ダイの大冒険 ―次世代の竜の騎士ー   作:キャットテールの鈴

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アルキードから帰還したダイたち一行。ハドラーたちとの戦闘でレグルス、ポップ、レオナは大怪我を負い、ソアラは魔王軍に誘拐されてしまう。日が暮れるテランで、ダイたちはソアラ救出に向けて準備を進める。


52_竜の騎士編_月下の湖

アルキードから脱出したダイたちは、ポップのルーラによって、テランの訓練場に激突するように着地した。

 

「いつっ…!」

 

ダイとラーハルトは怪我を負っていたものの動ける状態だったため、すぐに立ち上がり、周囲を見渡した。レグルスは着地の衝撃で腹の傷が再び開き、横倒しになって苦悶の表情を浮かべていた。ポップも毒が抜け切っておらず、顔を歪めながらも起き上がることができずにいた。レオナは呼吸が荒く、顔色も悪くして気を失い地面に倒れ、アルキード兵の2人も同様に気絶して横たわっていた。

 

「ポップ!レオナ!レグ!」

 

ダイは不安げな表情で3人を見渡し、特にレオナの容体が悪化していることに気づくと顔を青ざめ、急いでレオナのもとに駆け寄った。

 

「レオナ!しっかりして!」

「レグルス様!」

 

ラーハルトはレグルスに駆け寄り、腹部に空いた大きな傷口を見て悲痛な顔を浮かべ、傷に触れぬよう慎重に抱き上げた。レグルスは抱えられながら周囲を確認し、レオナが猛毒状態であると察すると眉をひそめ、低くラーハルトに頼んだ。

 

「ぐっ…!ラーハルト…私を、レオナの側に…」

「レグルス様!腹部から血が…!まずは怪我の治療を…!」

「解毒が先だ…!ラーハルト!」

「…分かりました」

 

ラーハルトは表情を歪めつつも頷き、レオナのそばにレグルスをそっと下ろした。レグルスは横になりながらレオナの顔色を確認し、手をかざして魔法を放った。

 

「キアリー!」

 

猛毒により顔色の悪かったレオナの腕の傷口は青黒く変色していたが、魔法をかけ続けるうちに徐々に色が戻り、顔色も良くなっていった。ダイはその様子を見て安堵し、大きく息を吐いた。

 

「レオナ…良かった…顔色が良くなってる」

「皆さん!大丈夫ですか!?」

 

騒ぎを聞きつけて、城からメルル、ナバラ、兵士のカナルが駆けつけ、訓練場に集まった。レグルスは治療を続けながらメルルに声をかけた。

 

「メルル!ポップにキアリーを!」

「は、はい!分かりました!」

 

メルルは頷いてポップに近づき、手をかざした。

 

「キアリー!ポップさん…大丈夫ですか?」

 

魔法の効果で毒が徐々に薄れ、体調が回復していくのを感じたポップは、ほっとしたように息を吐いた。

 

「ああ…だいぶ、良くなってる…メルル、サンキューな…」

「いいんです!私は戦うことができないから…せめて、これぐらいの役には立たせてください!」

「おめーは、十分役に立ってるさ。占いだって誰にでもできるもんじゃねぇ。おめぇら占い師がいたから、アルキードのこともソアラさんのことも分かったんだしな。すげぇ助かってるよ!ありがとな!」

「あ、ありがとうございます」

 

メルルはポップの言葉に頬を赤らめ、照れ隠しのように周囲を見渡した。そしてレグルスの重傷に気づくと、眉をひそめた。

 

「レグルス様…怪我は大丈夫でしょうか…」

「怪我…そうだ!怪我ならこれでいけるか!」

 

ポップは腰につけていた魔弾銃を手に取り、弾を装填すると銃口をレグルスに向けた。だが、その途中にラーハルトがいたため、声をかけた。

 

「ラーハルト!ちょっとどいてろ!」

「ああ!!」

 

ラーハルトはポップの意図を察し、レグルスから離れた。射線が確保されたのを確認すると、ポップはトリガーを引いた。

 

「ベホマ!」

 

魔弾銃から放たれた魔法がレグルスに着弾し、癒しの光が彼の体を包み込んだ。

 

「!!!これは…ベホマの光!」

 

レグルスは腹部の傷がみるみる癒えていくのを感じ、視線をポップへ向けた。ポップはそれを見て、ニヤリと笑った。

 

「姫さんに詰めてもらったんだ!それで、怪我は治るだろ!」

「ポップ!感謝する!」

「へへっ!お互い様ってやつだ!」

 

ダイとラーハルトもレグルスの回復を確認し、安堵の表情を浮かべた。ラーハルトは立ち上がり、周囲の怪我人を見渡しながらカナルに近づいた。

 

「怪我人を部屋まで運ぶぞ!」

「分かった!」

「俺も手伝うか?」

 

その時、訓練場の外から声が聞こえ、全員が一斉にそちらへ視線を向けた。そこには、鬼岩城の偵察から戻ったクロコダインが、堂々とした足取りで入り口から現れ、ダイたちに歩み寄ってきていた。

 

「クロコダイン!」

 

ダイたちは嬉しそうに声を上げ、テランの者たちは大柄な獣人族の姿に一瞬身構えたが、仲間たちが歓声を上げて迎える様子を見て、すぐに警戒を解いた。

 

「ラーハルト…あの獣人族は?」

「クロコダイン。我らの信頼できる仲間だ!」

「そうか…!」

 

カナルは納得して頷いた。その直後、城の外でルーラの着地音が響いた。

 

「今のはルーラ…!あっ、ヒュンケルとマトリフさんの気配だ!」

 

ダイがそう呟くと、皆の視線が再び入り口に集まり、やがてクロコダインの背後からヒュンケルとマトリフが姿を現した。

 

「ヒュンケル!随分と早くここへ来れたな!」

「ああ…ルーラで送ってもらった」

「なるほど!あのご老人に送ってもらったのだな!」

 

クロコダインは、予想より早い合流に驚きつつも、ルーラならば不思議ではないと納得し頷いた。

 

