原作開始3年前。ダイ(9)、主人公レグルス(7)。
賞金稼ぎによるテラン襲撃事件の次の日、フォルケン王はパプニカを除いた各国の王宛にある書状を書いて送り、隣国ベンガーナの市街でもある噂を広めてもらった。
その内容は「パプニカの重臣テムジンの部下を名乗る者によるテラン王国第一王子殺人未遂事件が発生。その場にいた半魔族の青年の活躍により事なきを得た」というものだった。
さらにパプニカとの船のやり取りがあるベンガーナの港でテラン王国の紋章を掲げた兵士と荷馬車に乗せられたいかにもガラの悪そうな男がロープで縛られて連行されるのをベンガーナ国民の多くは目撃し、噂は信憑性をもって瞬く間に広がった。
この噂に慌てたのはベンガーナに在中していたパプニカの外交官である。急いで本国パプニカにこの噂が伝えられると王家や重臣たちがいるパプニカ王国の玉座の間では大きな混乱が生じ、場は困窮した。
「テムジン様の部下がテランの王子を殺害しようとしただと!?」
「テムジン様を呼び出すのだ!これより緊急会議を開く!」
パプニカ王が御座す玉座の間では緊急会議が開かれ、まずは事実確認のためのテランへの調査を行おうとした矢先、テラン王家の紋章が入った書状がパプニカ王に届けられた。
パプニカ王に渡った手紙の内容は、テムジンの部下を名乗る無法者がテラン国民に暴力を振るった挙句けがを負わせたこと、止めに入った王子レグルスを殺害しようとしたこと、半魔族の青年により王子の命は助けられたこと、テムジンの部下を名乗る者は王家の許可を得て無法を働いたといった経緯、その真相を確かめるためテムジンまたは代わりの使者をテラン王国に出向くようにといった内容であった。
手紙の内容にパプニカ王は内心頭を抱えながら重臣テムジンに発言をするよう王族や家臣たちの前に呼び出した。
「テムジンよ、此度の件について説明せよ」
「お、王よ!わしも存じない話であります!わしは決してテラン王子の殺害など指示しておりません!無実でございます!」
テムジンは冷や汗を大量にかきながら今回の王子殺人未遂事件に全くもって身に覚えがないことを必死になって王や重臣たちに説明した。話を聞いていた周囲の重臣たちの中にはテムジンの悪い噂を知っている者もいたため、必死になって弁解するテムジンに対し冷たい目線を向けている者もいた。どちらにしてもテランに行き事の真相を確かめるしかないため、使者を送ることになったが、テムジンが出向くのはその場で殺害される危険が伴うため、テムジンの部下バロンがテラン王国へ使者として出向くこととなった。
テランについたバロンは数人の部下と共にテラン城に入ると、玉座の間に案内された。玉座の間の奥、階段を上った先にテラン王国国王であるフォルケン王が玉座に座り、入室したバロンとその部下たちを観察していた。王の隣には7歳ぐらいと思われる男の子が立っており、バロンはその子供が此度の王子殺人未遂事件の当事者だろうと考えた。
バロンは玉座の前の階段下まで進み、立ち止まるとその場で膝をついた。
「王よ、パプニカ王国、バロンが到着いたしました。お目通りをしたいとのことです」
テラン兵士と思われる青年が王子とは反対側の位置で王に発言し、フォルケン王は小さくうなずくと口を開いた。
「よくぞ来られた、パプニカ王国のバロン殿よ。私はテラン国王フォルケンである」
「歓迎に感謝いたします、フォルケン王よ」
「そなたらを呼び出したのはほかでもない、こちらにいるわが国の王子がこのテラン国内で賊に襲われ、危うく殺されかけるところであった。王子だけではなくこの国の兵士も我が国の民もその賊に襲われ怪我を負わされておる。その賊はパプニカ王国のテムジンの部下を名乗っておった。なぜパプニカの者が我が国で無法を働いたかバロン殿、答えてもらおう」
「一つ進言するとすれば、われらパプニカ王国は誰一人としてテラン国内で無法を起こすように指示したものはおりません。その賊もパプニカの者か怪しく、テムジン様に罪を擦り付けようとした無法者の仕業かと思われます」
