TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい 作:ソナラ
またこの猪か!
なんて叫びたくもなるけれど、またこの猪だから師匠はクエストを持ってきたのだ。
というのも――
「先日、グラールの街の外の街道でランペイジボアが出現した。これはとある冒険者が早急に退治したんだが――」
「なんですか、なにか言いたいことでもあるんですか師匠」
「いいや? ともあれ、そのランペイジボアは別に問題じゃないんだが……今回、
魔物の出現は、基本的にランダムだ。
ダンジョン内は神様の補正が効いているのか、上層の方が倒しやすいモンスター、下層のほうが強いモンスターという棲み分けがあるが、ダンジョンの外はそうではない。
かわりに、そもそもランペイジボアのような凶暴なモンスターはめったに出てこない。
基本的には、Cランクの冒険者が一人で倒せるくらいのモンスターが上限だ。
対して、ランペイジボアはCランクの冒険者がパーティを組んで倒すレベルの相手。
それが短期間に二度も……となると、ないとは言わないが異常だ。
「そこで、グラールの街を行き来する商人たちからのクエストだ。このランペイジボアを討伐すると同時に、
「……? あ、あのアスノ様、少しおかしいですわ?」
と、手を上げてロロが質問する。
なお、残念ながらあの後ロロは正気を取り戻した後にもう一度師匠で発作を起こした。
結果ギルド内で相当の注目を集めてしまったため、現在私達はギルドの個室を借りて話をしている。
この個室、すごい便利な上に無料で借りれるのに、冒険者の知名度はめっちゃ低いんだよね。
ロロもコノハも知らなかったし。
なんなら師匠も借りるのはこれが初めてだそうだ。
私は結構、ギルドからの面倒な依頼を個別で受けるときに使うんだけどな。
ふっ……いぶし銀はつらいぜ☆
「
と、ロロは本質を突く。
これは冒険者なら常識なのだが、モンスターハウス現象というのはある時突然起きるものだ。
だから今回みたいにランペイジボアが連続で二体出現する状況は、本当にただ偶然起きたこと。
異常なことだが、“ないとは言わない”。
世界は広い、時折こういう現象が起きるのも当然と言えた。
「ああ、冒険者なら普通はそう考える、けどモンスターハウス現象の前兆がないってのは冒険者の常識なんだ」
「え、えっと……商人さんたちは、それを知らない、から。不安になって、クエストを出してる、ってこと、ですか?」
「そういうことだよ、コノハ」
コノハの言葉に私が肯定する。
まぁ、こういうのは往々にしてよくあることだ。
冒険者は商人の常識を知らないし、商人は冒険者の常識を知らない。
「それだと、その商人の方々のクエストの報酬は丸儲けということになってしまいますのね。なんだか申し訳ないですわ」
「ロロくんは真面目だね。しかし、別に彼らがただ無知からこうしてクエストを出しているわけじゃないんだ」
「……? ど、どういうこと、ですか?」
首を傾げるコノハ、つられて傾げるロロ。
新人二人は、なんというか割と息があっているように見える。
気質的には正反対なんだけど、妙なところで馬が合うというか。
なんだろうね、不思議な二人だ。
「クエストを出すと、クエストボードに名前が載る。案外これが馬鹿にならないんだ、宣伝として」
「例えば、今回のクエストは“武器防具専門店バトルフォージ 店長ロザミー”が依頼を出してるわけだけど、クエストにはこうやって店の名前と何を取り扱ってるかまでを記載することができるんだ」
そうやって、私がクエストの内容が張り出された紙を二人に見せる。
覗き込んだ二人が、なるほどとうなずいた。
「特にこういう不人気クエストは長くクエストボードに残る。だから冒険者が直接その店を気になったりはしなくとも、どこかで名前を覚えてくれる可能性があるんだ」
私がそう言うと、師匠が補足してくれた。
「この店は装備を取り扱ってるみたいだから、冒険者相手の商売だ。多分、本当はモンスターハウス現象のことを理解していて、その上で敢えてクエストをだしてるのだろうな」
以上、解説終わり。
まぁなんてことはない、世界ってのは色々な思惑や狙いがあって動いてるというだけのこと。
よくよく見ると、商人のクエストで上乗せされた報酬はそこまで大したものではない。
不人気クエストっていうのもいいんだろう。
クエストが残るだけじゃなく、不人気クエストだとわかった時点で冒険者はたいてい見るのをやめるから、その時点で残った情報だけが頭に入りやすい。
依頼者名はクエスト名の次に記載されるから、ほぼ間違いなくここだけが情報として残る。
「とりあえず、詳細は解りましたわ。アタクシ達四人で、ランペイジボアを討伐する……ということですのね?」
「あ、あの……本当に私達が参加しても、その、いいんでしょうか……ご迷惑をおかけ、するんじゃ……」
とりあえず、話としてはこれで終わりなのだけど、コノハの言葉も尤もだ。
相手はCランク冒険者がパーティで挑む存在。
如何にBランク冒険者が二人いたとしても、不安になるのは当然だ。
「いや、君の実力を考慮した上で、ランペイジボア程度なら問題ないだろうと判断した上でのクエストだ。聞いた話だと、魔術一発で倒れた枯木を吹き飛ばせるそうだからね」
「そうなんですの? コノハはとても優秀ですのね」
「え、あ、う」
褒められてテンパってしまうコノハ、ロロの不思議そうな顔は、こういうタイプとの交流のなさの表れだ。
できれば、いい感じに噛み合ってくれるといいんだけど。
「ロロに関しては、無茶は絶対にしないっていうのが解ってるし、私は問題ないと思ったよ」
「そ、それは……恐縮ですわ」
そしてこちらも照れるロロ、ふふふ、コノハの気持ちを理解しなさる……!
