シン・仮面絶唱シンフォギア   作:あーくこさいん

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就活関係で更新が途絶えてしまい申し訳ございません!
他の小説も今月中に更新出来るよう奮闘します。


4.女王の城と撃槍の少女

明朝、本郷猛と緑川ルリ子は次のターゲットのアジトへと向かった。

場所は群馬県高崎市にある商店街。

 

アンチSHOCKER同盟の情報では商店街をはじめ高崎市全体が次のターゲット…《ハチオーグ》のプラーナを用いた低周波洗脳装置により意識を乗っ取られ、支配下にあるという。

 

商店街を歩いている最中、本郷がこう切り出す。

 

「ハチオーグとは知り合いなのか?」

 

「組織で生まれ育ったのよ。主要構成員の大半は知ってる人達。特に彼女はよく知ってる。友達に一番近い存在だから。」

 

「投降を促すのか?」

 

「いえ、彼女の願望も危険過ぎる。彼女の為にも消えてもらうしかない。」

 

「…SHOCKERの構成員って危険人物ばかりなのか?」

 

「幹部に選ばれるような人物はね。下級構成員、俗に言う戦闘員達は強制連行された人達。プラーナを応用した洗脳技術で心の自由を奪われ、肉体をバージョンアップされて使役されているの。…あなたも私が連れ出さなかったら、今頃SHOCKERの一味としてサソリオーグ同様彼らに処理されてたかもね。」

 

すると本郷が足を止める。

 

「どうしたの?言い方が気に障った?」

 

本郷が後ろを振り向く。

続いてルリ子も振り向くと、商店街の人々が一斉に並んでこっちを見ていた。

彼らの目は虚で、生気というものは感じられない。

 

「…SHOCKERの仕業か?」

 

「ええ、ハチオーグのテリトリー。商店街だけでなく高橋市全体が彼女の支配下にある。」

 

そんなやり取りをしていると、ラーメンの屋台から背広の男が現れた。

 

「緑川ルリ子様ですね?ハチオーグ様がお待ちかねです。よろしけれはご一緒に。」

 

二人は背広の男に付いて行く。

 

 

 

 

 

背広の男に付いて行くと、ハチオーグのアジトに着く。

ハチオーグのアジトは上空から見れば六角形のハニカム構造となっており、中央の構造物が一番高い。

外壁にはハチのマークが付いていた。

 

「あなたは私より耳が良い。部屋に入ったらサーバーの位置を特定しておいて。」

 

「分かった。」

 

そのようなやり取りをしながら、二人はアジトに入って行く。

 

 

 

 

 

本郷とルリ子はアジトの最上階にあるハチオーグの部屋へと案内された。

 

「待っていたわ、ルリルリ。ようこそ私の巣へ。」

 

「…相変わらずの趣味ね。」

 

部屋の内装はホストクラブを模しており、壁には無数の刀が飾られている。

そこには数人の下級構成員とスズメバチと同じ黒と橙色による縞模様の着物を着用して赤紫の帯を巻いている黒髪ツインテールの女性…《ハチオーグ》が中央のソファーに座っていた。

そしてここにも外世界観測用自立型人工知能『ケイ』がいた。

 

「趣味は個性の表れ。素敵でしょ?まずは再会を祝してシャンパンは如何?生憎グー・ド・ディアモンは切らしていて…シップレックで我慢して。」

 

「こんばんはケイ。何時もご苦労様。」

 

「お気遣いなく…それが私のtaskですから。」

 

ルリ子が用意されたソファーに座る。

 

「そちらの殿方も今日はバイクじゃなかったわね。ご一緒に如何?」

 

「お酒と水は結構。何しに来たか分かるでしょ?ヒロミ。」

 

「私達の排除?殲滅?何にせよ物騒な話ね。」

 

そんな会話の中、背広の男がシップレックをグラスに注ぐ。

 

「それにヒロミは昔のコードネーム。今はSHOCKER上級構成員ハチオーグよ。間違えないで。」

 

背広の男がハチオーグにシップレックを渡し、ハチオーグが受け取った。

 

