『生放送でお送りしています【マギアナ】!本日はお伝えしていた通り通常とは内容を変えて放送しています。只今ご覧頂いているのは小探査機【HIDEN】の映像です。2018年から2218年までの丁度200年の歳月をかけて実行されていた【リ・テラフォーミング計画】が先日無事最終段階を終えたことにより、無事計画が成功しているのか確認のために、本日昼12:00からコロニーを出発しました。探査隊員を乗せたこちらの探査機以外にも探査隊員を指す名称としてもこちら【HIDEN】が使われていますが………』
『賑わってますね。メディアも…世間も』
探査チーム「HIDEN」の司令塔となるモニター室。
そこにはその道のスペシャリスト達が歴史的瞬間の成功のために固唾を飲んで見守り、自分たちの役割を全うするべく待機していた。
その中に全権限を持って司令にあたる飛電インテリジェンス社長、飛電好恵の姿もあった。
そしてそのそばに立つのは秘書型ヒューマギア。
名前は『ウィル』。
このヒューマギアというのは人類の生活をさまざまな観点からサポートする人工知能搭載人型ロボットのことである。
今や生活に欠かせない程文化に浸透しているこのヒューマギアもまた、今回の計画の中心であり元締めである飛電インテリジェンスが開発した商品である。
そんなウィルが真剣な顔で様子で探査機を見守っていた社長に、テレビで報道されている内容を交えてユーモアに問いかけた。
『皆、歴史的瞬間をその目に焼き付けようと、コロニーに住む全員が今か今かと待ち侘びています』
「ああ。連日祭りのような騒ぎだ。こちらの仕事に支障が出るほどに」
『飛電インテリジェンスに勤めていた先人たちが打ち立てた壮大な計画が遂に日の目を見るときですからね。まさに国を背負った一世一代の大勝負。あなた様も地球がどう変わっているか非常に楽しみなのでは?』
「そりゃあもちろんさ」
指令室と世間が見守る探査機「HIDEN」。
その機内では探査チームが地球に降り立った後の行動の最終確認を終えて着陸を待つのみとなっていた。
『間もなくエリアK-21に到達します。降下可能地点の座標に入り次第、衛星アークにアクセスします』
「おっ。ウチのスポンサーのおもちゃが喋ったぞ。偉いなーワズ。与えられた仕事だけやって褒められるんだから」
「ちょっと平山さん。ヒューマギア相手にかりかりしないでください」
探査機に搭載されている男性型ヒューマギア、ワズが進行度合いを音声で案内してくれている。
そんなヒューマギアに平山は辟易とした態度で反応を示した。
平山は機嫌が悪かった。
出発前の昨日。
最後の訴えが上手くいかず。
探査隊のチームに選ばれた同僚も上司の機嫌がナナメなことに皆ヒヤヒヤしていた。
「それにここには中学生もいるんだ。官僚なら官僚らしくもっと手本となる大人でいてくださいよ」
「そうだよなぁ。
「……。」
「俺らはね?ダンジョーさん。この探査に向けて国を背負ってここに来ているんです。日頃から血の滲むような訓練を積んで、根を上げたくなるほどのメニューをこなして身体を鍛え上げて。この場所に選ばれたことを誇りに思ってる。あなた方みたいにひょっこり選ばれて連れてこられた素人と訳が違う。お気楽なピクニック気分のあなた達を見ると非常に虫唾が走るんですよ」
「そんなの。言われなくてもわかってるんだけど…」
壇とは別の、見窄らしくて細身の身体をした男が水をさす。そんな男の野次に平山は一層機嫌を悪くした。
『衛生アークとアクセスしました。大気圏に突入。これより着陸体制に入ります。隊員の皆様は各自自身のスポットへ移動してください』
「…ともかく。着陸したら私の指示に従って動いてもらいます。よろしいですか?鈍ども」
イズの案内により平山と檀らのやりとりは無理やり終了させられた。
テレビで報道されている映像は地球に降り立つ探査機しか写っていないが、探査機内の映像と音声はリアルタイムでコロニーにある司令塔まで届いている。
故にこれまでの様子は全て飛電の社長の耳にまで届いていた。
「……。」
『相変わらず平山様は彼らを認めておられないようですね。社長の人選が初めて失敗に見舞われたのでは?』
「ウィル。今日はやけにお喋りだな。ヒューマギアのお前がまさかワクワクしているんじゃあるまいな」
