アルキードにて生存者捜索の話を聞いた人々は、休む間もなく行動を開始した。ポップはまだ燃え続ける街を見渡し、火を消すために呪文を唱えた。
「まずは火を消すぜ!むむむ…ラナリオン!!!」
ポップが魔法を唱えると、上空の雨雲から雨が降り注ぎ、燃え盛るアルキードの街全体を覆った。建物に燃え移っていた炎は少しずつ鎮火していった。
「おお…雨が…」
「よしっ!これで火は消えるだろ!」
火の勢いが弱まった街を見渡したレオナは、怪我人が多数出ることを予想し、人手が必要と判断してポップに声をかけた。
「ポップ君!お願いがあるの!」
「なんだ?姫さん」
「私をパプニカに連れて行って!」
話を聞いたポップは、レオナと共にルーラで飛び立った。そして再びルーラで戻ってくると、パプニカ王国からの救援として、三賢者であるアポロ、マリン、エイミ、さらにバダック、数人の魔法使いと僧侶を連れて戻ってきた。ルーラの着地には失敗し、積み重なるように現れた。
「いたた…パプニカから助っ人を呼んだわ!捜索と怪我人の治療は任せて!」
「レオナさん、ありがとう!」
「いいのよ!困った時はお互い様よ!」
ソアラは救援を連れてきてくれたレオナを助け起こしながら、笑顔でお礼を述べた。レグルスはダイとメルルに視線を向け、捜索の指示を出した。
「私とダイ、メルルは生存者の気配を探し、皆に居場所を伝える!」
「分かった!」
「はい!」
気配を探れるレグルス、ダイ、メルルは生存者の発見を最優先とした。ポップ、ラーハルト、ヒュンケル、クロコダイン、アルキード兵士や民間人は、自分たちの役割を理解し、真剣な表情を見せた。
「我々はレグルス様たちから居場所を教えていただき、生存者の捜索を行います!」
「任せろ」
「力仕事なら俺たちの出番だ!」
「魔法使いの俺はそこのところ役に立たねぇから、怪我人の所まで回復魔法が使える奴を連れて行くぜ!」
ソアラ、レオナ、賢者や僧侶たちも話を聞き、自身の役割を理解すると真剣な表情で頷いた。
「怪我人がいましたら私たちが治療を行います!」
「重症者がいたら私に知らせて!ベホマで治療するわ!」
一通り捜索方法を共有し終えると、レグルスはアルキード国王に視線を向け、国王は頷き返すと、人々に聞こえるよう大声で号令をかけた。
「では、生存者の捜索を開始する!1人でも多くの人を助け出すぞ!!!」
「はっ!!!」
こうしてアルキード王国にて、生存者を探し出す大規模な捜索が行われた。レグルスとダイは空を飛び、メルルは地上を歩いて気配を探し、生存者を見つけると他の者に伝え、すぐに次の場所へ向かった。ラーハルトをはじめとした人々は居場所を聞くと瓦礫を退かし、埋もれていた人や地下にいた生存者を救い出した。救い出された人々の中には怪我人や火傷を負った者も多く、ソアラや賢者、僧侶が回復魔法で治療し、瀕死の重症者にはベホマを使えるレオナが対応した。また、捜索の途中で見つかったご遺体も地上へ運び出され、身元の判別と埋葬が同時に行われた。
アルキードから逃走したスカイドラゴンのルードは口の違和感を無視して北へ飛行し、大きめの湖を眼下に見つけると水面近くまで降下し、口の中の者を吐き出した。
「ぺっ!」
「うわあぁあ―…ゴボボボッ!!?」
ルードの口から吐き出されたガルダンディーは湖に落ち、溺れそうになりながら必死に腕と翼を動かし、岸に上がって地面に転がりながら口の中の水を吐き出した。
「おうえぇえ!…クッセェ…気持ち悪い…」
「グルグルッ!」
ルードが大丈夫かと心配するように鳴いたが、突然口に咥えられ水に落とされたことでガルダンディーの機嫌は最悪で、顔色の悪いままルードを睨みつけた。
「ルードッ…!てめぇ!いきなり何しやがる!!?なんで突然口に咥えやがった!!?てか、ここどこだ!!?」
