一日目、晴れ。
ちょっと臭う友人を風呂へ入れれば、ぶつくさと文句を言われる。
二日目、天気悪し。
久しぶりに好きな音楽を一日中聞く。
歌って普段は何気なく聞いてるけど、すごくいいことを言ってたりすることに気づく。
一歩前進した気分。
三日目、昨日は何もしていないことに気づく。
嫌がる藍子を散歩に連れ出し、買い物。
帰り道、公園で小さな子供たちがごっこ遊びをしているのを見かける。
自分達もああいう時期があったんだよなあとしんみりする。
(精神年齢は同じくらいでしょ、とイヤミが飛んできたが聞かなかったことにした)
よくみたら小等部の魔法少女達で、ごっこ遊びに見えていたものは魔法少女が必殺技を飛ばし合うサバゲ―だった。
流れ弾が私に命中するも、ちゃんと笑顔でキレ散らかした。
二回目に飛んできた光線は、綺麗に蹴り返した。
四日目、折り返し。はやっ。
魔法少女とはなんぞや? と本気で考えてみる。
5分後、特に何も思いつかないので藍子に相談をしてみれば「図書館にでも行け」とナイスなアドバイスをもらえた。
『特区』の図書館は夏休みの間も解放されていた。
大学生などは、調べ物をするためによく利用しているらしい。
本を真面目に読んだことはないので、緊張した。
(教科書にだって安眠効果を感じるのが私だ)
魔法少女の歴史の本を適当に取り、ぴらぴらと本をめくる。
モンスターの出現から魔法少女の覚醒、それに伴う魔法力の研究……。
正直、10%も頭に入っていなかったと思う。
それでも、多くの人が努力して今日に至るんだなと思うと、今の平和も決して当たり前じゃないんだなと思えた。
……魔法少女のネーミングは当時の偉い博士が決めたらしい。
魔法少女の由来の欄があったが、見ないことにした。
何となく、答えを出す前に正解を見てしまうようで気が引けたから。
結局、その日は一日中図書館にいたが、得たものは多かった。
藍子が読書に没頭していた気持ちも、ちょっとだけわかった気がした。
五日目、五日続いていることに感動し涙を流す。
勉強した成果をまとめようと藍子の部屋で勉強会を開く。
……。
なかなか進まず、スマホをいじる。
途中、クラスメイトからカラオケに誘われる。
(あんたヒマでしょ? と身もフタもない聞き方をされた。私は何だと思われてるんだ)
藍子に行ってもいいか聞けば、「好きにすれば?」とのこと。
じゃあ、行くか。
乙女の花盛り!! 三人寄らばかしまし!! 私達無敵の女子高生にして魔法少女!!
……というわけで魔法少女仲間の高校生達三人で盛り上がってきた。
マイクを持って、「魔法少女の目的って何だと思う?」と真剣に聞いてみる。
「文句言われん程度に頑張り、文句言われん程度に楽しむ」「……生きる!! ドンッ!!」
さすがは私の知人たちだ、ユーモアのセンスを持ち合わせている。
二人に「まあ、私達はもう魔法少女じゃないんだけどね」と言われれば、一抹の寂しさを感じてしまう。
魔法少女は、本人が現役と感じるまでが魔法少女だ。
帰った後、藍子の様子を見に行けばいつも以上に不機嫌な気がした。
……今日は何もしてないはずなのに、何でだろ。
六日目、今こそ飛躍の時。
今日は藍子を連れて散歩へ出かける。
(決して昨日の埋め合わせではない、決して……)
公園に寄ってみれば、今日は小学生の一団が踊りの練習をしているようだった。
良く見れば、萌黄さんが混じっていた。
遠目から、藍子とそのまま眺める。
……こちらには気づいていない。
どうやら練習している一団のリーダー的な役割らしい。
練習の合間、周囲の友達と談笑する萌黄さんは何というか……キラキラして見えた。
ただの生意気な娘じゃなかったということだ。
日常を愛し、日常を生きる……。
彼女もまた……魔法少女だったということだ!!
「私達が歳を取っただけじゃないの?」という藍子の言は聞かなかったことにしよう。
こんなに頑張っている後輩がいうのだから、ちゃんとした『宿題』が出せるように頑張ろう、などと思うのであった。
七日目、この欄に書くこと特にない。サボろ。
明日はいよいよ小等部の夏祭りの日。
そこで、この日は一日藍子の部屋で作業をすることとした。
これまで私が経験した全てのことを糧に……魔法少女についてまとめあげる!!
