さて、基本的にUWOにおける魔法の立ち位置といえば第一に固定砲台だ。
魔法を詠唱しつつ、パーティの邪魔にならない立ち位置から一方的に攻撃を仕掛けるDPSとしての役割。そして隊列の最後列に陣取り、回復やバフ、デバフなどを振りまくヒーラー。
特にこの手のMMOにおいてはDPSもヒーラーもへイトを取りすぎないように引付役であるタンクと息を合わせる必要もある。
ここに関しては今回考えなくてもよさそうではあるが。
そこに今回考えることはもう一つある。
属性だ。
UWOにおいて属性はシンプルに火水土雷、そして無だ。
前者が魔法による付与で受けられる恩恵、そして後者が武器などの魔法を介さない攻撃で発生する属性値で、当然ながら弱点属性であれば大きくダメージを与えられることを期待できる。
今回の敵は熱で直接攻撃してきたので火属性を持っていそうだとは感じるので一旦撃つのは水属性にしよう。
ふう、と呼吸を整えて改変した呪文を思い出す。
初級であるのに文節は長く、それは殴ったほうが速いといわれるわけだわ、と納得もした。
しかし考えてみても欲しい。
自分が考えた最強の魔法を作れるのだ。心ときめかないわけがない。
もちろんいろんな制約はある。
そこをクリアしつつ、どれだけ自分の理想に近づけるかがロマンであるのはもはや言わなくてもわかることだろう。
「とどのつまり、実はボクも高揚してるってわけだよね」
眼前。同意を示すように機械の巨兵がそのぼろぼろの装甲を壁にこすりつけながら現れた。
経年劣化だろうか、錆と破損で大きく欠損し中身がむき出しで配線やパイプといった部品も丸見えだ。
頭上、そのエネミーを示す名前は強敵を示す黒。
座する名前は、
「徘徊する警備ゴーレム兵、ね!」
返答は言葉でなく、赤く輝くモノアイからのレーザービームによって行われた。
#
「──
間一髪。直線的な、しかし超高速の攻撃を何とか回避しながら呪文を紡ぐ。
UWOで呪文とは二つに分けられる。
何を、どのように、どの属性で、を示す詠唱詞と効果をパッケージングした魔法の名前で成る起動詞だ。
詠唱詞を間違えたらエラーを起こして起動詞が合っていても発動しないし、起動詞を間違えるとマナバーンと呼ばれる自爆判定が発生してダメージを受ける。
また、起動詞は省略できないが詠唱詞はカットもできる。その場合は威力がとんでもなく低くなるが。
「
眼前、左右に魔法陣が形成される。
いくつかの三角と四角、そしてそれらを囲む円とさらにその外側を回転するラテン語。
その奥でゴーレム兵がまるで丸まるように姿勢を変えるのが見える。
防御だろうか。
いや、この五感に直接暑さを叩き込んでくる感覚、これは、
「最初の熱攻撃!」
理解した途端、丸まったゴーレム兵の背中から蒸気が噴出した。
「
左右の魔法陣が水で出来た手を構成する。
それはこぶしの形で現れ、そして親指と人差し指を伸ばし、ゴーレム兵を指さす。
すると人差し指の先端に水が集まり、そして射出された。
数は二発。左右同時攻撃だ。
これは初級魔法、ウォーターフィンガーガンとかいうダサいネーミングのものを改変したものだ。
その効果は指から出てくる水鉄砲。
詠唱詞含めてものすごくダサかったので全力で改変した力作の一つだ。
そして丹精込めたそれはこの虚構世界で実像を結び、ゴーレム兵の熱攻撃を蒸発の音と水蒸気を巻き散らしながら一発で相殺。残った一発でその顔面を大きく濡らした。
エネミーの名前の上に表示されたHPバーは一割を削った。やはり弱点だったのだろうか。あと十回当てたら勝てる。
「敵性生命体、抵抗の意思を確認。魔法攻撃での迎撃に移行」