周囲を見渡すと、湖の中央付近にドラゴンの石像があるのを見つけたが、見覚えのない風景にガルダンディーは場所の見当がつかず困惑した。ルードはここへ来た理由を必死に説明した。
「グルル!グル!グル!」
「は?…城の中でハドラー様とザボエラとキルバーンが、死んだ!!?」
同僚たちの死亡報告にガルダンディーは唖然とし、理由が分からず焦りながら怒鳴った。
「な、なんでだ!誰にやられた!?まさか…勇者ダイか!あのラーハルトとかいう魔族か!?」
「グル!」
「な!…冗談だろ…?あの、レグとかいうガキが…?けど!ハドラー様はあのガキより強かっただろ!!?」
レグルスの顔を思い出したガルダンディーは恐怖に震えつつも、納得がいかず疑問を口にした。ルードは変身した大人の姿のレグルスの額に浮かんだ竜の紋章を思い出し、その圧倒的な力を語りながら、城の中で起きた惨状を怯えきった声で説明した。
「グルル…」
「嘘だろ…ザボエラが言ってやがった竜の騎士は勇者だけじゃなかったのか!!?あの、レグとかいうガキも竜の騎士だったのかよ!!!」
「グル…」
「くっそ!どうする!!?勇者側には竜の騎士が2人もいて、ハドラー様、ザボエラが死んだとなれば…このまま、魔王軍に居ても―」
ガルダンディーが勝ち目はないのではないかと考えていたその時、離れた場所から聞き覚えのない声が聞こえてきた。
「えっ!?鳥人間に、スカイドラゴン!!?」
「…あ?」
「グル?」
声の方を振り向くと、人間の男が驚いた目でガルダンディーたちを見つめていた。ガルダンディーとルードは突如現れた人間を見てニヤリと笑った。
「おいおい!ここにも人間がいたのかよ!…まあいい!少し遊んでやるか!なあ!ルード!」
「グルル!!!」
ガルダンディーとルードはギロリと殺気を込めて男を睨みつけ、男は顔色を失って叫び声を上げながら逃げ出した。
「うわああぁあ!!!た、助けてくれ!!!」
「くはははっ!!!おら!早く逃げ―」
「レグルス様!!!ラーハルト!!!勇者様!!!ここに魔王軍がいる!!!助けてくれーーー!!!」
「………は?」
男が叫んだ名前を聞き、ガルダンディーとルードは凶悪な笑顔のまま固まり、血の気が引きながらその意味を考えた。
「ラーハルトはレグの側にいた魔族…勇者は竜の騎士ダイ…レグルスって、もしかして…レグと呼ばれていたガキの事なんじゃ…!!!」
「グルルッ!!!」
意味を理解した瞬間、ガルダンディーは顔色を真っ青にし、体を震わせ、嘴をカチカチと鳴らした。ルードも怯え、体を震わせた。
「助けてくれ!!!レグルス様―――!!!」
「うっぎゃああああぁあ!!!ま、ま、まずい!まずい!まずいっ!!!ここに居たら殺されるっ!!!」
ガルダンディーは慌てて反対方向に走り出し、翼を必死に動かして飛び立とうとしたが、羽が濡れてうまく羽ばたけなかった。
「く、くそっ!羽が濡れて…!早くここから逃げねぇと!!!」
「ガルッ!」
「あ…!」
ルードは口を大きく開け、ガルダンディーを咥えると、その場から一気に飛び去った。再び口に咥えられたガルダンディーは叫んだ。
「またかよ!!?くっそ!!!もう…魔王軍なんて辞めてやるーーー!!!」
テランの上空にガルダンディーの叫び声が響き渡った。そして、ガルダンディーたちがテランを離れてわずか10分後、湖のほとりにルーラでレグルスとラーハルトが到着し、武器を構えて周囲を見渡した。
「ナバラの話では湖に鳥人間とスカイドラゴンが現れたようだ!」
「鳥人間…!ガルダンディーとルードがここに来たということですか!くそっ!俺たちが不在の隙を狙って…!!!レグルス様!周囲に奴らの気配はありますか!?」
「…いや。近くに気配はない。どこか離れた場所に隠れているやもしれん!」