……。
3分くらいで、行き詰り私は藍子に話しかけていた。
藍子は相変わらず、本を開いたままこちらを見向きもしない。
それでも、その背中に話しかけ続ける。
私達が初めて魔法少女になった時のこと、覚えているかって。
藍子は何も答えない。
私はもちろん覚えている。
小学六年生に上がって、藍子と私は同じクラスになった。
すぐ前の席が藍子だった。
その時の藍子は、引っ込み思案でいつも一人でいた。
私が話しかけても、全然反応してくれなくて。
でも、いつかおしゃべりしようねってずっと話しかけてたんだ。
そんな日がちょっとだけ続いた後、事件は起こった。
突然、モンスターが学校に現れた。
当然の混乱。
多くの叫びが飛び交った。
モンスターの存在は知っていても、それが目の前に現れるなんて誰もが思っていなかったのだろう。
私はと言えば逃げ遅れた低学年の子を見て、無我夢中でモンスターに突っ込んだ。
いま思えば無謀だったのかもしれない。
けれど、体が勝手に動いていたのだ。
いつの間にか、私の体は真っ赤なドレスに包まれていた。
感動する間もなく私は初めての戦いへ。
当然、モンスターとの戦い方なんてわからない。
とにかく自分の方におびき寄せて、みんなの安全を確保することにした。
で、案の定こっちに突っ込んできて危なかったんだけど――。
飛んできた青い光がモンスターを貫いていった。
目を見やれば青いドレスの少女。
アニメみたいに正体はわからないのかなと思ったけど、一目見てわかった。
私の前の席の、ずっと話しかけていた子。
駆け寄ってきたその子に、私は声をかけた。
「大丈夫!? 藍原さん!?」って。
そうしたら藍子は少し驚いて、「……それはこっちの台詞」って返してくれたんだ。
そのあと、二人分の笑い声が漏れた。
緊張が溶けていって、空に広がっていくみたいに。
それが、私と藍子が交わした初めての会話。
そして私達二人は、この町の唯一の魔法少女として『組織』に協力して町を守ることになったんだ。
魔法少女の活動を通して藍子とも徐々に打ち解けていった(最終的に私をアホの子扱いするまでになった)
きっとその過程に、意味はあったんだと思う。
今の藍子は、何もしゃべらないままだ。
藍子は元に戻ってしまったのか。
あるいは、私が変わってしまったのか。
わからないけど、答えはここにあるような気もした。
私は独り言のようにぶつぶつとしゃべりながら日記をまとめ、藍子は黙々と本を読み続けた。
そこには何もないのかもしれないし、何かがあったのかもしれない。
私の頭にはひとつの考えがあった。
そうか、私達がやっていることって――。
●
八日目、決戦の時――。
ついに最後の、朝が来る……って言ったら大袈裟か。
今日は小等部の夏祭りの日。
いつものように目を覚まし、スマホをいじる。
流れていくメッセージに目を通す。
……これ全部ひとつひとつが、誰かが何かを考えた結果なんだろうなって思うと、不思議なことだ。
私達は今、ものすごい不思議な体験をしているのかもしれない。
綴られた思考の連続。
目の前に広がる記憶の断片。
一週間分の日記にざっと目を通す。
飽きっぽい私が続けたのだから、大したものだと思う。
「……よし!!」
身支度を終え、扉を開く。
今日は夢を見なかった。
●
藍子を乗せた専用台車を引きながら、飾り付けられた小等部の門をくぐる。
「夏祭り」とゴンブトの筆書きで書かれたそれは、生徒の誰かが書いたものだろう。
(魔法少女は多芸なので、達筆な子もクラスに一人くらいはいるのだろう)
出店が並び、校舎が飾り付けられ、学内イベントのチラシが配られ、そこらで魔法少女が出し抜けに光を放っている。
ステージで催し物もあるらしいので、その練習だろう。
「お祭りって感じ……!! ね、藍子」
「……」
「聞いてないかあ……ん?」
藍子が手にしていた本の表紙には法被を着た男達が神輿をワッショイかついでいた。
内心ウキウキだったらしい。
「藍子さん!! 来てくれましたか!! 今日もクールで決まってます……!!」
この台車に乗った浮かれポンチをクールなんて評する子は普通いない。
門から前方に見える妖精像の前に、黄色いツインテールの少女がいた。
「萌黄さん……!!」
「あ、茜さんもおはようございます。ちゃんと逃げずに来たんですね」
こちらを見てふふんと鼻を鳴らすメスガ黄……もとい萌黄さん。
しかとその眼を合わせて、私は答えるのだった。
「魔法少女の目的……あなたの満足するような答えじゃないかもしれない」
「……。あれあれ~? 戦う前から予防線を張るんですかあ~? レスバよわよわお姉ちゃん~キャハハハ!!」
「でも、これは私の出した答え……だからあなたに、聞いてほしいと思ってるわ、萌黄さん」
「……!! ふん、楽しみにしてます。答えを聞くのは午後のメインステージ、私のクラスのダンスが終わった後!! そこで藍子さんとあなたに……特別ゲストとして壇上に上がってもらいます!!」
「あれ……? そんな話だっけ!?」
「今、決めました。クラスでもそういう話は出していたのでみんな喜んでくれますよ? もちろん茜さんがイヤなら止めますが……」
「うん、受けて立つわ!!」
風が何だか心地よい。
この4年間、長らく感じることがなかったかも。
まるで、赤いドレスに身を包んでいたあの頃のようだ。
「萌黄さん……!! あなたの宿題の答え……全校生徒に聞かせてあげるわ!!」
『宿命』であり『主題』。
魔法少女の
――よくぞ言ったわ、茜ちゃん。
「まさか、この声は……!?」「……!!」「え、誰です誰です?」
振り返ればすらっとした身なりの女性が立っていた。
歳は40を超えるはずだがくりくりした瞳は童顔さを際立たせ、藍子の姉と言われても違和感がないほどである。
そう、私はこの女性を知っている!!
この人に藍子のことを託されたのだから!!
「あなたは……、あなたはーーーー!?」
「藍子の母です。娘がお世話になっております」
藍子の母が来た。