ダイの大冒険 ―次世代の竜の騎士ー   作:キャットテールの鈴

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ソアラに拒まれたダイたち一行は、部屋の外でソアラが落ち着くのを待っていた。そんな彼らのもとへ魔の手が忍び寄ろうとしていた。


51_竜の騎士編_迫り来る魔の手

ソアラに拒絶され、気まずい空気のまま部屋を出たダイたちは、扉の前で足を止めた。沈黙の中、うつむくダイとレグルスに、レオナは視線を向けた。

 

「少し、ここで待ちましょう」

 

気遣うような声に、レグルスがぽつりと呟いた。

 

「……すまない…私のせいで…」

 

ソアラを悲しませ、結果的に部屋を後にすることになったことに、レグルスは責任を感じ、うつむきながら小さく呟いた。その沈んだ空気を少しでも和らげようと、レオナは明るい声を意識して言葉をかけた。

 

「きっと大丈夫よ!ソアラさんはちょっとびっくりしちゃっただけ!少し、時間を置けば―」

「貴様!!!今の悲鳴はなんだ!?」

「!!!」

 

ソアラが落ち着くのを待とうとしていたそのとき、建物の入口の方から男性の怒鳴り声が響き渡り、それに続いてラーハルトが宥める声も聞こえてきた。

 

「おい!落ち着け!」

「貴様らソアラ様に何をした!!!そこを退け!!!」

「…ここを通すわけにはいかん!直ぐに中の者も出てくる!少し待て!!!」

「ふざけるな!退けと言っている!…退かぬなら…無理矢理にでも通させてもらう!ソアラ様…今、お助けします!うおおおっ!!!」

「おい!待て…!くそっ!!!」

 

怒声の応酬のあと、激しく地面を踏み鳴らす音や金属音が響き、それに続いて何かを強く打つ音、そして人が倒れる音が聞こえてきた。

 

「今の音…」

 

物音が止むと同時に、ダイたちは顔を見合わせ、慌てて駆け足で階段を降り、離宮の外へと飛び出した。そこには、地面に気絶したアルキード兵士が倒れており、その隣でラーハルトは眉を下げ、建物から出てきたダイたちに対して、困ったような、どこか罰が悪そうな表情を向けた。

 

「ラーハルト…」

「申し訳ございません…ソアラ様の悲鳴が聞こえたため、この者が中に入ろうとしまして…」

「それで無理矢理止めたってわけか。おめぇ、何やってるんだよ…」

「しょうがないだろ…向こうが本気で斬りかかってきたのだからな…」

 

ポップが呆れたようにラーハルトを見やると、ラーハルトは落ち込みつつも肩をすくめた。

 

「お前は悪くない、ラーハルト…悪いのは…全て私だ…」

 

レグルスは手で顔を覆い、悲痛な面持ちで顔を歪めた。それを見たラーハルトは普段見せぬ主人の弱々しい姿に一瞬動揺しつつも、慌ててレグルスの背中に手を添え、そっと何度も撫でた。

 

「ど、どうされたのです!?レグルス様…中で何があったのですか?」

「ソアラ姫を…悲しませてしまった…」

 

俯いたままだったダイも、静かに顔を上げると、怒りと悲しみが入り混じったような瞳で周囲を見渡し、最後にレグルスをじっと見つめ、唇を強く噛んで顔をくしゃりと歪めた。

 

「ねえ…なんで、母さんは…あんなことになってるの!?父さんは…なんで死んだの!?レグ!!!何か知ってるなら教えてよ!!!」

「…私もソアラ姫の現状は知らなかった…バランは……」

 

レグルスはバランの死について言いづらそうに口を閉じた。するとポップが代わりに、かつて酒場で耳にした話を思い出しながら語り始めた。

 

「…おめぇの親父さん…バランは…おめぇとソアラさん、家族三人、テランで暮らしていた。けど、アルキードの軍勢に見つかっちまって、連行された。そんで、アルキードで…バランは…処刑、されたんだ…」

「…えっ?」

「なに…?」

 

ダイは呆然とポップを見上げ、ラーハルトはレグルスを撫でていた手を止め、眉をひそめながらポップに視線を向けた。

 

「赤子のおめぇはソアラさんから引き離されて、ロモスに送られるはずだったんだ…でも、その途中で船が嵐に遭って難破して…おめぇは、死んだと思われてた。ソアラさんは…旦那と子供を失って、心が壊れた。…ってのを、前に聞いたんだ」

 

ラーハルトはその話に動揺しながらも、以前レグルスが広場で血を流した場面と、その広場で行われた処刑の話を思い出し、目を見開いた。

 

(…先代の竜の騎士、バラン様は…アルキードの連中に………そうか!レグルス様が血を流した広場!…確か、あそこで魔族と疑われた男が処刑されたと以前ポップが!…まさか…あそこで…バラン様は……)

 

ラーハルトは怒りが込み上げ、レグルスの背に置いていた手が震え始めた。歯を食いしばりながら、必死に感情を押さえ込んだ。

 

「そんな…なんで…」

 

ダイは、竜の騎士である父が処刑されたという事実に衝撃を受け、体を震わせながら、昨日の死神の言葉を思い出した。

 

『君と同じ、先代の竜の騎士…君の父親は、命懸けで人間を守ったけれど…最期はその人間に処刑されちゃったからねぇ…』

 

「じゃあ…あの死神が言っていたように…父さんは…竜の騎士は、人間じゃないから、人間に殺されたの?…人間を、守ったのに…?」

「死神?」

 

ポップが不思議そうな顔をすると、レオナが昨日ベンガーナで出会った死神キルバーンのことを思い出し、口を開いた。

 

