おばあさま!敵です!敵がもうじき、ここに現れます!」

「な、なんじゃとおおっ!?」

 

レグルスとナバラは、メルルからもたらされた敵襲の知らせに占いを中断して席を立った。立ち上がった直後、水晶には一瞬だけダイの姿が映っていたが、レグルスはそれに気づかず、ナバラが手を離したことで水晶から映像が消えた。レグルスはラーハルトの錆びついた槍を目にすると、すぐに指示を出した。

 

「ラーハルト!武器屋で槍と剣を購入してくるんだ!」

「はっ!」

 

ラーハルトは武器を求めて駆け出し、レグルスはメルルとナバラの方を振り返った。

 

「我々はダイの元へ向かいながら、人々の避難誘導を行う!」

「!…は、はい!」

 

メルルとナバラは主君であるレグルスの言葉に頷き、ナバラは水晶を懐にしまった。3人はその場を駆け出し、途中で客や店員に敵の接近を伝えながら、ダイたちの元へと急いだ。

 

 

 

武器を扱う階では、『ドラゴンキラー』のオークションが行われ、人々が集まり、活発な取引が行われていた。レオナはダイのために強い武器を手に入れようと、オークションに参加していたが、相手は手強く、なかなか落札できずにいた。

 

「17500!」

「18000!」

 

レオナは思うように落札できない状況に苛立ち、商人を睨みつけ、相手の商人は、馬鹿にしたような笑みを浮かべながらレオナを見ていた。ダイとポップは、どんどん値段が吊り上がる様子に顔を青ざめさせ、止めに入っていた。

 

「ね、ねぇ、レオナ!これ以上はやめよう!」

「予算かなりオーバーしてるじゃねえか!他に何も買えなくなっちまう!その武器は諦めろ!」

「っ〜!!!」

 

ダイとポップが止めようとする中、フロアの離れた場所から、客の走る足音やざわめきが聞こえてきた。

 

「騒がしいな?」

「なんかあったのかな?」

 

2人が後ろを振り返った時、レオナはさらに値段を吊り上げようとしていた。

 

「190…」

「ピピィ!」

「んんっ!!?」

 

レオナが声を上げようとした瞬間、ゴメちゃんが口を塞いだことで、発言は途中で遮られた。

 

「他にいませんね?では!今日の商品ドラゴンキラーは、こちらの商人、ゴッポルさんが落札されました!!」

 

ドラゴンキラーは司会者と購入者の間で金銭のやり取りを終えると、商人の手に渡り、その商人はドラゴンキラーを頭上に掲げて満足げに笑顔を浮かべた。

 

「もう!何するのよぉ!ゴメちゃん!」

「ピイィ〜ッ」

 

レオナは怒ってゴメちゃんを指で小突き、ゴメちゃんは小さく鳴き声をあげた。ダイとポップは大金を使わずに済んだことに安堵し、ホッと息をついた。そこへ険しい表情をしたレグルスが、足早にダイたちのもとへ駆け寄ってきた。

 

「ダイ!ポップ!」

「レグ!どうしたの?」

 

レグルスのただならぬ顔つきを見て、ダイとポップはただ事ではないと察し、緊張した面持ちで問い返した。

 

「魔王軍がここに向かっている!共に迎え撃つぞ!」

「えっ!?」

「な、なんだって!」

 

ダイとポップは思わず声を上げ、近くにいた客もレグルスの言葉に目を見開き、どよめいた。

 

「おい!なんで…敵がここに来るって分かるんだよ?」

 

客の一人が声を上げ、レグルスを疑わしげに見た。その直後――。グラリ、と地面が大きく揺れ、建物全体がきしむ音が響き渡った。

 

「じ、地震か…?」

「うわああぁ!!! みんな外を見ろ!」

 

窓際にいた人の悲鳴で、その場にいた人々は窓辺へと集まり、デパートの外を確認した。外には、ドラゴンの群れとヒドラの姿があり、街を破壊しながら炎を噴き出し、人々を襲っていた。デパートの中は瞬く間に恐怖と混乱に包まれ、人々の顔は一様に青ざめていた。

 

「ドラゴンの軍団…!!!」

「ま、魔王軍の襲撃だ!!!」

 

ダイたちはその姿を見ると、バルジ島で襲ってきた超竜軍団長ガルダンディーの姿を思い浮かべた。

 

「ドラゴンが…5匹に、ヒドラが1匹!」

「超竜軍団なら、あの鳥ヤロウもどっかに居るんじゃねえか?」

「見たところガルダンディーは飛行していないようだ。スカイドラゴンの姿も見えん……隠れているのか?」

「そういえば、レグ、ラーハルトは?」

 

ダイが不在のラーハルトの所在を確認していると、すぐ近くにラーハルトが姿を現した。

 

「俺はここです!」

「うおっ!!!」

 

ラーハルトは新しい剣と槍を手に、嬉しそうに声を上げてダイに報告した。突然の登場に、ポップは驚いて仰け反った。

 

「おめぇ、急に出てくるなよ!」

 

ラーハルトはポップの苦言を気にする様子もなく、ダイに新しい剣を差し出した。

 

「ダイ様、こちら購入した鋼の剣になります!」

「うん!ありがとう!」

「…おーい、無視するな〜。まぁ、いつものことか…」

 

ポップはラーハルトの反省しない態度にため息をついた。ちなみに、ラーハルトがよくポップの近くで突然現れるのは、驚く彼の姿が面白く、つい見たくなってしまうからでもあった。

 

