アルキード城下町の地下水路では、魔王軍の襲撃を逃れ、多くの民が避難していた。だが、それを見越したザボエラの策により、水路には大量の水が送り込まれ、最初に人々がいた広い空間はとうに水没し、人々は真っ暗な地下空間を移動しながら、地上出口近くの水路に辿り着き、溺れないよう水面に顔を出していた。
「…はぁ…はぁ…」
「だ…ダメだ…水の勢いが止まらない…このままじゃ…」
水位は人々の首元まで迫り、背の低い者は壁のわずかな隙間に掴まって溺れないようにし、子供は大人に抱えられてようやく息が吸えていた。泣き疲れた子供はぐったりとしており、水位の上昇はゆっくりだが止まることはなく、地下水路全体が水に沈むのは時間の問題だった。
「…はぁ!…はぁ!…だ…だれか…助けて…!」
「ゴホッ!ゴホッ!…う、うわあぁああ!!!嫌だ!こんなところで死にたくないぃっ!!!」
1人の男性が死の恐怖からパニックになり、水を掻き分けながら地上へ続く梯子に取り付くと、そのまま登り始めた。男性が地上を目指すのを見て、兵を指揮する身なりの綺麗な人物と兵士が慌てて止めようと手を伸ばした。
「行くな!待て!」
「俺は地上に行くんだっ!!!」
「止まれ!地上には―」
男性は人々の制止を振り切り、梯子を登って地上への重い鉄の蓋を持ち上げた。
「ドラゴンが―」
「グルルルッ!!!」
「うわああぁあっ!!!」
蓋を持ち上げた瞬間、入口で待ち構えていたドラゴンが蓋ごと男性の腕に噛みつき、地下から引っ張り出そうとした。ものすごい力で引っ張られる男性を、人々は必死に足を掴んで止めようとした。
「ギャアアアァア!!!」
「皆…!引っ張るんだ…!」
「っ…ダメだ…!凄い力で…連れて行かれ…っ!!!」
だが人々の抵抗も虚しく、男性はドラゴンに引き摺り出され、その勢いのまま上空へ放り投げられた。
「うわああぁあ!!!」
「ペッ…グルル」
ドラゴンは口から鉄の蓋を吐き出すと、舌なめずりをしながら落ちてくる人間をじっと見上げ、口を大きく開けて獲物が落ちてくるのを待ち構えた。その時、真っ暗な空を切り裂き、ドラゴンめがけて一直線に突進する一筋の青い光が現れた。
「うおおぉおっ!アバンストラッシュ!!!」
「グォオオオッ!!?」
額の竜の紋章を青く光らせながら、ダイは空から急降下し、ドラゴンに技を放った。切り裂かれたドラゴンは何が起きたかもわからぬまま断末魔を上げ、血を撒き散らして地面に倒れた。
「うわあああ―っ、グエッ!!!」
「…ふん」
ドラゴンに投げられ落ちてきた男性は、地面に叩きつけられる寸前でラーハルトに救われた。ラーハルトは平然と男性を抱えたが、男性は魔族と気づき恐怖で顔を引き攣らせた。
「ひっ!!!ま、魔族!」
「おい!」
ラーハルトは怒声を上げ、怯える男性を鋭く睨みつけた。
「ひいっ!」
「お前はドラゴンに放り捨てられ、地面に叩きつけられて死ぬ寸前だった!だが!それを俺が助けた!!!」
「…う、あ…」
「何か!俺に!言うことは!!?」
「た、助けてくださり、ありがとうございましたーーー!!!」
「…ふん。それでいい」
「ぎゃっ!」
ラーハルトは満足げに男性を地面へ放り出し、落とされた男性は恐怖と痛みに顔を歪め、涙目になった。
「はあああっ!大地斬!!!」
水路出入り口周囲にいた他のドラゴンも、ダイが次々と素早く倒した。上空を飛んでいたポップは周囲に敵がいないのを確認し、地上のダイとラーハルトに声をかけた。
「ダイ!近くにドラゴン共はいねぇ!俺は姫さんたちを連れて来るぜ!」
「分かった!俺たちは先に水路の人たちを助けるよ!」
「おう!ルーラ!!!」
ポップがルーラを唱えると、魔法特有の光の軌跡が北へ、テランの方角に伸びていった。ダイとラーハルトは人々が避難している水路入口に近づき、ダイは額から竜の紋章を消し、穴を覗き込んだ。
「大丈夫ですか!?」
「!」
水路の人々は不安と、誰かが助けに来たかもしれないという希望を胸に、外の様子を窺っていた。ダイの姿を見つけると、皆目を見開いた。
「今、助けますね!」
「そ、外のドラゴンは…?」
「ドラゴンは俺が倒したよ!」
「本当か!?」
