アルキードから遠く離れた場所、ザボエラの隠れ家兼研究所として使われている横穴に作られた建物内では、ザボエラの息子ザムザが超魔生物の研究成果を紙に書き写していた。
「…ふぅ、こんなものか。今回の自立型超魔生物は上手くいった」
ペンを机に置いたザムザは、紙に書き記した研究成果を見つめながら、脳裏に自身の最高傑作である超魔生物と父ザボエラの姿を思い浮かべた。
(超魔生物は私が長い年月をかけて続けてきた研究…あれだけの成果を上げれば、誰もが私の功績を認める!父上も、きっと私を認めてくださることだろう!……父上は、私を見直すだろうか?…いつかは、私を褒めてくれるだろうか?)
魔族であるザムザは二百年近い時を父ザボエラと共に過ごしてきたが、父に褒められた記憶も、愛された記憶もなかった。ザボエラは常に息子の研究成果を横取りし、自分の功績にしては他人を見下し、息子のザムザさえもただの道具としか見ていなかった。
「…それはないか。あの父上のことだ…俺の超魔生物の成果も、自分の手柄にしているだろう」
ザムザは、父親の性格からして研究成果を横取りし、さも自分の功績のように自慢しているだろう姿を思い浮かべ、諦めたようにため息をついた。そのとき、建物の外からルーラの着地音が響いた。
「ルーラの音!父上が帰って来たのか…?」
「ザ、ザムザ様!!!大変でございます!!!」
ルーラの音を聞き父が帰還したかと思った瞬間、研究室の扉が勢いよく開き、部下のあくま神官が慌てた様子で駆け込んできた。
「なんだ?騒々しい」
「ハ、ハドラー様です!ハドラー様が外に!外にいます!!!」
「ハドラー様だと!?」
「はい!それも、命に関わる大怪我をしております!!!」
「な、なんだとぉっ!!?すぐに回復魔法が使える部下を連れてこい!!!」
「はっ!」
ザムザが研究所の外に出ると、そこには満身創痍のハドラーが地面に倒れていた。ハドラーは胴体から切断され、上半身のみとなっており、その瀕死の姿にザムザは血相を変え、気絶しているハドラーへ駆け寄った。
「ハドラー様!!!なんてことだ!すぐに医務室へ運べ!!!」
「はっ!」
「…う…ぐっ…!…ザ…ムザよ…」
「!!!ハドラー様!気づかれましたか!!?」
小さな呻き声をあげたハドラーにザムザが声をかけた瞬間、ハドラーは震える手を伸ばし、ザムザの胸元の服を掴んだ。
「ハドラー様!今、治療を―」
「ザムザよ…!俺を改造しろ!!!」
「!!!」
ザムザは驚き、目を見開いてハドラーを見つめた。ハドラーは激痛に顔を歪めながらも、睨むようにザムザを見返した。
「俺を超魔生物に改造しろ!…はぁ…はぁ…お前の研究を…俺の為に使え!…竜の騎士のような力を…この俺に……」
「私の研究で…ハドラー様を超魔生物に…!」
ハドラーの言葉にザムザは一瞬唖然としたが、自身の研究を必要とされていることに、どこか認められたかのような、高揚感を覚えていた。ハドラーは命令を言い終えると再び気絶し、ザムザは慌てて部下に声を張り上げた。
「すぐにハドラー様をお連れしろ!研究室へ!!!」
夜が明ける前の深夜、アルキード城から少し離れた場所では、ドラゴンたちが多く集まり、元軍団長のクロコダインとヒュンケルを警戒して睨みつけていた。
「グ、グルルルッ!!!」
すでにクロコダインとヒュンケルの周囲には多数のドラゴン、あくま神官が命を落とし、地面に横たわっていた。ドラゴンたちは1対1を避け、数で攻撃を仕掛けていたが、それでもなお劣勢で、数十体いたドラゴンの数は少しずつ減っていった。上空では超竜軍団長のガルダンディーが嘴をカチカチと鳴らしながら、眼下を鋭く睨みつけていた。
「くそっ!くそっ!くそっ!なんで、複数のドラゴン相手に戦えるんだ!!?奴らの体力はどうなってやがる!おかしいだろっ!!?」
ガルダンディーは部下のドラゴンが次々とやられていく様にイライラし、疲れた様子のないクロコダインとヒュンケルを睨みつけた。
「ガルダンディー!降りてこい!」
「ドラゴンだけでは、この俺を倒すことはできんぞ!!!」
クロコダインとヒュンケルは上空にいるガルダンディーに向かって声を張り上げたが、ガルダンディーは悔しそうに嘴を震わせるだけで降りてくることはなかった。