「師匠!」

 

ポップはマトリフを見て嬉しそうに声を上げ、マトリフは地面に横たわるポップに近づき、首元の傷を見て顔をしかめた。

 

「ポップ、随分ひどくやられたみてぇじゃねぇか!なんだ?油断したのか?」

「うぐっ!て、敵が化けていてよ…それより!なんで師匠とヒュンケルが一緒にいるんだよ!?」

 

ポップはあまりにも意外な組み合わせに疑問を感じ、その問いにはヒュンケルが答えた。

 

「俺たちはカール王国で会った」

「カール?」

「おう。俺はカールに用があって行ったんだが…そこでは魔王軍の襲撃にあっていてよ。敵を倒した後、こいつをここまで送り届けたってわけだ」

「カール王国は魔影軍団の襲撃を受けていた。俺は鬼岩城の後を追っていたところ、たまたま近くを通りかかり、手を貸した…この者と出会ったのは偶然だ」

 

クロコダインは頷きつつも、地面に倒れている仲間たちに目をやると、休める場所へ運ぶよう提案した。

 

「ふむ…詳しく聞きたいところだが、まずは怪我人を運ぶぞ!ここでは休まらんだろ」

「では、部屋まで案内します」

 

クロコダインの言葉を受け、周囲の者たちは動き出した。ヒュンケルはポップに肩を貸し、ダイはレオナを抱きかかえ、クロコダインとカナルはアルキード兵士たちを運んだ。ラーハルトはレグルスを抱えようと手を伸ばしたが、レグルスはその手を避けた。

 

「ラーハルト、1人で歩けるから問題ない」

「いえ!レグルス様は先程まで大怪我を負っておりました!万全を期するため俺が運びます!!!」

「いや…怪我は治った…!?」

 

その言葉を遮るように、ラーハルトは目にも止まらぬ速さでレグルスを抱き上げ、そのままゆっくりと歩き出した。

 

「ラーハルト!?…待て!必要ないと言っている!下ろせ!」

「お断りします!!!」

 

ラーハルトは強い意志を持ってレグルスを抱きかかえ、普段のスピードからは想像できないほどのゆっくりとした足取りで城内へと消えていった。ダイたちはそんな2人のやりとりを苦笑しながら見送った。カナルとクロコダインもその後を追い、城の中へ入っていった。

 

「ポップ!俺はカールに戻るぜ」

 

マトリフが帽子を直しながら声をかけると、ポップは驚き目を見開いた。

 

「えっ!?師匠行っちまうのか!?待ってくれよ!こっちも師匠の力を貸してほしいんだ!ダイのお袋…ソアラさんが敵に連れて行かれた!助けるために師匠の力がいるんだ!」

「何?……ふむ、助けてやりたいが…俺は魔力がほとんど残っちゃいねぇ。戦いで使っちまったからな。役には立たねぇだろ」

「そんな〜」

 

ポップはがっくりと肩を落とした。

 

「それに、カールにやり残したことがあるしよ。俺は戻る」

「分かったよ…師匠」

 

ポップは残念そうに項垂れ、ヒュンケルはマトリフに向かって小さく頷いた。

 

「送ってくれたこと、感謝する」

「いいってことよ!ああ、それと…」

 

マトリフは脳裏にカールで出会った友人の姿を思い浮かべながら、ニヤリと笑った。

 

「今度、紹介したいやつがいる!おめぇらも気に入ると思うから…楽しみにしてろよ!」

「?…おお、分かった!じゃあな、師匠!」

「マトリフさん!またね!」

 

ダイも手を振りながら別れの挨拶をし、マトリフは軽く手をヒラヒラさせながら魔法を唱えた。

 

「じゃあな!ルーラ!!!」

 

マトリフはルーラで空へと消え、その軌道が空に美しく描かれていった。

 

「なんか師匠、やけに嬉しそうだったな…」

 

ポップは空を見上げながら、マトリフが珍しく嬉しそうにしていたことを不思議に思った。ヒュンケルとダイはルーラの光が見えなくなると、怪我人をベッドに運ぶため、城の中へ歩き出した。

 

「カール王国は、あの人の…先生の故郷だ。そこで、かつての旧友に会ったのかもしれん…」

「じゃあ!もしかしたら先生の知り合いかもしれないんだね!」

「そっか!会えたら先生や師匠のこと、いろいろ聞いてみてぇな!」

 

ダイとヒュンケルはレオナとポップを運びながら客間へ入った。そこには先に戻っていたレグルス、ラーハルト、メルル、ナバラがいて、4人はナバラの持つ水晶を難しい顔で覗き込んでいた。ダイたちの入室に気づくと、レグルスたちは水晶から目を離した。

 

「ダイさん!ポップさん!」

「こちらのベッドをお使いください!」

「分かった!」

「ああ」

 

レグルスたちは水晶から離れ、ダイはレオナを、ヒュンケルはポップをベッドに寝かせた。ポップは、彼らが見ていた水晶の内容が気になり、レグルスに話しかけた。

 

「…なあ、レグ。今、水晶を見てたけどよ…」

「…詳しくは後で話す。まずは治療を行う」

 

その後、レグルスとメルルによる毒と怪我の治療が進められ、途中、アルキード兵士を別室に運び戻ってきたクロコダインも部屋に合流した。

 

「っ…う…」

 

しばらくしてレオナが目を覚ますと、ダイは彼女の手を握り、顔を覗き込んだ。

 

「レオナ!良かったぁ…!大丈夫?どこか辛いところない?」

「…ダイ君…ここは…?」

「ここはテランだよ!俺たち戻ってきたんだ!!!」

「テラン…そう…私…だいぶ寝ていたみたいね…」

 

ベッドの上で力を抜いたレオナを確認すると、レグルスは全員の治療が済んだことを確かめ、現状の説明を始めた。

 

「全員、今の状況を伝える!レオナはそのまま、楽な姿勢でいい。まずは襲撃を受けたアルキードについて。ナバラ殿!」

「はい!」

 

