TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい 作:ソナラ
言い訳をさせてもらうと、風船野郎が近寄ってくるのを察知するのは難しい。
だってあいつ、音を出さないんだもの。
あいつが音を出すのは、自分から白濁液を吐き出す時のどぴゅ……ぶぴゅって音だけだ。
今いい直しても微妙だったな!?
加えて、基本的に他の冒険者は一定の場所にとどまって風船退治をしている。
動き回る必要がないくらいには、まわりに冒険者がいるからだ。
だから向こうが私の存在を想定せずに魔術を使ってしまうのは当然で。
それを避けるために、私は魔力の種類を感知していたわけだけど、光属性魔術なんてそもそも見たことない。
こうなるのは、ある意味必然だった。
そして、流石の私でも、同じ轍は踏まない。
持ち込んだ水魔術スクロールを頭からかぶって、無事に粘液は落とすことが出来た。
後はまぁ、飛んでくるまでに距離もあったからね。
前回ほど致命的ではない。
それはそれとして、びしょびしょになった服を風魔術スクロールで乾かしながら、とりあえずことの発端である少女と話をすることにした。
そういえば、この前から“水魔術スクロール”は結構話題に上がるけれど、それが何かというと。
簡単に言えば魔術師でなくとも魔術を使えるアイテムが“スクロール”だ。
これはダンジョンの宝箱から発見するか、魔術師が専用のペンで魔力を込めてスクロールに書き込むことで作成できる。
スクロールに込められた魔力の続く限り水を吐き出せるアイテムだが、一枚でだいたい一日分の水を賄えるのでとても便利だ。
冒険者なら一人一枚は常備しておくものなのだけど、どうして私はあの時それを持っていなかったんだろうね……?
「で、えっと君は……」
「あ、その……こ、コノハ……って、いい、ます。魔術師……です。冒険者ランクは……E……」
きょろきょろと視線を這わせながら、少女――コノハは自分を新人冒険者だと名乗った。
冒険者ランクは、一番下がEで一番上がAというよくあるやつ。
実際、装備も見たところ新人用の簡素なものなので、嘘ということはないだろう。
「コノハね、私はクロナ。ランクはB、これでも結構先輩だよ、よろしく」
「ららら、ランクB!?」
びくーっとなって、コノハはのけぞってしまった。
この子、絶対私のことランクDかCの冒険者だと思ってたね?
まぁ、そう思わせるために普段から地味な装備で固めてるところあるから、狙い通りといえばそうなんだけど。
それにしても……でかいな。
何がでかいって、概ね全部が。
まず身長からして、結構でかい。
私のまわりの人間が平均からやや下くらいの人が多いから、立っているとちょっと見上げるくらいの身長はなかなか新鮮だ。
ちなみに、私の身長は前に測ったら百五十六で、ミアさんは私とほぼ同じか少し上。
ロロは私より少し低いんだよな、“進む光”のミツキとシノも大体そんな感じ。
コノハは、多分進む光の男性陣二人よりも少し大きい。
あの二人は十五歳の少年の平均身長くらいだったと思うから、本当に大きい。
そして、アレも大きい。
ほら、アレだよアレ。
チチシリフトモモ。
ようするにナイスバディだ。
特に胸はヤバイ。
ゆったりとした白いローブをまとっているにもかかわらず、存在感を主張してくる。
年の頃は多分私達と同じくらいだけど、将来的には更に大きくなりますぜ。
――だいぶ話がそれたな。
ともかく、白ローブに美しい黒髪。
おどおどとした雰囲気の、高身長で胸のでかい美少女。
それがコノハという少女だった。
「それでええっと、コノハ。シュワスプリンガーを――」
「ひいいい、ご、ごめんなさいい! 白濁まみれにしたことは許してください! な、なんでもしますからぁ!」
ん? 今なんでもって――
じゃない。
よせやめろ、これ以上話が逸れたら戻ってこれなくなる。
「じゃなくて! シュワスプリンガーを倒した魔術のことだよ」
「あ、え、えっとそれはぁ……その……」
本題は光属性魔術の方だ。
光の玉で敵を吹っ飛ばす<光弾>、あれが光属性じゃなかったら何が光属性だというのか。
とはいえ、いいにくいだろうなぁ。
どう考えても事件の種だ。
しかし、ギルドはこのことを把握してるんだろうか。
「ごめんね、別にコノハを責めようってわけじゃないし、悪いことをしようとも私は考えてないよ? だからそうだね……君の魔術、“光属性魔術”のことを、君はギルドへ伝えてある?」
