『鬼』の系譜の男   作:チキンうまうま

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12話

 

「金丸。ああ、あの金丸ね。もちろん知っとりますよ。」

 

 ゾゾ、と轡木の前で茶を啜る小柄な老爺はそう言った。

 

「というか、この国で『武』を志した者ならば誰もが知っとるでしょうな。何せ金丸はあの本部の弟子筆頭。知らんわけがない。」

「それほどに有名ですか。」

「あくまで『裏』ではですがな。」

 

 メガネを掛けた小柄な老爺─渋川剛気は轡木が『裏』を知っていることを前提に話した。いや確かに知ってはいるのだが、そんな簡単に話していいのかと言う思いもある。

 

「そういや今あの(ボン)はお宅のとこにおるんでしたっけ?」

「ええ。うちの学園に籍を置いております。」

「ほへぇ〜。ならまあ、気にはなりますわなあ。」

 

 そう言うと、人好きのする笑みを浮かべていた渋川は急に真顔になった。その落差に轡木の背中が伸ばされる。

 

「ま、あの小僧(ガキ)を一言で言うなら…。」

「言うなら?」

「産まれる時代を間違えたバケモン、ですなあ。」

「……はあ。」

「それも500年ほど。」

 

 500年?突拍子もないその発言に轡木の頭が混乱する。

 

「500年と言いますと…戦国時代ですか?」

「その通り。()()宮本武蔵と同じくらいの時代ですわな。」

()()宮本武蔵と同じ時代…。」

「まあそんなものはただの感覚。要はあの金丸は時代遅れっちゅうことです。」

「…と言いますと?」

 

 未だ要領を得ない轡木が尋ねると、少し顎に手をやった渋川はしばらくして口を開いた。

 

「轡木さんよ。」

「はい。」

「あなたも多少なり『裏』を知る身。その上でお尋ねしますが…この時代に鎧兜。使う兵士はおりますかね?」

「…いえ。」

「でしょうなあ。なら(しのび)や手裏剣は?」

「私の知る限りでは。」

「そりゃあそうだ。」

 

 轡木の返答に渋川はうんうんと頷いた。

 

「ところがどっこい。あの金丸、時代遅れも甚だしいそれらの技術(わざ)を修めちまいやがった。」

「……は?」

「本来日の目を浴びるはずもねぇ技術(わざ)の数々。たまたま師匠(もとべ)の奴が使えたから教え込まれただけにすぎねえだけのもんを、あの坊主はあの年齢(とし)で身につけちまったのよ。」

「…はあ。」

「これがまだ、その技術が使用(つか)えた時代ならともかく、なーんも使えん、ちょっと短刀(ドス)持ち歩いただけでお縄のこの時代にだ?」

 

 産まれる時代を間違えたとしか言えねえッ。

 その言葉を聞いて轡木は納得した。あの体格(ガタイ)をしていながら異様に足音が小さいわけも、相当な手練れであるはずの更識が手も足も出なかったわけも、資料として観戦()た優の模擬戦で普通ならあり得ない戦いをしていたわけも、だ。

 

「…ただの地下闘技場戦士(グラップラー)ではない、と言うことですね。」

「寧ろ素手の方が随分弱いでしょうなあ。何せ奴はなんでもアリですから。」

 

 なんでもアリ。今のを聞いた後だと随分とその重みが変わってくる。いや、学園にいる今はまだいい。それがもしIS使いとして戦場に立つとするならば。ISの機動力と馬力、装備の多様さ。それらを全てフルに使用する戦士が産まれることになる。

 

「でもまあ、そこまで心配はいらんでしょう。アレを倒せる奴もおることですし。」

「…いるのですか?」

「そりゃおるでしょ。例えば……」

 

 確認するかのように尋ねた轡木が見たのは、ニンマリと口角を吊り上げるバケモノ(渋川)の姿だった。そうだ、忘れていた!この老爺(ひと)も大概ヤバい人だった…!

