魔法少女ナラティブ   作:MOPX

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なぜだ友よ!! 異空間バトル!!

 

白い光と共に、意識は光の中に。

 

否、自分自身が光になるような感覚。

 

体が砕け、あるゆる外界とのインターフェースがなくなる。

 

存在としての純度だけが、その場に残る。

 

残ったのはちっぽけな赤い光だ。

 

かつて『情熱』とか『熱意』だとかを表した『炎』が肩身せまくひっそりとしているだけだ。

 

しがらみとか、外見とか、人間に関するあらゆるものを一枚ずつ剥いでいくと、

 

最後に残るのは抽象的な何かなのかもしれない。

 

たとえば『色』とか。

 

 

……。

 

 

それだけ、なんだろうか?

 

まだ、『私』は伝えれていない。

 

藍子に、萌黄さんに、自分の想いを伝えていない。

 

 

魔法少女の目的を。

 

私の答えを伝えていない。

 

 

だったら――。

 

 

もう一度、魔法少女を始めよう。

 

 

 

 

「ここは……?」

 

目を覚ませば見知らぬ建物(床があるから多分そう)の中にいた。

辺りは暗くてよく見えない。

 

自分のいる場所が一段高くて、見渡せる。

誰もいない真っ暗なその空間は、体育館より一回り広そうといった塩梅だ。

 

当然、何がどうなったのかわからない。

 

わからないなりに状況を整理しよう。

私、藍子、萌黄さんの三人はめちゃくちゃデカいモンスターと戦い、踏み潰されそうになった。

そこで萌黄さんが突然発光して、パワーアップかと思いきや暴走。

 

私達全員、白い光に包まれて、それでこうしてよくわからない場所にいる。

 

そうだ、まずやらないといけないのは――。

 

 

「藍子!! 萌黄さん!! どこかにいるの!? いたら返事をして!!」

 

『……愚かなものね』

 

「この声は……!!」

 

わけのわからない空間に、良く知っている声が鳴り響く。

 

『……こうなったのもあなたのせいよ。あの時、あなたは何を考えていたの?』

 

「何をって……とにかくあのデカいモンスターを倒さなくちゃって……」

 

『……それより前』

 

「え? 萌黄さんを助けなくちゃ~って」

 

『……もっと前!!』

 

「ええ? 覚えてないよ……」

 

『……考えたでしょ。あなたは』

 

 

――藍子といっしょに、ステージで劇をやってみたかった。

 

 

『……って』

 

天空から、私のいた場所が照らされる。

ここは舞台だ。

一段低かった場所は、観客席だ。

 

舞台の端が藍色のスポットライトで照らされる。

悠然と歩いてくるのは、良く見知った顔。

さっきの声の、主だ。

 

藍原藍子。

 

中世の貴族が身に付けてそうな軍服は、藍色に染まっていた。

片手で相変わらず本を抱えていたが、問題はもう片方の手。

なぜか、細長いヒョロ剣を持っている。

 

 

「藍子……?」

 

 

ぶんっ!!(剣がぶん投げられる音)

 

「ひえ!?」

 

滑らかな軌道を描いた刃物が私めがけて飛んできた。

あわや、体を貫く勢いだったそれが、目の前に突き刺さっている。

 

「いきなり何をするの!? 殺す気!?」

 

「……死んだりはしないわ、私もあなたも。最初から存在してないようなものだもの。……知ってるでしょ、あなたも」

 

「何を言ってるの!? さすがに怒るよ!!」

 

藍子は意に介さず観客席に目をやった。

割と本気で怒ってるんだけど、無視。

いくら私達の仲でも、やっていいことと悪いことがあると思うんだけどな。

 

そう、現実(・・)でいきなり刃物を投げつけるなんて、許されることではないのだ。

 

「……ここはさっきまでの世界から一段階、高い階層よ。劇。世界を作っているのか、あるいは世界が作られているのか……」

 

「ああ~~~~。藍子さーん。自分の世界に入らないでくださーい。あとさすがに謝って。死にかけたんだぞ☆」

 

「……自分の世界? ここはあなたの世界よ。アホの茜」

 

は? と露骨に悪態をついてしまった。

ノリノリで軍服コスプレをして、何を言ってるんだこの子は?

