TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい 作:ソナラ
なんだか知らないけれど、コノハをドン引きさせてしまったものの。
コノハがこれからどうすればいいかは、改めて考えなくてはいけないことだ。
今のところ、魔術に関して私が教えることはなにもない。
というより、必要なことはコノハが自分で結論にたどり着いてしまうだろう。
だったら後は冒険者としての経験と、それから彼女の場合は……人が善すぎるところが課題かな。
自己評価が低いのはともかく、自己評価が低いにも関わらずあの慈愛の精神は、誰かに騙してくれと言わんばかりである。
今までそういう人に狙われなかったのは、単純に装備が新人のそれだったからだろうな。
顔もいいし胸もでかいけど、それくらいの冒険者ならグラールの街では他にもいるんだから。
わざわざお金のなさそうなコノハを狙う理由がない。
後はギルドもそれなりに気にかけていただろうしね。
こういう時、一番強いのは横のつながり。
Bランクになるまでソロで冒険者してた私の言えることではないけれど。
同僚の冒険者っていうのは、その間柄が親しければ親しいほど、頼りになる存在だ。
最終的にその信頼関係が極まれば、固定のパーティとしてパーティ名を登録するわけ。
そう、ちょうどいますよね。
最近知り合いになった新人冒険者パーティが。
“進む光”。
あのパーティほど、信頼の置ける新人パーティがこのグラールにあるとは思えない。
ただ、コノハと“進む光”を引き合わせるにあたって。
一つ、これは絶対に問題だよなと思う部分があるのだ。
**
「今日は、お姉様とこうしてお出かけができて、ロロはとても光栄ですわ!」
「いやいや、感激しすぎだって」
コノハと一旦別れて少し、私はロロとでかけていた。
買い物に付き合ってほしいとのことで、せっかくだしと了承したのである。
「そういえば、ロロ達のパーティって攻撃が得意な魔術師の子っていなかったよね」
「そうですわね……シノが水属性の魔術を使えますけれど、あの子の専門は回復ですわ」
その道中、早速だけれど雑談としてそんな事を聞いてみた。
“進む光”の今のメンバーは前衛が二人、後衛が二人、遊撃としてどちらにでもスイッチできるのが一人という構成だ。
男性陣二人はそれぞれ典型的な剣士のアタッカーと盾持ちのタンク。
女性陣はミツキが弓を得物にした
そして、シノが水属性単のヒーラーだ。
だから、今の進む光には純粋なアタッカーのウィザードがいない状況である。
そう、コノハのような。
まぁあの子の場合、光属性には回復のイメージがあるそうで、多少の回復もいける万能タイプなんだけど。
流石は勇者だ。
「後は、アタクシも魔術に適性がございましたので、少し齧ってみることにしたんですの」
「へぇ、何属性なの?」
「そ、それは……そのぉ」
これは少し意外……でもないか。
ロロは天才だ、適性さえあれば彼女ならどんな属性もモノにしてしまうだろう。
でも、本領は物理的な遊撃だろうから、あくまでサポート的な使い方なんだろうな。
それにしても、どうして今更魔術を齧り始めたんだ?
「……つ、土属性ですわ」
――一瞬で納得した。
こちらを見つめる熱い視線、恥ずかしそうに指を絡めて、恋する乙女のようだ。
私は恋愛経験がないから、自分が鈍感なのかは判断がつかないけど、流石にこれは私でも解るぞ。
「いいね、おそろいじゃん」
「んんっ!!」
キュン、みたいな感じで胸を押さえられた。
おちついておちついて、どうどう。
「し、失礼いたしましたわ。……アタクシ、これまで魔術に関しては手慰みで習うには敷居が高いと思っていましたの」
「まぁ、間違ってはいないね」
それこそ、例えばコノハなんかは多分やろうと思えば剣の才能だってあるだろう。
でも、それを習う土壌がなかったのもあって、今の彼女は魔術師としての習熟に注力している。
「でも、土属性魔術は違いましたわ。土属性魔術って、
「そうだね、流石はロロ、よく気づく。土属性魔術でできることって、現実的に起こりうる現象が多いんだ。だから、なにもないところから火や風を生み出すよりずっと簡単にイメージできるんだよね」
例えば、石片の射出。
アレはやろうと思えば魔術を使わずとも腕の力でなげることだってできる。
だからたとえば頭の中で野球みたいに石片を投球するイメージを想像して魔術を使うと、狙いはともあれ簡単に石片を射出できるのだ。
これが炎を手のひらから吐き出すってなると、果たしてどういうイメージをすればいいんだ? となって躓くことがある。
だから、剣士が片手間で覚える魔術として土属性魔術は最適!
