魔法少女ナラティブ   作:MOPX

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夏祭り中止!! 二度目の世界の危機!!

 

校舎をはさんで反対側。

黒い巨人はその高さを増していく。

校舎がちっぽけに見えるくらいに。

 

もしもこちらに近付けば、どうなるか――。

 

 

「くそ……!! また懲りずにやってきたわねモンスター!! みんなが楽しんでいたお祭りをめちゃくちゃにするなんて……」

 

「……」

 

「何、藍子? その無言は? モンスターだよ!! モンスターがやってきちゃったんだよ!!」

 

「……そう、これはあなたが招いたモノ(・・)よ。自分が何をしたのかわかっているの?」

 

「いや、何を言ってるの!?」

 

 

さっき大衆の面前で殴られたことは水に流そう。

 

人類にとっての脅威は、まだ動く気配はない。

これだけ人が集まっている場所だ。

少しでも被害を抑えないと。

 

藍子の視線はこんな状況でも本を向いたままだ。

今更、何も言うつもりはない。

 

でもやるべきことは藍子にだってわかってるはずだ。

 

そう思いながら裏庭の方を向いた。

 

 

「……何をするつもりなの、あなたは?」

 

「何って……!!」

 

戦うに決まっている。

 

私達は魔法少女なのだ。

日常を守る魔法少女なんだ。

多くの無辜(むこ)の人間を救うために戦うのだ。

 

藍子だって、同じ気持ちのはずだ。

どんなにひねくれたって、根は変わってないんだから。

 

 

でも、私の思ってもない答えが返ってきた。

 

「……そう、戦いたくてしょうがないのね、あなたは」

 

「え……? 意味がわからないよ!! 私はみんなを守らなきゃって!! ほら!! みんな走ってる!! 叫んでる!! 転んでいる子がいる!! だから……!!」

 

「……戦いたくて、しょうがない」

 

「そんなこと言ってない!!」

 

頭に血がのぼる。

こんな時に藍子は何を言ってるんだ?

 

魔法少女の目的。

私がそれを答えることができなくて、機嫌を悪くしてるのか?

 

あの質問は、それほどまでに大事なことだったのか?

確かに、何でか声が出なくて驚いたけど。

 

それよりも、だ。

 

「藍子、一人でちゃんと安全なところへ逃げて」

 

「……あら? ふてくされてしまったの? 少し言い過ぎたかしら。でもその選択はどうなのかしら」

 

「また、まだるこっしい言い方を……!! 私があのでかいモンスターを倒す!! それで終わりでしょ!?」

 

「……無理じゃない? 1週間くらい前の戦いであなたは、ただの雑魚モンスターにも劣勢だった」

 

「うぐ」

 

そうだった。

 

今から一週間ほど前、萌黄さんにインタビューを受けた時にもモンスターはやってきた(・・・・・)

結局、追い払えずに萌黄さんが何とかしてくれたんだ。

 

「……そもそもあなた、武器を持ってないでしょう」

 

「うぐぐぐ!!」

 

でもって、その時に愛用の魔法棒が折れたんだった。

金属疲労で。

 

いつもフワフワした物言いなのに、何でツッコミだけ明瞭で的確なんだ、藍子。

 

 

――みなさん!! 下がってください!!

 

 

避難で混乱する中、校庭の一団が、声を張り上げた。

数は七人、色は七色。

 

お祭りの最初で花火を打ち上げていた子たち――。

 

轟音。

 

七色の花火――いや、砲弾が巨大なモンスターへと発射された。

カラフルな火花が、黒い巨大を彩る。

 

だが、それだけだった。

 

黒い巨人は、体をぶるぶると震わせて、ゆっくりとその体を動かそうとする。

 

呆然と立ち尽くす少女たちは、次の瞬間には悲鳴をあげていた。

周囲の大人たちが、花火を放った子たちに駆け寄り、ともに走り出す。

 

私はそのやりとりを、やるせない想いで見ていた。

魔法少女の力が平和な世界で活用される。

そんなことを、夢見ていたのに。

 

――やっぱり、私が行くしかない。

 

そう思った矢先だ。

 

「茜谷さん……!! 萌絵がどこに行ったか知りませんか!?」

 

声に振り返れば、少女が四人ほどこちらを見詰めていた。

萌黄さんの友達たち――。

 

そういえば見当たらない。

一体どこに――。

 

「萌絵のやつ……もしかしてあのモンスターのところに!!」

 

「あり得る……ギモエーなら!!」

 

わちゃわちゃと騒ぎ出す子供たちをなだめる。

とにかく、子供たちの安全が最優先だ。

 

この子たちが萌黄さんを探しにいって、もしものことがあれば……。

 

四人に、安全な方へ避難するように伝えた。

 

「萌黄さんは、私が探すから」

 

そう伝えて。

 

 

心配そうにする四人を見送る。

 

後は、だ。

 

「藍子、あなたも」

 

「……。何を言ってるの?」

 

「あなたも避難してって言ってるの!! ほら、ベビーカーから降りて!! それくらいはやってよ!!」

 

「……イヤ」

 

「は??」

 

「……あなたがこの車を引かないのなら、私はずっとここにいる。意味がないもの。どこへ行っても」

 

「あ~~~~も~~~~!!」

 

取っ手をつかんで、そのまま驀進(ばくしん)

何やら振り回されてばかりだ。

 

周囲から呼ばれた気がしたが「魔法少女なんで!!」の一言とともに過ぎ去る。

萌黄さんも藍子も、どうしてこう私を振り回すのが得意なのか。

 

魔法少女の目的の話はいったん保留!!