ナバラは皆に見えるよう両手を出し、水晶に映像を映し出した。そこには、暗い空間に多くの人々が集まっている様子が映り、足元に水が張っていたことから、地下にいると推測できた。

 

「アルキードの地下水路に多くの人々が避難していることが分かりました。この場所以外にも数カ所、確認されております」

「地上は?建物とかに人はいなかったの?」

 

ダイの質問に、ナバラは悲しげに眉を寄せながら首を横に振った。

 

「残念ですが…地上の建物は多くが焼かれ、生き残りは確認できませんでした」

「…そっか」

「地下水路の人々だが…地下へはドラゴンが入った形跡は確認できず、現状、緊急性は低いと考えられる。そのため、先にソアラ姫救出を優先する!」

 

ソアラの救出が最優先であるという言葉に、ダイは真剣な表情を浮かべた。

 

「分かった!それで、母さんはどこに?」

「探しておるのですが…未だ見つかっておりません。どうやら感知されないよう対策をしているようですじゃ」

「この件についてはナバラ殿とメルル殿に引き続き捜索を依頼したい!」

「分かりました!」

 

ナバラとメルルは真剣な表情で頷いた。

 

「ソアラ姫が見つかるまで、ポップとレオナは休め。何かあれば知らせる」

「おう!」

「ええ…そうさせてもらうわ…そういえば、アルキードの兵士は?」

 

レオナは離宮にいた兵士2人の安否を尋ね、それにはラーハルトが答えた。

 

「その者でしたら先ほど別室で目を覚ましました。現在、カナルに対応してもらっております…アルキードの現状とソアラ様のことを聞いて意気消沈しておりますが…」

「無理もないわ…たった1日で国が滅亡の危機に陥ったのですもの…」

 

レオナはパプニカでの経験を思い返し、アルキードの兵士たちに深く同情した。

 

「…」

 

ヒュンケルはレオナの様子から、パプニカのことを思い出していると察し、表情を曇らせたが、すぐに気を取り直してアルキードに現れた敵について尋ねた。

 

「敵は誰が現れたのだ?」

「ハドラーにガルダンディー、それにザボエラ!あとはドラゴンの群れもいたよ!」

「では…ミストバーン以外の残る全軍団が襲ってきたのか!」

「ああ…前回のバルジ島と同様、戦力を投入し、我々を潰しに来ているのだろう」

「敵は罠を仕掛けている可能性もあるわ!今回…私とポップ君は、ザボエラの策に引っかかってやられちゃったし…ね!ポップ君!」

 

レオナはにこやかにポップへ話を振り、ポップは冷や汗をかきながら、レグルスとダイの顔をちらちらと見た。

 

「あ、ああ!そうなんだよ!あれには参ったぜ!ザボエラのやつ!卑怯な罠を仕掛けやがって!また罠が張られてるかもしれねぇから、気をつけないとな!!!」

「うん…あいつはじいちゃんだけじゃなく、俺の母さんも攫ったんだ!絶対に許せないよ!!!…ところで、ポップ、どんな罠が仕掛けられてたの?」

「いっ!!!…えっとよお…それは…あれだ!…あいつ、人間に化けてたんだ!それで…油断してよ!」

 

ポップがしどろもどろに話すのを見て、レオナはいたずらっぽく微笑みながら、わざとらしくゆっくり話した。

 

「んふふ!えっとねぇ〜、ザボエラはソアラさんに化けててね!それで〜ポップ君に…」

「うわああぁあっ!ちょ、ちょっと待て!待て!姫さん!やめてくれ!俺を殺す気か!!?」

「あはははっ!ポップ君、おもしろ〜い!!!」

「?」

 

ダイとレグルスは状況を理解できず、不思議そうに首を傾げた。

 

「いや…そう!そうなんだよ!!!ザボエラのやつ、ソアラさんに化けててよ!気づかず近づいたら…ブスリ!…とやられちまったんだ!!」

「そうだったんだ…あの時は色々あったから油断しても仕方ないよ…」

「ソアラ姫とは初対面であったからな。違和感にも気付きにくい…次からは気をつけるぞ。恐らくソアラ姫の側には、ハドラーを含めた軍団、そして罠が仕掛けられているだろう…用心して行かねばな…」

「お、おう!」

 

ポップはなんとか誤魔化せたことに安堵し、レオナはその様子にくすくすと笑った。

 

「ところで、話に出てきたソアラ姫とやらは…ダイの母親なのか?」

「アルキードが魔王軍に襲撃された理由に関わっていそうだな…」

 

クロコダインとヒュンケルは、話に出てきたソアラ姫について疑問を抱き、ダイとレグルスは頷いて説明を始めた。

 

「そうだ。ダイの母はアルキード王国のソアラ姫。そして…私は、恐らくだが、ダイの父、バランの生まれ変わりだ」

「何っ!!?」

「ダイの父親の…生まれ変わりだと!?どういうことだ!?」

「ダイ、本当か!?」

「うん。レグは父さんの生まれ変わりみたい」

「クロコダインとヒュンケルには説明していなかったな…ダイと私は竜の騎士という種族であり――」

 

その後、レグルスとダイは、竜の騎士のことや、自分たちとソアラとの関係について、クロコダインとヒュンケルに説明した。

 

「まさか、ダイの父親の生まれ変わりとはな…」

「竜の騎士…なるほど。2人が剣と魔法を同時に使えたのは、そのためか…」

 

ヒュンケルは、これまで抱いていた疑問が解けたことに頷いた。レグルスは窓の外を見やり、森が暗くなり始めているのを確認すると、その場の者たちに声をかけた。

 

「一旦、占い結果待ちとなる…各々、休息や戦いの準備をするように」

「分かった!」

 

その声を合図に、それぞれが動き出した。ラーハルト、ヒュンケル、カナルは武器の話をしながら部屋の外へ、レグルスは訓練場へと向かい、クロコダインも部屋を出た。メルルとナバラはその場に残り、ソアラの捜索のため、占いを続けていた。

 

「2人ともゆっくり休んでね」

 

ダイはベッドで休むポップとレオナに、心配そうに声をかけた。

 

