ダイの大冒険 ―次世代の竜の騎士ー   作:キャットテールの鈴

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テランで一夜を過ごしたダイたち一行は、竜の騎士の伝説が眠ると伝えられる湖の底にある竜の神殿を目指す。


49_竜の騎士編_竜の神殿

レグルスは夢を見た。

 

テラン森の奥深くにある小屋の前で、バランは水をたっぷりと湛えた大きな壺を片手に持ち、もう一方の手で扉を開けながら、小屋の中にいるであろう家族に声をかけた。

 

「ソアラ!ディーノ!今帰ったぞ!」

「お帰りなさい、あなた!」

 

中にいたソアラは手を拭きながら振り返り、笑顔でバランを迎えた。バランは壺をそっと床に置き、ソアラに向き直った。

 

「あなた、お腹すいた?そろそろお昼ですし、食事になさる?」

「ああ、そうだな。食事にするか」

「なら、準備するわ!」

 

ソアラは穏やかに笑いながら、食事の準備に取りかかろうとした。バランはその笑顔に見惚れ、頬に触れようと手を伸ばした。

 

「ソアラ…」

「うえぇえん!」

 

そのとき、赤子の泣き声が室内に響いた。バランはソアラに触れる直前で手を止め、声の主であるディーノが眠る揺籠に目を向けた。

 

「!…ディーノ、起こしてしまったか」

「ディーノ、ちょっと待っててね!」

 

ソアラは食材を置き近づこうとしたが、バランがそれを制した。

 

「ディーノは私が見よう。ソアラは食事の支度を頼む」

「分かったわ、お願いね」

 

バランはソアラから離れ、揺籠に近づいて中を覗き込んだ。中では息子のディーノが顔を真っ赤にして泣いていた。バランはあやそうと、ディーノの脇に手を差し入れた。

 

「うええぇえん!!!」

「ディーノ、おいで」

 

バランは赤子のディーノを抱き上げようとしたが、思った以上に重く、簡単には持ち上がらなかった。

 

「!?…!?…ディーノ?少し見ない間に重くなったな…バイキルト!」

 

自らに魔法をかけて力を強化すると、ようやくディーノを持ち上げることができた。バランは笑みを浮かべ、わが子の成長を喜んだ。

 

「ディーノ!見ない間に大きくなったなあ!」

 

手の中で泣き続けていたディーノは、次の瞬間。

 

「えっ?…何?…どうしたの?レグ?」

 

ディーノの姿は仲間のダイに変わった。

 

 

 

朝日が差し込むテラン城の客間。そこに寝泊まりしているダイとポップは、それぞれのベッドで眠っていた。

 

「むにゃ…むにゃ…マァム…」

「…すぅ…すぅ…」

 

客間は静寂に包まれていたが、突如、扉が勢いよく開かれ、大声と共にレグルスが部屋へ入ってきた。

 

「ソアラ!ディーノ!今帰ったぞ!」

「おわあぁああ!!?」

「っ…えっ…誰?こんな朝から」

 

ポップは突然の大声に驚き、ベッドの上で飛び起きた。ダイも目をこすりながら身体を起こし、入り口にいるレグルスに気づいた。

 

「レグ?」

 

レグルスは部屋に入り、手に持っていた水差しを机の上に置くと、ダイとポップのベッドに近づいてきた。

 

「レグ、朝っぱらからなんだよ…メシでも出来たのかよ?」

 

ポップが欠伸をしながらレグルスに話しかけると、レグルスはポップをじっと見つめ、見たことのない穏やかな笑顔を浮かべて返答した。

 

「ああ、そうだな。食事にするか」

「…ん?」

 

ポップはその笑顔に違和感を覚え、じっと睨むように見つめた。するとレグルスが手を伸ばし、頬に触れようとしてきたため、ポップは動揺して顔を背け、身を引いた。

 

「ソアラ…」

「お、おい!なんだよ!レグ!おめぇ、寝ぼけてるのか!!?」

 

ダイもレグルスの異変に気づき、ポップを助けようと声をかけた。

 

「ねえ、レグ…どうしたの?なんか、いつもと様子が違う」

 

呼びかけられたレグルスは振り返り、ベッドの上にいるダイをじっと見つめた。

 

「ディーノ、起こしてしまったか」

 

ポップに触れるのを止めたレグルスは、しばらくダイを見つめた後、再びポップに話しかけた。

 

「ディーノは私が見よう。ソアラは食事の支度を頼む」

「…ソアラ?」

 

ポップは自分を指さし、ソアラと呼ばれたことに怪訝な顔をした。レグルスはダイのいるベッドへと近づき、両手を伸ばしてダイの脇に手を入れた。

 

「ディーノ、おいで」

「…えっ?」

 

レグルスは、自分よりひとまわり大きいダイを持ち上げようと力を込めたが、自分の体重より重いダイをそう簡単に持ち上げられなかった。

 

「!?…!?…ディーノ?…少し見ない間に重くなったな…バイキルト!」

 

そう呟くと、レグルスは自分に魔法をかけ、何とかダイを持ち上げることに成功し、嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「ディーノ!見ない間に大きくなったなあ!」

 

持ち上げられたダイは戸惑いながらも、視線をやや下に落とし、レグルスに話しかけた。

 

「えっ?…何?…どうしたの?レグ?」

「!!?ディーノが…喋った!!!」

 

レグルスはダイが話したことに驚愕し、目を丸くした。そしてゆっくりと首を動かし、驚きの表情でポップを見た。

 

「ソアラ!聞いたか!?今…ディーノが喋った!!!」

「はぁ…?」

 

ポップは呆れ、戸惑いながら返事をした。そんなポップの様子を気にも留めず、レグルスは再びダイに視線を戻し、期待に満ちた目で見つめた。

 

「ディーノ!パパ!パパだ!」

「…」

「パパって呼んでごらん!」

 

ダイは戸惑いつつも、レグルスの嬉しそうな様子に押されるように、小さな声で返事をした。

 

「…パ…パパ?」

「っ!!!」

 

ダイがそう呼ぶと、レグルスは感動に震え、持ち上げていたダイを下ろすと、ギュッと抱きしめ大喜びした。

 

「っ!…パパ…パパ…ディーノが…私を、パパと…!はははっ!凄いぞ!ディーノ!ソアラ!今のを聞いたか!?ディーノが私をパパと言ったぞ!!!」

「…」

「…」

 