「ほら、昨日伝えたでしょ。私たちの前に現れた魔王軍の死神キルバーンのこと!あいつ、竜の騎士は人間に処刑されたって言ったのよ…」

「!じゃあ、魔王軍はダイの親父さんのこと知っていたのか…」

 

レグルスはダイのつらそうな表情を見つめながら、夢で見た幸せな家族の姿やソアラの王族としての立場、そしてこれまでに集めた情報を重ね合わせ、自分の考えを口にした。

 

「…ダイ、死神は『バランが人間でないから処刑された』と言っていたらしいが、私はそうは思わない。たとえバランが人間だったとしても…おそらく処刑は免れなかっただろう…」

 

ダイは驚きに目を見開き、泣きそうな顔でレグルスを強く睨んだ。

 

「人間でも処刑されたって…なんでだよ!?」

「バランとソアラ姫は、駆け落ちだった可能性がある。たとえ互いに愛し合っていても、ソアラ姫本人の意思でアルキードを出たとしても…王族の誘拐は重罪であり、死刑とされるからだ…」

 

レグルスは、王族の立場からアルキード王家がソアラを守ろうとした可能性について考えていた。

 

(…それに、バランを魔族だと言って処刑すれば、アルキード王家にとって都合が良い。魔族に誘拐されたという形なら、姫が駆け落ちしたというよりも国民にとって受け入れやすいからな…恐らく、アルキード王家はソアラ姫を守るために、バランを悪者に仕立てたのだろう…)

 

レオナもまた、かつて聞いた話を思い返しながら小さくつぶやいた。

 

「バランとソアラさんの関係は、アルキード王家から歓迎されていなかった…だから2人は国を出ることになったのね」

「…歓迎、されてなかった…?」

 

ダイは力なく悲しげにうつむき、レグルスはそっとダイの肩に手を置いて、優しく語りかけた。

 

「ダイ…この話はひとまず後にしよう。まずはソアラ姫を安全な場所へ、テランに連れ帰るぞ」

「…うん」

「時間はかかるかもしれないが…我ら2人がソアラ姫の側についていれば、いずれ病も良く――」

「うわああぁあ!!!」

「!!!」

 

突如、森の奥から悲鳴が響き渡り、ダイたちは一斉に顔を上げて警戒の色を浮かべた。森の陰から現れたのは、魔軍司令ハドラー、超竜軍団長ガルダンディー、ルード、そして二十匹ものドラゴンたちだった。そのうちの一体のドラゴンの口には、先ほど丘へ向かったアルキード兵士が気絶したまま咥えられていた。

 

「クックックッ!…貴様らアバンの使徒はここで皆殺しだ!」

「ハドラー!!!」

「だが…まさか貴様らの方が先にここに着いていたとはな。目当てはこの国の姫だけだったが…まあいい!おかげで、まとめて始末できるというものよ!!!」

 

その言葉にダイたちはすぐさま武器を構え、鋭い視線を敵に向けた。レグルスはハドラーの背後、宙に浮かぶガルダンディーに目を向け、治っている腕と翼に注目した。

 

「ガルダンディー…以前、腕と翼を切り落としたのだがな。魔王軍には、失われた部位を再生する回復呪文の使い手がいるのか」

 

その視線に気づいたガルダンディーは、顔を引きつらせて恐怖に震えた。

 

(ひっ!!!あ、あ…あのガキがいる!!!しかも俺のこと見てやがる!!!今度こそ…俺を殺そうとしていやがるんだ!!!)

 

恐怖を隠せぬまま、ガルダンディーは静かに上昇して距離を取ろうとした。すると、スカイドラゴンのルードもまた無言で高度を上げ、ガルダンディーとレグルスの間に割って入るように位置を取った。

 

「この俺から逃げようとは思わないことだ!逃げれば、ここにいる人間は死ぬことになる!!!」

「あの人を助けないと…!」

 

ハドラーはドラゴンに咥えられたアルキード兵を見ながらニヤリとし、人質による牽制を試みた。ダイは冷や汗を浮かべたが、レグルスは冷静に魔法を詠唱し、ラーハルトに指示を出した。

 

「バイキルト!ラーハルト、あの兵士を救え」

「はっ!!!」

 

ラーハルトは返事をすると同時に姿を消し、ハドラーは警戒してドラゴンを振り返った。だが、すでに遅く、視線の先ではラーハルトがドラゴンの首に向かって槍を振り下ろしていた。

 

「地雷閃!!!」

「な、にぃ!?」

 

ハドラーはラーハルトのあまりの速さ、力に目を見張った。ドラゴンは何が起きたのか理解する暇もなく、首を切断され、頭が地面に落ちた。

 

「ちいっ!!!あの者…!スピードだけではなく、力も相当なものだ!」

「嘘だろ!?一撃でドラゴンを倒しやがった!!くそっ!ドラゴン共!一斉にかかれ!あいつを始末しろ!!!」

「グォオオオ!!!」

 

ガルダンディーの指示に従い、ドラゴンたちは一斉にラーハルトへと襲いかかった。ラーハルトは、それよりも速く転がっているドラゴンの口を力づくでこじ開け、気絶した兵士を抱きかかえると、目にも止まらぬ速度で離脱し、レグルスの隣に現れた。

 

「救出完了しました!!!」

「ご苦労。ラーハルト、良くやった!」

「はっ!!!」

 

ラーハルトは褒められ、嬉しそうな笑みを浮かべた。気絶した兵士は、いつの間にか離宮入口近くに横たえられていた。

 

「ラーハルト、凄い!!!」

「相変わらず、速いな…」

「彼が味方で、本当に良かったわ…」

 