「そう…悪い事は言わない。SHOCKERを抜けて、ヒロミ。」

 

「私も悪い事は言わない。SHOCKERに戻って、ルリルリ。」

 

ルリ子はハチオーグに組織を抜けるよう説得するが、逆に彼女に組織に戻るよう説得し返されてしまう。

 

「SHOCKERの素晴らしさは、生まれた時から堪能しているでしょ?私達の幸せを形にしてくれるアイの秘密結社。支配こそ私の細やかな幸せ。服従こそ奴隷達の幸せ。その為に必要なのは、社会にも自然にもストレスを掛けない効率的な奴隷制度による統制された世界システムの再構築とその実現。高橋市はそのテストモデル。」

 

「その為に高橋市の人達を服従させているのか。」

 

「話が早くて助かるわ。さあ、私の理想がご理解頂けたら、二人ともSHOCKERに戻り正しき世界システムの礎となって。SHOCKERに生まれし者はSHOCKERに還る。それが筋よね。」

 

ハチオーグが説得するが、ルリ子はソファーから立ち上がって反論した。

 

「悪いけどヒロミ、それは出来ない。」

 

「僕も断る。」

 

「あらら。早くも交渉決裂ね。暴力は嫌いだけど、仕方ないわね。」

 

そう言った瞬間、二人の女戦闘員がハチオーグの前に幕を貼り、1秒で幕を下ろした。

その一瞬でハチオーグが仮面を装着した。

 

「これがハチオーグ…!」

 

すると今度は戦闘員二人がハチオーグの前に跪き、自らの両手を差し出す。

ハチオーグが二人の戦闘員の手を握ると、青白いエネルギーを吸収する。

しばらくすると二人とも糸が切れた人形のように倒れた。

 

「プラーナを奪ったのか⁉︎」

 

「そう、これで完璧。」

 

戦闘員二人分のプラーナを吸収した事により、ハチオーグの仮面の複眼が発光する。

 

「イチローさんにルリ子の保護を頼まれているの…大人しく捕まって。」

 

逃げようとするも、商店街の人々が二人を取り囲む。

 

「この人達は私の社会実験に運良く選ばれたこの街の住人達。何の関係のない働きバチに、貴方達は暴力を振るえるかしら?」

 

洗脳された商店街の人々がゆっくりと迫る。

 

「…僕は暴力が嫌いだ。」

 

そう言って二人はバルコニーに出て、そこから飛び降りた。

 

「あらら。マズったかしら?」

 

飛び降りた本郷のベルトの風車が回転し、それを合図に示現生体エンジンのリミッターが解除され、膨大な量のフォニックゲインにより彼は仮面ライダーへと変身する。

ルリ子もシンフォギアを起動し、二人ともサイクロン号に着地する。

そのままサイクロン号を走らせアジトから逃走した。

 

 

 

 

 

今の戦況をアンチSHOCKER同盟のトレーラーがモニターしていた。

 

「…戦わずして撤退とは、優し過ぎますね。」

 

「それが本郷の良い所だ。弱点でもあるがな。」

 

そんなやり取りの中、滝がマゼンタ色の蓋のケースを取り出す。

そのケースの中には1発の弾丸が入っていた。

 

「…そこを補助するのが、我々の仕事ですか。」

 

滝がそう言うと立花は頷く。

それからしばらくしてトレーラー内部の更衣室から滝が出てきた。

その姿は黒一色の強化防護服であり、髑髏を模したフェイスマスクを装着していた。

 

 

 

 

 

一方、本郷達はハチオーグのアジトから1キロ程離れた公園にいた。

勿論市外である。

本郷がキャンプギアを用いてスープを作っている。

 

「…慣れたものね。」

 

「僕のバイクツーリングは基本野宿だ。不便だが面白い。……君は時間があるとそれだな。」

 

本郷がスープを作っている間、ルリ子はずっとノートパソコンを操作している。

 

「常在戦場。私は用意周到なの。基礎プログラムの上書きだけでも、イージスバタフライが覚醒する前に済ませておきたい。でないと激ヤバだから。」

 

「イージスバタフライ?」

 

「その内話す。」

 

