『鬼』の系譜の男   作:チキンうまうま

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4話

 

 IS学園の第4アリーナ。春休みという時期ゆえにか閑散としているその場所で、2機の白と赤の、まるで戦国時代の鎧兜の如き機体─『打鉄』が激突する。場所が場所である為に関係者しか見ていない中、幾度にも及ぶ激突が轟音を生み、アリーナ全体を揺らし続けた。

 

 その2機のうち片方は両手に持つ機銃(ライフル)をもって弾幕を張る。その機体、及び操縦者の見事なのはその弾幕の質。無駄に弾幕を張るのではなく、『来そうな場所』に撃ち続けることでとにかく相手の動きを制限する、銃手(ガンナー)にとって理想的な動きをとっている。

 

 それに対して、果敢にも弾幕を潜り抜けて距離を積めるもう片方は─なんと、()()。その手には武器を持たず、機体を傾け、時に両肩のシールドを用いて弾を跳ね除け、更に瞬時加速を用いて射線から外れ、そして真に避けられない時のみに高速切替(ラピッド・スイッチ)によって取り出した装備を使って受け止める。その姿は、ほんの10日前まで全くの未経験者であったとは思えないほど。それであるにも関わらず、異常なまでに堂に()って見えるのは、その使い手が戦いそのものに慣れているからか。或いはよほど肝が座っているからか。

 

 そとそも何故この2人が闘っているのか?それは簡単、訓練だからだ。入学式よりも早めに、前の高校を中退したからと言う理由で入校した優には、当然ながらISに関する技量も、知識も欠けている。それを補うべく教師陣持ち回りで指導にあたっており、今日の担当が真耶だったと言うだけの話である。─余談にはなるが、この訓練に非常に真面目に取り組んだ結果として優は『真面目に授業を受ける不良(ヤンキー)』のような評価を受けつつあるのはまた別の話。

 

 片方の機体によって張り続けられる弾幕と、それを凌ぐもう片方。数分にもわたって続いていたその戦いにも、ついに終わりが近づいた。じわりじわりと距離を詰めてきた機体の乗り手─優がジャラリ、と音を立てて、一つの武装をその手に顕現させたのだ。

 

「………それは?」

 

 弾幕を張る機体の操縦者─山田真耶がその武装に眉を顰める。無理もない。何せかつて国家代表候補生までに登り詰めた彼女ですら、その武装と相対するのは初めてだったのだから。そんな彼女の内心を知ることもなく、優はヒュンヒュンと音を立てて呼び出した武装を(まわ)した。

 

 優の操る、熟練の銃手ですらが困惑したその武装の名は─【鎖鎌】。鎌と鎖、そしてその先の分銅で構成された護身用の武器であり、今となっては近代兵器の登場により無情にもかなり廃れてしまった代物である。

 

 だが、侮ってはならない。鎖鎌の起点は身の丈以上もの鎖によって、遠心力という莫大な力を込められた分銅。その力は生命(いのち)のやり取りに身を置いた剣士の蔓延る時代において、訓練を受けられない農民達が自分の身を守る為に使用したほどに強力。武装を封じるという、使い手によっては近接手にとって天敵とも言える武装である。

 

 ─だからこそ、解せない。

 

 真耶は考えながらも弾幕を緩めない。何せ自分は中距離手で、しかもIS乗り。IS用の鎖鎌の射程は普通のものより長い7m前後とはいえ、自分の射程はそれよりも長い。それどころか、仮に武装を取られたとしても、すぐに呼び出せ(コールすれ)ばいい。はっきり言って、この状況で鎖鎌を使う意味が分からないのだ。

 

 困惑する真耶の目の前、弾幕を躱しながらも十分に勢いのついた分銅が─消えた。いや、消えてはいない。現にセンサーには映っている。だが、それに反応できるかどうかは全くの別問題。最先端の技術をもって放たれた、人類最古の兵器─『投石器』と同じ理屈で放たれた一撃は、容易く真耶の警戒を潜り抜け、激しい音と共にその手に持つ銃へと巻きついた。