レグルスはダイを抱きしめながらその場をクルクルと回り始めた。ダイは体格差で足を引きずられるため、レグルスの周りを小走りし、困った表情でポップに助けを求めた。

 

「…ポップ〜」

「…はぁ…何だってんだ…」

 

ポップは頭をかきながらベッドを降り、2人のもとへ近づいた。レグルスは回転を止め、ダイに向かって笑顔を向けた。

 

「ディーノ、凄いぞ!流石、私のむす―」

「レグ!おめぇ、何寝ぼけてるんだよ!」

 

ポップがレグルスの頭を叩いた。

 

「………?……っ!?…!!?」

 

叩かれたレグルスは笑顔から驚愕の表情に変わり、周囲をキョロキョロと見渡した。そして目を見開きながらダイと視線を交わした。

 

「…ダイ?」

 

レグルスは抱きしめていたダイを放し、唖然としたまま後ずさりし、頭を抱えてふらつきながらダイとポップから距離を取った。ダイとポップはその異常な様子に心配し、声をかけた。

 

「レグ…大丈夫?」

「…私は……何を……」

「なんか…すんげぇ寝ぼけてたぞ?」

「…寝ぼけて…」

 

レグルスの目は泳ぎ、普段の落ち着いた様子とはかけ離れた、動揺した姿がそこにあった。ダイとポップが心配そうに見守る中、彼はふらふらと扉に近づき、取っ手に手をかけ、後ろを振り返った。

 

「………すまない…ポップの言う通り、寝ぼけていたようだ…顔を洗ってくる…」

「うん…」

 

レグルスが部屋を出ると、再び静寂が戻った。ダイとポップは仲間の奇行に困惑し、早朝に起こされたにもかかわらず眠気はすっかり吹き飛んでいた。2人はただ、レグルスが去った扉を見つめていた。

 

「何だったんだ?…寝ぼけたにしても限度があるだろ…あれか?夢遊病ってやつか…?」

「夢遊病…もしかして!…レグ、毎晩夢に見る家族を俺たちと間違えたんじゃないかな?」

「夢?…ああ!あの家族3人の夢か!嫁さんと赤ん坊が出てくる!……ん?…じゃあ、俺が嫁さんの役か?……何でだよ!?似てねぇだろ!!!」

「俺なんか、赤ちゃんだよ…?」

 

ダイは赤ん坊に間違えられたことに戸惑いながらも、喉が渇いてレグルスが机に置いた水差しに手を伸ばした。すると、その隣にあった紙に目を留め、驚いた表情で固まった。

 

「…ディーノ…」

 

そこには、昨日ダイとレグルスが書いた「DINO」の文字があり、それはまさに、さっきまでレグルスがダイを呼んでいた名前だった。

 

 

 

レグルスは自室に戻り、桶に入った水で顔を洗った後、夢の内容と、先ほどのダイとポップとのやり取りを思い返し、恥ずかしさのあまり頭を抱えた。

 

(ああああああっ!!!夢の私め!なんてことをしてくれる!!?気まずい…ダイとポップに、どんな顔で会えと!!?)

 

夢では会話が聞こえるようになっており、レグルスは顔に熱が集まるのを感じながらも、夢の中で男性が口にしていた名前について考えた。

 

(ソアラ…ディーノ…やはりダイがディーノなのか…そして、あの女性の名前はソアラ…昨日の占い結果から、ソアラはアルキードにいる………ん?アルキード?)

 

レグルスは周辺国家の情報を父親から聞いており、その中で近隣国アルキードの現国王の一人娘の名前がソアラ姫であることを思い出した瞬間、驚愕し、目を見開いた。

 

(まさか、アルキードのソアラ姫、か!?…馬鹿な!…そんな…まさか…いや、名前が偶然同じなだけ……ん?待てよ、確か…)

 

レグルスは夢で見た女性が、アルキード王国のソアラ姫である可能性に動揺しつつ、ソアラに関連する記憶を思い返した。

 

以前、立派な長剣をラーハルトの小屋で見つけた際、父フォルケン王に小屋の持ち主について調べてもらったことがあった。後日、父からその小屋にいた家族について話を聞かされた。

 

『レグルスよ…あの小屋の元の持ち主について話したいことがある…あの小屋には、駆け落ちした夫婦と、その間に生まれた子供がおったそうじゃ…妻の方はアルキードのソアラ姫。1年ほど暮らしていたそうじゃが…アルキード兵士によって夫婦と子供は連れていかれた。父親の名はバラン…その者は王族誘拐の罪で……処刑され、子供は別の国に連れていかれる途中、船が難破して亡くなったそうじゃ…』

「…」

 

レグルスは、アバンたちと共に旅をしていた際、立ち寄ったアルキードで月明かりの下、交わしたアバンとの会話を思い出した。

 

『レグ君、ソアラ姫とバラン、そして2人の間に生まれた子供に何か聞き覚えはありませんか?』

「…」

 

レグルスは心臓がドクドクと早鐘を打つのを感じながら、夢の中の男性を思い返した。水辺に映っていた、まるで自分が成長したような成人男性の姿を。

 

(夢が現実に起きた過去の出来事ならば…女性はアルキードのソアラ姫…赤子のディーノはダイ…そして…夢の男性が…バラン!………バランが私の前世、ということになるのか?…生まれ変わりなど…そんなこと、ありえるのか…?だが、生まれ変わりであれば、いくつかの情報は辻褄が合う…)

 

レグルスは、自分がバランの生まれ変わりである可能性に強く戸惑いながらも、状況を整理するうちに、疑念が確信へと変わっていった。

 

(私が、バランの生まれ変わりである場合…前世の私は……アルキードで………)

 

レグルスは、バランがアルキード王国で処刑された事実を思い出し、眉をひそめた。王族誘拐は死刑となる可能性が高い。それは王族であるレグルスにとっても妥当な処置と理解はできたが、それでも前世の自分が処刑されたという事実には、言いようのない不快感を覚えた。

 

(夢の中でソアラ姫とは良好な関係だった…ならば、周囲の反対による駆け落ち…身分違いの恋…といったところか…いつの時代も身分違いの恋は悲劇だな……それにしても…アバン先生は、なぜ私がバランの生まれ変わりだと知っていたのだ?…まさか、バランの知り合いだった…?)