「おう!…と言っても毒は治ったし、体力も回復しているから動いても問題ねぇけどな」

「ねぇ…ダイ君」

「なに?レオナ」

 

ダイは真剣な表情のレオナに視線を向けた。レオナは、ダイの父親の生まれ変わりであるレグルスと、アルキードの離宮で会ったソアラ姫のことを思い浮かべていた。

 

「ダイ君は、どうするの?レグ君とソアラさんのこと…レグ君はダイ君のお父さんの生まれ変わりだし、ソアラさんは…残念だけど、ダイ君を息子だと認識できてなかったわ…これからのことを考えないと!…ダイ君はご両親とどうなりたい?」

「!」

 

ダイは心の片隅で考えてはいたが、どうすればいいのか分からず避けていた問題をレオナに指摘され、戸惑いながら肩を落とした。

 

「…まだ、分かんない…レグが父さんの生まれ変わりって言っても、ずっと仲間だったから…それにレグ、俺より小さいし、記憶が全部戻ったわけじゃないみたいだから…なんだか、父さんって感じしないんだよね…」

「まあ、あの見た目じゃあな…あいつ10歳の子供だし…」

 

3人は小さな子供のレグルスを思い浮かべた。

 

「うん…母さんは助けたあと…俺、一緒にいたい!俺を息子だって分からなくても…なるべく側にいてやりたい!レグにお願いして、ここ、テランで母さんを守ってもらうようお願いするつもりだよ!」

「そうね、アルキードもあの現状では保護するのが難しいでしょうから…テランに保護してもらうのが一番ね!私もパプニカの女王として口添えするわ!ソアラさんもここで過ごしたほうが、病状もきっと良くなるわよ!」

「だな!オメェとレグが側にいれば、病気なんてすぐ治るさ!」

「うん!」

 

ダイは笑顔を浮かべ、ソアラがテランで過ごすことで病気も治り、いつか息子として見てもらえることを願った。ポップは、アルキードでの時と比べて少し元気を取り戻したダイを見て安心しつつ、小さなレグルスの姿を思い浮かべてニヤッと笑った。

 

「しっかし親子か〜、なんか、ずっとダイとレグは兄弟だと思ってたから違和感あるな」

「兄弟?」

 

ポップの『兄弟』という言葉に、ダイは目を瞬かせた。

 

「おう!ラーハルトのやつ、レグが竜の騎士だと思っててよ…でもダイも竜の騎士だろ?だから、もし2人とも竜の騎士なら、兄弟じゃねぇかって考えてたんだ」

「確かに!ダイ君とレグ君、見た目もだけど…どこか雰囲気が似ているのよね」

「雰囲気?」

「ええ!なんていうのかしら?不思議な感じ?他の人にはない特別なものを感じるのよ…兄弟って言われれば、確かにそう見えるわね!」

「そうなんだ…兄弟、か…」

 

ダイは、これまでレグルスと旅をしてきた日々を思い出し、兄弟という関係も悪くないと感じた。

 

(俺がお兄ちゃんで、レグが弟かぁ…なんか、いいかも!)

 

ダイは親子よりも兄弟の方がしっくりくる気がして、少し楽しそうに考えた。

 

 

 

ラーハルトは壊れた槍の代わりを探すため、城の武器庫から使えそうな槍を見つけては、傍らのヒュンケルに次々と手渡していった。ヒュンケルは手にした数本の槍を見比べ、攻撃力の低さに眉をひそめた。

 

「…事前に武器を購入すべきだったのではないか?この武器でハドラーたちと戦うのは厳しいだろう…」

「それでも、素手で殴り続けるよりはマシだ!それに…槍は昨日買ったばかりで、今日壊れた…はぁ、もう少し丈夫な武器があれば良いのだがな…」

 

ラーハルトは手を止め、ヒュンケルの腰に装備された鎧の魔剣に目をやり、人間の手によるものではない禍々しくも強力な剣をじっと見つめた。

 

「ヒュンケル、その鎧の魔剣だが…どうやって手に入れた?やはり大魔王からか?」

「ああ…軍団長に就任したとき、用意された武器の中から好きなのを選べとバーンに言われてな…そういえば、複数の武器の中に、この鎧の魔剣と同じような槍があったな…」

 

鎧の魔剣と同様の機能を持つかもしれない槍の存在に、ラーハルトは目を輝かせた。

 

「ほう!鎧の魔剣と同様の槍、か…ヒュンケル!その剣の製作者は聞いているか?」

「…いや、知らないな」

「…そうか、残念だ。そもそも製作者を知っていたとしても…場所はおそらく魔族が暮らす魔界…どちらにしろ、手に入れるのは無理か…」

 

そんな中、別の場所で槍を探していた兵士カナルが槍を手に、ラーハルトのもとへやってきた。

 

「ラーハルト!他も探したが…1本しか見つけられなかった」

「少しでも多く見つかれば、それだけでも助かる」

「あと、これも使え!他よりは使えるはずだ!」

 

カナルは、自身が装備していた槍をラーハルトに手渡した。

 

「助かる!…カナル…俺は恐らく次の戦いでこの槍を壊す…壊れてしまっても問題ないか?」

「俺が持っていても使う場面はない。それにレグルス様のためにも…ソアラ様を救出するのが大事だからな…!壊してしまっても構わない!」

「感謝する!レグルス様とダイ様…そしてバラン様のためにも…ソアラ様は必ず助け出す!!」

「ああ!お前ならできる!」

 

ヒュンケルは、ラーハルトが手にしたカナルの槍が最も攻撃力が高いことを確認すると、手にしていた他の槍について尋ねた。

 

「ラーハルト、この武器は仕舞うか?」

「待て、状態の良い槍を数本だけ残す…2回も戦闘中に壊れているからな…予備に数本、武器を持っていく」

 

ラーハルトはヒュンケルの持つ複数の槍から、状態の良いものを見繕って選び取った。

 

「そういえば…ラーハルト、この者は旅の途中で会ったのか?」

 

カナルはヒュンケルをちらりと横目で見ながら、ラーハルトに質問した。

 

