『鬼』の系譜の男   作:チキンうまうま

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7話

 

 ─4月某日、アメリカ・NY(ニューヨーク)。そこは例え世界の中心がISとなり、その在り方を変えようとも決して譲ることのない、世界で最も賑やかな街。今、その街にあるホテルの一室で、2人の(おとこ)が腰掛けていた。

 

「…アルコール度45度のウイスキーをストレート。」

 

 そのうちの片方、顔に傷のある、歴戦の気配を感じさせる年老いた男がため息混じりにそう言った。

 

「そんなことができるのは君くらいだ。」

 

 そう言うのも無理はない。何せ─そう言われた異様な迫力を持つ男は、薄めることも、ましてやグラスに注ぐこともせずにウイスキーを呑んでいるのだから。その男の、浅黒い手に持つのはウイスキーの瓶…だったもの。その上半分は鋭利な刃物で切り裂かれたかのように失われ、あたかも最初(はじめ)からその形であったかのようになっている。

 

「御託はいい。」

 

 舌で、鼻で存分にウイスキーを味わい、大きく息を吐いた後、その男が口を開いた。─それだけで場の空気が軋む。それほどの力を感じさせた。

 

 そう、力だ。その漢からはそれだけの力を感じる。─ただ座っている。─ただ酒を飲んでいる。─ただ話している。彼がしているのはたったのそれだけなのに、それなのにあり得ないほどに異様な迫力をひしひしと放っている。

 

「何が言いてえ。」

 

 まるでその漢の本性を表すかのような赤い、逆だった頭髪。まるで獰猛な肉食獣であるかのような極太(ふと)頸椎(くび)に、全てを射殺さんかのような鋭い眼光。薄手の服装からは、一分の隙もなく鍛え上げられた、鋼のような肉体(からだ)が惜しげもなく顔を覗かせている。

 

「…日本(ジャパン)で2人、IS適性を持つ男が発見されたのは知っているか?。」

 

 老人─ストライダムもまた、そう言って葉巻を取り出した。先を切り落とし、ジッポで火をつける。

 

「知らねぇ。」

 

 漢はそう言って再びウイスキーを呷った。何せこの男、ISにほとんど興味を示さない。せいぜいが、『今までの兵器よりは強い』─その程度の認識である。なにせ、

 

「で、それがどうしたって?」

 

 ()()()()()()()()のだから。

 

「…なに、我々軍でもその男を調査した結果なんだがね。面白い結果が出たとも。」

「勿体ぶんじゃねぇッッッ!」

 

 僅かな苛立ちを─とはいえ生半可な生物ならばその怒気だけで気絶しそうな雰囲気を男が出した。ストライダムもそれには焦ったのか、慌てたかのように言葉を紡ぐ。

 

「そ、そのうちの1人の名前が、『カナマル スグル』。君なら─この名前を知っているだろう?」

 

 その名前を聞いてピクリ、と男が揺れた。その名前には少しだけ心当たりがあるかのように。

 

「生まれは日本、東京。家族構成は祖父母と母親。父親は無し。…と言うことになっているが。」

 

 老兵はそう言って目の前に座る、地上最強の生物を見据えた。

 

「君の子なんだろう?勇次郎。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しそうだな、あいつ。」

 

 夜半のIS学園内アリーナ。時間が時間であるために特殊な許可の元で解放されているその場所で、一機の、紫色をした大型のISが、打鉄を相手に戦っていた。この時間の許可は普通は降りないのだが、代表候補生を相手に戦わなければならないということで、優はどうにか許可をもぎ取っている。

 

「ええ。それはいいことではあるんですが…。」

 

 それを見守る真耶は、ため息混じりに隣に立つ千冬にそう言った。

 

「…金丸が何か問題でも起こしたのか?」

「問題というか…彼の同室が更識さん…()()()()()()()()のは先輩なら知ってますよね?」

「先輩はやめ…いや、今は業務時間外か。まあ、私もそう聞いてる。」

 