「今回の敵はドラゴンですか?」

 

ラーハルトは窓辺に近づき、外の様子を眺めながら、街を蹂躙するドラゴンの群れを見つめた。

 

「そうだ。あの程度の数なら問題なかろう」

「このメンバーなら倒せそうだね!」

「よし! そんじゃ、さっさと倒すか!」

 

ポップはニッと笑いながら窓枠に乗り、後ろを振り返った。

 

「俺とラーハルトで、ドラゴン共を人がいないところに誘き出して倒す!」

「ああ! それなら仮面を外せるな」

 

ラーハルトは、魔族だとバレないようにつけていた仮面に手を添え、頷いた。

 

「ダイとレグは、あのデカいのを頼む!」

「分かった!」

「任せろ! レオナ、ナバラ殿とメルル殿が避難誘導を行っている。協力して人々の避難を!」

 

レグルスがレオナに避難誘導を頼むと、レオナは片目を瞑って親指を立てた。

 

「ええ! 任せて! みんな頼んだわよ!」

「よ〜し! んじゃ、行くぜ!」

 

ポップはトベルーラを発動し、窓から外へ飛び出すと、そのまま宙を舞ってドラゴンの群れへ向かっていった。ラーハルトとレグルスもすぐさま後に続き、窓から外へ飛び出すと、建物の壁を蹴って軽やかに地面へ着地した。ラーハルトはそのままポップの後を追い、レグルスは下でダイが降りてくるのを待った。

 

「ほら! みんな避難するわよ!」

 

レオナの声を合図に、オークション会場にいた人々は慌てて避難を始めた。

 

「よおしっ! 俺も行くぞおおっ!!」

「ピピィ!」

 

ダイも急いでレグルスの元へ向かおうとしたが、重たい鎧に振り回され、ヨロヨロと窓枠へと歩み寄った。

 

「あ…あれ?…ぬあっ!…とっ…!!」

 

なんとか片足を窓枠にかけたものの、鎧の重さで体勢を崩し、足を踏み外してしまった。

 

「うわあああ!!!」

「ピイイイッ!!?」

「ダイ!!?」

 

大きな音と共に、ダイはデパートの外の地面へ落下し、人型の深い穴を作って勢いよく埋まってしまった。レグルスは慌てて駆け寄り、ゴメちゃんも羽ばたいてダイの元へ向かった。

 

「ピピィ〜?」

「ダイ、無事か?手を出せ」

 

レグルスは穴に腕を突っ込んでダイの手を掴み、引き上げた。地面から引っ張り出されたダイは目を白黒させながらも、息を整えると勢いよく兜を脱ぎ捨てた。

 

「ええいっ!!! もうこれじゃあダメだ!!! 動きづらくって!!!」

 

険しい顔をしたダイは、サイズの合わない鎧の部品を次々に取り外し、地面に投げ捨てていく。そして動きやすくするため、必要最低限の装備だけを身につけ直した。

 

「…ホイミ」

 

レグルスは心配そうな表情を浮かべつつ、小さく呪文を唱えてダイに治癒魔法をかけた。装備を整え終えたダイは、レグルスとゴメちゃんの方を振り返った。

 

「よし! 行くぞ! レグ! ゴメちゃん!」

「ああ!」

「ピィッ!」

 

ダイたちは、ヒドラが迫っているデパートの入り口へ向かって駆け出した。

 

 

 

デパートから避難したレオナは、外の広場で周囲の人々を見渡し、人混みの中にメルルとナバラの姿を見つけると、そちらへ駆け寄った。

 

「メルル!」

「あっ…えっと…レオナさん…でしたね?」

「ええ、そうよ!デパートのみんなは避難できたか、分かる?」

「恐らく大丈夫かと…デパート内には人の気配は感じられないので…」

「良かった!間に合ったようね!」

 

レオナがホッと息をついたそのとき、周囲がざわめき出した。

 

「き、来たぞ!ヒドラだっ!!!」

「なんて大きさだ!」

 

人々が指差す先では、港から上陸したヒドラが周囲の建物を破壊しながら進み、デパートに近づくと、首を伸ばして外壁を破壊し始めた。建物の一部が崩れ、瓦礫が地面に落ちていったが、下には誰もいなかったため、怪我人は出なかった。

 

「デ、デパートが…!」

「メラッ!!!」

 

人々が顔を青ざめさせながらヒドラを見上げていると、ヒドラの五本ある頭のうち一つにメラが命中した。

 

「グルルルッ!!!」

 

攻撃を受けたヒドラは、建物の破壊を中断して地面に視線を向けた。

 

「ダイ君!!!」

「レグさん!」

 

レオナ、メルル、ナバラ、そして人々の視線の先には、ヒドラの足元で剣を構え、対峙しているダイとレグルスの姿があった。

 

「グルルルッ!!!」

「俺たちが相手だっ!!!」

 

ヒドラは低く唸りながら、口から小さく火を吹いて威嚇し、足元にいる人間の子供たちに敵意を向けた。ダイとレグルスは険しい表情でヒドラを見上げ、その巨体を睨みつけた。




レグルスの性格は、登場初期と比べて少し子供っぽくなり、感情的で人間らしくなっています。
ラーハルトは、バランの生まれ変わりと家族になれたことが嬉しくて、ちょっとテンションが上がっています!
レオナとダイ君には、せっかくなのでデートっぽい描写を入れてみました!平和な時間は少ないですからね…楽しめるときに存分に楽しんでもらいます!

報告:誤字脱字修正しました!報告ありがとうございます。
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