パソコンを操作しているルリ子の両目が青く光っていた。

 

「…それは?」

 

「気にしないで。目から脳にインストールしてるだけ。私は組織に作られた生体電算機なの。」

 

そんな中、スープができたので二人は食べている。

本郷はゆっくり味わっているのに対し、ルリ子は早く食べていた。

 

「もっとゆっくり味わったらどうだ?」

 

「そんな暇はない。これは栄養補給。栄養摂取が目的でしょ。」

 

「僕はお腹が減らないようだ。便利だがつまらない身体だな。」

 

「父が開発したプラーナシステムは、大気中に圧縮された他生命のプラーナを自らの生体エネルギーに変換する装置。つまりあなたは知らない内に他の命を吸い続けているの。何も食べずに長生きしたいからと人類全てが装着しても、結局は人間同士によるプラーナの奪い合いになるだけ。行き着く所は、生命の絶滅しかない。だから父はあなたのプラーナインバーターを最後に昆虫合成型の開発を辞めた。父の希望の先に待っていたのは絶望。ちょっと考えればすぐ分かる事なのに。理想しか持たないバカなのよ。バカなりに考えて、父はあなたに希望を託したのね。」

 

すると足音が聞こえる。

音のする方角を向くと、ハチオーグに洗脳された人々が現れ、こちらに近づいてくる。

二人は急いで完食し、器とキャンプギアを片付ける。

 

「ここもハチオーグのテリトリーか。」

 

「プラーナを制御出来ている私達以外はヒロミの意のまま。何もしなければ何れ世界中がこうなる。」

 

「その洗脳システムを破壊しない限り、再びアジトに乗り込んでも同じ目に遭うだけか。」

 

「ええ。外付けの試作品だからシステムはまだ電子機器で構成してるはず。サーバーの位置は特定出来た?」

 

「大丈夫だ。そいつを破壊すればいいんだな?」

 

「簡単じゃないけど。」

 

「ルリ子さん。次は一人で乗り込んで欲しい。プランがある。僕では無く、僕のプランを信じてくれ。」

 

「そうね。プランじゃなく、あなたを信じてみる事にする。」

 

「ありがとう、ルリ子さん。」

 

そう言うとルリ子が左手を挙げた。それを光学迷彩付きの強化防護服を着た滝が確認し、何処かへ通信する。

こうしてハチオーグ討伐作戦が開始する。

 

 

 

 

 

それからしばらくして、アジトの屋上にルリ子がやってきた。

ハチオーグと数人の戦闘員が待ち構えている。

 

「ありがとうルリルリ。わざわざのお誘い感謝するわ。組織に戻る気になった?」

 

「いえ。戦う気になった。」

 

「あらら…残念ね。屋上だと不在の用心棒がバイクで助けに来てくれないわよ。あなた一人で怖くないの?」

 

「勿論怖いわ。でも私は常に用意周到なの。それに…仮面ライダーと名乗る男を信じているから。」

 

 

 

 

 

すると一機の無人機がアジト上空を飛行し、その無人機から仮面ライダーが飛び降りる。

落下の勢いのまま風車ダイナモを回転させ、アジトのサーバー目掛けて回転キックを仕掛ける。

 

ドグワアァァァァ‼︎

 

そのまま天井を貫き、大爆発と共にサーバーを破壊した。

サーバー破壊により、高橋市の住民は洗脳が解け正気を取り戻す。

 

 

 

 

 

サーバーを破壊した仮面ライダーが大ジャンプして、ルリ子の隣に着地する。

本郷はマスクを外し、それをルリ子に渡す。

 

「君の計画は既に潰えた。ルリ子さんの為にも投降してくれ。」

 

だが、ハチオーグは投降しない。

 

「それ、寧ろ逆効果。私はルリ子を泣かせたいの。だからお断り。」

 

着ていた上着を脱ぎ捨て、さらに着物の右側だけを脱いだ。

背広の男から刀を受け取り、男と共に刀を構える。

 

「本郷猛。スズメバチはバッタの天敵。私達に勝てるかしら?」

 

