舞台袖から、暗い横道へ。
足元には、劇に使われそうな小道具やら、人形やらが散らばっている。
手入れはあまりされてないのか、折れた棒なども落ちていた。
ちゃんと捨てておくべきだ、などと私は場違いな感想を抱いてしまった。
さっきの戦いが終わってから、私達はとりあえず辺りを散策することにした。
それはいいのだが、やっぱり、こう、
一方藍子は私の先をずかずかと進んでいく。
色んな意味で豹変してしまった友人に、改めて聞いてみることにした。
「ねえ藍子、ここって結局どこなの? ちゃんと説明してくれなきゃわかんないよ」
夢のような場所。
それが私の感覚だったが、よくよく考えてみると自分で何を言ってるのかわからないので、ちゃんと理解しようと思った。
返ってきたのは、溜息と短い言葉。
「……もう説明した」
そうか、じゃあ私の理解力の低いのが問題か。
藍子がこれまでに言っていたことを思い出そう。
……。
いや、どう考えても説明してないだろ。
もっぺん聞こう。
「……チッ」
「『誤魔化せなかったか、面倒くせーなー』みたいな舌打ちやめろ。とにかくここはどこなの? 萌黄さんもここにいるの? あのでかいモンスターはどうなったの? あとあと、魔法少女の目的、あれ急にしゃべれなくなったけど本当に考えてたんだって……でも殴ったのは良くないでしょ」
「……いいでしょう、私の答えたいことから答えるわ」
藍原藍子。
根本的に挙動が自由である。
「……まずは萌黄さんのことが最優先でしょう。彼女はここにいるわ。いえ、正確には」
行く手を遮る椅子を手で払い倒しながら、藍子は言った。
「……私と、あなたと、萌黄さんしかこの世界にはいない」
「あ、そうなんだ」と私は軽く流した。
とすると、でかいモンスターに踏まれた時に、何か変な空間に私達だけ飛ばされたってことか。
魔法少女なら、よくあることだろう。
たぶん。
瓦礫の山を押し退けながら、藍子との話は続いた。
というか、一方的にしゃべられた。
「……モンスターの目的は宇宙の外側へと出ること。そのための鍵となるのは魔法少女だった。だからこそ
「はい質問。あの時っていつ?」
「……わかってるでしょ?」
「わかりません」
「……4年前のあの時よ」
「4年前……? あーっ!!」
4年前の巨大なモンスターとの決戦。
あの時に助けた幼女は萌黄さんだったわけだが――。
私達はモンスターの進行方向に、逃げ遅れた少女がいると思っていた。
しかし、事実はこうだ。
少女のいる方に向かって、モンスターは進んでいた。
ついでにインタビューの後にモンスターが現れた時もそうだったのだろう。
私はカフェを背中に向ける形で戦っていた。
つまり、モンスターは私の後ろにいるカフェに向かって進んでいた。
カフェの中にいる少女に向かって。
「ちょっとちょっと……それじゃあ全世界のモンスターは萌黄さんの方に向かって進んでいるってコト!? いくら何でもそんなことはなくない!?」
「……そうね。でも、とぼけなくていいわ。私達の見えている中ではそれは真実。あなたもわかっているんでしょう?」
「ひとつもわかりませんが……」
「……カマトト」
「え? 何その言葉?」
「……あなたみたいな人のことよ。さっさと諦めてしまえばいいのに」
藍子の思わせぶりな態度にももう慣れたから置いといて。
とにかくここには萌黄さんもいて、モンスターは萌黄さんに向かって進んでいる。
じゃあ、やることはわかっている。
「萌黄さんと早く合流しないと!! そんでもってこの空間を何とかして出て、元の世界に戻ってモンスターを倒さないと!!」
「……具体性がない上に、重複があるわね」
「チョーフク? 重ね重ねいうけど、私、カタカナ語には弱いからね」
「……『この空間を出る』『モンスターを倒す』この二つがほぼ同義と言っているのよ。だって……」
――ここはモンスターの中なのだから。
「中……?」
ちょっと自分で考えてみる。
私達はあの巨大なモンスターに踏まれて、気づいたらここにいた。
そうすると、モンスターの中にこれだけの世界が広がっていた、ということか。
(足元にはちょうど、子供の人形が7つ転がっていて、怖っ!! ってなった)
わからないけど、そういうことにしよう。
「ふふ……」
「……何を笑ってるの茜」
「いや、シンプルでいいなって思っただけ。萌黄さんを見つけたら後はここをぶち破って外に出ればいいんでしょ? 一匹目のモンスターだって、体の中からぶち抜いてやったし何とかなる!!」
