『鬼』の系譜の男   作:チキンうまうま

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私は本部とガイアの戦い方が好きです。あと範馬勇一郎。




2話

 

「…なんだ、これは…。」

 

 手渡された資料を見て、織斑千冬は驚愕した。普段動揺を表に出すことのない彼女にしては珍しく、その両目は大きく見開かれ、掴まれた資料には大きく皺が入っている。

 

「信じられないでしょう。」

 

 そんな彼女を見て、老人─轡木十蔵はため息と共にそう言った。

 

「ですが事実です。…『ISへの適正が発覚すると同時に監視全てを難なく振り切り、IS委員会日本支部を急襲、警備全てをその身一つで突破。その上で支部長相手に自分の要求を押し通した』。…私も最初は目を疑いましたよ。」

「あの、IS委員会の警備を、素手で…。」

「ついでに言うと、ただの1人の死者も出さずに、です。怪我人はそれなりにいるようですがね。」

 

 死者を出さずに。そのことに千冬はまたしても驚愕した。実際のところ、実戦において死者を出さないというのは、出すのに比べて相当な難易度となる。それも相手が近代兵器で武装している、となると不可能と言ってもいい。

 

「…そこまでして出した、そいつの要求は?」

「『自身の安全の保証』と『徳川グループへの所属の承認』です。簡単に言えば『徳川グループの企業代表になるから研究対象にするなよ。後今回の襲撃のことは他言無用で頼む。』とのことだそうで。」

「…なるほど。」

 

 そうとなると合点はいく。彼は世界でただ2人のみの男性IS適合者。普通に考えれば研究の対象としてモルモット扱いされてもおかしくはない。ただでさえ女尊男卑の行き過ぎた傾向があるこの世界だと尚更だ。

 その点に関してだけは千冬にとっても弟が男性適合者第一号である以上、決して他人事とは思えなかった。

 

「恐ろしいのは適正が判明した途端にこの考えに至って、且つ実行する行動力とそれが可能な戦闘力(強さ)ですかね…。織斑先生。」

「…なんでしょうか。」

「…勝てますか。」

 

 沈黙が訪れる。

 

「…素手なら、確実に負けるかと。」

 

 資料に載っている、優の身長と体重を把握した上で、世界最強(ブリュンヒルデ)はそう断言した。

 

「そうですか。…なら、ISを使えば?」

「…………。」

 

 再び沈黙が訪れた。数秒の熟考の後、口を開く。

 

「…こいつも人間である以上、ISを使えば負けることはあり得ません。ですが、仮にこいつがISを使ってくるとなると…。」

「成長性を考えると未知数、と。」

「そうなります。」

「そうですか…。」

 

 轡木はまたしてもため息をついた。皺が刻まれている顔は、明らかに疲れ切ったように見える。無理もない。彼はこれまで、こんな常識はずれの存在に関わるとは思ってもいなかったのだ。

 

「…上からは希少な男性適合者なのだから護衛をつけろとの意見もありましたが、果たして彼に必要ですかね…。」

「…彼を守護(まも)れる人間などいるのでしょうか…?」

 

 学園の責任者と学年主任。彼らの苦労は未だ始まったばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「試したいのです。」

 

 庭に面した縁側で、優は1人の草臥れた初老の男性を前に正座して、そう言った。

 

「500年前より繋がったこの技術(わざ)─」

 

 拳を軽く握って語る優に、それを聞く男─本部以蔵は黙って茶を啜った。それを気にすることもなく優は続ける。

 

「果たしてこの技術(わざ)IS(機械)相手に通じるのか。宮本武蔵(500年前)に通じた貴方の技術は、現代でも通用するのか。」

「…それを確かめるためだと。」

「そうなります。」

 

 へえ、と相槌を打って本部は今度は煙草に手を伸ばした。箱から一本取り出し、火をつけて紫煙を燻らせる。たっぷり数秒かけて煙を楽しんだ後、本部は優の方を向いた。

 

「それだけかい?」

「…まあ、周りのゴタツキを落ち着かせるためと言うのもありますが。」

「そりゃ()()()。」

 

 その答えに本部は小さく笑った。目の前の弟子が、基本的には(あくまでも一般社会に対して)無害であることを彼はよく知っていたのだ。

 

「溢れかえるマスコミ、国内外からの刺客─」

 

 本部は大きく煙を吐き出した。

 

「そいつらに無力な知り合いを巻き込まないためってのもあるんだろう?」

「…お見通しですか。」

「付き合いも長いからね。」

 

 そう言って本部は火のついたままの煙草をその手に持ちなおした。それと同時のこと、

 

 その煙草を優の目を目掛けて勢いよく撃ち出した。

 

 双方の間合いは1mあるかないか。その状況における、完全なる不意打ち。火のついたままの煙草は当たれば如何なる人間でも火傷は免れない。それが目であれば尚のことで失明、ですらが十分に想定に入る。だが─

 

「…こりゃ危ない。」

 

 優は動じない。どころか、

 

「…流石。」

 

 高速で至近距離から放たれたそれを片手で難なく()()()()()。それも火のついた部分には触れないようにして、だ。優は掴み取ったそれの処遇に困るかのように目線を彷徨わせた後、本部の横にあった灰皿へと押し付け、火を消した。

 

「…4度。」

 

 その様子を満足そうに見ながら本部は口を開いた。

 

「今の間に、君に4度不意打ちを仕掛けようとした。」

「へえ?」

「もっとも、できなかったがね。」

 

 失敗した。そう言いながらもどこか楽しそうにそう言って、本部は新しい煙草に火をつけた。

 

「しなかった、の間違いでしょう。やろうと思えば先生ならいくらでもやりようはあったはずだ。」

「さてどうだが。…優よ。」

「はい。」

 

 胡座をかいていた脚を組み直し、本部は真面目な口調で話し始めた。

 

「俺たちの技術(わざ)は『実戦』の為にある。」

「ええ。存じてます。」

「徒手、剣術、槍術、火薬術、縛術、鎖鎌、手裏剣術…それ以外も、全てだ。この本部が修め、お前に教えてきた技術(わざ)はその全てが実戦を想定したもの。これは他の現代闘士の誰もやってねえもんだ。」

 

 あの勇次郎も、刃牙ですらもだ。

 発せられた現代最強の2人の闘士の名に、優の顔が引き締まった。

 

「そしてお前にはこの本部の持つ技術、その全てを教え込んでいる。」

「…まだ未熟ですがね。」

「謙遜はいらねえよ。少なくとも経験値はともかく、強さならお前は俺を超えてる。だからよ…」

「ええ。」

 

 優は居住まいを正した。そのまま両手をつき、深々と頭をさげる。これまで自分を導き続けてくれた師への感謝を込めて。

 

「行って参ります。」

「おう。」

 

 初春のまだ冷たい風が吹く中、優は立ち上がった。本部へ背を向け、歩き出したかと思えば何かを思い出したかのように立ち止まる。

 

「…なんか永遠の別れみたいになってますけど、どうせまたすぐに来ますからね?」

 

 本部の口から笑いが漏れた。

 

 





本部以蔵
 ご存知公園最強の生物。最近では出てくるたびに強さランキングを変動させて、株を上げている。
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