 

 だが、真耶は慌てない。彼女は鎖を引き剥がせないことを一瞬で悟ると、冷静に武装を量子化。再展開しようとする。─それは正しい。全くもって正しい判断だった。…だからこそ、『刺さる』。

 

「……ええっ!?」

 

 それは銃を一度消し、鎖からの圧力から解放された途端のことだった。ゆるりと落ちていく分銅から僅かでも距離を取ろうとした瞬間、

 

 分銅が、爆ぜた。

 

 真耶の視界を爆炎と爆風が埋め尽くす。おまけに動き出したばかりの打鉄は不安定、もろにその煽りを受けてバランスを崩してしまいそうになっていた。

 

(狙いは、これ…!)

 

 それ即ち、分銅に仕込まれていた爆薬によるもの。ただでさえ珍しい鎖鎌という武器に、さらにもう一段、爆薬で仕込みをしておく。そんな普通ならばありえない、常識はずれの奇策によって今の彼女は丸腰、おまけに機体は不安定。センサー類は無事だが、視界は完全に潰されている。─奇襲として、完全にしてやられた形となる。そしてその爆炎の中、さらに伸びてきたのは一本の『腕』。

 

「…ようやくだ。」

 

 ─()()()()

 衝撃的なその事実に、慌てて腕を捻って外そうとするも、優の操る打鉄の、万力のようなその手が外れる気配はない。それどころか、もう片方の腕も合わせて両手で掴まれてしまう始末。

 

「─捕まえた。」

 

 

 

 

 

 

 

「…まではよかったのですがね。」

 

 5分後。地に降り立ち、打鉄を外した優は、録画されていた戦闘を再生しながら顔を顰めた。横にはこれまた打鉄を外した真耶と、監督を務めていた千冬の姿がある。

 

「全くだ。あそこまで追い詰めておきながら、最後はただの剣でのゴリ押し。全くもって掴む必要がなかったな。」

 

 そう、そうなのである。この男、弾幕を潜り抜けて真耶の腕を掴み取ったは良いものの、それによる有効打を作り出せず、結局は刀型武装による近接でトドメを指している。

 

「あはは…でも、まさか腕を掴まれるとは思ってませんでしたよ、本当に。」

「…まあ、そこだけは賞賛に値するな。山田先生の弾幕はそう簡単に抜けられるものではない。それをこの10日程度の訓練で対応できるようになっているのは、十分に訓練の成果と言えるだろう。」

「…ありがとうございます。」

 

 そう2人に褒められてなお、優の顔は以前険しい。苦々しげな顔で、画面の中の自分を睨みつけている。

 

「何が不満だ?金丸。」

「不満、というより厄介なことに気がつきまして。」

「ほう?」

 

 画面の中の優が、今真耶の打鉄を掴んだ。そのまま揺さぶるも、せいぜいバランスを乱した程度で、大した効果は何も見られない。

 

「─()()()()()。」

 

 それだ、それが厄介だ。

 

「地面がない。大地(ゆか)がない。つまり、踏ん張が効かない。こいつはものすごく厄介です。」

「そうなんですか?」

 

 真耶は首を傾げた。実際、中距離手であって、格闘家(グラップラー)でない彼女にはイマイチピンと来ないのだろう。だが、剣士でもある千冬は納得したかのように頷いた。

 

「なるほどな。金丸、お前は確か柔道上がりだったか?」

「柔術です。」

「そこは別にどうでも良い。…にしてもそうか。それなら確かにやりづらかろう。」

 

 ISの戦いは空中戦。移動には加速装置(スラスター)を用い、地に足をつけることはない。それ即ち、()()使()()()()のと同じである。

 

 それが何を意味するか。つまり踏ん張りが効かない。となると掴んでも投げれない。倒して、組み技に持ち込めない。打撃に重さを乗せれない。─格闘家(グラップラー)の闘いができない。

 

