『鬼』の系譜の男   作:チキンうまうま

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10話

 

「まずは金丸のペースといったところか。」

 

 一先ずの仕切り直しの間、電光掲示板に表記された、両者のシールドエネルギー残量を見て千冬は頷いた。そこに示されたセシリアのエネルギー残量は、被弾はたった2撃であるにも関わらず、半分近くが持って行かれている。

 

「ですね。滅多に見られないISでの格闘戦に、固有武装の…何でしたっけ。」

「『紫雲(しうん)』だ。」

「それです。それの『空中に障壁を展開する能力』。…初見殺しには十分ですかね。」

「ああ。だが、あいつにとっては寧ろ、ここからが正念場だろうな。」

「ええ。」

 

 その言葉には麻耶も追従した。彼女らの視線は、先ほどよりはるかに距離を空けた2機のISに注がされている。

 

「今の状況こそあれだが、オルコットの技量は金丸のそれを凌駕する。どうなるかなんてわからんぞ。」

 

 

 

 

 

 

 

(…ISが、空中に叩きつけられた。)

 

 セシリアは今度は一切の油断も慢心もなく武器を構えながら、先程の一撃を思い返していた。その一撃、自身の両腕を掴まれての投げ技は大地に対してではなく、本来なら何もない、空中へとブルー・ティアーズを叩きつけたのだから警戒せざるを得ない。

 チラリと電光ディスプレイに視線をやると、そこには大きく削れた自分のシールドエネルギーと、未だ被弾していないにも関わらず僅かに減少した優のシールドエネルギーが表示されている。

 

(となると、おそらくは()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()。…第3世代兵装に相応しい代物ですわね。)

 

 推察を進めながら内心で舌を巻く。その仮説が本当なのだとしたら、それはおそらくは全方位に見えざる盾があるのと同義。ただでさえ瞬間火力に欠けるブルー・ティアーズにとっては厳しいものとなる。

 

「…考え事は済んだか?」

「ええ。時間を取らせて申し訳ありませんわ。」

「構わねえさ。それでお前が本気で来てくれんのならな。」

 

 口では薄く笑いながらも、セシリアを捉えた優の双眸は笑っていない。瞳孔が開き切ったその目は、恐ろしいほどの異質さを放っている。

 

「その節は申し訳ありません。…ですので。」

 

 緊張感を孕んだ会話が行われている中で、突然に、

 

 光条が、走る。

 

 それはフィールドに展開された浮遊砲台(ビット)のうちの1つから放たれたもの。一切の予備動作も、宣言もなく優の背後から放たれたそれは、ギリギリのところで躱されたものの、確かに『雷電』の機体を掠めていた。

 

「仕掛けさせていただきますわ。」

「もうやってんじゃねえか!」

 

 その宣言が第二ラウンドの始まりだった。

 宙に浮かぶ4門の浮遊砲台(ビット)とスターライトMk-Ⅲから同時にレーザー光が射出され、雷電を追い詰めていく。計5条のレーザー光、それも実弾とは比べ物にならない筈の兵器が優に、雷電に襲いかかる。

 

 それは空中という状況を活かした、立体的な攻撃。優を取り囲むかのように、四面体(テトラ)状に配置された浮遊砲台(ビット)から、レーザーが死角を抉るかのように撃ち込まれていく。いくらISにはハイパーセンサーがあるとはいえ、並の機体であるのならば対応の一つもできずに散っていくであろう戦術。

 

「…なぜ!」

 

 だが、彼女に誤算が一つ。

 

「何故()()()()()のですか!」

 

 ()()()()()。絶対的に有利な立体陣形を組んだ上での、高速波状攻撃。それが、当たらない。いや、全く当たっていないわけではないが、全てが擦り傷程度に抑えられている。

 

「さてな。」

 

 そんなセシリアの耳に、優の声がした。ゾクリ、と背筋が泡立ち冷や汗が流れ落ちる。そして彼女は優の目を見た。見てしまった。

 

「……!」

 

 瞳孔の開き切った優の目。その双眸が、二つとも()()()()()()()()()()。ぎょろぎょろと辺りを見回すそれは、まるでカメレオンか何かのような、およそ普通の人にはできない不気味なものだった。

 

「なんですの、それ…!?」

 

 焦りながらもレーザービットとライフルから絶え間なく光条を放ち続ける。上から、下から。右から、左から。そしてその全てが、直撃することなく空を切った。

 幾らセシリアが優の反応し難い方角から狙おうとも、被弾することがない。それはまるで悪夢のような光景だった。

 

 そして実際、優にはそのすべてが見えている。

 

 ISの標準機能として搭載されているハイパーセンサー。それは機体の周囲360°全てを確認できる代物であり、理論上は常に全方位を視野に収めることができる。

 ─但し、それはあくまで理論上の話。普通の人間では、単純にその全てを視界に収めることはできない。それは一般的な人間の視野が、ハイパーセンサーを収めるには狭すぎるからだ。