「うっそお前話せるん!?」
ゴーレムの胴体に魔法陣が浮かび上がる。
そこに描かれている文字は、
「
搭載されている自動翻訳を通して得られる情報に驚愕を得る。
そして魔法陣から少しずつ頭を出すように構築されていく円錐が頭についた円筒形の物体にその情報の正確さを知り、そして空気を吸い込むような轟音が響く。
「発射」
「ああ! もう! 魔法どこいったんだばか! 【
手をかざした壁から生えるように盛り上がった土の壁が視界を覆いつくした瞬間、とてつもない衝撃が迷宮全体を覆った。
土煙もひどい、なによりも衝撃で大きく吹き飛ばされた。床のゴツゴツした感触がある。倒れているようだ。
HPも残り二割とだいぶ消耗してしまった。
「ナナ!」
「はーい、やばかったね今の攻撃!」
「無事か、良かった」
シエン君を避難させる余裕はなかったけどね、と申し訳なさそうなナナに笑いかけて手を伸ばす。
ほい、と当たり前のように握って引き起こしてくれる姿に頼もしさすら感じる。
「正直やばい。多分ほんとに徘徊型かなにかのボスだと思う。一応魔法一撃で一割行ったから十回当てたら勝てるんだけどMPが心もとない」
「うん」
「だから、タンクは任せた」
了解、と笑うナナの顔は過去見たことがないほど頼もしかった。
#
天使は駆ける。
壁も天井も床と同じに足を掛け、前へ前へと。
途中、赤熱したレーザーが飛んでくるが難なく回避。
ミサイル攻撃が来るかと思ったがなかなか来ない。これは近すぎて自分にもダメージがあるか、それとも何らかのスイッチがあるかと見ていいだろう。
じゃなければこの狭い通路で撃ってこない理由がない。
あくまで思考の片隅に置いて置くくらいにしよう。
刀の射程──にはすこし遠いが許容範囲。ここで一撃を入れてヘイトを取ろう。
鯉口を切る。
「【剣技:一閃】」
身が加速する。
アバターのデータが発動したスキルのプログラム通りの動きをなぞる。
実を言って、ナナはこのシステムが苦手だった。
自分の体が誰か知らないものに動かされているおぞましい感覚。
しかし、システムだからこそできることもある。苦手だがそこは割り切ろう。
一閃のシステム上の動きはすなわち、自分の直線状五m以内の敵一体に車ほどの速さで接近し、横凪に剣をふるうというもの。
これは配信者がPKに絡まれていた時に使った小技のようなもので、通常の自分の足ではとても出ないような速度で移動することを目的としていた。
だからそれを参考にして文字通りに移動として使ったのだ。
あっという間にゴーレム兵の隣に体が近寄る。
そして滑らかにその胴に刃を立てた。
「んぎっ!?」
硬い。歯が立たない。
振りぬくまでの数舜、火花を散らして鈍い音を響かせるが、その攻撃はシエンの放った攻撃の半分にも満たない。
「なるほどぉ……これは、ちょっときついかもね」
素早く背後に回り、ゴーレム兵が胴を回転させて振り向くと同時に露出しているホースを狙って刀を振りぬく。
ぱす、と気が抜けるような音とともに特になんの問題もなくホースが両断された。
「ちょ、うわっ」
しかしそれは悪手だと気づいたのは切った瞬間だ。
中から高温の水蒸気が笛を吹くような音とともに噴出したのだ。
しかも攻撃判定があるようで、HPは少しながら削れたし、状態異常に火傷とかいうDot系のデバフがついてしまった。
素早くバックステップしたことで水蒸気を浴びた時間こそ少ないが、これはたぶんスリップダメージを与えてくるタイプだ。
「こーりゃ、近接職は厳しいぞお……」
刀を握り直し、正眼に構えながらナナはさてどうしよっか、とつぶやいて不敵に笑った。