「この者もアバン殿の弟子だ!あと、魔王軍を倒した後は、我らと同じくテラン兵士となる!」

「!!?そうなのか!」

「…待て、ラーハルト…俺はまだこの国の兵士になると決めては―」

「実力も申し分ない!この俺が保証する!!!」

「ラーハルトに認められるとは…とても頼りになるではないか!!!ヒュンケルと言ったな…これからもよろしくお願いする!!!そうか…やっと…兵士が3人に増えるな!!!」

「ああ!!!」

 

ラーハルトとカナルは、新しい同僚の誕生に喜び合い、ヒュンケルは戸惑いながらも2人を見つめた。

 

(俺は…兵士になると決めたわけではないのだがな…だが、歓迎されているのは分かる……ここにはラーハルトも居る。兵士になるのも、悪くないかもしれん)

 

ヒュンケルは勝手に話を進められたことに内心呆れながらも、歓迎してくれる2人に少し心を和ませた。そして、将来テラン兵士としてラーハルトと共に戦う自分の姿を思い浮かべ、小さく笑った。

 

 

 

城に隣接する訓練場に出たレグルスは、ゆっくりと歩きながら地平線から覗く満月を見上げ、訓練場の中央付近で立ち止まった。額にあるはずの竜の紋章を思い浮かべながら、両手を握り、力を込めた。

 

(竜の紋章を出すことが出来れば…ソアラ姫救出の力になるが……くっ!…やはり、紋章を引き出せないか……)

 

レグルスは竜の紋章を出そうと試行錯誤し、奮闘したが、結局その力を引き出すことはできなかった。しばらくして訓練を諦め、ため息をつきながら力を抜き、地平線から昇る満月を見上げて、今日起こった出来事を思い返した。

 

(…ダイ…ソアラ姫……)

 

レグルスの脳裏に、ダイと人形を抱えたソアラの姿が浮かんだ。

 

(…私は2人とどうあるべきだ?これからどうすればよい?…可能であれば2人を守りたいとは思う…まずは、攫われたソアラ姫を魔王軍から救い出し、その後はテランで保護する!…それが一番良いだろう。アルキードが滅亡の危機に瀕している今、ソアラ姫を守ることはできん…ソアラ姫にはテランで暮らしてもらい…そして、ずっと私の側に……)

 

レグルスは、ソアラがテランで暮らし、そばにいることを強く望んだが、自身の心境の変化に戸惑いを覚え、バランの姿を思い浮かべた。

 

(何故、これほどまでにソアラ姫を思う?出会ったのは今日だというのに…これもバランの記憶が影響しているのか?……考えてみれば、ダイも出会った日から気になって仕方なかった。世話をしたくなるというか…あの子の笑顔が見たいというか…ダイが竜の騎士だからだと考えていたが、これもバランの記憶が関係していたのだろうな…ダイとも、これからどうするべきか…)

 

今後の自分のあり方や、ダイとソアラとの関係について思案していたそのとき、背後から見知った気配を感じ、声をかけられた。

 

「レグ、1人で月見か?」

「…クロコダインか」

 

レグルスは大きな闘気を感じ取りながら振り返り、少し離れた場所に立つクロコダインに視線を向けた。クロコダインは歩いて近づき、レグルスの隣に立つと、同じように満月を見上げた。

 

「さっきの話だが…お前さんは竜の騎士という種族で、ダイの父親の生まれ変わりだそうだな」

「…ああ、そのようだ…いまだ、自分が竜の騎士であるという実感はないがな…」

「そうか…」

「…」

 

クロコダインは静かに月を見上げたまま動かず、クロコダインがこの場を離れる気配がないことを察したレグルスは、1人で考え事をしたかったため、場を離れようと歩き出した。

 

「クロコダイン、私は戻る…」

「まあ、待て!…少し話さないか?」

 

クロコダインはレグルスの肩に手を置いて引き止めた。レグルスは肩越しに彼をじっと見上げたが、離す気がないと察すると、諦めたように肩の力を抜き、再びクロコダインの隣に並んで月を見上げた。

 

「…クロコダイン、話とは?」

「レグ、お前さん、これからどうする気だ?」

「…どうするとは?」

「ダイのことだ!ダイとは仲間として過ごしてきたはずだ…だが、これからはどうするのだ?今までのように仲間として接するのか?」

 

仲間として共に過ごしてきたダイの姿を思い浮かべながらも、レグルスはどうすればよいのか分からず、眉をひそめ、小さく首を横に振った。

 

「……分からない…」

「む?」

「分からないのだ、クロコダイン…私は昨日まで、自分が人間だと疑わなかった。ダイは仲間だと思っていた…だが、違った!あまりに突然、色々なことが起こりすぎて…頭が混乱しそうだ……クロコダイン、私はどうすればいいのだ?ダイとは、これからどうするべきなのだ?」

 

レグルスは足元に視線を落とし、珍しく不安を口にした。クロコダインはそんな彼の表情を見つめ、少し考え込んでから言葉を選んだ。

 

「レグよ、一つ聞きたいのだが…お前さん、前世の記憶…バランについてはどう思っているのだ?」

「…」

 

レグルスが視線を横に向けると、クロコダインは真剣な表情でじっと見つめていた。レグルスはごまかすことなく、自身の胸の内を語り始めた。

 

「どう思う、か…正直言うと…バランの生まれ変わりだと知ったとき、戸惑いもあったが…納得もしたのだ」

「納得?」

「そうだ。バランのこと、その家族のことを知り…私は、なぜか自分のことのように感じた。まるで、失った何かを取り戻したような…忘れていたことを思い出したかのような…そんな気がしたのだ」

「ふむ…では、レグはバランの記憶を自分自身のものと認識しているのか?」

 

レグルスは、自分の中にあるバランの記憶に嫌悪感も拒否感もないことを感じ取り、それが自然に定着していることを実感していた。

 

