「もしもし。」
そこは夕陽の差し込む部屋だった。一目見ただけでも金のかかる調度品が並べられたその部屋で、1人の男は余裕気に、それでいながら退屈そうに
『もしもし、ではないわい!』
そして室内に響き渡る怒声。機械越しにではあるが聞こえてくる声質からして、声の主は老人だろう。その声に馴染みがあるのか少しだけ薄らと
「いやいや。文明人たるもの電話の始まりは“もしもし”から始めないと。」
『そんなもんどうでもいいわい!そんなことよりもじゃ!』
老人の勢いは止まらない。
『
「どこ、ですか。」
問われて男は室内を一度見渡した。高価な調度品に溢れた部屋の隅では高慢そうな、全身を成金趣味のような服装に固めた中年の女性がガタガタと身を震わせている。その女からは興味なさそうに視線を逸らすと、彼は口を開いた。
「…ある意味で日本の
『はあ?』
「ま、“自称”ではあるんでしょうが。」
『意味がわからん。はっきりと答えんかい!』
痺れを切らしたのか、老人が吠えた。その声に愉快そうに目尻を下げると、男はついに、今いる場所のその名称を口にした。
「“IS委員会日本支部”…の支部長室。」
『…は?』
「おっと。その反応だとどうやらまだニュースにはなっていないようですね。」
言いながら男はリモコンを手に取ると、テレビの電源をつけた。その音に女性が小さな悲鳴をあげるが、男は気にも留めない。まるで自身こそが部屋の主であるかのように、彼はテレビから流れるニュースを眺めていた。
【速報です。今日、都内の都立高校で世界2人目となるISの男性適性者が発見されました…】
「…確かにまだそこまでしかニュースになっていない、と。」
『まだっちゅうことは…優、お前、何をやった?』
「特には何も。ただ、まあ…。」
テレビの画面には自分の顔が映っている。どこから流出したのか。というか肖像権はどこに行ったのか。そんなどうでもいいことを彼は考えていた。
【適合したのは高校1年生の“金丸 優”さん。この発見によって日本は…】
こんなことを流す前に仕事すればいいのに。そう思いながら彼は会話の相手─徳川光成に話しかけた。
「ちょっと交渉に?」
『交渉ってお前…。』
「まあ、ちょっと警備員には
そう語る彼のいる部屋の外。いや、そこだけではない。その建物の至る所で、だ。武装した警備員たちは1人残らず、一切の例外なしに白目が剥かれ、その意識を刈り取られていた。そして、彼の言っていることが確かなら、だ。
「“
この建物を!この男が、たったの1人で、しかも素手で制圧したという事実!
『…今じゃそこは国会議事堂並みの警備があるはずなんじゃがのう。』
「親父ならできる。兄貴たちもできる。」
そう言って彼は一つ大きな欠伸を拵えた。まるで当然の事実を言っているかのように。
「なら俺もできるでしょ。てかそんなことより、徳川さん俺に話があるんじゃないんですか?」
『おう、そうじゃった。優よ、これからの話なんじゃが…」
老人の口から語られる提案に優は特に反対することもなく賛同すると、しばらくして通話を終えたスマホをポケットにしまった。そのまま悠然と立ち上がった。
─
部屋の隅で震える女性は、立ち上がった男─金丸 優を見て素直にそう思った。それは背丈の話だけではない。背丈だけなら180センチとそこそこ。年齢を考えるとそれなりに大きい方ではあるだろうが、それこそ小柄と称される日本人にもそれ以上の長身はざらにいる。ならなぜそんな印象を与えるのか?
それはあまりにも単純な
「てことで、ですが。」
ついに女の前に立った優はつまらなさそうに口を開いた。そのことに小さな悲鳴が上がる中、それを意にも介さず彼は続ける。
「俺のお願い、聞いていただけます?」
目の前にいる
その怪物からの
【IS】。それは10年前に世界を変えた存在。既存の兵器では歯が立たず、軍事パワーバランスを塗り替えた兵器。元来であれば女性にしか扱えず、男性には使えないはずの道具。
だが、ついにそれを操れる男が現れた。それも2人。
「…なんで俺が。」
片や最強の
「…とりあえずは
片や認められずとも地上最強の息子。
2人が出会う日は、近い。
金丸 優
身長183センチ体重118キロ。記録上2人目となる男性IS適性者。
戦闘スタイルは『本部流柔術』。
実際のところ“血”は薄いとかなんとか。