魔法少女ナラティブ   作:MOPX

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魔法少女の目的

 

「萌黄さん、魔法少女の目的は――」

 

お腹の底からめいいっぱい出そうとしたその声は、禍々しい音に遮られる。

黒いエネルギーが再び空間に満ちる。

萌黄さんの体を覆いつくすように――。

 

 

「聞きたく……ない!!」

 

少女の慟哭があたりに響く。

 

「もう何も……聞きたくない!! がっかりしたくない!! 絶望したくない!! あなたの言うことなんて聞きたくない!!」

 

 

風圧的なアレで、体が後ろに持って行かれそうになる。

何とか魔法力を足に込めて、踏みとどまった。

 

(そば)にいた藍子に声をかける。

 

「大丈夫!? 藍子!?」

 

「……。人の心配をするなんて随分余裕ね」

 

藍子はいつの間にか手にした青い剣を床にぶっ刺して支えにしていた。

ずるい。

私にも一本わけてほしい。

 

「萌黄さんを助けなくちゃ……!! 手伝ってくれる!?」

 

「……私には無理よ。だって私と萌黄さんは同じだから」

 

「同じ……?」

 

藍子の言っていることはわからないが、言いたいことは何となくわかった。

萌黄さんは藍子と似たようなことを言っていた。

 

だから、萌黄さんを説得することができない。

そういう理屈。

 

 

「……あなたが吹っ飛ばされたら後ろで支えるくらいはやってあげる」などとのたまう友人をよそに、私はもう一度萌黄さんに向き合う。

既に黒いエネルギーに完全に覆われて、萌黄さんの姿は見えない。

 

あの禍々しいエネルギーは、萌黄さんを苦しめる黒いピチピチスーツそのものだ。

 

絶対防御とも言えるエネルギーの壁。

そこに私の想いを伝えようとしたら……これしかない!!

 

「クリムゾン・ファイアー!!」

 

声を張り上げて、手の平から赤い閃光を発射する。

もう大分扱いには慣れた。

 

黒いオーラの正面で、赤い光がバチバチと弾ける。

 

「このままぶち破って、私の答えを萌黄さんに届ける!!」

 

そうだ。

藍子のお母さんを探すときに萌黄さんがやっていたことだ。

 

魔法力で声を拾うことができるなら、声を届けることだってできる。

 

 

「私の炎で……萌黄さんの冷え切った心を温めてあげる!!」

 

――何をクサイこと言ってるんですか先輩。昭和ですか?

 

「……!!」

 

私は見誤っていた。

赤い炎の先が、黒い闇に侵食されている。

逆流するみたいに、こちらへと流れ込んでくる。

 

――知らないんですか、炎は電気を通すんですよ?

 

いや、知らない。

そうなんだ。

勉強になる。

 

魔法少女の力はイメージの力。

炎をイメージしてるんだから、炎っぽい挙動をする。

まあつまり、萌黄さんの電気イメージの力と相性は悪かったみたいだ。

 

「うおおおおぉぉぉぉ!?」

 

一瞬で炎は闇に呑まれ真っ黒に。

衝撃と共に私の体が後ろに飛ぶ。

 

あわやそのまま舞台の上から転がり落ちるかと思われたが、誰かに支えられて無事だった。

後方でスタンバっていた藍子である。

 

「……ほら、吹っ飛ばされたじゃないの」

 

ぐうの音も出ないと思いつつ萌黄さんの方をみやれば、黒いオーラがその勢いを強めていた。

もう一度必殺技が飛んでくれば、今度は……受けきれない!!

 

 

「あーもう!! 炎が電気に弱いって何なのよ。ポケモンやったことがないのかっつーの!!」

 

「……ゲームの法則はその世界において絶対よ。だからこそ明瞭に勝敗が決まる」

 

「こんな時にウンチクはいいから、手伝ってほしいんですけどね藍子さん!!」

 

「……説明しているでしょ。炎は水に弱くて、水は電気に弱くて、電気は炎に強い」

 

さすがに何が言いたいのかはわかった。

炎は私で、水は藍子で、電気は萌黄さん。

 

俗にいう、三すくみ――。

 

「……って、ちょっと待って。私、両方に弱くない?」

 

「……そういうことよ。それがこの世界の摂理であり、歪み……。あなたは私も萌黄さんにも勝つことはできない。つまり……」

 

 

――何も変えることはできないの。

 

 

「ええ……? でも私さっき藍子に勝ったよね?」

 

「……あれは言わば無属性同士で打ち合ったから。本気を出せば私が勝つ」

 

今更ちゃぶ台をひっくり返すのはナシだろ!!