今は萌黄さんを探す!!

 

 

漆黒の巨人は、その向きをゆっくりと変えていた。

 

 

 

 

私達が向かったのは校舎の裏。

この学校に来てすぐ、お母さんに連れられた藍子を探しにきた場所。

一度訪れたことのあるその場所には変化があった。

 

黒い巨人の足元であるそこは、流れ落ちた体の一部により黒く染まっていた。

まるで黒い絵の具で、塗りたくったみたいに。

 

 

萌黄さんは、すぐ見つかった。

 

 

「萌黄さん!!」

 

既に変身をしていた萌黄さんの後姿が見えた。

勇敢な後姿は、肩で息をしているのがわかった。

 

黒い巨人に一人で立ち向かおうとしていた彼女は、よくわからない何かと戦っていた。

 

黒いものがうにょうにょと。

 

生えてくるみたいに。

 

 

気付く。

 

 

巨人からボタボタと流れ落ちたもの全部が、モンスターの種。

ここ一帯は、もう既に黒の領域。

 

当然、私達の周囲も。

 

黒い塊がひとつ、私の前でうごめいた。

萌黄さんとの間に立ちふさがるみたいに。

 

「藍子!! しばらくここに置いとくけど大人しくしててよ!!」

 

「……。どうするつもり?」

 

「目の前のこいつを倒して、萌黄さんを助けにいく!!」

 

「……どうやって?」

 

「どうやってって……」

 

しゃべってる間はモンスターも空気を読んで止まってくれる……なんてことはさすがにない。

黒い塊は、いったん平べったくなり、一気に縮んで跳躍。

 

私と、藍子の乗った専用車を飲み込もうとしていた。

 

「わかんないけど、何とかする!!」

 

手のひらをかかげて、叫ぶ。

どんなに不格好でも。

唐突にしゃべれなくなったりしても。

 

私は魔法少女なのだから。

 

「クリムゾン・ファイアーーーー!!」

 

魔法の杖なんか飾りだ。

気合を出せば、浄化の光は手の平からだって――。

 

「あ”あ”あ”あ”!?」

 

赤い光がむちゃくちゃ拡散する。

手はぶるんぶるん震えていた。

その挙動、ちゃんと抑えていないホースのごとし。

 

やっぱり無理だったかもしれない。

 

「……アホの茜」

 

聞き慣れた皮肉が耳に届くころには、私達は黒い影に覆われた。

重たい感触と共に、視界は真っ暗に。

 

残念!! 私達の戦いはここで終わってしまった……。

 

 

とは、ならない。

 

 

ポジティブに考えよう。

周りを覆われたということは――。

 

どこに何を撃っても当たるってこと。

 

「クリムゾン・ファイアー拡散バージョンーーーー!!」

 

手の平からもう一度。

思いっきり暴発させる。

 

敵も、こんなのでひっくり返されたらたまらんと強固にこちらを抑え込もうとする。

暗闇の深さが増した。

 

まあでも、それならそれで。

 

「1.5倍だああああぁぁぁぁ!!」

 

出力を上げる。

 

視界が開ける。

赤い光は黒い塊を突き破って、私と藍子は外の世界へ。

 

専用車の上で、みじろぎもせず藍子が言う。

 

「……ずいぶんと強引な突破方法ね」

 

「機転が利くって言ってよ」

 

こんなところで止まっていられない。

だって私はまだ――。

 

魔法少女の目的が何か。

萌黄さんに伝えていない。

答えが出ているはずの、それを。

 

 

「萌黄さん!!」

 

萌黄さんは、黒い塊に囲まれていた。

四方八方からの体当たり攻撃。

捌くのにも限界がある。

 

背後からの一撃が黄の変身服にクリーンヒット。

小さな悲鳴と共に、萌黄さんの体がびくんと跳ねる。

 

黄の装飾が黒く汚れる。

それを号令として、周囲の塊も飛びかかる。

 

 

「萌黄さ」「はあああああぁぁぁぁ!!」

 

萌黄さんの体が黄色の光に包まれる。

飛びかかっていた敵は、もう避ける時間もない――。

 

 

「イエロー・プラズマボンバァァァァ!!」

 

