ダイの大冒険 ―次世代の竜の騎士ー   作:キャットテールの鈴

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ベンガーナに突如現れたヒドラとドラゴンの群れ。ダイたちはベンガーナの街と人々を守るため、ヒドラやドラゴンとの戦いに挑む。


46_竜の騎士編_ベンガーナの戦い

デパート前の大広場で、五本の頭を持つヒドラと対峙したダイとレグルスは、剣を構えて立ちはだかった。周囲ではレオナ、メルル、ナバラをはじめ、多くの人々が固唾を飲んで見守っていた。

 

「行くぞっ!!!」

 

ダイは気合いの声を上げて地を蹴り、大きく跳躍した。ヒドラの頭上を越えるほど高く舞い上がり、その鋼鉄のように硬そうな鱗を鋭く見据えた。

 

(ドラゴンの皮膚は鋼鉄並み!狙うなら顔面しかない!)

 

デパートの壁を蹴って反動を得たダイは、ヒドラの頭めがけて急降下した。その瞬間、レグルスがダイに向かって指を伸ばし、魔法を放った。

 

「バイキルト!!!」

 

ダイの攻撃力は2倍になった。

 

「たあああっ!!!大地斬!!!」

 

ヒドラの顔面に剣が振り下ろされると、硬い皮膚を裂き、そこから蒼い血が勢いよく噴き出した。

 

「グオオオッ!!?」

 

攻撃を受けた頭は苦悶の叫びを上げ、のけ反った。別の頭が怒りの形相でダイを狙い、首を伸ばして襲いかかろうとしたが、ダイはその頭を素早く足場にして踏みつけ、一瞬でかわした。しかし、避けた先でさらに別の頭が口を開き、炎を吐こうとしていた。

 

「グオオッ!!!」

「くっ!」

 

ヒドラの口から火炎が吐き出された次の瞬間――。

 

「海波斬!!!」

 

レグルスが放った斬撃がダイを襲う炎を切り裂いた。助けられたダイは壁を蹴って跳ね上がり、火を吐いたヒドラの大きな目を狙って剣を振り下ろした。

 

「うおおおっ!!!火炎大地斬!!!」

「ギャオオオオ!!?」

 

ヒドラの左目は切り裂かれ、炎で焼かれたことで血は流れなかったが、大きな痛々しい傷が刻まれた。

 

「グルルルッ!!!」

 

怒ったヒドラはダイに向かって歯を剥き、唸り声を上げた。ダイはレグルスの隣に着地し、彼に視線を送った。

 

「俺たちだけでヒドラを倒せそうだね!」

「ああ!このまま攻撃を続けるぞ!」

 

ダイとレグルスは頷き合い、再びヒドラに向かって同時に駆け出し、敵の攻撃を巧みにかわしながら、次々と技を繰り出していった。離れた場所でその戦いぶりを見ていた人々は、目を疑うような光景に驚き、思わず目を見開いた。

 

「し、信じられん!あんな小さな子供が…大きなヒドラ相手に戦っているなど…!」

「しかも、子供たちの方が押してるぞ!」

 

唖然とした表情で見守っていた人々の中から驚きの声が上がり、それを聞いたレオナはまるで自分のことのように誇らしげに胸を張った。

 

「ふふん!でしょ!私の仲間は凄いんだから!!」

「ダイさん、レグさん、頑張って!」

「流石、といったところじゃな!」

 

レオナ、メルル、ナバラは仲間たちの勇姿に嬉しそうな声を上げた。

 

 

 

ラーハルトは空を飛ぶポップを追いかけながら走り、人のいない街の外へと出た。背後を振り向き、追いかけてくる五匹のドラゴンに対して鼻で笑った。

 

「おい!五匹もいて俺を捕まえられないのか?俺は本気出してないんだぞ?」

「グルルルッ!!!」

 

煽られたドラゴンが怒りの咆哮とともに炎を吐いたが、ラーハルトは涼しい顔で身をかわし、再び鼻で笑った。上空を飛ぶポップは周囲を見渡し、人や建物がないのを確かめると、魔弾銃を構えて声を張り上げた。

 

「ラーハルト!ここらでやるぞ!離れろ!」

「ああ!」

 

ラーハルトはわざとスピードを落とし、噛みつこうと迫ってきたドラゴンの頭を蹴り上げると、目に見えないほどの速さでその場から離れた。ドラゴンは突如として標的を見失い、立ち止まってキョロキョロと辺りを見渡した。ポップはニヤリと笑いながら、魔弾銃の銃口をドラゴンたちに向けた。

 

「ここは一気に大呪文で決めてやらあ!!!喰らえ!ベタン!!!」

 

ポップがトリガーを引くと、魔弾銃から放たれた超重力場がドラゴンたちを襲った。強烈な重圧が上空から押し寄せ、五匹のドラゴンを含めた周囲の地面を押し潰し、大きなへこみを作った。ドラゴンたちは動けず、苦しみながら地面に押し付けられた。やがて重力場が収まると、五匹のドラゴンは動かなくなり、ポップは敵を倒したことで腕を振り上げ、喜びの声を上げた。

 

「いえ〜い!やったぜ!流石、大魔道士マトリフ直伝の呪文だ!」

「…凄まじい威力の呪文だ。今のは魔弾銃から出したのか?」

 

ラーハルトはポップの足元付近に姿を現し、大きくへこんだ地面と動かないドラゴンたちを驚きながら見た後、ポップを見上げた。

 

「おう!この呪文、本当なら消費する魔力が多いんだ。けどよ!こいつのおかげで魔法力を消費せずに魔法が出せるって訳──」

「グオオオッ!!!」

 