「というわけで、出発は明日、よろしくね、ふたりとも」
「は、はい」
「解りましたわ!」
かくして、私達四人は臨時のパーティを組んで、ランペイジボアの討伐へ向かうことになるのだった。
なぁに、ランペイジボアは巨体のせいで痕がまるわかりだから、一日で簡単に見つかるし、楽な依頼だよ!
商人の調査依頼の上乗せも美味しいなぁ!
**
「……ぜんっぜん見つからないですよ師匠!」
「もう三時間も歩きまわってるんだけどな……?」
――そして、まったく見つかりませんでしたとさ。
いやおかしいよ、なんで?
次の日、街の外の森へやってきた私達は、何一つの収穫も得られないまま森をさまよっていた。
「あ、あの、思ったんですけど、クロナ先輩」
「なにかな? コノハ」
「わ、私達が森で、つ、使える魔術の確認をした時も、痕はなかった、です、よね?」
「あ、ああー……そういえばそうだ」
思い返してみれば、コノハと魔術の確認をしたのは数日前。
師匠が持ってきたクエストが張り出されたのは、それよりも前のはずだ。
せっかく宣伝目的で張り出したのに、すぐ外されたんじゃ意味がないからね。
師匠も、そこは考えて選んでるはず。
ううむ、これは事前に予測しておくべきだったのか?
いや逆だな、あの時森に異変がなかったことからも、今の状況がおかしいことを証明できる。
今は当時のことよりも、現在がおかしなことになっていることを気にした方がいい。
「どうみる? クロナくん」
「ええと、考えられる可能性は幾つかありますが……正直、ランペイジボアを見たのが依頼主の気の所為だったという可能性以外は、どれもろくな可能性じゃないですね」
「もしも気の所為だったら、ギルドがクエストを受理していないだろう。複数人の目撃情報があったことは間違いない」
とすると、面倒なことになりそうだな。
いや、別に最悪の場合でもちょっと倒すのが面倒なだけで、私と師匠がいれば問題になることはないんだけど。
コノハやロロがいても構わない、守り切って完勝するだけの実力は私達にもある。
ただ……
「どちらにせよ、これでは二人の研修にはならないだろうな」
「ですよね……」
とりあえず、当初の目的だったコノハとロロをいい感じのクエストに連れて行くという目的は達成できそうになかった。
少なくとも戦闘に二人を巻き込むことは不可能だろう。
「それに、捜索も三時間成果なしだ、二人には悪いことをしたな」
「今のところ、何の当てもないですしねぇ、ごめんねふたりとも――」
と、私と師匠が申し訳無さそうに視線をコノハとロロへ向けると――
「あ、クロナ先輩、あ、アスノさん。えっと」
「お姉様、アスノ様、今コノハさんと二人で話し合っていたのですけれど」
うん?
コノハとロロは、二人で一枚の地図を片手ずつ持ちながら、何かを話し合っているようだった。
まず、その地図はなんの地図だろう?
「あ、これはアタクシの私物の、グラール周辺地図ですわ。冒険者ショップで購入しましたの」
「あのショップ、そんなものも売ってるの……?」
「地図もまた、冒険者の必需品! 誰かがこの地図で、大きな冒険を成し遂げていると思えば買わない手はありませんわ! ショップにあるものは何でも手を出してしまいたくなりますの!」
「落ち着いて」
見てみると、すごく精密に描かれた周辺地図だった。
誰が買うんだ、このグラール周辺地図。
基本的にグラール周辺って、街道が整備されてるから地図が必要な地域じゃないぞ?
