『鬼』の系譜の男   作:チキンうまうま

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繋ぎ回



11話

 

「おかえりぃ。」

 

 静まり返ったアリーナを後にして、優は自分のロッカールームへと戻ってきていた。ISスーツの上から上着を羽織り、ポケットに手を入れた彼をその部屋にずっといたのであろう布仏が相変わらずのぽわぽわした雰囲気で出迎えている。

 

「圧勝だったねぇ。びっくりしちゃったよぉ。」

「圧勝?」

 

 ぽりぽりとクッキーを齧る彼女がそう言ったのに優は少し鼻を鳴らした。

 

「圧勝─まあ、結果だけを見るならそうかもな。」

 

 ドカリと椅子に腰を下ろし、ペットボトルの蓋を開けながら彼は布仏の発言を否定するかのようにそう言った。それを聞いて布仏がコテンと首を傾げる。

 

「違うの?」

「違うな。少なくとも─あの試合ほどの実力差は俺とオルコットの間にはない。いや、寧ろ技量だけならオルコットが俺の数段上を行く。」

 

 まともな被弾を一度もしないままでの圧勝。側から見ればそんな実力を見せつけたというのに、優は淡々とそう告げた。

 

「勝ったのに?」

「勝った方が技量が上とは限らねえってこった。そもそも遠距離支援型のあいつと近距離格闘型の俺では求められるモノも違う。安易に比べるなんてのは無理だ。」

 

 少なくともブルー・ティアーズは近距離で殴り合うようには作られていない。無論軍用機ゆえに多少の備えはあるのだろうが─対近距離戦闘機に相対するのはあまりにも無謀。そう優は判断している。

 

「それに今回は初動で俺の流れに引き込んだが…遠距離からの引き撃ちに徹されてりゃ今頃堕ちてたのは俺だ。」

「でもすぐるんの方がせっしーより速かったし、そうなっても距離詰めれたんじゃない?」

「無理だな。俺があいつに勝る速さはあくまで直線の瞬間速度。オルコットがカーブ軌道で回避してたら捕えられねえ。─だから、初手で仕掛けた。」

 

 そうなるように誘導はしたが、もしもそれを読まれていたら勝っていたのはオルコットだった。少なくとも優はそう確信している。

 なにせ、実際のところ優がまともに使える技術(わざ)は高速切替と瞬時加速のみ。その状況で勝つのならば、それが通る状況を作るのが最優先であるのは当然だろう。

 

「ISを纏わずにリングに上がって、普通のISならまずしない武装なしでの開戦。そしてIS本体での超加速体当たりに煙玉、最後にゃ投げ技。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんなことされちゃあ大体の相手は守りに入らず、これ以上変なことをされる前に仕留めに来る。そこを逆に俺が仕留めただけの話だ。」

 

「妙なことをしてくる意味わかんねえ奴。そう思わせた時点で俺の勝ちだったのさ。」

 

「…全部狙ってたの?」

「当然。それ以外に勝ち筋はなかったからな。」

 

 そう言って優は壁にかけられた液晶画面へと視線を向けた。これからしばらくのインターバルを置き、一夏とセシリアの試合が行われる。もっとも、先ほどの戦いで損傷したブルー・ティアーズの修復にはそれなりの時間がかかるだろうからまだ試合は行われないだろうが。

 

(でもね、すぐるん。)

 

 そんな彼の横顔を見ながら、布仏は内心でつぶやいた。

 

(今の勝ちは、ちょっと不味かったのかもしれないよ。)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不味いわねえ。」

 

 まさかのイギリス代表候補生、セシリアの敗北を目の当たりにした女子生徒─更識楯無は、騒めきに満ちるアリーナで苦々しく呟いた。

 

「何がですか?」

「金丸くんが勝っちゃったことよ。」

 

 そして彼女の横に立つ布仏虚─のほほんさんの姉でもあり、楯無に仕える者でもある─の問いかけに即答した。

 

「ただでさえ世界に2人しかいない男性操縦者。本来なすすべもなく負けるはずだったそれが、代表候補生相手に勝つなんて実力を示してしまった。」

「…外野に色々言われなくなるという意味では良いことでは?」

「その意味では、ね。でもそれ以外が厄介すぎるのよ。」

 

 そう言って楯無は観客席の方へと目を向けた。そこには世界中のありとあらゆる国から生徒が集められている。つまり─

 

「今の戦いは確実に各国の軍部にリアルタイムで伝えられているわ。」

「…ああ、そういうことですか。」

 

