魔法少女ナラティブ   作:MOPX

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あの時、助けられた幼女です!! パワフル後輩は恋愛脳!?

 

雀の鳴き声と朝の日差しのセットに、半ば反射のように声を出す。

 

「……? よくわかんないけど……今何時?」

 

さっきまでのことはどうやら夢だったらしい。

……いや、正確には現実のことだ。

 

また夢に見ていた。

 

()は目をこすりながら、ベッドの傍らにあったスマートホンを手に取った。

SNSで更新されていく情報にざっと目を通す。

 

私が本当にほしい『情報』はきっと流れてはこない。

それでもあの子のために何かをしている、そう思わなければ自分が保てない。

 

一応、魔法少女に関するアカウントを追ってはいるが入ってくるのは今日も法の是非だったり、まあ面倒な話題が多かった。

 

溜息を吐く中、ひとつの文字列が目に入る。

 

『あの事件だって4年前じゃん』

 

「4年、かあ……」

 

思わずリアルにつぶやいて(・・・・・)しまう。

 

そう、今はもちろん西暦2023年。

私――茜谷(あかねや)(あかね)も今や高校一年生。

通ってるのはよくわからん魔法少女専用の学校。

 

あの戦いの後、各地で魔法少女が増えに増え、現在ではなんと300万人以上にのぼると言われている(何かで見た)

巨大モンスターとの決戦の場所となった私達の町は、なぜだかモンスターがやってくる(この理由はもちろんわからない)いわくつきの場所となっていた。

 

が、しかしそこに住んでいた人たちの生活もあるし、なにがしかの対策は打たないといけないし~といろいろあったらしい(知らんけど)

 

結果、この町は防衛のために魔法少女を集めた『特区』として再開発がされ、増え続ける魔法少女を何か良い感じにまとめつつ、万が一モンスターがやってきても守れるぞ♪ってなった(そうなったのだから、そうとしか言いようがない)

 

 

とにかく、この世はわからないことだらけということだ。

 

 

「それでも、やらないといけないことはわかっている……って言い切れたらよかったのになあ」

 

さっさと朝飯を担ぎ込む。

着替えて寮の一室であるこの部屋を出て、右手側へGO。

 

今日は休みだし、足音には一応気を付けた方がいいだろう。

知らんけど。

 

「藍子、入るわよー」

 

小声で言いながら扉を開ける。

……ノックをしても、どうせ反応がないし。

 

目の前に広がる本の山。

部屋の奥からなだれ込むようなそれらは、最早下駄箱すら侵食し始めている。

 

「また増えてるな~。よっと」

 

浮島を渡るように空きスペースに足を伸ばしていく。

私の部屋と同じ四畳半のスペースを横断して、その背中にやっとたどり着いた。

 

藍子は本を読んでいた。

今日もまた、いつものように。

 

「藍子~ちゃんと朝ご飯食べた~?」

 

「……」

 

「はい、朝の健康チェック。うわ……目にクマができてる。夜はちゃんと寝ないと。アホの茜でも知ってるぞ~わっはっは~」

 

「……」

 

「おばさんのメール、ちゃんと返信してる? 藍子のこと任されちゃってるからね、私!!」

 

「……」

 

「今日は何か、私達に会いたいって子が来るらしいよ。いや~休日くらい休ませてほしいのに、世界を救った魔法少女は今日も忙しいねえ~」

 

「……」

 

「……と、このように我が親友はあの日以来、心を閉ざしてしまったのでした。あの藍子がかわいい青のドレスにゲロを吐いた日以来……」

 

本がぱたんと閉じられる。

機械的に首がギュン!! とこちらを向いた。

 

「……ゲロの話は止めなさい。アホの茜」

 

「は、はい……ゴメンナサイ……調子こきました……」

 

藍子はまた、何事もなかったように本を読む。

こちらのため息などお構いなしだ。

 

あの戦いの後、藍子は病院で診てもらったが結局おかしなところはなかった。

心的外傷(?)の類も認められなかったそうだ。

 

でも何かが変わった。

 

藍子は元の生活に戻った後、本を読むのに没頭しだした。

もともと全く読まなかったわけではないだろうけど……でも、少しばかり熱中しすぎていたというか……。

 