 ただでさえ磨き上げた五体ではなく、機体性能がモノを言うIS戦。であるにも関わらず、優は今までに磨いてきた技術(わざ)のうち、組み技も、投げ技も、打撃も封じられてしまうのである。

 

「…いくら空中とはいえISは現代(いま)の甲冑。ならばやりようはいくらでもあると高を括っていましたが…どうやらそうもいかないようで。」

 

 画面の中で、優の打鉄が組み合った状態から刀で真耶のシールドエネルギーを削り切った。訓練10日目、通算27戦目にしての初勝利。大金星である。だが、彼の顔は晴れない。

 

「どうにかして、空中(そら)大地(ゆか)が欲しい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほどのう。優がそんなことを。」

 

 都内のある大豪邸。あまりにも広い、畳敷の和室で煙管(キセル)を吸いながら老人─徳川光成は目の前で座する男の話を聞いて、そう答えた。

 

「ええ。『大地(ゆか)が欲しい』と。『でなければ己の闘いができぬ』とのことで。」

「一理はあるわな。」

 

 納得はいく。と言うか、この惑星(世界)には無数の格闘術があれど、完全に足を地から離して空中戦を行うモノは存在しない。そりゃそうだ。なぜなら今まで、人型のままで空を飛ぼうなんて、誰も考えなかったのだから!

 

「人は大地がなければ踏ん張れず。踏ん張れなんだら力を込めれず。そうなれば…人1人を片手で投げる優のあの剛力も、技術(わざ)も何も使えぬ。全く、この世の道理には違いないわの。」

 

 紫煙が部屋一杯に広がる。和風建築特有の風通しの良さ故か、広かった煙はすぐに空気に紛れて、溶けて消えた。その余韻を楽しんだ後、光成は目の前の男─徳川グループのIS研究所、その筆頭研究員に目を向けた。

 

「…で、どうにかなるんか。」

「勿論でございます。」

 

 言葉と共に彼は鞄から分厚い紙の束を差し出した。その厚さ─凡そ2センチはあるだろうか。それを受け取った三成は、目を細めてペラペラとページをめくった。

 

「『徳川グループに世界2番目の男性IS適合者(セカンド)が入る』との話を聞いた時より、我々はこれまでの研究成果を活かすべく、新たなる機体を構想しておりました。」

「ほう、新たなる機体。」

「ええ。」

 

 ─専用機です。

 

「それも、この類稀なる格闘家を活かすための、実験機などではない、真にこの男のための専用機です。」

「なるほどのう。…それで、名前は決まっとるんか。」

「既に。ある人物よりその名を借り受けました。」

 

 そう言って男は資料をめくって、後ろの方を光成に見せた。そこには一枚の絵と、その人物の偉業こそが並べられている。

 

「身長六尺五寸(197センチ)、体重四十五貫(169キロ)。27年にもわたる競技人生において、黒星はたったの10。9割6分を超える勝率を誇る、未曾有の最強。あまりの強さ故に4つの禁じ手を課せられ、それでもなお勝ち続けた伝説の力士。最高位たる横綱にこそならずとも、それでもなお譲らぬ『歴代最強』の呼び声をもつ伝説。それ即ち、最強の日本男児。」

 

「宿禰こそが相撲の神だとするのならば、彼こそが相撲の頂点。」

 

 その(おとこ)の名こそ─雷電為右衛門

 

「彼の名より、2文字。この機体に拝借いたしました。」

「そうか。…つまり、その名は?」

 

「ええ。『雷電為右衛門』より2文字借り受け、その名を『雷電』。」

「…どえらい単純じゃの〜。」

「否定はできません。ですが─」

 

 この10年。彼らは求めていた。女尊男卑などと言う理不尽の下で、それを跳ね除けてくれる英雄(ヒーロー)を。そして今、それが現実になりつつある。

 

「必ずやその名に恥じぬ、世界最新最強の機体をご覧に入れましょう。」

 

 

 

 





 なお、この後ある天災によって4世代機ができる模様。

雷電為右衛門
 筆者はバキ道(相撲編)割と好きです。

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