刀を握った二人が本郷に攻撃する。

本郷は避け続け、当たりそうになっても腕から生やしたスパインカッターでいなす。

すると二人が刀を重ね合わせて、そのまま本郷に向かって走り切りしようとするが、二人の腕を掴み持ち前の怪力にて受け止めた。

 

「ううっ…‼︎」

 

二人は力を出して本郷に迫る。

だが負けじと二人の刀身を上に向け、そのまま後ろに流し前に転がった。

一進一退の攻防が続く。

 

「あらら…負けないけど勝てないわね。仕方無い。あなたのプラーナ、貰うわよ。」

 

「喜んで。」

 

そう言うと男は自らの手をハチオーグに捧ぐ。

そのままハチオーグにプラーナを吸収され絶命した。

ハチオーグは絶命した背広の男を投げ捨てた。

 

「なんてことを…!」

 

「チェンジ。」

 

プラーナを吸収した事により、エネルギーを蓄えたハチオーグは顔が怪人状態となりフェイスマスクを装着した。

 

「これで基本スペックは同じ…」

 

その間ルリ子が本郷にマスクを被せ、クラッシャーが閉じ仮面ライダーとなる。

するとハチオーグが背広の男が持っていた刀を仮面ライダーに投げ渡す。

 

「これで獲物も同じ…」

 

背中からスズメバチの羽を模したフォースフェザーが出現し、高速で羽ばたく。

 

「では、参る‼︎」

 

次の瞬間、目には見えない速さで仮面ライダーの周囲を飛び回る。

仮面ライダーは肉眼で追うが、速すぎて追えない。

ハチオーグは音速で飛び回りながら刀で切りつける。

音速の斬撃に仮面ライダーは防戦一方だ。

 

「ルリ子!あなたの玩具を目の前で壊してあげる!だから泣いて!私の前で思いっきり泣いて‼︎泣き崩れて涙を見せて‼︎私のせいで悲しんで‼︎傷付いて!切なくなって!お願いルリ子‼︎」

 

そんなやり取りをしていると、仮面ライダーが持っていた刀の刀身が折れた。

それを見逃さずハチオーグは渾身の突きを喰らわせる。

 

「フッ‼︎」

 

刀が仮面ライダーの胸に突き刺さるが、貫通するには至らなかった。

 

「あらら…貫けぬか。」

 

「フンッ‼︎」

 

ハチオーグの刀を手刀で切断し、両腕を掴んで回転をかけながら放り投げた。

ハチオーグはフォースフェザーを使いなんとか着地するも、その隙に仮面ライダーが胸に突き刺さった刀を抜いて投げ捨てた。

そして…

 

「ハチオーグッ‼︎覚悟ッ‼︎」

 

大ジャンプし、ハチオーグ目掛けてガングニールスマッシュをお見舞いする。

 

「最早これまで…」

 

敗北を悟ったハチオーグのマスクの複眼から光が消えた。

だが、ガングニールスマッシュはハチオーグに命中せず、屋上の塀を破壊する。

そして後ろへジャンプして着地し、返信解除してマスクを外した。

外したマスクは床に置き、立ち上がる。

 

「…あらら、このまま勝てたのに。何故?」

 

「これ以上マスクをしていると君を殺してしまう。それは避けたい。ルリ子さんもそう思っている。」

 

「うん。ダメ…」

 

「あらら…優しいのね。」

 

「私に友達は居ない。けどやっぱり…殺せない。」

 

「個人の信条は尊重する。後は我々が引き取ろう。」

 

後ろから声がしたので振り返ると、アンチSHOCKER同盟の立花と強化防護服を着た滝が立っていた。

滝は特殊な形状の拳銃をハチオーグに向ける。

 

「ご忠告してあげる。銃は私には効かないわよ。」

 

ハチオーグがそう言うが、滝は構わず発砲した。

特殊な弾丸がハチオーグの左胸を貫く。

 

「あらら。こんなもので私が…うっ⁉︎」

 

だが、ハチオーグは膝を崩した。

ハチオーグを含む全てのオーグメントにはシンフォギアに匹敵する強化防護服を常時着ている。

通常兵器は勿論のこと、人類の天敵たるノイズすら無効化する代物だ。

 