ダイは目を輝かせながらラーハルトを見つめた。ポップとレオナは、その圧倒的な速さで敵陣に突入し、人質を救出したラーハルトの行動に驚き、少しだけ頬をひきつらせた。レグルスは2人に歩み寄り、敵に聞かれないよう小声で語りかけた。

 

「ポップ、レオナ、頼みがある。ソアラ姫をここへ…何かあった時のため、撤退も視野に入れ行動した方がいいだろう」

「いいけど…俺らでいいのか?」

「…私では…ソアラ姫を怖がらせてしまう…同じ女性のレオナがいた方が、ソアラ姫も安心するだろう。いざとなれば、ポップのルーラで先にテランに向かってくれ」

 

レグルスは少し寂しげに依頼し、レオナは頷いて了承した。

 

「分かったわ!ソアラさんは私たちに任せて!」

「ポップ!あの人を…お願い!」

 

ダイも少し寂しそうにポップに頼むと、ポップは明るく笑って応じた。

 

「おう!任せろ!」

 

2人は頷き合い、建物内へと入っていった。

彼らを見送ったダイ、レグルス、ラーハルトは武器を構え、ハドラーたちを改めて睨みつけた。

 

「ポップにはああ言ったが…戻ってくる前にあの者らを倒してしまうのが一番安全だろう」

「流石に難しいんじゃ…ハドラーとガルダンディーに…ドラゴン19匹もいるんだよ?」

「では、こうしましょう!俺が周りの雑魚を倒し、お2人はハドラーを倒していただくというのは!鳥の方は…随分と高いところを飛んでるので後回しに!」

「ああ、そうしよう」

「ええ〜…ドラゴンを雑魚呼ばわり…」

 

ダイは少し呆れたようにラーハルトを見つめた。その会話を聞いていたハドラーは怒りに顔を歪め、額に青筋を立てながら両手に爆炎をまとい、今にも魔法を放とうとしていた。

 

「このガキどもがぁ〜!!!舐め腐った態度をとりおって!!!貴様ら如きに、我ら魔王軍が簡単に倒せると思うな!!!イオナズン!!!」

「ドラゴン共!炎で勇者どもを焼き殺せ!」

「グオオオ!!!」

 

ハドラーは巨大な爆炎魔法を放ち、複数のドラゴンも一斉に炎を吐いた。

 

「「真空海波斬!!!」」

「海鳴閃!!!」

 

ダイ、レグルス、ラーハルトは技を繰り出し、迫りくる爆炎と広範囲のブレスを、風の刃と斬撃で切り裂いた。

両者の攻撃が激突した中心で爆発が起こり、炎上。周囲は煙に包まれて視界が悪くなった。

 

「行くぞっ!!!」

 

ダイの掛け声を合図に、ダイはハドラーに、ラーハルトはドラゴンに向かって駆け出した。

 

「バイキルト!」

 

レグルスはダイと自分自身に魔法をかけた後、ダイの後を追ってハドラーに向かって走り出した。

 

「たああぁあ!!!」

 

ダイは跳躍し、ハドラーへ剣を振り下ろした。ハドラーはニヤリと笑い、手の甲からヘルズクローを出してダイの攻撃を受け止め、すかさず反撃した。

 

「ふん!死ねえっ!ダイ!!!」

 

ダイは紙一重でハドラーの素早い突き攻撃をかわし、再び距離を詰めて斬りかかった。ハドラーはその動きに驚き、デルムリン島で対峙した時とは違い、ダイが力をつけていることに目を見開いた。

 

(馬鹿な!攻撃を避けただとっ!?この短期間で俺の攻撃を避けるほどに力をつけたというのか!?)

「火炎大地斬!!!」

 

炎を纏った剣をダイが振り下ろそうとしたその瞬間、ハドラーは危険を察知し、一歩下がると、手のひらを突き出して魔法を放った。

 

「イオラ!!!」

「うっ!」

 

爆風を正面から受けたダイはダメージを負い、よろめいた。ハドラーは反撃の好機と見て駆け出し、ダイの腹部へ爪を突き出した。

 

「貴様は、俺が始末してくれるっ!ダイ!!!」

「させるか!!!大地斬!!!」

 

レグルスがハドラーのヘルズクローに向けて剣を振ると、その一撃で軌道が逸れ、爪はダイの脇をかすめただけで済んだ。

 

「ちっ!!!貴様から先に死にたいか!!!」

 

ダイが後方へ下がり、ハドラーは妨害してきたレグルスをギロリと睨みつけ、先に殺そうと爪を突き出した。だがレグルスは敵の攻撃を剣で逸らし、その場で一回転して遠心力を乗せた剣をハドラーの首めがけて振り下ろした。

 

「大地斬!!!…やはり、切れないか」

「ぐ、ううぅう!!!おのれぇ!!!」

 

剣はハドラーの首に届いたものの、皮膚は硬く、浅い切り傷をつけるだけだった。ハドラーは目を見開きながら腕を振り、レグルスに爪で切りかかろうとしたが、レグルスはすぐに後方へ下がって攻撃をかわした。その隙をつき、ダイがハドラーに向かって斬撃を放った。

 

「海波斬!!!」

「ぐうぅっ!!!」

 

斬撃によりハドラーの腕には傷がつき、蒼い血が少し流れた。ハドラーは人間だと思っていたレグルスに傷を負わされ、さらに間髪入れずダイに腕を斬られたことで激怒した。

 

「よくも…よくも!この俺に傷をつけたなあぁあ!!!」

 

血走った目でレグルスを睨みつけ、怒りを爆発させた。

 