「冗談じゃねぇ…降りた途端やられるのは目に見えている!!!化け物みたいな強さをしやがって…!」
「グルル…」
ガルダンディーのそばを飛んでいたルードも唸り声を上げただけで、地上に降りようとはしなかった。そのとき、雷鳴と共に落雷が城の中へと落ち、ガルダンディーとルード、クロコダインとヒュンケルは一斉に城の方を注目した。
「また雷が落ちやがった…!城の中はどうなってやがる!?」
「グルルルッ!」
「何?空から城の中を確認するって?…分かった!確認してこい!だが、気をつけろ!また雷が落ちるかもしれねぇ…ドラゴンといえど、雷に撃たれたらひとたまりも無いからな!」
「グルッ!!!」
ルードはガルダンディーに返事をすると、城の上空に向かって飛び立った。ヒュンケルは先ほどの雷に違和感を覚え、クロコダインに声をかけた。
「クロコダイン…先ほどの雷だが…」
「おう!ダイのライデインだろ?」
「…いや、あの規模の雷、音…おそらく違う…以前、ダイが唱えたライデインを見たことがあったが、その時よりも強力に見えた…」
「?…だが、ダイ以外にライデインを使える奴はいないと思うが?」
「そうなのだが…」
ヒュンケルは納得できずにいたが、そのとき城の上空に向かっていたルードが、どこか慌てた様子で猛スピードでガルダンディーの方へ戻ってきた。
「ルード!どうした?お前がそんなに慌てるなんて珍し―」
「グオッ!!!」
ルードはそのまま減速せずに口を開け、ガルダンディーに噛みついた。
「!!?ムーゴオッーー!!?(!!?ルードオッーー!!?)」
ガルダンディーは突然、兄弟のように育った仲間に噛まれ、悲鳴を上げた。ルードの口からはガルダンディーの黄色い羽毛に覆われた足だけが見え、ガルダンディーは足をばたつかせて必死に抜け出そうとしていた。クロコダインとヒュンケルもその光景に目を見張った。
「何!!?」
「あのスカイドラゴン、ガルダンディーを食ったぞ!!!…いや、足が動いている!咥えているだけか!」
クロコダインとヒュンケルは、ガルダンディーの噛まれた足が動いているのを見て、殺す気はなく、ただ咥えられているだけだと気づいた。ルードは速度を落とさぬまま高速で移動し、瞬く間にクロコダインたちから距離を取っていく。ガルダンディーを咥えたルードがこの場から逃げようとしていることに気づいたヒュンケルは魔剣を構え、クロコダインは右手に闘気を溜めた。
「逃げる気だ!!!」
「逃すかっ!!!ブラッディースクライド!!!」
「獣王会心撃!!!」
「グルッ!!」
スカイドラゴンの飛行スピードは速く、ルードは地上からの攻撃に気づくとすぐに横にかわし、攻撃は当たらなかった。そしてルードは息を大きく吸い込み、喉を震わせながら咆哮した。
「グォオオオォッ!!!」
「むがあぁーーーっ!!!(うるせぇーーーっ!!!)」
ルードの咆哮はアルキード国中に響き渡り、それを合図にクロコダインたちを取り囲んでいたドラゴンたち、そしてアルキード中に散らばっていたドラゴンやヒドラたちも一斉に動き出した。ヒュンケルとクロコダインは背中を合わせ、武器を構えながら迫る敵を警戒した。
「ドラゴンどもが動き出したぞ!ヒュンケル!気をつけろ!!!」
「ああ!…?」
「おい!こいつら、どこへ行く!!?」
だがドラゴンたちはヒュンケルとクロコダインを避けるように駆け出し、アルキードの中心へと向かって行った。
「こいつらの目的は…!クロコダイン、ドラゴンの動きを止めるぞ!!!大地斬!!!」
「おうっ!!!ウオオオッ!!!」
「グギャッ!!!」
ヒュンケルはドラゴンを斬りつけ、クロコダインは倒したドラゴンの遺体を道路に投げつけ、進行方向を塞いだ。数匹は足止めできたが、数十匹のドラゴンはヒュンケルとクロコダインを無視し、街の中心へと突き進んで行った。
「ぐっ!!!抑えられん!!!」
「まずいぞ…このままでは、アルキードが滅ぶ!!!」
テラン城に戻ったダイ、ポップ、レオナ、ラーハルト、そして敵の手から救い出したソアラと、モシャスで変身しているバランは王の寝室に入った。夜明け前、月明かりが差し込む薄暗い部屋の中で、バランはベッドに横たわるフォルケン王と向かい合った。
