TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい   作:ソナラ

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十七 彼女の器

 師匠である私、アスノからするとクロナは時折妙に自信に溢れていると感じることがある。

 それを感じるのは強敵や困難を前にした時だ。

 

 最たる例は、それこそあのランペイジボアに罠を仕掛けた件だろう。

 彼女は自分自身にランペイジボアを弱らせる罠を用意できるという確信があり、それを実際にやってのけた。

 だが、普通ならばそもそもそんな勇気は出てこない。

 自分の存在を気取られていないからと、冷静にその場から逃げ出すことすら難しいだろう。

 

 つまり、クロナは自分が実力を発揮するという状況において、自分の実力を高く評価しているということだ。

 普段の彼女は自己評価が低く、自分の認識と他者の認識に食い違いが発生していると言うにも関わらず。

 “強さ”という面で、彼女がその評価を見誤ったことはない。

 

 今回の魔力操作を身に付けた才覚者(ハイランカー)のランペイジボアにおいてもそうだ。

 クロナは私とクロナの二人なら、新人冒険者二人を守りながらこのランペイジボアに完勝できると考えている。

 私にはそんな判断は無理だ。

 少なくとも私の感覚では、このランペイジボアを倒せる確率は高いが、決して確実とは言えない。

 もし、一人でこいつと相対していたら、私は死を覚悟するだろう。

 後ろに新人の二人がいなくとも、だ。

 

 これは単純に、私の自己評価が低いということではある。

 長年Cランク冒険者としてうだつの上がらない人生を送ってきた私に、自信を持てというのも無理な話。

 だが、それにしたってクロナの自己評価は高すぎる。

 

 前に一度、クロナに自分の冒険者としての実力はどの程度のものか、聞いたことがある。

 するとなんと答えたかって、

 

「魔力操作も無手の魔術行使もできますし、実績さえあればいずれAランク冒険者になるんじゃないですか?」

 

 だそうだ。

 全く以てその通りなのだが、普段の彼女の様子を見ているとはっきり言って納得がいかない。

 なんでそこだけちゃんと理解してるんだよ!?

 だったら他のことも、もう少しきちんと把握してくれよ!?

 

 君のことを尊敬している人に、師匠ですと紹介されるたびに私の胃がキリキリ痛むのを理解してくれよ!?

 私はそんな大したドワーフじゃないんだよ!

 

 ……まぁ、見栄を張って、表には絶対にそれを出さない私も悪いところはあるけれど。

 

 話を戻すと、どうしてクロナは自分の実力だけは疑っていないのか。

 結論から言ってしまえばそれはクロナがおかしいからなのだけど。

 クロナの何がおかしいって、自分が努力すれば()()()()()()と疑わないことだ。

 努力には必ず結果が伴って、自分は成長できるという考え方。

 普通、そう物事がうまくいくはずがない。

 

 クロナ本人にしてもそうだ、決して彼女は何の失敗もなく今まで実力を高めてきたわけではない。

 師匠として私は、クロナの失敗を数多く見てきた。

 しかし同時に、彼女が失敗するたびにもう一度奮起して、挑戦を続けるのを見てきた。

 

 本人曰く、そんなクロナの原動力は「成功体験」だそうだけれど。

 私にはそれだけではないように見える。

 成功を体験したことがあれば、すべての物事に諦めること無く挑んでいけるかといえばそうではないだろう。

 それとは別に、成功すると強く信じる必要がある。

 その信じる理由が私にはわからない。

 

 だが、同時にだからこそクロナが自分の強さを疑わないのは、「成功を信じている」からだという結論になる。

 それはおかしい。

 おかしなことだ、疑うまでもない。

 でも、その上でクロナは本当に自分の成功を信じている。

 

 私、アスノが師匠として思うのは、

 彼女の“魅力”の根源は、そういう彼女自身の自負にあるのではないかと、時折そう思うのだ。

 

 

 **

 

 

 師匠と共にランペイジボアを倒す。

 そもそもからして、今回依頼が出される原因になった一匹目のランペイジボアを倒したのが、師匠と再会する直前だったことに始まり。

 私にとって初めてと言っていい、私を慕ってくれる後輩冒険者ができて。

 そんな二人の後輩冒険者と師匠、四人で向かうことになった結果が、このランペイジボア討伐クエスト。

 

 因縁というか、因果というか。

 この世界に転生して、そういうものを感じるときが時折ある。

 伝説の勇者シロナを始めとして、この世界には過去に転生者の残り香を感じることもあり、なんというか。

 

 ゲームの中に転生したみたいだと思うことが、偶にある。

 

「私が正面からの攻撃を対処しますので、師匠は遊撃をお願いします!」

「解っている!」

 

 ――ランペイジボアが足に魔力を回して、突撃の気配を見せる。

 それを戦闘開始の合図として、師匠が距離を取り、私がランペイジボアを正面から迎え撃つ構えに入った。

 