 

レグルスは混乱しながらも思考を整理し、ため息をついた。そして、今朝の出来事を思い返した。

 

(…バランの件は後だ…問題は今夜…まさか夢が現実に影響してくるとは…私はポップをソアラ姫と勘違いしていた…恐らく、ダイの近くにいたからだと思うが…また、同じことが起こるだろう…)

 

夢の中で毎回ソアラ姫に触れていることから、レグルスは現実でも誤認が起きる可能性にゾッとした。

 

(まずい…かなりまずい!…早急に対策を考えなくては!間違いが起きてからでは遅い!…いっそのこと、牢屋で寝泊まりするか?)

 

そう考えながらレグルスが部屋を出て廊下を歩いていると、廊下の先からラーハルトが笑顔で駆け寄り、嬉しそうに話しかけてきた。

 

「レグルス様、おはようございます!」

「ああ、おはよう…ラーハルト」

 

一方のレグルスは元気がなく、心ここにあらずといった様子で挨拶した。それを見たラーハルトは心配そうに尋ねた。

 

「?…レグルス様、どうされましたか?元気がないご様子…俺でよければ話を聞きます!何か悩み事があればおっしゃってください!」

「…」

 

レグルスは顔を上げ、笑顔を浮かべるラーハルトを見上げたが、口を開いても言葉が出ず、下を向いて首を横に振った。

 

「…いや…何でもない…この件は、誰かに頼むのは気が引ける…」

「…レグルス様、俺はあなたの頼みでしたら、すべて遂行してみせます!」

「…ラーハルト」

 

レグルスが顔を上げると、ラーハルトは真剣な眼差しで、誓うように見つめ返していた。

 

「たとえ、神と戦えと言われても!大魔王に突撃しろと言われても…!俺はあなたのためなら命を賭けられます!!!」

「…お前は…頼りになるな」

「おっしゃってください…どのような願いでも、俺は叶えてみせます」

 

ラーハルトは穏やかに笑みを浮かべ、指示を待った。レグルスは迷いながらも覚悟を決め、ラーハルトを見上げた。

 

「では…ラーハルト、お前に頼みがある」

「はい!」

 

ラーハルトは期待に胸を膨らませながら待機した。

 

「今夜…私をベッドに縛り付けてもらいたい!」

「!?!?!?」

 

ラーハルトは混乱した。

 

 

 

「ねえ!ちょっとどうしたのよ!皆、なんか暗いわよ!せっかくの食事が不味くなるじゃない!」

 

朝食の席で、どこか暗く落ち込んだ様子のダイ、レグルス、ラーハルトを見て、レオナは声をかけた。

 

「…」

「…」

「…」

 

3人は何も答えず、代わりにポップが疲れた様子で説明した。

 

「今朝、色々あってよ…ちょっと疲れちまったんだ…」

「…今朝って…こんな短時間に何があったのよ…」

 

レオナは呆れたように言いながら、千切った朝食のパンを口に含んだ。

 

 

 

国王の寝室にて、フォルケン王は咳き込みながら、窓の外に広がる木々が生い茂る森や、木の隙間から覗く青空を見つめ、そばで待機していた兵士カナルに話しかけた。

 

「ゴホッ、ゴホッ…カナルよ、何か変わったことは?」

「いえ!特に報告は受けておりません!」

「そうか…何もないのは平和の証じゃ…」

 

しばらくして咳が落ち着き、静かになった室内で、フォルケン王は再び外を眺めていた。そこへ、部屋の扉をノックする音が響いた。

 

「父上、レグルスです。入室してもよろしいでしょうか?」

「無論だ。レグルス、入りなさい」

「失礼します」

 

扉が開くと、レグルスを先頭に、ラーハルト、ダイ、ポップ、レオナ、メルル、ナバラが入室した。レグルスとダイはフォルケン王の正面まで進み、真剣な表情で王を見つめた。

 

「父上、これから竜の騎士であるダイは竜の神殿に向かいます。湖に入る許可をいただきたいです!」

「分かった。湖に入る許可を出そう。ダイ様、そして…」

 

フォルケン王はダイを見たあと、隣に立つレグルスに視線を移し、目をじっと見つめながら口を開いた。

 

「レグルス様に」

「……父上?」

 

レグルスは、湖に入る許可がダイだけでなく自分にも出されたことに戸惑いを見せた。

 

「…お、お待ちください!竜の神殿は、竜の騎士だけが訪れることを許されています!人間である私は…歓迎されないでしょう!」

「…レグルス様、時が来たのです。あなた様が、自分の使命を知る時が…」

「…それは…どういう…」

 

レグルスは動揺し、唖然とした様子で父親を見つめた。後方で待機していたポップとラーハルトは、レグルスの背中を見つめながら小声で会話した。

 

「なあ、レグってやっぱり?」

「ああ、そうだ…」

「じゃあ、ダイとレグは…血の繋がりがあるってことか?」

「そこまでは…分からない」

 

2人は、ダイとレグルスの小さな背中を見守るように見つめていた。フォルケン王は厳かな口調で、ダイとレグルスに語りかけた。

 

「ダイ様、レグルス様。2人で竜の神殿に行きなさい。そこで己の宿命を…使命を知るのです」

「……使命…」

「っ…ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ!」

 

レグルスが言葉の意味を考えていると、突然、フォルケン王が激しく咳き込み始めた。レグルスは慌てて近づき、苦しげに咳き込む父親の背をそっと撫でた。

 

「父上、大丈夫ですか?」

「ゴホッ…大丈夫じゃ、レグルス様…私は嬉しいのです。あなた様をここまで育てられたことが…」

「…私には、まだ父上が必要です…」

 

落ち込むレグルスの頭に、フォルケン王は手を伸ばし、優しく撫でた。

 

「大丈夫、大丈夫じゃ…この命ある限り、あなた様をお支えします…」

「…」

「さあ、行きなさい…竜の神殿へ!」

 

レグルスたちが部屋を退出すると、フォルケン王は水を飲み、疲れた様子でベッドに身を預けながらカナルに話しかけた。

 

「私は…もう、長くないだろう…じゃが、満足している…子供のいない私に子供ができ…竜の騎士様を育てるという大役を授かったのだからの…これほど充実した10年間は、今までなかった…」

「…レグルス様は竜の騎士とはいえ、まだ10歳の子供…父親の助けが必要です」

「ゴホッ、ゴホッ…そうじゃな…私も…レグルス様が竜の騎士として覚醒するのを見届けたい…だが、長くてもあと数ヶ月の命であろうな…」

 