具体的に言えば、起きてる時間はほぼ本を開いている感じらしい(おばさんが涙ながらに相談してくれた)

飯でもトイレでもそんなだし、風呂は無理やり入れないと入ってくれないそうだ。

学校ではほぼ図書館で過ごし、「親に文句を言われると時間のロスだから……」などとテストの日だけ登校して良い点を取って帰るピーキーなスタイルで中学を卒業していった。

 

その頃には魔法少女専用の新学校が完成し、私達もそこに放り込まれたわけだが藍子の生活は何一つ変わった様子はない。

 

私は改めて、本で埋まったこの一室を見渡すのだった。

 

「まー、本をこれだけ読む人もいるにはいるだろうけど。藍子がそんなタイプだったなんてねー」

 

「……」

 

「ほら、小6の時はオシャレに興味あるって言ってたじゃん。化粧ポーチとか見てたり……」

 

「……捨てたわ、全部」

 

「あ~、そうだったね~。あはは……。いや、非難してるわけじゃないよ? 本を読むのってステキなことだし。私は漫画ばっかだけどね!!」

 

本がぱたんと閉じられた。

何やらハードカバーの難しそうな本だった。

私にはそれくらいのことしかわからない。

 

「……茜」

 

「はい」

 

「……同情とか負い目で私に構ってるんならもう止めて」

 

「そんなんじゃあ……」

 

「……わかってる。世間では私達二人であのモンスターを倒してることになってるけど、あの時あのモンスターを倒したのはあなた。調子に乗ってワケのわからない事態を起こしたのもあなた」

 

「あうん、言葉が厳しい……」

 

「……ずっと責任を感じて、そうやってアホを演じているのもあなた」

 

「演じているって……そんなことは……」

 

「……わからないわからないって、もう諦めてしまったのなら私はあなたを相手にしない。……目の前から消えて」

 

それっきり藍子はまた本の世界に入り込んでしまった。

……わかっている。

 

これは私のせいなんだ。

 

きっとあの時、『妖精の世界』を藍子も見たんだ。

他の人たちで、あのことについて話している人は全くいない。

 

だから、あの時にモンスターの側にいた魔法少女である私達だけに見えたのだ。

恐らくは、藍子はあの『妖精』の正体を突き止めるために、ずっと手がかりを探している。

 

歯がゆかった。

 

不健康ではあるけど病気とかではないし、本を読むのだって度が過ぎなければ良いことだと思う。

でもこのままだと、藍子はいつか急に壊れてしまうんじゃないかって不安になるのだ。

 

少なくとも藍子は、何かにとりつかれている。

そして、私にはどうすることもできなかった。

 

(本当に知りたいことは、誰も教えてくれないんだよね……)

 

だからこうして4年が経ってしまった。

 

 

ピンポーン♪

 

 

「わ……びっくりした。藍子、あなたのお客さん?」

 

「……。私が人を呼ぶわけないでしょ」

 

それもそうか、と考え直す。

ここは魔法少女限定の宿舎であり、荷物の配達なども受付を通して行う。

 

要するに、同じ魔法少女でもなければ訪ねてくる人間もいないはずだが……?

 

ピンポンピンポンピンポンピンポーン♪

 

「うわっ面倒そうな手合い。藍子、どうする?」

 

「……」

 

「あ、藍子……?」

 

未だ本を読もうと強行する藍子の手がぷるぷると震え出した。

これは知っている。

ここ4年で藍子に発症した、本を読むのを邪魔されると体が震え出す現象……!!

 

読書妨害ブチ切れ症候群と私は呼んでいる。

 

ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン……

 

「……どうやらクソバカが訪れたようね。茜、出て」

 

さっきまで「目の前から消えて」って言ってたくせに……と漏らしたら物凄い形相で睨まれたのでさっさと行く。

再度の浮島渡りをしつつ、ふと考える。

 

訪ねてきたのは、一体誰なのだろうか……?