「人間風情が!楽には殺さん!!貴様らを殺した後、地獄の炎で焼き尽くしてくれる!!!」

「…人間、か」

 

レグルスは竜の騎士と知った今となっては、自分が人間と認識されたことに微かな違和感を覚え、肩をすくめた。

 

「ダイ、私ではハドラーに決定打を与えられん。私はサポートにまわり…」

「俺がメインで攻撃だね!分かった!」

「ああ、行くぞ!!!」

 

2人は同時に駆け出し、ハドラーは迎え撃つため、両手を突き出して呪文を唱えた。

 

「近づけさせるかぁ!!!これでも喰らえ!!!イオラ!イオラ!!」

「なっ!連続攻撃!」

「海波斬!!!…これでは近づけん!」

 

ハドラーは連続で魔法を放ち、爆風が前方を包んだ。ダイとレグルスは巻き込まれないよう立ち止まり、それぞれの技で呪文を切り裂いた。

 

 

 

ポップとレオナはダイたちと別れ、離宮内を走ってソアラがいた部屋の前に到着すると、ポップが扉の取っ手を掴んだ。

 

「姫さん、入るぞ!」

「ええ!」

 

扉を開けた2人は素早く部屋の中に入った。部屋は明るく、ソアラは先ほどと変わらず椅子に座っていたが、腕には何も抱えておらず、両手を膝の上に置いていた。中に入った2人は緊張しながらソアラを見つめたが、彼女はポップたちに気づくと、にこやかに笑みを浮かべた。

 

「あら?あなたたちは…?」

 

その笑顔を見たポップとレオナは、先ほどの錯乱状態ではないことに安心し、肩の力を抜いた。

 

「良かった!落ち着いたみたいだな。姫さん、頼むぜ!」

「ええ!」

 

2人は小声で話し合った後、女性であるレオナがソアラに近づき、膝をついて目線を合わせると、真剣な表情を浮かべた。

 

「ソアラさん!私たちと一緒に行きましょ!敵が近くまで来ているの!ここは危ないわ!」

 

ソアラはその言葉に目を見開いた。

 

「まぁ!大変だわ!外で大きな音がすると思っていたの…分かったわ、行きましょう!」

「聞き入れてくれて良かった…危険がなくなったら、またここに戻れるから!今だけは、安全な場所へ行きましょう!!」

「ええ!」

 

ソアラはニコッと笑い、ゆっくりと椅子から立ち上がった。ポップとレオナはおとなしく避難を受け入れたソアラの様子に安心し、ホッと息をついた。そのとき、ポップはふと、先ほどまでソアラが抱えていた人形がないことに気づいた。

 

「ソアラさん!さっきの人形…じゃなくて!えっと、ディーノは何処にいるんだ?」

「えっ?」

 

ソアラはキョトンとした顔を見せたが、すぐに笑みを浮かべて奥のベビーベッドを指差した。

 

「ああ、あれね!あの人形なら、あそこにあるわ!」

「…?」

 

ポップとレオナはソアラの言葉に違和感を覚えたが、避難を優先し、レオナが頷いた。

 

「分かったわ!ディーノ君は私に任せて!」

「ええ!お願いね!」

 

ソアラは笑顔を向けてレオナに頼み、レオナはベビーベッドへと向かった。ポップがその様子を見ていたところ、ソアラが近づき、突然肩に手を触れてきたため、ポップはびくっと肩を震わせた。

 

「えっ?」

 

驚いて振り返ったポップは、美しい笑顔を向けてくるソアラを見つめた。美人に触れられ、笑顔を向けられたことで、少しの喜びと同時に、ダイやレグルスに見つかったらどうなるかという焦りから冷や汗が流れた。

 

「外には危険がいっぱいなのよね…私、怖いわ…」

「あ、あの…ソアラさん?俺たちが守るんで大丈夫ですよ!だから…えっと、少し離れてくんねぇか?ダイとレグに見つかったら…何言われるか!!!」

「ああ!ポップさんは、なんて優しいのかしら!」

(?…俺、名前言ったっけ?)

「えっ!!?」

 

ポップが違和感に気づいたその時、ベビーベッドに近づいていたレオナが叫び声を上げた。

 

「キヒヒッ!お休み、ポップ!!!」

 

その瞬間、ポップの首に激痛が走った。ソアラの鋭い爪がポップの首筋に深々と突き刺さり、傷口から血が溢れ出た。

 

「ぐああああぁあっ!!!」

 

ポップは絶叫し、ソアラを振り払ってふらつきながら距離を取った。

 

「ポップ君!?きゃあ!!!」

 

ポップに襲いかかったソアラは、すぐにレオナへと駆け寄り、爪で彼女の腕にも傷をつけた。

 

「っう…!ソアラさん!何するんだ!!!」

 

ポップは首の出血を押さえ、レオナも腕を押さえながら、凶悪な笑みを浮かべたソアラを警戒して睨みつけた。

 

「ポップ君!ベッドの裏にソアラさんが!!!」

「!!!」

 

ポップがベビーベッドの裏を確認すると、そこには人形を抱えて気絶しているソアラが横たわっていた。

 

「なっ!?テメェは誰だ!!!」

「キ〜ッヒヒヒッ!!!」

 

ポップがソアラに化けた人物を睨むと、その姿は煙に包まれ、やがて晴れた煙の中から妖魔士団長ザボエラが姿を現した。

 

「てめぇは!!!」

「妖魔士団長ザボエラ!!!」

「バカめ!まんまと引っかかりおって!勇者の母親である此奴に化ければ警戒されまいと踏んでおったが…こんなにも簡単に騙されるとはのぅ!キ〜ヒヒヒッ!!!」

「てめぇ!……っ!?な…んだ…?」

 

