前回までのあらすじ
昔、助けた幼女が大きくなってやってきた。
「私は
「自己紹介を二回連続でするなんて……何て主張の強い子供なの」
「はあ~~~~私、ずっと藍子さんに会いたくて……やっと夢が叶ったんです……まずは一緒にハートマーク作ってもらっていいですか!? 手で!! こう!!」
「この子、キスに飽き足らず……!! 藍子ぉ!! 本を読んでないであなたも何か言ってよーーーー!!」
既に本を開いていた藍子への必死にうったえる。
謎の侵入者に好きだ好きだと言われてるのにこの態度は、ある意味さすがとしか言いようがない。
そもそも何でこんな子供がいきなり……。
「……インタビューがあるんじゃないの、今日」
「え? 何それ?」
「……あなたが言ってたのよ」
「インタビュー、インタビュー? インタ……ビュー!! あーーーー!?」
そういえば今日、かつて世界を救った魔法少女にインタビューをするため、誰かが訪問するって……。
私が言っていた。
「……時間は? 聞いてたの?」
「うん、聞いてなかった」
「……アホの茜」
●
「はい、では改めまして!! 夏休みの自由研究のためインタビューに参りました萌黄萌絵です!! ちなみに私は寮監さんに時間を確認して許可を取りました!! 入門証もほら、この通り!!」
長方形にゴシックの文字がでかでかと書かれたそれを「ほらほら~」と見せつけられる。
「何てこと……私は小学生以下だっての……?」
「……劣っているから未満が正しい表現ね」
「ああああ!! 自尊心ーーーー!!」
「さあ!! そんなことより藍子さんへの熱烈インタビューを始めさせていただきます!! たっぷり今日一日!! この藍子さんの匂いが充満したこの部屋で……!!」
「へ? ここで?」
素っ頓狂な声を出したのは、言うまでもなく私。
藍子は既に読書モードに入っていたし、独りで盛り上がってる萌黄さんは、そんな様子を気にも止めていない。
人が三人。
机に座っている藍子はまだいいが、私と萌黄さんは足の踏み場すら確保が難しい状況。
「あのさあ……とりあえず……」
ここに来て初めて、私は年長の人間としてまともな意見が言える気がした。
「場所を移さない?」
●
お出かけは難航した。
藍子が『インタビューには答えるし外に出るのも今回はまあ良いが、それはそれとして自分で着替えるのはイヤ』という面倒くさいスタンスを取ったためである。
横で萌黄さんがキャーキャー言う中で、ちょっと匂うジャージを脱がせ、学校指定のセーラー服を着せる(気分は育児だった)
場所は萌黄さんが友達とよく行く喫茶店を目指すことになった(こういう時どんな場所が良いか、何もわからなかったため)
途中、小等部で開かれる夏祭りのポスターを見つけてもうそんな季節か、思った。
自分で歩く気がない藍子を専用車(どう見てもベビーカーだが、これを言うと怒るので口には出さない)で運びながら、私はふと考える。
右も、左もカラフルな髪と瞳の魔法少女。
自分と同年代や、もっと下の子たちも全員がそう。
4年前なら想像できなかった事態。
……魔法少女が増えるのは喜ばしいことなのだろう。
それだけ世界が平和な方向へ傾いているのだから。
だとしたら、この胸の静けさは何を意味するのか。
まるで、
……。
まあ、わからないんだけど……。
●
「着きましたよ!!」
萌黄さんの声に応じて藍子専用台車を止める。
寮を出て一番大きな通りから、一本だけ道を外れたそこには、落ち着いたベージュの壁に包まれた建物があった。
扉の横にある看板には、『喫茶フェアリィ』と書かれている。
「妖精……」
「……いつも以上に間の抜けた声ね、茜」
「む……別に。こじゃれた名前のお店だなーって思っただけ」
「……そう、それならお店にさっさと入るべきね。萌黄さんは意気揚々と入ってしまったわ」
「私に引きずられながら言うセリフじゃないと思うんですけど!!」
本をテコでも離さない藍子の首根っこを掴みながらお店へと入る。