「ふむ、その賊がパプニカの者であることは明白である。これを見てもらおうか。賊のリーダーと名乗る男が持っていたものだ」
「!…これは」
テラン兵士から渡された2つの紙に目を通したバロンは顔色を悪くした。1つは魔族の指名手配書で責任者はテムジンと書かれており、もう一枚は国外での活動を許可する活動許可証で管理責任者の名前の欄にはバロンの名が記されていた。バロンは以前、テムジンが手柄欲しさに魔族をとらえるため、指名手配書と活動許可証を発行する際にテムジンの指示でその書類の作成を手伝い、書類にサインしたことも、部下に命じて荒くれ者に渡すように指示したことも覚えていた。
「隣国のベンガーナでは賊が女性に暴力を振るっており逮捕状も出ておる。ベンガーナの兵士に賊について確認したところ、パプニカ王国テムジン様の部下だとその場にいた者に言っておったそうだ。事実確認したければこの話し合いが終わった後、ベンガーナに行き確認するとよい」
バロンは自分の足元が徐々に崩れていく感覚にめまいを感じ目元を手で抑えた。テムジンだけが罪になると思いきや自分にも火の粉が降りかかっていることを理解したバロンは表情を食いしばりながらなんとか打開策を見つけようと内心焦りながら思考を巡らせた。
「(くそ!馬鹿どもが!これだから思慮の足りない愚か者は嫌いなのだ!駒にすらならない屑どもめ!)
こ、この度は我が民が貴国に対してとんだご無礼を!その賊どもに事実確認とパプニカ国内で一度話し合いをさせていただきたく存じます」
「よかろう、確認は大事であろうからな。ただし、2週間後、このテランで今回の王子殺害未遂事件の裁判を行う。その場にテムジン殿、およびバロン殿に出頭を命じる。出頭に応じない場合は裁判後、お2人を国際指名手配犯とさせていただくためそのつもりでいるように」
王族の殺人未遂は死刑もしくは終身刑が基本であるが、テランは犯罪者を税金で食べさせる余裕がないため今回の判決は死刑一択となり、判決が下った次の日に刑が実行される。裁判に出頭というのは次の日に死ぬという意味もあった。さらに出頭に応じない場合は国際指名手配犯になるが、当然パプニカ国内での地位喪失、今度はテムジンたちが賞金稼ぎに狙われることになりどちらにしても地獄のような未来が待ち受けていた。
(何かないか!この事態を打開する策が!考えろ!)
バロンは短時間のうちに自分の運命が死に近づいていく恐怖を感じながらいくつか策を思いついていた。その一つがこの場にいる全員を皆殺しにするという方法であったが部下が2人しかいないこと、失敗すればその場で処刑、生き残ったとしても指名手配を受ける運命が待ち受けていた。
「もうよいか?話がなければこれで終わりにー」
「っ!お、お待ちー」
「父上、この者に聞きたいことがあります。発言の許可をください」
話しを終わらせようとしたフォルケン王の言葉にかぶせるように王の隣にいた王子が言葉を発した。
「よい、許す」
王子はラーハルトの手配書をバロンに見せるように持ちながら尋ねた。
「バロン殿に聞きたいのだが、この魔族の手配書を無効にすることは可能か?」
「ふむ、確かその魔族は王子の命の恩人であったな?」
「はい、父上。この者が賊に殺されそうになったところ助けてくれたのです。この者に褒美を与えようとしたところ、この手配書を無効にしてほしいとのことでした。」
「バロン殿、どうであろう?可能か?」
バロンは手配書を見ながらこの現状を打開する千載一遇のチャンスが巡ってきたことに内心飛びつきながらも表情は冷静さを保ちながら発言をした。
「はい、可能でございます!ただし、一度出回った手配書を回収するのは時間がかかりますゆえ時間をいただきたく存じます」
「父上、お願いがございます。この手配書を無効にする代わりに今回の裁判は見送りにできないでしょうか?」
「うむ、そうだの。王子がこの者を許すというのであれば、この手配書を無効にする条件に裁判は見送りにしてもよい」