テランでガルダンディーとルードの目撃情報はすぐ城のフォンケンとナバラに伝わり、ナバラは水晶を操作し、アルキードにいるメルルの水晶へメッセージを送った。メルルは気づくと慌ててレグルスとラーハルトにテラン敵襲を伝え、2人はすぐさまルーラで駆けつけた。
「モシャス、トベルーラ!」
レグルスは魔法を唱えバランに変身し、さらにトベルーラを発動すると、空中に浮かび、眼下のラーハルトに指示を出した。
「私は上空から敵の気配を探す!ラーハルトは城で父上とナバラに報告し、皆を護衛せよ!!!」
「かしこまりました!皆の護衛はお任せ下さい!!!」
バランはテラン上空を高速で飛行し、領土内で敵の気配を探ったが見つからず、魔法を解いてレグルスの姿に戻った。そして城の王の寝室に戻ると、ラーハルト、フォルケン、ナバラ、カナルに敵がいないことを伝えた。
「敵はまたテランを襲ってくるかもしれん。ナバラ、先ほどと同様、襲撃があればすぐメルルに連絡を」
「分かったわい」
「レグルス、食料と水を用意した。持って行きなさい」
「父上、感謝する。ラーハルト、アルキードに戻るぞ!」
「はっ!」
訓練場に用意された大量の食料と水と共に、レグルスとラーハルトはルーラでアルキードへと飛び立った。
「…立派になったものだねぇ」
「ゴホ!ゴホ!…ふふっ、少し前まで小さな子供だったというのに…子供の成長は早いものだ…」
フォルケンたちは2人が飛び立った後の空を見上げ、しみじみとその成長を喜んだ。
アルキードにて生存者の捜索を始めてから1日が経過した頃、ベンガーナから調査隊が訪れた。ベンガーナの兵士たちはアルキードの惨状を見渡し顔色を悪くして驚愕していたが、やがて敵の死骸を見つけ、さらに衝撃を受けた。
「ドラゴンの群れがいたとの報告を受けていたが?……!!!…こ、これは!…ドラゴンの死骸!!!それも1匹や2匹ではなく何十匹!!?これを…全て倒したのかっ!!?」
「ば、馬鹿なっ!こっちには…ヒドラの死骸もあるぞ!!?」
「まさか…魔王軍を退けたのか!?」
「あの服装は…!どうやらベンガーナから来た兵士のようね」
レオナたちはベンガーナの兵士にアルキードでの出来事を伝えた。一部の兵士は驚愕の表情を浮かべつつ急ぎ国へ報告に戻り、残った兵士たちは行方不明者の捜索協力を申し出た。
生存者の捜索の合間には、城に残された王族や貴族の遺体の埋葬が行われた。アルキードの王族をはじめ、テランやパプニカの王族、そして勇者一行も立ち会い、ソアラはレグルスとダイに支えられながら、父王の埋葬を涙とともに見送った。城内には魔王軍の遺体も残されていたはずだが、すでに姿はなく、魔王軍によって回収されたのだと考えられた。
その後も休憩を挟みつつ仮眠や食事を取りながら、2日をかけて生存者の救出が続けられた。メルルは地図と睨み合いながら必死に気配を探り続けていたが、ふと息をついて顔を上げると、周囲の人々が期待と不安の入り混じった眼差しでじっと彼女を見つめていた。
「どうでしたか?生存者はいましたか?」
「…探しましたが…他に生存者は、おりませんでした…」
「…そう、ですか」
メルルの占い結果を聞いた人々は、疲れ切った顔で肩を落とし、家族を見つけられなかった者の中には、静かに涙をこぼす者もいた。
「すみません……少し、席を外します……」
メルルは悲しげに眉を寄せて立ち上がり、人目を避けるように歩き去った。人気のない場所に腰を下ろすと、力が抜けたように肩を落とした。その姿に気づいたポップがそっと近づき、彼女の肩に静かに手を置いた。
「メルル、お疲れさん!すげーよ!オメーのおかげで多くの人を助けられたんだ!」
「ポップさん…」
「だから…あんま、気を落とすなよ」
その後ろからラーハルトも姿を現し、同じようにメルルを励ました。
