TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい 作:ソナラ
そういえば、ふと思う。
偶然にも師匠とコノハと行き会うことができた。
だったら師匠にコノハの事を紹介してみるのもいいのではないか?
出会った経緯が経緯なものだから、私達三人は謎の連帯感とともに、昼食を三人で食べることとなった。
場所は色々と考えたが、無難にギルドだ。
一番近かったからね。
ギルドの食堂部分でそれぞれ食べるものを頼んで、昼食にする。
アルコールを入れる選択肢もあったけど、気分ではないので遠慮した。
師匠はこの後、特に当てはないけど市場を回ろうと考えていて、コノハはそもそもお酒は飲まないそうなので全員アルコールは無しだ。
そうして食事に手を付ける段階で、改めて師匠にコノハを紹介する。
「というわけで改めて、彼女がここ最近面倒を見ることになった冒険者のコノハです」
「よ、よろしくお願いします」
「君もいよいよ後輩の面倒を見るようになったか……まぁ、三年もギルドと仲の良い冒険者をしてれば当然な気もするけど」
「それで――」
うんうん、とうなずく師匠が、運ばれてきた飲み物に手を付ける。
「――コノハは、実は光属性と闇属性の魔術に適性がある勇者なんです」
「ぶふぅーーー――――っ!」
師匠!?
リアルで飲み物吹き出して驚く人初めてみたよ!?
じゃない!
慌ててこぼれた飲み物をタオルで拭きつつ、
「師匠大丈夫ですか?」
「ごほ、ごほ、ゆ、勇者って……あの勇者かい?」
「あ、そ、その勇者です……」
律儀に、コノハが答えてくれた。
師匠はなんとか気を取り直すと、改めて飲み物を一口飲んでから話を再開する。
「いや……クロナくんが規格外なのは知っていたけど、人との出会いも規格外だったとはね……」
「師匠は私を何だと思ってるんですか?」
「じゃあ改めて、Bランク冒険者でクロナくんの師匠のアスノだ。よろしく、コノハくん」
スルーされた!?
一応さっきも名乗ったけど、腰を落ち着けて改めて挨拶を交わす。
おっかなびっくり差し出された手を握り返したコノハを見て、私も一安心。
ここまで驚かれるとは思わなかったけど、師匠もコノハに対して好意的に接してくれた。
まぁそもそも勇者ですって名乗られてもなにそれ……となるのが今の時代なので、そうそう変なことにもならないだろうけど。
シロナ様って勇者なんだよっていうと、「そうだったの?」って返されるからね、一般的に。
「それにしても、勇者か……私も話に聞くだけだったけど、本当に実在したんだね」
「まぁ、現れるのは百年に一度程度だそうですから、師匠の年でも出会う機会がないのは当然だと思いますよ?」
「私の年齢に言及する必要はあったか?」
ないです。
そもそも師匠は人間換算でまだ二十代なので、年齢を気にするような年でも性分でもないです。
ともあれ、今はコノハのことだ。
「私に紹介してきた辺り、色々と困ってるんだろ? 私に教えられることなんて、せいぜいが旅の心得とか冒険者としての過ごし方とかそんなだが」
「それが一番欲しかったんですよ……! コノハは……って戦闘の才能がすごくあって、特に魔術に関しては教えることがなにもないくらいなんです」
「え、あ、きょ、恐縮です」
流石に、親しい二人の会話に入っていける度胸はコノハにはないだろう。
私達の会話を聞きながら、視線を向けられたことで返事をしてくる。
「……なるほどね。あがり症で人付き合いが苦手、加えて言えば極度のお人好しで、人を信じやすい傾向にある……ってところか」
「よく解りますね?」
少し考えた師匠が、概ね正解をピタリと当ててきた。
コノハもちょっと驚いているみたいだ。
分析、完璧である。
「いやね、前者は見ていれば解るけど、後者は単純に私への警戒心が薄すぎるんだ。クロナくんが師匠だと私を紹介したことで、無条件で私のことを信頼できると思っただろ?」
「あ……そうかもしれません」
「まぁ私としても、こうして君のように未来ある新人冒険者と出会えたことを嬉しく思うけどね」
そういわれると、コノハは照れたように赤くなって顔を伏せる。
対する師匠はといえば、こっちへなんだか不満そうな視線を向けた。
なんで……?