なんだけど、そもそも剣士が土属性魔術の適性を持っていることは少ない。
適性を持っていないのは人気がないからで、人気がないから土属性の便利さがイメージとして浸透しない。
イメージとして浸透しないせいで土属性の人気は更に下降し、適性のある人間も少なくなる。
マイナスのスパイラルに突入してしまうのだ。
「それにもう一つ、土魔術の練習を始めると気づきがありましたの」
「それは?」
「後衛からの視点ですわ。魔術というのは基本的に後ろから仲間を見ながら使うものですものね」
「確かに、ミツキやシノがどういう考えで動いているかを、学べたわけだ」
「そういうことですわ。やはりこうやって、何かを学ぶという経験はとても得難いものですわね」
そうだね、とうなずきながら私はこの子達の優秀さを改めて認識する。
学ぶこと自体に得難い経験を見いだせる人間というのは、やはり希少だ。
“進む光”は全員がそれを自然とやってのける人たち。
ロロが「あまりにもパーティに恵まれすぎている」と思うのも納得しかない。
では、そこに才能は間違いなくあるけど、自己評価最悪なコノハを挟んでみよう。
果たしてうまくいくだろうか――
絶対に無理だ――――!!
どうかんがえても上手くいくわけがない。
というか、私でも無理だ。
私は自分で言うのもあれだけど、努力の方向性が他人とは違う。
やる気のある時は、他人の何倍もやる気があると自負しているけれど。
普段の生活はどちらかというとずぼらな方だぞ――!
そう、問題はこれである。
コノハが進む光とパーティを組めたら、コノハが変な奴らに騙される可能性はおそらくゼロになる。
でも逆に、コノハは進む光の優秀さに性格的に馴染めないし、進む光もコノハの自己評価の低さに遠慮してしまう。
実利を考えればお互いの利益になることのはずなのに、性格面ではどう考えても破綻するとしか思えない組み合わせ。
人間関係って難しい……!
「そういえばお姉様……一つお聞きしたいのですけど」
と、少し考え事をしてしまっていた。
今はロロとの会話に集中するべきだ。
「何かな?」
「お姉様は、冒険者のアスノ様のこともご存知でしたのよね?」
「うん、結構知ってる」
師匠です、とは流石に言い出せないけど。
師匠がまだこの街にいるなら、そのうち顔を合わせることもあるだろうな。
アレから一度も会ってないけど、グラールの街は広いから会おうと思わないとそうそう会えないんだよね。
「アスノ様は素晴らしい冒険者様で、多くの方から人気がありますわ」
「ドワーフの冒険者って目立つしね、色んな場所を見て回ってエピソードも多いから、ここ最近の冒険者で一番話題性が多いのもあると思うよ」
「なんて的確な分析なんですの……!」
って本人が言ってたしね。
まぁ、私も概ね同意するからこうしてロロに話してるんだけど。
「やはりお姉様も……」
それにしても、私は時折思うことがある。
ロロの言動に関してだ。
基本的に、ロロはすごく意識の高い優秀な冒険者である。
頭の回転も早く、効率を重んじる合理主義者な側面もある。
同時にその性格は善性が強く、まっすぐな気質の少女だ。
だが、時折そんな彼女の言動に違和感を感じることがある。
それは、彼女が他の冒険者に言及する時だ。
彼女はそんな時、なんだか“何か”を抑えようとする様子を見せる。
そして、何やらこちらに、探りを入れるような雰囲気も。
その違和感の正体を、私は知っていた。
というか、身に覚えがあった。
「あ、あの、お姉様! 今日の買い物なのですけど、どうしても寄りたい場所があるんですの!」
意を決した様子で、ロロがこちらに呼びかける。
私が感じるロロの違和感。
それは――
「私と一緒に、冒険者ショップで、冒険者のグッズを見てほしいのですわ!」
――ロロが、
**
言動からしてそうだけど、ロロは見た感じいいところのお嬢様だ。
実際、冒険者になるまではそれなりに贅沢な生活をしていたそうだし、所作の所々に上流階級の気品を感じる。
単純にロロが優秀すぎるせいで、問題なく庶民としての生活を送れているだけで。
決して、本来ならロロは冒険者になるような立場の人間ではない。
そんなロロが冒険者を志す大きな理由が、ロロが冒険者オタクであるということなら、多くのことに納得がいく。
何より私のことをお姉様と呼んで慕ってくれるのも、身近にいる高ランクの冒険者だからというのも大いにあるだろう。
「やはりそうだったのですね! お姉様も冒険者を“推す”ということの魅力を理解してくださっていたのですね!」
推し。
私の前世ではありふれたオタク用語だったけど、この世界でもそれは定着している。
というか何なら、前世のそれは流行によるスラングで、時代の流れで廃れていく可能性もある言葉だった。
だが、この世界は違う。
なにせ何百年も前から、この世界には推しという概念があるのだから――
「“推し”。それは世界を照らす光! ただ追いかけているだけで幸福を得られる天啓! アタクシたちはさながらそれに吸い寄せられる蛾のようなものなのですわ!」
「言いたいことはあるけど、蛾は謙遜しすぎだって」
数年もすれば、貴方もそっち側の人間になるのよロロ! 落ち着きなさァい!