少女から広がった黄の稲妻が、敵を貫いていく。

終わった時には周囲の黒いシミは蒸発していた。

 

 

「わざと敵を近づかせて一網打尽にするなんて……なんて強引な突破方法なの!!」

 

「……。鏡を見たことがあるの、あなた」

 

失敬な。

これでも16歳の女の子だ。

 

そんなことより、萌黄さんのことだ。

息を切らして、今にも膝を付きそうな少女のことだ。

 

とりあえず、肩に手を――。

 

「っ――!!」

 

静電気みたいに、ばちっと黄の光が弾ける。

まるで私のことを拒むように。

 

「触らないでください……!!」

 

「萌黄さん……? いやいや!! 助けにきたんだよ!! 何で一人でこんな無茶を――」

 

萌黄さんが振り向き、背筋が冷えた。

ぎらぎらと輝く黄の瞳が、こちらをとらえていた。

私の存在を見透かすみたいだ。

 

 

「こいつは……私が倒さないといけないんです!! あの時だって……!!」

 

「あの時……?」

 

あの時ってどの時だ。

わからない。

 

私には萌黄さんが何を言っているかわからない。

 

じゃあ、藍子なら?

藍子ならきっと、私がわかるように――。

 

 

「……目的ね。モンスターの」

 

「は???」

 

「……散々説明したでしょう。モンスターはどこかへと向かっている。宇宙の外……そのために、カギになるもの(・・)が存在する」

 

「いや、いやいや!! そんなこと一言も言ってなくない!?」

 

「……説明した。私達が4年前に戦ったあの時の戦い。きっとその時は『組織』はモンスターが狙う何かがこの町にあると気づいた。そしてこの町を『特区』として、巨額の資金を投じて魔法少女の集まる場所とした……」

 

「は~~~~!?」

 

 

黒い巨人がこちらに完全に向きを変えた。

アリから見た象さんってこんな感じかな。

それくらいのスケール感。

 

「藍子ぉ!! 萌黄さんを引っ張って!! 私はなぜか萌黄さんを触れないから、手伝ってよ!!」

 

「……『組織』は恐らくこの土地自体に何かがあると考えたのね。でも、それは違っていた。あの時も、今も、モンスターが向かっている場所は――」

 

「無視ぃ!? ほら!! 萌黄さん!!」

 

「私は……守られてばっかりはイヤだと思って……それでみんなを守りたいと思ってたのに……でも……こんな……」

 

 

だめだ、藍子も萌黄さんも自分の世界(・・)に入っている。

敵は当然待ってくれないので、校舎を踏み潰せそうなそのバカでかい足で、私達を踏み潰そうとしていた。

 

かくなる上は――。

 

「クリムゾン・ファイアァァァァ!!」

 

応戦するのみ!!

 

相変わらず手の平から、上手く制御できず光がばちばちと溢れる。

藍子も萌黄さんも動けないなら、私がやるしか――。

 

黒い足が、ゆったりと私達との距離を縮める。

 

やばい、やばいやばい。

 

拡散した光じゃやっぱり全然威力が出ない。

こうなったら出力を上げるしか――。

 

『10倍!! 100倍!! 1000倍!! 1万倍!!』

 

「あ……」

 

今よりも高い声。

何も考えていない、無邪気な。

 

あの時、私が調子に乗ったせいで藍子は――。

 

 

次の瞬間には、黒い足が私達を覆った。

 

「うわああああぁぁぁぁ!?」

 

体がぞっと冷える感覚。

喉が、本能のままはちきれんばかりに叫ぶ。

 

さっきみたいに体の中から攻撃して倒す?

私達の存在が、完全に消えてしまう方が早いだろう。

 

今度こそ、私達の戦いは終わってしまった――。

 

 

……?

 

 

おかしい、痛みとか、衝撃とか何もない。

怖くて目をつぶっちゃったけど、恐る恐る目を開ける。

 

そこには――。

 

黄の光をばちばちと散らす萌黄さんがいた。

サイズ差著しい巨人の足を、体ひとつで止めている。

 

「私が!! 私が何とかしなきゃいけなかったんです!! でも、そうじゃなかった……!!」

 

「も、萌黄さん!? 落ち着いて!! そのまま良い感じに力を制御してモンスターを倒しましょう!! ほら、藍子も応援して!! フレーフレー萌黄さん!! 頑張れ頑張れ萌黄さん!!」

 

「……やっぱりそういうことだったのね」

 

こんな時でも、藍子は本を開いていた。

どう考えてもそんな場合じゃない!!

 

萌黄さんから発せられる光は、次第にその強さを増していく。

私達の世界全てを包み込むみたいに。

 

「これって……」

 

あの時と同じだ。

私が、4年前に巨大なモンスターを倒した時と。

 

 

「うおああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!!」

 

 

言葉にならない叫びが、空間を支配する。

真っ白な光が私達を包む。

 

そのまま、私の意識は、どこかへと落ちていった。

 

 

 

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