あると便利かもしれないけど、ここまで正確なものである必要はない。
「コノハが言うには、ランペイジボアは幾つか習性があって、それを考慮するとこのあたりを拠点にしてるんじゃないかって」
「あ、その、ら、ランペイジボアを直接みたことは、な、ないんですけど。話に聞いた限りだと、そ、そうなんじゃないかなって……」
コノハの話をロロが要約したところによると、ランペイジボアは基本的に暗所を好む傾向があるらしい。
これは体毛が毛深く、熱が籠もりやすいせいだからで、グラール周辺の森だと、常に暗所になりやすい場所は限られている。
なので、そこを探してみれば痕跡が見つかるのではないか、とのこと。
「痕跡の隠し方が巧妙ですから、ランペイジボアは通常よりも知能が高いそうですわ。ですが、あまり立ち寄らない場所であればその隠し方でも問題ありませんが、拠点としている場所は何度も行き来するからそうはいかないだろう、と」
「なるほど、一理あるね。そしてそれを、コノハくんは一人で考えたわけだ」
「そうですの、アタクシはあくまで、コノハさんの言葉を纏めているにすぎませんわ」
師匠の言葉とロロの言葉に、コノハは謙遜してみせる。
でもそうか、考えてみればコノハの勇者としての適性は、戦闘以外でも発揮される可能性があるわけだ。
勇者とは魔王を倒すために旅をする、それはただ強いだけではなく、旅をする上での観察眼も適性に含まれるんだろう。
コノハは本当に生まれついての勇者というわけだ。
加えて、ロロもすごい。
冒険者オタクとして、グッズならば何でも買い揃えてしまうのがこういう形で役に立つとは。
それにコミュニケーション能力もずば抜けている、あの人見知りが極まったコノハから、こうも情報を聞き出してしまうとは。
よっぽど聞き上手だったんだろう。
要約がうまいのも、頭の回転の速さから来るものだ。
「……これは、もしかして捜索に関しては私達の方が苦手なんじゃないか?」
「それは言っちゃダメですよ、師匠」
私も師匠も大雑把なところがあるから、こういう細やかな探索は苦手だ。
仮にもそこそこの期間、ソロ冒険者として活動しているから何とか体裁を保てているだけで。
将来有望な彼女たちと比べたら、よっぽどダメ人間かもしれないという考えが脳裏をよぎった。
ともかく、そんな考えを振り切って、私達はコノハとロロが指し示した場所へ向かうのだった――
**
――嫌な予感というのは当たるもので。
私はランペイジボアに何が起きているのかという想定が幾つかあった。
その中で、もっとも厄介な可能性はランペイジボアに大きな変化が起きているというものだった。
実際、その変化は間違いなく起きていて、後はその大小だったのだけど――
「――よりにもよって、一番やっかいなパターンでしたか」
「でもまぁ、可能性としては一番高いパターンでもあったよ。こればかりはどうしようもない」
私と師匠は、互いに言葉を交わしながら、目の前のランペイジボアと相対する。
「く、クロナ先輩、アスノ先輩……」
「お気をつけくださいまし!」
後ろから、コノハとロロの声が聞こえる。
「ふたりとも、絶対にそこから出ちゃダメだよ」
二人は今、私と師匠が作った<隔壁>の中から、状況を見守っていた。
二人がかりの本気の隔壁だ。そうそう崩れることはないだろうけど、目の前のランペイジボア相手に絶対はない。
――と、考えて行動したほうが堅実だ。
なにせ――
そのランペイジボアは、通常のランペイジボアと比べてもサイズにそこまでの違いはない。
だが、ある一点において大きな違いと呼ぶべきものがあった。
それは――
「来るぞ、クロナくん!」
師匠の合図と共に、私は構える。
<射出!>
それは、私の射出とほぼ同時にランペイジボアが使用した
ランペイジボアの周囲に、石片が浮かび、私の放った石片と同時に射出される。
それらはぶつかり合い、吹き飛んで辺りに飛び散ると――
「――このランペイジボアは、
時折、人の中には生まれながらにして
それは、実を言うとあらゆる生物において例外なく発現しうる才能だ。
当然それは魔物においても例外ではなく――
否、“魔”の名を関する連中は、むしろその方がいっそ自然なのではないかとすら思える。
魔力操作を身に付けた、高い知能を持つランペイジボア。
最初想定していた、簡単なクエストは一転。
強敵と化したランペイジボアとの決戦へと移行するのだった。