ポップとレオナは突然めまいに襲われ、ふらつきながらその場に倒れこんだ。ザボエラは倒れた2人を見下ろし、ニヤニヤと笑った。

 

「っう…体が…動かない!?」

「俺たちに…何しやがった!!!」

 

ポップが震える体で睨みつけると、ザボエラは自慢げに自分の爪を見せつけた。

 

「キヒヒ〜ッ!!!このワシの体はなぁ、数百種類に及ぶ毒素を持っておるんじゃ!その中でもとびっきりの神経毒を爪から注入してやったのよ!!!」

「毒…キ…キアリー!」

 

レオナは震える手で呪文を唱えようとしたが、体が痺れて魔法を発動できなかった。

 

「無駄じゃよ!今のお前たちでは動くことも、魔法を使うこともできんのじゃ!」

「そ…んな…!」

「ううっ…!ダイ…みんなぁ!!!」

「無駄無駄!外の騒音にお前たちの声など聞こえはせん!ヒヒヒッ!このまま、ほっといても死ぬが…もう二、三本刺せば即死じゃろう!!!」

「っ……ダイッ!」

 

ザボエラは爪から毒を滴らせながらニヤリと笑い、ポップに向かって腕を振り上げた。

 

 

 

「…?…今、誰かの声が…ポップ?」

 

離宮の外でハドラーと戦っていたダイは、ポップの声が聞こえた気がして離宮の中に意識を向け、気配を探った。建物内にはポップ、レオナ、ソアラ、そしてザボエラの気配があり、ダイは驚愕し、慌てて建物内へ駆け出しながらレグルスに声をかけた。

 

「レグ!!!ザボエラが中にいる!!!ポップたちが危険だ!!!」

「何っ!?ハドラーは任せろ!行け!!!」

 

ダイはすぐに建物内へ走り、レグルスはハドラーの攻撃を捌きながら反撃の機会をうかがっていた。

 

「貴様1人でこの俺の攻撃を耐えられるかぁっ!!!イオラ!!!」

「海波斬!!!っう!」

 

レグルスは至近距離で放たれた魔法を剣撃で切り裂いたが、距離が近かったため爆風によるダメージを受けた。1人になったことで、ハドラーの魔法と近接戦闘を組み合わせた連続攻撃を捌ききれず、レグルスは徐々にダメージを負っていった。

 

「クククッ!!!人間にしては動けるようだな…!」

「ぐっ!!!」

 

ハドラーの爪がレグルスの腕を切り裂き、傷口からは赤い血が流れた。怪我が増えていくレグルスに対し、ハドラーは不敵な笑みを浮かべた。

 

「だが!所詮、この俺の敵ではない!!!貴様を殺し、その後は建物にいる奴ら全員を殺してくれる!!!」

「っ!!!させるかぁ!!!」

 

レグルスはギッとハドラーを睨みつけ、少しでもこの場に留めさせようと、必死に攻撃を捌き続けた。

 

 

 

離宮の中では、ザボエラがポップにトドメを刺そうと、毒が滴る爪を振り上げていた。

 

「死ねぇ〜〜〜!!!」

「っ…!!!」

 

ポップが咄嗟に目を瞑ったそのとき、扉が勢いよく開き、部屋の中に聞き慣れた声が響き渡った。

 

「海波斬!!!」

「ぎょえええっ!!!」

 

部屋に入ってきたのはダイだった。彼は即座に剣を振るい、斬撃を放った。ダイの存在に気づいたザボエラは慌てて手を引っ込め、斬撃はポップとザボエラの間を通過した。

 

「ダイッ…!!!」

「ダイ君…!!!」

「お、お主は…勇者ダイ!」

 

ポップとレオナは倒れ伏したまま喜びの声を上げ、ザボエラは間一髪で手を失わずに済んだことに驚愕し、鼻水を垂らした。

 

「ポップたちから離れろ!!!」

「ひょええぇえ!!!」

 

ダイが鋭い目で睨みつけると、ザボエラは両手を上げて慌ててポップから離れた。ダイは警戒を緩めず、ポップのそばへ駆け寄った。

 

「ポップ!大丈夫!?」

「ダイ…!よく…俺たちに…気づいたな…!」

「ポップが俺を呼ぶ声が聞こえたんだ!」

「俺の声―」

「ダイ君!!!」

 

レオナの叫びに、ダイとポップは反射的にザボエラへと視線を向けた。ザボエラはすでにソアラのそばに立っており、ダイに向かって不敵な笑みを浮かべていた。

 

「キヒヒヒッ!邪魔者が入ったのは想定外じゃったが…まあいい!元々狙いはこの女だけじゃからのぅ!!」

 

「まさか…!やめ――!」

 

ダイがソアラを救おうと駆け出したが、それよりも早くザボエラが呪文を発動した。

 

「じゃあのう!ルーラ!!!」

 

ザボエラが唱えたルーラは、窓を突き破り、ガラスの割れる音とともに外へ飛び出していった。ザボエラとソアラの姿は一瞬で掻き消え、ダイはその場に立ち尽くし、砕けた窓と、もぬけの殻となった空間を呆然と見つめた。

 

「母さん!!!……そんな、嘘だ!!!」

 

我に返ったダイは、割れたガラスを踏みしめながら窓際に駆け寄り、空に残されたルーラ特有の光の軌道を必死に目で追った。

 

「母さんを返せ!母さんっ!!母さああああん!!!」

 

ダイの絶叫が虚しく空に響き渡るが、ルーラの光はすぐにかき消え、母の姿も気配も完全に失われていた。

 