『地道にひたすら茨の道でキャリアを積んだ彼にとって、壇様他の隊員の方たちはとても異分子に映るのでしょう。あなた様の判断は、織間様を始め、貴方様に仕える数々の重役の方がより一層不安を募らせた。【いったいなぜ、どこの馬ともわからないど素人4人を探査隊に放り込んだのか】ってね』
「……。」
『説明なさらなくて良かったのですか?探査隊に入れた4人の人間…
「何を言っているウィル。彼らに隠す様な秘密なんてあるはずないだろう。あの4人は厳正なる審査の結果、探査隊員に相応しい素質を認められて選ばれたのだ。なるべくしてなった…そういう運命だったのだ」
『なるほど社長。これはいわゆる【嘘】というものですね。やはり人間というものは奥深い生物です。ラーニングします』
社長は少し呆れた様子を見せて手首につけているデバイスを操作すると、宙に複数のホログラムからできたモニターを出現させて手を伸ばした。常人を超える瞳孔の動きとタイピング裁きで人3人分程の仕事量に取り掛かる。徐々に忙しなくなる司令室では相変わらず「HIDEN」に密着するニュース番組が流れていた。アナウンサーの他複数の評論家が並ぶ中に『監督省地球計画局官房長』という肩書きの男がキラキラの笑顔で画面に映っていた。
『では続いて視聴者から寄せられた疑問に答えていただくコーナーに参りましょう。織間さんよろしくお願いします』
『よろしくお願いします』
『まずはこちらですね。6歳の男の子から。【宇宙飛行士はどんな人たちが乗ってますか。そして何をしに行くんですか】という質問ですね』
『はい。今回の探査隊員は皆選りすぐりの宇宙飛行士達が乗っています。劣悪な環境が無事改善されているのか。我々がまた地球に住める様になるのか。色々なことを調べるにあたり危険な場所に行ってくれてるヒーロー達ですね。200年計画通りですと酸素濃度や気温といった要素は当時の状態に整えられている計算ですが、万が一のことに備え厳しい環境の中であっても探査できる様、訓練されています』
『ありがとうございます。続いての質問ですね。11歳の女の子から。【200年かけて地球の環境を整えるとのことですが、いったいどういう事をしているんですか】というものです』
『地球の環境が著しく変わり、生活困難に陥った200年前の当時のニホン国は現在もなお我々の生活に欠かせないヒューマギアの焦点をあてました。複雑な詳細を省いて簡単に説明しますと、巧みな科学力と技術に加え、それを操作、観察する施設とヒューマギアをたった10年で作り上げ、それから24時間365日1分たりとも止まることなく改善を続けていました。それは私たちのお父さんやお祖父さんよりもっと先に生まれた人たちがヒューマギアに負けないくらいずっと見守ってくれてたおかげ、今こうした瞬間を迎えられているわけですね』
『ありがとうございます。では続いての質問ですね……』
目、頭、手の3つの機能を常人を超えるスピードで動かしながら好恵は織間の"メディア様に用意した回答"を聴いて思わず溢れそうになった笑みを噛み殺した。
世間が知らない裏の部分までこの計画のありとあらゆる場面を見てきた好恵。
当然全てが美しく対処してきたわけではない。中には非常な決断を下したり、やむを得ない事実を受け入れてきた。
そんな紆余曲折を経て今この瞬間を迎えている。
そしてこれから起こりうる様々な可能性や危険性に対処できるよう、数多の手を施してきていた。
その中のひとつが『監督省以外の人物を探査隊のメンバーに入れること』だった。
各部署からの反発を受けながらも彼らをねじ込んだのには訳があった。
表になっていない隠されて真実。
願わくばその採用理由として起こりうる可能性がやってこなければ良いのだが…望みは薄いだろう。
好恵は動かしていた手と目を止めて、モニターに映る1人の探査隊員を見つめる。
そして誰にも言ったことのない腹のうちをどっぷりと頭の中で吐き捨てるのだった。
檀 丈一。関 大周。天凱 心。石川 和。
地球に行けば世間にとって初めて"不測の事態"が公になる。
それはここにいる職員も探査機に乗っている監督省の人間も知らない事実。
ぜひ地球でしっかりとその役目を果たしてくれ。
そのための手術。
そのための人選なのだから。
そのためだけに人ならざる者に変えた。
"社会に捨てられた"君たちがたった唯一の生きるための存在理由。
与えた恩をしっかり返しておくれ。
特に4人の中でも1番の"最高傑作"である石川和。
君には大いに期待しているよ。