その言葉にバロンは声には出さなかったが内心喜び、帰国後、手配書を無効にするための手順を頭の中で組み立てていたところ、「ただし、」という言葉に発言した王を見上げた。
「王子に無礼を働いた賊どもは別である。そのものはパプニカ国内で処罰せよ」
「はっ、必ずやかの愚か者らにふさわしい罰を与えます」
「手配書を無効にするには理由が必要であろう?この魔族がどこへ行こうとも捕まることがない状況に情報を操作するのであれば、今回の一件はテムジンを陥れようとした賊の仕業、ということしてもよい。ただし、期限は本日より2週間までとする。その期日を過ぎて行動を起こさない場合はすぐさま裁判が実施されることを忘れるでない」
「パプニカに戻り次第、すぐさま実行に移させていただきます」
「うむ、結果を待っておる」
「ラーハルト、もう出てきてよいぞ」
レグルスはバロンらが退出したのを見届けた後、玉座の間の柱の後ろに隠れているラーハルトに向かって声をかけた。柱の陰から出てきたラーハルトは以前見かけた影のある表情ではなくなり、無表情ながらも落ち着いた雰囲気をしていた。
「これでうまくいけばお前は真に自由の身となる」
「レグルス様は俺の命を救っていただいたばかりか、この世界に居場所を与えて、俺の苦しみも救って下さりました。あなた様は俺の命の恩人です」
「すぐには難しいが、いずれはテラン国以外の国にも行けるようになるだろう。いつか、私も外遊する時がくる。その時は一緒に諸外国を回るのも良いかもしれないな」
「!俺をお供として下さるのですか!」
「ラーハルトは強いから傍にいてくれると心強い」
「レグルス様、お願いがございます」
ラーハルトがレグルスの前に移動すると真剣な表情でレグルスを見つめた後、その場で膝をつき首を垂れた。
「俺に、あなた様の傍にいる許可をいただきたい」
ラーハルトは落ちついた、しかし力強い声で発言したため、レグルスは少し驚きながらラーハルトとのこれまでの日々を思い返していた。ほぼ毎日稽古で手合わせし、槍の実力も申し分なく、性格も素直でまじめなところを気に入っていたため、ラーハルトが自分の部下になってくれたらどれだけ良いだろうとレグルスは思い、これからも傍にいてくれるならこれほどの喜びはないと考えていた。
「それは、私の部下になるということか?」
「はい!このラーハルトはあなた様に絶対の忠誠を誓います!降りかかるすべての脅威からあなた様をお守りいたします。あなた様に闘えと言われればたとえ魔王でも神々でも立ちはだかる敵を倒す剣となりましょう!あなた様に永遠の忠誠を捧げる許可をいただきたく存じます!」
ラーハルトが力強くもどこか不安そうな表情でこちらの様子を伺っていたため、レグルスは安心させるように微笑んだ。
「お前の忠誠を私はうれしく思う。その忠誠に私も応えよう。ラーハルト、私の部下になり私を支えてくれ。これからよろしく頼む」
「!!はいっ!」
レグルスはラーハルトに笑いかけた後、後ろを振り向き玉座に座りこちらの様子を見ていた王に小さく頷いた。王も微笑みながら答えるようにレグルスに頷くとラーハルトのほうを見ながら口を開いた。
「今すぐには出来ないが、ラーハルトの手配書が無効になり、ほとぼりが冷めた後、このテラン王国の兵士として正式に迎え入れよう。そして、ラーハルトにはレグルス王子の護衛をお願いしたい。私もレグルスもそなたの実力、まじめに取り組む姿勢、そして忠誠心を評価しておる。ラーハルトならレグルスを守ってくれるだろう。…しばらくはテラン国民以外に見つからないよう森の中で過ごしてもらいたい。少し窮屈な思いをさせるが、分かってもらいたい」
「はっ!ご配慮いただきありがとうございます!」
「ラーハルトの住む家だが、今使っている小屋をそのまま使ってくれないだろうか。少し遠くて不便だが、家財道具もそろっているうえ、住み慣れた家のほうがよいだろう。あの家も誰かに住んでもらったほうが長持ちするだろうからな」