「人ってのは他人に迷惑をかけるものだ。特に面倒を見る先輩後輩……師匠と弟子ってやつはね」
「……なんですか師匠?」
「いやあ? その点、君ってやつは本当に手のかからない弟子だったものでね。なんで私を師匠と呼び出したのか疑問だったくらいだ」
「いいじゃないですか、精神的なものですよ! それに、教えてもらったことだっていっぱいありますし」
殆どは君が自分でなんとかしたじゃないか、といいながら師匠は立ち上がる。
見れば頼んだご飯のうち、主食はすでに平らげて後に残っているのはデザートだけだった。
「どこへ行くんですか?」
「ちょっとクエストを見てくる。まぁこういうのは何事も、実際にやってみるのが一番だからね」
「……え?」
疑問を覚えた様子で首をかしげるコノハ。
対して師匠は、
「三人でクエストを受けてみよう、どうせ私も暇していたところだからね」
そう言って、ギルドのクエストボードの方へ向かって歩いていった。
「え、ええ――?」
「なるほど、師匠も思い切りがいいなぁ」
私はそもそも、この後どうしたものかなぁ、で特に思いつかずに止まってしまっていたけど。
だったら悩むより先に行動、というわけだ。
まぁでも、私もそろそろ何かしら行動は起こしたほうがいいと思っていたわけで。
遅かれ早かれだね。
というか今日まで休んでたし、明日にでも行動を起こそうって朝の辺りに考えてたね私。
美肌ポーションのせいで忘れてたけど。
「あ、あの……クロナ先輩。あ、アスノさんって、あのアスノさんですよね?」
「そうだよ、多分そのアスノさんだと思う。最近話題の金髪ドワーフ冒険者でアスノっていえば一人しかいないはずだしね」
Bランク冒険者になってからというものの、師匠の注目度はうなぎのぼりだ。
冒険者になってから魔力操作を習得するのに数十年かけた冒険者なんて、珍しいにも程がある上に一般人の受けがいい。
加えて師匠自身も露出(服装的な意味でなく!)を嫌わないので、供給が多い。
そりゃあ人気にもなるというものだ。
後まぁ、コノハは私が地味なせいで私をBランク冒険者とは認識できてないだろうから、余計にね?
「私は特にそういう派手さはないからね。地味な冒険者目指してるから当然だけど」
「え?」
……なんでそんな、理解できない存在を見るような目で見るの?
「とにかく、三人でクエストを受けるけど問題ないよね? いや、強制じゃないんだけど、できれば受けてもらえると嬉しいかな」
「あ、は、はい。それはもちろん。ありがとうございます」
「お礼は師匠に言ってもらえればいいよ」
なんてやり取りをしながら、私達も今のうちに食事を済ませてしまおうと、それぞれ口を動かすわけだけど。
そんな時だった。
「――お姉様?」
この場に、思ってもみない四人目が現れた。
赤髪のお嬢様系冒険者、ロロが食事を食べ終えたお盆を手に、こちらを見ていたのである。
**
こうなってくれば、ロロも話に加わってくるのは自然な流れで。
特に「私が面倒を見ている新人冒険者」という点での食いつきは非常に良いものだった。
自分と同じ立場の冒険者って時点で、それなりの興味を抱くのは当然である。
こういう時、ロロが全肯定系光のオタクであることは非常にありがたく、コノハを前にしたロロが、
「とても嬉しいですわ! アタクシと同じように、お姉様を慕う冒険者の方が他にもいらっしゃるなんて!」
と喜んでくれたあたり、本当にロロはいい子である。
なおコノハは新たに現れた陽の気に満ちた美少女相手に「あ」しか言えなくなっていた。
解るよ……
「つまり、お姉様とコノハさんに、それから、あ、あ、あ、あ、アスノ様の三人でクエストを受けるんですのね?」
「そういうこと。師匠なら、今丁度いい感じのクエストがないか見繕ってるよ」
この時間だと、あまりいいクエストはないだろうけど。
「そういうロロは、どうして一人でここに?」
「クエストが終わって、その達成報告に来たんですの。パーティの皆さんは、一足先に宿へ戻っておりますわ」
ふうむ、と考える。
前に聞いた話だと、“進む光”はクエストを達成した次の日は休みだという。
そして今日は週の末。
具体的に言えば明日は前世で言う土曜日、そして明後日は安息日だ。
安息日はよっぽどの理由がない限り“進む光”も休みを取るというから。
だったら――
「……ねぇロロ」
「はい、何でしょう」
今日は、コノハの紹介――というか、コノハが勇者であるということを話してみるだけのつもりだったけど。
「クエスト受けるの、たぶん明日になるんだけど。……ロロも来る?」
「行きますわ」
即答だった。
私が前に、師匠のことを知っているかと問われた時くらいの即答だった。
つまりそれくらいの熱量だった。
「多分一日で終わるし、同じ新人……と言ってもどっちも同じくらい新人と思えないくらい優秀なんだけど……新人がいれば、コノハも学ぶことは多いとおもうからね」
「あ、あ、あ、あ、あ、は、はひ」
「落ち着いてコノハ」
相変わらずコノハははひはひしていた。
いかん、このままではコノハが溶けて消えてなくなってしまう。
こうなることもあって、やっぱりロロのパーティとコノハは向いてないよな。
「コノハさん、大丈夫ですの?」
「あ、えっと、あ、はい、よ、よろしくお願いします」
「ふふ、コノハさんは変わってますのね? 落ち着いてくださいまし、アタクシは焦ったりはしませんわ」
「……あ、はい」
ニコリ、とロロが微笑むと、過呼吸気味だったコノハは、それでようやく落ち着いたようだ。
一つ息を吐いて、残っていた飲み物を飲み干す。
これはなんていうか……
百合の香り?