 

 

「……だから言ったでしょう。4年前のあの戦いで、この世界は滅びるはずだった。その運命をあなたが歪めてしまった。これはあなたが創った世界……未練がましく、この世界に何かがあると、無責任に、何の保証もなく、グッダグダの、何もない、本当に何もない毎日に世界を付き合わせてるのよ」

 

「え、ええええ? ちょっと待ってよ? 私? 私が悪いの?」

 

「……問答無用」

 

藍子は手にしていた本を放り投げた。

代わりに、鞘におさまっていた細長い剣(2本目)を取り出した。

 

「……この世界にはやっぱり意味なんてなかったの。剣を取りなさい、茜谷茜」

 

捨てられた本のタイトルは、『魔法少女』だった。

 

 

 

 

キンッ!! キンッ!!

 

金属と金属の触れ合う音が静寂の中で鳴り響く。

 

藍子の鋭い突きを、私は何とか横にさばく。

 

それでもなお、畳みかける攻撃に私は押されていった。

 

……普段は全く自分から動かないくせに、何でこんな時だけ元気なのよ!!

 

 

「わかんない!! なんで私と藍子がステージの上でチャンバラやってるの!? 何もわかんないよ!!」

 

「……魔法少女が想いを力にするものなら、その表現方法などささいなこと。あなただって本当はわかっているんでしょう?」

 

「わかんないよおおおおぉぉぉぉ!!」

 

魔法少女が何で剣を持って戦わないといけないのか。

それは誰にもわからない。

 

確かなのは、藍子が私を本気で倒そうとしていること。

つまりこのまま抵抗しなければ、やばいことになるということだ。

 

ならば、抵抗する。

 

「てぇぇい!!」

 

すっ、と藍子の体が後ろに下がる。

清流を思わせる淀みない動きだ。

 

「避けられた!! うおー!!」ぶんぶんぶん!!

 

「……無様ね。その闇雲な攻撃は今のあなた自身よ」

 

「知ったようなこと言うなああああ!! さっきまでベビーカーに乗ってたくせにぃぃぃぃ!!」

 

なおも続く剣戟(けんげき)の中でも、私の頭はひとつの事実でいっぱいだ。

 

何で私は藍子と戦っているんだ?

私は藍子を助けたいんじゃなかったのか?

心を閉ざしていた友人を、何とかして救いたいんじゃなかったのか?

 

ずっとそれが、私の目的(・・・・)だったはずなのに。

 

 

本当にそうだったのか?

 

もしかして、もしかすると――。

 

心を閉ざしていたのは、私もだった。

 

 

「……隙あり」

 

「あ!!」

 

藍子の一撃で弾かれた剣は真上に縦回転。

 

刃がこちらに向けられる。

 

「……この世界にはやっぱり何もなかったのよ。萌黄さんには悪いことをしたわ。私達がずっと何も見つけてあげれなくて、あの子は一人で悩み続けてしまった。……これ以上、付き合わせるのはよくないわ。あなただってわかっていたでしょう、あの時から……」

 

「あの時って……? ちゃんと説明してよ……お願いだから……」

 

「……とぼけるつもりなら、もういい。何も知らないフリをしたまま、消えなさい」

 

頭に浮かんだ一言。

 

その一言が言えなかった。

あの時と同じだ。

私が魔法少女の目的を、言えなかった時と。

 

私はずっと逃げていたのかもしれなかった。

答えを出すことから。

それを人に伝えることから。

 

だから、ずっと『茜谷茜』を演じていた。

赤色の魔法少女を。

 

だったらどうすればいい?

 

ひとつずつ、私を形作るものを剥いでいって、何が残るのか?

いや、違う。

 

本当に、何かが残るのか?

 

 

突剣が、奔る。

 

「……終わりよ!!」

 

「!!」

 

 

ガシッ!!

 

 

……。

 

 

……。

 

 

「……何、この音は?」

 

「受け止めた」

 

「……は?」

 

「私が……藍子の剣を受け止めた音!!」

 

 

その通りだった。

真剣白刃取り。

我が国に伝わる、伝説の技。

 

当然、私にだってできる。

 

だって――。

 

「私は魔法少女だから!! ふん!!」

 

両手に赤い光を込める。

そのまま藍子の刀……じゃなくて突剣をへし折ってやった。

 

誇りを重んじ、刀を振るった侍。

かけがえのない想いを以て日常を守る魔法少女。

 

それらに、一体どんな違いがあるだろうか?