ポップが自慢げに魔弾銃の説明をしていたその時、倒しきれていなかった二匹のドラゴンが唸り声を上げて復活し、ラーハルトに向かって突進してきた。

 

「ありゃ?一発じゃ仕留めきれなかったか」

「俺がやる。地雷閃!!!」

 

ラーハルトは槍を構え、突進してくるドラゴンに向かって勢いよく槍を振り下ろした。

 

「グオオォ……」

 

切り裂かれた二匹のドラゴンは血を流しながら地面に崩れ落ち、動かなくなった。ラーハルトは、攻撃の勢いでずれた仮面を手で押さえ、元の位置に戻した。

 

「すげぇ、一撃で倒しちまった!」

「ポップの魔法で敵の体力が少なかったからな……よし!ダイ様たちのもとに戻るぞ!」

「おう!」

 

ポップは飛行してデパートの方へと向かい、ラーハルトも走ってダイたちの元へ戻っていった。

 

 

 

ベンガーナで人間に見つからないよう身を潜めていた魔王軍の死神キルバーンは、ドラゴンたちが劣勢に追い込まれている状況を見て、指を口元に当てながら小さく笑った。

 

「ウフフッ…あの数のドラゴンでは竜の紋章を見ることは出来なさそうだねぇ…」

 

自らが指揮するドラゴンたちが不利な状況に陥っているにもかかわらず、キルバーンは楽しげに笑うと、肩越しに控えている相棒ピロロを見つめた。

 

「キャハッ!キャハッ!キャハッ!入念に準備しておいて良かったね!」

 

ピロロはキルバーンの肩の上から、楽しげな笑い声を上げた。

 

「ウフフッ!本当にねえ…多めに連れて来て正解だったよ」

 

キルバーンはますます愉快そうに笑い、ピロロはニヤリと不敵な笑みを深く刻んだ。

 

 

 

デパートの前では、ダイとレグルスがヒドラを相手に善戦しており、レオナたち人々は、離れた場所からその様子を固唾を飲んで見守っていた。

 

「グルルルッ!!!」 

 

ヒドラの頭の一つが口に火を溜め始めると、レグルスもそれに合わせて左手に魔力を集め、敵の攻撃を避けつつ口元へと駆け寄った。そして、ヒドラが口を開いて炎を噴き出そうとした瞬間、レグルスは至近距離からその口内に向かって魔法を放った。

 

「イオ!!!」 

 

噴き出すはずだった炎は、イオの爆発により行き場を失い、ヒドラの首内側で大きく膨張して爆発した。首は血と肉を撒き散らしながら吹き飛び、千切れた巨大な頭部が地面に転がった。

 

「ひっ!!!」 

 

その光景を目の当たりにしたベンガーナの人々から、小さな悲鳴が上がった。彼らは首を吹き飛ばしたレグルスを、恐怖で顔色を変えながら見つめていた。

 

「よし!あと首は四本だね!」

 

ヒドラの五本ある首のうち一本は消し飛び、残りの四本も皮膚が切り裂かれ、大なり小なりの傷を負っていた。ダイは有利な状況に笑顔を浮かべ、レグルスも頷いて応えた。

 

「この調子で残りの首も―」

「うわあああ!!!」

「なに?」

「今の悲鳴は!?」

 

ダイとレグルスがヒドラと対峙していると、離れた場所から人々の叫び声が上がり、二人は声の聞こえた方――広場の奥を注視した。

 

「ド、ドラゴンだあぁあ!!!ドラゴンが現れたぞっ!!!」

「に、逃げろーーー!!!」

「グオオオッ!!!」

 

二人の視線の先には、別の通りから三匹のドラゴンがデパートの大通りへと向かってくる姿が見えた。人々はそれに気づくと、恐怖の叫びを上げたり、慌てて逃げ出したりと、広場は一気に混乱に包まれた。

 

「あ、あっちからもドラゴンが…!」

 

ダイは顔を青ざめさせ、レグルスは大勢の人々がいる周囲を見渡しながら、険しい表情を浮かべた。

 

(ここで戦えば犠牲者が出るかもしれん…!別の場所へ誘導するか)

 

そう判断したレグルスは、三匹のドラゴンに向かって駆け出し、振り返ってダイに声をかけた。

 

「ダイ!ドラゴン三匹は私に任せろ…!ダイはヒドラを頼む!!!」 

「分かった! こいつの相手は任せて!!!」 

 

新たに現れたドラゴンたちは、レグルスが一直線に向かってくるのに気づくと、腕を振り上げ、爪で切り裂こうと攻撃を仕掛けてきた。

 

「イオ!」

 

レグルスは攻撃を受ける前に魔法を放ち、その爆風を利用して大きく跳躍すると、ドラゴンたちを飛び越えて背後に着地した。続けざまに、レグルスはドラゴンの背後に手のひらを向けて、再び魔法を放った。

 

「ギラ!」

 

背中を炙られたドラゴンたちは、低く唸り声を上げた。

 

「グルルル…!」

「こっちだ!来い!」

 

呪文によるダメージは大きくなかったが、煽られたことで三匹のドラゴンは歯を剥き出しにして唸ると、レグルスに向かって突進してきた。レグルスはその様子を確認しながら、彼らが元いた通りへと走り出し、多くの人が集まる大通りからなるべく引き離すために、通りを駆け抜けていった。

 

「レグなら大丈夫だと思うけど……俺も、こいつを倒したら助けに行かないと!」

「グルルルッ!」

 

ダイはヒドラを鋭く睨みつけると、駆け出して剣を振り上げ、連続して攻撃を仕掛けた。

 