「ああ…私はバランの生まれ変わりであると同時に…恐らく、バランそのものでもある。理由は分からないが、そういう確信があるのだ」

「…そうか」

「だが、記憶が完全に戻っていないためか、ダイ、そしてソアラ姫とどう接すれば良いのか…悩んでいてな…」

 

レグルスがうつむきながら悩みを打ち明けると、クロコダインはそれを受け止め、自分なりの考えを口にした。

 

「ふむ…俺には家族というものがよく分からんが…お前さんがダイを大切に思っていることは知っている!」

 

クロコダインは、以前見た、レグルスが眠るダイの頭を愛おしそうに撫でていた姿を思い出した。

 

「ダイとソアラを大切だと、愛しいと思う気持ちが本物なら…それはレグ自身の感情でもあるのではないか?」

「!」

「一度、ダイと話してみたらどうだ?…自分の気持ちを言葉にしてみるといい!何も言わなければ、伝わるものも伝わらない!」

「気持ちを伝える…か…」

「そうだ!!!ダイとレグ…お前さんたちなら必ずや乗り越えられる!…お前さんたちは…家族、なのだろう?」

「…家族」

 

レグルスはクロコダインの言葉に心を揺さぶられた。クロコダインはその場を離れ、城の入り口へ向かった。

 

「レグ!俺は先に戻る!」

「ああ、私もすぐに戻る…クロコダイン」

「ん?」

 

呼びかけられたクロコダインは足を止め、後ろを振り返った。

 

「感謝する」

「おう!」

 

レグルスの言葉に、クロコダインはニッと笑って城内へ戻っていった。レグルスは顔を上げ、満月を見上げた。クロコダインの言葉、そしてダイとソアラの笑顔を思い浮かべ、ある決意を胸に抱いた。

 

「家族、か…」

 

レグルスは迷いのない真っ直ぐな表情になり、客間にいるダイの気配を感じ取ると、歩き出した。

 

 

 

レグルスがダイたちのいる客間に戻ると、部屋を出て武器を探しに行っていたラーハルト、ヒュンケル、カナル、そして先に戻っていたクロコダインがすでに部屋に戻っていた。

 

「あっ!レグも戻ってきた!」

 

ダイはレグルスの姿を見て笑顔を浮かべた。レグルスはダイを真剣な表情でじっと見つめた後、少し緊張しながら近づいて声をかけた。

 

「ダイ、2人で外に出ないか?これからのことなど…話したいことがある」

「!…分かった!行こう!」

 

レグルスの只ならぬ様子から、重要な話だと察したダイは、同じく真剣な表情で頷き、共に部屋の扉に向かった。ポップは横になったまま、出て行こうとする2人に声をかけた。

 

「あんまり遠くに行くなよ!」

「うん!行ってくるよ!」

「何かあれば知らせてくれ!」

 

ダイとレグルスは城を出て、竜の神殿が眠る湖へと向かった。

 

「えっと…レグ、話って…?」

「…」

(ええ…何か話してよ〜、き、気まずい…)

 

レグルスは外に出ようと誘ったものの、歩いている間、一言も発しなかった。ダイも話したいことは山ほどあったが、どう切り出せばよいか分からず、2人は黙ったまま歩き続け、暗い森を抜けて湖にたどり着いた。

 

「あっ…満月…」

 

雲一つない夜空に、満月の光が湖周辺を照らし、夜にもかかわらず辺りは明るかった。レグルスはドラゴン像の近く、湖のほとりで立ち止まり、ダイもそれに倣って隣に立った。

 

「…ダイ」

「ん?何?」

 

ダイが湖面に映る満月をぼんやりと眺めていると、レグルスが小さな声で話しかけてきた。

 

「私は竜の騎士で…お前の父、バランの生まれ変わりであった」

「うん……俺の父さんの生まれ変わりなんて、びっくりだよね…」

「ずっと考えていた。……私とダイの関係を、これからどうすべきか」

「関係?」

「ああ。事実を知った以上……これまでのように仲間として接することはできない…」

「…!」

 

『仲間として接することはない』という言葉に、今まで旅を共にしてきた日々を否定されたように感じたダイは、胸がズキリと痛んだ。だが、レグルスが顔を上げて横を向き、真剣な眼差しを向けてきた。

 

(レグ?)

 

その表情は固く、どこか緊張しており、ダイは目を見開いた。

 

「前世とはいえ…我らはかつて、ここテランで家族として暮らしていた。だから、その…だな…ソアラ姫のこともある…ダイの気持ち次第でもあるが……」

 

レグルスは大事なことを伝える前に、一度深く息を吸ってから真っ直ぐに言った。

 

「ダイ……よければ、私と家族にならないか?」

 

ダイの心臓はドキリと脈打ち、『家族になる』という言葉に内心嬉しく思いつつも、戸惑いの表情を浮かべた。

 

「えっ…俺、レグと家族になるの?」

「…」

 

問い返したダイに、レグルスは一瞬言葉を失い、悲しげに眉を寄せて視線を落とした。

 

「……嫌か?」

 

その顔を見たダイは、すぐに首を横に振り、照れたように笑った。

 

「嫌じゃないよ!俺も…レグと家族になりたいな!」

「本当か!!」

 

レグルスの顔にぱっと喜びが広がった。

 

「本当にいいんだな?」

「うん!」

「そうか…そうか…!」

 

レグルスは深く頷き、喜びを噛み締めるように笑った。

 

「…けど…」

 

一方でダイは、家族になること自体は嬉しかったが、父の生まれ変わりであるレグルスの人生を奪ってしまうのではないかと危惧し、顔を曇らせた。

 

「…レグは、本当にいいの?」

「何がだ?」

「レグは俺の父さんの生まれ変わりかもしれない。でも、レグにはレグの人生があるんだよ?だから…もし、俺と母さんのために無理してるなら…」

「無理などしていない」

 

ダイが少し弱気になりながら語ると、レグルスは力強く答え、ダイは顔を上げた。

 