「メルル、ポップの言う通りだ。全てを助けることはできん…だが、俺たちが手の届く範囲の人間は助けられた。それが出来たのもメルルのおかげだ」
「そう…ですね…私1人では皆さんを救えませんでした。皆さんがいたからこそ、多くの人を助けることができました」
メルルの視線の先には、救助され治療を受ける人々や、それぞれ作業を続ける人々がいた。しかし、数日で見つけ出せた生存者は国の人口からすれば2割にも満たず、アルキード国民の多くは魔王軍の襲撃で命を落としたことがうかがえた。
一方、上空ではレグルスと竜の紋章を浮かび上がらせたダイが何度もアルキードの上を飛び、生存者を探していたが、ついに見つからず、空中で合流して報告を交わした。
「レグ、気配を探したけど、見つからなかった。そっちは?」
「こちらもいない。恐らく、生存者は全て見つけ出したのだろう…捜索は終わりだ。皆の元へ戻るぞ」
「うん」
2人は人々の近くに着地し、ダイは額の紋章を消してレオナのもとへ駆け寄り、レグルスはメルルに近づいて状況を確認した。
「メルル、こちらはいなかった。そちらはどうだ?」
「レグルス様。こちらでも確認しましたが、おりませんでした…恐らく、もう…」
「…そうか、よく頑張ったな。後の対応は任せろ」
レグルスはメルルの肩に手を置いて励まし、アルキード国王のもとへ歩み寄り、報告を行った。
「捜索の結果、生存者は全て見つけ出した。これにて、生存者の捜索は完了とする」
「…そう、ですか…捜索のご協力、ありがとうございます。我々だけではこの短期間で見つけることはできなかったでしょう」
「あとは、お前たちの仕事だ。我らテランとパプニカは少ししたら国へ帰る」
「此度はこの国を、人々を救ってくれたこと…アルキード王国を代表し、感謝いたします」
アルキード国王、隣に立つソアラ、そして近くにいたアルキード兵士たちは、敵を倒し生存者の捜索に尽力した他国の協力者たちに深々と頭を下げた。
「あなた方は我が国の救世主です」
顔を上げたアルキード国王は疲れをにじませながらも、小さく微笑んでレグルスやダイたちを見渡した。
「後で食料などの追加の物資を送り届けよう。支払いは…5年後でどうだ?」
「はい、それでお願いします。今は…支払いも出来ず、こちらから送れるものもございませんので…」
「では、後で正式な書面を送る」
「分かりました」
国王はこれからの国の再建を思案していたが、ふと、レグルスがドラゴンを倒す前に条件を出していたことを思い出した。
「そういえば…レグルス国王、最初にこの国を救う際に条件を出しておりましたな…確か、1つ頼みを聞くと…その頼みとは何でしょうか?」
「ああ、そのことについてだが…」
レグルスは国王の隣に立つソアラに視線を向け、じっと見つめた。見つめられたソアラは首を傾げつつも、小さく微笑んでレグルスを見返した。
「私の頼みはただ一つ…これから私がある行動をする…それを静かに見守り、そして…その結果を受け入れること。それが私の望みだ」
「…それは…どういう?」
国王は意味を測りかねて聞き返したが、レグルスは答えずにダイとレオナに視線を向けた。
「勇者ダイ、パプニカ女王レオナ!2人には立会人として…これから私が行うことを見届けてもらいたい。よいか?」
「?…うん!任せて!」
「ええ!構わないわ!」
レグルスが目を逸らした後、ダイとレオナは、小声で相談した。
「レグ、何をするんだろう?」
「分からないけど…立会人を頼む以上、きっと重要なことよ!…もしかしたら…」
「?…レオナ、どうしたの?」
「うふふっ!何でもないわ!ダイ君、私たちは彼の勇姿を見守りましょ!」
「だね!」
ダイとレオナは静かに、そして興味深くレグルスに注目した。
「皆の者!静粛に!」
アルキード国王が声を上げると、人々は話や作業を止めて注目した。