「大地斬!!!」

 

ダイが何度かヒドラに攻撃を加えていた頃、広場にいる人々の中から新たな悲鳴が上がった。

 

「うわあああ!!!」

「また、ドラゴンが現れたぞ!!!」

「あ、あっちにもいるぞ!!!」

「!!!」

 

ダイは一度ヒドラから距離を取り、周囲を見渡した。すると、街のあちこちで悲鳴や炎が上がっているのが目に入り、さらに遠くからは建物が壊れる音まで聞こえてきた。

 

「そ、そんな……!」

 

街全体にドラゴンが出現し、人々を襲っている状況に気づいたダイは、顔色を失った。

 

 

 

「うわあああっ!」

「助けて!!!」

 

ラーハルトは目にも留まらぬ速さで駆け出すと、槍を回転させながら人々に襲いかかろうとしたドラゴンの首めがけて技を放った。

 

「ハーケンディストール!!!」

 

ラーハルトが通り過ぎた直後、ドラゴンは大きく切り裂かれ、血を噴き出して地面に倒れた。

 

「……仮面をつけて戦う余裕はないようだな」

 

戦いの中で落とした仮面を拾い上げ、懐にしまうと、代わりにテランの紋章が刻まれたブローチを服に留めた。その様子に気づいたポップは、高度を下げながら焦った様子で声をかけた。

 

「ラーハルト!オメェ、仮面つけなくても大丈夫なのか?」

「この状況では仕方あるまい。ドラゴン相手に手加減などできないからな……何か言われたら、身分を証明すればいい」

「……そうだな、この状況じゃあな……」

 

ラーハルトとポップは険しい表情でベンガーナの街を見渡した。

街では複数のドラゴンが各地に出現し、人々を襲っていた。もはや街の外に誘い出す余裕などなく、一刻も早く対処せねばならない状況だった。

 

「かなりの数がいやがる……!いったい、どこから湧いてきやがった!?」

「俺は近くの敵を片っ端から片付ける!ポップは──」

「おう!俺は魔法で牽制して、ドラゴンをラーハルトのところまで誘導する!街の中じゃ、ベタンも使えねぇしな……!」

「それでいい……行くぞ!」

 

ラーハルトは悲鳴が上がっている方向へ駆け出し、ポップは飛行して建物を越えながら、遠くにいるドラゴンの元へ向かった。

 

「くっそ!効率悪いな……!」

 

ポップは数体のドラゴンに魔法を撃ち込みながら牽制し、ラーハルトのもとへ誘導していたが、思うようにいかず顔をしかめると、上空から改めて周囲を見渡した。

 

「!!!やべぇ!」

 

ポップは離れた場所で、5匹のドラゴンが人々の集団へ向かって走っていくのを見つけると、血相を変えて飛行して追いかけた。ドラゴンたちは建物が立ち並ぶ通りを突き進み、通りにいた人々は近づいてくる巨体に気づくと悲鳴を上げて逃げ出していた。

 

「っ〜!もう、建物が壊れるとか気にしてらんねぇ!」

 

5匹のドラゴンはすでに人々の目前に迫っており、ラーハルトのもとへ誘導する余裕はなかった。ポップは即座に魔弾銃を構えると、ドラゴンの集団に向けてトリガーを引いた。

 

「ベタン!!!」

 

上空から放たれた魔法により、ドラゴンたちを中心に超重力場が発生した。4階建てのアパートが立ち並んでいた通りでは、ガラスやレンガが砕ける音を立てながら、一瞬で建物が半壊し、瓦礫となって地面に押し潰された。

 

「……建物が、一瞬で……」

 

通りにいた人々は、ドラゴンを押し潰しアパートを破壊した空飛ぶポップの姿を見て、顔色を失った。やがて重力場が消えると、辛うじて生き残った2匹のドラゴンがゆっくりと動き出し、そのうちの1匹が口に炎をため始めた。

 

「……グルルルッ!」

(たしか、ドラゴンが火を噴く前に──!)

 

ポップは、以前レグルスが語っていた倒し方を思い出しながら、ドラゴンの口めがけて飛行すると、ためていた魔力を口内へ向けて放った。

 

「イオラ!!!」

 

ドラゴンの口内で爆発が起き、首は血と肉を撒き散らしながら吹き飛んだ。千切れた首は転がり落ち、地面に落ちた。ポップはその血を頭から浴びながらも、もう1匹の口元へと飛ぶと、少し開いていた口に自らの腕を突っ込み、魔法を唱えた。

 

「ベギラマ!!!」

 

口内で炸裂した炎によってドラゴンの頭部は四散し、血肉が周囲に飛び散った。

 

「ひっ!!!」

 

ドラゴンとポップの戦いを見ていた人々は、首が吹き飛び、血と肉片が撒き散らされた光景に、恐怖の悲鳴を上げた。

 

「うえっ……頭から血を被っちまった……水浴びしてぇ……」

 

ポップは顔についた蒼い血を腕で拭いながら、自分を見つめる人々の恐怖に染まった視線に気づいた。

 

(あちゃ〜、驚かせちまったか……俺も一年前だったら、あんなふうにビビってただろうな……)

 

そう思いながらも、ポップは気にすることなく空中に浮かぶと、人々に向かって声を張り上げた。

 

「オメェら!まだドラゴンはいるんだ!安全な場所に隠れてろよ!」

 

そして高度を上げ、再び周囲を見渡した。

 

「よし!あと少しだな!」

 

街に残るドラゴンの数は10匹以下にまで減っていた。ポップは遠くに見えるドラゴンのもとへ向かい、再び飛行を開始した。

 

 

 