「レグルス様…いえ、バラン様。竜の騎士様に覚醒されたこと、そしてソアラ様を救出なさったこと、心より祝福申し上げます」
「父上…心配をかけたな」
フォルケンは息子レグルスの面影を残すバランを優しく見つめ、バランは育ての親であるフォルケンに小さく頷いた。窓際に立っていた占い師のメルルは少し前に出ると、不安そうな表情でバランやダイたちを見つめた。
「皆さんに至急お伝えしたいことがございます!アルキードについてです!おばあさま」
「こちらをご覧ください!」
ナバラは手に持った水晶をバランたちに見せると、水晶は光を放ち、映像が映し出された。アルキードの民が避難している地下水路には、昨日の日中に見たときとは違い、水が溢れ、人々は胸のあたりまで水に浸かっていた。水に浸かりながら泣き叫ぶ者や、子供が溺れないように必死で抱きかかえる親の姿、絶望的な表情を浮かべる者もおり、状況は一変していた。
「水路に水が…!」
ダイたちは水晶を覗き込み、水が溢れ危機が迫る民の様子を確認して顔を顰めた。
「この水はどこからきやがった!?アルキードに雨は降ってなかったぞ!!?」
「水路は川、そして海につながっているわ!川はどうなっているの!?」
「おっしゃる通り!ワシらも疑問に思い確認したところ、アルキードの河口付近でドラゴンたちが川の流れを堰き止めておった!」
ナバラは水晶を操作し、映像は河口付近に切り替わった。そこには複数のドラゴンが川に瓦礫や石、砂を投げ入れ、川の水を堰き止めている様子が映っていた。さらに映像は地下水路の地上出口付近に切り替わり、そこでは数匹のドラゴンが水路から出てくる人間を待ち構えていた。
「そんな…民が…!」
危機的状況に、姫であるソアラは顔色を青ざめ、震える手を口元に当てて唖然とした。
「レグ!どうするんだ!?」
ポップが助けに行くべきか尋ねると、仲間たちの視線を感じながら、バランはポップに小さく頷いた。
「分かっているポップ。救いに行く!だが、その前に…」
バランは周りを見渡し、ダイやソアラ、ポップたちを見た後、ベッド上にいるフォルケン王に真剣な表情を向けた。
「王よ、頼みがある!」
「なんでしょうか?」
バランはモシャスを解除し、子供の姿――レグルスへ戻ると、じっと父フォルケンを見つめた。
「私に…王位を譲ってもらいたい」
「!!!」
ダイたちは驚いてレグルスを見つめ、フォルケン王も目を見張った。
「それでは、あなた様はこの国に縛られてしまいます。それとも…この国に残り、このテランを支えると…?」
「ああ、私はこの国で生きていく。私はこの国を継ぐと以前から決めていた。それは竜の騎士に覚醒した今でも同じだ。私はこの国の王となり、このテランを、民を守る!」
フォルケン王はレグルスの言葉に目を見開き、目を閉じると喜びと驚きで体を震わせた。
「…竜の騎士様であらせられるレグルス様は、いつかこの国を出て行かれると思っておりました。騎士様には使命がありますゆえ、テラン一国に留めてよいものではないと…いつか、別れが来ると…」
目を開き、目尻に涙を浮かべたフォルケンはレグルスを見つめ、小さく笑みを浮かべた。
「あなた様に王位をお譲りいたします。どうか…どうか、この国をお願いします!」
「感謝する。…あと、父上。私に様付けは不要だ。敬語もなしとする」
フォルケンは竜の騎士であるレグルスに敬語を使わなくてよいと言われ、動揺した。
「ですが…」
「たとえ血の繋がりがなくとも…種族が違っても…あなたが育ての親であることに変わりはない!私にとって、あなたは父だ…どうか、今までのように接してほしい、父上」
「!!!…私を、父と呼んでくださるのか!…っ…分かった…レグルス、これからもよろしく頼む!」
「ああ!」
レグルスとフォルケン王のやり取りを聞いていたダイたちは驚きながら互いを見やった。
「レグが王様になっちゃった!」
「まじかよ!いつかはなると思ってたけど…」
レグルスはフォルケン王から視線を外し、ソアラに近づくと、自身に呪文を唱えた。
「モシャス」
レグルスはバランに再度変身し、大人の姿になると手を伸ばし、ソアラの頬にそっと指で触れた。
「これからアルキードに向かう…ソアラ、辛いだろうが共に来てくれるか?」