「はい、俺も静かなあの家が気に入っているので、大切に住まわせていただきます!」
「では、これにて解散とする。何か報告があればカナルに知らせよう」
「はっ、本日は俺のためにありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」
「メルル殿とナバラ殿も事の次第を気にしていた。報告しに行こう、ラーハルト!」
「はい!ご一緒させていただきます!」
レグルスとラーハルトが退出したのを見届けたフォルケン王は笑みを浮かべながら将来互いに助け合う良き主従関係になるだろうと明るい未来を見た。
「あの二人ならどんな困難も乗り越えてゆけるだろう。レグルス様がいつか使命に目覚め、この地を離れたとしてもラーハルトなら支えてくれるだろう」
フォルケン王は側で控えている兵士カナルに話しかけると、カナルも嬉しそうな表情をしながら王に返答した。
「はい!ラーハルトならレグルス様を支えてくださると私も確信しております!恥ずかしながら私では力不足でレグルス様のお役に立てません。ですが、ラーハルトは常に高みを目指して日々努力をしており、いずれは騎士様の片腕に足る実力を身につけるかと存じます」
「これから、2人がどのように成長していくか楽しみであるな」
テラン城から離れた森の中、そこには先ほどテラン国王とやり取りをしたパプニカの賢者バロンと部下2人がいた。バロンは玉座の間にいた時の好青年の表情とはかけ離れたしかめっ面をして先ほどのフォルケン王とのやり取りを苦々しく思い出していた。
「くそが!寂れた田舎者国家ごときが俺に恥をかかせおって!」
「バロン様いかがいたしますか?」
「ちっ!貴様らはベンガーナに行って馬鹿どもを本国に連れて帰れ!俺は一足先にルーラで戻る!」
「かしこまりました」
(テラン王国め!フォルケン王め!いずれ俺がパプニカを支配した暁には真っ先につぶしてくれる!)
ルーラでその場から飛び立ちながら心の中ではフォルケン王とへまをやらかした賊どもに対して罵詈雑言を並べ立て、賊に関してはどのように始末してくれるかと考え続けていた。
後日、パプニカにて20名ほどの賊の処刑が執り行われた。賊の処刑理由は無実の魔族に対する罪の捏造とテラン王国の第一王子の殺害未遂の罪、ベンガーナ王国での暴行罪、そしてその罪をテムジンに着せようとした罪である。魔族を賞金首にして荒稼ぎをしようと罪を偽装し魔族に罪をかぶせていたことが発覚したため、この罪を基に作成された魔族の指名手配書は無効となり、魔族に対して許されていた殺害や攻撃は禁止、パプニカ国内ならず諸外国に出回った指名手配書の破棄が命じられた。
賊の処刑が行われてから10日後、テラン王家から各国に通達があった。王子殺人未遂の罪人は捕まった後、パプニカ王国のテムジンの指示だと発言していたが、殺人未遂の罪から逃れるために関係のないテムジンに罪をかぶせようとしていたことが発覚。そのため、今回の王子殺人未遂事件はパプニカ王国のテムジンとは無関係であり、罪人の処刑が執り行われたことによりこれ以降、今回の事件の調査は終了するとの記述であった。
テラン王国の森深くには小さな小屋がある。その小屋の周囲は草が綺麗に整えられ、屋根の上は定期的に掃除しており葉っぱや枝は数えるほどしかなく、屋根から突き出ている煙突からは煙が立ち昇っていた。小屋の中ではメルルが食事の準備をし、机にはレグルス、ラーハルト、ナバラがお互いに見える状態で座り、今回の一連の事件の詳細をレグルスから聞いていた。
「では、ラーハルトは自由の身とゆうことじゃな。一時はどうなるかと思ったわい」
「ああ、これに関してはレグルス様とフォルケン王には頭が下がる思いだ」
「明後日、ラーハルトの兵士就任式が執り行われる。よかったら見に来てくれないか」
「それをレグルス様がおっしゃるのですか?メルル、ナバラ、恥ずかしいから無理に来なくていいからな」