「まさか、サソリオーグの毒…⁉︎」

 

サソリオーグが開発した毒性化学物質を除けばの話だが。

サラセニアオーグにトドメを刺した猛毒がハチオーグにも猛威を振るい、倒れる。

 

「ヒロミ⁉︎」

 

「残念…ルリルリに殺して欲しかったのに……」

 

その言葉を最期に、ハチオーグが泡となり融解した。

 

「まさか…サラセニアオーグを倒すだけでなく、この為にサソリオーグを強襲したの⁉︎」

 

「ノーコメントだ。」

 

二人は屋上を去った。

残ったのは本郷とルリ子、そしてハチオーグの上着だった。

本郷はハチオーグに対し黙祷を捧げた。

 

「…大丈夫か?」

 

最愛の友を失ったルリ子は、本郷に歩み寄る。

 

「ちょっと胸借りる…」

 

そう言って、本郷の胸の中で泣いた。

 

 

 

 

 

「ふむ…やはり、人間は面白い。」

 

もぬけの殻となったハチオーグのアジトにケイが佇んでいた。

手にはタブレットを持っており、哀悼の意をこめて胸ポケットに白い花を添えた。

 

「古風だね、ケイ。」

 

すると光学迷彩フードを被った男が現れ、ケイに話しかける。

 

「はい。人間と同じ行動を私も実行してみました。」

 

ケイが持っているタブレットには、アジトの屋上を後にする二人の姿が映し出されていた。

 

「奴らが裏切りペアかい…?」

 

「はい。お二人の速やかなお戻りを願っているのですが…」

 

「そうか…ごめんな、ケイ。アイツらは戻らないよ。」

 

「ほう、何故です?」

 

「僕がシャキッと始末するからさ。クモ先輩の敵討ち…」

 

そう言いながらナイフの先端をタブレットに刺す。

 

「それが今の僕、最大の願いだからね。」

 

そのままタブレットの画面を傷つけた。

その男は右半分がカメレオン、左半分がカマキリの仮面を付けていた。

 

「裏切りペアは必ず殺す…!」

 

 

 

 

 

潜伏先のプレハブ小屋に到着した二人。

サイクロン号はアンチSHOCKER同盟の技術者達が整備していた。

本郷は監視カメラのモニター席に座り、いつでも迎撃出来るようにしている。

 

「いくら潜伏先に向いてるからって、ここ何も無さすぎ!いい加減シャワー浴びたい…せめて服着替えたい…!」

 

どうやらルリ子は不満だそうだ。

 

「あなたもその着たきりスズメの防護服、そろそろ洗いなさいよ!さっきも凄く臭ってたし!」

 

不満の矛先は本郷に向かう。

本郷は自分の防護服を嗅ぐ。

すると滝が着替えが入っているであろう紙袋を持ってきた。

 

「着替えだ。下着は若い婦人警官が選んだ。俺は見ていない。」

 

「あなたが仕事でヒロミを処分した事を理解している。」

 

「俺に気をつかうな。人から憎まれるのも俺の仕事だ。無理矢理自分の感情を殺す必要はない。」

 

「無理してない。着替えたら今の感情を受け入れる。」

 

そう言うと紙袋を持って部屋の奥へ行く。

毛布に絡まって着替えている。

 

「そこだと遠い。」

 

「着替え中だ。離れてた方がいいだろ。」

 

「いいから。私を守るなら常に近くにいて。トイレ以外着替えも寝る時も隣に。…けど絶対に変な事はしないで!」

 

「大丈夫だ。安心してくれ。」

 

本郷の言葉にルリ子は一瞬たじろぐ。

そして着替えが終わったルリ子は毛布を脱ぐ。

 

「安心…初めて言われた。」

 

ルリ子は嬉しそうに呟く。

それからのルリ子はパソコンを使って何やら作業をしていた。

 

やがて夜になり、二人は簡易的な布団を並べて横になっていた。

 

「昼間はうるさくてごめんなさい。」

 

「………」

 