 打鉄もブレードでどうにか応戦するも、まるで歯が立たない。一瞬でブレードの間合いの内側に潜り込まれ、武器を絡め取られるとついにその両腕を掴み取られた。

 

「ええ。だったんですが…その、金丸くんが女子が同室なのはダメだろうと言い始めまして。」

「…まあ、そうだろうな。」

 

 なんなら妥当である。…同じように女子と相部屋である一夏に関しては色々と裏で思惑が働きすぎてどうにもならないのだが。

 

「はい。で、更識さんの方は金丸くんの護衛を理由に同室を希望しまして、2人の主張は平行線に。…で、その結果なんですが。」

「…まさか、勝負でもしたのか?」

「そのまさかです。」

 

 打鉄を掴んだ紫色のISの、全身に付けられた加速装置(スラスター)が駆動する。そのまままるで()()()()()()()()()()かのように僅かに重心を落とすと、その鋼に包まれた右脚部(みぎあし)で思いっきり打鉄の脚を蹴り抜いた。ただでさえ不安定な空中にいた打鉄はそれだけで簡単に平衡(バランス)を奪われる。

 

「それで更識さんはその場で不意打ち気味に襲いかかったらしいんですが…結果は、その。」

 

 そのまま、打鉄の上下が入れ替わる。それでも紫色のISは動きを止めず、腕を掴んだまま、軽い何か、例えばクッションとかを投擲(なげ)るかのように─

 

「瞬殺、か?」

「はい。」

 

 打鉄を、頭頂(あたま)から中空(そら)へと叩きつけた。

 

 如何なる術理の上でか、あの打鉄がひしゃげんばかりに叩きつけられた場所からは何も無い中空であるはずなのに、無数の亀裂が生じている。さらにはその箇所からは砕かれた打鉄の破片と、いくつかの部品(パーツ)がキラキラと光を反射させながら降り注いだ。

 

「布仏さん…のお姉さんの方ですね、の言うところには、『襲いかかった更識さんの頭を片手で掴んだだけにしか見えなかった』と。ただ、その直後に更識さんは意識を失っています。」

「…脳震盪。」

「おそらくは。ただ、どうやったのかまでは。で、その結果として彼は1人部屋になっています。」

 

 叩きつけられ、シールドエネルギーを失った打鉄に乗っていた教師がサインのあと、恐怖に顔を引き攣らせながらも地面に降りてくる。それが意味するのは─『投了(まいった)』。

 

「…一本勝ちか?」

「さあ?柔道には詳しく無いので。」

 

 降りてきた教師の下に整備員たちが群がる中で、優は未だに降りてこない。加速装置(スラスター)を僅かにふかし、空を揺蕩(たゆた)っている。

 

『何してる、金丸。早く降りてこい。』

『…ああ、すみません。ただ…。』

 

 何言ってる。そう言おうとして、千冬は気がついた。

 

『決着の時に相手よりも標高を高くする者が勝者。』

 

 この男、笑っている。

 いくら絶対防御があるとはいえ、ISを頭頂(あたま)から叩きつけておいて、それでなお相手を空から見下ろし、勝利の余韻に浸っている。

 

『あの男のものにしては生温い価値観だと思ってましたが…これはこれでなかなかに悪く無い。』

『…そうか。』

 

 あの男、とやらが誰かはわからないが、とにかく今優が上機嫌なのはわかった。

 

『だが、早く降りてこい。今ので今日の課外訓練は終わりだ。』

『…もう一戦は。』

『ダメだ。ISの修理にも金がかかるからな。』

 

 とりあえずは色々とやり過ぎだと説教をしよう。そう決めて千冬はようやく降りてきた優の方へと歩き出した。

 

 決闘はもう、翌日に迫っていた。

 

 




金丸 優
 本部の道場に通っていた理由は「家から一番近いから」。幼少期、元気が有り余る彼を持て余して祖父が本部の道場に放り込んだのがきっかけ。

更識 楯無
 生徒会長。普通の鍛えている男性になら素手でも余裕で勝てる実力はあるのだが、いかんせん相手が悪かった。
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