デパート前では、ダイはヒドラと激しい攻防を繰り広げていた。そのとき、別の通りから新たに2匹のドラゴンが現れ、広場にいた人々へ襲いかかろうとする姿が横目に入った。ダイはヒドラの攻撃をかわしながら、走っていくドラゴンと人々を見て大声で警告した。

 

「危ない!!!」

「ヒャダルコ!!!」

 

レオナが魔法を放つと、襲いかかろうとしたドラゴンは氷に包まれ、動きを止めた。しかし、氷漬けになりながらもドラゴンは止まらず、体に張りついた氷を砕きながら唸り声を上げた。

 

「グルルルッ!」

「ダイ君!こっちは大丈夫だから、そっちに集中して!」

 

レオナは叫ぶと、周囲にいる戦士の格好をした人々に向けて声をかけた。

 

「みんな!協力してこいつらを倒すの――」

「うわあああ!!!ドラゴンだっ!!!」

「逃げろー!」

「誰か私を助けてー!!!」

 

だが、人々は恐怖に駆られてパニックになっており、レオナの声に耳を貸す者はいなかった。

 

「もう!なんでこれだけ人がいるのに、誰も一緒に戦わないのよ!?自分たちの街でしょ!?自分たちで守りなさいよ!きゃっ!!!」

 

レオナは街を守ろうとせず逃げる人々に文句を言っていたところ、ドラゴンが腕を振り下ろして攻撃してきた。レオナは慌てて身を翻して避けたものの、鋭い爪の先で足を引っかかれ、痛みに顔をしかめた。

 

「痛っ!!!」

「レオナ!!!」

 

ダイがレオナに意識を向けた瞬間、ヒドラの1本が首を伸ばし、ダイの鋼の剣に噛みついた。

 

「グルウゥ!!!」

「!!!くそっ、離せっ!!!」

 

ダイは剣を取り返そうと魔法を唱えかけたが、別の頭がダイに向かって噛みつこうとしたため、反射的に回避を優先し、剣から手を離してしまった。

 

「くっ!剣を取られた……!」

 

ヒドラは奪った剣を地面に落とすと、その巨大な足で押さえつけ、ダイが取り戻せないよう踏みつけた。

 

「グォオオオッ!!!」

 

4本の首を一斉に伸ばし、無防備になったダイに向けて連続攻撃を繰り出してきた。

 

「ぐうううっ!!!」

 

ダイはヒドラの噛みつき攻撃を必死にかわしていたが、伸びてきた一本の首を避けきれず、強烈な頭突きを受けてしまった。怯んだ隙を見逃さず、ヒドラはその首をダイに巻きつけ、締めつけながら宙に持ち上げた。

 

「ぐ、うあああぁあっ!!!」

「ダイ君!!!」

 

凄まじい力で絞め上げられ、ダイは苦悶の悲鳴を上げた。レオナもその様子に焦りの声を上げたが、彼女自身も危機に陥っていた。

 

「グオオオッ!!!」

「ヒャダルコ!!!」

 

向かってくるドラゴンに、レオナは再び氷の呪文を放った。しかし、氷をまとったドラゴンはそれでも動きを止めることなく突進してきた。物陰に隠れて様子をうかがっていたメルルとナバラは、ふたりの窮地に顔色を失っていた。

 

「ダイさん!レオナさん!」

「も、もうダメじゃ……!」

 

ドラゴンはレオナに迫り、巨大な爪を振り下ろそうとした。

 

「レオナッ!!!…っ…ぐううう!!!」

「!?」

 

締めつけていたヒドラは、巻きつけた首に強大な力がかかるのを感じて驚愕し、ダイを凝視した。

 

「うおおおっ!!!」

 

ダイは爆発的な力を解放し、締めつけられていた首を渾身の力で引き裂いた。ヒドラの一首は千切れ、血飛沫を撒き散らしながら地面へと落ちていった。拘束から解き放たれたダイの額には、青く輝く竜の紋章が鮮やかに浮かび上がっていた。

 

ダイはヒドラの胴体を蹴りつけ、一気に距離を詰めると、迷わずレオナのもとへ駆け寄った。そして、彼女に襲いかかろうとしていたドラゴンの頭上へ跳び上がり、空中から膝蹴りを叩き込んだ。重い衝撃音とともに、ドラゴンの巨体は頭から地面へ激しく叩きつけられた。

 

「!!!あ…あれは…竜の紋章!?本当に……ラーハルトさんの言っていた通りだわ!!!」

「そ、そんな……ば、馬鹿な!ありえん!なぜあの者に、紋章が……!?」

 

メルルとナバラは、ダイの額に浮かぶ竜の紋章を震えながら見つめ、言葉を失いかけていた。ダイは倒れているレオナを振り返り、真剣な目で叫んだ。

 

「レオナ!ここは俺に任せて、離れていろ!」

「!…え、ええ!」

 

いつになく真剣な表情のダイを見て、レオナの胸は思わず高鳴った。ダイは地面に落ちていたドラゴンキラーを拾い上げ、装備すると、ドラゴンとヒドラを鋭い眼差しでにらみつけた。

 

「――ああっ!わしのドラゴンキラー!!!」

 

離れた場所から、ひとりの商人が悲鳴を上げたが、戦いに集中しているダイはその声に気づくことはなかった。

 

 

 

レグルスはドラゴン3匹を引きつけながら、狭い通りを走っていた。通りはドラゴン1匹がやっと通れるほどの幅しかなく、ドラゴンたちは1列に並んでレグルスを追いかけていた。

 

「グルルルッ!!!」

(よし!この狭さなら1対1で戦うことが可能だ!)