 

驚いている藍子に鼻を鳴らしてみせる。

種明かしはこうだ。

さっきのモンスターとの戦いで、素手(・・)での魔法力コントロール(・・・・・・・・・)を私は身に付けていた。

 

だからこそ、できた。

この世界に意味のないことなんて、ひとつもない――。

 

「藍子、忘れてたね、私の機転の良さを」

 

「……そう、あなたの存在の純度が増した……そう言いたいわけね」

 

「違う。というか何を言ってるのかわからないよ、藍子」

 

「……何ですって? この期におよんであなたは――」

 

「これは……私達が紡いできたものだよ。意味のあるものなんだよ!!」

 

「……何を言っているの? ……全然わからないわ」

 

「じゃあ、わかってもらう!! わかってもらうまで、藍子にそれを伝える!! 私達に必要なのは戦いじゃない!! 何かこう……おしゃべりする感じだよ!!」

 

「……話し合うこと、とかって言いたいのね」

 

「あー、うん!! そういう感じ!!」

 

そうだ、逃げていたのはきっと私もだった。

このままの関係でいいって、心のどこかで思っていたのかもしれない。

4年前に、自分が原因で藍子が心を閉ざして怖かったんだ。

 

何かを人に伝えることが。

自分が人に影響を与えることが。

 

だから、あの時も、魔法少女の目的が急に言えなくなった。

 

でも、それじゃあダメなんだ、やっぱり。

 

 

「まあやっぱり魔法少女同士が戦うなんておかしいしね。ほら、藍子。あなたに武器はない。素の運動神経は私の方がいいからね。忘れたとは言わせないよ」

 

「……いいえ、忘れているのはあなたよ」

 

「へ?」

 

「……剣はもう一本ある!!」

 

 

その通りだった。

縦回転しながら剣が、藍子のもとへと落ちていく。

 

目の前の少女は、小ジャンプしてその武器をキャッチ。

(着地がヘタでよろめいていたが、心配の声を藍子は意にも介さない)

 

私がもともと持っていて、藍子に吹っ飛ばされていた剣。

それが今、藍子のもとに渡った。

 

「ず、ずるい!!」

 

「……ずるいのはあなたよ。全てに気づいていながら、全てに気づいていないフリをしている」

 

「だから何のこと!? ちゃんと説明して話し合おうよ!! でも刃物は危ないから体当たりで剣を吹っ飛ばす!! うおおおー!!」

 

「……だから言っている、この世界には何もないって」

 

武器を持たれた以上、長期戦は不利。

だからこその奇襲。

私と藍子の運動神経を考慮すれば、必中だったはずの一撃。

 

だが、私の体は空を切った。

 

瞬時に藍子は、滑るように、移動したのだ。

 

 

藍子はベビーカーに乗っていた。

 

 

「え? ええええ?」

 

「……もうあなたに押してもらう必要はない」

 

藍色の翼が生えると、そのまま藍子はステージから観客席へと飛び立つ。

そのままゆっくりと旋回。

 

藍色の光を撒き散らし、剣をこちらへ構えながら――。

 

まっすぐに突っ込んできた。

 

 

――世界を滅ぼす、無理心中。

 

 

「……さようなら、アホの茜」

 

 

遥か遠くでつぶやかれたはずのその一言は、私の耳になぜか届いた。

 

 

どうする?

 

どうする????

 

 

この速さじゃ、真剣白刃取りは無理だ。

たぶん、反応した時には私の頭蓋骨に剣が刺さってる。

手の平から光を出して応戦?

 

……ダメだ、光を引き裂いて藍子が突っ込んでくるイメージしか湧かない!!

 

これじゃあ、もうどうしようも……。

 

 

結局、私には何もできなかった。

 

ふさぎ込んでしまった藍子を助けることも、萌黄さんに魔法少女が何なのか伝えることも――。

 

 

……。

 

 

ここで終わり?