……こんなに非協力的なのに、どうしてインタビューに応じる気になったのか。
●
「それで萌黄さんは夏休みの自由研究として『偉大な魔法少女特集』を造るつもりで私達と話を聞きたい、と……」
「はい!! 小6の課題で自由研究があることは知ってましたから4月の時点で寮に根回しをしてインタビューの予定を取り付けました!!」
「そ、それはすごい行動力ね……」
それが私に知らされたのが最近というわけだ。
たぶん、寮監も子供の言ってることだし数か月経てば忘れているだろうという舐めがあったんだろうなあ……。
子供の執念、侮りがたし。
……私がしゃべってばかりだが隣で藍子は文庫本を読んでいる。
何かご当地ミステリっぽいタイトルだったが、そこはまあ置いておく。
対面に座っているの、お前に憧れてる子やぞ。
「しかし、あの時の子供がこんな風に成長してるなんてね……魔法少女になってるし」
「あれあれ~? お姉ちゃんもしかして驚いちゃってるの~? キャハハハ!!」
「脈絡のないメスガキ口調止めなさい!!」
「え~。茜さん知らないんですか~。今、魔法少女の小学校ではメスガキ口調が大ブームなんですよ」
「知らんかったけど、知りたくなかったそんな情報……」
子供がメスガキなんて単語連呼するものじゃないよ、と注意はしておく。
「は~い!!」と元気よい返事がかえってきたが、わかっているんだか……。
「そんなことより!! 世界を救った藍子さんに独占インタビューしちゃいま~す!!」
満面の笑みを萌黄さんに対して、藍子はぱらぱらと本をめくっている。
私も一応世界を救ったんだけどな、という不服はぐっとこらえる。
このインタビューがきっかけで藍子の何かが変わる。
そんな可能性だってあり得るのだ。
瞳を輝かせた若き魔法少女のエネルギーを浴びて、あの頃のちょっと内気だけど朗らかに笑っていた、そんな日々を思い出す……そんな可能性。
……一番大切なのはそれだ。
だからこの胸のモヤモヤは、きっと気のせいだ。
私が4年間できなかったことを、目の前の突然の来訪者が成し遂げてしまう。
それでも、良いに決まっている。
「えーまずまず!! 好きなことは何でしょうか? 好きな人でもいいです。何なら私でも……キャ~!!」
「……好きなのは独りでいること」
大丈夫かこのインタビュー。
いきなり事故ってない?
この内容がとあるクラスで発表されると考えたらいささかスリリングではある、知らんけど。
「はい、クールでいいですねえ~。じゃあ嫌いなものは? モンスターとかでしょうか?」
「……嫌いなのは集団生活」
「うーん、さっきの回答を裏返したような無駄のない回答……。こうしたソツのなさが魔法少女としての活躍に繋がっているんですねえ……」
「萌黄さん、あなたインタビューの才能あるわ」
思わず口を出したら、黄の少女はえへへと年相応の笑顔を見せるのだった。
笑ったらかわいいじゃないのよコンチクチョー。
質疑応答はこのまま淀みなく(?)進むだろう。
そう思った矢先だった。
「それであの……次の質問なんですけど……」
何やら急にモジモジしだす萌黄さん。
今までの勢いはどこへやら。
その顔はまるで恋する乙女。
……恋なんてしたことないから知らないけど。
「その……私を助けてくれた時のこと……覚えてますか?」
「……。覚えてる」
「その時、私、本当に怖くて。これでもしかしたら……って本気で思って……」
「……」
「だからその時のことお礼を言いたくて、でも急に会ったりすると迷惑かもしれないし、私、どうしたらいいのかよくわかんなくて、だからこうやって作戦を立てて、何とか会えるようにって……」
藍子が本を閉じた。
代わりに注文していたコーヒーに口を付ける。
「……いいわ、続けて」
「それで……あの……聞きたかったのは……」
萌黄さんが意を決したように口に出す。
「今日、私と会って……ご迷惑じゃなかったですか? 私、夢中でいろいろ聞いちゃって……迷惑になってるんなら今すぐ――」