 

走り続けていたレグルスは後ろを振り向き、攻撃のタイミングをはかっていた。すると前方、進行方向から子供の叫び声が聞こえてきた。

 

「お父さん!しっかり!しっかりして!」

「!この声は…」

 

前方に視線を向けると、通りの先の壁際に倒れた親子の姿が見えた。父親と思われる男性は気絶して地面に横たわり、腹部の裂傷からは血が流れ出していた。子供はその傍らで泣きながら、必死に父親に呼びかけていた。レグルスはその危機的な光景に目を見開いた。

 

(まずい!これ以上進めば、あの親子を戦闘に巻き込む…!ここでドラゴンを倒す!)

 

レグルスは急停止すると反転し、ドラゴンに向かって駆け出した。先頭のドラゴンは、突然向かってきたレグルスに動揺し、その隙を逃さず、レグルスは爆炎を纏った剣をドラゴンの口に向かって振り下ろした。

 

「爆裂大地斬!!!」

「グオオオッ!!?」

 

先頭のドラゴンは口から煙を吐きながら気絶した。レグルスはその体を踏み台にして跳び越えると、次のドラゴンと対峙した。

2匹目のドラゴンが口に火を溜め始めた瞬間、レグルスは素早く魔法を放った。

 

「イオ!!!」

 

魔法はドラゴンの口内に命中し、首が内側から膨張して爆発した。首は吹き飛び、ドラゴンは即死した。蒼い血が降り注ぐ中、レグルスはさらに跳躍し、3匹目のドラゴンへと迫った。

最後尾のドラゴンは腕を振るい、鋭い爪で攻撃を仕掛けてきた。

 

「グオオオ!!!」

「はあああっ!!!」

 

レグルスは紙一重で爪を避け、攻撃の隙を突いてドラゴンの眼球に剣を突き立てた。

 

「ギャオオオ!!?」

 

激痛に暴れ回るドラゴンに振り落とされまいと、レグルスは剣の柄を強く握りしめ、続けて魔法を唱えた。

 

「ヒャド!!!」

 

剣の刃先から冷気が流れ出し、眼球、そしてその奥の脳を直接凍らせた。激痛で暴れていたドラゴンは突如、ピタリと動きを止めると、巨体を横に倒して絶命した。レグルスは剣を眼球から引き抜くと、先頭で気絶していたドラゴンの元へ戻り、止めを刺した。

 

(これで近くの敵はすべて倒した…すぐにダイの元へ向かうべきだが…)

 

少しの間だけ逡巡した後、レグルスはドラゴンの死骸を避けて、怪我を負った親子のもとへ駆け寄った。

 

「ひっ!!!」

 

子供は涙を流しながら、血に濡れたレグルスを怯えた目で見つめた。レグルスはその反応にわずかに動揺しつつも、相手を怖がらせないよう、落ち着いた声で話しかけた。

 

「…私は治療魔法を使うことができる。怪我を癒すことも可能だ。よければ、その者を見せてもらってもよいか?」

「怪我治せるの!?お、お願い!お父さんを助けて!」

「ああ、少し離れてなさい。ホイミ!」

 

レグルスは膝をつき、男性の腹部に向けて癒しの魔法をかけた。傷は大きく裂けており重症だったが、魔法を重ねるごとに血は止まり、傷口は徐々に塞がっていった。

 

(…もう少し遅ければ、この者の命はなかった)

「ねえ、お父さんは…助かるよね?」

「ああ、命に関わる傷は塞いだ。問題ない」

「良かった…お父さん……グスッ…」

 

子供は泣きながら父親の頭を抱きしめた。レグルスはその幼い背中に目を留め、なぜかダイの姿をふと思い浮かべた。悲しむ後ろ姿に、気づけばレグルスはそっと子供の背に手を置き、慰めるように優しくポンポンと叩いていた。

 

「っ…!」

 

その瞬間、突如として頭痛が襲い、レグルスは手を子供の背中から額へ移した。ズキズキと痛む額に指を添えながら、ダイの姿を思い浮かべた。

 

(この頭痛…ダイ、竜の紋章を出したのか…)

 

しばらくして、遠くデパートの方角から雷が落ちるような音が響き、それと同時に頭痛が引いていった。レグルスはその変化に、ダイの勝利をなんとなく感じ取った。

 

(どうやらダイは勝ったようだな…こちらも、もう少しで治療が終わる…)

 

治療を続けた結果、傷は完全に塞がった。レグルスは回復魔法を止め、静かに言った。

 

「傷は塞がった。もう大丈夫だ」

「よかったあ……?…でも…お父さん、目、覚めないよ…?」

「疲れているのだろう。休ませてあげなさい。しばらくすれば自然と目を覚ます」

 

そう言って体を起こしたレグルスは、ゆっくりと周囲を見渡した。

 

「あとは、休める場所へ―!」

 

レグルスの視線の先、通りの先では、人々が壁の陰からこちらを窺っていた。顔は恐怖に引き攣り、一定の距離を保ったまま、怯えるように様子を伺っていた。声は届かなかったが、その口元の動きから、レグルスは彼らが何を口にしているのかをはっきりと悟ってしまった。

 

『化け物』

 

その言葉が胸に突き刺さり、レグルスは思わず視線を逸らすように背を向けた。

 

「………あとは、近くの大人を頼りなさい。私は行く」

「え?」

 

子供が不思議そうに聞き返したが、レグルスは振り向かず、ダイがいるデパートへ向かって、駆け出した。走りながら、先ほどの人々の視線と口元の動きが頭から離れなかった。

 

『化け物』

「…っ…!」

 

