激しく、長く、美しい夜が終わった。幻想郷の空を覆っていた紅い霧は消え、朝の穏やかな日光が妖怪の山を照らしていた。それは紅魔館の主レミリア・スカーレットが敗北した事を意味していた。
「う~~~~~!!なんだか久しぶりのお日様ですねェ」
射命丸文は早朝の美味しい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。さわやかな風が日光のありがたみを、全身に伝えてくれた。それと同時に、あれほどの異変を起こした妖怪が退治されたという、なんとも言えない切なさが、胸をくすぶっていた。
「無事に異変を解決出来たようですね。なら、私も切り替えないと! フフ、今日は紅魔館とやらに取材にいきますか♪」
文は軽い朝食を取り、身支度を整えた。いつもよりも綺麗な衣服をまとい、髪や翼を念入りに手入れする。
「文。取材か」
「あ、飯綱丸様、おはようございます」
「ああ、おはよう」
大天狗・飯綱丸龍は相変わらずの仏教面と言うよりも、眠たそうな顔で文を見る。
「もう一度聞くが、今日は紅魔館へ取材へ行くのかい?」
「ええ、異変も終わったことですしね」
「ふむ、ならば大天狗として、命令を下してもいいかな?」
「えぇ~~?」
「露骨に嫌そうだな」
「だって命令なら絶対にろくでもない事でしょ?」
「ははは、察しがいいな文」
「私は妖怪の山から出たら、ただの新聞記者でいたいのにィ」
「組織の中間管理職たるお前が、そうも言ってられないというのは、充分にわかっていると思っているがね」
「はぁ、それでご命令は」
「露骨に嫌そうだが、まだいい。 新参者を取材するのならば、新聞記者としてだけではなく、次期大天狗として、レミリア・スカーレットに会ってこい」
勿論わっているな?と龍は念を押した。
「お言葉ですが、そういう時代は・・・」
「時代は変わる。そして思想も変わる。だが動かせないものがある事も事実だ。妖怪の山が幻想郷最大勢力である事も、お前が次期大天狗である事も、揺るがしようのない事実であり、時代や思想に左右されてはならない事だ。ならばやるべき事をやれ。いいかこれは業務命令だ」
「ある意味格言ですね。最後の業務命令さえなければ」
「格言よりも業務命令が大切だからね」
「わがままお爺さんの大原社主でも言わないですねそんな事」
「私は立場的小泉編集局長だろ。部下を嫌味と権力でいびり倒すタイプだ」
「自分の性格が悪い事は、よおくわかっていらっしゃるようですね。しかもさり気にマニアックな所をあげてきますね」
「声優さんはすごく良い人なんだよ。本当に美味しんぼの声優さんは豪華だよな」
「知りませんよそんな事」
「とにかく、だ。中間管理職なんてのは、嫌われてなんぼだよ。逆に中間管理職が人気者で、非情になって命令を下せない職場なんてものは、長持ちしないんだよ」
「万事屋銀ちゃんは、なんだかんだ言って楽しそうですよ」
「あれアニメだから」
「私達も似たようなものでしょうが!声優さんとか言いながら、あぁもう!!言い返す事が思いつかない!」
「力は最高だが、まだまだ頭は甘いですな次期大天狗殿」
「はう~~~」
「ふむ『中間管理職イイヅナマル』って連載始まらないかな」
「何を言ってるんですか!?カツ丼でも食べたいのですか!」
「私はあまり意地を張りたくはないね。それよりも命令に対しての返事を聞いていないのだが?」
文はうなだれるが、一つ息を吐いてから気持ちを切り替える。
「まあ、取材が駄目ということではないので、よしとしますか。それで具体的に何をすればいいんですか?あまり目立った事をやると、妖怪同士の争いということで、博麗の巫女が黙ってないはずです」
「お前なら力を使わずに、口とペンで、天狗の恐ろしさを伝えられるだろ?もうすぐ椛が見回りから戻ってくるから、二人で作戦を考えてから出発するといい。お前達を信頼してるよ」