「只今より、レグルス国王陛下から重要な話があるとのこと!皆、静かに見守るのだ!!!」
ダイ、レオナ、ラーハルト、ポップ、メルル、ヒュンケル、クロコダイン、パプニカの者たち、ベンガーナ兵士、そしてアルキードの民や国王が集まり、視線がレグルスに注がれた。人々が見守る中、レグルスはゆっくり歩み出し、ソアラの前で立ち止まり、姫を真っ直ぐに見つめた。
「私はこの時を待ち望んでいた…ずっと、昔から…」
ソアラをじっと見つめながら、レグルスは脳裏に、かつてバランだった時にソアラとディーノと共に過ごした日々を思い浮かべた。バランの時は立場の違いから死に別れる運命だったが、生まれ変わり、一国の王、そして国を救った英雄となったことで、状況は大きく変わった。
バランとレグルスの邪魔をする者は誰もいなかった。
「アルキード王国のソアラ姫。私はテラン王国を代表して、あなたとの婚姻を申し込む!!!」
「!!!」
レグルスの言葉は響き渡り、周囲の人々は思いがけない展開に息を呑んだ。ソアラは驚きと戸惑いの表情を浮かべながらも、小さな子供の姿をしたレグルスをしっかりと見つめ返し、アルキードの姫として丁寧に答えた。
「国王レグルス様、私もあなたと共に歩む未来を見たいと思っています。ですが…あなたには将来が…輝かしい未来があります。私と共に歩まず、あなたの未来を歩んでほしいと…そう、願うのも私の意思なのです。本当に、私で良いのですか?」
ソアラは優しくも、どこか悲しげな表情を浮かべ、バランの面影を宿すレグルスを見つめていた。対するレグルスは、その真剣な眼差しを揺るぎない意志で返した。
「私は、ソアラに会うために生まれてきたのだ!たとえ、私に別の道があろうとも……たとえ、私に別の未来があろうとも……隣にソアラがいなくては意味がない!」
バランを思わせる力強い瞳を輝かせながら、レグルスはまっすぐに手をソアラの前へ差し伸べた。
「ソアラ、何を言われようと私の想いは変わらない。生まれる前から…そして、生まれた後も、私はソアラを愛している。もう二度と、寂しい思いをさせないと誓う。私と共にこれからの未来を歩んでほしい」
ソアラは驚いた表情を浮かべたが、すぐにその顔が柔らかな微笑みに変わり、レグルスを見つめながら脳裏にバランの姿を思い浮かべた。
(あなた、ありがとう。ずっと、私を想っていてくれて…)
ソアラは夫バランの生まれ変わりであるレグルスの小さな手を優しく取った。
「あなたの真摯な気持ちに心を打たれました。私もあなたを愛しています。ずっと…昔から…。あなたと共にこれからの未来を共に歩んで行きたいと私も願っております」
思いもしない展開に、周囲の人々は歓声を上げる者や、戸惑う者もおり、周囲はざわめき立った。立会人として見守っていたレオナは笑顔を浮かべ、歓声を上げながら隣のダイに抱きついた。
「きゃあ〜!衆人の前でプロポーズだなんて!お義父さ―、じゃなくて!レグ君やる〜!」
(2人とも嬉しそう…母さん、父さん、よかったね)
「ねぇねぇ!ダイ君!私たちもこんな素敵な恋をしましょうね!」
「えっ!!?」
ダイは驚き、ニコニコ笑みを浮かべるレオナに振り向き、言葉の意味を理解すると、頬を赤らめ、あわあわしながら照れくさそうにそっぽを向いた。静かに見守っていたアルキード国王は動揺しながら手を取り合う2人のうちソアラに話しかけた。
「ソアラ姉さん、よろしいのですか?姉さんは、あの人のことを…ずっと…」
アルキード国王は、ソアラが以前の夫バランを思い続けていたことを知っており、国を救うために無理をしてテランに嫁ごうとしているのではないかと心配した。しかしそんな心配をよそに、ソアラはとても嬉しそうな笑顔を浮かべて答えた。
