『鬼』の系譜の男   作:チキンうまうま

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13話

 

 他の動物に比べて、人類(ひと)の持つ最強の武器とは何か。

 

 よく問われるものであり、これに対しては今までにも数多の答えが出されてきた。

 

 曰く、他の獣も恐れる火である、

 曰く、文明の象徴でもある鉄器である。

 曰く、並外れた知恵である。

 曰く、その手先の器用さである。

 曰く…………

 

 100人いれば100通りの、1000人いれば1000通りの答えが出てくるのこの問いに対して、金丸優もまた持論を持つ。

 

 その答えとは─

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおおおおおおお!!」

 

 自分の眼下、アリーナの壁際に立つ優に対して一夏は咆哮()えながら突進した。『雪片弍型』を普段とは別の、『突き』に特化した所謂『平晴眼』に構え、重力を味方につけて突き進んでいく。

 

 何せ彼の単一固有能力(ワンオフアビリティ)である『零落白夜』は所謂当たれば最強、の能力。地上の壁際と言う自身にとって最悪の環境に誘い込まれた彼にとっては、『如何に零落白夜を当てるか』のみが勝利を考える上での鍵となっていた。

 

 そしてそれこそが優のもう一つの目的であった。

 

 時速100キロにも迫ろうかと言う速度で落ちてきた『白式』に対して、優は右半身を前にした、柔道において最もオーソドックスな体勢をとった。そのまま『白式』の射程圏内と、自分の制空圏が重なる瞬間を待つ。一瞬でも間違えば、その時点で『零落白夜』を持つ一夏の勝ちが決まるだろう。

 

 だが、金丸優は知っている。

 

「っ『零落白夜』ぁぁ!」

 

 咆哮と共に、最強の能力であるそれが作動する。そこから現れるのは刀身が割れて光が漏れ出し、シールド諸共ISを切り落とす無敵の剣。ブリュンヒルデ(初代世界最強)から受け継いだ武器。それが今、優に、『雷電』に向けて放たれた。

 

 白兵戦に特化した『白式』から放たれた高速の突き。ISが地上に立つと言うことは、言い換えれば今スラスターの類は一切使われていないということ。つまり初速においては今、圧倒的に一夏の方に軍杯があがる。その状況で使われた、生半可な相手では反応すらできないはずのそれだが、それを放つ一夏は見てしまった。

 

(笑ってる…!?)

 

 薄らと、優は笑っていた。当たれば必殺、壁を背にし、銃弾にも劣らない速さの刀が迫っている状況で、だ。そしてそれを見る一夏に、聞こえないはずの幻聴(こえ)が聞こえてきた。

 

(残念だったな。)

 

 気がつけば『雪片弍型』の突きは躱されていた。いや、躱されたというのも違うかもしれない。気がつけば『白式』の突き出していた腕は『雷電』に掴まれていた。

 

(お前の零落白夜(それ)

 

 金丸優は()()()()()()()()()()()()()使()()()()ということを知っている。

 

 例えば今の状況。仮に師匠である本部ならば腕を掴むと同時に蹴りが飛んでいただろう。あるいは爆薬を仕込んでいたかもしれない。ガイアなら?口から硫酸をぶっかけてくるだろう。宮本武蔵なら?わからない。だが確実に何かは飛び出す。何せ彼らは武器のスペシャリストなのだから。

 

 だが、織斑一夏は素人だ。ならそんなことはできない。

 

 そして往々にして、中途半端に武器を齧った者はその手に持った武器しか使えなくなる。武器という絶対的アドバンテージを得た彼らは蹴りも、頭突きも、一切使えなくなるのだ。

 

 だから優は零落白夜を誘った。圧倒的不利な状況に誘い込み、一発逆転の武器しかないと視野を狭めさせる。その状況を作ると、あとは簡単に一夏の動きを予測できる。

 

 『白式』の腕を掴んだ『雷電』の全身の関節(ジョイント)が駆動する。機体の各所に仕込まれた歯車が一斉に動き出し、人力では辿り着けない馬力を生み出し始める。それは全て、操縦者の信じる最強の武器を体現するため。

 

 並のISよりも大きな機体が躍動する。それは重力を味方につけて加速していた『白式』の勢いを味方につけ、そこに『雷電』のパワーを上乗せする。それは間違いなく、『ブルー・ティアーズ』に放ったのよりも極上の一撃であった。

 

 

 

 人類の持つ、他の生物に対して優れた武器は何か。

 それに対する金丸優の答えは一つだ。

 

 

(待ってたぜ。)

 

 ()()である。

 

「うぉっしょおおおおおい!!」

 

 掛け声と共に、『雷電』は『白式』を投擲()げた。技としてはそれはただの背負い投げ。だが、明らかにそれは普通のそれとは一線を画していた。優の放ったそれは、まるで一切の防御を考えていないかのように行われた。

 最初は両手で、そして地面に当てる直前にはもはや片手で。まるでオリンピックの砲丸投げの選手かのように白式を地面に投擲げていた。いや、本当は『叩きつけた』のだろうが、もはや側から見ている分には『投擲』にしかみえなかったのだ。

 

 『雷電』の膂力と、月をも繋ぎ止める地球の引力。その二つを同時に利用されて、『白式』は地面に突き立てられた。

 

 

 

 

 

 

 

 想像していただきたい。この世に物を投げる動物はいるだろうか。

 

 例えば最も人に近い生き物であるチンパンジー。彼らは物を投げるのか?確かに小石を投げるくらいはするかもしれない。だが彼らは決して投げるのに特化した骨格をしていないのだ。

 

 そしてそれは他のあらゆる動物、熊も、ライオンも、象も、トリケラトプスも、ティラノサウルスだってそうだ。この世において、『投げる』ことに特化した生物はいない。

 

 ただ一種類、人間を除いて。

 

 この人間という生物、奇妙なことにやたら『投げる』のに向いている。そこらへんを歩いている子供ですら野球ボールを100キロ近い速度で投げられるし、専門のトレーニングをすれば160キロを超える。槍投げだって100メートル近く飛ばすものがいるし、砲丸投げは7キロを超える鉄球を23メートルも飛ばすのだ。こんな芸当は、到底他の生物にはできまい。

 

 そして人間は、それこそ石器時代からこの圧倒的利点(アドバンテージ)を知っていた。他の野生動物に比べて身体能力(フィジカル)の圧倒的に劣る彼らは槍を、石を投げることで獲物を仕留め、その生息圏を世界中に広げていったのだ。

 

 だからこそ。だからこそ金丸優は『投擲』こそが人類最強の武器だと信じている。

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、あんなことあるんだなって。」

 

 後に、その様子を見ていた女子学生の1人はこう語る。

 

「いやまあ、ISが地面に立ったのもありますけど、それ以上になんていうんでしょうか…初めて見ました。ISが地面に突き立てられてるの。」

 

「行った!って思ったら逆さまに地面に突き立てられてるんですよ?びっくりっていうか…。」

 

「そもそもよく反応したなって感じですかね。ISはセンサーめちゃくちゃついてますけど、最後にもの言うのは本人の反射神経ですから。」

 

「バカみたいな速度で突っ込んできたISと、刀躱して逆に腕掴んでぶん投げるとか…無理でしょ、普通。」

 

「私?いや無理ですって。そもそもISで壁に背中つけるとかそんな自殺行為したくないです。」

 

「でもまあ、アレ見た時ちょっと思いましたよね。」

 

「私もあんな風に、ありえないって言われるような戦いしたいなって。」

 

「ちょっと。ちょっとだけそう思いました。」

 

 

 

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