フォルケン王は窓に目を向け、ガラスに映る自分の姿を見つめた。そこに映っていたのは、ベッドに横たわる弱々しい老人の姿だったが、その目元には力が宿り、希望に満ちた、満足げな表情が浮かんでいた。

 

 

 

竜の神殿が眠ると言い伝えられているテランの湖に、一行は到着した。ダイは湖に入る前に、仲間たちと会話を交わしていた。

 

「じゃあ、俺たち行くね!」

「ダイ君…大丈夫?怖くない?」

「レオナ、大丈夫だよ!俺、1人じゃないから」

 

ダイはちらりとレグルスに視線を向けた。

 

「…」

 

レグルスは、先ほどから誰とも会話を交わそうとせず、険しい表情で地面を見つめていた。

 

「俺たちはここで待っているからよ!行ってこい!」

「うん!」

 

ポップは笑顔でダイの肩に手を置き、ダイも笑顔で返事をした。

 

「レグルス様…」

「…」

 

ラーハルト、メルル、ナバラが不安げな表情で見つめる中、レグルスは顔を上げラーハルトたちに視線を向けた。だがすぐに眉を寄せて視線を逸らすと、自分の掌を信じられない気持ちで見つめた。

 

「…まだ、実感が湧かない…自分のことなのに、他人事のように感じる……私は…何者なのだろうな…」

「…」

 

レグルスはその場を離れ、ダイの隣に移動すると、振り返ってラーハルトたちを見た。

 

「…神殿から戻ったら話を聞かせてくれ…聞きたいことがたくさんある」

「はい、勿論です。全てお話ししましょう」

 

ナバラが丁寧にお辞儀をして答えると、レグルスは小さく頷き、ダイに視線を向けた。

 

「…ダイ、そろそろ」

 

ダイはレグルスの顔をうかがいながら、少し困った表情で、言いづらそうに口を開いた。

 

「ねえ、レグ…俺、考えたんだ…レグが俺と同じ竜の騎士なら…レグは…俺の……」

「?」

「……やっぱり、何でもない!行こう!」

「…ああ!」

 

ダイとレグルスは駆け出し、勢いよく湖へ飛び込んだ。水面は大きく揺れ、2人の姿は暗い湖の底へと沈んでいき、やがて水面からはその姿が見えなくなった。

 

 

 

暗く深い湖の中、ダイとレグルスは離れすぎないように近くを泳ぎながら、神殿を探して周囲を見渡し、徐々に深い場所へと潜っていった。

 

(神殿はどこにあるんだろう…?)

 

ダイは泳ぎながらキョロキョロと周囲を見回していたが、突如、何かの気配を下から感じ取り、湖の底を睨んだ。ダイは気づかなかったが、額には青白い輝きを放つ竜の紋章が浮かび上がっていた。

 

(あっちに何かある!レグ!……!!?)

 

ダイは底に何かあることを伝えようと振り返ったが、レグルスの額に青い光を放つ竜の紋章が現れているのを見て、目を見開いた。驚きながら、ダイは必死に身振りでレグルスの額を指差した。

 

(レグ!額!額!竜の紋章!!!)

(額?……!!!)

 

レグルスは自身の額に掌をかざし、手が青く照らされているのを見て驚いた。

 

(額が…青く輝いている!まさか!これが…竜の紋章…!!本当に、私は竜の騎士なのか?……!!!…ダイ!ダイの額にも竜の紋章が出ている!)

(ん?俺の額?…あっ!青く光ってる!)

 

レグルスもダイの額に紋章が浮かんでいることを伝えると、ダイは驚きながら自身の額に手を当てた。2人はしばらくの間、互いの額に浮かぶ紋章を驚きと興奮の混ざった表情で見つめ合ったが、やがて気を取り直して、気配を頼りに湖の底へとさらに潜っていった。

 

(…これが…)

(…竜の神殿)

 

2人が導かれるように辿り着いた先には、白い石で造られた立派な神殿が現れた。

 

(入り口を探そう!)

 

ダイはレグルスに手振りで伝え、レグルスも頷くと、2人は手分けして神殿の周囲を泳ぎ出し、入口を探し始めた。

 

(扉がない…どこから入るんだろう)

(ダイ…こっちだ)

 

レグルスは壁に埋め込まれた球体の前でダイを呼んだ。

 

(何かあった?)

(恐らく、これが入り口だ…)

(?…どこ?)

 

ダイは入口らしきものを見つけられずにいたが、レグルスがダイの手首を取り、そのまま球体に手を触れた。すると、レグルスの手がそのまま球体に吸い込まれ始めた。

 

(!!!レグ!飲み込まれる!)

 

ダイは慌てて球体からレグルスを引き離そうとしたが、逆にレグルスに引っ張られ、そのまま2人そろって球体に吸い込まれていった。

 

 

 

「ダイ、大丈夫か?」

「はっ!…空気がある!ここは…?」

 

ダイが目を覚ますと、いつの間にか建物の中に倒れていた。先ほどまで湖の中にいたはずだったが、そこには空気が満ちていた。レグルスはダイの頭に手を添えて覗き込み、問題がないと確認すると立ち上がった。

 

「問題なさそうだな…ここは神殿の中だ」

「レグ、ひどいよ…急に引っ張るんだもん…」

 

ダイはジト目でレグルスを睨んだが、レグルスが無言で手を差し出したため、内心嬉しく思いながらその手を取って立ち上がった。

 

「水中では会話ができない…仕方がなかった。それよりも、探索するぞ」

「うん!」

 

2人が一本道を進むと、やがて目の前に扉が現れた。

 

「扉がある…」

「開けるぞ」

 

ダイとレグルスが扉を開けて中に入ると、そこは広々とした部屋だった。神秘的な雰囲気に包まれた空間の中央には、巨大な水晶が鎮座していた。2人が部屋に入った直後、背後の扉は音もなく閉じられた。

 

「…誰だ?」

 

突如、聞きなれない声が部屋に響き渡り、2人は驚いて水晶を見つめた。

 

「す、水晶がしゃべった!!!」

「…我はこの神殿を司る番人…竜水晶。汝は何者だ?…竜の騎士か?…何故、2人もいる?」

「それを確認するために我らは来た」

「聞かせてくれ!俺は、俺たちは…竜の騎士なのか?」

 

ダイとレグルスは少し緊張しながら、竜水晶を見つめた。

 

「まぎれもない…汝らは竜の騎士だ…」

「!!!」

「この神殿には、竜の騎士以外は立ち入ることができない。汝らがこの場所にいることが何よりの証拠だ」

「や、やっぱり…」

 