「私は自分の意思で、ダイとソアラ姫と家族になりたいと願ったのだ!」

「でも…その気持ちは、父さんの記憶が影響してるんじゃ……?」

「バランの記憶が影響していることは確かだ。だが、お前たちを守りたいと思う気持ちは、私自身の意思だ!ダイと今まで仲間として過ごしてきたからこそ、なおさらだ!」

「じゃあ、母さんは?今日が初対面だから…それはさすがに記憶が影響してるんじゃない?」

「そうだな…大いに影響しているだろうな…だが!」

 

レグルスは、夢の中で見続けてきた優しく微笑むソアラの姿を思い浮かべた。

 

「私はソアラ姫とも、家族になりたい。そう、強く思うのだ。夢の中で、私はソアラ姫を毎晩見てきたのだぞ?……今さら他人として過ごすなど、冗談ではない!ソアラ姫は必ず救い出す!!!そして、私たちと共にテランで暮らすのだ!!!」

「う、うん…」

 

レグルスの勢いに圧倒されながらも、ダイはふと、ポップがかつて言っていた言葉を思い出した。

 

『レグのやつ、好きな女ができたんだよ!』

 

(レグがこんなに熱くなってるのって珍しい…ポップの言う通りだ。レグ、母さんのこと……好きなんだ)

 

母ソアラを想うレグルスのまっすぐな姿に、戸惑いながらもダイは心が温かくなり、自然と笑みがこぼれた。

 

「うん。レグ…母さんを、絶対に救おう!」

「ああ!絶対にソアラ姫は助け出す!!」

 

ダイは笑顔のまま、故郷デルムリン島と育ての親ブラスじいちゃんのことを思い出した。

 

「あっ!レグ、ここに暮らすって言ったけど…俺、じいちゃんにも会いたいからデルムリン島にもたまに帰るからね!」

「もちろん構わない。遠いからポップのルーラで送ってもらいなさい」

「うん!分かった!」

「私もブラス殿に挨拶しなくてはな…ポップに送ってもらうか」

 

ダイとレグルスは笑顔で、テランとデルムリン島を行き来する未来を語り合った。少し離れた茂みの中には、2人を密かに見守る集団がいた。ポップ、ラーハルト、レオナ、ヒュンケル、クロコダインが、木々の陰から2人の様子を観察していた。

 

「フフッ!竜の家族か…いいもんだな!家族というのは!」

 

レグルスから相談を受けていたクロコダインは、2人が仲の良い家族になったことに口角を上げて笑みを浮かべた。

 

「おい!あいつら俺の扱い雑じゃねぇ!?送り迎え要員にされてるだけだろ!?」

 

話を聞いていたポップは、不満げに唇を尖らせた。

 

「しょうがないんじゃない?テランからデルムリン島は遠いし!ポップ君しかルーラ使えないなら諦めるしかないわね!」

「う〜!納得いかねぇ!!」

 

レオナは面白がるように肩をすくめ、ポップは腑に落ちない様子でふくれた。

 

「それなら、レグルス様に賃金を要求したらどうだ?ルーラを使える者は限られている…それなりに貰えると思うがな」

「べ、別に!ダチから金銭を貰うつもりはねぇよ!」

「あとは、そうだな…いっそのこと、テランで働いて仕事の一環にしてもらうのはどうだ?」

「ええっ!?テランで働くって…その話は前にも断っただろ!俺、城の仕事とか絶対向いてねぇし…」

「そうか、残念だ…」

 

ポップは難しい顔をし、ラーハルトは予想通りの反応に肩をすくめた。ヒュンケルは、ポップにも仕事の誘いがあったことに驚いた。

 

「ポップ、お前にも声がかかっていたのか…」

「あれ?ヒュンケルも誘われたのかよ?」

 

ポップはラーハルトをジト目で見つめた。

 

「ラーハルト、オメェら手当たり次第に声かけてるんじゃ…」

「失礼だな!誰でもいいはずなかろう!レグルス様の許可も必要だし、相手はきちんと選んでいる!」

「ま、そうだよな…ちなみに、俺だけじゃなくアバン先生にも声かけられてたぜ!先生も断ってたけどな」

「そうか…先生にも…」

「アバン殿は『心に決めた国がある』と言って断った。レグルス様の話では、カール王国のことだろう、とな」

 

アバンとカール王国の話題が出たことで、レオナは目を輝かせ、尊敬する女王フローラの姿を思い浮かべた。

 

「あっ!やっぱり!それってきっとフローラ様のことよ!カール王国のフローラ様と勇者アバンの話は有名よ!アバン先生、『国』って言ったみたいだけど…本当は『人』ってことじゃないかしら?」

「つまり…フローラ様が、先生のコレってことか!!?」

 

ポップは意味深に小指を立て、レオナは楽しそうに笑みを深めた。

 

「フフッ!そうよ!絶対にそうに決まってるわ!」

 

茂みの中で話が盛り上がる中、湖のほとりでは、ダイが家族になったレグルスの小さな体を笑顔で見つめていた。

 

「家族かぁ…ねえ!レグ!家族になるなら、もう一つお願いしたいことがあるんだ!いいかな?」

 

ダイはキラキラと期待に満ちた目でレグルスを見つめた。レグルスは、嬉しそうに何かをお願いしようとしているダイの気持ちに応えようと、小さく笑って頷いた。

 

「ああ、構わない。なんでも言え」

「えっとね…俺、レグと兄弟になりたい!!!」

「………ん?」

 

レグルスは笑顔のまま動きを止めた。

 

「俺がお兄ちゃんで!レグが弟!」

「………は?」

「へへっ!…俺に弟かぁ…!俺ね、兄弟とか憧れてたんだ!だから嬉しいな!」

「………兄弟?」

 

レグルスの表情は一転し、ダイに『兄』と言われたことで混乱し、複雑な顔つきになった。

 

「ダイ、何を言っている?私はバランの生まれ変わりだ!ならば、私がダイの父親になるのが当然だろう!」

「えっ…?」

 

ダイは困惑の表情を浮かべ、自分より年下で小さな子供の姿をしたレグルスが父親を名乗ったことに眉を下げた。

 

「えっと…俺もそれ考えてたんだけど…レグと俺って、歳が近いじゃん?だから兄弟のほうが良いかなって!レグ、俺より小さいし!なんか、父さんって感じしないんだよね…」

「なっ!!?なんだと!?」

 