 

 ならば、()()()()()()()()()。優の至った結論はそれであり、そして幸いにもそれを可能にする技術を身につけていた。

 

 ─その技術の名こそ、『散眼』。

 

 両目をカメレオンのようにバラバラに動かし、四方八方全てに対応する技術である。『武神』、愚地独歩から伝授されたそれを活かして優は今全てのレーザーに対応することを可能としていた。

 

「…いくぜ。」

 

 その状態で、優は、『雷電』はその鋼の体躯を屈めた。同時に脚元に障壁を展開し、足場を作る。そして加速装置(スラスター)もまたいつでも発動できる状態にまで温める。それは最高の一撃のための下準備であった。

 

 それは防御という概念をかなぐり捨てた、攻撃一辺倒の構え。最短、最速で最強の破壊力を叩き込むための態勢。そして観戦している中でもその構えに見覚えのある者は、その態勢の意味に気がついた者は皆一様に息を呑んだ。

 

「……!」

 

 まずいのが来る、とセシリアが悟ったのと爆音が響いたのは同時だった。硬質な何かがひび割れる音と、無茶苦茶なまでの加速度のせいで響き渡る大轟音。やけにスローモーションになったセシリアの視界には、その機体全てを弾丸に変えた『雷電』の姿が映っていた。

 

 それは所謂『ぶちかまし』。優の兄にあたる地上最強の少年であれば全身の脱力から超加速を得て叩き込む技。それを優はISで、瞬時加速を用いて擬似的に再現していた。尚且つ機械制御の関節を持つことを利用して、剛体術のように全身の駆動関節を固定。全身を一つの巨大な鋼の弾丸にすることを可能にした。

 つまり今や彼は音速に近い速度で放たれた、超重量の弾丸。超重量と超加速度を味方につけた、世界最強の破壊の申し子。

 

 そして─鋼と鋼がぶつかり合い、ひしゃげ、砕けていく破砕音。気がつけば、ブルー・ティアーズは遥か後方へと弾き飛ばされていた。断じて油断も、慢心もない状態であったにも関わらず、セシリアはその一撃に一切の反応をすることができていなかった。それほどにその一撃は速く、重い攻撃であった。

 

「…っ!そんな…!?」

 

 アリーナを守るべく展開されていた障壁に激突し、ようやく弾き飛ばされたブルー・ティアーズはその動きを止めた。が、もはや残されたシールドエネルギーは僅か。手に持ったライフルも、今の衝撃によってへし折れてしまっていた。

 

「…っ!『インターセプター』!」

 

 主兵装であるスターライトMk-Ⅲを失ったことで慌ててショートブレードを呼び出すも、遅かった。…何せ()()はすでに目の前にいたのだから。気がつけば『雷電』は刀を携え、振り下ろそうとしていた。セシリアもまた、それを迎え撃たんと下段から切り上げる。

 

 セシリアとて国家代表候補生。並のIS乗り以上には剣の心得を持つ。だが、相手が悪かった。相手は金丸。単身にて一組織を壊滅し得る暴力と技術を持つ怪物。あの本部が認めた、2人目の免許皆伝持ち。武器を含めたなんでもありの近距離戦闘においては兄をも上回るグラップラー。

 

「終わりだ。」

 

 その一言は、やけに響いた。セシリアの剣は優に一撃を加えることもなく、虚しく空を切る。それと引き換えに、胴体を走る衝撃と真っ赤に染まった視界。それはシールドエネルギーがゼロになった証左であった。

 

『試合終了。勝者─金丸優。』

 

 あまりの衝撃故に静まり返ったアリーナに、その音声だけがやたらと響いた。

 

 

 

 





【雷電】
 超近距離戦闘のみに特化した機体。軍用ではなく最初からアリーナ戦のみを目的としているため、加速力やパワーに優れる代わりに航続距離や燃費はかなり悪い。拡張性も低いため、近距離兵装を複数積めばその時点で限界が来る。だが優本人の戦闘技術とのシナジーが極めて高く、彼にとってはまさに『専用機』と呼ばれるに相応しい機体。

【紫雲】
 【雷電】の数少ない専用兵装。自身のシールドエネルギーを使用し、空中に障壁を展開する。使いようによっては壁にも床にもなる万能能力なのだが、使い手の癖によりもっぱら床として使用される。

【散眼】
 愚地独歩の使用した技術。両目を別々に使用することで視界を広げることができる。

【ぶちかまし】
 今回に関しては劣化版蜚蠊ダッシュ。ただし重くて速いので破壊力はかなりある。

【剛体術】
 関節を固定することにより、全身を一つの鉄塊のように変える技術。これを極めれば攻防において極めて有利を得ることができる。ISは関節が機械制御なのでやり方さえ分かればかなりやりやすい技術(ただし関節は極めて劣化する)とのこと。


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