2人は竜の騎士である可能性を感じていたが、竜水晶から明確に告げられたことで、ようやく確信を持つことができた。

 

「…私は竜の騎士の伝承に触れて育てられた。竜の騎士について知っているつもりだが…竜水晶よ、其方から竜の騎士について教えていただきたい!」

「竜の騎士って一体何者なんだ?人間なのか?…怪物なのか?…それとも神様?」

「…そのどれでもない…」

「えっ?」

「…竜の騎士とは、竜の神と…魔の神と…人の神…三つの神により、遥か太古に生み出された究極の生物…」

「三つの神が生んだ…究極の生物…」

 

レグルスは動揺しながら小声で繰り返し、ダイは体を震わせながら怒鳴った。

 

「なんで…なんで!そんな生物を作ったんだ!!!」

「…それは…太古の時代、神々の時代にまで遡る………遥か昔、世界は人、魔族、竜族の三種が覇権を巡って血みどろの争いを繰り広げ、世界は荒廃した。これを神々は疎ましく思い…人の神、魔の神、竜の神は合議の場を設け、ある結論に達した。それは、人間の心、魔族の魔力、竜族の強大な戦闘力を併せ持つ存在を創ることだった…それが、竜の騎士である。

それ以来、竜の騎士は人間、魔族、竜の三種族の中から、世の秩序を乱そうとする者が現れた時、それを粛清し、世界の平和を維持するという使命を神から与えられている」

「…人間の心、魔族の魔力、竜族の戦闘力…」

「世界の平和を維持する…使命」

 

竜水晶の話を聞き終えたダイとレグルスは、その壮大な内容に動揺したが、自分たちが現在魔王軍と戦っていることが竜の騎士としての使命に重なると気づき、少しだけ安心して互いに顔を見合わせた。

 

「じゃあ、俺たちは魔王軍と戦ってきたけど…やっていることは竜の騎士の使命と同じだね!」

「ああ、世界の平和を脅かそうとする魔王軍は、世の秩序を乱している…我らのしてきたことは、竜の騎士の使命としても正しいということだろう」

 

レグルスは竜水晶に視線を向けると、竜の騎士がどのようにして生まれるのかについて確認した。

 

「竜水晶よ…気付いているかと思うが、我々は2人でここに来た。本来なら、竜の騎士はこの世にただ1人のはず…竜の騎士はどのように生まれるのか…聖母竜マザードラゴンについて聞かせてもらいたい」

「…竜の騎士が戦いに傷つき、寿命を終えようとすると、天よりマザードラゴンが降臨し、その身を包み込む…そしてマザードラゴンの身に宿した新たな命に、竜の紋章が引き継がれ、次の時代の騎士が生まれる…これが、竜の騎士の一生となる。故に、竜の騎士はこの世にただ1人しか現れない…それが本来の理のはずだ…」

「けど…俺たちは2人でここに来た」

「…どちらかが、マザードラゴンより生まれし竜の騎士…もう1人が、神々が定めた理に反した生まれをしている…」

 

ダイは竜水晶の言葉に、テランでのやり取りを思い出した。城で自らが竜の騎士だと名乗った際、侍女は疑わしげな目を向けてきた。そして、レグルスに対するテラン国民の態度には、王族への敬意だけではない、何か特別な感情が込められているように感じられた。

 

「…多分、マザードラゴンから生まれたのは、レグだと思う…でしょ?レグ…」

 

ダイは確信に満ちた目でレグルスを見つめ、レグルスも小さく頷いて同意した。

 

「…私も、その考えだ。私は両親を知らず、父上の遠い親戚だと聞かされて育てられた。テランは竜の騎士の伝承に詳しい。私を魔の者から守るために、あえて情報を伏せた可能性が高いだろう…そして、ダイは…」

 

レグルスはダイを見つめながら、毎晩見る夢の中の家族の姿を思い出した。自身が成長したような姿であり、かつての竜の騎士バラン。その妻であるアルキード王国の姫ソアラ。そして、2人の間に生まれた赤子のディーノ。レグルスはその赤子と目の前のダイを重ね合わせた。

 

「ダイは…竜の騎士と人間の女性との間に生まれた混血児である可能性が高い」

「!!!」

「人間との混血児だと…そんな…まさか…人間との間に子が生まれるなど…この者は神が定めた理とは…違う生まれ方をしたとでも言うのか…?」

 

自身の出自が語られたことで、ダイは動揺し目を見開いた。竜水晶も信じがたい状況に戸惑いの色を浮かべていた。

 

「私には先代の竜の騎士バランの記憶がある…その記憶では、バランは人間の女性と恋に落ち、赤子が生まれていた…その赤子こそが、ここにいるダイだと考えている!」

「…なに?先代の竜の騎士の記憶がある…?それは、ありえない…」

「…?何がだ?」

「次代の竜の騎士に、先代の記憶があるのはありえない、と言ったのだ…」

 

竜水晶はレグルスがバランの記憶を持っていると語った瞬間に否定した。その理由が分からず、レグルスは眉をひそめた。

 

「…そんなはずない!間違いなく、あれは先代の竜の騎士バランの記憶だ!!!夢でしか見ていないが…バランが見た景色は実在する場所だった!そして…バランが愛した家族は、ここにいる!!!」

 

レグルスはダイの肩に手を置き、竜水晶を睨みつけた。

 

「あれが私の妄想とは到底思えない!!!夢の中のバランは私と姿が似ていた…ダイが生まれている以上、私は先代の生まれ変わりで間違いないだろう!」

「…姿も似ていた?…それも、ありえない…」

「何がだ!いったい何が、ありえないと言うのだ!?」

「…レグ」

 

ダイは不安そうにレグルスを見つめた。レグルスは肩に置いた手に力を込め、竜水晶の言葉を待った。

 

「…よいか。先代の竜の騎士が亡くなると、マザードラゴンの身に宿した新たな命に、竜の紋章が引き継がれ、次の騎士が生まれる。だが…その新たな命は別の個体となるのだ。つまり、姿が似ることはない。姿が似てしまえば、無力な子供のうちに魔の者が襲いかかる危険性が高まるからな…」

「…な…に?」

「また、記憶についても…先代の竜の騎士から引き継がれる記憶は、戦いに関するものだけだ。戦いに関係ない記憶は残らない…」

 

レグルスは足元が崩れていくような感覚に襲われ、思わずふらついた。

 

