TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい 作:ソナラ
これは持論だが、オタクがなりたいのは誰からも
「自分だけが良さを知っている」と周囲の人々から後方理解者面で思われる、玄人好みのいぶし銀だ。
というのも、いわゆる転生モノの主人公はそのチート能力を使ってハーレムを築いたり、世界を救ったりするものだ。
しかし、それを読んでいてこうは思わないだろうか。
「こんな大きな責任背負いたくない」
――と。
ご尤もである。
実際、そういうオタクが多いから物事を遠くから俯瞰してみるヤレヤレ系の主人公は流行ったわけで。
でも、敢えて言いたい。
彼らはそういう立場でありながら、その初志を貫徹できていない。
どこかしらで舞台の中心に躍り出て、高らかに主人公の立場を全うし始める。
それじゃあ、ヤレヤレ系である意味がないじゃないか。
だから、こうしようじゃないか。
私は本気で「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になる。
転生する際にTSし、女性になってしまったことは誤算だったが、同時にこれは好都合でもある。
なにせただのおっさんがこう宣言すると、格好がつかない。
というわけで、今日も私はたいして高くもない志と、固い決意でもって異世界で冒険者をしていた――
**
冒険者ギルドは、今日も人がごった返していた。
それぞれ、うまいクエストがないか、今日はダンジョンのどこを探索しようか、そんな話をしている。
ダンジョン都市として知られるこの“グラール”では、この光景はごくごく当たり前のものだ。
世界一の冒険者の街、冒険者を志すものならば一度はここを訪れ、可能ならば拠点としたいと考える場所。
そういう場所で、私は冒険者をしていた。
そして、ギルドに来たということは私もクエストを受けて仕事をしようという立場の冒険者である。
中には併設された酒場でくだを巻くためにギルドへ来ている不届き者もいるが、私は至って真面目で品行方正な冒険者である。
と、含みのある言い方をしたものの、まぁサボることは私にだってありますよという話で。
むしろ、志をかなり低めに設定している私は、サボっていることの方が多いんじゃないだろうか。
まぁ今日はそうでない以上、今の私に後ろめたいことはなにもないのだが。
そんなことを考えつつ、クエストが張り出されたクエストボードのところへ向かおうとする。
この世界のクエストはこのクエストボードに張り出され、冒険者は自由にその中から自分が受けたいものを受けることになる。
今の時間、大抵の冒険者はすでに自分の受けるクエストを決定していて、クエストボードの前に人はまばらだ。
残っているクエストも、不人気なクエストばかり。
だが、問題ない。
私の目的は、そういった不人気なクエストなのだから。
玄人好みのいぶし銀。
もしくは、「自分だけが良さを知ってる系冒険者」。
その第一歩が、こういった不人気のクエストを受注すること。
なにせ、クエストはどんなクエストでも、クエストである。
つまり、需要があって誰かに達成してほしいからクエストになっているのだ。
しかしその中にも報酬が不味かったり、達成が面倒だったりするクエストが多々存在するために、人気不人気が発生してしまう。
といっても、すべてのクエストを受けていては時間があまりにも足りない。
そもそも私は、不人気クエストを請け負うオタスケマンになりたいわけではないのだ。
むしろ、可能な限り最低限の労力で、自分が欲する評価を欲する不真面目な人間である。
だから、当然不人気クエストの中でも請け負うべきクエストと、そうでないクエストが存在する。
不人気クエストには三つの種類が存在する。
一つは、「街の清掃」だとか、「素材の採取」だとか。
そういう、誰にでも達成できるくせに、達成自体が面倒なクエストだ。
もう一つは、「達成しても赤字になってしまいかねない」クエスト。
倒してほしいと指定されたモンスターの出現率が極端に低かったり、倒すのが困難で準備等にコストがかかりすぎてしまうクエスト。
そして最後に――
「――クロナさん」
ふと、声をかけられた。
クロナ、というのは私の名前。
ちなみに、名前の割に私の髪は黒よりもブラウンに近い。
「おや、ミアさん、こんにちは」
話しかけてきたのは、黒髪ロングの受付嬢さん。
名前をミアさん、私とはそこそこ長い付き合いになる受付嬢さんだ。
「今日もお疲れ様です、クロナさん。クエストをお探しですか?」
「ああ、うん。もしかして何かいいクエストがある感じ?」
「はい、クロナさん好みのモノが、ちょうど」
そう言って、ミアさんは手に持っていた一枚のクエスト依頼書を見せてくれた。
どうやら、これから張り出すところだったらしい。
どれどれ、と私は内容を見る。
「……街道に出た、ランペイジボアの討伐?」
――不人気クエスト最後の一つ。
なぜそれが不人気なのかといえば、先に触れたけど、「この街は世界一のダンジョン都市である」ということが理由である。
誰だって、ダンジョンに潜りたくってこの街にきているのに、ダンジョンの外で発生したクエストに興味を持ったりはしない。
加えて、ダンジョンは探索で宝箱等の副次的な報酬を得ることができる。
単純に考えて、効率も最悪という不人気もやむなしというクエストだった。
だが、だからこそちょうどいい。
「解りました、受けます。どのあたりで出たんですか?」
「シオラキの森にある街道ですね、ちょうどグラールとハンスリルの真ん中くらいだとか」
「ランペイジボアってことは、大雑把な場所さえわかっていれば痕跡で後が追えそうですね、ありがとうございます」
ミアさんに軽く情報を聞いて、私はこれからの予定を考える。
今から急げば、うまく行けば日が落ちる前にギルドへ戻ってくることができるだろう。
多少遅れても、夕食をギルドの酒場で摂れば問題ない。
「じゃあ、行ってきます」
「お気をつけて、クロナさん」
そこらへんを考えて、私は早速街の外へ向かうことにした。
あんまりうだうだしていてもしょうがないからね。
――不人気クエストの中で、受けるべきクエストはこういうクエストだ。
もちろん、時には2つ目の達成が困難なクエストを受けることもある。
今では殆どないが、1つ目の雑用系クエストだって受けるときは受ける。
私の受けるクエストの基準は至って明快だ。
「ギルドへの貢献度が高いクエスト」、これだけである。
それを聞くとなんだか社畜みたいで、遠巻きに俯瞰してるヤレヤレ系っぽくないな、と思うかもしれない。
だが、それはあくまで現代での考え方だ。
この世界では、特に冒険者の間では個人主義が基本である。
パーティ単位での繋がりはあるけれど、冒険者の大本である組織を考えて行動する人間は少ない。
だったら逆にそういう組織のために行動する冒険者になれば、それは「いぶし銀」になるわけで。
それだったら、1つ目の雑用系クエストもギルドのためのクエストではないか? と思うかもしれない。
だが、それらは基本的に新人が受けることを想定したクエストだ。
私はすでに冒険者としては一流とされる“Bランク”の冒険者。
新人の仕事を奪ってはいけない。
まぁ、昔はそういう雑用系も積極的に請け負ってたけどね?