「了解しました」
文は頬をプゥっと膨らませるが、これも天狗社会だと、自分はまだ自由に動き回れるから良い方だと、自らに言い聞かせる。
「文さん、おまたせしました」
「待っていましたよ椛」
数分後、犬走椛がやってきた。
「大天狗様から、既に命は受けていると思いますが、今日は私と共に紅魔館へ取材をかねて、多少幻想郷の力関係を、説明へ行きます。戦闘になる可能性もありますから、準備はしっかりとして下さいね」
「お任せください。妖怪の山の恐ろしさを、新参者に知らしめてやりましょう!」
「東方projectで言えば、一番の新参者は飯綱丸様なんですがね。ホント、最近出た作品のキャラなのに、威張っちゃって」
「さりげになんて事言うんですか!?」
「事実ですよ。原作では、飯綱丸様と私らって、絡みすらないし。二次創作で出番が多いからって、調子にのってますねあの方は」
「それは私も調子に乗ってるという事ですか?」
「へ」
思わぬ椛の反論に、文は眼を丸くした。
「まあ、所詮私は公式絵もないドットキャラですし、風神録が発売されて随分と経つのに、未だに原作ではキャラさだまっていないし・・・。それに確か原作では文さんと私は、犬猿の仲だと言うじゃないですか。本当に二次創作の力ってすごいですよね」
「そ、そんなつもりじゃ、いやなんかもうごめんなさい」
椛はそこまで言ってから落ち着くように息を吐いた。文が新聞作りにどれだけの情熱を注いでいるのか、よく知っているつもりだ。そこに天狗としての立場で取材をしろなんて言われたら、楽しい事だって楽しめない。ならばここは自分が一肌脱ぐしかない。
「文さんは取材に集中して下さい。私が紅魔館に天狗の恐ろしさを知らしめます」
「どうするのですか?」
「レミリア・スカーレットと戦います。博麗の巫女に敗北した今、彼女は弱っています。今なら私が全力を出せば、どうにか戦えるでしょう。吸血鬼ごとき、たとえ刺し違えても腕の一本くらいは切り落としてご覧にいれます」
「その如きとやりあってみるかい。あまり吸血鬼を舐めるなよ」
「あまり調子に乗るなよ。状況はこちらが有利なのだから」
「ふむ。今日もなかなかのキレですね椛ちゃん。だけどもう一度言いますよ。武力行使は最終手段です。妖怪の山を出た私は、ただの新聞記者。よほどの事がない限り、天狗の顔にはなりませんよ」
椛は血の気が多いですねっと文はため息を吐くが、椛は納得していないようだ。
作戦会議
「それで、どのような作戦でいきますか?」
「とりあえず紅魔館の人数分、新鮮な卵を用意しました。これを手土産にしましょう」
「・・・それ、文さんが産んだヤツですか?」
「もちろん気合を入れて産みましたよ。新鮮で味も補償します!これ以上の手土産はないはずです」
「・・・あの光景を見なければ、確かにそうですね」
「なにか?」「いえ何も」
椛は一つ息を吐いてから口を開く。
「あそこは門番がいて、簡単には通してくれないようです。私は門番を引き受けるので、文さんは中に入って下さい」
「武力行使は最終手段だと、何度言わせるのですか?」
「しかし文さん。向こうが武力行使してくる可能性は高いですよ。もちろん、吸血鬼ごときにあなたが負けるとは思いません。しかし次期大天狗に何かあれば、それはあなたや私だけでなく、妖怪の山の失態となるのです。そのような場合は妖怪の山として、紅魔館に報復、と言う事も充分に考えられます」
「どうして、みんなこう戦う事しか考えられないんですかね。それとも私がおかしいんですかね」
「ようやくわかって頂けましたか!」
「慰めろよそこは」
文は一つ息を吐く。
「椛の言い分はわかりました。しかし私が戦えば、相手との力量差を考えて、弱い者いじめになります。そんな事をしては、それこそ妖怪の山の名前に傷がつきます。あくまで武力は最終手段、いいですね?」