「そんなこと言わないでください、せっかくの晴れ舞台じゃないですか?それに、この国は小さいですから式典やお祭りはテランの人々全員が参加するのですよ?」
「そうなのか…」
「娯楽が少ない国だからな。祭事には出店もでて、自然と人々が集まる。ラーハルトいい機会ではないか。この際、お前が私の護衛となったことも報告しようではないか」
「しょ、承知しました」
うつむき加減で顔に手を添えているラーハルトは肌の色もあり分からなかったが、人間と同じ色の肌なら赤くなっていただろうなと思われた。それに、ラーハルトには伝えないが、明後日の式典後、諸外国に対して半魔族のラーハルトが王子付きの兵士になったことを知らせるつもりであった。今後、国外を回る際に知名度を事前に上げておけば要らぬ争いを避けられ、魔族に対して差別は残るが、テラン王国王子付きの兵士という肩書があれば表立って差別する人間は居なくなり、ラーハルトを守ることにもつながる。1ヵ月後には今回の暗殺未遂事件のこともあり、ラーハルトは魔王ハドラーに次ぐ世界で有名な魔族となることは間違いがなかった。ラーハルトには伝えないが。
(伝えたら人間なら顔が真っ赤だろうな。…少し、どのような顔色になるか気になるが…さすがに伝えるのはかわいそうか)
「お食事ができましたよ。みんなでいただきましょう」
メルルが料理の乗った皿を机に並べ、メルルが席に着くとみんなで食事をとり始めた。レグルスは美味しいスープの味に少し笑みを浮かべるとメルルを見た。
「メルル殿、いつも食事を作ってくれて感謝する。今日のスープもとても良い味だ」
「レグルス様たちが獲ってきてくれたお肉のおかげですよ?これがあるのとないのとでは味が違いますから」
メルルが作った食事をみんなで囲んで食べながら他愛のない会話をする。そんな穏やかなお昼の時間が流れている中でラーハルトの表情は少し硬く、言葉も少なくなっていた。いつもならスープを口に含んだら嬉しそうに微笑むのが今日はなく、黙々と食事をとっていたため、何か考え事をしているなと気づいたレグルスは皆が食事を済ませた後、ラーハルトに声をかけた。
「どうしたのだラーハルト?何か悩みでもあるのか?」
「…俺の、昔話を聞いていただいてもよろしいでしょうか?なぜ、俺が人間を憎むようになったのか、俺がどのように子供時代を過ごしてきたかを」
「…ああ」
ラーハルトは少し迷った素振りをした後、息をゆっくり吐くと、いつもより小さな声で静かに話し始めた。
「俺はご存じの通り人間と魔族の混血児です。魔族の父は早く死に、おれは人間の母親に育てられました。俺が子供のころ魔王ハドラーと人間たちとの戦いが起こった。すると人間たちは俺が魔族の血を引いているというだけの理由で俺ばかりか母までも迫害しはじめた!…やがて母も流行り病で…。その後、故郷の村を捨てパプニカの山奥で人間たちから見つからないように暮らしていました。だが、ある日人間に見つかり、賞金稼ぎのやつらが俺を殺そうと家にまで来るようになった!俺には身に覚えのない罪状を並べ立てて!俺は住んでいた家を出るほかありませんでした…。人間に隠れながら場所を変え、移動していたある日、テランのことを聞きました。テランなら、魔王ハドラーの侵略を受けなかった国なら俺を受け入れてくれるんじゃないかと。テランを目指しベンガーナ行きの船に隠れて乗り、ベンガーナに一時的に隠れていたところを賞金稼ぎの奴らに見つかりました。なんとか敵を退けた後は隠れながらテランにたどり着き…あとは知っての通りです」
話し終わるとラーハルトは緊張の息を吐き、顔を上げみんなの表情を見た。メルルとナバラは声を出さずに泣いており、レグルスは泣いてはないが悲痛な表情を浮かべ震える手を固く握りしめていた。
(ああ…、話してよかった。俺の友人は俺の悲しみを自分のことのように思ってくれる)
