TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい   作:ソナラ

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十八 似た者同士

 眼の前で起きている戦いを、ロロとコノハはそもそも認識することすらできなかった。

 

 魔力操作のできる人間とそうでない人間の戦いは()()()()()とは良く聞く話だけれど。

 これほどまでに差があるものなのだと、二人はこうして直接その戦いを目にするまで実感がなかったのだ。

 

 というか、この世界に魔力操作持ちの人間はそういるわけではないのだから、早々実感できるものではない。

 もちろんいるところにはいるし、実際このダンジョン都市グラールには結構な魔力操作持ちがいるわけなのだけど。

 そういう人間が、そもそもこういう場所で全力を出す必要は殆どない。

 

 ロロ達が出くわしたモンスターハウス現象がそのいい例だ。

 あのとき、クロナは多数の魔術で出現した魔物を圧倒したが、魔力操作による全力を見せることはなかった。

 必要ないからである。

 

「これが……Bランク冒険者、正直、想像以上でしたわ」

「う、うん……」

 

 高速で飛び回り、何をしているのかは分からないが激しい戦闘を繰り広げているらしい二人と魔物を見て、ロロとコノハは完全に思いを一つにしていた。

 

 うお、やっべ……

 

 話に聞いていたけれど、ここまでとは思わなかった上位者の戦い。

 ただ、ロロにしろコノハにしろ、自分が戦闘技術においてかなり上澄みの素質を持っていることくらいは理解している。

 いずれ、この領域に自分たちはたどり着くのだという感覚も強かった。

 

「それで、ええと……コノハさん?」

「は、はひ!?」

 

 はからずも、というか。

 自分たちが戦力外になったことで、こうして二人だけで話すタイミングが生まれた。

 先程、ランペイジボアの居場所に目星をつける際に二人で会話もしたけれど。

 

「あ、え、あ、え、ええとその、あ、な、なんでしょう?」

 

 こうやって、素のコノハと初めて二人きりでロロは話をする機会を得た。

 先程と違って、コノハはかなりこちらに遠慮があるようだ。

 ランペイジボアの居場所を推測したときとは、随分様子が違う。

 故に、ロロはこれがコノハの素なのだと判断した。

 

「コノハさんは、どうしてお姉様とお知り合いに?」

「うぇあ」

 

 コノハという少女は、見ての通り人付き合いが苦手なようで。

 ロロは初めて会ったとき、こんなにも人との交流を苦手とする人がいるなんて想像もできなかったほどだ。

 でも、決して邪気がないことは彼女と話していればすぐに分かる。

 冒険者として行動しているときは、その才能を遺憾なく発揮しているし、何より――

 

「ふふ、大丈夫ですわコノハさん。アタクシはコノハさんのことをもっと良く知りたいと思っているんですのよ?」

「あ、は、はひ」

 

 そうやって落ち着くように言葉を重ねると、コノハは素直に気を取り直す。

 それから少しすると、ぽつぽつと話をしてくれた。

 

「なるほど、偶然お姉様をねちょねちょに……ねちょねちょに!?」

「お、おちついてください、ロロさん」

 

 思わず興奮してしまった。

 クロナは素朴なところがあって、そういうえっっっっな雰囲気とはかけ離れたところがあるから、えっっっっな目に遭うと興奮するよね。

 こほん。

 ロロは邪念を追い払い、コノハを見る。

 

 コノハは才能や容姿だけでなく、この素直さが魅力だとロロは思う。

 

 “進む光”はかなり潔白な冒険者の集まりだとロロ自身思っているが――それでも、ここまで無垢であるかといえばそうでないと思う。

 男性陣はそれなりに女性陣のことを意識しているし、女性陣も顔のいい男は好きだ。

 ロロの場合は少し特殊だが。

 そういう普通なところもあるロロたちから見ても、コノハは純朴すぎるほどに純朴だと感じるのである。

 

 少し、羨ましいくらいだ。

 

「あ、あの、ロロさんはどうしてクロナ先輩を、お、お姉様……って呼んでるんですか?」

「よくぞ聞いてくださいましたわ!」

 

 ――コノハにとって、ロロは自分とは正反対の人間だ。

 華のある見た目、ハキハキと喋る姿、冒険者としての意識の高さ。

 どれをとっても、自分のような地味な人間とは何もかもが違う。

 将来の約束された人間、というべきだろうかとも思った。

 

 そりゃあコノハだって、自分が冒険者としての才能に恵まれていることは解っている。

 だからこそ今代の勇者に選ばれたわけだし。

 それでも、コノハは自分に自信がない。

 才能があると言っても、コノハは未だに磨かれていない原石なのだ。

 

 眼の前のクロナ達の戦いを見れば解る。

 自分はまだ、あの領域にたどり着くまで時間がかかる、と。

 

 そうなれば、クロナ達の領域にいたれるかは自分の努力次第だ。

 そして、コノハ自身解っている、クロナやアスノが心配する“騙されやすい”という欠点を。

 アスノにはっきり指摘されたように、コノハは他人を信じやすい質である。

 そんな自分が、冒険者として大成できるかは、周囲との“縁”にかかっているだろうことも、ここ数日はっきりと理解してしまった。

 

 クロナに導かれて、アスノやロロと知り合って、自分はその“縁”を幸運にも手にすることができたのだと実感した。

 きっと、自分はいずれ冒険者として大成するのだろう。

 だが同時に、それが周囲の人々が導いてくれたからなのだという自覚も強くなった。

 