いや違うな。
さて、ここまではよし。
ロロを誘うことは、私達にとってメリットが多い。
そして、ロロにとってもメリットが多い。
まず私とクエストを共にすること。
前々から、一緒にクエストに行こうと約束はしていたけど、この機会にその約束を果たすことができた。
普段はロロがきちんと“進む光”の活動を優先しているから、なかなかそういう機会もないしね。
次にコノハというパーティ外の新人と一緒にクエストができること。
これが一番大きいだろう、それにコノハは戦闘面では優秀だから、きっとロロも驚くはずだ。
そして――師匠とクエストを共にすること。
これ、間違いなくロロにとってメリットなんだろうけど。
やばいことにならない?
大丈夫?
ロロ、耐えられる?
解らない……私はロロのオタク力を測りきれていない……
そして、最後に。
これに関しては推測なんだけど。
冒険者の冒険が好きなら、勇者の冒険も好きである可能性は高い。
そうなった時、ロロは果たしてどれほどの化学反応を起こすのか。
計り知れないものがある。
いや、そうだな……一つ思いついた。
私は、魔力強化で聴力を強化する。
何をしているのかといえば、足音を聞き分けているのだ。
師匠の足音は身長のせいで特徴的だし、何度も聞いているから記憶している。
聞き分けは簡単だ。
何より師匠の足音だしね。
師匠の足音はいいぞ。
――師匠は、こちらへ近づいていた。
どうやらいい感じのクエストを見つけたらしい。
なら、ロロにこの事を話すタイミングは今しかないだろう。
「そういえばロロ、ロロって勇者については詳しい?」
「勇者様ですの? もちろんですわ! 勇者シロナ様を始め、歴代の勇者様と魔王の戦いはアタクシ、全て記憶しておりますの!」
「すごいね」
やっべ想像以上に好きだった。
「確か、先代の勇者様が誕生したのが今から百年ほど前でしたから、そろそろ次代の勇者様が歴史に登場するはずですわ」
「そ、そこまで知ってるんですね……」
驚いた様子のコノハ。
多分、勇者に対してこれだけ情熱を燃やす人を彼女は初めて見ただろう。
「それでね、ロロ」
「はいですの」
「――コノハが、その次代の勇者なんだ」
できるだけ、サラッといった。
できるだけ、サラッといった結果。
「――? ……? …………!!!????」
ロロは、無言で百面相したまま、停止してしまうのだった。
お労しや……
そしてコノハは、困惑したままこちらとロロに視線を向けている。
ごめん……
「……何をしているんだい?」
「あ、師匠おかえりなさい」
そして、このタイミングで師匠が帰ってくる。
狙いはこれだ、勇者の衝撃でロロと師匠の初エンカウントを有耶無耶にする!
とりあえず、まずは師匠に事の顛末を話す。
「君は……なんというか」
「なんですか」
「まぁいい。いい感じのクエストを見つけてきたよ」
そういって、師匠はクエストの内容が書かれた紙を見せてくれた。
「
師匠の持ってきたクエストは――なんというか。
結果的に、この四人で受けるのにある意味一番ふさわしいクエストかもしれなかった。