「…では、私の記憶は、なんだ…?バランに姿が似ているのは…偶然だとでも言うのか…?」

 

冷や汗をかきながら、レグルスは手で顔を覆った。

 

「…レグ」

 

ダイは困った表情で声をかけようとしたが、どんな言葉をかければいいのか分からず、口をつぐんだ。

 

「…もし、汝に先代の竜の騎士の記憶があるというのならば…」

 

静寂の中、竜水晶が再び語りかけてきた。ダイとレグルスは顔を上げ、水晶を見つめた。

 

「汝もまた…本来の理とは違う生まれ方をした可能性が高い」

「…」

 

レグルスは混乱しながら目を閉じ、竜水晶の言葉と、バランの記憶を思い返した。その後も竜水晶にいくつか質問したが、思考の中心には常に「自分が何者か」という疑問が渦巻いていた。

 

(何かがおかしい…なぜ私はバランに似て、記憶がある?本来の理とは違う生まれ方?…なら、私はどうやって生まれた?マザードラゴンから生まれたのではないのか?)

「レグ、大丈夫?」

「!…ダイ」

 

ダイが心配そうに覗き込んできたため、レグルスは考えるのをやめて視線を向けた。ダイは言いづらそうに、自分の家族について確認した。

 

「ねぇ、レグ…さっき、俺は人間の女性との間に生まれたって…それで、レグは俺の父さんの…生まれ変わり?」

「…おそらくな」

「じゃあ、レグが毎晩夢で見ていたのは…俺たち家族の夢ってことだよね?」

「ああ、先代の竜の騎士バランと、その一家の記憶だ……この件については、一度地上に戻ってから話そう。みんなも心配して待っているだろう…それに、私も父上に確認したい。バランのこと、私自身のことを…」

「…うん」

 

ダイとレグルスは神殿を出て、湖に戻ると、水面から差し込む明るい光の方へ向かって泳いでいった。

 

 

 

湖の水面からダイとレグルスが顔を出すと、地上で待機していたポップたちが水辺に駆け寄った。

 

「おっ!2人が戻ってきたぞ!ほれ、ダイ!掴まれ」

「うん!」

 

ポップが差し出した手をダイが握ると、そのまま地上へと引き上げられた。

 

「レグルス様!手を!」

「ああ、感謝する。ラーハルト」

「では、失礼します!」

「ん?」

 

ラーハルトはレグルスの手を取ると、両脇に腕を入れて持ち上げ、そのまま地面へと運んだ。持ち上げられたレグルスは少し戸惑いながらも、ラーハルトを見上げた。

 

(…私を持ち上げる必要はあったのか?)

「どうかされましたか?」

「いや…ありがとう、ラーハルト」

「はい!」

 

ラーハルトは褒められたことが嬉しいのか、笑顔を浮かべた。ナバラとメルルも近づき、レグルスが無事に戻ったことにホッとした様子で息を吐いた。

 

「それで?神殿は、どんなかんじだったの?」

「何か分かったか?」

 

レオナとポップがダイに問いかけると、ダイは少し困ったような、それでいて嬉しそうな表情で答えた。

 

「神殿には竜水晶っていうのがあって、そこで、俺とレグは竜の騎士だって教えてもらった…!それにね…レグが俺の父さんかもしれないんだ!」

 

思いがけないダイの言葉に、ポップは思わず声を上げた。

 

「…はぁ!!?」

「ダイ君、何言ってるの?」

「いやいや、おかしいだろ!おめぇが生まれた時、レグは生まれてすらないだろ!!!」

 

ポップは驚愕しながらツッコミを入れ、レオナは困惑気味にダイを見つめた。話を聞いていたラーハルトは、主人であるレグルスに視線を向けた。

 

「レグルス様…ダイ様が言っていることは?」

「ダイが言っていることは、間違っていない」

「!!?」

「この件は城に戻ってから話す。行くぞ」

 

レグルスはそう言って歩き出し、ダイたちもそのあとに続いた。レオナ、ポップ、ラーハルトは戸惑いながらも、子どもたちの背を見送った。

 

「ねえ!どういうこと?ダイ君とレグ君は親戚か何かなの?確かに2人は見た目とか雰囲気が似てるけど…竜の騎士という一族には、他に家族がいるの?」

「分かんねえ…俺たちはダイとレグは兄弟じゃねえかと思ってたんだけどよ…まさかの親子…」

「…ふむ…竜の騎士は我らとは違う…何か事情があるのかもしれん」

「まあ、竜から生まれるぐらいだしな…にしても、年下の父親か…」

 

3人は小声で話しながら、ダイとレグルスのあとをついていった。メルルとナバラも戸惑いを見せつつ、レグルスについて話し合っていた。

 

「おばあさま…レグルス様とダイ様が親子というのは、どういうことでしょう?」

「…分からん!…竜の騎士様は本来この世に1人しか存在しないはずじゃ!…じゃが、お2人が竜の騎士様である以上、わしらの知らぬ何かがあるのかもしれんのぅ…」

 

一行はテラン城に戻り、フォルケン王のいる寝室へと案内された。レグルスは神殿で竜水晶から聞いた話を、その場の全員に説明した。話を聞いたフォルケン王は目を閉じ、かつてこの地に降り立ったマザードラゴンと、赤子のレグルスの姿を思い浮かべた。そして、静かに語り始めた。

 

「…今から10年以上前…この地に聖母竜マザードラゴンが降臨し、赤子であった竜の騎士様を授かりました…それがレグルス様になります。その日以来、我らは魔の者からレグルス様を守るため、民には箝口令を敷いてきました」

「やはり、正体を隠していたのは…私を守るためか…」

「…はい…レグルス様、3年前に見つけた例の長剣を、ここに持ってきていただけますか」

「…分かった」

 

レグルスは頷くと部屋を出て、ラーハルトの小屋で見つけた立派な長剣を両手に抱えて戻ってきた。

 

「…この長剣も竜の騎士に関係があるのだな?」

 

剣を抱えながら尋ねるレグルスに、フォルケン王は小さく頷いた。

 

「はい…その剣は竜の騎士様だけが扱うことを許された剣です。神々によって作られ、神々の金属オリハルコンでできた剣…その名は真魔剛竜剣!」

「真魔剛竜剣…!」

 

レグルスは初めて聞いたはずのその名に、どこか懐かしさを感じた。柄を握り、鞘から少し抜くと、美しい刀身が姿を現した。ダイたちはその神々しい輝きに目を輝かせ、顔を近づけた。