レグルスの胸は苦しさで締めつけられ、心臓がドクドクと高鳴っていた。

 

 

 

ダイはドラゴン二匹とヒドラを倒した後、人々の近くにいたレオナに駆け寄った。

 

「レオナ、怪我は大丈夫?」

「ええ!治療は済んだから大丈夫よ!」

 

レオナはダイを安心させるように、親指を立ててウィンクした。それを見たダイは安堵の表情を浮かべ、彼女から視線を外して周囲を見渡した。

 

「他の人は大丈夫――」

 

言いかけたその時、ダイの言葉が止まった。周囲には、多くの人々が遠巻きにこちらを見ていた。だが、その表情は一様に引き攣っており、恐怖の色が濃く浮かんでいた。ダイはその視線に気づいた瞬間、心臓がドクリと嫌な音を立て、冷や汗が頬を伝った。

 

「ど…うしたの?…なんでみんな…俺のことをそんな目で見るんだよ…!」

「それは君が人間じゃないからさ…!」

 

突如、不気味な笑い声が響き渡り、ダイとレオナは一気に警戒心を強めた。人々も不安げに周囲を見回していた。

 

「君のあまりに人間離れした戦いぶりを見て、みんなビビっちゃったのさ…勝手な奴らだよねえ、人間って。自分たちの街を守ってもらったくせに…!ウッフッフッフッ…!」

「だ、誰!?」

「!!!そこだ!」

 

ダイは素早くドラゴンキラーを声の聞こえた壁へ向けて投げた。武器は勢いよく壁に突き刺さり、次の瞬間、その壁から黒い手が伸びてドラゴンキラーを掴み、ゆっくりと引き抜いた。やがて、壁の中から全身黒ずくめの、不気味な男が姿を現した。

 

「ウフフフフフッ!!」

「ま、魔王軍か!?」

 

ダイは現れた異様な風貌の男を睨みつけた。

 

「ボクの名はキルバーン。タチの悪い友達は“死神”なんて呼ぶけどね…」

「死神…キルバーン!!」

 

ダイは街を襲ったのがドラゴンだったにもかかわらず、超竜軍団長ガルダンディーの姿が現れないことに疑問を抱いた。

 

「ガルダンディーはどうした!?」

「彼はここにはいないよ。別の仕事の準備で忙しくてね。軍団長の代わりにボクが来たってわけさ。実は魔王軍でも君の正体が話題になっていてねぇ…超竜軍団から竜を借りて、君の正体を見極めることになったのさ。まぁ、目的はそれだけじゃないけどね…」

「俺の正体…!それって、竜の騎士のことか!?」

 

キルバーンは、ダイがすでに自らの正体に気づいていたことに少し驚いた様子を見せた。

 

「おや?…自分の正体が竜の騎士って知っていたのかい?…なら、あまり人間に肩入れしない方がいい。なんせ――」

 

キルバーンは楽しげに笑いながら、ダイに視線を向けた。

 

「君と同じ、先代の竜の騎士…君の父親は命懸けで人間を守ったけれど、最期はその人間に処刑されちゃったからねぇ…ウフフッ!」

「…………えっ?」

 

ダイはその言葉の意味をすぐには理解できず、呆然と立ち尽くした。しかし、キルバーンが壁の中へ戻っていくのを見ると、我に返って声を荒げた。

 

「ま、待て!俺の父親ってなんだ!?それに…人間に、しょ、処刑されたって…どういうことだ!?」

「そのままの意味さ。君も命懸けで人間を守ったはいいけど…最期はその守った人間に殺されないといいね。ああ、それともう一つ。君のために、とっておきの舞台を用意するよ。君を地獄へ誘うために…ね。お楽しみに…ウフフッ」

 

キルバーンは手にしていたドラゴンキラーを地面に投げ捨てると、そのまま壁の中へと姿を消した。地面に落ちたドラゴンキラーは、煙を上げながらみるみる腐食し、見る影もなくボロボロになった。

ダイは消えたキルバーンの方を睨みながら、先ほどの言葉を混乱の中で反芻していた。

 

(あいつは…俺に、父さんがいたって……でも……レグは、竜の騎士はマザードラゴンから生まれるから、父親はいないって……それに……あいつ、竜の騎士が人間に……処刑――)

「ダイ君、大丈夫?」

「ダイ、怪我はないか?」

 

思考に沈んでいたダイは、レオナと、いつの間にか戻っていたレグルスの声で我に返った。二人は心配そうにダイを見つめていた。

 

「…うん…怪我はないよ…」

「………」

 

ダイは目を伏せ、小さな声で答えた。その元気のない様子に、レオナとレグルスはわずかに眉をひそめた。そして、少しでも励まそうと、レオナはダイの隣に並んでそっと背中をポンポンと叩き、レグルスはダイの頭に手を置き、優しく撫でた。

 

「ダイ君!君は凄いよ!ドラゴンを倒してみんなを助けたんだから!」

「ダイ…よくやった!お前は私たちの誇りだ!」

 

顔を上げたダイは、二人の笑顔を見て驚いたように目を見開き、そしてほんの少しだけ微笑んだ。

 

「…うん…!(…大丈夫…レオナとレグは、こんなにも俺のことを心配してくれる…!竜の騎士が…人間に処刑されたなんて、きっとあいつのデタラメだ!)」

 

ダイは、心に刺さっていた痛みが少しずつ和らいでいくのを感じていた。

 

 

 

ラーハルトは、ベンガーナを襲っていた最後のドラゴンを倒すと、周囲を見渡した。

 

(どうやら、ドラゴンはすべて倒したようだな…)

 