「お姉様、無茶ではありませんの!?」

 

 ロロが声を張り上げる。

 彼女の基準から考えれば、それは確かに無茶だろう。

 これほどの巨体を、正面から受け止めるなど。

 人の膂力では到底不可能だ。

 ましてや、相手が魔力を操作できるともなれば――

 

 突撃したランペイジボアは、瞬き一つ程度の速度で、私の眼前に突っ込んできた。

 後方を見やれば、間にあった木々はすべてランペイジボアの巨体の形をした大穴を開けていて。

 

 多分、ロロとコノハには、ランペイジボアが一瞬で私の目の前に出現したように見えただろう。

 というか、普通なら彼女たちはそもそもこちらの戦闘をほとんど目で追うことすら不可能なはずだ。

 隔壁に空いた小窓からというのもあるけれど、魔力操作を十全に使ったもの同士の戦闘は、そうでないものの戦闘とは隔絶したものになる。

 

 普通の格闘技漫画と、異能バトル漫画くらいの差があるわけだ。

 けれどもそれは、魔力操作を会得していれば()()()()の速度にも十分に対応できるということでもある。

 

<隔壁!>

 

 私が選択したのは、壁を作り身を守る魔術。

 ただ、それは正面からランペイジボアを受け止めるのではなく、傾斜をつけて突撃を受け流すためのものだ。

 自分の目の前に出現した壁を回避することはできず、壁に足をかけたランペイジボアはそのままの勢いで空中へと飛び上がる。

 

 木々を薙ぎ払い、宙へ投げ出されたランペイジボア。

 すなわち、今のランペイジボアは踏ん張りが利かないということだ。

 

「――悪く思うなよ!」

 

 そこへ、ふっとばされるのを待っていた師匠が、腕に土塊を纏わせて迫る。

 両腕を、黒色の巨大な塊で覆った師匠はさながら軍服みたいな装備も相まって、メカ系の装備を身にまとうソシャゲのメカ少女みたいだ。

 自分の胴体並にでかい土塊だからね、見た目の迫力は大きい。

 

 そして、勢いよく拳が叩きつけられると、ランペイジボアはうめきながら地面に着地した。

 いい感じの一撃が入ったことで、痛みに顔をしかめながら頭を振るのだけど、致命傷という様子はない。

 HPゲージの二割くらいを削ったという感じか。

 魔力という存在があるために、どれだけどでかいダメージを与えても、魔力という壁がある程度そのダメージを緩和してしまう。

 

 お互いの魔力に絶対的な差があればまた話は違うが、この世界の生物の魔力の総量はさほど変わらない。

 だから結局、相手の魔力の壁を突き破って、動けなくなるまでダメージを与える以外に戦いを終わらせる方法はないわけだ。

 まさしく、HPゲージって感じ。

 

 ――これも、まるでこの世界がゲームみたいだと思う要因の一つ。

 

 ランペイジボアは気を取り直すと、私達から距離を取って様子を窺い始める。

 

「ランペイジボアが動きを変えましたね」

「同じ攻撃はそうそう二度も通じない、こちらも対応するぞ」

 

 師匠の言葉にうなずいて、私も得物のショートソードに土塊を纏わせると構える。

 そうそう破壊されることはないとはいえ、ロロとコノハがいる隔壁を守りながら戦う必要性から、あまりこちらから無茶な攻撃はできない。

 基本的には、ランペイジボアの攻撃に対応する手を逐一打っていくのが最善だった。

 

 それから、高速で飛び回るランペイジボアとの格闘戦が始まる。

 直接突っ込むのは不利と判断したランペイジボアが高速で飛び回りながら、こちらを攻撃してきた。

 対するこちらは、飛び回るランペイジボアを私が隔壁で妨害しつつ、師匠がランペイジボアに追いつくことで機動力で相手を圧倒した。

 

 ただ、やはり魔力の扱いは流石才覚者(ハイランカー)というべきか、無闇矢鱈に攻撃を仕掛けても簡単にかわされてしまう。

 私は万が一のために隔壁を守る必要があるので、攻めに打って出ることができない。

 結果、戦況は膠着してしまった。

 

「戦い方を変えるか……!」

「後方から援護射撃入れます、流れ弾に気をつけて!」

「解ってる!」

 

 そこで、師匠の言葉を合図に、私が攻撃方法に変化を加える。

 具体的には――

 

<射出!>

 

 遠距離攻撃、射出による石片の発射を織り交ぜ始めたのだ。

 サイズが小さい石片をすべて見切るのは難しい、ランペイジボアもこれを完全に回避することは不可能だ。

 フレンドリーファイアを防ぐため、師匠のいる方向へは石片を飛ばさないため、その隙を突くこともできるが――

 