 

「すっごい剣!!!」

「親父の店でいろんな剣を見てきたけど…こんなすっげえ剣が存在するんだな…!」

「レグルス様、この剣はいつからあったのですか?」

 

ラーハルトは、かつてレグルスの部屋に飾られていたその剣の来歴が気になった。

 

「この剣はラーハルトがテランに来る数ヶ月前…今から3年ほど前に、ラーハルトの家の床下で見つけた」

「えっ?俺の家ですか?」

 

ラーハルトは驚きと困惑の表情を浮かべた。

 

「ああ…恐らく、バランが隠したのだろう…アルキードに連れて行かれる前に…」

 

レグルスは剣を鞘に収め、窓側の壁に立てかけると、ダイに目を向けた後、仲間たちに視線を移した。

 

「皆にも聞いてもらいたい。これから話すのは、私の先代の竜の騎士であり…ダイの父親であるバランの話だ」

「!!!」

 

ダイたちは驚きの表情でレグルスを見つめた。

 

「…何処から話すべきか…そうだな、ダイと出会った日から、私は毎晩ある夢を見るようになった。父親である男性、妻である女性、そしてその子である赤子の夢を…その夢は、先代の竜の騎士バランの記憶だった。バラン、アルキード王国のソアラ姫、そして…赤子のディーノ!」

 

レグルスはダイをまっすぐに見つめた。

 

「そのディーノこそが、ここにいるダイだ!…ダイは先代の竜の騎士バランと、人間の女性ソアラとの間に生まれた混血児となる!」

「父さんはバラン…母さんは…ソアラ」

 

両親の名を聞いたダイは動揺しながらも、どこか期待を抱き、目を輝かせた。

 

「ダイ君のお母さん…えっ?まって、アルキードのソアラ姫って…確か…」

 

レオナはソアラの名前を聞き、アルキードにまつわる噂が脳裏をよぎった。

 

(ん?バラン?ソアラ姫?何処かで聞いたような…)

 

ポップも聞き覚えのある名に首を傾げ、思い出そうとした。そして、以前アルキードの酒場で耳にした噂を思い出し、頬に冷や汗が伝った。

 

「どのような経緯で出会ったかは分からないが…姫であるソアラと出会った2人は駆け落ちし、テランに身を隠していた。その家が、ラーハルトの家となり、ダイが生まれた場所でもある」

「俺の生まれた場所!…じゃあ、俺の生まれ故郷はテランってこと?」

「そうだ。ダイはテランの生まれだ」

「俺の家が…まさか、先代の竜の騎士バラン様が住み、ダイ様の生家だったとは!!」

「ラーハルト!今度、家に行ってもいい?」

「はい!もちろんです!いつでも来てください!」

 

ダイとラーハルトは笑顔で遊びの約束をし、ダイはすぐにレグルスを見て期待を込めた表情で尋ねた。

 

「レグ!俺の母さんは…何処にいるか分かる?」

「ダイの母、ソアラ姫はアルキードにいる!ダイ、この後一緒に会いに行かないか?きっとソアラ姫も、ダイに会いたがっているはずだ!」

「!!!い、行く!うわぁ!俺の母さんか…どんな人だろう?俺のこと、喜んでくれるかな?」

 

ダイは母親に会えることに期待と不安を抱き、頬を赤らめながら胸を高鳴らせた。メルルはアルキードにいる女性「ソアラ」の話を聞き、昨日レグルスが探していた女性ではないかとナバラに小声で話しかけた。

 

「お婆様…昨日、レグルス様が探しておられた女性がソアラ様ではないかしら?」

「おお、確かにそうじゃな!アルキードにおるからのぅ!…どれ、今のうちに様子を見ておくとするか…」

 

ナバラは懐から水晶を取り出すと、ソアラ姫の姿を探し始めた。ダイはレグルスをじっと見つめながら、言いづらそうにある疑問を口にした。

 

「ねぇ、レグが生まれ変わりなら…俺の父さんは、死んじゃったんだよね?……なんで父さんは…死んだの?」

「!」

 

ダイは、キルバーンから聞かされた“竜の騎士が人間に処刑された”という話を思い出していた。あの話が事実ではないと否定してほしくて、ダイはレグルスをすがるように見つめた。一方のレグルスはすぐに答えられず、口をつぐんだ。

 

「…バランは…」

 

バランがアルキードで処刑されたことを伝えるべきか迷っていたその時、突然、メルルとナバラが悲鳴に近い声を上げ、レグルスの言葉を遮った。

 

「レ、レグルス様!!!」

「大変じゃ!!!」

「どうした?」

 

その場にいた者たちが声の主に注目すると、ナバラは驚愕の表情で手にしていた水晶を突き出した。

 

「アルキードが…魔王軍に襲われております!」

「な、なんだとぉ!!!」

「それって、ダイ君のお母さんがいる国じゃない!」

「!!!そんな…!」

 

レグルスたちはナバラの周囲に集まり、水晶に映し出された映像を覗き込んだ。映像は上空からアルキード全体を見下ろす構図で、街の大部分が黒煙に包まれ、炎に覆われていた。さらに、あちらこちらでドラゴンが建物を焼き払い、街中を徘徊している様子も映っていた。

 

「…酷い」

「ドラゴンがいやがる…それもかなりの数だ!遠くにはヒドラが…1、2…4匹もいるぞ!」

 

水晶に映る惨状に、その場の誰もが険しい表情を浮かべた。映像は港へと切り替わり、破壊された船や、ヒドラに占拠された港が映し出された。次に、大通りが燃え盛る様子へと移り、さらに少しずつ移動して広場の様子が映された。

 

広場が映し出されると、ラーハルトは以前、レグルスがその場所を見て額から血を流したことを思い出し、とっさにレグルスの目元を手で覆った。

 

「…失礼します」

「…ラーハルト、大丈夫だ」

 

レグルスはラーハルトの手をそっと退け、広場の映像をじっと見つめた。だが今回は、以前のような頭痛は起きなかった。

 

「この場所に、かつての面影はない…」

 

広場には物が散乱し、周囲の建物は崩れ、炎で焼け落ちていた。かつての美しい街並みは、もはや見る影もなかった。

 

(あの酒場…!前に先生と一緒に入った場所だ…)

 

崩れた酒場が映ると、ポップはかつてアバンと訪れた記憶を思い返し、眉を悲しげにひそめた。

 