「……簡単に言ってくれるわね。今は世界が滅びる直前よ?」
「え? そうなの?」
「……説明した」
「本当に?」
「……ええ、説明した……ような気がするわ」
「自分でちょっと自信なくなってんじゃん……」
まあいいや。
とにかく頑張ればいいということだろう。
やることはシンプル。
まずは萌黄さんを見つけて――。
「……あなたにできるのかしらね」
「どういう意味? 説明してないよ、絶対」
「……だってあなた魔法少女の目的、言えなかったじゃない」
「あーそれそれ!! 1週間考えたはずだったのに!! 何かこう、自信が足りてないからかなーって思ったんだけど」
「……。もう、それでいいわ。とにかく足りてなかったのよ」
「何が?」
「……あなたの萌黄さんへのポイントよ」
「は???」
「……私も迂闊だったわ。答えを得ているだけではダメだった。あなたの萌黄さんへの理解が足りなかったから口に出すことができなかったのね。魔法少女の言霊には力がある……それは逆に言えば、力を発揮できる時にしか、言葉にできないということよ」
「ふうん。でもそれじゃあ藍子が私を殴る必要はなかったよね?」
「……え?」
「生まれて初めて気がついたみたいな顔やめろ。藍子が私を殴る必要はなかったわよね!?」
「……それはほら、叩いたら何か出てくるかもしれないでしょう?」
「私は家電製品か何かか!?」
そんなソシャゲで三番目に出てきそうなふざけた選択肢のノリで人を叩いたのかよ!!
……なんて不満はいったん置いておこう。
藍子の言う通り、今は萌黄さんのことが最優先だ。
「つまり、私は魔法を覚えてたけどMPが足りなかったのか……。M(萌黄さん)P(ポイント)が……」
「……そうね。だからこそ私はあなたの感情を高ぶらせるようにしてきたつもりよ。……無理なら世界が滅ぶだけだもの。次に萌黄さんに会う時は心して伝えてあげるべきね。魔法少女の目的――それこそが、萌黄さんが抱えている悩みであり、私達が出すべき答えだった……。これを伝えることが、ここが脱出する『鍵』にもなっている……。それはあなたにしかできないことなの」
「ふうん、藍子でも良い気がするけどな。だって萌黄さんが憧れているのは藍子だし」
「……。私には……無理に決まってるでしょう」
高い壁をボルダリングで昇りながら、藍子が言う。
私は次に手をかける出っ張りを無造作に選んだ。
「まあいいや。よくわからないけど改めて萌黄さんに魔法少女の目的を伝えてあげればいいってことだよね? もしできなかったらどうなるの?」
「……世界が滅ぶわ」
「えええ……世界を滅ぼすの大好きじゃん、藍子」
壁を上りきり、開けた場所へ。
とにかく話は整理された(気がする)
魔法少女の目的。
……何となく気になる質問だとは思っていたが、世界の命運を握っていたとは。
この答えが藍子の心を動かすだろうという直感はまだ信じている。
でも、それだけではなかったということだ。
そして、私はその答えがわかっているはずだが、まだ萌黄さんにそれを伝えれていない。
出てきているはずの答えを私はどう表現するのか?
世界の命運は、私の語彙力にかかっている――。
――ずいぶんと楽しそうですね、藍子さん、茜さん。
「この声はー!!」
何だかさっきもこんな流れだった気がするけど、そこは置いておく。
暗闇の中、どこからか響く少女の声。
私はそれを良いことだと思った。
だって私達が探していた少女が見つかったのだから。
だが、隣の藍子は、なぜか険しい顔をしているのだ。
「……アホの茜。この流れで出てくる萌黄さんが普通の状態なワケないでしょう」
目の前に舞台が広がった。
黒い壇上に、黒い光。
華やかさとは程遠い、黒の世界。
そこに少女は立っていた。
「え……?」
黄色のツインテールが特徴的な少女が不敵な笑みを浮かべる。
見覚えのある少女が、見覚えないの恰好をしていた。
まるで特撮の戦闘員が着てそうな黒いスーツがぴっちりと。
華美な変身服からは程遠い姿で。
「ふふふ……会えましたね、藍子さん、茜さん……。いえ、こう言った方がいいですかね?」
「キャハハ!! また会えたね!! よわよわ魔法少女のお姉ちゃんたち~!!」
黒いピチピチスーツにその身を包んだ少女が、私達を
●
「そんな……!! ふざけてメスガキ口調を使うことはあっても、根は良い子そうで友達からの信頼も厚そうだった萌黄さんが、体のラインがくっきりと浮かび上がる黒いピチピチスーツに身を包んでいる!?」
