リモート提督   作:bver

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6. 天秤のように

「貴方が着任されて、分かりやすく戦果が上がったでしょう。それを見てまた、臆病者の能無しだという評価が更新されたそうです」

 

新たな着任地に向かうという元提督は、からからと笑って冗談ぽく言った。

独立組織が反政府組織になりかけていたところを立て直した人だ。

その手腕が評価されて新たな任地に送られるのかと考えて挨拶に来たが、そんな良いものではないらしい。

 

画面越しに見ることしかしなかった臆病者

戦果が上がっただろうに現地に行かずまともに指揮しなかった能無し

独立を示唆されるほどに信頼を築けなかった売国奴

 

直属の上層部にはそんな評価をされているという。

ただ、立て直したことは事実であることから、また手ひどくやられた鎮守府に繋ぎとして回されることが決まったそうだ。

あまりの怒りに黙ってしまったこちらを察して、いっそそんなバカどもから私が独立してやりましょうか、とまた笑う。

なだめるように渡されたお茶を見つめながら、せめて餞別になればと立て直した鎮守府の状況を伝える。

 

強くなったこと。思想が生きていること。未だに成長を続けていること。

独立艦隊になるほどの力を付けるものも出て、一部の艦娘は強く感謝をしているようだと。

 

「それは何より」

 

ただ一言呟いて、何事も無かったように雑談に戻ろうとする。

そんな様子に驚いて、着任先の菓子の話は聞き流してしまっていたようだ。

心配されて、思わず「続けたいと思わなかったのか」「今からでも」と聞いてしまう。

 

「ないですね」

 

それにははっきりと拒否を示されて、どうしてと、あれだけ信頼されているのに、と声を荒げてしまう。

そうして気まずげに謝ってしまって、さらに気を使わせてしまったようだ。

困ったような彼は、それでも懇願するように繰り返し問う様子に呆れたのか、しばらくしてから少しだけ語ってくれた。

 

「私の両親は艦娘に救われました」

 

まだ初期の頃、資源移送船に乗っていたそうだ。

折悪く表れた深海棲艦に粉微塵にされそうになったところを、助けられたのだという。

それからは、家族総出で鎮守府や艦娘を応援していた。

 

「私の親友は艦娘に殺されたのかもしれません」

 

親友も提督だったそうだ。

同じように立て直しを頼まれ、着任し、砲撃に巻き込まれて行方不明という名の戦死扱いになった。

詳しい死因は分かっていないが、遺品を受け取った彼には事件後の報告書に嘘があったことが分かった。

 

「私の故郷は深海棲艦に潰されました」

 

戦況が悪化して劣悪な鎮守府が急増した時期のことだという。

大規模侵攻に飲み込まれて、港町とその隣の町が無くなった。

要請は出ていたが、提督は逃げ、人間を信じられなくなった艦娘は支援を拒否した。

家族も友人も知人も、その時に亡くなった。

 

「私も自身の感情をすべては把握できていないと感じています。恩人と敬うほどに感謝する部分もあれば、生涯許す気になれないほど嫌悪する部分もあります。そしてそのどちらかがあったとしても、もう片方を天秤のように打ち消すことは無かった。家族が救われたことは、友人が殺されたことを許す要因になりませんでした。ただ、友人が殺されたことも、虐げられている艦娘にさらに鞭を打つ理由にはなりませんでした」

 

平坦な口調で話す彼は、先ほど笑っていたのが嘘のように無表情だった。

まるでどの感情を出しても間違いだからとでも言うように。

 

「一度起こったことは消えることは無い。降り積もって、しかし消えることなく訴えかけてくる。故に、それはそれ、これはこれという考えが私の行動の軸となったのかもしれません」

 

件の鎮守府を見た時、怒りと悲しみが湧いたのだという。

何をしているのだと。どうしてだと。

どうして提督がいなかっただけでここまで戦力が落ちているのか。

自分達だけで運営できるなら何故最初からそうしないのか。

お前たちの力は提督や大本営ごときに振り回された程度で落ちてしまうようなものではないだろうと。

 

「感謝している分だけ環境を整えました。嫌悪する分だけ接触を避けました。人に裏切られたからといって諦めないように力を付けさせました。命じられた役割を実現するために、貴方に引き継ぎました。言葉にすればそんなものですが、多分私自身分かっていない理由もあることでしょう」

 

語り終わったときには、出発の時間が来てしまっていたようだ。

もはやどう受け取ればよいか分からない「彼女達をよろしくお願いします」という言葉を残して、元提督は新しい任地へと去っていった。

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