 ロロのように、自分の力だけで大成することは絶対に不可能なのだと、そう突きつけられた気分だった。

 

 しかし。

 

「ですからモンスターハウス現象を前にしてアタクシ達の前で啖呵を切ったお姉様は本当に凛々しくて普段とのギャップにキュンキュンハートなんですのそれもただかっこいいだけじゃないんですわ可愛くてかっこいいんですのそれもう無敵なんですわ!」

「う、うん」

 

 ロロは、そんなところをさておいても変人だった。

 ちょっと気圧されてしまうくらい変人だった。

 人のことをお姉様と呼ぶ人が変人じゃないわけがなかった。

 

 でも、なんというか――

 

「はっ、また早口になってしまいましたわ。ごめんなさいコノハさん」

「う、ううん」

 

 コノハは、首を横に振って否定する。

 ロロは、たしかに変わっているけれど、でもそれでもいいとも思う。

 だって――

 

「……わ、私も、気持ち、わ、解るから」

「…………!!」

 

 ロロがそうやって、なにかに夢中になる気持ちが、コノハにも理解できるからだ。

 

「わ、私も、ね。勇者のこと、とか、本で読むの、好き、だったから」

「まぁ……!」

「そうやって、すごい人を好きになるのって、た、たのしい……ですよね」

「ええ、……ええ!」

 

 ロロがコノハの手を取る。

 言ってしまえば、ロロとコノハは似た者同士なのだ。

 ロロは言うまでもなく。

 コノハも内向的で、勇者の物語に憧れもした。

 そう、それはつまり。

 

 ()()()()()という一点において、二人の気質は似通うものがあった。

 

 確かにロロとコノハの人間性は正反対だ。

 クロナが危惧した通り、常に同じパーティに参加するとなれば、コノハの意識とロロの意識の違いは問題になるだろう。

 だが、こうして私的な関係であれば、むしろ二人の相性はかなり良い。

 

 どちらも善性に満ちた純朴な少女であり、ロロはコノハの話に根気強く向き合うし、コノハはロロのオタトークについていける。

 お互いにとって、お互いが相性のいい相手なのだ。

 

 同時に、それぞれがそれぞれに対して、好感を持てる相手だというのもある。

 

「コノハさんとこうやって話をしていると、パーティの皆さんとはまた違った刺激がありますわね」

「わ、私はそ、そもそも、こうやって、私と、お話ししてくれる、立場の近い、冒険者って、いなかった、ので」

 

 もっと言えばコノハの場合、そもそも同年代でまともに話をしてくれる相手がいなかった。

 クロナは例外として、これまでの人生でコノハが最も言葉を交わした相手は、冒険者になったコノハを親身にサポートしてくれたミアというギルドの受付嬢さんだ。

 ……多分、両親ではないと思う。

 聞けばクロナと懇意にしているらしく、なんとなくそれが納得できる人だった。

 

「ですからコノハさん、これからもこうやって、偶に二人でお話ししたりしましょうね?」

「は、はい。ぜ、是非……!」

 

 ロロがそうやって笑みを浮かべると、コノハもなんとなく顔がほころぶ。

 可能なら、パーティの皆にも紹介したいと、ロロは思った。

 きっと、皆もコノハの事を受け入れてくれるだろう。

 だが、問題はコノハの方が遠慮してしまうという点で、それは直ぐに解決できる問題ではない。

 

 でも、何れは少しずつ慣れていけばいい。

 多分、固定でパーティを組むことはできないけれど、何かあったときの臨時の助っ人としては申し分ない相手だ。

 ロロが攻撃魔術に優れるというのもいい。

 “進む光”はその方面に特化したパーティメンバーがいないという話は、前にクロナとしたけれど。

 コノハはそれを埋めてくれる逸材だ。

 

 ――ロロは、クロナがコノハが進む光に入れないかと考えていることを知らない。

 そもそも、相談するタイミングがなかったのだから当然だが。

 だからこれはロロが個人的に判断したことだ。

 もしもクロナがこの事をしれば、“その手があったか”と思うだろう。

 固定パーティに加わるのではなく、必要なときに力を貸す助っ人という立場なら、コノハも“進む光”の意識の高さに気圧されなくて済む。

 おそらく、コノハにとって最もベストな選択だった。

 

 

 結果として、それはクロナの与り知らぬところで方向性が固まることとなるのだが。

 

 

 だから、クロナはこのことに“その手があったか”と思うと同時に、私が指導する意味って――? となることになる。

 が、それはまた別のお話。

 

「ああ、それにしても――」

「そ、それにしても?」

 

 そもそもの話。

 ロロとコノハの気が合う点として、もう一つ大事なことがあった。

 むしろ、“それ”があるからこそ二人は気が合ったのだといえるくらい、大事なことだ。

 

 それは何か?

 言うまでもない――

 

 

「お姉様、凛々しいですわ……」

「す、素敵ですよね……」

 

 

 二人の“最推し”がクロナであるという点だ。

 善良な二人は、互いに同担拒否のような地雷もない。

 故に、同じ推しを推せることは幸福である。

 

 もちろん、アスノも尊敬すべき相手だ。

 クロナいいよね……いい……。

 二人の師弟関係って素敵だよね……素敵ですわ……。

 

 

 そんな事を話しながら、戦況の変化を見守っていると――気がつけば、クロナとアスノは、ランペイジボアの討伐を終えているのだった。




小説家になろうにも投稿したらしいですね。
https://ncode.syosetu.com/n3101ii/
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