「そんな…やっと…やっと、会えたのに!!!」

「ピピィーーー!!!」

「ゴメちゃん?」

 

物陰に隠れていたゴメちゃんが警告のような鳴き声を上げた。その意図を察したダイは、すぐに振り返り、ポップとレオナに視線を向けた。

 

「ぐゔぅっ!!!」

「うっ…!はぁ…はぁ…!」

「!!!ポップ!レオナ!」

 

2人は床に倒れたまま、冷や汗を大量にかきながら苦しげな呼吸を繰り返しており、明らかに重篤な状態だった。

 

「ぐあぁっ…!はぁ…!はぁ…!」

「ポップ!!?レオナ!!!しっかりして!!」

 

ダイは2人に必死に呼びかけたが、意識はすでになく、かすかに聞こえる苦しげな呼吸音だけが、容体の深刻さを物語っていた。

 

「もしかして、これ毒!?レグに治療してもらわないと!!!」

「ピィッ!」

 

ダイは2人の様子から毒によるものと判断し、キアリーが使えるレグルスのもとへ急ぐため、ポップとレオナを背中に背負って部屋を飛び出した。

 

 

 

レグルスは少しずつダメージを負いながらも、ハドラーの攻撃を捌き続けていた。

 

「ヘルズクロー!!!」

 

ハドラーが爪を突き出してきたため、レグルスは軌道を逸らすように技を繰り出した。

 

「大地斬!!!」

「イオラ!」

「海波斬!!!ぐうっ!!!」

 

至近距離で放たれたハドラーの魔法を剣撃で切り裂いたレグルスだったが、爆風をもろに受けて火傷を負い、痛みに顔を歪めながらハドラーから距離を取った。

 

「はぁ…はぁ…!!!」

 

そのとき、背後の建物からルーラの発動音が聞こえ、ザボエラとソアラの気配が高速で移動するのを感じ取ったレグルスは、驚愕して振り向いた。

 

「!!!…今のルーラは、まさか!」

 

レグルスの視線の先で、建物からルーラが飛び立ち、空へと弧を描いて消えていった。ソアラが敵に連れ去られたと悟ったレグルスは、慌てて駆け出しながら必死に呪文を唱えた。

 

「トベルーラ!!!ルーラ!!!リリルーラ!!!……何でもいい、頼む…!発動しろ!!!」

 

彼はソアラを追うため、移動系の呪文を次々と試したが、そのどれもが反応を示さなかった。

 

「くそっ…!ソアラ!!!」

 

焦りと不安、自分自身への怒りが胸を締めつけ、レグルスは咄嗟にソアラが消えた空へと手を伸ばした。だがその腕を、ハドラーが無造作に掴み、ニヤリと笑った。

 

「やっと捕まえたぞ!ちょこまかと逃げおって!!!」

「しまっ―!」

 

ソアラに気を取られていたレグルスは、完全に油断していた。掴まれた腕を斬りつけようと剣を振り上げたが、それより早くハドラーが腕ごと大きく振り回し、レグルスの体を背中から地面に叩きつけた。

 

「ぐあっ!!!」

「クククッ!そおらぁ!!!」

「ぐうっ…!!!」

 

ハドラーはそのままレグルスの体を、地面や木の幹へ何度も叩きつけた。容赦のない連撃により、レグルスの体は血に染まり、やがて力なくぐったりと垂れ下がった。

 

「…っ……ぐ……っ……」

「クククッ、まるでボロ雑巾だな!」

 

ハドラーは笑いながら、空いている手に爪を構え、そのままレグルスの腹へと突き刺した。

 

「があああぁあっ!!!」

「クククッ!死ねぇっ!!!」

 

鋭い爪がレグルスの腹を貫き、背中から突き出た。赤黒い血が爪を伝って滴り落ち、ハドラーの腕と地面を濡らした。腹部を貫かれたレグルスは、激痛に絶叫し、その声は森の中に響き渡った。

 

 

 

一方その頃、上空ではガルダンディーがドラゴンに指示を出しながら、レグルスとハドラーの戦いを見下ろしていた。予想を超えるレグルスの劣勢に、ガルダンディーは驚愕してスカイドラゴンのルードに語りかけた。

 

「流石ハドラー様…!あのガキがあんなボロボロになるなんて…」

「グルッ!」

 

ルードが何かを訴えるように声を上げた。

 

「俺も加勢しろって…?……いや、あのガキは何しでかすか分かんねぇからな…ここで様子を…」

「…グルルルッ!」

 

ルードはガルダンディーの躊躇に苛立ち、鼻先で背中を押して戦場の方へと進ませた。

 

「ルード!てめぇ!おい!やめろ!何考えてやがる!!?あのガキがいるんだぞ!?止めろ!近づけるな!」

「グル!グル!」

「トラウマを克服しろ?…無理に決まってるだろ!?今だに毎晩あのガキが夢に出てくるんだぞ!!!顔も見たくねぇ!声も聞きたくねぇ!近づけるな!止めろ!」

 

言い争いながら、ガルダンディーとルードは少しずつハドラーとレグルスが戦う上空へと移動していった。

 

 

 

レグルスは腹に爪を突き刺され、激痛に顔を歪めながらも、視線を逸らさずハドラーを睨みつけていた。

 

「…っつ…!!!」

「フンッ!所詮は人間のガキ、俺の敵ではないわ!!!」

「が…あっ…!!!おの…れえ…!!!」

 

ハドラーは、なおも睨み返してくる子供の顔を見てニヤリと笑い、魔法を発動しようとした。

 

「このまま殺してやる!!!俺の炎は地獄の炎!骨も残さず焼け死ぬがいい!!!メラゾー…」

「貴様ああぁあああ!!!」

 