「だから安心して!俺の手につかまって!」
ダイは笑顔で手を伸ばし、身なりの綺麗な人物が目を輝かせながら手を掴んだ。ダイとラーハルトは人々を次々と地上へ誘導し、地上に出た民は焼け崩れた街並みを見渡し、悲痛な表情を浮かべた。
「なんてことだ…街が…」
「そんな…そんなの、ないよ…」
「…うっ…うぅっ…」
街は一日中燃えたことで黒く崩れた建物と焦げた臭いが広がり、人々は静かに泣いたり、震える手を握りしめてうずくまったり、呆然としたりしていた。水路の人々を半分ほど救い出した頃、少し離れた場所にポップたちがルーラで到着した。
「うわあああっ!!!」
ポップ、レオナ、ソアラ、メルル、アルキード兵士2人は着地に失敗し、積み重なって現れた。
「いてて…み、みんなを連れてきたぜ!」
ポップはうつ伏せで下敷きになりながらも、親指を立てて笑った。
「…ポップ、戦いが終わったらルーラの着地練習をしろ。メルル、大丈夫か?」
「は、はい!大丈夫です!ポップさん、乗っかってしまい、すみません…」
「おー、気にすんな!俺は大丈夫だからよ!よっと!」
ラーハルトがメルルの腕を掴んで助け起こし、メルルが退くとポップも立ち上がった。
「レオナ!母―じゃなくて!ソアラさん!大丈夫?」
ダイは積み重なった中からレオナとソアラを助け起こした。ソアラを「母さん」と呼びそうになったが、アルキードの民の前なので慌てて言い直した。
「っつ…!ええ!大丈夫よ!」
「ありがとう、ディ…ダイ!」
ソアラもまた、思わず「ディーノ」と呼びそうになり、慌てて言い直した。ポップたちは離宮で警護をしていたアルキード兵士2人を連れて来ていた。周囲を確認したソアラは、すぐさま兵士たちに指示を飛ばした。
「2人は水路にいる民を救って!私は人々の治療を行うわ!」
「「はっ!かしこまりました!ソアラ様!」」
兵士たちはソアラが正気を取り戻したことを喜びつつ、街の惨状に顔を強張らせながら真剣に応えた。そして人々の誘導や他の兵士との情報共有を行った。
人々は突然現れたソアラたちに驚いていたが、その中で身なりの綺麗な人物が唖然としながら近づき、恐る恐る声をかけた。
「…もしかして、ソアラ姉さん…?」
「えっ?」
「姉さん」と呼ばれたことでソアラは驚き、その人物を見つめた。見覚えのある顔に気づき、父の弟の息子、従兄弟だと分かると目を見開いた。
「貴方は…!生きていたのね!」
「はい!ソアラ姉さんも生きていて良かった…!」
そのやり取りを聞いたダイは目を見開き、レオナに小声で尋ねた。
「レオナ!あの人は母さんの弟!?」
「いえ…あの人は王弟殿下の息子…つまり、王様の弟の息子さん!ソアラさんの従兄弟にあたるわ!次期国王候補と噂されていた人物よ!」
「母さんの従兄弟…」
「ふふっ!ダイ君の親戚でもあるわよ!」
「!!!俺の親戚…」
ダイは初めて知る親戚の存在に胸を高鳴らせ、母ソアラと従兄弟の再会を見守った。
アルキード王国に流れる川の河口付近では、川の水が瓦礫や石、砂などで堰き止められ、上流側は水位が縁いっぱいまで上がっていた。川を堰き止めている場所には、5匹ほどのドラゴンが留まり、その場を守っていた。
「グルルルッ!!!」
5匹のドラゴンは上空に現れた敵を睨みつけ、唸り声を上げた。ドラゴンの視線の先では、レグルスがトベルーラで宙に浮かび、眼下の大量の瓦礫を無表情に見下ろしていた。
「これだけの瓦礫、よく集めたものだ…」
レグルスは両手を構え、掌に魔力を集めると火花と共に輝かせた。そして魔力を纏った両手を突き出し、川を堰き止める瓦礫とドラゴンに向かって魔法を放った。
「イオナズン!!!」
最上位の爆裂呪文が放たれ、瓦礫に着弾すると大爆発を起こした。瓦礫は吹き飛び、川を堰き止めていた場所には巨大な穴が空き、水を堰き止めていたものが消えると、川の水は一気に海へと流れていった。
「グ…グルルッ!」
「生き残ったか…」
イオナズンで吹き飛ばされたドラゴンはダメージを受けつつも起き上がり、レグルスを睨みつけた。ドラゴンが生きているのを確認したレグルスは額に意識を集中し、竜の紋章を出そうとしたが、失敗した。
(!!?…紋章が出ない?)
