『新西暦2018年。
地球の総人口の増加は止まることを知らず、深刻な環境問題と残り僅かとなった資源エネルギー問題に頭を抱えていた。
そこで政府は圧倒的な進歩を見せた科学の力を用いて、「地球」を「地球」に還すべく「リ・テラフォーミング計画」なるものを打ち立てた』
歴史の教科書によれば、俺たちは本来『地球』という星に住む動物だったらしい。鉄の壁で出来ただだっぴろいコロニーで生まれた俺らからしたら、そんな絵空事のような話、にわかに信じられない。
でもそんな絵空事が現実になろうとしている。
2218年となった現在。
当時打ち立てた計画ではこの年で「200年計画」は終了し、地球の環境は完全に改善され、晴れて人類は再び地球で暮らせることとなっている。
俺が勤める会社の上層部も、その計画を打ち立てた組織の当事者ということでここ最近尋常じゃないくらいの忙しさを見せている。
その部署に配属された同期もそれはもう根を上げるほどの重圧と責任に負われているそうだ。
かくいう俺ももうすぐその重圧と責任を背負うこととなる。
まもなく行われる『地球内見』。
俺は環境状態の安全確認のための被験者としてリ・テラフォーミング後、初めて地球に降り立つ人類のひとりになるそうだ。
「以上で最終会議を終了する。探査に向かう職員は会議室に残るように」
はあ。
ここ最近ずっと続いていた長ったるい会議も今日でようやく終わりだ。
後はこれから控える『身体検査』が済めば、明日から本格的に地球に降り立つための準備に入る。
太陽系をぐるぐる回っているコロニー。
その小型艦隊にある会議室からは地球と思われる星が見えていた。
母なる星、地球。
もう間も無く人類の夢が実現しようとしている。
そういう意味では探査に『向かう』と言ってはいるが、人類的には正しくは『帰る』ということになるんだろう。
そんな物思いにふけていると、腕につけていた小型タブレットに最新のパーソナルデータが届いた。
今回地球に向かう探査隊員は計9名。
パーソナルデータには各隊員のプライベートな事から検査で得られた数値などその詳細は多岐に渡り、事細かく記録されている。
「よおぼっちゃん。相変わらずぼーっとしてるな」
「なんだ。だんじょーさんか。なに…つい3日前に検査したのにまた明日やるのかと思うとちょっとメンドーでしてね」
「なにがメンドーだ。まだ14歳そこそこのガキが大人びやがって。えらそーに」
「痛っ。なにするんすか」
この人は檀丈一。探査隊「HIDEN」の一員で頼れる兄貴的存在。
みんなからは愛称で「だんじょーさん」と呼ばれている。
顔は男前で背も高いのだが、幾分言動や性格が古臭いためか女性からの評価が低く、現在35歳にして絶賛婚活中なのだそうだ。
「他の人たちは?どうしたんですか?」
とてつもなく広い会議室には自分とだんじょーさんの2人しか居ない。
待機を命ぜられたはずの他の隊員の姿がここにはなかった。
「おい。わかりきったこと聞くなよ。うちらはあの曲者揃いのやつらが所属する探査隊『HIDEN』だぞ。あんなハゲおやじの言うことなんていちいち聞いているわけないだろ」
「関さんや天凱さんたちはわかるんですが…平山さんたちが居ないのもどうにも腑に落ちなくて」
「何度も言わせるなよ。おの平山って男たちは俺らとは根本的な事情が違う。そういう意味でもあいつらも俺らと一緒。曲者なんだ」
「曲者曲者っつ…。探査隊ってそんなもんですか?」
「ああ。探査隊ってのはそんなもんだ。ほれ
ーーーーーーーーーー
そんな探査隊の彼らが会議室で過ごしているのと同刻。
探査隊に選ばれた5名の隊員がとある人物の元を訪れていた。
その人物は今回の『地球内見』の計画の最高取締役である女。
その名も…
人類が地球にいた時からその名を馳せていた大企業『飛電インテリジェンス』の11代目の若き社長だ。
「失礼します」
「入りなさい」
社長の声に、鍛えられて逞しい体つきをした男女5名の探査隊員が社長室へと入ってくる。
複数のモニターとデバイスを用いていくつもの作業を同時に行っていた社長は5人全員が入って並んだのを音で確認すると、グラス型のデバイスを外し、タイピング作業だけを行いながら要件を伺った。
「何かようかしら。見てわかる通り今忙しいのだけど」
「はい。ですから今回も手短に要件をお伝え致します」
4人のうちで1番背の高い男、平山が1歩前へ出て訪問した旨を伝える。
「単刀直入に申し上げます。HIDENに所属しているNo.009…石川
「……。」
隊員たちに尚も背を向け、空中に出るホログラムで現るモニターを見てタイピングを続ける社長。
その社長の反応の薄さに、平山は屈することなく言葉を続けた。
「何度も訴えた通り、我々『HIDEN』は選りすぐりのプロの中から選ばれた諜報兼探査隊員です。監督省に所属していること、そして今回『内見』に抜擢されたことは名誉であり誇りでもあります。が、故に。他の構成メンバーが我々となんの関わりのない素人であることに我々は納得し得ません。素性もわからぬ問題児の他、あのお人好しで男くさい元教師ならまだしもまだ右も左も分からない14歳の青年がいるなんて。こんな危険で重要な任務に子供がいて良いはず有りません」
代表して要件を話す平山の後ろで同意であるという表情を浮かべる3人の隊員。そんな彼らの訴えに社長はひとつため息をつくと、手首に巻いてあるデバイスを押した。ホログラが消えたのを確認すると漸く彼らと対面した。
「何度来ていただいても判断は変わらないわ。『HIDEN』の探査隊員は監督省協力の元、厳選なる審査と検査の結果によって選ばれたの。今明日の地球到達に向けて探査機の最終調整を行なっています。それにこれから『国』と『国』同士の通信会議が控えています。要件が済んだなら即刻退室していただけますか」
「取締役…!」
「聞き分けが悪ければ覚えも悪い男ですね。織間さん直々に推薦された人物だからどんな逸材かと思って見ていましたが…期待外れも良いとこです」
「……!」
「話は以上です。退がりなさい」
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地球への着陸が秒読みとなるいま。
探査隊員とそのバックにつく組織の慌ただしく緊迫した時間が複雑に渦巻いていた。
それは飛電好恵をはじめとした日本の他の『国』においても漏れることなく行われていた。
そして迎える翌日。
各国の小型探査機は探査隊員を連れて母なる地球へと向けて一斉に放たれた。