 

鳴りやまぬピンポンの中で、ドアを開ける。

視線が空を切った。

 

見えるのは向かいの壁だけ。

これはあれか、心霊現象の類か。

 

これからその謎を解き明かす私と藍子のワクワク☆ドキドキのパニックホラーが……。

 

「下ですよ、下」

 

言われるままに視線を下げる。

 

そこには左右に結んだ黄色い髪に、黄色い瞳を持つ背丈の低い少女がいた。

校内指定のセーラー服を着ている辺り、この学校の生徒であることは間違いない。

 

私の頭も、たまには良い感じの答えを弾き出すのだった。

 

「あ~迷子? うちのガッコの生徒だよね。小等部? お姉さんが出口まで連れてってあげるね~」

 

「は? 何を言ってるんですか? 茜谷茜さん、ウワサにたがわぬトンチンカンですね」

 

「ト……トンチンカン!?」

 

「失礼いたします。へ~本がいっぱい……!! 聞いた通りだ……!! 知性を感じます!!」

 

「ちょ、ちょっと!! あなた部屋に勝手に……!!」

 

私が制止する間もなく、黄の少女(仮)はぐいぐいと奥へ進んでいく。

 

謎の少女はそのまま机の横まで到達。

当然、藍子も無視するわけに行かず怪訝(けげん)な表情を侵入者に見せるわけで。

 

で、ここからだ。

問題のシーンは。

 

黄の少女(仮)は、身をぐいっと乗り出すとそのまま藍子の顔面へと急接近。

その勢いは止まらず、唇と唇が衝突した。

 

目を見開き困惑する藍子。

心の底から満足気な笑顔を見せる黄の少女。

 

そう、これは俗に言うキス――。

 

「ななな、何しとるんじゃこのクソガキーーーー!!」

 

思わず叫んでしまった。

初対面の相手をクソガキ呼ばわりするのは悪いことだろう。

 

しかし、これには理由がある。

藍子の唇をまんまと奪った黄の少女は、私の方を振り返るとしてやったりの顔を見せつけてきたのだ!!

これは……宣戦布告!!

 

「はあ~これが藍子さんの味……。ちょっと酸っぱくて癖になりそう……」

 

「藍子とキスなんて私でもしたことないのに……じゃなくて!! 初めて会う相手にキスはやりすぎだって学校で教わらなかったの!?」

 

「クスクス……あれれ~? お姉ちゃんすごい動揺してる~。仲良しコンビって聞いてたけど……もしかしてまだだったの~?」

 

「ううう~!! こ、この~!!」

 

「やめなさい」と藍子がぴしゃりと言い放つ。

……なぜか私に向かって。

 

「……子供のしたことよ。ムキになって怒ることじゃないでしょ」

 

「ええ~!? でも~でもでも~。藍子だって初めてだったんじゃあ……」

 

「……。子供相手はノーカウントよ」

 

「ちょっと震えてない? 本当は気にしてる?」

 

「……失礼ね、私がこんなことで動揺するとでも思ったのかしガガガががががガガガガ!!」

 

「めちゃくちゃ動揺してるーーーー!?」

 

椅子に座ったまま激しく小刻みな上下運動。

初めて見る症状の藍子をよそに、私は元凶の黄の少女へと向くのだった。

 

「だいたいあなた何なの!? 初対面なのに私と藍子のアンニュイな休日の朝空間にことわりもなく……!!」

 

「アポなら取りましたし、それに厳密には初対面でもないです」

 

え? と私と藍子が顔を見合わせる。

こんな生意気な子、知り合いにいただろうか?

 

歳は小学生くらいだと思うが……。

 

「あー無理もありませんね。あの時、私は小学2年生で小さかったし、魔法力に覚醒してないから髪も黒だったし」

 

「あの時……? どの時よ!? 自慢じゃないけど、私は説明してくれないと何もわからないわよ!!」

 

「そうですね……4年前のあの戦いって言ったらわかります?」

 

「4年前……? あ!?」

 

思い出す。

あの時の戦いで逃げ遅れた小さな女の子がいたことを。

私がモンスターの動きを止めて、その間に藍子が救出した子がいたことを。

 

「あなた……もしかして!!」

 

「申し遅れましたね……」

 

黄の少女が足元に気を付けつつ、左右に結んだ髪をふわっと揺らしながら私達の方へ向き直る。

そして黄色い両の瞳で、私達の姿をしっかりととらえるのだった。

 

「私は萌黄(もえぎ)萌絵(もえ)!! あの時、助けられた幼女です!!」

 

 

 

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