朝の心地よい日差しとともに、私の意識は覚醒した。
……。
今はいつ、どこだろう。
少し寝ぼけている。
傍らのスマートホンのアラームを止めて、体を上げる。
この世界がどこで、何なのか。
わからなくても、それでいいんだって教えてくれた人たちがいる。
私ももう高校一年生だ。
身支度。
使い慣れてきた黄色のジャージに袖を通す。
髪をセットして鏡で確認。
その姿で、思わず顔がほころんだ。
思い出してきた。
今日は休日。
それでも部活。
「よし、行ってきます」
これは大きな独り言。
一人っきりだけど、これはまあ、私なりのジンクスというか、おまじないというか……。
やっぱり言葉には不思議な力があるからね、うん。
そんな風に考えながら、寮の個室を出る。
萌黄萌絵、16歳。
現役の女子高生で、魔法少女やってます。
●
――さて、何から始めようかな。
……と考えつつ、自分の中では決まっているのだけれど。
でなければ寮の庭で入念にストレッチなんてしていない。
時間もまだあるし、目的地に向かう前にランニングだ。
何事も体力づくりは基本。
いつもの学校周辺を一周するコースで頭にGOサイン。
寮の外を出て、私の前には『特区』の街並みが広がる。
あの時、藍子さんと茜さんが守ってくれた景色。
私の視線は、その中でも馴染みの深い建物へと向いた。
考えてみれば、平日の大半をそこで過ごしているのだから私にとっての日常そのものかもしれない。
魔法少女専門の学校。
その校舎は何も変わることなく、今日もそこにあった。
あの時の戦いの舞台だったその場所を私はまじまじと見つめるのだった。
今日も、そこにあってくれて「ありがとう」って。
結局あの後(私が藍子さんに助けられて手繋ぎした後!!)、私と藍子さん、茜さんは割とあっさりと元の世界に戻れた。
そして私達を待ち受けていたことは……。
でかいモンスターは消滅!!
人的被害奇跡的にゼロ!!
地域一帯ももまあ、そこそこの被害で済んだ!!
ちなみに戻った瞬間、私達は多くの魔法少女達に囲まれていた。
『組織』のサポートを受ける形で、多くの魔法少女達が奮い立ち、できる限りのことはしようとしてくれたらしい。
(なんでか胴上げをする流れになり、調子に乗った茜さんが地面に落とされた)
藍子さんはイカシた専用車から降りて自分の足で立っていた。
聞けば、「もう必要ないから」ということらしい。
周囲がまだざわざわしてる中、「また会いましょう」とだけ言ってくれた。
私はできる限り力を込めて、「はい!! 必ず!!」と返した。
この言葉が魔法みたいに、きっと私達をまた引き合わせてくれると信じて。
(後ろでバタバタしてた茜さんも含めて)
私の友達たちも集まって、もみくちゃにされた。
本気で心配させてしまったらしく、泣いていた子もいた。
(茜さんの言葉は、本当だったんだなって思った)
……さすがにちょっと反省はした。
人に心配をかけるのは悪いことだ。
事後処理も大掛かりで、あの日のことは世間的に大きく扱われたけど、それであの件は終わった。
魔法少女とモンスターの謎なんて、誰も興味を持つこともなく今日も世界は回っている。
あの時、この世界を救ったという事実は、私と藍子さんと茜さん、三人だけの秘密。
「あ、ギモエー!! 今日も部活!?」
小学生からの旧知の仲だ。
「あ、グリヤマ。おっはよー。散歩?」
「散歩~。なーんか良いアイディア出なくってさ~」
名前は
命名は別の子。
我がグループの一団はあだ名を付けるのにやたら凝っていた。
私も呼称が統一されず結局おのおのが好きに呼んでいた。
……まあ、みんなポリシーもあるだろうし悪い気はしなかったけど。
こだわりは、大切なものだ。
そんな友人が出し抜けに聞いてくる。
「で、調子は? 演劇」
「調子も何も。今日も練習。明日も練習……やっぱ基礎で覚えること結構あるなあ~って感じ」
「ふふ……」
「何その笑み? 自分は余裕ですってか~?」
「ううん、ギモエー、楽しそうだなって」
「はは!! うん……楽しい」
そう、私は今、演劇部。
入った理由は……きっと何かを作りたいと思ったから。
多くの人で集まって作り上げる何かを。
人の心を揺さぶれる何かを。
「いやあ、さすがだわ。夢なんでしょ? あの人の書いた脚本で劇を演じるって」
「ちょ、ちょっと!! それは口に出さないでよ!! あれはノリで口にしちゃって……!!」
「でも、本心なわけだ」
「あう……」
私のひそかな夢。
あの人の書いた台詞を、私が演じること。
あの人の描いた世界の一部に私がなること。
「いいじゃん。そういうの好きだよ。何よりギモエーならやっちゃいそうだし」
「もう……先の話なんだからいいって、そういうの」
私がビッグになって、大きな舞台を演じれるようになって、職権乱用して、同じくビッグになっているだろうあの人に仕事をお頼みする。
……絵空事だ。
叶うとしても遠い未来の話だ。
それでも、嘘偽りのない私の
正直、この道を歩み出したばかりの私に何ができるかはわからないけれど。
それでも道標があればきっと、歩き続けられると信じてる。
「そのためにはまず目の前のことを頑張らなくちゃ……!! 夏祭りに向けてステージの練習をしないと!!」
「その意気だよ!! メスガキ叙事詩、楽しみにしてるよ!!」
「うん!! う……ん? ん!?」
メスガキ叙事詩……?
メスガキ叙事詩!?
なんだそれは。
「あれ? ステージでやるんじゃないの? 過去の……ほら名作とかをメスガキ風にアレンジして演じるやつ」
「さらっと既成事実のように語るな!! 知らない人が聞いたら本気で勘違いするでしょ!!」
「ええ? ギモエー、あんなにメスガキネタが好きだったのに……」
「今は2027年よ……。古いでしょ、さすがに」
「でも、好きなんだ?」
「そういう流れに持っていかない!!」
というか学校で流行していただけだし。
正直、楽しかったけど。
盛り上がるだけ盛り上がって、そろそろだなという空気になる。
付き合いが長いので何となくわかる。
「じゃ、私は部活いくから。……グリヤマも漫画、頑張って」
「おうよ!! めちゃくちゃ大ヒット作を出したら、印税でギモエーを養ってあげるからさ!!」
「またそういう冗談を……」
「……。冗談じゃないんだけどな」
「え?」
最後に意味深なことを言って、我が友はシュッと指を立てさよならの挨拶をしていった。
(さよならだ、などと言っていた)
まあ、いいかと私も学校へ続く道へと向きなおす。
夢は、人それぞれだ。
空はバケツ塗りしたみたいに、一様な水色。
それでも、私達はここにいる。
ここがどんな世界であっても。
たとえ造られた世界であっても。
私達が世界を創ることだってできるはずだから。
「よし……!!」
もう一度、自分を鼓舞する。
足を動かして、走り出す。
ショーケースに自分の姿が映る。
黄色い髪のツインテール。
お守り代わりの、藍色と茜色のヘアバンド。
萌黄萌絵16歳。
女子高生で、魔法少女。
将来の夢は、いつかあの人の世界で演じること――。