何度か試しても紋章は出ず、レグルスは内心動揺しつつも、戦い方を切り替えた。子供では扱いづらい真魔剛竜剣を装備するため、自身に呪文を唱えた。
「モシャス!」
レグルスは呪文で大人の姿、バランに変身すると真魔剛竜剣を装備し、剣の先に魔力を流し始めた。
「バギクロス!」
剣とバランの周囲に風の渦が巻き起こり、バランはドラゴンの群れに向かって剣を大きく振り抜いた。
「はあああっ!!!真空海波斬!!!」
剣から放たれた複数の巨大な風の斬撃は、ドラゴンの正面から背後へ一瞬で通り過ぎ、ドラゴンは斬られたことに気づく間もなくバラバラに切り刻まれた。切り刻まれた肉片と蒼い血は大量に川へ落ち、川面を蒼く染めた。バランは周囲の気配を探ったが、近くに敵はいなかった。
「この辺りのドラゴンは全て倒したか…それにしても、何故、紋章が出ない!?」
バランは先ほど出なかった竜の紋章を再度出そうと何度も試したが、出る気配はなく、内心焦りを覚えた。
「アルキード城では問題なく出せた。何が問題だ?……!…あれは…」
しばらく格闘していると、夜明け前の薄暗い中、遠くの方から広範囲に土煙が上がっているのが見え、さらに土煙の中をドラゴンの群れが走っているのを確認したバランは眉を顰めた。
「…ドラゴンの群れか。街の中央に向かっているな」
ドラゴンの群れは街中央――ダイたちがいる場所へ向かっていた。それに気づいたバランは真魔剛竜剣を鞘に仕舞い、モシャスを解除して子供の姿、レグルスに戻ると、ダイを思い浮かべながら呪文を唱えた。
「リリルーラ」
「うおっ!」
合流呪文リリルーラでレグルスはダイの側に現れ、ポップは突然近くに現れたレグルスに驚き、仰け反った。
「お、おめぇ!いきなり現れるなよっ!」
「アルキードの責任者はいるか?」
「おい〜、無視するな…はぁ、レグもかよ…」
ポップは文句を言ったが、レグルスは急いでいたため気にせず、ダイとレオナに話しかけた。
「あの人がそうだよ!」
「王弟殿下の息子よ。次期国王候補と噂されていた人」
ダイがソアラと話している身なりの綺麗な人物を指差し、レオナが説明した。
「!!!この状況で生きていたのか…」
レグルスは父フォルケンから聞いていたアルキードの次期国王候補が、この絶望的な状況で生きていたことに驚きつつも、その人物に近づき話しかけた。
「新たなアルキードの王よ。話がある」
レグルスが近づくと周囲のアルキード兵士は警戒して武器を構えた。ラーハルトもレグルスの側に立ち、主人が攻撃されないよう目を光らせた。
「貴方は…それに、私が新たな王とは?」
身なりの綺麗な人物は、国王や父を差し置いて自分が新たな王と呼ばれたことに疑問を抱いた。
「私はテラン国王レグルス」
レグルスが名乗ると、身なりの綺麗な人物と兵士たちは目を見開き、兵士たちは他国の王と知ると動揺しつつも、刃先を下ろした。
「テラン国王…!!?待て!テラン国王はフォルケン王ではなかったか?」
「父フォルケンは王位を私に譲り、今のテラン国王は私だ」
「そうであったか…何故テランの国王がここへ?」
「我らは魔王軍に占領されていたアルキード城で、魔軍司令ハドラーおよび軍団長ザボエラらを倒し、囚われていたソアラを救い出した」
「な、なにっ!!?」
「我々はソアラからアルキード救助の要請を受け、ここに来た」
城を占拠していた魔王軍幹部を倒したという言葉に、その場のアルキードの人々は目を見開き、ざわめいた。
「敵を倒した、だと!!?」
「じゃあ、俺たち助かったのか!?」
「敵に囚われていた…?ソアラ姉さん、本当ですか!?」
「ええ、本当よ…私は敵に捕まり、城に捕えられていたの。それを彼らが助けてくれたわ!」
ソアラは夫バランの子供姿であるレグルスを優しげに見つめた。一方、身なりの綺麗な人物は、敵に占領されていた城からソアラが救い出されたと知り、城に残されていた王、父親が生きているのではないかと、一縷の希望を抱いた。
「城には他に人は居なかったか!?父上、国王陛下が居たはずなんだ!!!」
「…お父様は…」
ソアラは悲しげに俯き、それを見た身なりの綺麗な人物は嫌な予感がして顔を青ざめた。
「…まさか…!」
「…我らが城に行った際、生存者はソアラだけであった。国王、王弟殿下、家臣や兵士は残念ながら…」
「…そんな!…嘘だ!…父上…っ…」
身なりの綺麗な人物は父の死に打ちのめされ、項垂れたが、感傷に浸る間もなく地面が大きく揺れた。
「今の地震は…!」
「グォオオオオ!!!」
「た、大変だ!遠くからドラゴンが!ドラゴンの群れが近づいて来てるぞ…!!!」
ドラゴンの大きな唸り声が遠くから聞こえ、さらに太陽が地上を照らし始めたことで、多くの人々は地震と唸り声の原因に気づいた。遠くから数十匹のドラゴンと複数のヒドラが土煙を上げながら、レグルスたちのいる場所に向かって走っており、その姿を見たアルキードの人々は顔を青ざめさせ、悲鳴を上げた。
「ひっ!!!いやああぁああ!!!」
