キヴォトスにこちらの世界の音楽を流す妄想 作:マカロニサラ・ブリッグス
モモチューブ。キヴォトスでは代表的なインターネット動画配信サイトだ。
エンタメやゲーム、生配信から解説動画などジャンルは問わず、様々な作品が無数のチャンネルから日々投稿されていくそのサイトは多くのユーザーを抱えており今も尚、その利用人口は留まることを知らない。
そんな中、キヴォトスの学園の生徒達を釘付けにしているとあるチャンネルの存在があった。
【WORLD Sounds】
この名前だけならどこにでもある、ごく普通なチャンネルのひとつに過ぎないが、チャンネル登録者はなんと開設から1年ほどで今現在は数百万人超えという爆発的な伸びを見せている。
そのチャンネルは名前に因んで音楽作品の投稿がメインとなっており、ほぼ連日のように新たな動画が更新されていくため、SNSではそれについての話題が途絶える事が無い。
だが何故それほどまでに人気があるのか?
その答えは2つある。
ひとつは作品としての完成度。音楽のみではなくMVの映像にも力が入っており視覚的にも十分に心を掴まれるのだ。
そしてもうひとつ。その音楽のアーティスト、グループなど関連する名前を調べてもキヴォトス内の全てのアーティストにはヒットしないからだ。
キヴォトスでもトップのハッカー集団こと、ヴェリタスがアカウントを調べ尽くしても投稿者の情報は一切不明。投稿場所の逆探知を仕掛けても失敗しているレベル。
そのためそれは音楽業界の何らかの陰謀では無いかという荒唐無稽な憶測や。キヴォトスの外から謎の力で流れて来た神秘の一端では無いのか。など……流れている噂は絶えない。
だがそのチャンネルに関して、一つだけキヴォトスで共通している事実がある。
『投稿される音楽は、そのどれもが素晴らしい。』
……
「……よし」
ドアに鍵をかけ、いつも通りにロードバイクの盗難防止のロックを外してからサドルへと跨る。
雨上がりだからか、道路上には水溜りがチラホラ見えるが、上を見上げてみると空に雨雲は見えず綺麗な青空が広がっている。
肌に涼しい空気が流れてくる今日は、サイクリングには最適な日だ。
そう思いながらペダルに足をかけて、いざ学校へ……向かう前にふと、思い出す。
「ん。そうだった……うん、あった」
スマホを取り出し、モモチューブを開いて登録しているチャンネルの一覧を見る。そこにはやはりと言うべきか、更新順の1番上に『WORLD sounds』の動画が表示されていた。
その曲名は……A thousand miles。
(──A thousand miles。1000と……mileは確か距離を表す単語だっけ。)
その画面をタップしてからロードバイクのホルダーに取り付けて、改めて学校へと出発した。
数秒後に、優しいピアノの音がシロコの耳に入る。軽やかで印象に残るメロディーだ。ちらりと画面に目を向ければ、女性が赤いピアノを弾きながら長い長い道路の上を進んでいる映像が流れている。
Making my way downtown
街の中心街を進んで
Waking fast, faces pass and
人々を縫うように速足で歩いて
I’m homebound
わたしは家へと帰る
(心地良い歌声……)
明るく、高めなその歌声はピアノの曲調に綺麗にはまっている。そのうち自然とシロコの足は、そのピアノの奏でるリズムに合わせるようにペダルを回していた。
最近聞いたスピーディなロック調の音楽も悪くはなかったが、今日の曲は清々しい朝にこうして道路の上を駆けるにはピッタリの曲だ。
Starting blankly ahead
ぼんやりしてじっと前を見ながら
Just making my way
道を歩いてる
Making a way through the crowd
人混みの中を通りぬけながら
歌の内容も今のシチュエーションに当てはまっていて、まるで作品の中に自分が入り込んでいるように感じられた。まあ、この地域に人混みなんてどうひっくり返っても存在するはずないのが悲しい話だが……
そう考えていると突然、ピアノの進行がガラリと変わった。
And I need you
あなたが必要なの
And I miss you
あなたに会いたい
And now I wonder
今、こうだったらいいなって思ってる
叩くようなピアノの音と共に歌われたのは、この人物の裏表のない純粋な気持ち。その言葉の行き先が誰へと向けられているのかは分からないが、そこには確かな願いが込められている。
(愛を歌う曲なのだけれど……聴いてるとなんだか、対策委員会の皆が出てくるな……)
この曲の言葉は気になる異性への感情では無いのだと、心が告げていた。
(これは……家族へのもの、なのかな)
そう思えば、確かに納得がいった。自分にとっての家族は、間違いなく対策委員会の皆であり、未来永劫揺らぐことは無いだろうという確信がある。この曲は、今の自分と同じなのだ。
If I could fall into the sky
もし空に落ちることができたなら
Do you think time would pass me by?
時がわたしを通り超すと思う?
‘Cause you know I’d walk a thousand miles
だって1000マイルも歩くかもしれない
If I could just see you, tonight
今晩あなたに会えるなら
不可能ともいえる言葉が続くサビの歌詞。しかしそれをいとも容易く乗り越えられるかのように歌っていた。
それを聞いて私はアビドスでの事件を、カイザーとの戦いを、そしてそれを全員で力を合わせて乗り越えてきたことを思い出す。そして同時に、未だ残り続けている苦難を、この先に待ち受けるもう一人のシロコという難題も。
(……ん、きっと平気。)
けれどもそこに不安は無い。シロコには頼れる家族が、信頼出来る大人がいる。何も恐れることなど無いのだから。
アウトロのピアノの演奏は次第に緩やかになり、やがて止まった。シロコは画面に触れてその曲をプレイリストへと仕舞い、そのままスマホの画面を消して前を見る。
シロコは道の先に軽い傾斜が続いているのを見て、漕いでいる足に力を込めた。軽く身を乗り出して、前傾姿勢をとり、スピードを上げていく。
「……行ってきます。」
発したその言葉は誰に向けたものなのか、それはまだ分からない。
作品コード:0N4-7705-1
こんな感じで、ブルアカの生徒たちに似合う曲あったら入れていきます。
こんなのオススメだぞってのがありましたら、ぜひコメントで皆の妄想も垂れ流しつつ教えてください。