「でも、なにかに夢中になる気持ちは私も解るよ……」
「お姉様……」
前世でオタクだった経験から、この世界の冒険者オタクの考えはよく分かる。
もちろん、私も有名冒険者は好きだ、彼らの物語はいつも私をワクワクさせてくれる。
何か英文翻訳みたいな言い回しだな?
「ただ、私は自分をロロみたいに本気で冒険者を推せてるとはちょっと思えないんだよね」
「ど、どうしてですの?」
「――時間がね、なかったんだ」
私の人生は、その半分が田舎で地味な村人としての生活だった。
冒険者なんて身近には師匠しかいなかったし、知る機会もなかった。
そして、残りの半分は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になるための修行に費やしてきた。
推しを作る時間も、推す時間も私は持てなかったのである。
「それは……でも、お姉様……」
「慰めはいらないよ、ロロ。君だって解ってるはずだ。推しを推せなかった時間が、どれだけコンプレックスになるかということを……!」
「く……!」
ロロはいい子だ。
私が時間を作れなかったことを気にしたりはしないだろう。
ただそれはあくまでロロだけの話。
多くのオタクはそう思わないし、何より自分自身がそれを許せない。
もしもロロが、他のことにかまけて推し活の時間をもてなかったら、彼女はそれを一生悔やむだろう。
それが解ってしまうから、ロロも私に慰めの言葉をかけられない。
「それでも、私は活躍する冒険者が好きだよ。それを推すロロの姿も、輝いて見える」
「お姉様……」
「だから、偶にでいいからこうやって冒険者ショップに私を連れてきて、推しの話を聞かせてくれたら嬉しいな」
「……! はい、お姉様!」
というわけで、私達は冒険者ショップのグッズを見て回ることになったわけだけど――
冒険者ショップというのは、ギルドが経営する冒険者のいろんなグッズが売っているお店だ。
前世にも、そういうお店はあったけれど、この世界でそれはギルドの貴重な経営資金を稼ぐ場でもある。
ギルドは冒険者へのクエストの仲介だけではなく、街中の掃除などの業務を請け負ったりしている。
冒険者の生活に関わることを何でもこなす、行政組織のような場所だ。
当然、その運営にはお金がかかる。
地下水道の掃除クエストとか、新人冒険者への救済措置として本来の相場よりギルドが報酬を上乗せしてたりするからね。
その補填とかにも、お金は必要だ。
そこで、この冒険者ショップがある。
有名冒険者に関する様々なグッズを販売したり、有名冒険者の冒険譚を纏めて本にしたりと、冒険者を推すための様々なアイテムが販売されていた。
特に後者の冒険譚は、推し活に夢中なオタク以外にも需要がある。
最近は、師匠が各地を回って経験したことを纏めた本が、ベストセラーになったりもしたな。
何ならアレ、普通の書店とかにも特設コーナーができてたりするし。
ちなみに文は師匠が書いている、あの人には文筆の才能があるんだよね実は。
ともかく、そんな冒険者ショップで目を輝かせるロロと、それに付き合う私。
店内を物色している時だった。
私は、あるものを見つけてしまったのである。
それは、別に大したことはないアイテムだった。
この世界にあるマジックアイテムで、冒険者の写真を撮ったブロマイドのようなもの。
多分、これは冒険者ショップの中で一番普遍的な商品だろう。
なにせ、このブロマイドは冒険者がBランクになった時に撮る決まりになっている写真を使っている。
この写真を見せれば、自分がBランク冒険者であるという証明にもなるし、こうやってグッズとして販売することもできる。
まぁ、報酬は写真を撮る時に買い切りでもらうので、そこまで大したものにはならないんだけど。
でも、それはつまり。
その人物は今から少し前にBランク冒険者になったばかり。
だから私は、ブロマイドがショップに並ぶのはもう少し先だと思っていた。
これが、見た目が派手な冒険者なら優先してグッズになる可能性もあるだろうが、彼女に限っては容姿が地味だからそうそうありえない。
――誰のことかって? 言うまでもない。
私、Bランク冒険者クロナのことだ。
ロロはまだ、気づいていない。
しかし、もしも私のグッズがあることに彼女が気づいてしまったら?
ただでさえ、時折さっきみたいに褒められると発作を起こすロロが、これを見つけてしまったら?
私は、ロロの人生を歪めてしまうかもしれない。
だからどうにかして、ロロが気がつく前に、私は私のブロマイドを処理する必要があった――
本作の世界観は軽めなのでたまにこう言う話も出てきます