ラーハルトは涙が頬を流れるのを感じながら静かに目を閉じ、子供のころの自分と母を思い出す。母は晩年、流行り病にかかっていたが、治療のための薬を売ってくれる人は誰一人としておらず、食べ物もまともに食べさせてあげられなかった。母は最期に俺に対して泣きながらずっと謝っていた。
「ごめんね、ラーハルト。一人にしてごめんね」
俺は泣きながら母の手を握って「俺を一人にしないで」と言い続けていた。やがて母は息を引き取り、それからはずっと一人だった。
だが、
(母さん、俺はもう一人じゃない。俺は孤独ではなくなった。母さんなら今の俺を見て喜んでくれるだろうか)
閉じた瞼の中で母が笑顔で笑いかける姿が見えた気がした。
テラン王国の王城にてレグルス王子を守った半魔族の青年ラーハルトの兵士就任式が執り行われた。王は王子を救った功績を称え、王子が見守る中、青年にテラン王家の紋章が入ったブローチと兵士の槍を与え、今後は王子の護衛任務に就くことも合わせてその場で発言した。王城の正門が開き、扉から出てきたラーハルトは胸に紋章のブローチ、右手に兵士の槍を持ちゆっくりと人々の前に歩き出し、多くの人々がラーハルトに祝福や王子を救ったことへの感謝の声をかけた。メルルとナバラは表情が硬く、緊張した様子のラーハルトに微笑ましい気持ちになりながらも多くの人々が半魔族のラーハルトを受け入れてくれたことに安心と喜びを感じた。
就任式後、テラン王家は各国に半魔族の青年が兵士として王家に仕え、今後は王子付きの護衛任務に就くことを知らせた。今回の一連の事件でお尋ね者の賞金首が一転、王家の護衛任務に就くようになった経緯は大逆転劇として街中や酒場で人々の間で大いに話題になり、魔王ハドラーにより魔族に対して忌避感を抱いていた人々の中には魔族にも良い者もいると認識を変えた人もいた。
テラン王国の湖の近くで国内ではよく見られるようになったこの国の王子レグルスと王子付きの兵士ラーハルトとの剣と槍による稽古が行われていた。打ち合いを続けていたところ、メルルが稽古をしている2人に近づいて声をかけた。
「お食事が出来ましたよ」
「分かった」
「すぐ行く」
稽古を中断した2人はメルルの後を歩きながら食事が用意されているであろうナバラとメルルの自宅にお邪魔する。そんな穏やかで優しい時間がテラン国内ならびに世界中に流れていた。魔王ハドラーが勇者によって倒され、訪れた平和な時間、人々は勇者に感謝しながら日々を穏やかに過ごしていた。
だが、そんな平和な時間の裏で大きな悪意ある計画が刻一刻と準備が進められていたが、地上にいる人々は誰もそれに気づくことはなかった。
ラーハルトの忠誠心はこれ以上あがらない!(カンストした)
ラーハルトの役職はテラン国民からテラン兵士になった!
原作のように忠誠心マックスなラーハルトが好きなのですが、この小説では原作とは違い、迫害されて家族を失ったわけでもないため同じ痛みを理解しあえるわけでもなく、子供のころ助けて親子のような関係を築いたわけでもないため、普通に助けただけでは忠誠心マックスにはならないだろうと考えた結果、今回の話が生まれました。
ちなみにバロンが受けたテラン王家の策略を現代風にするとこんな感じです。
全世界に向けて犯罪者疑いとして名指しされた上司のため、事実確認と弁解するためテランに行く。
バロン自身にも罪があることが判明し、以下の選択肢を王族により提示される。
1.2週間後の裁判に出頭を命じられた。その罪は死刑1択のみで次の日に刑が執行される。
2.出頭しなかった場合、仕事はくび。全世界に指名手配され、世界中から裏稼業の人間が金欲しさに首を狙いにやってくる。家族や友人は居場所を聞き出すために拷問され、殺される可能性あり。
3.へまをした部下20人にすべての罪と自身がした罪を被せ、死刑にする。バロンとしては口封じもかねて処刑してます。その後、事務仕事あり。
この中でバロンが選んだのが3、テラン王家とのやり取りはかなり寿命が縮んだ出来事だったでしょうね。
報告:誤字脱字修正しました!報告ありがとうございます。