ボクは魔法を使いたいんだよぉ!!!   作:冬月雪乃

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 視界に景色が戻り、周囲を見渡す。

 前にはナナが既に刀を抜いた状態で構えており、見惚れるほどの綺麗なターンでこちらの正面と向き合うようになると、

 

「──敵!」

「違うボク──ッ!」

 

 油断した瞬間突如として斬りかかられた。

 間一髪、咄嗟のバックステップで回避するが、眼前を高速で上から下に振り抜かれる刀なんて二度見たい光景ではない。

 フレンドリーファイヤは無いにしても怖いものは怖いし。

 

「あっ、ごめんごめん」

「半ばわかってて振ったな……?」

「敵なら死ぬし味方なら死なない」

「倫理観化け物かよこの天使……」

 

 ふふん、とどや顔で無い胸を張る倫理観パッパラパー天使を尻目に周囲の観察を再開する。

 ベースは手堀の洞窟だろうか。

 しかしところどころにスチームパンクな部品が見え隠れしている。雰囲気的には一度埋まった洞窟を誰かが掘り起こした。とでも言いたげだ。

 

「んー、結構趣あるね。こういうの好きな人はたまらないだろうなーって感じ」

「グラもだけど、デザインがかなり良いからね。人気のひとつの理由だし」

 

 さて、いつまでもこうしていられない。

 一歩二歩と前に進み、人二人が並んで歩ける位の横穴を進んでいくことにした。

 警戒は怠らないが、怠らなかったらなんだというのだろう。そもそもこういう戦いとは無縁の世界にいる現代人に殺気や敵意を感じとる機能はもはや退化して存在しないのではないだろうか。

 

「あ。そこ」

 

 いきなり姿勢を落とした金髪天使が曲がり角を壁を使ったアクロバティックなジャンプで右、左、と蹴って跳んで曲がりきる。

 直後、

 

「──兜割ィ!!!」

「嘘やん」

 

 とてもじゃないが刀から出る音ではない重厚な金属音を響かせ、こちらからは死角で見えない何かに当たる。

 次の刹那で軽い爆発音がし、バックステップから地上に降りたナナが血を払うように刀を振り抜く。

 慌てて向かえば球状に手足と、その中心やや上から砲身を飛び出させた何かの機械が左右に半分になって転がっている。

 

「ミニチュアボールゴーレムだって! あれだね、角待ちショットガンみたいなことしようとしてたよ!」

「どうしたら死角の敵を発見できるんだよ!?」

「音!」

 

 当たり前みたいに言わないでほしい。もしかして戦闘民族かなにかで??

 多分これはやぶへびなので言わない。手が滑られたらもう避けられる気がしない。ダメージはないけど心のダメージは負うのだ。主に恐怖で。

 

「ふふん、ナナちゃんの目が黒……今は金か。金の内は角待ちショットガンなんてやらせない」

「角待ちショットガンになんの恨みが?」

「恨みしかないけど……? 見つけ次第刈る」

 

 無垢な瞳でそんな怖いこと言わないでほしい。

 確かにやられる側になるとものすごく苛立つけど。

 

「どんどんいこー!」

「ボクにも戦わせてね!?」

 

 一人でコマンド【ガンガンいこうぜ】を選択したNPCのAIが如く先行して大暴れしようとするバーサーク天使を宥めるのに時間をかけた。

 

  #

 

 遠距離より近距離のほうが敵発見してから攻撃するまでが早いらしい。

 ボクが魔法を発するより早くナナは敵を撫で切りにする。

 一発くらいは当てられるものだと思っていたが、そんなことはなかった。

 

「んもぅ、シエンも戦いたいんだねぇ」

 

 男の子なんだからぁ! と愉快そうに笑う殺戮天使に思わず苛立ちを抑えずに反射的に言い返してしまう。

 

「そりゃ魔法使いたいからね!? 後衛だから仕方無いとはいえ全部敵持ってかれたらなんもできないからね!?」

「あはー、そこは、その……ごめん……」

 

 いいけども。

 ちょっとしおらしく反省の色が滲む声を出されると弱い。

 多分世の男だいたいそうだと思う。

 

「じゃあ次の敵はシエンに任せよう!」

「りょーかい、見つけたら教えて」

 

 もちろーん、と先導するナナの後ろ姿に頼もしさを感じつつ同時に恐ろしさを感じる。

 奇襲ボーナスと多分PSだろう動きで敵を次々と刈り取る様はもうなんかの徘徊型ボスに見える瞬間すらある。

 ……いやまて、あれがPSなら現実でも同じ動きが……? いやいやいやいや……まさか……そんな……。

 恐ろしい想像を振り切って並び歩いていると、突然ナナが立ち止まった。

 

「……なにか聞こえる」

 

 真面目な顔をして服を掴んで制止してくるナナを振り向きながらまずは、と確認する。

 

「敵?」

「多分。でも今までのとは何だか感じ? か違う。なんか重たい」

「……まじで前世異世界のベテラン戦士かなにかだったりしないだろうな」

 

 これで本当に徘徊ボスとかちょっと強いエネミーだったらほんとにその可能性を考慮にいれないとなら無い。電子世界で気配探知と力量読みってなんだよ。

 

「やってみる?」

「やろう。ナナがいたら負けることは少なくとも無さそうだし」

「うーん信頼がプレッシャーだなぁ! でもやるだけやろっか!」

 

 快活に笑うナナが頼もしく見えた次の瞬間、背後から膨大な熱が速度と轟音を伴って通路を埋め尽くした。

 

 #

 

「まずいよ!!!」

 

 ナナが叫び、通路を逆走する。

 そうすると捕まれていた自分は彼女が電子世界で開花したやばい身体能力についていけないので服を起点に引き摺られていくような形となる。

 結果、とんでもない三次元立体軌道に合わせて壁やら天井やらに己の身体をあちこちぶつける羽目になった。

 待避してる最中に見えた背後は、熱で暖められた大気で揺らぎ、その熱によって壁や天井に埋められていた金属たちを融かしていた。とんでもない熱だ。

 しかも、炎のようなわかりやすく視覚で見えるものではなくて熱そのもの。攻撃の瞬間を見てはいないので詳細もわからない。

 一応熱自体は回避してノーダメージではあるのだけど、突然のジェットコースターに心拍数がはね上がることとなった。今はこちらの方がダメージがでかい。

 こいつダンジョン入ってからずっとこんな光景見てんの? まじで身体能力だけで化け物じゃん……。

 思わず悪態をつきかけるが、しかし実際これで熱を回避できたのは間違いないので喉奥……というには大分手前まで出ていたがなんとか口で留めることに成功。

 余計なことは言わないに限る。沈黙は金というやつだ。

 

「さて、わたしはさっき次の敵はシエンくんに任せよう! って言ったよね?」

「おいおいまさか嘘だろ……?」

「わたし見てるから!! シエンくんが魔法使ってなぎ払うとこ!!」

「見せ場作ってあげるわたしえらい! みたいな顔するなよ!? どうみても激やば案件でしょ!? 二人で行こうとかじゃないの!?」

「約束は約束」

「そこまで融通聞かないタイプの人類だっけ!?」

 

 多分冗談だこれは。そういうタイプの女ではないことは知ってるし。……いや、ここに来て新規情報多すぎてちょっと断言できてないとこあるけど基本的には人の心を持った女の子だと思ってる。

 だから多分ピンチになったら協力とかそういう方針だろう。こっちも魔法使えてなくてフラストレーション溜まってたし。

 よし、気持ちは新たに。やってこう!

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