「……! あ、えっと、あ、その……あ、あります」
よかった、そこを秘密にされてると話がややこしくなる。
ギルドが知っているなら、ギルドに話を通せばいい。
多分、コノハの面倒を見るようギルドの方からクエストが回ってくるだろう。
「そ、その……今回のクエストが終わったら、信頼できる冒険者に、わ、わたしのことを、紹介してくれるって」
「光属性なんてレア属性、ソロで行動したら目立つからね。ギルドに相談したなら、だれかしら紹介してくれるのは当然だ」
「たしか、くろ……な? って人だったと思います」
「――私じゃん」
いや、私じゃん。
思いっきり私じゃん。
さっき名乗ったけど、つまり私じゃん。
まぁ、紹介される方の名前を覚えてなかったんじゃ、繋がらないのも無理はない。
「あ、え、あ」
「落ち着いて落ち着いて、つまり何の問題もないってことだよ、コノハ。改めて、クロナだよ、よろしく」
「よ、よろしくお願いします……」
そうやって私が手をのばすと、コノハはおっかなびっくりその手を取って、握手をしてくれた。
コノハは、聞くところによるとまだ冒険者になったばかりの新人らしい。
というか一ヶ月前に冒険者になったばかりらしい。
その時に光属性魔術のことをギルドに伝えたら、今度冒険者を紹介するといわれた。
一ヶ月も待たされたのか……とも思うが、ギルドは毎日約一万人の冒険者と、それにまつわる様々な業務を処理するので、とにかく対応が遅いからこれが普通だ。
お役所仕事……
で、それまでの間、簡単な採取クエストや掃除クエストを受けながら、一人でおっかなびっくりダンジョンにもぐったりもしたのだけど――
「この間、安息日に私以外にもシュワスプリンガーの討伐クエストを受けてる冒険者がいたみたいだったけど、君だったのかコノハ」
「あ、は、はい多分……安息日にダンジョンに潜ると、魔術の練習にはちょうどいいので」
先日の粘液被弾事件の際に、少し気になっていた私以外のシュワスプリンガー掃除人。
どうやらアレはコノハだったらしい。
いやはや、因果なもので。
「あ、そうだクロナ先輩。えっと、もう一ついいですか?」
「うん、何かな?」
コノハは、引っ込み思案なところがある。
私や師匠も人見知りだけど、それなりに外向きの対応はできる方だ。
私だって前世では社会人経験があるし、師匠も年齢が四十こえるからね。
だからこそ、こうして遠慮がちなコノハを見ていると、ちょっと初々しく思えてくる
今回の掃討クエストも、本来なら断れたはずだが、コノハの性格的に嫌だとは言えなかったみたいで。
なんて、思っていると。
「……や、
「えっ?」
ふいに、とんでもない爆弾を投げつけられた。
「え、あ、ごめんなさい、ギルドが紹介してくれるなら、い、言っていい、かと思って」
「……つまりえっと、コノハって――」
この世界において、光属性と闇属性を同時に使えるなんて例はめったにない。
どちらか片方なら、珍しくはあるけどいないわけではない。
ダンジョン都市グラールのような、大規模な冒険者の街なら、一人や二人いるだろう。
でも、同時に使えるともなれば。
それに該当する理由は、一つしかないのだ。
「コノハって――“勇者”……ってこと?」
「……は、はい」
私が感じていた事件の予感。
どうやら、ちょっとやそっとのものではなさそうだ。
**
勇者。
異世界ならよくあるやつ。
この世界にも当然存在していて、歴史上定期的に勇者は現れていた。
同時に、魔王という存在も。
魔王はこの世界に破滅を齎し、勇者はそれを防ぐ存在。
今から千年ほど前までは、だいたい百年周期で現れては大きな戦いを繰り広げていたらしい。
でもそれが、歴史上最強と謳われる伝説の“シロナ”によって魔王が完全に消滅したのが千年前。
結果、勇者の役割も終わったのだが――
「勇者って、魔王が消滅してからも定期的に現れてるんだよね」
「は、はい。勇者シロナは別に勇者まで、消滅させたわけじゃ、な、なかったので」
つまり、現代にも特に役割なんてないのに、勇者という存在は生まれてくる。
そして今代の勇者が、コノハだったということなんだろう。
「しょ、正直、魔王がいなくなった後、勇者の特別性はこの、光属性と闇属性魔術への適性だけで……それ以外はなんにも、ないんですけど」
「まぁ、その方が平和に暮らしていけるだろうしねぇ……」
それでも、レア中のレアであることに違いはない。