さすがにそんなことは。
私がそう言おうとした瞬間だった。
「……そんなことはない」
「……!! 本当ですか、藍子さん!!」
「……生きている限り、何かしらのしがらみは発生するし、その中で多くの人間は自分にとっての最善の選択をするのだけれど、その選択の基準に他人にとっての善悪があり、それをあまりにも無視した場合は迷惑といえるわけだけれど、こうして正規の手段で私に会いに来たあなたに咎められる非はなく、あなたの取っている行動は迷惑に該当するものじゃないと考えられる」
回りくどい。
あまりにも回りくどい言い回し。
それでも言われた少女は感激したのか顔を赤くしてニコニコとしている。
藍子はもう真顔で本を開いていて、表情から何かを読み取るのは難しい。
それでも、これが答えなのだろう。
出不精で他人に興味を示さなくなった藍子が、今日この場にいる理由は。
そう考えれば、少しだけ希望も湧いた気がする。
今日はこの、突然の来訪者に感謝しないといけないのかもしれない。
藍子はまだ、他人の心を考えられる魔法少女なのだ。
「私、藍子さんとお話しできて本当によかったです!! さて、じゃあ次は最後の質問になります!!」
このまま和やかにインタビューは終わるんだろうな。
そう思っていた。
次の言葉を聞くまでは。
「……魔法少女の目的ってなんだと思います?」
空気が静かになる。
藍子は本を開いたまま微動だにしない。
私はと言えば……。
「目的……? この世界に魔法少女が存在する理由ってことでいいのかな? そんなの誰にもわかんないと思うけど」
実際にそうだ。
私達が産まれるまだ前に、真っ黒な怪物が突如世界各地に現れたらしい。
既存の兵器が何一つ通用しない未知のそれらは、モンスターと呼称された。
魔法少女はそんな力に対抗するがごとく、各地で
一説では脅威に相対したことで人類が進化したのだとか、そういうことが言われてる。
でも、本当のことは誰にもわからない。
それでいいはず、だ。
萌黄さん――萌黄萌絵は引き下がらなかった。
その口調は、別人のように静かで淡々としていた。
「理由ではなく、意味ですね。モンスターを倒したら魔法少女はどうなるのか……そんな話です」
「どうもしないでしょ。普通に生きていく……それだけじゃないの?」
「それに何かはあるんですかね? モンスターを倒して、倒して倒して、倒して倒して倒して……その先には本当に何かがあるんですかね?」
それは――。
「……わからない」
だって、私はまさにそのことを考えていたのだから。
あの日から、ずっと。
次に沈黙を破るのは藍子だった。
自ら口を開くのは珍しい。
「……魔法少女に意味なんてないかもね。……でもモンスターはどうかしら?」
「藍子……?」
本を開いたまま抑揚なく語る。
まるで不出来な機械音声みたいに。
藍子の視線はコーヒーへと落ちていた。
濁りなく、真っ黒な。
「……モンスターは意志を持たない、生物の定義に当てはまるかも怪しい……。ある程度は魔法少女に気持ち良く戦わせるための方便でしょう。でも、本当に何も目的を持ってない
「ちょ、ちょっと待ってよ藍子!! その言い方だと……!!」
町を守る魔法少女には何の意味もなくて。
無造作に暴れているだけのモンスターには何か意味がある。
そんなの、あべこべだ。
あってはならないことだ。
小さなころから、モンスターは悪者だった。
今更、違うかもなんて言われても困る。
何もかもわからなくても、それは確かにわかってるはずのことだった。
悲鳴が聞こえた。
外からだった。
私の不安に呼応するように、ヤツが現れたのだ。
憎き敵が。
「……っ!! インタビューは中止!! 萌黄さんはここいて!! 私が何とかする!!」
駆け出す。
逃げるように。
何の答えも出せないまま。
背後から、そんな私の焦燥を見抜いたように声が聞こえるのだった。
「……アホの茜」