「そこには私がいるというわけだ」

 

 石片に気を取られて、師匠を意識から外してしまうと、今度は手痛い一撃が待っている。

 隙を晒したランペイジボアに、師匠の拳が見舞われた。

 

 大きく吹っ飛ぶランペイジボア。

 師匠も追撃の手を緩めない。

 戦況は一気にこちらへ傾き始めた。

 

「す、すごい……あの速度のランペイジボアを、一方的に……」

「でも、これが長引くとまずいですわね……」

「う、うん……」

 

 隔壁から、ロロとコノハの会話が聞こえてくる。

 一方的な攻勢に傾いたことで、二人も戦況を把握できるようになったようだ。

 さっきまではほとんど私達が何をやっているかも見えなかったと思うけど、今は私の石片もあってランペイジボアが動きを制限されているからね。

 

 とはいえ、この戦い方は有効だけど決して完璧というわけではない。

 少なくともさっきみたいに、戦況が膠着するよりはずっとこちら側の不利へ転びやすい状況だ。

 具体的には、フレンドリーファイアを気をつけているとはいえ、師匠が私の石片を被弾する可能性がある。

 そこをランペイジボアが突けば、師匠が倒れて戦線が崩壊する危険性もあるのだ。

 

 そして、もう一つ。

 この状況が長引くと、あることにランペイジボアが気がつく。

 それはつまり、

 

 ――ランペイジボアが、こちらを見た。

 

 

「まずい、ランペイジボアが()()に気がついた。そっちを狙っているぞ!」

 

 

 隔壁の中にいる、ロロとコノハの存在だ。

 魔力操作ができる人間は、大きなダメージを受けてもそれを魔力で受けられる。

 だが、そうでないものはそうもいかない。

 一撃が、即座に死につながる可能性。

 当然ながら、二人もそれを抱えている。

 

 ランペイジボアがそれに気がついて、二人に狙いを定めたら?

 ――当然、それはこちらの大きな隙になる。

 

「解りました!」

 

 私は、地面に手を当てて意識を集中させる。

 対するランペイジボアは魔力を使い、一気にこちらへ向かってきた。

 師匠を振り切り、隔壁めがけて一直線だ。

 

 それは、戦闘の開始に起きたランペイジボアの突撃と状況は同じである。

 故に、

 

<隔壁!>

 

 私はまた角度を付けた隔壁を生み出し――

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「――!」

「そ、そんな!」

 

 ロロとコノハが息を呑むのを感じる。

 先程は問題なく、ランペイジボアを射出できたのに……と。

 だが、それはランペイジボアが本気ではなかったからだ。

 こうやって、同じ状況に持ち込んだときに、油断を誘うため敢えてランペイジボアは余力を残していた。

 才覚者の魔物ともなれば、それくらい狡猾な手を打ってくるものである。

 

 そして、それは私の望むところでもあった。

 

 

<陥没>

 

 

 ――壁を突き破ってこちらへ突っ込んできたランペイジボアの足元が、消失した。

 全力で壁を突き破った後に、本来ならばあるはずの地面がなかったら。

 当然、ランペイジボアは態勢を崩す。

 

 最初のランペイジボアに、ロロ達“進む光”と出くわしたモンスターハウス現象。

 どちらも私は地面の消失を切り札にしてきた。

 今回もそうだ。

 これまで、敢えてこの手札を切らなかったのは、このタイミングで使うため。

 

 目に見えて解るウィークポイントを使って、ランペイジボアを絶好のタイミングで釣り上げることを狙ったからだ。

 

 倒れ込むランペイジボアと、土塊で用意した武器を構える私と師匠。

 勝敗は、完全に決していた。

 

 ――こういう駆け引きを、この世界で何度も経験した。

 こちらの狙いが劇的にハマった時、私はそこに“物語(エンタメ)”を感じる。

 この世界がゲームであるなら、そのゲームの中で起きる出来事は、劇的でなければならない。

 

 神様が、そう言っているかのような。

 そんな状況に、出くわすときがある。

 

 四人で受けたクエスト、因果がある意味で集束する瞬間。

 私は、どうしようもなくそれを――

 

 

 “楽しい”と思う。

 

 

 こればっかりは、「自分だけが良さを知ってる」とか、「いぶし銀」とか。

 そういう、私本来の生き方を逸脱していても、やめられない達成感だ。

 そういう成功があるからこそ、私はその成功を信じることができる。

 これが、成功するために努力をする、秘訣というやつなんだろう。

 




余談ですが、師匠は無手ではありません。
魔術に関しては軍服みたいな装備の一部として組み込まれています。
杖が杖の形から逸脱すればするほど、イメージが難しくなるので、無手に近づいているという感じです。
なのでそのうち無手で魔術を使うこともできるようになるでしょう。
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