魔法少女ナラティブ   作:MOPX

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これまでを振り返れ!! 魔法少女の反省会!!

 

意気揚々と部屋に戻った私は部屋の片づけを終えると、売店で買ってきたA4のノートを小机に置いた。

時間はもう夕方を回っていたが、これは片づけに時間がかかってしまったので仕方ないものとする。

 

「さあ!! 不思議な出会いと私の奮戦!! されど胸につっかかるよくわからない感情!! よくわからんままではよくないので、よくわかることにした!! さあ、紙に書いて今日のことをちゃんと日記に付けるわよ!!」

 

表紙に何かを書く時間すら惜しい!!

今の私は……それぐらい日記書きたい欲に駆り立てられている!!

 

「さあ、記念すべき一文字目を……!! いよいよ……」

 

これから綴られることになる膨大な私の記録……足跡って言ってもいいかな!!

とにかくそんな感じのアレが、今、正に、始まろうと、この瞬間に――。

 

「……。日記って何を書けばいいんだろう」

 

わからない。

まずもって、日記の書き方がわからない。

そもそもノートを取る以外で文章を書いた覚えがない。

 

シャーペンをぐるぐる高速回転させてみたが何も出ず。

ちょうど今日、折れてしまった棒のことを思い出してげんなりしてしまった。

(『組織』からバチクソ怒られたし、代わりの物は1週間以上かかるといわれてしまった)

 

折れた棒のことをまず書く……? いや何かそれはおかしい。

朝、起きた時点から始めればいいのか?

一挙一足まで書いていたら、終わらない気がする。

 

短く、コンパクトに……それでいて整理されていて、わかりやすい書き方……。

 

「……!! 箇条書き!! 箇条書きだよ!! これなら文章初心者の私でも日記が書けちまう!! 何たる発想!! 何たる跳躍!!」

 

白紙のページの左端にリズミカルに点を打っていく。

何事も楽しく。

日記を付けるってことが……わかってきたのかもしない!!

 

 

「さあ、今日振り返るべきことは~」

 

 

・いきなりやってきた萌黄さんが藍子にキスした(ショックだった)

 

・喫茶店に行った(お店の名前でうーんってなった)

 

・インタビューはよかった(藍子がよくしゃべってて珍しいなってなった)

 

・萌黄さんが魔法少女の目的とかよくわからないことを言い出した(は? ってなった)

 

・藍子もモンスターには目的があるって言い出した(これ、正直書きたくないけど、まあ驚いたのは事実だし……)

 

・モンスターが出てきた(あせった)

 

・私は頑張った(でも何かこう……しっくりこなかった)

 

・萌黄さんに宿題を出された(は? ってなった)

 

 

「……」

 

シャーペンを置く。

代わりに頭を抱える。

 

「振り返ることが……振り返ることが多い!!」

 

「……。あなたは一人で何を言ってるの?」

 

顔を上げれば、部屋の隅の大きな机から怪訝(けげん)そうな顔がこちらを振り返る。

藍原藍子、我が友、藍原藍子ではないか!!

 

「なーんて、ここは藍子の部屋だから当たり前だけど」

 

「なんで……あなたが……私の部屋で……日記を書いてるの?」

 

「いや、文章を書くのって慣れてないし何か緊張して……掃除したついでにここで書こっかな~って」

 

「……掃除!? あなたもしかして……!!」

 

その時になって初めて藍子が部屋を見渡す。

……途中で声もかけてたんだけど、気づかないようだからそのまま続行した。

 

今までは私も藍子がそうしているなら良かれと思ってそのままにしていた。

でもそれじゃあダメなんだ。

これは、今日から心機一転、心を入れ替えるという私の所信表明。

藍子との関係も、4年間ずるずると来てしまった。

 

でも、きっと変わらなくちゃいけないんだ。

私も藍子も。

 

 

……まあ気づいてなかったのには驚きだが、サプライズになったと思えばいいだろう。

さぞ、喜んでもらえる――。

 

「……何てことを!! ……あなたは何てことを!!」

 

「え? 藍子がこめかみをピクピクさせながらこっちにメンチを切ってる? どうして?」

 

「誰が片づけてって頼んだの……!! どこに何が置いてあるのか整理されてたのに、これじゃあわからないじゃあないの!!」

 

「えええ……めちゃくちゃ散らかってたのに……。いや、でも本の大きさとかタイトルの長さで固めといたよ」

 

「……ア、アホの茜。私は今、軽い眩暈を覚えているわ……。いい? どこに何があるかはその人間の思考……言い換えればひとつの世界なの。あなたはひとつの世界を破壊したのよ茜谷茜」

 

「私は悪魔か何かか。足の踏み場がないくらい散らかった部屋を掃除したのにこの言われよう……」

 

「もういい」と藍子は自分の机に向き直ってしまった。

……と思ったら、きゅっとこちらを向きなおした。

 

今日の藍子、挙動がわからない。

 

 

「……何、それは?」

 

「だから日記を書くんだって。帰り道も言ったでしょ……」

 

「……」

 

藍子はまじまじと私の書いた数行を見詰めている。

あれ? もしかしてよく書けてた……?