……と言いたい気持ちをぐっとこらえて藍子に話をうながす。

 

今は何はともあれ萌黄さんのことだ。

黒いオーラは、いまだにその密度を増している。

 

今まで見たこともないような、深い黒色だと思った。

 

 

「……わかったでしょ。私もあなたも萌黄さんには敵わない。新しい世代である彼女が運命を滅びと定めたのなら、私達はそれに従うしかない。……あなたはもう負けているのよ」

 

「わかんないよ……」

 

「……これだけ懇切丁寧に説明したのに?」

 

「うん、わかんない。私が萌黄さんに敵わないかなんて、そんなのやってみなくちゃわかんないよ」

 

「……小学生みたいなことを言い出すのね、あなたは」

 

「ううん、魔法少女だよ」

 

そうだ。

年齢なんて最初から関係なかったんだ。

想いを繋げようとしたら、それはもう魔法少女なんだ。

 

そのためには――。

 

 

「藍子、必殺技で私を思いっきり吹っ飛ばして」

 

こうだ。

 

「……アホの茜。ついにアホさ加減が極まってしまったようね」

 

「ううん、本気だよ。私は藍子にも萌黄さんにも相性が悪い。さっきも吹っ飛ばされたしね。だったら――藍子が私を撃ち飛ばしたら、ものすごい勢いがついて、あの黒いオーラ的なやつも破れるのでは?」

 

「……ばか。(よわい)16が考えることじゃない。いつまで小学生気分なの?」

 

「う……自分でも無理があるのはわかってるけど、そこまで言わなくても……」

 

「……でも、あなたらしい」

 

藍子は少し呆れたように、けれど微かに笑みを浮かべていた。

昔、よく見せてくれていた表情だ。

 

 

黒いエネルギーの高まりは、既に臨界点。

その周囲から空間が崩壊を始めていた。

 

世界が、がらがらと音を立てて崩れていく。

藍子が世界が崩壊する直前と言っていたのが、何となくわかった。

 

このままだと、私達の世界もこうなるということだ。

最初から何もなかったみたいに、全て消滅する。

 

 

「藍子」「……ええ」

 

私と藍子は向かい合った。

互いに手のひらを掲げて。

 

背後で、黒い爆発が巻き起ころうとしていた。

この瞬間、だ。

 

 

――ダーク・プラズマボンバー!!

 

「クリムゾン・ファイアー!!」「ディープブルー・ウォーター!!」

 

 

私は、後ろの藍子に向かって放った。

 

 

赤い火炎と、青い激流が私達の間で激突する。

巻き起こるエネルギーの干渉により大爆発。

計算通り、私が押し負けて思いっきり吹っ飛ばされる。

 

萌黄さんのいる後方へと。

 

「はああああぁぁぁぁ!!」

 

捻り込むように手を掲げ。

黒いスパークへ突っ込む。

 

ここでただ突っ込んだのでは、私の体は再び弾き飛ばされ、二人の間をピンポン玉のように跳ね回るだろう。

だから、手の先から力を込める。

 

 

「萌黄さん!! 魔法少女の目的を聞かせてあげる!! それは……!!」

 

私が見つけた、私の答え。

初めて聞かれてからも、1週間経った後も言うことができなかった答え。

 

こんどこそ伝えたいと思った。

闇に堕ちた少女を救うために。

 

魔法少女の目的、それは――。

 

「言葉を紡ぐってことだよ!! どんなに拙くても、どんなにくだらなくても……それが私の考えたことだから!!」

 

この世界は、言葉で満ちている。

それはなぜか。

 

「考えたことを伝えあうため……!!」

 

きっとみんな、自分の想いを伝えたいと思っているから。

自分を知ってほしいと思っているから。

誰かと繋がりたいと思っているから。

 

「萌黄さん……あなたは独りなんかじゃない!!」

 

想いを、言葉に。

言葉を力に。

 

きっとそれができるのが魔法少女なんだ。

 

だから――。

 

「変身!!」

 

手の先から赤い光が私を包む。

周囲の空間が、赤色に染まっていく。

 

滑舌よく、言い切ってやる。

 

「赤は無敵!! 赤は最強!!」

 

 

「魔法少女茜谷茜!!」

 

 

4年越し。

 

赤いドレスのシンデレラ。

 

唸りをあげる右の拳――。

 

 

「うおおおおぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉ!!」

 

私の拳が黒い障壁をぶち破り、そのまま中へとゴリゴリ進む。

 

簡単な話だ。

変身が自己の周囲への干渉なら、その状態で、かつ物凄い勢いで突っ込めばどうなるか?

 

――ものすごい強い体当たりとなるのだ。

 

 

「うおおお、おおおお、ぉぉぉぉーーーー!!」

 

完璧な解を得て私は前へ。

真っ赤な手袋で黒い空間を削り飛ばす。

 

広い空間に出た。

 

少女がうずくまっていた。

その体にはいまだ、漆黒の衣。

 

私は彼女に話しかけた。

 

 

「萌黄さん、私にはあなたの絶望がわからない。……当然よね、私達、違う人間だもの」

 

――。

 

「それでも、言葉を投げかけることはできるから。……言うね」

 

 

すうっと息を吐く。

 

 

「まだ12歳なんだからさ。きっと世界の全てなんてわかんないよ。だったらさ、絶望するのもまだ早すぎるんじゃないの?」

 

――うるさい!!