ソアラは頬に触れる手の上に自分の手を重ね、アルキードの民を思い浮かべながら悲しげに眉を寄せ、バランに微笑みかけた。
「ええ。民が苦しんでいる時に…王族の私が何もしないわけにはいかない。私も一緒に行くわ!それに…何かあれば、あなたが私を守ってくれるのでしょう?」
「もちろんだ。私が、必ず守り抜く」
「信じているわ…あなたが側にいるなら、私は何も怖くない」
ソアラが共に戦場へ向かうことに、ダイは非戦闘員のソアラが怪我をするのではと不安になり、難色を示した。
「待ってよ、レグ!母さん、危ないからここにいた方が…」
「ディーノ、大丈夫よ。お父さんが守ってくれるから!」
「でも…!」
「それにね、お母さんは逃げるわけにはいかない…出来損ないの姫だとしても、アルキードの王族として、責務を果たさなければならないわ。あそこには民が待っているの」
「ソアラにはアルキードでやってもらいたいことがある…ディーノ、分かってくれ」
ダイは内心ではまだ納得しきれなかったが、ソアラとバランの真剣な表情に少し考えた後、頷き了承した。
「…そっか…分かった……じゃあ!俺も母さんを守るよ!俺たちが絶対に守るから!!!」
ソアラはダイの言葉に目を見開いたが、すぐに嬉しそうに笑い、息子の頬を愛おしそうに撫でた。
「ディーノ、ありがとう」
「う、うん!」
ソアラに褒められたダイは顔を赤らめ、戸惑いながらも嬉しそうに笑った。
「ソアラさんの側には私がいるわ!ソアラさん、私はパプニカの女王レオナ!何かあれば守るから、一緒に行動しましょ!」
「パプニカ!…ええ!レオナさん、一緒に行動しましょ!」
レオナはソアラの隣に並び、笑顔で共に行動することを約束した。バランとダイも、守る対象であるソアラとレオナが近くにいるほうが護りやすいと考え、同意した。
「その方が助かる。2人が近くにいればこちらも守りやすい」
「だね!母さんとレオナが一緒に行動してくれれば、守りやすくて助かるよ!」
「2人ともありがとう!」
「…あら、私も守る対象なのね」
ソアラは微笑み、レオナはソアラを守るつもりでいたが、ダイたちから守られる立場だと知らされ、少しがっかりした様子だった。
ラーハルトはバランが11年前にアルキードで処刑されていることから、これから向かうアルキードに遺恨があるのではないかと心配し、少し言いにくそうに進言した。
「バラン様、決定した後で申し訳ありませんが…もしよろしければ、アルキードへは我々が向かいます。バラン様とソアラ様はここで待機されたほうが…」
「えっ!?」
ポップはラーハルトの提案に難色を示し、顔をしかめて反論した。
「待てよ、ラーハルト!敵はドラゴンにヒドラがいるんだぞ!?レグがいなけりゃ、全部倒すのは難しいだろ!!!」
「…バラン様は前世とはいえ、アルキードの連中に…殺されたのだぞ!!?バラン様をアルキードにお連れするのは、俺は反対だ!!!」
ラーハルトはムッとしながら言い返したが、バランが肩に手を置くと、大人しく口を閉じた。
「ラーハルト、問題ない」
「…ですが」
「確かに…アルキードに対して思うところはあるが…あれは前世での出来事、自らの意思で処刑を受け入れている。私の中では終わった話だ。私はアルキードへ向かう」
「…承知いたしました。バラン様がそうおっしゃられるなら…」
「…それに」
バランはナバラが持つ水晶を見つめた。水晶には、水が胸元まで迫り、絶望の表情を浮かべるアルキードの民の姿が映っていた。
「…罰なら、十分受けた」
覚悟を決めたバランは顔を上げ、部屋にいる家族や仲間を見渡した。
「行くぞ!アルキード王国を救う!!!」
バランは皆に作戦を伝えた後、アルキードに向けて飛び立った。
レグルスという名前はラテン語で「(小さな)王」という意味があります。
名前の由来に気づいた方も多いと思いますが、レグルスを王様にすることは初期から決めていました。レグルスはバランに足りない部分を補うために作ったキャラクターで、交渉や外交、王族としての振る舞いなどが備わっています。バランは人間とのコミュニケーションが苦手な面があるため、レグルスにはそのあたりの経験や知識を覚えさせた感じです。