ギルドの覚えをよくすることには他にも利点がある。
今回のように、ギルドの方から請け負って欲しいクエストを持ってきてくれるのだ。
人気クエストは軒並み持って行かれたとしても、クエストの数はまだまだ多い。
1から目を通してたら、今日のような依頼は一日で終わらせられない。
結論としては、冒険者という存在を客観的に見ている人たちの評価を良くすること。
それは決して、ギルドの職員たちだけとは限らない。
今のところ、私はこういう方針で、冒険者として活動していた。
**
冒険者“クロナ”。
冒険者の街、“グラール”には数多の冒険者がいるが、彼女はその中でも特殊な知名度を誇る冒険者だ。
別名、“何でも屋”クロナ。
それは彼女が、たとえどれだけ不人気なクエストだろうとほぼ二つ返事で受注することからついたあだ名だ。
口さがないものは“ギルドにいい顔をしようとしている”だとか、“ギルドから贔屓されている”などというものもいないことはない。
ただ、そもそも彼女はソロの冒険者で、友人はいないわけではないが少なめで、“グラール”で有名になるような華々しい冒険者ではなかった。
だから、彼女に対して陰口を叩く冒険者はそもそもほとんどいないというのが現状。
ただ、それでもそんな有名冒険者に負けないくらい、クロナはすごいのだと彼女と最も親しい受付嬢のミアは考えている。
ミアとクロナはお互いが受付嬢と冒険者になった頃からの付き合いだ。
当時、ミアは十五歳、クロナは十三歳と若かった。
それから三年、クロナは十六歳と、冒険者としては若いながらもそれなりに大人と見られる年になった。
見た目は少し癖のあるブラウンの髪を肩の辺りまで伸ばし、一房を特徴の薄い紐で結んだ髪型。
平均より少し小柄、百五十あるかどうかという背丈に、胸やお尻は少し大きめで羨ましい。
衣服は茶色の革の胸当てに、白の服と日によって柄の変わるスカート、その下にズボン、首元にスカーフを身に着けている一般的な冒険者ルック。
全体的な印象は、地味。
だが、決して容姿が整っていないわけではなく、むしろかなりの美貌を有しているとミアは思っていた。
決して人目を引くタイプではないが、クロナのことを認識している冒険者の多くは、彼女の容姿を可愛いと思っていることだろう。
そんなクロナは、とにかくギルドへの貢献を第一に考えてくれるとても貴重な冒険者だ。
冒険者には、ダンジョンを探索しお宝を持ち帰るという側面と、人々の問題を解決し秩序を守るという二つの側面がある。
しかし後者は、そもそもの場合その仕事は冒険者だけではなく、国の兵士等も従事する仕事で、冒険者の貢献はあまり見向きされない。
ダンジョン都市“グラール”に至っては、そもそも率先して請け負おうと考える冒険者が稀である。
中には、善意でそういったクエスト
だから、時折ミアは申し訳なくなってしまうのだ。
クロナは優秀な冒険者で、弱冠十六歳にしてソロでBランク冒険者になった天才だ。
そんな冒険者の未来をギルドは閉ざしてしまっているのではないか。
そう思ってしまう時がある。
それでも、クロナ以外に今回のような依頼を受けてくれる冒険者はほとんどいないし、何よりクロナが、
「私は別に、万人の評価が欲しくて冒険者をしてるわけじゃないよ」
と言っていたことに甘えて、今日もギルドはクロナへ依頼を出してしまうのだけど。
だから、ギルドはこう考えていた。
いつかクロナにも、その実力にふさわしい名誉が与えられてほしい――と。
ギルドの評価は、クロナの求める「自分だけが良さを知っている」系冒険者という評価からは逸脱していない。
概ね、クロナの狙い通りにギルドはクロナを評価していた。
ただ一つだけ。
クロナはギルドの自分への評価の高さを自覚していない。
つまりこういうことだ。
クロナはクロナの想定以上にギルドから評価
決して、両者の思惑が真っ向からアンジャッシュしてしまう、典型的な勘違いモノというほどではないが。
それでもクロナは、クロナの思う以上に、ギルドだけが良さを知っている冒険者になりすぎていたのだ――
後方理解者面されたい系主人公が、程々に無双しつつ日常を過ごすお話です。
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