ギルドが一ヶ月もコノハを待たせるのも当然だ。
「とりあえず、事情はわかったよ。コノハの件に関しては私も協力する」
「あ、ありがとうございます」
「その上でコノハ――コノハは、これからどうしたい?」
とりあえず、概ね事情を把握して、協力することを決めたからには。
まずはコノハの意思を確かめないといけない。
なにせ、私は決して勇者ではなく、勇者としての意思を決めるのはコノハなんだから。
「あ、えっと……その、ごめんなさい。おもい、つかないです」
「……思いつかない?」
「は、はい、すいません。私えっと……あんまり、自分で考えて、こ、行動したことが……なくって」
「あー……」
それは、なんというか想像ができてしまった。
話しただけで解ってしまう、というか。
――私も、前世ではそういうところがあったから、解る。
少なくとも、コノハと同じくらいの年の頃は、正直似たりよったりだったといえる。
まだ、顔が良い分コノハの方が救いがあるくらいだ。
「私、小さい村の出身なんです、けど……」
コノハは、簡単に自分の来歴を語ってくれた。
故郷では鈍臭いと周囲から馬鹿にされ、人の役に立った経験がない。
たまたま街を守護していた冒険者が魔術師で、その人のお陰で自分が勇者としての適性を持っていると解っても。
周囲は、そもそも勇者なんて今更なったところでなんだというのか。
コノハにそんな適性があっても、宝の持ち腐れだとそう切って捨てたそうだ。
そんな自分を変えたくて、コノハは冒険者になった。
しかし両親はそんなコノハの夢を、「まぁいいんじゃないか」と適当に受け入れたそうだ。
両親がそれじゃあ、コノハの意志力なんて育つわけない。
こうなるのも、ある意味必然だったんだろう。
「ところで気になったんだけど、コノハは勇者について結構詳しいよね。どうやって勉強したの?」
「あ、それは……その、適性を教えてくれた冒険者の人が、いらないからって、くれたんです。勇者の本を」
なんというかそれは。
私にとっての師匠にあたる存在にも、どうでもいいって、思われてたのかな。
「勇者の、ことが、色々、書いてあって。今は、宿に、おいてあるんです、けど。私の、一番の宝物、です」
「うん、うん……解るよ」
大切なもの、私にとっての成功体験。
それがコノハにとっての勇者の本なんだろう。
「あ、そうだ……クロナ先輩、私、えっと、やりたいこと」
「うん、何かな?」
「恩返し、したいなって」
「……恩返し?」
問い返していた。
なんだろう、恩返しって。
私には、あまりピンとこなかった。
「わ、私のこと、を迷惑だって思ってても、育ててくれた両親……や、この本を、私にくれた冒険者、さん。それから……私が生きていける、この、世界に」
「どういうこと?」
「だって、本に、書いてあったんです。勇者は、世界中のすべての人を、幸せに、するもの、だって」
……それは。
ちょっと、思ってもみない答えだった。
多分、私とは正反対の考え方だ。
私は、私が好きだと思う人に、私のことを好きになってもらいたい。
私の良さをしってもらいたいと思っている。
そのためには、私は“良い”人でなければならないし、なりたいとも思っている。
目的はそこまで違わないけれど、そこに至るまでの過程は正反対だった。
「それが、コノハに悪意を向けてくる人だとしても?」
「だとしても、私は幸せになって、ほしい、です。だってそれは、その人が私に向けている、感情で。幸せとか、不幸とは、関係のないこと、ですから」
「――――」
言葉が出てこなかった。
なんと言うべきなのだろう。
私と、コノハの違いをまざまざと見せつけられている気分だ。
これは、一言で表現するとすれば。
多分、きっと。
これが主人公力の差……!
ってなんでだよ!
もう少し真面目に表現しようよ私!
真面目な話してたよね!?
――コホン。
「分かった。コノハ、それなら私からもお願いがあるんだ」
「ふぇ……? な、なんでしょう」
「私に、コノハの願いの手伝いをさせてほしい」
私に、コノハのような慈愛を持つことはできない。
でも、私はコノハが幸せになってほしいと思っている。
私が好きになった人を、私は支える。
それは、私が普段から望んでいる、玄人好みな人の生き方だと私はそう信じているのだ。
勇者の名前がシロナでクロナの名前がクロナなのはシロナの名前にあやかったからです。
なのでクロナはこの世界では結構一般的な名前です。