「よいのです!私は、敵の魔の手から救い出してくれた彼を愛しています。以前の夫への気持ちも私にとっては変わらず大切なものですが…彼にも同じような思いを抱いております!」
(ソアラ姉さん、やっぱり…バランさんのこと変わらず好きなんだ…)
ソアラの言葉に、アルキード国王は少し動揺しつつも、レグルスに念のため確認を取った。
「レグルス国王…ソアラ姉さんには…その、以前相手が居たのですが…本当によろしいのですか?」
「問題ない。ソアラの以前の夫については、聞き及んでいる。その者を愛していることもな…むしろ、変わらず愛してもらっていなければ困る」
「まあ!あなたったら!」
レグルスは真剣な表情でソアラを見つめ、ソアラは頬を赤らめて、そのバランの面影を感じさせるレグルスを見返した。アルキード国王は少し疑問を覚えながらも、2人の仲睦まじい様子とソアラの笑顔を見て安心した。
「は、はぁ…?お二人が良いのであれば、ソアラ姉さんが望んでいるのであれば私としては構いませんが…ちなみに、婚姻を結ぶのであれば、次に魔王軍がアルキードを襲った際、貴方が…テランが助けに来て下さる。そう、認識してもよろしいですかな?」
「!!!」
今回の襲撃でアルキードは滅亡の危機に瀕した。魔王軍を退けたとはいえ敵は健在であり、次に再び襲撃を受ければ、建物も軍も国家そのものもすでにボロボロのこの国では、防ぐことは不可能だと皆が理解していた。そのため、アルキードの人々は目の色を変え、ひたすらに期待を込めてレグルスを見つめた。
「ああ。この国が魔王軍の襲撃を受けた際、我々テランが救援に向かおう」
「そうですか!それは大変助かります!あなた様が居れば、魔王軍がこの地を訪れたとしても、再び退けることが出来るでしょう!!!」
レグルスの答えに、アルキード国王は安堵と喜びから顔を輝かせ、周囲を見渡しながら声を張り上げた。
「民よ!私はアルキード王国を代表して、ソアラ姫とレグルス国王との婚姻を祝福するものとする!アルキードとテラン、両国がこれから手を取り合い、共に助け合うことを切に願う!」
歓声が響き渡り、アルキードの民たちは拍手と祝福の言葉を送った。レグルスは表情には出さなかったが、周囲の反応に心から安堵し、ソアラに視線を向けた。ソアラは小さく笑みを浮かべ、目尻に涙を浮かべながら、民の祝福を喜んでいた。
ダイたちは少し離れた場所で集まり、雑談しながらレグルスとソアラのやり取りを見守っていた。
「おいおい、パーティメンバーで一番年下のレグが恋愛すっ飛ばして真っ先に結婚しちまったぞ。やべぇぞ、ラーハルト、ヒュンケル!」
ポップはニヤッと笑いながらヒュンケルとラーハルトに視線を向けた。
「ポップ、何故そこで俺に振る…」
「レグルス様はバラ―…コホン、あの方の記憶を取り戻したのだ。精神年齢は成人を迎えているだろ…にしても、数日前まで小さな子供だと思っていたのだがな…」
ラーハルトが子供のレグルスを見ながら呟くと、赤子の頃からレグルスを見守ってきたメルルは笑みを浮かべて頷いた。
「そうですね…私はレグルス様が生まれた時から見守ってきましたから、感慨深いものを感じます。お婆さまもきっと今のレグルス様を見て喜ぶでしょう!お婆さまはレグルス様の名付け親なのですよ。もう1人の孫だといっつも自慢してるんですから…!」
「そうなのか!ナバラがレグルス様の名付け親だったのか…!」
「ふふっ!今まではレグルス様の正体を隠すために言えませんでしたからね」
その頃、レグルスとソアラはアルキード国王と何かを話しており、遠目には身長差が大きく見えた。そんな二人の姿を見て、ポップは思わず小さく呟いた。
「にしても…こっから見るとレグとソアラさん、親子にしか見えな―」
「ポップ君!それ以上はダメ!ちょっと年齢差ありすぎじゃない?とか、親子にしか見えない!とか、絶対に言っちゃダメよ!」