 今の時代、メガネやペンに偽装したカメラなんていくらでもある。いや、そんなまどろっこしいことをしないでも、胸ポケットにでも携帯端末を入れてビデオ通話でダイレクトに伝えてもいい。それ自体はそこまで問題ではない。結局のところ、学外に生徒の実力を知らしめる機会は何回かあるのだから。

 問題は、まだこちらの備えができ終えていないこの時期に各国の軍部に今の戦いが知られてしまっていることだ。

 

「『裏』では割と有名な単身で一組織を壊滅させ得る若き地下闘技場戦士。ただでさえ仄暗いことを考えている連中に大人気な彼が、ISでも戦えることを知らしめてしまった。そんな彼を放っておく訳がない。」

「…どうやってでも引き抜こうとするでしょうね。」

「増えるでしょうねえ、ハニトラ。」

 

 だからこそ最初からそれを予期していた自分が彼の護衛を買って出たというのにそれを断られた挙句、実力行使にでたら完敗を喫してしまった。実際のところ、今まで培ってきた自分の技術(わざ)が一切通じなかったことには正直かなりショックを受けている。ついでに彼が『学園最強』の称号に一切興味を持たなかったことも。

 

「まずはどこが来ますかね、ハニトラ。」

「さあ?ただアメリカは正直微妙よね。彼の一族はアメリカと代々因縁があるもの。」

「一族?彼の生家は普通の家では?」

「表向きはそうなっているわね。ただ、父方の一族がヤバいのよ。正直更識では絶対相手はできないわ。」

 

 ブルリと身震いを抑えて、楯無は言った。あの一族だけは、あの男だけはこの国最悪の不可侵領域(アンタッチャブル)となっているのだ。

 

「祖父は単身で戦艦『アイオワ』に勝利。腹違いの兄は現役大統領を誘拐し、コーヒー代だけを身代金に誘拐。そしてアメリカ最悪の監獄『ブラックペンタゴン』に収監されて、その後割とすぐに釈放されてるわね。」

「…ということは、彼の父親は!」

「ええ、想像の通りよ。」

 

 社会の表、裏を問わずに知られている地上最強の生物。今や世界中に女尊男卑の風潮が流れているが、彼を一度でも目の当たりにすればその風潮は確実に掻き消えるであろう、人の形をした力の化身。

 

 アメリカに勝ち続けている(おとこ)

 

「世界最強の『腕力家』・範馬勇次郎。どう言った経緯で彼が生まれたのかはわからないけれど、彼は確実にその血を引いている。─正直、この情報だけで各国は放っておかないのに、今回のこの勝利がそれを更に後押ししてしまっているわ。」

「…日本はどう動くのでしょうか?」

「一応、陸上自衛隊(リクジ)は動いているらしいわ。あの陸自最強部隊。」

「ああ、()()部隊ですか。」

「ええ。()()部隊よ。」

 

 それは少しでもこの国の防衛の裏に携わった者なら誰でも知っている部隊。その部隊は表に出ることこそ一切ないが、生身で機甲部隊を相手取る化け物集団の集まりである。

 

「そこに入ってくれれば正直私たち(暗部)的には丸く収まるんだけど…。」

「一体どうなるんでしょうね…。」

 

 普通の学生では負えない物を背負った2人のため息は、春の空気の中に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだっけ、織斑先生のIS。」

 

 セシリア対一夏。その試合は大方の予想通りと言うべきか、順当にセシリアが一夏の機体【白式】を撃ち抜く形で幕を引いた。『ブルー・ティアーズ』は機体性能故に途中幾度か肉薄されることこそあれど、それでも一夏はセシリアを堕とすことはできずに終わっている。

 

「『暮桜』のこと?」

「それだ。…織斑の武器は、あれと一緒か?」

「おりむーの言ってることからしてもそうじゃないのかな?」

「なるほどねえ。」

 

 途中で何度か一夏が披露した刀。それがもし予想通りの性能をしているのだとすれば─

 

「面白い武器だな。」

「勝てるの?」

「当然。」

 

 あの武器は当たればそれで終わりの、防御無視の攻撃。だからこそ本来であれば厄介な、対処困難な武器なのだがこの男にはそんな考えは微塵もない。

 

「そもそも剣なんて当たれば斬られるモンだ。なら最初からその前提で動きゃいい。」

 

 ギシリ、と音を立てて優はベンチから立ち上がった。

 

「武器を使うってことを教えてやるよ。」

 

 

 





金丸 優
 『範馬の血』と『男性操縦者』の2点から裏ではかなり血統価値が高まっている。最近兄弟子から職場へと勧誘を受けはじめた。

陸上自衛隊最強部隊
 自衛隊最強5人衆。メンバーは第一空挺団の隊員だとか。
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