「もう嫌だ!…もうやめてくれっ!!!」
人々が錯乱し、恐怖に悲鳴を上げる中、アルキードの民の一人が怒ったように泣きそうな顔で歪め、近くにいたポップに詰め寄った。
「なあっ!なんでだよ!?敵はあんたたちが倒したんだろっ!!?なんで…なんで!ドラゴンがここに向かってくるんだよおぉっ!!!」
「俺たちが倒したのは敵の幹部だ!!!ドラゴンは国中にいやがるんだぞ!そいつらは倒してねぇ!!!」
「なんで…助かったと、思ったのによ!…なんでなんだよぉ…」
詰め寄っていた民は悲痛に顔を歪め、泣きながらその場に崩れ落ちた。アルキードの人々は、これから訪れる死の恐怖に絶望していたが、レグルスは落ち着いた様子で声を上げた。
「何もしなければ、この国は今日滅ぶ…」
「ふっ…うぅっ…」
「だが!我々ならドラゴンを倒し、この国を救うことが可能だ!!!」
「!!!本当か!」
この国を救うという言葉に、人々は驚き、レグルスを見つめた。
「ああ、だが…それには、この国の王の許可が必要だ」
レグルスは身なりの綺麗な人物に向き直った。
「新たなアルキードの王よ!テラン王国とアルキード王国との間で盟約を交わし、この国を救うつもりはあるか?」
「…っ!…王なら、私より、ソアラ姉さんのほうが…」
身なりの綺麗な人物はソアラに視線を向けたが、ソアラは首を横に振り、王位を継ぐことを否定した。
「いいえ、それは出来ないわ…私は10年以上国政から離れていた…私は、王に相応しくないわ。きっと皆もそう思っているはずよ…この国の王に相応しいのは、貴方よ」
ソアラは身なりの綺麗な人物に王になるよう促し、じっと見つめた。アルキードの人々や兵士たちも無言で同意し、そのやり取りを縋るように見守っていた。
「私が…王に…」
「時間がない。私と盟約を交わし、この国を救う…その覚悟はあるか?」
「…本当に、この国を救うことが出来るか?ドラゴンの群れを倒し、この国を救うことが…」
「私ならそれが可能だ。ただし、この国を救った際には一つ、私の頼みを聞いてもらおう。それが、条件だ」
「…分かった、盟約を結ぼう!」
身なりの綺麗な人物はレグルスと向かい合い、真剣な表情で周囲にいるアルキードの民に聞こえるよう声を上げた。
「私は新たなアルキード国王として、テラン王国との盟約を結ぶ!この国を滅ぼさんとする敵を討ち倒し、この国を、民を救っていただきたい!…お願いだ…この国を、頼む!」
身なりの綺麗な人物は深々と頭を下げた。レグルスはその返事に満足し、小さく笑みを浮かべた。
「…よかろう!」
レグルスはトベルーラで空中に浮かび上がり、上昇しながら眼下にいるダイ、ラーハルト、ポップに声をかけた。
「手筈通りに…まずは私がやる!」
「分かった!」
ダイ、ラーハルト、ポップは頷き返した。レグルスは上昇を止め、地平線から差し込む朝日に照らされながら、眼下の全ての者に聞こえるように声を張り上げた。
「アルキードの民よ聞くがいい!私はテラン国王レグルス!この国は魔王軍の魔の手により、滅亡の危機に立たされた!…愛する人を奪われ、国を破壊された…今なお、死という恐怖は、お前たちへと近づいている」
「っ…!」
ドラゴンの群れはレグルスたちへと近づき、その巨体がはっきりと見える位置まで迫っていた。レグルスは右手の人差し指を天に向け、魔力で天候を操ると、上空には急速に雲が集まり、雷鳴が鳴り響き始めた。
「だが!それも今日で終わる!アルキードの民よ、その目でしかと見るがいい!この国を蹂躙する敵が倒される様を!この国が救われる瞬間を!」
「グォオオオォ!!!」
「アルキードの夜明けを!!!」
人々が見守る中、レグルスは迫り来るドラゴンの群れに向かって指を振り下ろした。
「ギガデイン!!!」
アルキード王国全土に轟く雷鳴とともに、数多の雷が空から降り注ぎ、地上のドラゴンとヒドラに落ちた。王国は眩い光に包まれ、ドラゴンたちは雷に打たれ、目を見開いたまま動きを止め、身体からは火花と煙が立ち上った。
「ギガデイン!!!」
「っ…!!!」
レグルスはさらに連続で魔法を唱え、再び雷の雨が轟音を伴いながら地上に降り注いだ。アルキードの民は恐怖で身動きが取れず、ただ雷に打たれ続けるドラゴンの姿を唖然と見つめるしかなかった。
クロコダインとヒュンケルはスカイドラゴンのルードの号令により、アルキード王国中央へ走り続けるドラゴンを追いかけながら、攻撃を続けていた。
「くそっ!こいつら止まらんぞ!!!」
「まずい!すでに中心部に入った!このままでは!…!!!」
空が暗くなるのを感じたヒュンケルは頭上を見上げた。黒い雲が上空で急速に集まり、稲光とともに雷鳴が鳴り始めた。その光景に見覚えのあったヒュンケルは冷や汗をかき、大声を上げた。
「クロコダイン!!!止まれ!!!」
「!…あの雲!ダイのライデインか!?」
クロコダインも頭上の雷雲に気づき、立ち止まり、ドラゴンが走り去っていく背中を見つめた。ヒュンケルはアルキード王国を覆うほどの巨大な雷雲に、規模の違いからライデインではないと気づいた。