「生まれて初めて誰かに甘えて見たかっただけ。父も兄も厳しかったから。」

 

そう言った後、ルリ子は寝た。

それに対し本郷はしばらく起きていた。

 

彼女は…ルリ子は精神的に参っていた。

兄と袂を分ち、父親を失い、さらに数少ない友達までも失った。

本郷の胸の中で泣いたように、彼女も辛いのだ。

 

誰かに甘えたくなるのも分かる。

本郷は昔の事を思い出していた。

 

SHOCKERに拉致される前の本郷は頭脳明晰・スポーツ万能、城南大学きっての天才生化学者……なのだが、コミュ障が災いして無職であり、唯一の趣味であるバイクでツーリングしながら自分探しの一人旅をしていた。

 

そんな中物資の調達の為、街に買い足しに来たある日、路地裏に倒れている少女…立花響を発見した。

雨が降っていて色々危ない為、保護した。

 

空腹だった様なのでスープを出して、食べ終わって落ち着いてから話を聞いた。

立花響は半年前のツヴァイウィングのライブの惨劇にて瀕死の重症を負い、リハビリを重ねながらやっと退院した。

 

だが、ここからが地獄の始まりだった。

ライブの惨劇での被害者の内、ノイズの被害に遭ったのは全体の1/3程度、残りは混乱によって生じた将棋倒しによる圧死、逃走の際に争った末の暴行による傷害致死である事がマスコミに報道された事、被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われた事が重なり、生き残った人達を『人殺し』と決めつけ、『正義』の名の下に迫害するという『生存者バッシング』が横行した。

 

無論響にも被害が及び、家は落書きや投石によって窓が割られていた。

さらに迫害は家族にも飛び火し、『太陽』とも言える幼馴染であり親友の転校と悲劇は続く。

 

それでも惨劇の最中、ツヴァイウィングの天羽奏の『生きるのを諦めるなッ‼︎』という言葉を思い出し、『へいき、へっちゃら』と自分に言い聞かせて必死に耐えてきた。

 

幸いな事に『生存者バッシング』の惨状がツヴァイウィングの活動再開の会見で語られ、ツヴァイウィングの二人はそれを批判する。

その会見がきっかけとなり、あれだけ過熱していた『生存者バッシング』は鳴りをひそめ、逆に『正義』を称して行われた過激な生存者バッシングがクローズアップされ、そのバッシングに加担した人々が法によって裁かれる事になった。

 

響の通っていた学校でもバッシングに加担した生徒の不登校・転校が相次ぎ、バッシングに加担したり傍観した教員も多くが懲戒免職等の罰が下り、もう学校としての機能が麻痺しかかっている状態だという。

また響の家に投石などの嫌がらせをした人達も器物損壊等の容疑で逮捕者が続出していた。

 

響自身も迫害を受ける事が無くなり、やっと日常に戻れる…筈であった。

 

『生存者バッシング』が下火となってしばらくしたある日、学校から帰ってくると家の方角から黒煙が見えた。

嫌な予感がして駆け出した響が見たものは、自身の家が燃えている光景だった。

既に大部分が燃えていて助けに行くことが出来ず、母と祖母は焼死していた。

後から調べて分かった事だが、放火犯はバッシングの元加害者であり、法で裁かれた結果仕事を失った事に対する報復…所謂逆恨みであった。

 

ライブの惨劇から生き残ってからの数々の悲劇…そして放火による家族の死…その原因が自分だと思い、その事で気が動転して逃げ出し、宛てもなく放浪し空腹で倒れて今に至る。

 

すべてを話し終えた彼女は憔悴し切っており、『自分はあの時死ぬべきだったんじゃないか?』と吐露する程に…

 

そんな響に対し本郷は理由を含めて響は悪くない、今だけでいいから辛かった事、苦しかった事、悲しかった事も全て吐き出すよう言った。

そしたら泣いて飛び掛かれ、泣き疲れてそのまま寝るまで胸を貸した。

翌朝、朝食を食べ終わった後これからどうするかを相談した際、遠くへ引っ越した親友の所へ向かう事にした。

ツーリングの最中、二人はお互いの事を話した。

響の父親は彼女が小学生の頃に事故死、母と祖母も焼死した為身寄りが無く、本郷も警察官だった父親は殉職、母親も心労が祟り早死にした事から双方共に家族を無くしていた。

 