いやあ、勢いで書いたけどやってみるものだ。

 

「……茜」

 

「なに?」

 

「……とりあえず、最初に日付くらいは書いた方がいいと思うわ」

 

「あ」

 

ごもっともである。

 

 

 

 

「よし、今日の日付は書いた!! これで完成度の高い日記に近付いたね!! さあ、次は何をすればいいかな藍原先生!!」

 

「……先生呼びは止めて。あと私も別に文章を書くプロとかじゃない……何も教えれないわ」

 

「へええ。何か意外かも。そんなに本を読んでるのに」

 

「……」

 

藍子は機嫌を悪くしたのか、わざとらしく本を開く。

(タイトルはよくわからないが、セーラー服の女の子が並んでるあたり青春モノ的なアレなのだろう)

 

まあ、考えてみれば常に(・・)本を読んでいるのだから、当然そういうことになる。

藍子は本を読む以外のことを、基本的にしない。

 

気を取り直して、私は独り言を続けることにした。

 

「まあ項目はできたんだから後は肉付けしていけばいいか……。萌黄さんと藍子がキスしたのは……もういいや。二行目!! お店の名前で確かうーんってなんだよね。……どうしてだっけ、わからん、忘れた」

 

「……。お店の名前がフェアリィ。妖精を思い出したからでしょ、あの時の」

 

「あ、ああああ!! そうだった!! 何かこう……『ええ!?』ってなったんだよね!!」

 

「……クソのような語彙。まあ、示唆(しさ)的だし偶然というにはあまりにも不吉な……うっぷ」

 

「ちょ、大丈夫、藍子!?」

 

そうだ。

4年前の戦いで私達が見たもの、それを私達は『妖精』だと直感した。

だからこんな何でもないお店の名前でどきっとすることになったのだ。

 

背中をさすっていたら、息も絶え絶えに藍子が口にする。

 

「……まあ、お店の名前に関しては偶然でしょう。……探せばいっぱいあるはずよ、こんな名前」

 

「どうどう……。よし、そのことを書き込んで、と……。この調子で行ってみよう!! じゃあじゃあ私がモンスターとの戦いでしっくり来なかった件!!」

 

「……あなたが負けてたからでしょ、ただの雑魚モンスターに」

 

ぐさっとくる。

 

「いや、最終的には勝ってたよね?」

 

「……萌黄さんのおかげでね。普通に戦ってたら私達じゃ勝ち目は薄かったし、『組織』からの救援待ちだったでしょうね。……私達はもう『助ける側』じゃなくて『助けられる側』ってこと」

 

なるほど、と納得してしまいそうになる。

昔に助けた幼女に助けれられて、世代交代の波を感じたってことか。

 

……魔法少女自体が増えて、私や藍子が頑張らなくてもよくなったてのも大きいんだろうなあ。

 

「……あと、アレよ」

 

「なに?」

 

「……変身。しなかったでしょ、あなた」

 

「あ~」

 

言われて思い出す。

戦う時に気にもとめなかったな……。

 

だって、意味ないし……。

 

「何というか、私も歳相応の恥じらいはあるというかー。まあ、小等部の子くらいしかやってないしね、変身……」

 

「……あなたのメンタルは小学生並みじゃないの、茜」

 

「酷い言いよう。いや、藍子も知ってると思うけど変身って見栄えが良くなるくらいで普通はそんな使わないし……。ホバリングしたい時くらいじゃない?」

 

「……すればいいじゃない、常に」

 

「……? ここに食いつく? まー中学上がったあたりで魔法少女もめちゃくちゃ増えてきて、そういうの、やらなくなったよね」

 

「……何で?」

 

「え? 何でって……?」

 

わからない。

わからないけど――。

 

みんなやってなかったから。

 

「……もういい」

 

貴重な藍子と話す機会はこうして終わってしまった。

 

藍子は再び本の世界へ。

私は息を吐いて、日記を充実したものにするべく机に向き合うのであった。

 

 

 

 

「まあ、こんなもんかな……?」

 

ノートの真ん中にある各項目から派生するように、線を伸ばして思いついたことを綴っていった。

多少はごちゃごちゃしたが、まあ初日だしこんなものだろう。

この部屋の当初の荒れ具合を考えればマシ……などと言ったら藍子が不機嫌になるから口にはしない。

 

伸びをする。

いつの間にか外は真っ暗だ。

(やっぱり、途中で音楽を聞いたりスマホを開いていたのが良くなかったかもしれない)

 

相変わらず淀みないペースで読書を続ける藍子に代わってカーテンを閉めよう。

その前にもう一回だけ日記を確認して――。

 

「……ん」

 

ふと気づいた。

私の感想文が埋まったその1ページで、線が伸ばされていない項目があることを。

 

 

・藍子もモンスターに目的があるって言い出した(これ、正直書きたくないけど、まあ驚いたのは事実だし……)

 

 

「……」

 

考えてみる。

モンスターの目的を。

 

当然、わからない。

24年前だかに突然確認されて、原理もわからないまま唐突に世界各地に出現し続けている。

そんな奴らに何の目的があるというのか。

 

――言った本人に聞かないことには。

 

「あのさあ、藍子」

 

藍子は本を開いたままだ。

それでも私は続ける。

 

少しでも、わかりたいと思ったから。

 

「モンスターに目的があるって言ってたよね……何?」

 

「……。あなたは知りたくないんじゃないの?」

 

「またそういう言い方する……。藍子の考えていることを知りたいって思っただけだよ」

 

「……」

 

藍子は本を閉じて、窓まで進み、外を見ていた。

 

いや、正確には夜空を見上げていた。

 

真っ黒な宇宙に、満点の星々が浮かんでいる。

 

「モンスターは宇宙よ」

 

「は???」

 

思わず素っ頓狂な声が出てしまう。

これは、アレか。

今まで心を閉ざしていた少女が、渾身のギャグを放った的な……。

 

「……アホなことを考えてそうだから、もう一度言うわ。モンスターは宇宙……あの漆黒の空そのもの」

 

藍子はずっと、空を見ていた。

どこまでも果てしなく続く夜空を。

 

「無限に拡大を続け、決して絶えないもの……それがモンスターの正体よ」

 

 

 

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