「…いや、違う!!!」
その直後、アルキード王国全土に数多の雷が落ちた。雷は前方を走っていた全てのドラゴンに命中し、ドラゴンたちは火花と煙を上げながら動きを止めた。あまりの眩しさにクロコダインとヒュンケルは思わず腕で顔を覆った。
「い、今の雷は何だ!!?ライデインの規模ではないぞ!!!」
「…!…また落ちるぞ!!!」
再び空から雷が降り注ぎ、アルキード王国中のドラゴンに当たった。落雷が落ち着き、ヒュンケルとクロコダインは恐る恐る周囲を見渡すと、動かなくなったドラゴンの死骸が一面に転がっていた。
「…どうやら、落ち着いたぞ…今の雷はダイがやったのか?」
「分からない…だが…」
ヒュンケルが前方を指さすと、ドラゴンの死骸のさらに奥に多くの群衆が集まっており、その中にダイたちの姿も見えた。
「ダイたちが無事ならば、恐らく、ダイ…もしくは…」
ヒュンケルは宙に浮かんでいるレグルスを見つけ、顔を険しくした。
「レグの仕業かもしれん…」
ヒュンケルは雷を落としたのはレグルスではないかと、どこか確信を抱きながら呟いた。
「……レグの奴…容赦ねぇな…」
雷が落ち着き、ドラゴンの足音が一切聞こえなくなると、人々は恐る恐る周囲を見渡した。そこには何十というドラゴンの巨体が地面に転がり、白目を剥いて絶命していた。アルキードの人々は国を蹂躙したドラゴンが一方的に屠られた光景に唖然とし、ポップたちもあまりの圧倒的な力に頬をひくつかせた。
「周囲のドラゴンは全て倒した」
宙に浮かんでいたレグルスは降下し、地面に着地すると周囲を見渡しながら淡々と告げた。アルキードの人々はレグルスから少し距離を取り、警戒しながらその様子を見守っていた。
「…貴方は、一体何者なんだ?」
新アルキード国王は冷や汗をかきつつ、ドラゴンを魔法で倒したレグルスをじっと見つめて問いかけた。
「…これが我が国、テラン王国の力だ!」
レグルスは自身の力が個人ではなくテランの国力だと言い切り、アルキード国王は、はぐらかされたと気づいたがそこには触れず、テランが一度も襲撃を受けていない理由について察した。
「…貴方がいたからこそ、テラン王国は魔王軍の襲撃を避けられたのだろうな…」
「それよりも、警戒を怠るな…敵はまだ残っている!」
「!!!」
レグルスの視線の先には、離れた場所でヒドラ4匹がふらつきながらも起き上がる姿があった。それを見た人々は顔を青ざめさせた。
「…か、雷に打たれたのに…生きている…」
一人の男性がヒドラを見て縋るようにレグルスに訴えた。
「な、なあ!お願いだよ、テランの王様!あいつもやっつけてくれ…!貴方なら…貴方様なら倒すことができるだろ!!?」
「…私はここに護衛として残る。ヒドラを倒すのは私ではない」
レグルスはきっぱりと答え、代わりに別の場所から声が上がった。
「それなら俺たちがやるよ!」
「俺たちを忘れてもらっちゃ困るぜ!」
「…協力はしてやる」
答えたのはダイ、ポップ、ラーハルトだった。人々は3人に視線を向け、注目した。
「あんたたちで大丈夫なのか?相手はヒドラ4匹だぞ!」
「ちょっと大変だけどよ、レグだけじゃなく、俺たちも戦えるってとこ見ててくれよ!まあ、任せてくれ!」
「俺たちがヒドラを倒すよ!俺は以前ヒドラを倒したことある!だから安心して!」
「倒したことがある、だって!!?…分かった!よろしく頼む!!!」
人々は不安を抱えながらも、ダイたちに希望を見出し注目していた。そんな中、少し離れた場所から第三者の声が聞こえた。
「その戦い、俺たちも参加させてもらおう!」
足音とともに声が響き、人々が振り返ると、そこには魔剣の鎧を身に纏ったヒュンケルとクロコダインが歩いてきていた。
「ヒュンケル!クロコダイン!」
ダイとポップは嬉しそうに声を上げ、クロコダインは小さく笑いながらダイの頭を撫で、ソアラに視線を向けた。
「お姫様は助けられたみたいだな!」
「うん!ちょっと大変だったけど…助けることができたよ!みんなのおかげだ!」
クロコダインはソアラの無事を確認し安堵した。見つめられたソアラは獣人族に少し驚きつつ、レグルスに問いかけた。
「あなた…彼らもお友達なのかしら?」
「そうだ。仲間のヒュンケルとクロコダインだ。ソアラの救出作戦では城周囲の敵を引きつける囮役をしてもらい、別行動をしていた」
「まあ!そうなのね!後でお礼を言わないと!」
ソアラは笑顔を浮かべ、戦いの後に二人に感謝を伝えようと心に決めた。アルキードの人々は獣人族のクロコダインに驚いていたが、ダイたちと友好的に接する姿にすぐ受け入れていた。
「なあ…あの魔族と獣人族だけどよ…問題ないよな?」
「別にいいわよ!ドラゴンから助けてくれるなら!相手が魔族でも獣人族でも化け物でも!誰でもいいわよ!!!」
「…だな」
魔族のラーハルトや獣人族のクロコダイン、そして圧倒的な力を見せたレグルスを気にする者もいたが、多くの人々は命を救ってくれる存在ならば種族など気にしていなかった。
