椛ちゃんの休日グルメ   作:ナガレボシ

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悪魔の宴! 罪深き夜食たち

 犬走椛が地底から妖怪の山に戻ったのは、20時過ぎだった。交代は21時からなので、まだ余裕があった。椛は自宅で手早くシャワーを浴びて、『色々』と準備してから現場へ向かった。

「こういう時に、現場が自宅から近いというのは、嬉しいですね」

 腹は六部ほどで、身体は暖かい。夜風は少し冷たいものの、夏特有の湿気の香りが入り込んでいた。もうすぐ梅雨が訪れそうだ。雨が酷いと、それだけで仕事に支障が出る。水に強い妖怪との戦いは、一気に分が悪くなる。

「これからしばらくは、大変な時期になるな」

 椛は気を引き締め直す。仕事では肩の力を抜く事と、気を抜く事をはき違えている者を時折みかける。前者は広い視野で仕事を見直せるが、後者は油断しているに過ぎない。にも関わらず、これらの事を見極められない者はどこの組織でも必ずいる。これから忙しくなる時期、どうすればこれらを伝えられるのか? 隊長として、部下の命を預かる者として、犬走椛は頭を抱えずにはいられなかった。 すっかり酔いは抜けていて、仕事をする体制に入っていた。そこで初めて自分の肩に、必要のない力が入っている事に気が付いた。

「私も、人の事は言えないか」

 これまでの自分の考えを振り返り、呆れたようにつぶやく。

 

「椛隊長、お疲れ様です」

「ご苦労様です。それで、今日はどうでしたか?」

「特にこれといった変化はなく、平和な1日でした。あ、しかし」

「何かあったのですか?」

「いえ、なんというか、虫が増えて、動物ぼ動きが活発になっているように思えまして。少しなのですが」

「ふむ、時期的にそうでしょうね。しかし虫や動物の動きは、季節だけでなく、妖怪の力にも関係します。何かの前兆という事も考えられます。細かい動きを観察する事で、こちらが先回りできる事もあります。私も気を付けておきます」

 椛は最後に報告ご苦労様。ゆっくりと休んで下さい。とねぎらいの言葉をかける。部下の白狼天狗は、一礼して、何度かあいさつをして、その場を去った。

 

 それからどのくらい、時間が経っただろう? 今日は特に静かな夜だった。綺麗な星空が広がり、暗い空が青く輝いているようにも見えた。風が草木を揺らす音、虫の鳴き声や羽音が心地よく耳を撫でる。遠くでは滝の音が、まるでこれらに抵抗するように、ゴーーという荒い音を立てていた。すべての音が、夜を引立て、夜と一体化しており、自然の静寂を作り出していた。それは何処か幻想的で、夢心地で、少し不気味さも混じった山という空間特有の風景だった。

「サウンドオブサイレンスという曲を文さんが聴いてましたが、このようなイメージかもですね」

 誰も応えてくれない。自分の出した小声が、他人の発したもののように響いた。

「・・・こんな夜に、文さんとお酒が飲めたら、最高だろうなァ」

 つぶやいてから、椛は考えを振り払うかのように頭をふるう。

「仕事中に何を考えてるんだ私は。これでは部下に示しがつきません」

 

 

 それから数時間が経過した。

 夜勤とは眠気と退屈との戦いだ。何もない、平和である事の喜びを噛み締めるという事は、眠気をかみ殺し、暇を持て余すという事にもつながる。椛もさっきから何度も欠伸をしていた。

 しかし

 彼女もベテランだ。なんの対策もしてないわけではない。

「ふふふ、今は夜中の3時過ぎくらいでしょう。眠いし、そろそろやりますか・・・」

 椛は持ってきた荷物袋から、大きな唐揚げドックと、ポテトチップスコンソメパンチ味濃いめ、更にペットボトルのコーラをを取り出した。

「夜勤の悪魔的な宴の始まりですよ!誰も見てないし、真夜中に、この量!くぅ~、目が覚めました!!」

 早速椛は大きな唐揚げドックの袋を開ける。大きなパンに、大きくみっちりむっちりふっくらとした、今にも肉汁が溢れ出しそうな鳥の唐揚げが六つ。捻じ込むように強引にパンの上にしかれていた。更にその上には特性の卵の黄身が見えるタルタルソースが、これでもかというほどかかっていた。

「地上の妖怪は、なぜか鳥が多いから、鶏肉があまり売ってないんですよね。値段だって高いし・・・。だけど地底は違う。唐揚げはお酒の友で、ブームにまでなってますからね。さて、この唐揚げはどのようなものか・・・」

 香ばしい肉と、タレの香りが、口内の唾液を満たしていく、

「い、いただき、ます・・・」

 ずっしりと重い、ボリューミーなそれを、椛は大口でくいつく。

「!!!!!!!っ」

 時間が止まった。 なのに、腹の中にある臓器や、流れる血液が、フル活動している感覚を味わった。

「お、美味ひい!!」

 モングモングと噛み締め、口いっぱいに広がる味を、説明文が必死で追いかける。

「弾力があって、濃厚でジューシーな鶏肉!そこににんにくたっぷりのころも、まろやかなタルタルソースの相性ときたら!!それにこの唐揚げ、甘酢につけてある。この優しい甘みと酸味が、全体の味を優しくもしっかりと引き締めてくれている!!」

 椛は更に入りきらないほどの唐揚げドックを、大口で頬張る。

「んんんんんん!!!」

 あふれ出したタルタルソースと、肉の油が豪快に飛び散り、手や口を汚す。

「わかってましたよ、こうなる事くらい」

 椛はポテトチップスの袋をあけ、そこから数枚を一気に取り出した、かと思えば、ポテトチップスで口や手に着いたタルタルソースを拭きとったではないか。そしてそれをまだ唐揚げドックの残る口内に放り込んだ。更にそれをコーラーで腹へ流し込む。

「・・・・・!!! 悪魔的だぁああ!!!」

 身体に悪いとわかっているのに、どうしてこのような行為は、こうも魅力的であり、楽しいのだろうか?美味しいのだろうか? 唐揚げドックを、ポテチを、コーラーを口へ運んでいると、そのような疑問が脳裏へ浮かんでくる。しかしその疑問ごと、かみ砕いて飲み込むこの感覚がまたたまらない!

「唐揚げにはレモンだとか、野菜と一緒に食べるとか、今の私にそんなのは関係ありません。ただ欲望のままに、食べたいものを食べるのです!くぅ~~~!これだから夜勤はやめられない!!」

 

 満面の星空に照らされながら、犬走椛は仕事中とは思えないほど、楽しく悪魔的な時間を過ごしていた。

「あいつ、一応勤務時間だぞ。何をやってるんだか・・・」

 たまたま夜眠れずに、今日の夜勤が椛だった事を思い出した飯綱丸龍が、差し入れのジュースを持っていこうとしていた。

「まあ楽しそうだし、今夜は一人にしてやるか」

 椛の幸せそうな顔をみて、龍も思わず微笑まずにはいられななかった。

 

 




 あとがき


 ここまでのおつきあい、ありがとうございます。
 今回の唐揚げドックとポテチの組み合わせは、私が学生時代に、課題をしながらやった事です。夜中に課題をしながら食べる唐揚げドック。タツタルソースで汚れた口をポテチで拭って食べる。罪悪感は凄まじいですが、幸福感も半端ないです。恥じらいももちろんありますよ!今やったら、胃もたれ、胸やけものでしょうがね・・・。
 それでは次回も、宜しくお願い致します。

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