ホッと息を吐いたラーハルトは、自身の槍の刃先に視線を向け、眉をひそめた。鋼のように硬い鱗を持つドラゴンを斬り続けたため、槍の刃はあちこちで欠けていた。買ったばかりの槍がすでにボロボロになっているのを見て、ラーハルトは小さくため息を吐いた。

 

(買ったばかりだというのに…だが、人命には代えられん)

 

ラーハルトは槍から視線を外すと、気絶して倒れていた男性に近づき、肩を軽く叩きながら声をかけた。

 

「おい、大丈夫か?」

「……っう……ひっ!!?うわあああっ!!!」

 

目を覚ました男性は、目の前のラーハルトが魔族であることに気づくと、恐怖に満ちた叫び声を上げ、転げるようにして走り出した。

 

「た、た、助けてくれえええ!魔族がいるぞー!!!」

「ま、魔族!?」

「魔族がいるですって!?もしかして…魔王軍!?」

「なんだって! 魔王軍!? みんなー!この国を襲った魔族がいるぞ!!!」

「けど…さっきドラゴンを倒したのはその魔族じゃなかったか?」

「誰か!助けてえええっ!!!」

 

周囲の人々は、魔族がいるという話を聞きつけると騒ぎ始めた。人から人へと噂が伝わるにつれ、事態はどんどん悪化していき、あたりは阿鼻叫喚の渦に包まれた。

 

「……」

 

ラーハルトは、浴びせられる叫び声と悪意のこもった視線に心を冷やされ、胸はズキズキと痛み、顔からは徐々に感情が抜け落ちていった。騒ぎを聞きつけたベンガーナの兵士たちが駆けつけると、警戒しながらラーハルトを取り囲み、槍の穂先を向けて憎しみに満ちた目で睨みつけた。

 

「魔族め!よくも我が国を襲ったな!!!」

「…俺はこの国を襲ってなどいない!むしろ…この国を襲ったドラゴンを倒したのは俺だ!!!」

「白々しい嘘をつくな!!!魔王軍め!!!」 

 

兵士たちは、ラーハルトが国を襲った主犯だと決めつけ、敵意をむき出しにして睨みつけた。国を救ったはずの自分が非難されるという理不尽さに、ラーハルトは頭に血が上り、ギリッと奥歯を噛みしめた。

 

「嘘ではない!俺はテラン王国兵士ラーハルト!!!魔王軍ではない!むしろ魔王軍は俺の敵だ!!!」

「ふん!それもどうせ嘘だろ…!ドラゴンが現れたと同時に、魔族の貴様が現れた!!!それが魔王軍であることの、何よりの証拠だ!!!テラン兵士だと…?そんな都合よく現れるわけがないだろ!!!分かりやすい嘘をつくな!!!」

「嘘ではないと言っている!!!」

 

上空で敵の残党がいないか見張っていたポップは、地上で起きている異変に気づくと、慌てて急降下した。

 

「や、やべえ!ラーハルト!!!」

 

ポップは勢いよく地面に降り立つと、ラーハルトを庇うように兵士たちとの間に立ちはだかった。

 

 

 

「魔王軍が…魔族がいるぞおおおっ!!!」

「ま、魔王軍ですって!」

 

デパート近くの広場にいたダイたちは、遠くから上がった悲鳴と「魔族がいる」という言葉に、目を見開いた。

 

「魔族?もしかして…」

「まさか…ラーハルト!!!」

 

レグルスは、ラーハルトがいると思われる騒ぎの中心へ向かって、慌てて駆け出した。

 

「そんな…!ラーハルトさん!」

「俺たちも行こう!」

「ええ!」

 

ダイも剣を拾い、レオナ、メルル、ナバラとともにレグルスの後を追った。

 

「魔族を倒せー!!!」

「よくも俺たちの街を襲ったな!化け物め!!!」

 

レグルスとダイたちが騒ぎの近くにたどり着くと、ラーハルトの周囲には人だかりができ、人々は口々に罵声を浴びせていた。

 

「…酷い」

「…これが、この街を救った英雄に対する態度なのか…?」

「…ねえ…なんで…ラーハルトは、みんなからこんなにも酷いことを言われるの…?ラーハルトはこの街を救ったんだよ…?ドラゴンと戦ったんだよ…?なのに…なんで…」

 

ダイはショックを受けながら周囲を見渡し、脳裏に先ほどの死神の言葉が浮かんだ。

 

『君も命懸けで人間を守ったはいいけど…最期はその守った人間に殺されないといいね』

「っ…!」

 

ダイの胸に鋭い痛みが走り、手を震わせながら、服の上から胸に手を当てた。

 

「やめろ!こいつは悪いやつじゃねぇ!!!」

 

ポップはラーハルトを庇いながら、兵士たちを睨みつけた。兵士たちは魔族を庇うポップに、鋭い視線を向けた。

 

「そこを退け!」

「おい!お前、なぜその魔族を庇う!まさか…お前も魔王軍の手下か!?」

「…っ!ふざけんじゃねぇぞ!!!」

 

ポップは怒声を上げ、拳を握りしめて兵士を睨んだ。

 

「こいつが人間じゃないって?だからどうした!?魔族だろうと化け物だろうと関係ない!!!こいつはこの街を救うためにドラゴンと戦った…俺の友達で!仲間だ!!!」

 

その言葉に、ラーハルト、ダイ、レグルスは目を見開いた。

 

「ポップ…」

 

ダイは動揺しながらも、ポップの言葉で心が温かくなるのを感じた。

 

「ええい!邪魔をするな!命令だ!そこを退け!!!」

「誰が退くかよ!バッカヤローーー!!!」

「ポップ君…」

 