「…姫さんの方が言ってるじゃねえか!」
ポップは呆れてレオナを見つめた。ダイは父バランの生まれ変わりであるレグルスと、母ソアラが仲良く手を取り合う姿を見て、穏やかな気持ちを抱いた。
「レグが急にみんなの前で婚姻を申し込んだのにはびっくりしたけど…」
その時、ソアラとレグルスはダイの視線に気づくと、ダイの方へと歩いてきた。ソアラはとても嬉しそうに笑顔を浮かべ、レグルスもアルキードの人々と接していた時の硬い表情とは違い、ダイに向かって小さく笑みを浮かべていた。両親のそんな姿に、ダイの心も弾み、自然と笑顔がこぼれた。
「2人が笑っているならいいかなって!」
ソアラとレグルスはダイのそばで立ち止まり、レグルスは手を伸ばしてダイの頭をワシワシと撫でた。
「待たせたな、そろそろ帰るか」
「うん!」
ダイは頭を撫でられ、嬉しそうに笑みを浮かべ、ソアラはそんな二人の様子に優しく微笑んだ。帰還の話が出ると、パプニカから救援に来ていたバダックはホッと息を吐き、肩の力を抜いてクロコダインに話しかけた。
「ふーっ…やっと休めそうじゃな…姫さんも人使いが荒いわい」
「じいさんはレオナ姫に連れて来られたのだったな」
「そうなんじゃ!…姫様がポップと一緒にパプニカに戻って来たと思ったら、『人手を集めるだけ集めなさい!』と理由も話さず命令されてのう…集めたと思ったらここに連れて来られて…訳もわからず来たという訳じゃよ…」
バダックの疲れた声色に、近くで話を聞いていたパプニカの三賢者たちもレオナの無茶振りを思い出し、苦笑した。
「確かに…私たち姫様から何も知らされず、ここに連れて来られたわね…」
「まさか、数日ここにいるとは思ってもいなかったわ…」
「そうだな…だが、この状況では初動が大事だ。俺たちがいたからこそ助かった人々もいただろう」
「フフッ、そうね!1人でも多く助けることが出来たなら良しとしましょう!」
「ええ!…それにしてもレグ君がまさか、テラン国王だったなんて…驚いたわ…」
レグルスはそんなパプニカの人々を横目に見ながら、レオナに話しかけた。
「レオナ、テランに戻り次第、王位就任式を兼ねて宴を開く。ここにいるバダックや三賢者、パプニカの者たちを招待したいのだが、どうだ?」
「ええ!もちろん!是非とも参加させてもらうわ!」
レオナの返事を聞いたレグルスは周囲の仲間たちを見渡し、故郷テランを思い浮かべた。
「では、行くぞ。テランに帰還する!ポップ!二手に分かれてルーラで戻るぞ!」
「おうよ!」
人数が多かったため、ダイたちは二手に分かれると、レグルスとポップはそれぞれルーラを発動した。北へ向かうルーラ特有の軌道が空に伸び、アルキードの人々はその光を見上げ、手を振りながら見送った。
こうしてダイたち一行はアルキード王国を後にした。
王族のオリキャラを出したのも、アルキードを襲撃したのも、ソアラさんを王室から離したのも、バランの生まれ変わりをテラン王族にしたのも、ぜーんぶこの回のため!
つまり、バランとソアラさんの婚姻を絶対に成功させるためだったんです。
アルキード王国は滅亡寸前まで襲撃して、生き残った人々に「テランと勇者に見捨てられたらもう終わりだ」ってことを思い知らせたかったんですよね。
ざっくり言うとこんな感じ。
襲撃前
「ソアラさんを下さい!」
「ハッ!テランに渡すわけないだろ!」
襲撃後
「死にたくない…助けてくれ!」
「ソアラさんを下さい!この国を救います!」
「わかった!ソアラの婚姻を許す!だから助けてくれ!」
小説として恋愛要素も入れたかったので、婚姻シーンは絶対やりたかったんです!
本当はバランでやりたかったけど、アルキードの前で変身するのはさすがに無理でした。年齢差もありますが、レグルスは中身がバランだから、そこはちょっと目をつむってください。