 

「あんたの目の前、とか♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

『さーあ始まりました運命の第3回戦ッッ!』

 

 IS学園内アリーナ。先立って行われた2試合の熱狂も冷めやらぬまま、今一夏の『白式』対優の『雷電』の試合が行われようとしていた。

 

「よお。」

「………。」

 

 周りの大歓声も関係ないとばかりに、世界ただ2人の男性操縦者たちは中空で向かい合っていた。細く、スマートな『白式』に対して無骨な『雷電』は太く、重厚。まるで両機の操縦者(パイロット)を表しているかのような対面であった。

 

「金丸さんには悪いけどこの勝負、勝たせてもらうぜ。」

「……。」

 

 挑発するかのようなその発言に優は僅かに目を細めるだけで返した。いや、寧ろ─

 

『試合開始ィィィィ!!』

 

 敵とも思っていないのかもしれない。

 

「うぉぉぉぉ!」

 

 開始のゴングが鳴る同時に一夏は急接近を仕掛けた。何せ『白式』は装備が刀のみ(ブレオン)。勝つにせよ負けるにせよ、どのみち接近(ちか)づかなければならない。

 

「…ふむ。」

 

 対面からの急加速。通常ならば十分な脅威となるそれは、奇しくも優が先立って行ったそれと全く同じだった。いや、瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使っていないだけ練度として劣るだろう。故に、優はあっさりと対抗策を打った。

 

 ちゅどっっっっっ!!!

 

「なっっ!?」

 

 『雷電』の手から球体がこぼれ落ちたかと思うと、その場が白煙に包まれる。それもまた先程優の見せた武装─ジャミング煙玉であった。シンプルながらもレーダーを一時的に阻害するこの武装は特に寄ってくる相手には効果覿面。一瞬にして一夏の動きを止めることに成功していた。

 

『へえ。』

 

 動きを止めた一夏の耳に、プライベート・チャネル越しの優の声が響く。

 

『突っ込んでくると思ったんだがな。ブレーキの掛け方は知っているのか。』

 

 徐々に煙が晴れていき、視界がクリアになる。その先を見て、一夏は思わぬ光景に息を呑むこととなった。

 

「なんで、地上にいるんだよ…。」

 

 そこには悠々と地上に立つ優の姿。『雷電』はアリーナの端で、壁に背を向けて立っていた。それは空戦を主体とするISでは普通絶対にあり得ないことだ。

 

『知りたければこっちに来い。まあ…。』

 

 一夏の問いかけに、優は少し笑みを浮かべながら煽った。

 

『来れるのなら、な。』

「……っ!上等だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、アレはダメだ。」

 

 千冬の視線の先で、弾かれた矢のように突っ込んでいく『白式』を見て千冬はため息をついた。

 

「いや、まだわかりませんよ!?そんな、すぐ諦めるみたいな…!」

「ああ、そうじゃない。いやいち…織斑の勝敗もあるが、金丸のとったあの戦法だ。」

 

 クイ、と顎で壁を背にする優を指して、千冬は苦々しく呟いた。

 

「…ISの武器はでかいだろう?」

「……?はい。まあ、普通の武器よりは遥かにそうかと。」

「なぜかわかるか?」

「空中戦を前提にしているからでは…ああ、そう言うことですか。」

 

 ISの武器は軒並み巨大(でか)い。それは基本ISの居場所が空中であり、地面に干渉するということを前提にしていないからである。それが今、『白式』は戦いの場を地上に落とされようとしていた。

 

「そういうことだ。その上、金丸は武装なしでの戦いができる。」

「それも変なことなんですけどね…。いくら体術に秀でていても、ISだと手足の長さのバランスが違いますし…。まるで─」

 

 ─()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「…変な話ですけど、そんな感じがします。」

「………。」

 

 麻耶の発言は妄言のようだった。だからこそ千冬は黙って試合を眺めることでそれに応えた。その直後、彼女の整った眉根が急に顰められる。

 

「…一夏は。」

「はい?」

「一夏はちゃんと実績を残せるだろうか。」

 

 苦々しくそう呟く千冬の眺める先で、『白式』が逆さまに地面に突き立てられた。

 

 

 

 





渋川 剛気
 やべえジジイ。でもやべえジジイだけだと刃牙世界にはいっぱいいる。

壁際での地上戦
 これに持ち込んだ時点で『白式』の強みは割と死ぬ。と言うかほぼ死ぬ。でも近づかないとどうしようもないから地上戦に乗るしかないとか言うクソゲーが始まりました。

『手足だけが伸びた人』
 いるんだなあ、これが。なお優とはちょくちょくご飯に行く仲。
 優は骨は噛みませんし食べません。

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