「城は、どうなっているの?」

「映します」

 

映像は城へと切り替わった。建物自体に被害はなかったが、城の周囲には複数のドラゴンが集まり、正門の前にはあくま神官が立ちはだかっていた。

 

「城は占拠されたようね…」

「じゃあ、母さんは…!」

 

アルキードの姫である母ソアラの安否に不安を抱いたダイは、顔色を青ざめさせた。

 

「ナバラ殿!ソアラ姫は無事か!?」

「はい、ご無事です!街から離れた場所におられたため、襲撃を免れたようですじゃ」

 

水晶の映像は再び切り替わり、室内で椅子に座り、人形を抱えたソアラの姿が映し出された。ダイは母の無事を確認すると、ホッと息を吐き、優しく微笑む彼女を、期待と不安の入り混じる面持ちでじっと見つめた。

 

「この人が…?」

「ああ、この女性が、お前の母…ソアラ姫だ」

「…俺の母さん…」

 

ダイは水晶の中のソアラをじっと見つめた。レグルスはそんなダイの肩に手を置き、水晶から視線を外すと、覚悟を込めて口を開いた。

 

「敵に見つかる前にソアラ姫を保護する!ポップ!この場所にルーラで行くぞ!」

 

レグルスの言葉に、ポップは慌ててルーラの仕様について説明した。

 

「ま、待てよ!ルーラは一度行った場所しか行けないんだ!行くなら、一番近いアルキードから移動するしかねえ!」

「アルキードは戦場だ!行けばドラゴン共と戦うことになるぞ!他に手はないのか!?」

「その次に近いのは…ベンガーナになる!けど…ベンガーナからアルキードは3日ぐらい歩いたはずだ!」

「3日!?そんなに時間をかけられないよ!…敵に見つかる前に、早く…母さんのところに行かないと…!」

「そうなると、行き先はアルキードになるわね…かなり厳しい戦いになるわよ」

 

行き先を巡って相談する中、レグルスはルーラの性質を思い出しながら、ナバラの持つ水晶を睨んだ。

 

「ルーラはイメージが大事になる…ナバラ殿!ソアラ姫がいる建物の周囲を映し出せ!」

「お待ちくだされ」

 

ナバラが水晶を操作すると、ソアラがいる建物の外観が映し出された。それを見て、レグルスは必死の形相でポップを説得した。

 

「これでいけるはずだ!ポップ、これを見てイメージしろ!頼む!!!」

「それでイメージしてルーラで行けって!?無茶言うなよぉ〜!やってみるけどよ…!」

 

ポップは難しい顔で水晶を睨んだ。

 

「現状、最短で移動するにはルーラしかない!ポップ!お前だけが頼りだ!」

「ポップ!お願い、頑張って!俺、母さんに会いたい!会っていろんなことを話したいんだ!」

「バルジ島でのあなたは頼りになったと聞いたわ!ポップ君!君なら出来る!」

「ポップさん…貴方だけが頼りなんです!頑張って下さい!」

 

仲間たちからの声援に、ポップはプレッシャーを感じつつも、腹を括った。

 

「うおおぉおい!俺ばっかりに負担かけないでくれ!…ええい!やってやるよ!!!えっと…ばあさん!もうちょっと全体を見せてくれ…そうそう!…あと、グルッと周りを見せてくれ!…」

 

ナバラが水晶を操作し、建物の周囲の様子が次々に映し出された。ポップはそれを頭に叩き込み、イメージを固めた。

 

「…どうだ?」

「むむむ…よし!イメージは出来た!ルーラで行けるはずだ!」

「訓練場に出るぞ!」

 

ダイ、ポップ、ラーハルト、レオナは駆け出し、訓練場へと向かった。レグルスは寝室を出る前に振り返り、ナバラとメルルに指示を出した。

 

「ナバラ殿!メルル殿!2人はアルキードで生存者の捜索を頼む!」

「分かりました!」

「皆さん、お気をつけて!」

 

レグルスはナバラとメルル、そして父フォルケン王に小さく頷くと、寝室を出た。訓練場に着くと、ダイたちはすでにポップのまわりに集まり、レグルスもその輪に加わった。ポップは深く息を吸い込み、建物周辺の光景をイメージしながら魔法を発動させた。

 

「行くぞ!ルーラ!!!」

 

ポップの叫びとともに、ダイ、ポップ、レオナ、レグルス、ラーハルトの姿はその場からかき消えた。ルーラの軌跡が、南へ向かい、アルキードへと伸びていった。




とうとう主人公が竜の騎士だと判明し、さらにバランの生まれ変わりだと気づきました!ダイはレグルスが自分と同じ種族だと知り、さらに父親の生まれ変わりでもあるとわかり、原作よりも孤独感が少なくなっています。

次回、ソアラさんのもとへ主人公とダイ君が向かいます!


ボツネタ
朝食の席でダイ、レグルス、ラーハルトが思い悩んでいた内容です。ボツ理由は、話が進まなくなるから。

(…レグはなんで俺のことディーノって呼んだんだろう?…もしかして、俺の本当の名前ってディーノなんじゃ…?)
(…今夜、ラーハルトにベッドに縛ってもらえば、部屋から出ることはなくなるはずだが…何故だ!不安が拭えない!…はぁ、いっそポップに警告するべきか?私から逃げろと…)
(……今夜、俺はどうすればいい!?レグルス様を縛るなど、不敬ではないか!?…だが、俺を頼ってくださったのだ。せめて少しでも痛くないように上手に縛らなくては!)

朝食後、ダイはポップに話しかけた。
「ポップ!俺の本当の名前ってディーノだったりしないかな?」
「えっ?ディーノって…レグが呼んでた名前だよな?」

レグルスはポップに話しかけた。
「ポップ、明日の朝、私が部屋に来たら…私を殴るか、逃げてくれ。話は以上だ」
「…は?」

ラーハルトはポップに話しかけた。
「ポップ!頼みがある!痛みが出ない方法で人を縛りたい!縛り方を教えてくれ!お前なら知っているだろ?」
「………おめぇは俺をなんだと思ってやがる!!?」

ポップは3人からの相談内容に頭を抱えた。

「なんか、ポップ君も思い悩んでいるのよね…みんなどうしたのかしら?聞いてもはぐらかすし…」

レオナはダイ、ポップ、レグルス、ラーハルトを見ながら首をかしげた。

報告:誤字脱字修正しました!報告ありがとうございます。
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