そんな中事件が起こる。

親友の所へ向かっている最中、突如として銃撃を受け横転。

幸い響に怪我は無かったが、本郷自身は大怪我を負った。

意識が朦朧としていた本郷が最後に見た光景は…

 

仮面を付けた女性の集団が二人を取り囲む光景だった…

 

その後の展開はルリ子から聞いた通りだ。

SHOCKERの研究所へと拉致された本郷は緑川博士の提案で昆虫合成型オーグメンテーション技術が確立されるまでの間、冷凍睡眠装置(コールドスリープ)で保存。

 

響は解析の結果心臓付近に残っていたガングニールの破片が心臓と融合しており、それを緑川イチローと綾小路グループが進めていた聖遺物融合型オーグメント開発の為のテストベッドとして活用する事を決定する。

 

まずプラーナ洗脳処置を施した響の心臓に直接フォニックゲインを送り込みシンフォギアを覚醒させ、ルリ子が解析したシンフォギアシステムを元に彼女のシンフォギアを調整、こうして聖遺物融合型オーグメント第0号【ガングニールヒューマン】に改造された響は今後の聖遺物融合型オーグメンテーション技術確立の為の先行試作型として運用された。

聖遺物融合型オーグメンテーション計画を主導していたSHOCKER 最上級構成員(インペリアル・メンバーズ)の一人である綾小路律子(あやこうじりつこ)が彼女の教育係を勤め、一日にノイズを数体呼び出す装置でノイズを呼び寄せて戦わせたり、現地に赴いてノイズの大群、そして迎撃に来た装者と戦わせて、その都度得られた各種データを取得、それを緑川博士の主導する昆虫合成型オーグメントにフィードバックする形で本郷もとい聖遺物融合型オーグメント第一号【ガングニールホッパー】が誕生した。

 

尚、緑川弘とルリ子がSHOCKERを裏切る為にアンチSHOCKER同盟に協力を打診した際、その条件として立花響を解放する事を告げられた。

その為プラーナ洗脳処置を施された響を可能な限り元に戻した上にガングニールヒューマンとしての記憶を封印、また【ガングニールヒューマン】としての覚醒を防ぐ為に彼女のシンフォギアに厳重なプロテクトを施す。

そして基地の情報をリークし、アンチSHOCKER同盟の実働部隊が強襲、奪取された体で保護する。

 

そうして保護された響は一緒に乗っていたバイクの事故で昏睡状態に陥り、1年間眠っていた事を説明される。

彼女は本郷の所在を尋ねたが、失踪宣告を出されて捜索を打ち切られた事を聞かされショックを受けるも、親友との再会を果たしそのままリディアン音楽院に入学した。

 

そして彼女はノイズに遭遇した際、シンフォギアが再起動しそのまま特異災害対策機動部二課に保護され、三人目の装者として今に至る。

 

彼は響の無事を安堵しつつも響が自身と同じオーグメントに改造された事にショックを受けた。

彼女もまた自身と同じように望まぬ力を押し付けられてしまった被害者であり、何より彼女は迫害によって苦しみ、家族の命を奪われた。

 

そんな状態でガングニールヒューマンとして身も心も覚醒してしまえば、クモオーグのように人間を憎み殺戮する存在になりかねない。

 

(…それだけは阻止しなければ!)

 

彼は決意する。




特異災害対策機動部二課所属の装者立花響は親友の小日向未来と共に流れ星を見ていた。
しかし突如として完全聖遺物【ネフシュタンの鎧】を纏った少女が響を攫おうと襲い掛かる。
さらにコンドルオーグが現れ、彼の悪辣非道な行いに堪忍袋の緒が切れた響はガングニールヒューマンとしての力が覚醒してしまう。
このまま彼女はSHOCKERの操り人形になってしまうのか…

次回、シン・仮面絶唱シンフォギア
『覚醒!ガングニールヒューマン』にご期待ください。
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