レグルスは、父親として見られていないことにショックを受けた。

 

「わ、私はダイの父親だ!!!よいか!バランの記憶もいずれ戻る!ソアラ姫のこともある!私が父親になるのが当然だ!!!」

「う〜ん、分かってるんだけど…なんかなぁ…違和感があるというか…それよりさ!」

「それより!!?」

「レグ!俺のこと、お兄ちゃん!って呼んでみてよ!ね!試しにさ!」

 

ダイは期待を込めてレグルスを見つめたが、レグルスは顔をそむけて拒絶した。

 

「断る!!!」

「むぅ!なんでだよ!レグがお兄ちゃんって言ってくれないなら…もう二度と、父さんって呼ばないから!!!」

「なっ!!?」

「ねー!呼んでよ!」

 

ダイはワクワクした様子でレグルスを見つめた。レグルスは目を見開き、唖然としながらも、少し迷った末にダイへと向き直り、小声で口を開いた。

 

「…ダイ…兄さん」

「!!!」

 

その言葉に、ダイの心はぽかぽかと温かくなり、思わず笑顔がこぼれた。

 

「へへっ!兄さん…兄さん、かぁ…!やっぱり、レグが俺の弟ね!そのほうが自然だし!」

「何故そうなる!?!私はダイの父親だ!!!我らは親子であるべきだ!!!」

「え〜!やだ!兄弟がいい!!!」

「断る!親子だ!!!」

「兄弟!!!」

 

せっかく家族になったというのに、今度は親子か兄弟かで言い争いが始まった。それを見守っていたポップたちは、喧嘩を始めた2人の様子に呆れた表情を浮かべた。

 

「おい、なんか揉め始めたぞ?」

「親子か兄弟か…確かに、どちらも成り立つ関係ではあるが…簡単には決められないな」

「ここから見れば2人とも子供だから、兄弟喧嘩にしか見えないわね…」

 

ダイは言い争いが平行線であることに業を煮やし、ムッとした表情でレグルスの手首をつかむと、ポップたちが隠れている茂みに向かって歩き出した。

 

「もう!埒が明かない!」

「ダイ!?」

「ポップ!レオナ!みんな出てきてよ!そこにいるのは分かってる!」

「あはは、やっぱりバレてらぁ」

「2人とも気配を感じ取れるから当然ね」

「ピピィ!!!」

 

ポップたちは見つかったことに苦笑しながら、隠れていた茂みから姿を現した。

 

「みんなは俺とレグ、どう見える?親子?兄弟?」

 

ダイはレグルスの隣でそう問いかけ、レグルスはギョッと目を見開き、慌てて制止しようとした。

 

「ま、待て!何故みんなに聞く!?どう考えても私のほうが不利だろ!!!」

「レグ…親子に見えない自覚、あったんだ…だって、レグは言っても聞かないし!みんなに意見を聞こうよ!」

 

ダイは期待に満ちた眼差しを向け、レグルスは渋い顔でポップたちに目を向けた。巻き込まれた彼らは苦笑しつつ、歳の近い2人を交互に見比べた。

 

「う〜ん…やっぱ、兄弟にしか見えねぇな…」

「ええ…正直、ダイ君がお父さんって呼ぶと違和感しかないわね…」

「その…レグルス様には申し訳ないのですが…」

「2歳差であれば、兄弟のほうが納得するだろう」

「仲の良い兄弟に見えるぞ!」

 

ポップ、レオナ、ラーハルト、ヒュンケル、クロコダインはそれぞれ、2人が兄弟に見えると答えた。

 

「ほら〜!みんなもこう言っているよ?」

「っ…!」

 

ゴメちゃんはダイの頭の上に着地し、賛成を示すように笑顔で翼を広げた。

 

「ピピィ!!!」

「ゴメちゃんも俺に賛成だって!やっぱり兄弟にしようよ!」

「ぐっ…!…1人ぐらい…私の味方がいてもよいだろっ…!」

 

誰一人親子だとは言ってくれなかったことに、レグルスは項垂れた。だが、すぐに顔を上げると、ムッとした表情で強く言い放った。

 

「ええい!誰がなんと言おうと…私とダイは親子だ!私がダイの父親だ!!!それ以外の関係は、絶対に!認めん!!!」

「ええ〜!もう、わがまま言わないでよ…!そんなに兄弟が嫌かなぁ?」

 

レグルスは怒りながらその場を歩き出し、城の方へ向かった。ダイたちは慌ててその後を追い、城へと戻っていった。親子か兄弟かの論争は決着がつかず、結局は保留となった。

 

その後、一行は城で食事や仮眠をとり、戦いに備えて準備を進めた。

 

「レグルス様!ダイ様!ソアラ様の居場所が分かりました!」

「アルキード城にソアラ様はいると考えられますのじゃ!」

 

そして、ソアラの発見報告がメルルとナバラからもたらされたのは、月が真上に来た深夜のことであった。




ダイとレグルスの兄弟の話が何度も出てきますが、実は小説を書く前の筋書きでは、レグルスはテランではなくデルムリン島からスタートし、ダイの弟として暮らし、共に旅をする構想もありました。ただ、その場合はラーハルトやソアラさんを救うのが難しくなるためボツにし、テラン王族スタートにした経緯があります。兄弟の話が出るのはその名残です。

ヒュンケルとマトリフが登場しましたが、実は竜の騎士編とカール王国編は同じ時系列で進行しています。バーンにとって最優先すべきは竜の騎士に関する動きのため、カール王国での襲撃失敗には興味を示さず、対応も後回しにしています。
ヒュンケルにしてみれば、カール王国を救ったと思った直後に、今度はアルキード王国での戦いに突入する形となり、連戦となっています。

■同じ時系列の話数
51_竜の騎士編_迫り来る魔の手 ⇔ 42_カール王国編_魔影軍団の包囲網
52_竜の騎士編_月下の湖    ⇔ 43_カール王国編_カールの守り
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