 

「お? ちょっと反応があったわね。まあ、これでもお姉さん、4年分先輩だからさ。人生の。それこそ萌黄さんの悩みを聞いてあげよっか? なーんて」

 

――本当に……あなたは……!!

 

 

少女が立ち上がり、振り向く。

その黄色い瞳に涙を浮かべて。

 

「何で……そんな風に普通にしていられるんですか……」

 

「わからない」

 

「わからないって……ふざけてるんですか!?」

 

「わからないけど、わからないままでもいいんだって。これが私のやってきたことだって、私の人生だって胸を張れたら、それでいいんじゃないかって思えたの」

 

「……」

 

「そんな風に考えたのも、あなたが私に聞いてくれたから。魔法少女の目的が何かって。それでこの一週間、真面目に考えた」

 

「……きれいごとです!!」

 

 

少女が赤子のように泣き叫ぶ。

 

「そんな風に、自分を納得させたって、最後には何も残らないじゃないですか!! この楽しかった日々も過去のものに!! 学校も、そこにいた人たちも!! 最後には全部なくなっちゃうんですよ!!」

 

「たぶん、全部はなくならないよ。その証拠に――」

 

思い出す。

心配そうにしていた四人の少女の顔を。

 

「萌黄さんの友達、あなたのことを心配してたわよ」

 

「みんなが……」

 

「そうそう。それって萌黄さんがお祭りの出し物を頑張ってやっていたからじゃないの? 意味なくなんてなかったんだよ」

 

「……」

 

そうだ。

 

広がり続ける世界からしたら、点のようなことかもしれない。

何億年もかけて今の姿になったことを考えたら、一瞬かもしれない。

 

それでも、周囲にいる誰かと暖かい気持ちを育めたのなら。

それにきっと、意味はあったんだ。

 

だから――。

 

「歯ぁ食いしばりなさい!! 萌黄さん!!」

 

「え……?」

 

私もさすがに年下を本気で殴ったりはしない。

そもそも魔法少女同士は戦うものではない。

 

その漆黒のピチピチスーツだけを、破壊する!!

 

「クリムゾン・ファイアー……」

 

私は、右手に力を込めた。

 

「パァァァァンチ!!」

 

 

「きゃああああぁぁぁぁ!!」

 

 

不思議空間の中で萌黄さんの体が捻りを加えて吹っ飛んでいく。

俗に言う、腹パン。

しかしこれはただの腹パンではない。

 

先輩として弱い心に喝を入れる、物理的には全く痛くないパンチ――。

そう、心に響くパンチだ。

 

「とうっ!!」

 

私はジャンプしてアクセルスピン。

そのまま萌黄さんをキャッチ。

 

お姫様抱っこで、萌黄さんの安全を確保。

 

どうだ。

 

悪しき心を砕き、少女を守る。

これこそが魔法少女――。

 

「なに気安く抱いてるですか!! 藍子さんにも抱かれたことないのに!!」ボカァ!!

 

「なんだかデジャブ!!」ゴシャア!!

 

萌黄さんの拳が私の頬にめり込む。

それでも嬉しかったのは、私がそういう趣味の人間だから……ではない。

 

「いつもの調子、戻ってきたじゃん」

 

「もう……。でも、ありがとうございます。茜さんの言葉、しっかり私に届いてました。どんなに語彙力がなくても、理解力が絶望的に低くても、言葉にすること……それ自体が大切なんだって!!」

 

何だかものすごい引っ掛かる言い方なのは、この際気にしない。

腕の中のセーラー服の少女は、はにかんで笑っていた。

 

それだけ、十分だ。

 

 

「さあ~魔法少女の目的もすっきりした答えを出したしめでたしめでたし!! いや~アニメとかならEDの曲からスタッフロール表示されてるとこだわ~」

 

「茜さん、ここ、どこかわかってます?」

 

「あ」

 

そういえばここってモンスターの中だった。

忘れてた。

 

 

暗闇の中で轟音が鳴り響く。

空間そのものが揺れているみたいだった。

 

「……始まったわね」

 

「うわ藍子!? いつからそこに!?」

 

「……忘れられたみたいで(しゃく)だから来たわ。そんなことより、見なさい」

 

藍子の指さしたのは斜め上。

私が破壊したはずの漆黒のピチピチスーツが宙に浮き、禍々しいオーラを放っているのだ!!

 

萌黄さんを抱いていた手に力が入った。

 

「茜さん……?」

 

「あ、ごめんごめん。ちょっと自分が抑えれなくってさ。血が沸騰するって感じかな……こんな状況なのに、私、あいつと戦いたくてしょうがないみたい」

 

4年前、魔法少女になったばかりのころの感覚。

全てを手に入れ、意のままにする万能感。

 

思い切り、暴れたいという感情。

 

もう一度、私の中に何かが生まれていた。

 

 

 

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