TS転生者は「自分だけが良さを知ってる」系冒険者になりたい 作:ソナラ
皆様から「こういうのでいいんだよ……」と後方で腕組みしていただける作品を作れるよう頑張ります!
異世界モノで他人から評価されない主人公ってのは、たいてい周囲からバカにされてたり過剰に貶されたりするわけだけど、現実だとそういうことはそうそうない。
だって人が多すぎるから。
冒険者の街グラールには、総勢一万人程度の冒険者がいる。
Bランク以上――魔力操作が可能な一流冒険者という括りでも、百人近い冒険者がいるのだ。
その中で、評価されない私の知名度なんて、下から数えればすぐってくらい低い。
だから、私をバカにする周囲の人間なんていないし、そういう人間と関わる機会がない。
一つ可能性があるとしたら、新人の冒険者と一緒にクエストを受ける事があった場合、だろうか。
新人冒険者にとっては、Bランクの冒険者なんて雲の上の存在だ。
そして、新人冒険者というのは派手でわかりやすい冒険者が好きだ。
そんな新人冒険者に、「玄人好みないぶし銀」が評価されないのは不思議なことじゃない。
でもいいじゃないか、玄人好みっていうのはそういうものだ。
多くの人からの評価は望まない、自分が好ましいと思う相手に、相手からも好ましいと思ってもらえればそれでいい。
そもそも、新人冒険者のクエストを一緒に受ける機会なんてそうそうないし、あってもお互いのことなんてほとんど理解しないまま別れてしまうのだから。
なにせ、私は彼らと一緒に仕事をするわけじゃなく、彼らの仕事に付き添って手伝いをする立場だ。
前に上げた不人気依頼の一つ。
新人向けクエスト。
今ではほとんど受けないといったけど、決して受けないわけではない。
新人冒険者が受けたクエストに“付き添い兼護衛兼監督役”として同行することもある。
果たしてどんなクエストに同行するのか?
一言で言えば、『下水道掃除』だ。
もう名前だけで悪臭と過酷な労働がイメージ出来てしまうクエストである。
そして今回、私はそのクエストを受けることになった。
普段なら、簡単に仕事の内容を説明し、掃除の仕方を実演して後は新人たちが仕事を終えるのを監督しているだけの簡単な仕事なのだが――
今日は、少しばかり普段と様子が違った。
**
「はじめまして、クロナ先輩。アタクシは冒険者パーティ“進む光”のリーダーで、ロロですわ。今日はよろしくおねがいしますの」
今日は、そんな下水道清掃の依頼を受けた新人冒険者パーティの付き添いをするべく、私はギルドへやってきていた。
そうして色々と手続きをすませると、件の冒険者パーティ“進む光”と顔合わせをすることになった。
お互いに挨拶をすませ、軽く打ち合わせをしたらこのまま下水道へ向かうことになっている。
「クロナだよ、冒険者ランクはB。よろしく」
「Bランクの冒険者に監督していただけるなんて、光栄ですわ」
そうやって、リーダーのロロと握手を交わす。
なんというか、とてもしっかりした雰囲気の子だ。
年の頃は私より一つか二つ下、一般的にこの世界の成人は十五歳で、冒険者になるのもそれくらいの年齢からだから、おそらくは十五歳。
しかも、めちゃくちゃ顔がいい。
燃えるような赤髪の、リンとした美人である。
意志の強そうなツリ目と、スラッとした長身でスタイルも抜群。
どこか顔にあどけなさがあって、少女らしい可愛らしさも感じさせる彼女が道を通り過ぎれば、多くの人が思わず振り向いてしまうだろう。
そういう、一言で言えば華のある冒険者。
ひと目みて解ってしまう。
彼女はすぐに大成する。
冒険者として、あっという間に誰もがその名を知る有名人へとなってしまうだろう。
私とは生きる世界の違う人。
まぁ、今は私のほうが先輩だし高ランクの冒険者だ。
先輩風邪、ふかしていきましょうかねぇ。
へくち。
「こちらが、パーティメンバーのイチハ、ニト、ミツキ、シノ」
「よろしくね」
“進む光”のパーティメンバーは総勢五名。
イチハとニトが男の子で、ミツキとシノが女の子だ。
全員、顔がいい。
そして纏う雰囲気も、ロロに近い。
これまた、ひと目みただけで解る。
彼らもロロと同様に、あっという間に大成する。
これは、あれだ。
つまり、えっと。
あれだ。
「早速ですけれど、今回の清掃クエストのプロセスを確認してもいいかしら?」
――意識高い人だ!