「ヒ…ヒドラが動き出した!」
遠く離れた場所でギガデインの影響で動けずにいたヒドラ4匹が、痺れが取れたことでゆっくりと動き出した。
「グルル…」
ヒドラはダイたちを睨みつけながら唸り、ゆっくりと近づいてきていた。
「き、来たっ…!」
アルキードの人々はヒドラの接近に顔色を失い、不安そうにダイたちを見つめた。
「行こう!ヒドラを倒そう!」
「よっしゃ!やるぞ!」
「おう!」
ダイ、ポップ、クロコダインは力強く掛け声を上げ、ヒドラに向かって駆け出した。ヒュンケルも続こうとしたが、その肩にラーハルトが手を置き、止めた。
「ヒュンケル!少し待て!」
「ああ…」
ヒュンケルはその場に残り、ラーハルトはアルキードの兵士や武器を持つ民間人を見やってから人々に近づいた。人々は魔族の見た目をしたラーハルトが近づいてくるのに身構えたが、魔族だからという理由で非難する者はもういなかった。ラーハルトは立ち止まると、槍を地面に突き立て声を上げた。
「アルキードの人々よ!兵士よ!聞け!俺はテラン王国兵士ラーハルト!そちらにおられるレグルス国王陛下の直属の部下である!」
ラーハルトは一瞬レグルスに視線をやったが、すぐにアルキードの人々に向き直った。
「よいか!これが最後の戦いになる!この中で我らと共に敵と戦いたいという者はいるか!いれば、俺たちと来い!!!」
「!……だが、ヒドラ相手では…」
アルキード兵士は目を見開き、仲間と視線を交わした。ドラゴンよりも格上のヒドラを相手にするのは命を落とす危険が高く、迷いがあった。
「無理に来いとは言わん!…だが、家族を、友人を殺され、国を蹂躙した敵を倒すチャンスは…これが最後となる!」
「!!!」
「後悔のない選択をしろ!!!」
兵士や人々の顔つきは次第に変わり、目は怒りに満ちていった。そして数人の兵士や民間人が武器を持って立ち上がり、ラーハルトに近づいた。
「俺たちも戦わせてくれ!!!」
「国を守るって時に他国の人間だけに任せてられるかよ!なあ!みんな!!!」
「おう!!!」
アルキード兵士や武器を持った民間人は戦う決意を固め、剣を掲げてラーハルトの周りに集まった。
「ならば行くぞ!敵の攻撃を防ぐ手伝いぐらいはしてやる!」
ラーハルトが先頭に立って先導しようとしたその時、眉をひそめたヒュンケルが近づき、ラーハルトの肩に手を置いた。
「待て、ラーハルト。奴らも連れて行くのか?足手纏いしかならんと思うがな…」
「…ここでアルキードの連中が敵と戦わなければ、仇を打てなかったという後悔が残る!…それに」
ラーハルトはヒュンケルだけに聞こえるように小声で耳打ちした。
「協力しあった方が今後のテランとアルキード、国家間の友好も深まる。と、レグルス様はお考えだ。ソアラ様のこともあるからな、今のうちに恩を売っておきたいのだろう」
「だが、ヒドラ相手では死人が出るぞ?お前1人で奴らを守れるのか?」
「何を言っている!お前も俺と一緒に護衛だ!」
ヒュンケルは面倒ごとを押し付けられたと察し、ため息をついた。
「…俺にもやれと…だから俺に待つよう言ったのか…護衛は苦手なのだがな…」
「つべこべ言わずやるぞ!今度、酒を奢ってやる!」
「…お前が飲みたいだけだろ」
ヒュンケルは呆れながらも答え、ラーハルトはニヤリと笑うと、ヒドラに向かって駆け出した。
「行くぞ!」
「おおっ!!!」
ラーハルトの後に続き、アルキードの兵士や民間人も駆け出した。少し呆れつつもヒュンケルも後を追いかけて駆け出した。その場に残った非戦闘員のアルキードの民は、ヒドラと戦う者たちを心配そうに見守り、レグルスは散らばった人々に声をかけた。
「全員、ソアラの周囲に集まり一箇所に固まれ。護衛対象が散らばっていては守り切ることはできん」
レグルスがそう言うと、人々はソアラ、レオナ、アルキード国王の周囲に集まり、一箇所に固まった。ヒドラとの戦闘に参加しなかったアルキード兵士はその外側に立ち、武器を構えて警戒し、レグルスはさらに外側で周囲を見渡して警戒した。
「アルキードの王様!」
突然呼びかけられたアルキード国王は、近くにいたレオナに視線を向けた。レオナはにこやかに笑い、新しく就任したばかりのアルキード国王に手を差し出した。
「久しぶりね!レオナよ!今後は何かと協力し合うこともあるでしょうから、よろしくね!」
「あ、ああ…よろしく…?」
アルキード国王は気さくに話しかけられたことに戸惑いながらも、レオナの手を握り返して握手した。しかしレオナの顔にどこか見覚えがあり、首を傾げた。
「…レオナ?…失礼、どこかで会ったことがあるか?」
「ええ!以前会った時は国賓で呼ばれて、城で会ったわね!覚えてないかしら?」
「国賓…!」
国賓として呼ばれるのは多くが他国の王族であり、その中でレオナという名の人物は一人しかいなかった。アルキード国王はハッと目を見開いた。
「まさか…貴女はパプニカ王国のレオナ姫では!?」