レオナはポップの言葉に心を打たれ、真剣な表情でレグルスに視線を送った。

 

「レグ君!行くわよ!」

「ああ!」

 

レオナとレグルスは目を合わせて頷くと、群衆をかき分け、兵士たちの前に立ち、ポップの隣に並んだ。そして、堂々とした態度で声を上げた。

 

「皆の者、聞きなさい!!!私たちは魔王軍と戦う勇者ダイの一行である!!!この魔族は魔王軍ではなく、勇者一行の仲間よ!!!この者の身分はパプニカ王家が保証するわ!!!」

「私はテラン王国の兵士レグ!!!この魔族は、私と同じテラン兵士のラーハルトと申す!!!我らはテラン王家の命を受け、魔王軍と戦う勇者にご助力すべく旅をしている!!!此度の魔王軍の襲撃において、我らはドラゴンと戦い、勝利した!この者は国を救った英雄だ!!!」

 

レオナとレグルスの言葉に、非難を浴びせていた群衆は困惑し、ざわつき始めた。

 

「勇者ダイ御一行様…?パプニカ王家…?」

「じゃあ…あいつは本当に、テラン兵士の…あの有名な…半魔族のラーハルトなのか!」

 

ラーハルトたちを取り囲んでいた兵士たちも動揺し、槍の穂先を下げながら、レグルスに尋ねた。

 

「ほ、本当に…その者はテラン兵士なのだな?」

「この者の胸に付いているブローチをよく見よ」

 

兵士たちは、ラーハルトの胸に付けられたブローチに刻まれたテラン王家の紋章を見て、目を見開いた。

 

「テランの紋章…!」

「このブローチは、国王陛下から直接譲り受けた物である!身分を証明するためにな!…それでも身元を疑うのであれば、テラン王家に問い合わせればよかろう!『テラン兵士のラーハルトは魔王軍と戦うために旅をしているのか?』とな!」

 

兵士たちは互いに目を合わせ、小声で相談し合うと、槍を立て、警戒を解いた。

 

「…大変失礼いたしました!」

 

兵士たちが警戒を解いたことで、ポップ、レオナ、レグルスはホッと息をついた。

 

「…」

 

ラーハルトは誹謗中傷を受けたことで、謝罪する兵士たちと視線を合わせる気になれず、そっぽを向いた。

 

「勇者御一行様!この国を救っていただき、感謝いたします!」

「…我らが倒したドラゴンは、魔王軍の一団に過ぎん。数日中に再攻撃もあり得る。警戒を怠らないことだ」

「!!!しょ、承知しました…!」

 

兵士はドラゴンが再び現れる可能性に緊張し、顔を強ばらせた。レグルスは、俯いて唇を噛み締めているラーハルトの隣に歩み寄り、そっと腕に手を添えて、周囲に聞こえないよう小声で語りかけた。

 

「ラーハルト…お前は何も悪くない」

「レグルス様…俺のせいで、ご迷惑を…」

「迷惑などとは思わない。ラーハルトよ、魔族の見た目のせいで、今後も同じことがあるかもしれん。だが、これだけは忘れるな。お前にはテラン王家、ポップや皆が、そして私がついている!お前は一人ではない!」

 

ラーハルトは驚いて隣に視線を向け、真っ直ぐに見つめてくるレグルスと目が合った。

 

「人々を救ったお前は、私の誇りだ。ラーハルト、よくやった!」

「…っ!」

 

ラーハルトは目を見開き、先ほどまで胸に渦巻いていた怒りが霧のように消えていった。仲間に庇ってもらえた喜び、誹謗中傷を受けた悲しみ、さまざまな感情が胸の奥で入り混じり、涙をこらえるように唇を強く噛み締めた。

 

「そろそろ行こうぜ。ここじゃ、休めねぇしよ」

「ああ」

 

ポップが仲間に声をかけて歩き出すと、兵士や群衆は静かに後ろへ下がり、道を開けた。レグルス、レオナ、ラーハルトもその後に続き、ダイ、ナバラ、メルルと合流した。

 

「よし!それじゃあ…」

「ポップ、少しだけ待て」

 

ポップがルーラを発動しようとしたところで、レグルスが声をかけ、周囲のベンガーナの民たちを見渡して大声を上げた。

 

「ベンガーナの民よ!英雄たちの名を忘れるな!勇者ダイ!魔法使いポップ!半魔族のラーハルト!レオナ!そして、テラン兵士レグ!この者たちこそ、ドラゴンを倒し、この国を救った英雄たちだ!!!」

「うおっ!は…恥ずかしいな!もういいだろ! 行くぞ!ルーラ!!!」

 

ポップがルーラを発動すると、その場から勇者一行の姿は一瞬で消えた。ベンガーナの人々は、空に描かれたルーラ特有の軌跡を、ただ見上げて見送った。




ダイ、レグルス、ラーハルトのポップに対する好感度が上がった!
非人間族であるダイ、レグルス、ラーハルトが人間への好感度を上げるなら、それは人間代表であるポップ君がぴったりかなと!
実際、この3人は原作でもポップ君に影響されていますからね!
原作では竜の騎士であるダイがベンガーナの人々から差別されていましたが、この小説では魔族の見た目をしたラーハルトが一番差別されています。ダイは、差別されているのは自分だけではないと知り、ポップをはじめとした仲間たちは人間じゃなくても側にいてくれるとラーハルトを通して理解しているため、孤独感を感じにくく、原作より気持ちに余裕があります。
レグルスを一時的にダイ君から引き離したのはキルバーンに会わせないためです。会ったら最後、バッドエンドですからね…。
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