意識高い系、それはすなわちよくわからない横文字を多様し、常になんだか前向きなイメージのある人たち。
オタクは、意識高い系の人種が苦手だ。
単純に、自分と住んでいる世界が違うと、話しているだけで解ってしまうからだろう。
少なくとも、前世の私はそうだった。
ロロたちは、その更にすごいバージョンである。
意識が高いだけでなく、そもそも冒険者としての素質も高い。
玄人好みとか言って、割りと適当に生きてる私とは住んでる世界が違うタイプ。
まぁそれもそうだろう。
実は……というわけでもないけど、下水道掃除に監督役の先輩冒険者をつけるのは任意のオプションだ。
付けた場合は当然報酬が減る。
それでも、他のクエストと比べてかなり報酬が高かったりするんだけど。
大抵の場合、つけなかったパーティは何かしらの被害を被る。
なので監督役冒険者を用意するパーティというのは、そういった目先の報酬にとらわれないパーティ。
ミアさんから話が来た時、“進む光”は優秀なパーティだと聞いていたけど、こういうことか!
「……クロナ先輩?」
「――――はっ! ああえっと、そうだね。今回清掃するのは、三番街の下水道なんだけど……」
思わず、意識の高さに壁のようなものを感じてしまっていた。
気を取り直して、話を続ける。
「三番街は宿場町でしたわね、生活排水等で汚れが他の場所より多くなることが想定されますけれど、必要な道具は何がありますの?」
「基本的にはギルドから貸与される清掃用のポーションで大丈夫だよ、それで落とせない汚れを落とすことをギルドは想定していないから」
「でしたら、事前にギルドへ伝えて多めにポーションを手配してきますわ。こちらで済ませてよろしいかしら?」
「あ、うん」
……すごい、一つ話せばトントン拍子に話が進んでいく。
まずいぞ、私が何の用意もなく、プランとかも考えてないことがバレてしまう。
そもそも、そんな気負ってやるようなクエストじゃないんだよ清掃クエストって。
特に今回掃除する場所は、グラールの街でも特に人が多く生活している宿場町のエリア。
だいたいのことはロロにすでに言われてしまったけれど、とにかく汚れが酷い場所だ。
だからギルドも、汚れのすべてを綺麗に洗い流すことは求めていない。
それなりに肩の力を抜いて、ある程度のところで終わらせてしまっても、ギルドはちゃんと達成扱いにしてくれる。
それくらいのクエストなんだけど、これは。
多分、この子たちにとってはこれが普通なんだろう。
ロロが何事か指示を出すと、すぐに後ろの四人の間で役割分担が決まり、イチハとニトの男性陣、ミツキとシノの女性陣がそれぞれ分かれて、どこかへ行ってしまった。
「イチハとニトには清掃用ポーションを、ミツキとシノには掃除用具を借りてくるよう指示をだしましたわ」
「ありがとう、他に必要なものはないと思うよ」
「でしたら、アタクシ達はその間に掃除を行うルートを検討いたしましょう」
そう言って、ロロは荷物の中から一枚の地図を取り出した。
え? 三番街下水道の地図とかあるの? 流石に自分たちで事前に探索して用意したものではないと思うから、ギルドにあったのかな。
私、これまで何度か下水道清掃のクエストをやってきたけど、初めて知ったよ?