「はい・・・」
「ならばまずは自己紹介です。相手の警戒を解き、快く屋敷に入れて貰うためにも、まずは気持ちの良い自己紹介をしましょう」
「ふむそれは確かに大切ですね。我々天狗が、いかに知性の高い妖怪か、わからせる事にもつながります」
「ちわーす、三河屋で~~す。どうです?」
「やると思ってましたよ。もちろん却下です。サブちゃんいいわよって追い返されるのが見え見えです」
「私は文ちゃんですよ」
「わかってるけど聞いてないです」
「ならば王道に、「郵便だよ」ってのはどうでしょう?」
「いちいちツッコミを入れないといけないのですか?」
「真面目にやりますよ。もう椛は堅いのだから」
文はコホンと咳払いをして、姿勢を正す。
「こんにちは!清く正しい文々。新聞の射命丸文です!取材に伺いましたが、今、お時間宜しいでしょうか? これでどうです」
「却下です」
「なぜに!?」
「文さんが清く正しいなんて言ったら、嘘くさいです」
「こ、これは私のあいさつみたいなものですよ」
「確かに常連なら、それでも良いですがね。初対面となるとね。もうちょっと違うあいさつはありませんか?」
「違うあいさつね・・・」
文はしばらく腕組をして考えたあと、何か閃いたようにポンと手を叩く。
「黒き翼に、思想を乗せて、灯せ取材の青信号! 風神少女射命丸文、定刻前に、ただいま到着!」
「なにそれ、格好いい!じゃなくて、パクリじゃないですか!しかも古い!」
「いやぁ最近外の世界の動画でやってて、面白いんですよマイトガイン。あとこの間のマイトガイからもヒントを得ました」
「ロボットの腕にでもなるつもりですか!?」
「いづれにとりに、射命マルトガインを作って貰いたいですね。椛とはたてと合体で」
「強引に自分の名前を押し込んだ!?しかもはたてさんもですか。むぅ」
椛はやや面白くなさそうだ。
「ここまで来たら、更に決め台詞ですよ。
射命丸文の妄想!
「己が欲望のために、紅い霧を巻き散らし、幻想郷から日光を奪った罪!この妖怪の山特急隊が、断じて許しはしない! 動輪県!フルパワー!!門番はは任せたぞ!モミジボンバー!」
「合点承知の助だぜぇ!!」
モミジボンバーの強力な蹴りが、門番を蹴り飛ばす。
「未だ!!縦一文字切!!うぉおおお!!」
紅魔館が半分に割れ、電撃と共に大爆発を起こした。 その爆風を身に受けながら、射命マルトガインは地面に刺さった剣を引き抜き、鞘に納める。太陽の光が彼女の勝利を、その武勇伝を称えるように、眩しく輝いていた。
~正義の風が、嵐を呼ぶのさ しゃめいまる~~♪
妄想終了!
「おっしゃ!!!カッコイイ私!!!
「って何やらせるんですかぁああ!!しかも武力行使はしないんじゃなかったんですか!!そりゃ紅魔館爆発は、東方では当たり前ですが・・・。なによりモミジボンバーってなに!?私はガードダイバーのが好きなんです!!」
「え、っと誰それ?」
「はぁ!?知らないんですかレスキュー特急を!!イケメンボイスで、彼の最期はもう泣けるんですよ!!私も戦士として最期は、ガードダイバーのように、市民を守り抜いて、敵の攻撃をその身に一心に受けて、「せめて、倒れる時でも、最期は前のめりに・・・」って朽ちる事に決めてるんですから!!」
「いやぁ、なんて言うか、その作品見始めたばかりなので・・・。なんとも・・・」
「なら中途半端にネタ取り入れてんじゃねぇえ!!!スーパーロボットは男のロマン!それを馬鹿にするとは不届き旋盤!!」
「ひぃいいいい!!なんかごめんなさい!」
「私はエースのジョー様一筋よ」
「わ! びっくりした」
岩陰から姿を現したのは姫海堂はたてだ。どうやら彼女は話に入りたくて、うずうずしていた様子だ。
「って、誰ですかそれ」
「はぁ!緑川ボイスの代表格知らないの!? あの美声を知らないの!!