結局、私には何もできなくて、何の目的も持ってなくて、だから人に何も伝えるべきじゃないし、何も伝えれない。

 

ただの空っぽな存在。

きっと、それが藍子がずっと言いたかったこと。

 

 

藍色の羽根が、暗い空間を瞬く。

弧を描くように、緩やかに旋回して、そして――。

 

こちらにまっすぐと突っ込んできた。

 

 

――さようなら、あか「うおおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉ!!」

 

 

衝撃。

 

そして、手応え。

 

驚いた藍子の表情がすぐ目の前。

私はと言えば。

 

「……何をやっているの!? アホの茜!!」

 

「うおおおおおりゃあああああ!!」

 

最近ハマった蹴り返し。

今こそ、それをぶっ放す。

 

ここ一週間で身に付けた技。

日常の他愛のないやり取りでやったこと。

 

そうだ。

 

本当に無駄かどうかなんて誰にもわからない。

だったら、意味を見出せばいいんだ。

ひとつのひとつのことに。

 

私達がやってきたことには意味があったんだって。

 

「……いいえ、無駄よ。ずっと言ってるじゃない」

 

藍子の唇が、わずかに震えていた。

 

「……この世界には何にも……何にもない。いいえ、最初から何もなかったのよ。いくら探しても何も見つけられなかった……!!」

 

「ある!! この世界には……私達の知らないことがいろいろある。そして何より……」

 

力の限り、声を張り上げる。

目の前のわからず屋に、その想いを伝えるように。

 

そうだ、私達のやってきたことに意味があるかなんてわからない。

物語とは違うんだ。

どこが始まりで、どこが終わりかなんてわからない。

 

だったら今からだ。

 

いまここからだ。

 

止まらない想いが、体を溢れ出してきたのなら――。

 

 

もう一度、魔法少女(茜谷茜)を始めよう。

 

 

「この世界には、私がいる!! そして……あなたもだよ、藍子!! だから、何もなくなんか、ない!!」

 

「……!!」

 

 

そうだ。

私達にはここがどんな空間なのかわからない。

でも、きっと、例えば上から見下ろせば。

 

私達は、夜空に輝く二つ星。

 

 

「うおおおおりゃああああぁぁぁぁああああぁぁぁぁ!!」

 

私の渾身の蹴りが藍子のベビーカーに炸裂する。

木っ端みじんに車は大破。

ついでに手にしていた剣も衝撃で破壊する。

 

中空に、驚いた顔の藍子が投げ出される。

 

私はジャンプして一回転。

そのままの勢いで藍子をキャッチし、ステージの上で着地を決める。

 

俗に言うお姫様抱っこ――。

 

「……何をするの」ゴッ!!

 

「ノータイムで顔面パンチ、やめてもらえる?」ブシャァ!!

 

変な音がしたが、まあ命に別状はないだろう。

 

 

……ここがどこなのか、やっとわかった。

さながら夢のようなもの。

 

少女達が、演舞し、きらびやかに舞うステージだったのだ。

 

 

幕を下ろす前に、言っておくことがある。

 

「私の勝ちだよ。藍子」

 

「……ええ、そういうことにしてあげる」

 

「あ、あと。これだけは言いたかったことなんだけど」

 

言えなかった一言。

きっと、今この時に限らず、4年間ずっと。

 

「ごめんね。私、ずっと藍子に向き合えてなかった。たぶん……怖かったんだと思う」

 

行動ではなく、心の問題だ。

私自身が本気で向き合えたかの話だ。

 

「……向き合うべきは私じゃないと思うのだけれど、まあいいわ」

 

腕の中で不貞腐れる藍子を見て、思わず笑みがこぼれてしまった。

お姫様はどうやら、これ以上暴れることはないらしい。

 

 

悪夢は終わった。

そして、夢は叶った。

 

私と藍子の、二人だけの劇。

 

私達だけが知ってる、秘密のショー。

 

魔法少女の目的とは関係ないが、私がやりたかったこと。

 

4年間、向き合っているようで向き合えなかった友人に想いを伝えること。

 

 

「ところで藍子、ひとつだけ聞きたいことがあるんだけど……」

 

「……なに? 機嫌が悪いの、さっさとして」

 

本当はひとつだけではないが、厳選して聞くならこれだ。

 

「私達……どうして戦ってたの?」

 

「……さあね、自分の胸に聞いてみなさい」

 

スポットライトの消えた舞台で、藍子の声だけが響いた。

 

 

 

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