「そうよ!今は姫ではなくなったけどね…亡き父に代わり、私が王位を継いだ…今の私はパプニカ女王レオナよ!ちなみに、レグ君と私は友達ね!」
アルキード国王は目を白黒させ、パプニカ女王レオナとテラン国王レグルスに視線を向け、他国の王族が二人もここにいることに驚愕した。その様子を見ていたアルキードの民も小声でざわめいた。
「なあ…ここにはアルキード国王、テラン国王、パプニカ女王、ソアラ姫がいるってことだよな?」
「…ああ」
「なんで世界にある8大王国のうち、3つの国の王様がここにいるんだ…?」
「…さあな…ここには魔族も獣人族もいるし…そんなもんじゃねぇの…?」
「そうか…そんなものか……」
アルキードの民は深く考えるのをやめた。
ダイは立ち止まり、ヒドラを睨みつけながら額に意識を集中した。
「一気に決めてやる!はあああっ!」
額に竜の紋章を浮かび上がらせたダイは呪文を唱えた。
「トベルーラ!」
ダイは宙に舞い上がり、ヒドラの周囲を高速で飛び回った。
「グォオオオッ!!!」
ヒドラは周囲を飛び回るダイを仕留めようと、五つの頭から火を吐き、噛みつこうと連続攻撃を仕掛けた。だが、ダイの飛行スピードは速く、さらに竜闘気に護られていたため、ヒドラの攻撃は一切通じなかった。ダイは上空から一気に降下しながら魔法を唱えた。
「ライデイン!!!」
上空の雷雲から雷が落ち、ダイの剣に吸い込まれた。ダイは加速してヒドラへと迫ると、竜闘気を纏い威力を増した必殺技を放った。
「ストラッシュ!!!」
雷を纏った斬撃がヒドラの体を大きく切り裂いた。体内に電流を流し込まれたヒドラは痙攣しながらもがいていたが、やがて五つの大きな頭は力尽きて地面に崩れ落ち、胴体も横倒しになり、動かなくなった。元々ギガデイン二発分のダメージを負っていたため、ダイの一撃はヒドラにとって致命傷だった。
「よし!ヒドラは、あと三匹!」
ダイは額から紋章を消すと地面に降り立ち、周囲を見渡した。
ポップは空中でヒドラの連続攻撃を避けながら、右手に魔力を溜め始めた。
「まずはヒドラの頭を一つずつ、やっつけるとするか!」
「グオオ…」
ヒドラの頭の一つが火を吐こうと口に炎を溜め始めたのを見て、ポップは加速し、その口めがけて飛んだ。
「よしっ!今だ!イオ―」
「グオオオッ!!!」
だが、別の頭の攻撃を受けそうになり、ポップは慌てて上昇して少し離れた位置から魔法を放った。
「うわわっと!こんにゃろ!イオラ!!!」
イオラの光球はヒドラの口に向かって放たれたが、距離があったためヒドラは顔を動かしてかわし、光球は硬い皮膚に当たった。
「あちゃー、失敗か…」
「グルルルッ!」
「やっぱ、近づかねぇと口の中に攻撃は無理だよな…こうなったら!先に動きを止めてやらぁっ!!!」
ポップは頭上に杖を構え呪文を唱え、発動準備が整うとニヤリと笑い、杖を振り下ろした。
「こいつをくらえっ!ベタン!!!」
杖から放たれた魔法はヒドラの上に超重力場を発生させ、ヒドラを地面に押しつけた。しばらくして重力場が消えると、ヒドラは動かなくなった。ポップは再び魔力を溜め、動き出すのを警戒して睨みつけた。
「ベタンじゃドラゴンは倒しきれねぇ…ヒドラなら尚更だ!起き上がったらすぐベギラマを叩き込む!……………なかなか起き上がらねぇな………ん?」
しかし待てどもヒドラは動かず、ポップは理由が分からず首を傾げ、恐る恐る高度を落とし、足先でヒドラの皮膚をツンツンと突いてみた。
「あれ…?こいつ、死んでやがる…マジか!俺ってやっぱすげー!ヒドラを倒しちまった!!!」
ギガデインで体力を奪われたところにポップのベタンが加わり、ヒドラは絶命していた。ポップは空中でガッツポーズを決め、喜びの声を上げた。
「グオオオッ!!!」
突進してきたヒドラの頭の一つを、クロコダインは斧で受け止め、渾身の力で振り払って軌道を逸らした。
「ムンッ!!!」
「ギャッ!」
斧で軌道を逸らされたヒドラの頭は地面に突っ込み、残る四つの頭は唸りながらクロコダインを睨みつけた。だが、いつもより覇気はなく、かなりのダメージを受けているのがクロコダインから見ても察せられた。
「どうやら先ほどの雷で体力を削られたようだな!」
「グルル…」
「ならば!この一撃で終わらせてやろう!むん…かああああっ!!!」
クロコダインの腕は闘気によって大きく膨れ上がった。ヒドラはそれに気づくと、命の危機を感じ五つの首を一斉に伸ばして攻撃を仕掛けた。
「グォオオオ!!!」
「遅い!獣王会心撃!!!」
首が届くより早く、クロコダインはヒドラに向かって腕を突き出し、大技を放った。
「グオォオオォ…ッ!」
巨大な闘気の渦はヒドラの体を切り裂き、大きく皮膚を抉った。ヒドラは断末魔の叫びを上げ、目を見開きながら驚愕の表情を浮かべ、地面に倒れて動かなくなった。
「よし!残るヒドラは1匹か!」
クロコダインは離れた場所で戦うラーハルト、ヒュンケル、アルキードの人々に視線を向けた。
アルキードの人々は剣を掲げ、叫び声を上げながらヒドラに突撃した。