その瞬間、ハドラーの腹に重い一撃が叩き込まれ、彼の体は大きく吹き飛んだ。

 

「ぐはああぁああ!!!ぐうっ!!!なんだ!今のは!?」

 

地面に転がりながら体を起こしたハドラーは、自身が立っていた場所を睨みつけた。そこには、憤怒の表情を浮かべたラーハルトが、ぐったりしたレグルスを抱きかかえ、片腕を突いて立ち上がっていた。

 

「よくも…!よくも、俺の主人を傷つけたな!!!ハドラーッ!!!」

「貴様っ…!魔族のくせに、人間に味方しおって!!!」

 

ハドラーは、自分を殴り飛ばした張本人であるラーハルトを睨み返した。上空では、ガルダンディーとルードが徐々に地上へと降りてきていたが、ラーハルトの目にも止まらぬ速さの一撃を見たガルダンディーは、慌てて翼をばたつかせて高度を上げた。

 

「あの魔族の速さはなんなんだ!?ハドラー様が反応できずに攻撃されたぞ!!?ドラゴンの攻撃も一度も当たらねぇし!くそっ!あいつもヤバイ!ルード!ここから離れるぞ!!!」

「グルッ…」

 

レグルスを恐れていたガルダンディーが、今度はラーハルトの強さにも怯えていることに、ルードは内心呆れていた。しかし、ガルダンディーが傷を負うよりはマシだと判断し、そのままガルダンディーの後を追って上昇していった。

 

ラーハルトはハドラーを警戒しつつも、腕に抱えたレグルスに目を落とした。そして、その瀕死の状態を目の当たりにし、苦悶の表情を浮かべた。

 

「申し訳ございません…俺が気づくのが遅れたせいで…」

「はぁ…はぁ…いや、助かった…ラーハルト……武器は、どうした?」

「槍は、5匹目のドラゴンを倒した後、壊れました…」

「…そうか……また、買わなくてはな…」

 

ラーハルトとレグルスが小声で会話していると、ハドラーが魔法を放ってきた。

 

「まとめて殺してくれる!死ねぇ!!!ベギラマ!!!」

 

閃光とともにベギラマが炸裂し、ラーハルトが立っていた場所に巨大な火柱が立ち上った。轟音と熱風が周囲を巻き込み、辺りは一瞬で炎に包まれた。だが、火の勢いが収まり、煙が晴れると、そこに二人の姿はなかった。

 

「逃げたか!奴らは何処だ!!!」

 

ハドラーは目を血走らせて周囲を見渡した。ラーハルトはレグルスを抱えたまま高速で離脱し、離宮の入り口付近に移動していた。

 

「レグルス様、ここで治療に専念なさってください」

 

ラーハルトは入り口近くで気絶している兵士の傍らに、そっとレグルスを下ろし、丁寧に横たえさせた。レグルスの腹部の大きな傷、全身を覆う切り傷と打撲、火傷――その凄惨な状態を目の当たりにし、ラーハルトの顔が苦悶に歪んだ。主君をこのような目に遭わせたハドラーへの怒りを抑えきれなくなっていた。

 

「俺はハドラーのやつをぶちのめしてきます!レグルス様をこんな目にあわせたあいつを…俺は、許しはしない!!!」

「はぁ…はぁ…ラーハルト…今のお前には武器がない…ハドラーもかなりの実力者だ…無理だけはするな…」

「はっ!!!」

 

ラーハルトは力強く頷き、その場から姿を消した。レグルスは震える手で腹部に手をかざし、魔法を唱えた。

 

「ぐっ…ホイミ!」

 

レグルスは腹部の傷を確認し、すでに塞がり始めていることに気づくと、眉を寄せて複雑な気持ちになった。

 

(人間であれば死に至る大怪我のはずだが、すでに血は止まり、傷口も塞がり始めている…回復速度が人間とは違う…私が、竜の騎士だからこその回復速度なのか?)

 

彼の脳裏に、バルジ島で瀕死になったにもかかわらず無事だったヒュンケルの姿が浮かんだ。

 

(……ん?…そう考えるとヒュンケルはよく無事でいられたな…私と違い人間であるはずだが……にしても、竜の騎士か…未だに自分が竜の騎士という実感が湧かない…頭では理解しているが…)

 

ため息をつきながら治療を続けていたそのとき、離宮の入り口の扉が勢いよく開き、ポップとレオナを背負ったダイが慌てて外へ飛び出してきた。

 

「レグ!ポップとレオナの治療を……って!レグ!お腹!!!怪我、大丈夫!?」

 

ダイはレグルスに仲間の治療を頼もうとしたが、彼が地面に倒れているのを見て顔色を変えた。レグルスは、ポップとレオナが毒状態であることにすぐ気づき、眉をひそめながら隣の地面を指差した。

 

「…ダイ…ポップとレオナを私の隣に…下ろしてくれ…今の私は動けない…手が届く位置に2人を…」

「う、うん!」

 

ダイは動揺しながらも、ポップとレオナをレグルスのすぐ隣に下ろした。レグルスは自己回復を中断し、ポップに手をかざした。

 

「キアリー!……ダイ、撤退するぞ…ポップが目を覚ましたら…ルーラでここを離脱する…それまで、時間稼ぎを…」

「分かった!ラーハルトと一緒にハドラーたちと戦うよ!!!レグは2人をお願いね!」

「ああ…ダイ、気をつけろ」

 

ダイは剣を手に立ち上がり、心配そうに3人を見つめたあと、ラーハルトのもとへ向かって駆け出していった。レグルスは治療を続けながら、苦しそうな表情を浮かべているポップの顔と、穴の開いた首元を見て、眉をひそめた。

 

(回復が遅い…魔族の毒はただでさえ厄介なうえ、複数の毒を使われている…自然回復が見込めない毒だ!くそっ!ザボエラめ!!!)