ロロはそれから、地図を指さしてああだこうだと、清掃ルートの計画を話してくれた。
彼女のプランはほとんど完璧と言ってもいいもので、広い上に汚れの酷い三番街エリアの掃除を、きっちり一日で終わらせられる素晴らしいものだった。
もちろん、それにたいして私が口を挟める部分はなにもない。
「ここまでで、何か補足しておく点はありますの? クロナ先輩」
と、ほとんど聞き役に徹しているだけだった私を気遣ってか、ロロはそう質問してくれた。
何とも情けない話だけど、それなら監督役として一応確認しておくべきことを確認しておこう。
「じゃあえっと、下水掃除のクエストに監督役の冒険者がつくのは、下水道には魔物が出現する可能性があるからってことは、把握してるよね?」
「もちろん、下水道は地下にあるもの、地下はグラールの街で最もダンジョンに近い場所、そのため下水道は扱いとしては
「うん、ダンジョンならもしもの事があっても、まわりに冒険者がいるからその人達の救助を待てばいいけど、下水道はそうもいかないから、私みたいな監督役がつくわけだ」
そして監督役は、ギルドの方から「この人なら監督役を任せても大丈夫」と判断された冒険者に話が行くことになっている。
私みたいな、ギルドの覚えがいい冒険者は、まさにこの条件にはピッタリだ。
ダンジョンの一部、とか、魔物の出現、とか。
そういう用語はちょっと話がややこしくなるので、また別の機会に話そう。
今は、下水道はダンジョンに近い特性を持っていて、被害を食い止めるために監督役がいた方がいいということだけ覚えておけばいい。
「だから私から言えることは、
「そうですわね……アタクシたちのパーティは男性陣が前衛、女性陣が後衛という役割分担をしてますの。ああ、アタクシは前衛後衛どちらもこなせるので、状況に応じての遊撃がメインになりますわね」
「じゃあ、私とロロが二人で組んで状況を俯瞰できるようにして、残りの四人は男女でペアを作ったほうが良さそうだね」
「承知しましたわ。イチハとミツキ、ニトとシノをそれぞれペアにする。帰ってきたら伝えましょう」
――何てことを話せば、概ね事前のすり合わせはおしまいだ。
本当ならこういう話は、移動しながら雑談程度に相談すれば問題はないのだけど。
彼女たちは意識が高い、本当にびっくりするくらい効率的だ。
多分、移動中も色々と先輩冒険者から有益な情報を得るための質問がポンポンと飛び出してくるんだろう。
ああ、本当に生きている世界の違う子たちだ。
一つか二つしか年が違わないのに、私とは考え方が違いすぎる。
これが本当にただの意識高い系だったら、それでよかった。
相手の言っていることが理解できないのだから、理解できないままで終わりだ。
でも、ロロたちは違う。
言っていることが私でも理解できてしまうのだ。
それは、相手の目線に自然と合わせられるということで、こちらにとって向こうは生きている世界の違う人たちだけど、向こうはきちんとこちらのことを理解してくれる。
やめて! 私はただの玄人好み志望の凡人なの!
それ以上こっちを見透かしたら、私の心が死んじゃう!
……いや、そうだ。
今の私は、陰キャで志の低いオタクじゃない。
「自分だけが良さを知ってる」系冒険者じゃないか!
私は多くの人から
でも、決して他人からの評価を求めないわけじゃない。
むしろ、少数の人間からの評価を得るために、私はこれまで頑張ってきたんじゃないか。
同じことだ。
相手は、将来有望な新人冒険者パーティ。
そんな冒険者たちに評価してもらえたら、
その感情は、私が彼らの評価を得るために頑張る動機としては十分だ。
「――決めた」
「? どうしましたの、クロナ先輩」
あ、声が漏れてしまった。
慌てて何でもないと誤魔化して、心のなかでだけ宣言する。
この子たちからの評価を獲得する。
マイナスをプラスに変えるのだ。
ロロたちの手のひらを返させる。
否、オタクらしくこう言おう。
ロロたちの手のひらをドリルにしてやる!
なんたって、オタクが手のひらをドリルにするのは嗜みだからね!
そんな、さながら狂気のマッドサイエンティストのような、だいそれた野望をこの時。
私は密かに抱き始めていたのだった――――
なお、この時の私は、そもそも最初から私が評価されているという可能性については、考慮すらしていなかったことをここに付記しておく。
将来的に有名になることがひと目で解る有能新人冒険者わからせのお話。
意識高い系とか失礼なことを考えているのは主人公の方だというのはここだけの秘密です。