「みんな声優さん好きですね。私あまり興味ないので。大切なのは内容ですし」
「緑川ボイスに興味がない・・・?女としての人生終わってるわよそれは!それでもあんた、次期大天狗なの?」
「いやいやいや次期大天狗関係ないですから!」
「文さんって。マイトガインモグリですね。もはや新聞記者失格です。そんな人だとは思わなかった!頼むから、これ以上私を失望させないで下さい」
「モグリの癖に新聞のためにネタをパクるなんて、屑ね死刑ねゴミね」
「なんでそこまで言われなくちゃいけないのですか!!!泣きますよマジで!私は悪くない私は悪くねぇ!」
「行きましょうはたてさん、ここにいると、馬鹿な発言び、イライラさせられます」
「私はルークじゃないですからね!!これ以上髪は切りませんよ!」
「3人共、また何を騒いでる?新聞の相談なら、もっと静かにしてほしいんだが?」
「あ、飯綱丸様」
「わ~~~~ん、大天狗様、椛とはたてが二人で私をいじめるのです!!」
文は毎度の如く姿を見せた飯綱丸龍に泣きつく。
「なにぃ?それは関心しないな。とりあえず話を聞こうか」
「だって飯綱丸様」
はたてが経緯を説明した。
それから・・・。
「ん。私はなんと言っても、ウォルフガング様だな!卑劣なようで憎めないし、改心する!私の憧れのパパだよ。ちなみに今は中の人は武天老師様をやっていたな」
「さすが飯綱丸様、しぶいところ上げますね」
「脇役に魅力や癖が強いのが多い人から、正義感が強くて真っ直ぐな主人公が引き立つんですよね。旋風寺舞人様もイケボ♪」
「つ、着いていけない・・・。この人達は、何を言っているの???」
文は完全においてきぼりを食らっていた。
「それにしても文、いつも言っているだろう」
飯綱丸龍は腕組をして文を見据える。
「お前は次期大天狗であり、その力は天魔にもなれる器だ。しかしマイトガインを知らないとなると・・・。正直妖怪の山のトップとしては、面子が立たないな・・・」
「なんで妖怪の山のトップとマイトガインが関係あるんですかぁあ!!」
「黙れ文!私達が今から、マイトガインがどれほど素晴らしいものか、しっかりと叩きこんでやる!あの作品はなぁ!少ない予算で、声優さんを使いまわしてだなぁ!それでも伝説とまで言われる作品に仕上がったんだぞ!!」
「メタいメタい!!!」
「文さん、逃がしませんよ♪」
「中途半端にマイトガインを語った罪、この姫海堂はたてが、断じて許しはしない!」
「い、いやぁあああぁあああ!!ごめんなさいごめんなさいごめんあさい!!もう許してェエエエ!」
射命丸文はこの日、早朝から日が暮れるまで、マイトガインの話をたっぷりと聞かされたのだった。
妖怪の山は、今日もとても平和だった。
紅魔館。
幻想郷には合わない紅い洋風の屋敷は、未だに景色と馴染んでいない。館の中では、自室で主のレミリア・スカーレットが、紅茶をたしなんでいた。齢500を迎える彼女だが、その外見は10歳前後の少女である。しかし時々口元からのぞかせる牙と、背中に生えている背丈に合わない大きさのコウモリの羽が、彼女が人間ではない事を表していた。
「もうすぐ天狗が来るわ。この私を取材にね」
レミリアは紅茶のカップをコトンと置いた。
「それでいかが致しましょうお嬢様。美鈴と私で迎撃しましょうか?」
銀髪のメイド長、レミリアの側近である十六夜咲夜が尋ねる。
「いいえ、丁重にお迎えなさい。幻想郷の先任者は、お引き立てするのが、主のたしなみよ」
レミリアはクックックと怪しい笑みを浮かべながら、窓を開け夜風を部屋へ招き入れる。
「力で叶わなくとも、誰が最強か、わからせてやろうではないか。徹底的にな」
吸血鬼の王の瞳は、紅く輝き、その表情はこの上ないほど楽しそうだった。
あとがき
ここまでのおつきあい、ありがとうございました。
今回もギャグで独走したつもりです。
次回も宜しくお願い致します。 それではありがとうございました。