 

脳裏に浮かんだ不敵に笑うザボエラの顔に、レグルスは唇を噛み締めた。そのとき、ポップがうめき声をあげ、ゆっくりと瞼を開いた。

 

「う…ぐっ…」

「ポップ!…気づいたか…」

 

ポップはぼんやりと視線を彷徨わせ、治療しているレグルスに気づくと、顔を歪めた。

 

「レグ…すまねえ…ソアラさんを…連れて行かれた…!」

「………連れて行かれたならば、生きている可能性がある!希望は…ある!…ソアラ姫は必ず、私が救い出す!」

「俺も…協力するぜ…!ザボエラの奴…絶対に許せねぇ!」

 

2人が決意を交わしたそのとき、遠くから爆発音が響き、小さな石が飛んできて近くの地面に転がった。

 

「今の爆発は…イオナズン…ハドラーのやろうか…」

「ポップ…今、我々は危機的状況だ…ここから脱出するぞ…ルーラを使えるか?」

 

ポップは震える手を持ち上げ、握ったり開いたりしながら魔力の状態を確認した。魔法が発動可能だと感じると、小さく頷いた。

 

「…ああ!行けるぜ!」

「よし!」

 

レグルスは大声が出せなかったため、ポップの治療を中断し、空へ手のひらを向けて魔法を放った。

 

「イオ!イオ!…ダイ…!ラーハルト…!…気付け!!!」

 

離宮の上空に、二度の爆発音が轟いた。レグルスはレオナの体力が著しく低下していることに気づき、ポップの毒がある程度回復しているのを確認すると、先にレオナを治療することを告げた。

 

「ポップ…先にレオナの治療を行う…!」

「おう!俺はある程度、毒は回復した…姫さんを治療してやってくれ!」

「ああ、キアリー!」

 

レグルスはレオナに手をかざし、毒の治療を行った。しばらくして、全身に火傷と切り傷を負ったダイが駆けつけてきた。

 

「はあ!…はあ!…レグ!呼んだ!?」

「ここを脱出する!…兵士2人をポップの近くに!」

「分かった!」

 

ダイは気絶していた兵士たちを運び、ポップの隣に並べて寝かせた。そして、ポップの青白い顔を見て、悲しげに眉を寄せた。

 

「ポップ、体調は大丈夫?…顔色が悪いけど…」

「まだ全快とはいかねぇが…魔法使えるぐらいには回復した!…それより、ラーハルトはどうした?早くここを脱出しねぇと!!!」

「ラーハルトは時間を稼いでいる!俺が先に戻って…」

「戻りました!!!」

 

ラーハルトの話をしていたそのとき、掛け声とともにラーハルトがダイたちの元へ現れた。ポップはその突然の登場に驚きの声を上げた。

 

「うおっ!!!」

「ラーハルト!」

 

ラーハルトは全身に火傷を負っていたが、比較的軽傷であり、一行の中では最も損傷が少なかった。

 

「戻ったか!…よし、ポップ!ルーラを―」

「逃すかああぁああ!!!」

 

その怒声に、ダイたちは森の奥へと視線を向けた。そこには、怒りに顔を歪めたハドラーが両手に爆炎をまとい、今にも魔法を放とうとしていた。彼の顔や体には何度も殴られた跡があり、鼻からは蒼い血が流れ、見るからに痛々しい姿だった。

 

「まずい!!!ポップ!!!」

「バラバラになって死ねええぇええ!!!イオナズン!!!」

「ルーラ!!!」

 

ハドラーの放ったイオナズンが離宮を中心に大爆発を起こし、建物は音を立てて崩壊した。周囲には人形や調度品、ベビーベッドなどの瓦礫が散乱し、内部では火災が発生し、炎が物を焼く臭いが辺りに充満していった。

 

「ちぃっ!!!…逃したか!」

 

ダイたちは爆発前に脱出することができており、誰も残っていないその場を、ハドラーは憎々しげに睨みつけた。ズキズキと疼く全身の痛みに顔をしかめながら、彼は腕で乱暴に鼻血を拭い、その場を歩き出した。

 

「ここに用はない!ガルダンディー!戻るぞ!!!」

「はっ!!!」

 

ガルダンディーは指示に従い、高度を下げてハドラーの近くを飛行した。ハドラーは彼が無傷な様子に気づくと苛立ち、眉を顰めて声を上げた。

 

「ガルダンディー!ドラゴンに指示を出すだけではなく…次からは貴様自身も戦闘に参加しろ!!!」

「は、はっ!!!申し訳ねぇ!!!あのガキを見ると…体が震えちまって…」

「…はぁ、まあいい」

 

呆れを含んだ吐息をつきつつ、ハドラーは一度足を止め、崩壊した離宮を振り返った。ザボエラから、ソアラを無事に連れ出したと報告を受けており、いずれダイたちが彼女を取り戻しに現れると予測がついていた。

 

「ダイの母、ソアラは回収することができた…やつらは取り戻そうと現れるだろう!その時こそ、必ず始末してくれる!!!」

 

ハドラーは不敵にニヤリと笑うと、ガルダンディー、ルード、生き残ったドラゴンたちを引き連れ、アルキードへと向かって歩き出した。




レグルスは魔法のみ、接近戦のみならかなり強いですが、魔法と接近戦を組み合わせられる相手だと防御が難しく、やられてしまいます。
ラーハルトの武器を壊したのは、ハドラーの死を回避するためです!
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