軍服を着て現れた藍子といい、私の知り合いはコスプレまがいの恰好をしないと気が済まないのか。
そんな風に考えていたら藍子が横からつぶやく。
「……こういうことよ。あの黒いスーツは、巨大なモンスターが圧縮されたモノ。萌黄さんの体は乗っ取られつつあるってこと」
「そうなの!?」
「……説明したでしょ。……。ごめん、今のは初めて言った」
「おい」
私と藍子のやり取りがおかしかったのか、前方10メートル付近にダーク萌黄さん(仮)はゲラゲラと笑い声をあげた。
人の声、というより大規模な空気の振動だ。
親愛や楽しむニュアンスではない。
こちらを威圧を目的としたもの。
「お姉ちゃんたち、ほんっとーーーーに、愚かあ!! いつまでこんな世界にしがみついてるのお?」
「萌黄さん!! 何を言ってるの!! 私の知っている萌黄さんは、もうちょっと、こう、うん、節度がある感じだった!! 冗談でも愚かとか……言うかな? いや、言わないよね? 言ったりしない!!」
「クスクス……茜さん……あなたは何の答えも出せなかった。それが何よりの証拠なんじゃないの?」
「何を……!! 私はちゃんと考えてきた!! 魔法少女の目的を……!! あなたに聞いてもらうために!!」
「違う……。この4年間の話」
「え……?」
4年間?
私達と萌黄さんがあったのはつい1週間前だ。
なんでそんな話が出てくる?
いや、違ってた。
私達は会っていた、4年前のあの時に――。
「こんな世界……全部消えちゃえばいいんです!!」
黒い光――矛盾している気がするが、とにかくそんな感じのエネルギーが萌黄さんの周囲に集まる。
まずい、これは――。
「ダーク・プラズマ・ボンバー!!」
自己中心の大爆発。
黒いエネルギーは瞬く間に舞台の上を覆って、私達に到達。
私も藍子も瞬時に伏せていなければ、巻き込まれて吹っ飛んでいた。
危ない。
顔を上げれば黒い煙が辺り一面に上がっている。
その中で、黒いピチスーの少女は満足げな笑みを浮かべていた。
「けほっ……どうして? どうして萌黄さんが……」
「……萌黄さんの特性は自分を中心として際限なく広がる力。それがモンスターにとっても都合が良かったのね。この力を利用して奴らはこの宇宙を――」
「違う……!! そんなことを言ってるんじゃない!! 私の知っている萌黄さんなら、あんなモンスターに屈したりしない!!」
そうだ。
ここに来る直前だって、萌黄さんは一人で戦っていた。
お祭りを、学校を守るために一人で。
そんな少女が、ただ暴れ回るだけのモンスターに体を乗っ取られるなんて――。
そんな私の思考を見透かしたように黒い萌黄さんは口を開いた。
あるいは本当に私の思考を読んだのかもしれなかった。
「言ったでしょ、こんな世界に意味なんて……」
「藍子もそればっか言ってるけど何!? 何があなた達にそこまで言わせるの!?」
「しらばっくれるな!! 私も、あなたも、藍子さんも見たはずです!!」
黒い光が、その深さを増した。
「白い妖精達の姿を!!」
「……!!」
4年前の戦いでみたもの。
私が調子に乗って、魔法力を全力全開でぶっ放して、そして起こった不思議な現象。
白い妖精達が闊歩する姿。
あれを見たのは私と藍子だけだと思っていた。
しかし、違った。
あの時の光は、あの町全体を覆っていた。
安全な場所へ救助される最中の少女も見ていたのだ。
そして、今まさに、舞台の中心で黒い力をまき散らしている。
「ちっぽけな舞台の上!! 何をやったって意味はない!! 誰もここから抜け出せない!!」
悲痛な叫びとしか思えないそれが舞台の上で響きわたる。
「魔法少女に……目的なんてなかった!! 最初からそんなことわかっていた!! あなたに質問したのは気の迷い!! 学校も、お祭りも、頑張って、みんなの前で笑顔をつくって、でもやっぱり……何もなかった!! 意味なんてなかった!! 私は……こんなところダイキライ!! 魔法少女は世界をどうにだってできるんでしょ!? だったらこんな世界いっそのこと……」
「滅んでしまえばいい!!」
「させないわ、そんなこと」
私には萌黄さんが何を言っているのかわからない。
しかし、やるべきことはわかっている。
魔法少女としての道を踏み外した少女を、先輩として導いてあげること。
涙を流している少女に、私の答えを聞かせてあげることだ。
魔法少女の目的が何なのか。