「うおおおぉおっ!!!」
ヒドラは迫ってくる人々を睨みつけ、首を横に大きく振り攻撃した。
「うわあああっ!」
五人ほどの人々が攻撃を避けきれず吹き飛ばされ、地面に転がった。さらに倒れた人々に向かって、別のヒドラの頭から炎が噴き出された。倒れ込んだ人々は目の前に迫った炎に恐怖し、腕で顔を覆った。
「ひっ!!!」
「海鳴閃!!!」
ラーハルトは技で炎を切り裂き、ヒドラと倒れた人々の間に飛び込むと後ろを振り向き、声を上げた。
「戦える者は立て!戦えない者はレグルス様の元まで退避しろ!!!」
「は、はい!」
二人ほどの怪我した民間人がふらつきながら後退し、残りの者は再び立ち上がってヒドラへ突撃した。
「うおおぉお!!!」
「…フン!」
ヒドラは鼻で笑い、無謀に突っ込んでくる人々を叩き潰そうとしたが、その直前にラーハルトが見えない速さでヒドラの首へ迫り、連続で槍を振るった。
「ギャアアッ!!!」
ヒドラの首は一瞬のうちに数十箇所も切り裂かれ、硬い皮膚から蒼い血を流し、人間への攻撃を中断した。そこへアルキードの人々が剣を構えて追いつき、ヒドラに斬りかかった。
「おおぉおっ!!!家族の敵!!!」
「よくも!よくもっ!俺たちの街を!国を破壊したなっ!!!」
「グルルルッ!」
ヒドラは弱々しい斬撃に苛立ちを募らせつつも、少し離れた場所で様子を窺うラーハルトの姿を見つけ、警戒の視線を向けた。
ヒドラを挟んだ反対側でも人々が剣を振るって攻撃していたが、鋼鉄のような皮膚は硬く、剣は弾かれてほとんどダメージを与えられなかった。
「くそっ!なんて硬い鱗なんだっ…!」
「グオッ!!!」
「っつ…!」
ヒドラの首が素早く伸び、兵士に噛みつこうとした。兵士は目の前に迫る巨大な口に恐怖で目を見開いた。
「大地斬!!!」
「ギャアッ!!!」
側面から駆け込んだヒュンケルが鋭く首を切り裂き、噛みつきの軌道を逸らした。ヒドラの首は兵士の目前で横にそれ、大きく切り裂かれた首元から蒼い血が地面に滴り落ちた。
「グルルルッ!!!」
ヒドラは攻撃してきたヒュンケルを睨みつけ、ヒュンケルは剣を構えて警戒しながらも、呆然としている兵士に声をかけた。
「無事か?」
「あ、ああ…おかげさまで…」
「ならば、攻撃を続けろ。ヒドラはかなりのダメージを受けている…このまま行けば我らの勝ちだ」
「ああ!」
兵士は決意を取り戻し、剣を握り直してヒドラに向かっていった。
ヒドラの周囲をアルキードの人々が囲み、何度も攻撃を仕掛けた。ヒドラの五つの首は人々に襲いかかろうとしたが、そのたびにラーハルトとヒュンケルが技を放ち、攻撃を防いだ。人々の中にはダメージを受けて戦線を離れる者も出たが、死人は出ず、少しずつヒドラの傷は増えていった。
そして――
「グオオォオォォ…!」
最後のヒドラが断末魔の叫びを上げ、ついに地面に崩れ落ちた。
「はぁ!はぁ!やった…」
アルキード兵士と民間人は息を切らしながら絶命したヒドラを見つめ、しばし呆然としていたが、やがて勝利を実感した兵士の一人が剣を掲げた。
「俺たちは勝ったんだ…!俺たちは、ヒドラを倒したぞーっ!!!」
アルキード兵士と民間人は勝鬨を上げ、次々に剣を掲げた。
「やったぞ!!!ざまあみろ!魔王軍め!!!」
「やった!……俺は…お前たち皆の敵を、とったぞ!…うっ…っ…」
喜びの声を上げる者もいれば、失った家族や友人を想い、涙を流す者もいた。ソアラやレオナの側で戦いを見守っていたアルキードの人々も歓声を上げ、何人かは戦闘に参加した者たちの元へ駆け寄り、抱きしめ、勝利を分かち合った。
レグルスは周囲の敵の気配がないことを確認すると、警戒を解き、ソアラのもとへ歩み寄った。
「ソアラ、周囲の敵は全て倒した」
「あなた…ありがとう。この国が救われたのはあなたと…」
ソアラは夫バランを思わせる子供の姿に静かに微笑み、やがて視線をダイたちへ向けた。
ダイ、ポップ、クロコダインの元へレオナは駆け寄り、笑顔で勝利を分かち合い、ヒュンケルは兜を外しながら不満げにラーハルトへ文句を言い、ラーハルトはニヤリと笑ってその背を豪快に叩いていた。
「あの子たちのおかげよ」
「ああ」
ソアラは穏やかに感謝の言葉を口にし、レグルスは小さく頷くと国の惨状を見渡した。街の一部は未だ燃え、崩れ落ちた建物が並び、ボロボロになったアルキード王国が広がっていた。
「戦いは終わった…だが、全てが終わったわけではない。我らにはやることが残っている!」
「ええ!きっと、どこかに民が…生存者がいるはずだわ!みんなを救わないと…!」
ソアラとレグルスは互いに頷き合い、ソアラはアルキード国王の元へ向かい、レグルスはダイたちを呼んで生存者捜索の話を伝えた。
本当はオリキャラをあまり書きたくなかったんだけどね…。どうしてもアルキードの王族の生き残りがソアラさん以外に必要だったので用意しました。せっかくなのでダイ君に親戚を作ってあげた感じです!
報告:誤字脱字修正しました!報告ありがとうございます。